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いま、教育に大切なものって? “これからの学校”の可能性を聞いてみた

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いま、教育に大切なものって? “これからの学校”の可能性を聞いてみた

 

こんにちは!

長野県南佐久郡・佐久穂町(さくほまち)に来ております。ライターの大島一貴です。

 

というのも、ここ佐久穂町に新設の私立小学校ができると聞いたのです。

2019年4月に開校とのこと。

 

いま、少子化などの影響もあって統廃合が進み、全国的に小学校の数は減っています。

ここ佐久穂町の人口もこの10年間で2千人近く減少して、1.1万人に。

今後もどんどん減っていくと考えられます。

 

にもかかわらず、ここに小学校を作る……かなりのハードモードに思えますが、なぜあえて挑むのか??

開設の理由が気になったので、

 

来てみました!

 

ここは大日向(おおひなた)小学校

平成24年に閉校となった「旧佐久東小学校」の校舎をリフォームして利用しています。

 

大日向小学校パンフレットより抜粋。山奥ののどかな地域

 

4月から校長に就任した桑原昌之さんは神奈川県の公立小学校で26年間、教育委員会で4年間の勤務経験の持ち主。

そこから新設の小学校の校長へと転身した理由とは?

そして、大日向小学校ではどんな教育をしていくのか?

 

様々な疑問をぶつけるべく、桑原さんにお話を聞きました。

なぜ新しい小学校を長野に?

取材は2月末に行いました。まだ工事の真っ最中

 

大島「今回、都市部ではない長野に新たに私立小学校をつくるとお聞きして興味深く思いました。なぜこの佐久穂町なんでしょう?」

桑原さん「自然も豊かだし、土地に根差して暮らしている人々がたくさんいるのが魅力的だと思ったんですよね。東京からのアクセスもいいし」

大島「新幹線で1時間ちょっとで来れますもんね。東京から通う子どももいるんですか?」

桑原さん「通ってくる子はいないですね。寄宿舎なども設けず、基本的には家族で移住してもらうことをベースで考えています。長野県の移住政策とも重なっていて、自治体も前向き。長野県知事は教育に力を入れているんですよ」

大島「あ、長野は『教育県』って聞いたことがあります!……でも、移住ベースってハードル高くないですか?人は集まってますか?

 

大島の余計なお世話的質問にも笑って答えてくださる桑原さん。優しい

 

桑原さん「ありがたいことに現在エントリーは約70名。予想よりずっと多いです。嬉しい悲鳴ですね。元々長野に住んでいる方々より、首都圏をはじめ全国各地から移住してくる方のほうが多いんですよ」

大島「へええ。長野の魅力、おそるべし……!」

桑原さん「もちろん長野という土地の良さもありますが、私たちの打ち出す教育のコンセプトに共感してくれたのも大きかったと思います」

大島「コンセプト?」

桑原さん「この大日向小学校は、オランダで広まった『イエナプラン教育』のコンセプトを日本で初めて採用する小学校なんですよ」

大島「い、いえなぷらん??(なんか急に横文字が出てきたぞ)」

 

イエナプラン教育って何?

大島「ええと、オランダと同じ教育をしてみよう、みたいなことですか?」

桑原さん「いえいえ。オランダでの教育手法をそのまま導入するということではなく、『イエナプランのコンセプトに基づいた教育を、この学校に合うような形で行う』ということです。で、そのイエナプラン教育の理念はこんな感じです」

 

大日向小学校パンフレットより抜粋

大島「(わかるような、わからないような)」

桑原さん「とはいえ理念だけではわからないと思うので、私たちの具体的な教育内容についてお話しますと……」

大島「(あ、よかった)」

桑原さんたとえば、教室にはサークルと呼ばれるスペースがあって、常に対話が生まれるような工夫をしています

大島「ほう……? そうすると、何がいいんでしょう?」

桑原さん「『先生が常にひとりで話している』という場面を減らすのが目的ですね。従来の配置だと『先生VS生徒』という構図になってしまうので、常に全員の顔が見えている状況をつくる。すると生徒同士でのコミュニケーションも増えて、社会性も身につくんです」

大島「確かに授業中って、先生がみんなに一斉に説明して同じ課題を与えて、子どもはそれをこなす……ってなりがちですね」

桑原さん「また、学年ごとでクラスを作るのではなく、『1年生~3年生のクラス』と『4年生~6年生のクラス』という分け方でクラスを作ります」

 

大日向小学校パンフレットより抜粋

 

大島「これにはどんな狙いが?」

桑原さん「イエナプランでは『異年齢』という多様性を大事にします。実際の社会でも、たとえば会社なら上司や部下などいろんな年齢層の人で構成されていますよね。それと同じ環境を作るということです」

大島「言われてみれば、たしかに!」

原さん「学年が変われば、自分が先輩になったり後輩になったりと、立場が変わる。早い段階でその経験をすることで、広いものの見方を身につけてほしいなと」

大島「そういえば僕の通っていた公立小学校でも、『タテ割り』で1年生~6年生が集まる活動がたまにありました」

桑原さん「それを常時やってるイメージですね。3年生は2年生にいろいろ教えて、また4年生になって上のクラスに上がったら今度は5年生に教えてもらう。だから誰もが助ける・助けられるという両方の立場を知ることができる

大島「なるほど。学年が違うと当然カリキュラムも違うから大変そうですが、実際の授業の進行はどうするんでしょうか?」

 

桑原さん「たとえば算数の時間なら、まず『1年生おいで~』と呼んで足し算の繰り上がりについて5分くらい説明する。そのあいだ2、3年生は自分の課題をやってる。ある程度わかったら、1年生は席で課題に取り組んでいきます」

大島「ふむふむ」

桑原さん「で、今度は2年生が呼ばれて、『いまかけ算どんな感じ?どんなこと困ってる?』と説明・確認をして、分かったら席に戻る。そして今度は3年生が……という感じですね」

大島「それって、他の学年の子たちは勉強サボっちゃったりしないんですか?」

桑原さん「公立で子どもたちを教える中で感じたのですが、『主体的に課題に取り組む』という意識でやっていると子どもは勉強に集中してくれるんです」

大島「なるほど、『自分でやってる感』が大事なんですね。さすが26年のベテラン……!」

わからないことを「わからない」と言える場づくり

「学校体験プログラム」などの様子。地域にかかわりのある方たちとの交流が大事にされている

 

大島「先ほど話に出た『主体的に取り組む』というところではどんな工夫を?」

桑原さん「週のはじめに、『今週は何をやるのか』の計画を子ども自身に立ててもらいます。もちろん先生のサポートつきではありますが」

大島「各々のペースに合わせたプランづくりをするんですね」

 

桑原さん「週の終わりには、達成できたこと・できなかったことを振り返って、次の週に生かす。社会に出たあとも、自分でプランを練らなきゃいけないじゃないですか。その練習ですね」

大島「主体性を育てるトレーニングみたいな」

桑原さん「はい。与えられたものをこなすんじゃなくて、自分でつかんでいくことを重視しています。クラスは『先生のもの』じゃなくて『自分たちのもの』だという感覚をもってもらえたらいいなぁと」

大島「先生の言うことばかりが前に出すぎないわけですね。ってことは、たとえば宿題も一律に同じ範囲で与えられる感じではなく……?」

 

桑原さん宿題は……出さないです!」

大島「おおお」

 

桑原さん「もちろんやりたい人は自主的にやっていいけど、先生から指示はしない。『学校にいる時間内に何をやれるか』というタイムマネジメントを学んでもらいたいんです。帰ったら、家でしかできないことをやってほしいですからね」

大島「学校にいるうちに、わからないところをつぶしておく?」

桑原さん「はい。そのためには、わからないことを『わからない』と言える雰囲気が大事です

大島「質問されても困って話せないようなシャイな子どもでもいろいろ言い合えるような場づくりってことですね」

桑原さん「サークル状で顔を突き合わせているし、一緒に遊びなどを交えながら対話しやすい雰囲気になることをめざしています」

 

大島「それ重要ですね!勉強で一回つまずくと『わかんない』って言えないままどんどん授業が進んじゃって、まわりと差がついてしまうとか……。それで肩身が狭くなって、友達付き合いに影響しちゃうこともありますよね」

桑原さん「そういうのは起こりにくくなるんじゃないかな。そして何よりも『楽しい』という気持ちが出てくるのが一番大事です。『このやり方だったら楽しいなー』って」

大島「たしかに……」

桑原さん「子どもに問題の解き方を教えて、テストで点数をとらせることはもちろん大切です。でも、詰め込み教育みたいになると、『自分の学び』にならないから楽しさが残らないし、身にならない。仕事でも、他人にやらされるのって嫌じゃないですか

大島「『楽しいこと』って自然と心に残りますもんね。たとえば先生に『これはいい本だから騙されたと思って読め!』って押し付けられても『いやいやいや……』ってなりますけど」

桑原さん「ですよね(笑)。『自分でやってるんだ!』という感覚を大事にしたいんです」

 

先生たちが生き生きと教えられる環境に

大島「実際にここで教えられる先生の方はどのように集めたのですか?」

桑原さん「公募ですね。公立で教えていた経験のある先生が全国から来てくれて。担任となる5名のうち2名は、オランダでイエナプラン教育を学ぶ3ヶ月間の研修も受けています」

大島「なるほど。その先生のことについて、ひとつ疑問があるのですが……」

桑原さん「なんでしょう?」

大島「最近、学校の先生はオーバーワークという話をよく聞きます。この大日向小学校でも、『子どもに主体性を持たせる教育』とはいえ、はじめは先生方が一人ひとりのことをこまやかに見てリードしなきゃいけないわけですよね。となると、今度は先生側の負担が増えそうだなと

桑原さん「そうですね、もちろん大変なことはあるだろうと思います。でも僕はむしろ、イエナプランの理念は先生の苦労を軽減することにつながると考えています。先生がのびのびと生徒たちを教えられるような環境を作ろう、と」

大島「というと?」

 

桑原さん「公立小学校の教員をやっていた頃、教育現場がどんどん苦しくなっていくのを感じていました。毎日全ての科目を網羅するという仕事量も負担になりますし、先生一人で子ども30人以上の個性を十分に把握することは現実的に難しい」

大島「冷静に考えて、一人でその人数を見るのってキツいですよね……」

桑原さん「だからこそ、大日向小学校ではある意味、子どもの力を借りるんです。子ども同士のコミュニケーションを増やすことで、僕が発見してあげられなかったような個性を、他の子が見つけてくれるかもしれない」

大島「なるほどなるほど」

桑原さん「それと単純に、学校も雰囲気的に息苦しくなりましたよね。子どもたちは学校で9時〜16時まで勉強して、そのあとは宿題や塾があるから友達と遊ぶ時間もない。先生たちは、『学力テストで一位だった○○県ではこんな授業をしているので真似しましょう』と上に言われる」

大島「ああ。みんな一律に同じことをやる方向性、というか……」

桑原さん「僕が高校生のころは工業高校や商業高校がいっぱいあって、『勉強は苦手だけど機械いじりは好きだから』ってやつが堂々と工業高校に行くような風潮がありました。でもその多くが普通科の一般高校に統合された結果、やる気のない普通科の高校生が増えたというか。みんな特長や個性があったのに全部均質化されてしまった感覚があります」

大島「個性の価値が大きくなったのもここ最近ですもんね。やっぱり受験がビジネス化されちゃってるのも関係あるんですかね?」

桑原さん「それはあると思います。常に合格実績などを求められてしまうから、学校の教師たちものびのびとやれなくて、各々のオリジナリティを出せなくなってきている」

大島「なにか変なことがあるとすぐ問題になっちゃう時代でもありますもんね……」

 

桑原さん「むずかしいですよね。とにかく保護者に文句を言われないように、些細な問題が起きるとすぐ保護者に電話して、逐一事情を説明するんですよ。友達同士のトラブルにもすぐ電話で対処します。先生も保護者も子どもも、みんなが変な距離感を保ったまま暮らしているような違和感が僕にはありました」

大島「SNSなどでも、保護者側と先生側が共に相手の批判をしている印象がありますね」

桑原さん「そういった問題が起きる原因って、対話不足にあると思うんです。自分でも公立で教えながら試行錯誤してきて、『クラスって別に先生のものじゃないよな?子どもたち一人ひとりのクラスなんじゃないの?』と考えていたところに、イエナプランの理念が自分の教育方法にフィットした形ですね」

社会でのびのび生きるためのモデルケースを作りたい

大島「先ほど話に出た『均質化』ということで言うと、教育現場のみならず、時代的にも閉塞感があるんですかね。いい大学行けないとダメ、みたいな……」

桑原さん「『勝ち組』『負け組』って言葉がありますけど、『なんだよそれ?』って思います。同じレール上での勝ち負けじゃなくて、自分の潜在能力を発揮して、自分のやりたいことをできるのが一番楽しいじゃないですか?」

大島「まさにイエナプランの理念……!」

桑原さん「僕はもともとイエナプランの理念を意識しながら、子ども達と過ごしていました。だから、『そのまま公立にいたんじゃダメだったんですか?』ってよく聞かれるんですよ。でもイエナプラン自体の発信もするためには、モデルケースとなる大日向小学校でやったほうがいい、と。その方が自分の理想とする教育に早く近づけるんじゃないか?と思ったんです」

大島「イエナプランを広めること自体も目標にされてるんですね」

 

桑原さん「そうですね。最近、先生は『ブラックな職業』って言われたりするけど、やっぱり僕はすごくいい職業だと思うんです。子どもたちの可能性を育てる素晴らしい仕事だと。

だけど、まず先生がハッピーじゃないと子どもたちも絶対ハッピーになれない。だから校長としての仕事のひとつは、先生たちがお互いに意見を交換しあえるような、生き生きと教えられる空間を用意してあげることだと思っています」

大島「子どもって敏感だから、大人がイヤイヤ仕事してたらすぐ気づきますもんね」

桑原さん先生が個性を発揮しきれない環境では、保護者や地域の個性なんて出しようもないじゃないですか。大日向小学校では保護者の方にも参加してもらって、一緒に現場を作りたいと思っています。移住までして来てくださる方々なので、そういう活動にも積極的な方が多いんですよ」

 

大島「ちなみに保護者の話が出たのでうかがいますが、学費ってやっぱり高いんでしょうか……?」

桑原さん「いえ、私立の小学校の平均より安いですよ」

大島「おおー。私立校でだいたい家族ごと移住するって聞いて、超セレブしか行けないのかと思ってました」

桑原さん「そうならないよう、少しでもハードルを下げる努力をしています!そこも『多様性』重視ですね」

大島「確かに、いろんな環境の子がいないと多様性ないですもんね!」

桑原さん「ええ。……っていろいろ言ってきましたが、まだ開校前だし、まず大前提としていい教育をしなくちゃいけないんだけど(笑)」

大島「ほんとに応援してます!!」

おわりに

イエナプランはあくまで理念であって、メソッドではありません。佐久穂という土地に合った、自分たちなりのイエナプラン教育を作り上げていきます」と語る桑原さん。

その目は熱意と期待に満ちていました。

 

2022年には、広島県・福山市の公立小学校でもイエナプランが導入されるとのこと。

少しずつ、日本の教育が変わり始めています。

 

4月から大日向小学校ではどんな景色が見られるのか。

豊かな大自然や地域の人たちとのつながりの中で、どんな豊かな対話が生まれるのか。

 

その行方に注目し、ぜひまた足を運んでみたいと思います!

 

(おわり)


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