こんにちは、青森県在住ライター・タカダハルナです。いきなりですが、
桜の季節がやってきましたー!
ふわっと舞う花びらのなかで食べる唐揚げ、ぐびっと飲むビール。もう、お花見だいすき。最高。
私のいちばん好きな行事は「お花見」といっても過言ではないです。
国内外たくさんの人たちが桜を楽しみにしていると思うのですが、もうすぐ一斉に枯れてしまうかもしれないというショッキングなニュースをご存知でしょうか。
日本にある桜の大半は「ソメイヨシノ」という品種。このソメイヨシノは寿命が60年という説があります。
江戸時代末期に作出され、明治時代に全国へ広まったソメイヨシノ。国内に数百万本あると言われており、その多くは第二次世界大戦からの復興や東京オリンピックに合わせ、1940〜1960年代に植えられました。
そのため「そろそろ寿命を迎え、いっせいに枯れてしまう危ない時期」という声がチラホラと出ているのだとか……え、大変ー!!
さて、実は私の住んでいる青森県・弘前市は桜で有名な街。地元にある「弘前公園」では、毎年春になると約2600本もの桜が咲き誇ります。
気になる彼との初デートに一花咲かせてくれたり……
え、ここでキスしちゃうの…?なんて恥じらいつつ目を閉じた私の顔を、周りの視線から隠してくれたり……
なーんて乙女チックな思い出は残念ながら一つもないのですが、お花見をしながら大好きなビールを飲む瞬間が、私にとって至福のとき。
だから桜がなくなるなんてことになったら一大事! 来年も再来年も安心してお花見を楽しめるように、桜に関する正しい知識を身につけたい!
ということで今回は、「桜守」(さくらもり)という仕事の女性に会いに行ってきました。
話を聞いた人:橋場真紀子さん
青森県出身。弘前市内の高校を卒業後、東京で美容関係の仕事に就き、1年後帰郷。幼い頃から好きだった植物栽培を生業にすると決意し、2006年「樹木医」の資格を取得。2014年には弘前市役所の公園緑地課で働き始め、「チーム桜守」に所属。
「樹木医」とは樹木の診断や治療を行う人のこと。そして、桜を守っていく人を「桜守」と言います。現在、弘前公園の桜は橋場さん含む3人の樹木医から構成される「チーム桜守」が中心となり守っているのだとか。
橋場さんの話からは、こんな意外な事実が判明しました。
・ソメイヨシノの寿命は、人間が手入れをすればどんどん伸びる
・日本中のソメイヨシノはすべてクローン
・歴代の「桜守」のおかげで、綺麗な桜が咲き続けている
・弘前の桜は、ひとつの芽から通常よりも多い4~5個もの花が咲く
などなど……それでは知ってるようで知らなかった桜の話、スタートです!
「桜が消える」は半分ホントで半分ウソ
世の中には桜が100種類ほど流通している。弘前公園内には52種類の桜があるそう
「よろしくお願いします!ビール片手にお花見するのが大好きなので、桜について教えてもらっていいでしょうか」
「理由はともあれ、桜に興味を持ってくれるのは嬉しいです。なんでも聞いてください」
「まず……あと少しで日本中の桜が一斉に枯れてしまうって聞いたんです。もし本当だとしたら、悲しくて引きこもっちゃいそうです…」
「それは、半分ホントで半分ウソ」
「ええー!どっち!?桜が消えたら美味しいビールが飲めなくなっちゃう!!!!」
「落ち着いて~!!ほら、見てください。このソメイヨシノは植栽されてから今年で樹齢137年だけど、まだまだ立派に咲いてます」
「え…137歳? この桜だけそんなに長生きなんですか?」
「いえいえ、この公園内にあるソメイヨシノのほとんどは樹齢60年を超えてます。約1700本あるソメイヨシノのうち、約400本が樹齢100年を超えているんです。こんなにも古い桜を抱えているのは全国的にみても珍しいことだと思いますよ」
「でも、ソメイヨシノの寿命って60年って聞いたんですけど…」
「ソメイヨシノは成長が早く、樹齢30~40年で豪華な花を楽しむことができますが、特定の病気や害虫による被害も多いです。手当をしなければ枯れたり、倒木の危険性が高くなると伐採されることもあるので、60年で死んでしまうと言えるかもしれません」
「やっぱり60年で死んじゃうじゃないですかー!!! それなのに137年も生きているってどういうこと…?」
「人間が手を加えているから、今でも綺麗に咲いているんです」
「手を加える……まさかアブない薬漬けにして無理やり延命とか……???」
「そんな怖いことしませんよ。例えば、桜の枝を剪定したり、肥料を加えたりするんです。剪定は木の枝を切ることで、2月の後半から3月に行ってます」
「桜の枝を折っちゃいけないって小学生のときに習いましたけど……」
「もちろん、手あたり次第に切ったらダメ。桜の花が散るべき時期にまだ残っていたりすると、枝が弱っている証なんです。それぞれの状態に合わせて剪定しますよ。新しく枝が伸びて、葉を多くつけることが回復へとつながっていくんです」
「弘前公園の綺麗な桜は、橋場さんたちの仕事のおかげだったんですね。県外の友達から『弘前の桜はモコモコしてる』とよく言われるんですけど、それも手入れをしているから?」
「そうですね。通常ソメイヨシノはひとつの芽から2~4個の花が咲くんですけど、ここでは平均4~5個咲いているんです。時には7個なんてときもあります。満開へ向かって次々と花が開くので、ボリュームが増してふっくらしますよ」
ソメイヨシノのつぼみはピンク色。咲くとともに白色に変わっていく
ソメイヨシノはクローンだった!
「もう一つ気になってたのですが、ソメイヨシノ=クローンという説は本当なんですか?」
「結論からいうと、その通りです」
「そうなんだ!!!」
「まず、桜を増やすには『種まき』か『接ぎ木』が必要です。種をまくと、親とは違う個体になるので、新しい品種を開発するときに使われます」
「……」
「接ぎ木は『この桜は綺麗で豪華だから、この桜を増やしたい!』となるときに、その桜の一部を別の桜に接いで増やすことですね」
「うーんと、単語がたくさん出てきてよくわからなかったんですけど、元々ソメイヨシノは1本しかなかったってことで合ってますか?」
「そういうことです。その1本から『接ぎ木』して増やしたソメイヨシノが、全国に広がりました。元の原木については諸説ありますが、まだ研究段階なので分からないんです」
「へええ、すごいですね。ほんとにクローンだったんだ」
「ただ、それには弱点もあって。クローンということは、みんなが同じ遺伝子を持っていますよね。すると、どれか1本が重大な病気にかかってしまったら……」
「……え、遺伝子が同じだと、同じ病気に弱いってことですよね。ということはソメイヨシノは全滅!?!? ヤバくないですか?」
「安心してください。桜の状態に合わせて正しく手入れをしていれば全滅することはないです。だから、ここの桜が一気に死ぬということもありません」
橋場さんの腰には、桜の手入れに使う道具がたくさん!
「ただ、枝が伸びるだけでなく、根をしっかり張らないと桜は元気になりません。だから、土に肥料を与えたり、場合によっては土壌改良したりもします。この『施肥作業』と『剪定作業』の2つが、弘前の桜管理法『弘前方式』を代表する特徴です」
「なんだか歴史のありそうな名前が出てきました」
「弘前方式は、昭和30年代から行われてます。ほかの地域でも手入れをしているところはあると思いますが、植えたままのところが多いんじゃないでしょうか」
「弘前でそんなに昔から桜が大事にされてきたとは!」
散った桜の花びらが水面に浮かび、連なって流れていく様子は「花筏」と呼ばれる。散る間際に花の中心部が濃い赤色になるため、花筏も濃く綺麗な色に染まる
桜を守ることは、街を守ること
「この公園の桜を守っている『チーム桜守』は橋場さん含め3人しかいないって聞いたんですけど、かなり大変なのでは…?」
「桜守は3人ですけど、公園緑地課全体で70人くらいます。そのみんながチーム桜守だと思ってますよ」
「たくさんの人たちが手間をかけているからこそ、桜が綺麗に咲いていると」
「ええ、たった1年で立派な桜を咲かせることはできません。桜守が何十年も丁寧な仕事をしてきたからこそ、今の弘前公園があるということです」
「私たち青森県民は桜が咲いたら活発に外出するようになるので、弘前公園の桜が咲かないと私たちに春はやってこないといえますね。つまり冬が終わるかは橋場さんたち次第……」
「それは大げさですけど(笑)。桜を見ながら楽しそうにしている皆さんを見ると、私たちも仕事しててよかったなあと思いますよ」
「弘前は『りんごとお城と桜の街』って言われてますから、桜を守ることが街を守ることにも繋がっているかもしれませんね」
「だからずっと、桜を守っていかないといけません。今までの作業に新しい技術を取り入れたり、それをどうするか考えるのが私たち桜守の役目です。そのために、日々勉強!」
「どんな勉強をしているんですか?」
「毎朝4時頃に起きて、家の仕事をしてから本を見て勉強したり」
「そんな早起きなんですか!? 私なんて朝3時まで飲み明かすこともあるのに」
「まあ!羨ましい。日々の勉強だけじゃなく、年に2〜3回開かれる、全国の樹木医の交流会も欠かせませんよ。抱えている仕事の話をしたり、弘前の桜を守っていくには何が必要かとか話し合ったり」
「意見交換する場は良いアイディアが生まれやすいってよく言いますよね。お酒を飲みつつ交流して……」
「そうそう。帰りの新幹線の中でハッとひらめいて『こういうことやってみよう』って電話のボイスメモにブワーって録音したり」
「めちゃくちゃ勉強熱心! なんだか飲んだくれてばかりの自分が恥ずかしくなってきました……」
全国で桜が見れるのは「桜守」のおかげ?
「『桜守』と呼ばれる人は、弘前以外にもいるんですか?」
「はい。全国には桜を後世まで残そうと活動する『桜守』がたくさんいます。樹木医として10年ちょっとの私なんかがそれを名乗るのは気が引けてしまって…」
「急にシュンとしちゃいましたね」
「佐野藤右衛門さん一家と比べたら私は全然……」
「名前のオーラがハンパない人が出てきた。誰ですか、それ?」
「代々続く庭師の一家です。桜は地方にそれぞれ特色を持ったものが咲いていますが、佐野藤右衛門さん一家が何代にも渡って桜の木を保存し増やしてきてくれたから、全国で桜が見れているんです。そういう人たちのことを桜守っていうのかなって自分の中では思っていて」
「へええ〜、そんな人が。橋場さんも十分すごいと思いますけど。でも橋場さんは、どうして樹木医に?」
「私は元々、美容関係の仕事をしてたんです。東京で1年くらい働いたあと、地元に美容関係の会社を立てようと帰郷しました」
「へえー! 青森って、都会に比べて美容のためにお金をかける女性があまりいないイメージがあります。平均的なお給料も都会より安いですし……」
「そうなんですよ。だから、弘前で美容の会社を作ることは諦めてしまいました。じゃあ何しよう?って考えたときに、小さいころから植物が好きで栽培をしたりしてたので、自分にはそれしかないなって」
「すごくサラッと説明してくれましたけど、美容関係から樹木医という新しい仕事にチャレンジするのには、かなりの勇気が必要だったのでは?」
「もちろん。樹木医のほかにも、木こりになろうかなとか花屋がいいかなとか4、5年は悩みました。だけど、そうこうしているうちに25歳になっちゃいまして。そこで年齢的にも今しかないと決断しましたね」
「木こりの橋場さんも見てみたかったですけど、そこから今に至ると。その後は順調に進んだんですか?」
「当時、樹木医になるには樹木の診断・治療に関わる7年間の実務経験が必要だったんです。働きながら勉強できる場所を探してたら、『弘前に樹木医がいる』と知り合いが教えてくれて。弘前の桜が立派だということは自分の目で見てよくよく分かっていましたから」
「では、その人に弟子入り…?」
「ええ、弘前市役所の公園緑地課と園内の植物園で樹木医をしていた小林範士さん・勝さん兄弟を師匠に、色々と教えてもらいました」
「師匠が2人もいるんですね!師匠からは、例えばどんな教えを?」
「一緒に公園内を歩いてまわって『桜は下と横では見え方が違うから全体をみないといけない』と教えてもらったり、桜の剪定の仕方を教えてもらったり。本当にたくさんのことを教えてもらいましたね」
「師匠のおかげで、現在の『桜守・橋場真紀子』になったんですね」
「師匠が定年を迎えたとき、資格があることを条件とした樹木医の募集が市役所であって。『受けてみないか?』と言われたときは断る理由が無かったですね。『弘前の桜を守っていく』ということを師匠と約束して、市役所で働き始めました。だから、その約束をずっとこれからも守っていきます」
「師匠との絆、すごくいい話じゃないですか。感動しました……そんな橋場さんを私は応援します、うるうる」
まとめ
もしかしたら桜が世界から消えてしまう日が来るかもしれないけれど、それに立ち向かい、日々努力している人たちもいます。
来年も再来年も桜を見ることができるのは、当たり前ではないのです。
そのことを忘れず、これからのお花見は「いまこの桜を見れているのは、桜守のおかげなんだ」と感謝しビールをグイっと飲む人が増えることを期待したいですね!
ちなみに今年の開花予想は、
3/22 愛知、和歌山、高知、広島
3/23~24 千葉、京都、大阪
3/25~26 静岡、鳥取、鹿児島
4/1~6 石川、宮城、福島、新潟、長野
4/15~18 青森、秋田
4/26~ 北海道
(3/22時点。ウェザーニュースより)
このような感じ。
地元の桜も良いですが、ぜひ橋場さんの守る桜を見に、弘前公園へ来ていただけると嬉しいです。
立派に咲き誇る姿を見てもらえたら、いかに手入れされているか、そしていかに青森県民に愛されているか、分かっていただけるはず。
そのときに「今君の目の前にある桜は136年も生きているんだ。僕も君と~」なんてことを言うと気持ち悪がられてしまうので、
『ハート型の桜』が見られる隠れスポットで、ぜひイチャイチャしてくださいね♡
(……私もイチャイチャしたいなぁ)
※アイキャッチ画像で使用している「枯れた桜」の写真は弘前公園のものではありません(画像提供:ピクスタ)
撮影:千葉桃