こんにちは、株式会社キュービックの菊地です。普段は会社の広報と、学生向けメディアを運営しています。
私は今、わけあって東京農工大学の府中キャンパスにお邪魔しています。
ちょうど新人歓迎会が行われていて、校内は賑やかな雰囲気。楽器が弾ける人ってかっこいいですよね。
ところで、みなさんは「バナナが絶滅するかもしれない」というニュースを耳にしたことがありますか?
なんでも「新パナマ病」という病気がフィリピンで猛威をふるっていて、バナナが絶滅の危機に追いやられているそうです。
パナマ病には、「新パナマ病」と「パナマ病」があり、今流行しているのは、新パナマ病とのこと。「新」というくらいだから、パナマ病よりもヤバいやつなんでしょう。
私の部署では、毎朝バナナを食べるという習慣があるので絶滅されては困ります。
さらには、もっちりとした食感が特徴のキャベンディッシュという品種しか食べないこというこだわりも持っています。キャベンディッシュ最高!
ちなみに、キャベンディッシュは、日本では主流の品種なので高いバナナではありません。安ければ100円以下で買うことができます。
それはさておき、バナナが食べられなくなる恐怖で寝られないので、本当に絶滅するのかどうか、その道の専門家に聞いてみることに。
というわけで、東京農工大学の農学部植物病理学研究室の有江力(ありえ・つとむ)教授にお話を伺っていきます。有江教授はトマトなどの植物の病気に詳しく、パナマ病にも知見のある方です。
バナナが絶滅するって本当?
現在、フィリピンを中心に「新パナマ病」という病気が猛威を振るっており、現地では、バナナの生産量が大幅に落ち込んでいるのだそうです。
また、50年以上前には世界的にパナマ病が流行し、当時主流だったグロスミッチェルという品種のバナナを根絶やしにしかけたという過去があります。
「本日はよろしくお願いします。早速ですが、バナナが絶滅するというのは本当ですか?」
「安心してください。バナナは絶滅しません。10年以上前にも、あと数年でバナナが絶滅すると騒がれていましたが、現にバナナは普通にスーパーで売られていますよね」
「はい!昨日も仕事帰りに買ったばかりです!でも、フィリピンではバナナの生産量が減っているんですよね?」
「そうですね。確かに新パナマ病が猛威を振るっていることで、バナナの生産量が落ちていることも事実です。菊地さんの不安を取り除くためには、まずパナマ病がどういった病気なのかを説明した方が良さそうですね」
「はい、お願いします。バナナがないと困ります」
パナマ病ってなに?
「植物の病気というのは、大体は微生物によって引き起こされます。パナマ病の場合はかびですね。ちょうど現物があるのでご覧ください」
「これがパナマ病を引き起こすフザリウム オキシスポラムと呼ばれるかびです。土中に生息していて、根から侵入して、維管束という場所で増えていきます。人で言えば血管のようなところですね。このかびに感染したバナナの植物体は萎れ、やがては枯れてしまいます」
「ふわふわしてそうですね。もっと禍々しいものを想像していました」
「かびなのにきれいでしょ?匂いを嗅いでみてもかび臭くないんですよ。液体培地で培養すると日本酒みたいな匂いがするんです」
「とはいえ、かびですよね?感染したら土壌ごと殺菌すれば良いのではないですか」
「そう単純な話ではないんです。土壌には、多様な微生物が絶妙なバランスで生息しています。土壌を薬剤や熱水で殺菌してしまうというのは、その全てを死滅させるということになります。そうなると悪い菌が繁殖しやすくなったり、栄養バランスが崩れたりと、植物にとって都合の悪い土壌になる可能性が高くなるんです」
「生態系そのものが崩れてしまうんですね。では、パナマ病を感染前に防ぐ方法はないのでしょうか?」
「一番効果的なのは、単純にかびが畑に入ってこないように、徹底的に隔離することですね。現に、フィリピンでも病原体の侵入を防ぐために、管理をきちんと行ってパナマ病の拡大を防いでいる畑もあります」
「そんな簡単なことでいいんですか?」
「言うのは簡単ですが、これを実行するのは非常に大変なんです。土というのは、風に飛ばされたり、トラックや人間の衣服に付着したり、長距離移動することもあります」
「確かに、服に土がくっついていても見落としてしまいそう…あれ、いま騒がれているのは新パナマ病ですよね? ただのパナマ病でさえ、ここまで対策しないと防げないということは、新パナマ病はもっと徹底した管理が必要ということですよね?『新』ということは、バージョンアップしてますよね、人に感染しませんか?」
「まずですね、新パナマ病というのは、パナマ病より病原性が強くなっているわけではないんです。なので、人に感染するということもありません」
新パナマ病ってなに?
「たとえば、バナナがRという病気に強い遺伝子を持つとしましょう。この抵抗性遺伝子Rは、病原体が持つ遺伝子Aを認識して侵入をブロックする働きがあります」
「空港の金属探知機のようなものですね」
「ところが、病原体の遺伝子Aが変異してaになってしまうと、Rは病原体を認識することができずに侵入を許してしまう。つまり、新パナマ病は病原体が凶暴になったわけではなく、植物が防御のために張っているレーダー網をかいくぐって侵入する、いわゆる『ステルス性』を獲得したということなんですね」
「強くなって帰ってきたわけではないんですね。少し安心しました。では、バナナに抵抗性を持たせれば解決ですね」
「その通りです。しかし、バナナの場合はそう簡単ではないんです。私たちが普段食べているバナナは、キャベンディッシュという系統で、以前流行したパナマ病に対する抵抗性を持った品種。日本で出回っているバナナはほとんどがこの品種となっています」
「はい。日本人好みの品種なんですよね。私も大好きです」
「例えば、トマトであれば、抵抗性を持つ野生系統などと掛け合わせることで、食用品種に抵抗性遺伝子を入れることができます。これを育種と言います」
「なるほど」
「しかし、私たちが食べているキャベンディッシュは3倍体と言って、掛け合わせてもほとんど種ができないので、それが難しい。新パナマ病に対する抵抗性を持つ系統のバナナと、キャベンディッシュを掛け合わせて、新パナマ病に抵抗性を持つキャベンディッシュが生まれる確率はとても低いんです」
「どこかで100万分の3の確率と聞いたことがあります」
「私は育種の専門家ではないので、正確な数字はわかりません。仮に新パナマ病に対する抵抗性を持つ品種が生まれても、今のキャベンディッシュのように甘くなかったり、日本人好みの味にならなかったりという可能性もあります」
「私たちが普段から美味しい果物を食べられるのも、そういった研究を続けてくれている人たちの努力の賜物なんですね」
「そうですね。例えば、トマトも育種によって、どんどん品種が増えています。私はもともとトマトの病気が専門ですが、トマトも何度か絶滅の危機を迎えているんですよ。それなのに、世間的にバナナほど騒がれていないのが少し不思議です」
バナナはこれからも食べられる?
「確かに、トマトの方が食卓に欠かせないような気がしますが…バナナの話に戻ると、結論としては『現状は新パナマ病に抵抗性を持つバナナは無いけれど、管理を徹底している農園では感染の拡大を防げている。いずれは抵抗性を持つおいしい新品種も現れるので、バナナが絶滅する心配はいらない』ということでしょうか?」
「そうですね。今は、育種や遺伝子組み換えの技術も発達しているので絶滅することは無いと思います。最悪、キャベンディッシュ以外の品種を食べることもできますから」
「いや、バナナはキャベンディッシュに限ります。もっちり感が違う。先ほど管理コストのお話が出ていたと思うのですが、そうなると値上がりは避けられないのでしょうか?」
「今でもスーパーでは、1房100円前後で販売されているので当分は大丈夫だと思います。今は輸送技術も発達していて、新パナマ病の発症が確認されていない遠方からでもバナナを輸入できます。現に、最近はエクアドル産のバナナをよく見かけますよね」
「そうなんですね。バナナが絶滅しないことがわかり安心しました。お忙しいなか、貴重なお話の数々ありがとうございました!」
バナナは絶滅しなかった
バナナが絶滅すると聞いて、取り乱してしまいましたが、絶滅することはなさそうですね。
当分のうちは、大幅な値上がりもなさそうなので、明日からも安心してバナナを食べようと思います。
皆さんも素敵なバナナライフを!
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書いた人:菊地誠
自社メディア事業を手がける西新宿のデジタルマーケティング企業、株式会社キュービックのPR担当。Webディレクター兼ライター。タイ人と2人で暮らしています。ペンギンとぬか漬けが好き。Facebook:菊地 誠 / Twitter:@yutorizuke / 所属:株式会社キュービック / 運営メディア:「ココナス」「HOP!」「エピカワ」「イエトク」「カービックタウン」「キューチャン!」など