こんにちは。株式会社キュービックの菊地です。普段は広報をしたりメディアを運営したりしています。
前回の記事で、バナナが絶滅しないことがわかり安心していたのですが…一つ問題があることに気がつきました。
僕は、バナナが多少値上がりしたところで食べられなくなることはありません。ちゃんと働いているのでお給料があります。
だけど、動物園にいる動物たちはどうでしょう。彼らは、自分でお金を稼ぐことはできません。
つまり、バナナが値上がりすると、バナナの量を減らされてしまうかもしれない。このままでは、動物たちが食事の楽しみを奪われてしまう!!
そうなった場合、動物たちのモチベーションが下がり、最高のパフォーマンスができなくなってしまう可能性も!!!!
旭山動物園に行ってみた
というわけで、急いでやって来たのは、北海道旭川市にある旭山動物園。バナナが絶滅や値上がりすることで、動物園が被る被害総額を伺っていきます。
最初に、迎えてくださったのは旭山動物園長の坂東元さん。優しそうな眼差しとは裏腹に、こちらが挨拶をしても返事がありません。
坂東園長と無言の状態が続き、気まずい雰囲気が流れるなか…
しばらくすると、副園長の中田さんがいらしてくださいました。
「本日はよろしくお願いいたします。園長が無言でヒヤヒヤしました」
「よろしくお願いします。それはそうでしょうね。えーと、バナナが絶滅することで、うちが受ける影響のお話ですよね?」
「はい。当初はその予定だったのですが、バナナ、絶滅しません(詳しくは前編参照)」
「そうですか(笑)、それは良かったです。そうなると、今日はもう…」
「いえ、東京から北海道まで来ているので手ぶらでは帰れません。仮にでもバナナが絶滅したらどうなるか教えてください」
バナナが絶滅したらどうする?
「バナナが絶滅することなんて、考えたことすらなかったからなあ。もし絶滅したら、栄養が似たようなものを探して代用しますね。あとは、代わりにリンゴの量を増やすとか」
「バナナが絶滅しないのですが、価格が高騰する可能性はありそうです!どのくらいまで高騰したら、バナナをあげるのを躊躇しますか?」
「うーん。みんなバナナが大好きだから、どんなに高くなっても食べさせてあげたいなぁ。ただ、あげる量は減らすことにはなるかもしれませんね」
「やっぱり、動物もバナナ大好きなんですね!ちなみに、どんな動物にバナナをあげているんですか?」
「うちでは、ニホンザル、チンパンジー、オランウータンとか猿系ですね。あとは、アフリカ産のヤスデやゴキブリなどがいる、ゲテモノ水槽の虫たちにもあげています。詳しくは、あとで実際にエサ小屋に行ってご説明しますね」
「ありがとうございます。ひと口に猿といっても個体差があると思うのですが、バナナが嫌いなサルはいますか?」
「今までバナナが嫌いな猿にあったことはないですね。動物には、好きなものから食べるという習性があるのですが、色々な野菜と混ぜてあげても、必ずバナナの取り合いから始まります」
「そうなんですね!逆にいつも残ってしまうエサはありますか?」
「そうだなぁ。やっぱりキャベツや白菜といった葉っぱ類ですね。あとは人参とか芋類が残るかなぁ」
「やっぱり味の主張がないものは敬遠されるんですね。動物たちの場合、鍋で煮込んでポン酢というわけにもいかないですし」
「基本的には、甘いものが好きなんですよね。バナナ、リンゴ、キウイとか。でも、そればかりあげるとブクブク太ってしまうので、健康面を考えると少量しかあげられないんですよね」
「そうなんですね。日頃から少量のバナナを楽しみにしている彼らにとって、バナナがなくなってしまうというのは大事件ですよね?」
「彼らのモチベーションにどう影響が出るかはわからないのですが、私たち飼育員からしても、バナナがないと困ることが多いんですよ」
「そういうのが聞きたかったんです!なぜでしょうか!」
「例えば、動物が風邪をひいたり、怪我を負ったりした時は薬をあげないといけないのですが、当然ながら薬をそのままあげても彼らは飲みません」
「私も苦い薬は基本的に飲みません」
「だから、バナナに切り込みを入れて、薬を練りこんであげるんです。まあ、チンパンジーなんかは頭がいいので、バナナに切り込みが入っているだけで、薬に感づいて食べなかったりするんですけどね(笑)」
「なるほど!確かに、バナナのもっちりとした粘度ならうまく隠れそうですね」
「そうなんです。あと、なかなか寝室に戻らない時の誘導にもバナナを使っています。動物たちの目の前でバナナをチラつかせると、素直に寝室に入ってくれるんですよ」
「そんな思わぬところでバナナが活躍していたなんて…ちなみに、絶滅が騒がれているバナナはキャベンディッシュと呼ばれる品種なのですが、動物たちにはどういった品種をあげているんですか?」
「品種はわからないなあ…野菜業者の方に、毎日届けてもらっているから、品種や原産国までは気にしていませんね。さあ、そろそろエサ小屋に移動しますか。少し距離があるので、車でいきましょう」
旭山動物園のエサ小屋へ
エサ小屋へ向かう道中、せっかくなので気になっていた質問を投げかけてみました。
「素朴な質問なんですが、動物園のスタッフさん同士の飲み会ってどんな感じですか?私たちサラリーマンの場合だと、売り上げの話や、くだらない話が話題の中心になるのですが」
「そうですね。ふざけた話がメインなのは、私たちも同じですよ。ただ、動物のことになるとみんな熱くなりすぎて、喧嘩寸前の言い合いになることはありますね。それだけみんな動物が大好きなんですよ。あ、左に見えるのがニホンザルです」
「今、猿山を改装中でニホンザルは仮住まいなんです」
「そうなんですね。住み慣れた我が家ではないからなのか、どこか悲しげですね」
「菊地さん、エサ小屋に着きましたよ。どうぞ中へ」
「小屋というので、もっとこぢんまりとした空間を想像してました。広いですね」
「園内の動物たちのエサは全てここで管理しているので、これくらいのスペースは必要になります。ちなみに、ここにあるのが動物にあげている野菜です」
「前日に各動物の担当者が、それぞれの動物に必要な量を確保しておきます。すでに担当者が持っていったあとなので、もう残りが少ないですね」
「これがその確保されたエサというわけですね。カゴの形が統一されていないあたりに、担当の方々の人間味が垣間見えます」
生活感を感じる注意書きを発見。自分の担当している動物たちに、「少しでも多くのエサを食べさせてあげたい」という気持ちからついつい多く取り過ぎてしまうのでしょうか。
旭山動物園ではどのくらいバナナをあげているの?
「どの動物に何をどれくらいあげるのかは、ここのホワイトボードに書いてあります。ニホンザルには、1日に4kgのバナナをあげていますね。ちなみに、うちには64頭のニホンザルがいます」
「それだけのサルがいながら1日に4kgというのは、なかなか熾烈な奪い合いになりそうですね。バナナ1本がだいたい200gなので、4kgということは20本くらいでしょうか」
「はい、そのくらいですね。細かく切って広範囲に撒くなどして、全員にいき渡るように工夫はしています。それでも食べられないサルには、あとから寝室でこっそりあげたりしています。サルは上下関係が厳しいので、下っ端はなかなかバナナにありつけないんですよ」
「寝室でこっそりですか。何か良からぬ響きです。ただ単にエサをあげるだけではなく、動物たちがきちんと食べているかどうかも観察しているんですね」
「そうですね。ただ、動物がエサを食べる時というのは、その群れのなかの上下関係が顕著に現れるので、注意深く観察してみると色々な発見があって意外と面白いんですよ」
「どんな社会にも上下関係はあるんですね。厳しい現実です」
「それぞれ野菜の仕入れ金額も書いてあるので、1日あたりのバナナの消費金額もわかります」
「あった!バナナ1kg当たり300円!!それが8kgということは300(円)× 8(kg)で1日にかかるバナナのコストは2400円ですね!!」
「そうですね。他の餌と比べれば量は少なめかもしれません」
「3年前、バナナの平均価格は1kg当たり250円だったので、3年で50円の値上がりがあったということになります。つまり『このままのペースで価格が高騰し続ければ、2020年の東京オリンピックの時には、今より50円の値上がりに。現在、旭山動物園はバナナにかけているコストはおおよそ86万円なので、年間のバナナにかかるコストは14万円増える』ということになりますね!」
「う〜ん。まあ、それくらいであればバナナの量を減らすこともなく、これまで通りあげ続けられそうですねぇ。菊地さん、急に早口になりましたね」
「あ、、、そうですか。そうですよね。よかったです。はい。思いのほか被害も少なそうでびっくりしました。でも、動物たちの楽しい食事は守られるみたいなので、よかったです、はい」
「被害というほどのことではないですね。やっぱり動物たちの命を預かっているので、彼らにとって、できるだけ良い環境を整えてあげたいんです」
「じゃあ、バナナが食べられなくなった動物たちが、いっせいにストライキを起こしてしまうなんてことは、、、?」
「ないでしょうね(笑)。彼らも野生では美味しいものばかり食べているわけではないので」
「それはそうだ」
果物をあげなくても動物は平気?
「実のところ、バナナをはじめとする果物や野菜というのは、最悪あげなくても動物たちの健康に差し支えることはないんですよね。これを見てください」
「これは、ペレットというドライフード。動物に必要な栄養がぎっしり詰まったエサです。それぞれサル用、クマ用と動物ごとに用意してあって、これさえ食べておけば健康を維持することは可能です」
「ドックフードみたいですね」
「でも、これだけを食べるのはなんだか味気ないですよね」
「栄養面だけを突き詰めて行くと、こういったドライフードに行き着くんですね。確かに、毎日こればかり食べるのは味気ないです」
「ちょっとこれを見てください。これはフラミンゴ用のペレットです。よーく見ると、赤い斑点がありますよね?これはカロチンという色素で、フラミンゴの赤い模様を維持するために必要なものなんです」
「栄養面だけではなく、より野生の環境に近づける工夫がなされているんですね。私もこれを食べたら肌が赤くなりますか?」
「(笑)。それはちょっとわからないですが、ずっと昔にフラミンゴの池にアヒルもいたんです。彼らも、このペレットをつまみ食いしていたみたいで、一時期ほんのりと赤くなっていることがありました」
「それはおもしろいですね。シロクマが食べたらどうなるのでしょうか」
「さあ、どうでしょうね。せっかくなので肉食の動物たちのエサも見てみましょう」
肉食動物は何を食べているの?
「生々しいですね…」
「生肉なんで、そうですね。これは今解凍中で、だいたい前日くらいからこうやって外に出しておきます。ちなみにこれは鳥肉と馬肉で、主にライオンやトラが食べます」
「あとはホッケですね。うちのペンギンが食べています」
「ペンギンはホッケを食べているんですか。ずいぶんと贅沢ですね」
「東京の感覚だとそうかもしれませんね。でも道民からすると、アジやイワシよりホッケの方が安いんですよ」
「こんな感じで冷凍保存しています。これはやや小ぶりですが、北海道のスーパーで売っているホッケは、もっと大ぶりで身がぎっしり詰まっています」
「おいしそうですね。今夜はホッケを美味しく食べられるお店を探してみようと思います」
「この辺りのお店で出てくるホッケは、大ぶりで脂がのっていて美味しいですよ。私もお腹が空いてきたので、そろそろ戻りましょうか」
大人ならではの動物園の楽しみ方
エサ小屋見学を終え、オフィスに戻ってきました。
「中田さん、本日は本当にありがとうございました。最初の主旨からは少々ズレてしまいましたが、大人になっても動物園は楽しい場所ですね」
「そうですね。動物園には、大人だからこその楽しみ方もたくさんあります。動物は、季節ごとにいろんな表情を見せてくれるんですよ。子どもの時にはわからなかった微妙な違いも、大人になってから気づける部分ってたくさんあります。体毛の変化とかはまさにそうですね」
「僕は断然、冬のホッキョクギツネが好きですね。ふわふわしてそう」
「あとは、うちの動物たちの姿を見て、野生で生活している彼らの生き方をイメージして、動物たちをより身近に感じてほしいですね」
「例えば、オランウータンだったらボルネオの森の中が本来の住処。でも現地では、オランウータンの数が年々減っています。なぜ減っているのか、どうしたら数の減少を食い止めることができるのか。大人ならではの視点で動物を見てもらえたら嬉しいです」
「たしかに、子供の頃はそこまで考えていませんでした。動物が見ているだけで楽しかった」
「私たちスタッフが伝えたいことは彼ら動物たちの『命』についてなんですよ。この地球上では、人間だけじゃなく、動物たちも毎日必死で生きています。そんな彼らが、今どんな状況にいるのか、世界で起きていることに、もっと目を向けてほしい。そのきっかけづくりを今後もしていきたいと考えています」
「そうなんですね。本日はお忙しいところ、ありがとうございました」
まとめ
はい! ということで今回は、バナナが絶滅することで動物園が被る被害総額を調べてみるという企画だったのですが、動物園が被る被害も少なく、大きな影響はありませんでした。
今回、取材にご協力くださった旭山動物園さんは、今年の7月1日で開演50周年を迎えます。実は、7月1日というのは私の誕生日でもあるんです。こんなにめでたい日はそうそうありませんね。
今回の調査結果:大人になっても動物園は楽しい。
この機会にみなさんもぜひ、旭山動物園に行ってみてはいかがでしょうか?
そして、仕事が忙しくて北海道には行けない、というあなた。安心してください。私の勤務先であるキュービックにも動物がいますよ。
書いた人:菊地誠
自社メディア事業を手がける西新宿のデジタルマーケティング企業、株式会社キュービックのPR担当。Webディレクター兼ライター。タイ人と2人で暮らしています。ペンギンとぬか漬けが好き。Facebook:菊地 誠 / Twitter:@yutorizuke / 所属:株式会社キュービック / 運営メディア:「ココナス」「HOP!」「エピカワ」「イエトク」「カービックタウン」「キューチャン!」など