まぼろし博覧会からこんにちは。
観光会社「別視点」の松澤です。
へんちくりんなスポットを紹介するWEBサイト「東京別視点ガイド」を書いたり、なにかの分野のスペシャリストをまねいて町歩きする「別視点ツアー」をやってます。
ネットでリアルで、王道ではない観光地を人さまに案内することをライフワークにしてるわけです。
今回おとずれているのは「まぼろし博覧会」。
静岡県・伊豆半島にある最狂のカオス空間です。
じつは伊豆半島、知る人ぞ知る珍スポのメッカなのです。
・いまや日本で唯一の”秘宝館”「熱海秘宝館」
・トイレの万華鏡やお寿司の万華鏡など創作万華鏡をかざる「アトリエロッキー万華鏡館」
・家族経営の地獄テーマパーク「伊豆極楽苑」
などなど、超ド級の最高スポットがひしめきあっています。
なかでもひときわ異彩をはなつのがまぼろし博覧会。
じつは伊豆にいくつか姉妹店があって「怪しい少年少女博物館」「ねこの博物館」「まぼろし博覧会」 とおなじ館長さんが珍博物館を3つも展開している。まさかの珍スポドミナント戦略。
日本中めぐり歩いたが、多店舗運営してる珍スポットはそうそうない。
そういう場所に興味がなくても「怪しい少年少女博物館」なら名前を聞いたことがあるって方も多いのでは。
そんな異色の珍博物館をなぜ3つも運営してるのか、館長さんに直接うかがってきた。
そもそも、まぼろし博覧会ってどんなところなの?
まぼろし博覧会をひとことで説明するなら
「リアル世界にあらわれたマッドなコラージュ空間」
といったところ。
特筆すべきはその規模感。
閉園した植物園を買い取って博物館にしているので、スペースがとにかく広大だ。
広いのに展示がぎっちり詰まっていて密度が濃いので、ゆっくり見れば3~4時間は余裕でかかる。
百聞は一見にしかず。
”まぼろし博覧会的”としかいいようのない独特の世界観をご覧ください。
珍スポットはナチュラルボーンタイプか演出タイプに区別できるとかんがえている。
ナチュラルボーンはいわば天賦の才。理屈ではなく、感覚で動くタイプ。
演出タイプはロジックを積みあげ、1歩1歩正常な判断のもと、狂気への道をつきすすむ。
まぼろし博覧会にかんしては、本物の狂気なのか狙った演出なのかわからない、ギリギリのきわどいラインをせめているのだ。
レトログッズも展示されていて、マネキンなどで当時の社会を再現しているのだが、その世界観は昭和ではないどこか。「懐かしい」とノスタルジーにひたる隙はない。
一番びっくりしたのがこれ。ハッカー寺小屋。
壁の赤いボタンをしばらく押すと「基地局との接続が切れて、スマホが圏外になる」と書かれている。
半信半疑で30秒ほど押していたら……
ほんとうに圏外になった。
レトロもハイテクもなんでもありだ。
館長さんってどんな人なの?
館長のセーラちゃんだ。
言いたいことはわかる。「なんなんだ」と。
ただでさえわけのわからない博物館なのに、館長さんまでこのわからなさ。
いろんな疑問を解き明かすためにインタビューしてきたので、くわしくは後半に譲ろう。
旗をふってお客さんをでむかえるセーラちゃん。
通りすぎる車のほとんどが、おもわずこちらをチラ見している。
まあ、こりゃあ見ちゃいますわ。
こんな調子でひたすら踊ってくれるのだ。
セーラちゃんにいろいろ聞いてきた
●真夏に5時間踊ってたら、体脂肪率6%になっちゃった
松澤:3年ぶりに来たら、展示がすっごい増えてておどろきました。
セーラ:とどまってしまうと寂れてるようにみえるし、やる気がないようにみえるでしょ。そういうのがいいって言う人もいるけど、それじゃあ続かないし、誰も来ない。
活気があって変わってるのが大切。
生きものですよ、社会とおなじです。
松澤:なぜセーラ服を着て踊るようになったんですか?
セーラ:「ここなんですか?」ってよく聞かれるんだけど、100説明しても伝わらないでしょ。怪しい怖いを強調しちゃうと普通の人は入ってくれない。
それなら楽しい、おもしろい、ノー天気にしてこういう場所に興味なかった人も入ってくれたらいいよね。
松澤:楽しさ、ノー天気さの象徴ですか。
セーラ:以前は入り口にさびれたマネキンおいたり、怖い感じにしてたんだけど、あかるくて楽しい展示に変えたの。入り口に主張はいらないんだよね。怖いのは中にひっこめていかがわしさを減らす。
入り口をあかるくして、セーラちゃんが立つようになって家族連れが増えたよ。
これは女装ではなくてコスプレ。普通の女の子が着てるようなかっこうはしないよ。
松澤:たしかに。こんなかっこうの女性いませんね。
セーラ:こんなの架空のものだよ。女の子もしないでしょ。
去年の夏はビキニ着て踊ってたんだけど、真っ黒に日焼けしちゃった。ビキニ跡、まだ残ってるよ。5時間踊りつづけてたら体脂肪率6%になっちゃった。
松澤:季節で変わるんですか。
セーラ:春は振袖にしてこいのぼりを背負ったり、どんどん変えてるの。新しいことやってかないとおもしろくないでしょ。
流行ってることもやらない。こないだ真冬のイベントで、扇風機3つまわして風をぶっかけながらかき氷食べたんだ。カボチャすりおろして氷にふりかけて。冬におでんなんて食べてもしかたないよね。
おなじことやるのは飽きてくるから、変わったことやらないと。
松澤:いつからセーラちゃんになったんですか?
セーラ:おととしの夏のイベントで、エスパー伊東やセーラー服のおじさんが来たんだよ。で、自分もセーラー服着てTwitterにながしたら、いつのまにかセーラちゃんになってた。やっと自分で派手メイクができるようになったよ。
こういうかっこしてると「恥ずかしくない?」って聞かれるけど、まったく恥ずかしくない。いいかっこしたいから、対極として恥ずかしくなるんだよね。
松澤:なるほど。
セーラ:踊りにしたって、上手に踊る気がないまま踊ってやれっておもってる。音楽にあわせてりゃたのしいんだよ。
だんだんやってくうちに手を大きく動かしたほうがいいなとかわかってくる。
松澤:昔からそういうこと恥ずかしくなかったんですか?
セーラ:昔から恥ずかしくないし、ゴキブリも怖くない。でも、ハチは怖い。ゴキブリって形だけでどうってことないでしょ。
ここには子どもも来るけど怖がるかどうかは環境の問題。子どもはヘビを怖がらないけど、母親がキャーっていうと怖くなってくる。それとおなじだよね。
●出版社の社長がどうしてまぼろし博覧会を運営するのか
松澤:セーラちゃんは出版社も経営してますよね。
セーラ:なんの設備もなくて自分の頭でできるのが出版社だったの。
出版1冊目は田中角栄についての本。若いころはおもしろさを感じるのが狭い分野だったけど、どんどん興味の対象が広くなってきたね。
松澤:出版をされてるのに、なぜこういう博物館をひらいたんですか。
セーラ:こういうのが好きで集めてたんだよね。出版社をはじめたのは35歳のときだけど、情報をあつめて「こんなおもしろいことあるよ!」と伝えるって点ではおなじでしょ、本も博物館も。
野生ネコの百科事典をだしたときに「じゃあ現実にしちゃおう」って、ねこの博物館を作ったのがきっかけだね。ペンギン博物館もつくったけど、いまはやめて、怪しい少年少女博物館にしてますよ。
松澤:似たような怪しい少年少女博物館があるのに、なんでまぼろし博覧会をつくったんですか?
セーラ:怪しい少年少女博物館はオタクやレトロ好き向けでコレクターの世界なんだけど、まぼろし博覧会はお子さまから年寄りまで1人のこらず笑顔にしてやろうと。
社会のおもしろそうなものを集めまくって、むりやりコラージュしてやろうっておもってます。
おもしろいものとか変なものを集めて、そういうのがわかる仲間うちだけに褒めてもらっても仕方ないなって。知らない人、興味ない人にチャレンジするのが楽しいね。
セーラ:それに怪しい少年少女博物館はスペース的に限界があるんですね。展示をこまかく修正してもだれも気づかない。その点、ここは大きいから飽きないね。この場所は10年くらいかけて交渉してたんです。
松澤:え、10年も!
セーラ:その間も潰れてしまう秘宝館やテーマパークから話しがあると、オブジェを買い取って倉庫におさめてたんですね。三重県にあった元祖国際秘宝館とか鎌倉シネマワールドとか。トラックで100台分は運んだかな。ここにかざってる以外にもたくさん倉庫に眠ってるよ。
秘宝館から引き取ったときは、トラックで7~8回通って持ってきた。外車一台分ぐらいのお金がかかったね。
●高いものに興味がない。経済的価値で客をあつめても仕方ないよね
松澤:さきほどコラージュとおっしゃいましたが、組み合わせ方のこだわりはありますか?
セーラ:70年前のやぶれたカレンダーと子どもが描いたイラストなんかがならんでるのがおもしろいよね。高いものに興味がない。経済的価値で客をあつめてもねえ。
家壊すとき、中のものが欲しいね。いろりや鏡台は残しがちだけど、そんなのはいらないんだよ。50年前のチラシとかゴミが欲しいんだけど捨てられちゃう。そういうものこそ文化だとおもってるし、見たことないものがおもしろいよね。
松澤:どんな客層なんでしょう。
セーラ:お客さんは20代の女の子がいちばん多いけど、若い子が歌えるような曲は流さない。レトロではなく、どの時代にもないものを見せたい。それを堂々とやったほうがおもしろい。
「どれがいちばん思い入れがあるか?」ってよく聞かれるけど、どれもあるし、特別なのはない。この世界自体が好き。
セーラ:いまメル友みたいな人が100人ぐらい出来てて、Twitterもぜんぶ返信してる。この場所がそういう人たちにとって水滸伝の梁山泊みたいになって、みんなでいろんなもの作れたらおもしろくなるよね。
立派なものをみせてもらう場所じゃなくて、お客さんもみんな友だちだよ。
松澤:作り手すら混ぜてしまってコラージュするわけですね。
セーラ:作るものもやることもなんでもあり。ただし、汚すぎるもの、違法なもの、危険なものはNGだよ。いきなりウンコまかれたら困るから。でも、ビンに入った鹿のフン持ってきた人ならいるな。
●朝起きてからずっと走ってる
セーラ:朝起きてからずっと走ってるんだよ。
松澤:え?走る?
セーラ:やりたいこといっぱいあるから、移動で時間つかうのもったいない。1日平均4時間睡眠。じゃなきゃ、もったいないんだよ!やりたいこと100個あって3個かたづけても、またここ来ると10増える。やることがどんどんたまってるの。
だから展示は壊れても直さない。そのほうがおもしろいし、修繕ほどつまらないことはないよ。マイナスがゼロになるだけだから。その労力であたらしく作ったほうがおもしろい。
松澤:すさまじい情熱ですね。
セーラ:お酒も若いころは一升ビンで飲んだけど、最近は缶ビール一本でいいね。酔ってなくても酔ってるような話しをしてるから!
本音でしか人と付き合わないし、もう境目がない。最悪のこと、身もふたもないことを話して付き合ったほうがいいね。
松澤:落ちこむときはないんですか?
セーラ:瞬間で落ちこむことは何度かあったけど、方針さえたてば前しか向かないから大丈夫!
落ちこんだら小さなことでもまずなにかやる。たとえば種を植えるとか。花が咲いて嬉しいとか、そういうことでいい。
ノー天気でまじめでポジティブ、それがセーラちゃんですよ!
ちなみにインタビューをおこなっていたのは温室のすみっこ。
「雨の日は雨漏りするけど、いまどき雨漏りなんて珍しいでしょ。夏はものすごく暑いんだけど、こんなに暑いの体験できるなんてラッキーだよね!」
と最後までひたすらノー天気でポジティブであった。
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ちょっと別視点のお知らせ
2017年4月22日(土)~23日(日)に「1泊2日伊豆別視点ツアー」をおこないます。
・家族経営の地獄テーマパーク「伊豆極楽苑」
・トイレの神さまをまつってる「明徳寺」
・ディナーショー&海底温泉があるホテル「サンハトヤ」
などなど伊豆半島の珍スポ13個を貸し切りバスでめぐりたおすツアー。もちろん、まぼろし博覧会も行きますよ。
ご興味あるかたは、こちらをごらんくださいませ~。
書いた人:観光会社「別視点」
取材・文:松澤茂信 観光会社「別視点」の代表。「東京別視点ガイド」書いてます。(Twitter)
撮影:齋藤洋平 観光会社「別視点」副代表。観光カメラマン。(Instagram)