おおきちと申します。完全に死に顔(しにづら)でスイマセン。生まれつきこういう顔(ツラ)なんです。
最初に説明しておきたいんですが、今回の記事は僕が最終面接まで行ったものの、半年経っても合否の連絡を未だもらっておらず…「一体どうなってんの? 合否を確認するついでに大好きな会社だから取材しちゃおう!」という経緯ありきのやや入り組んだ内容になっています。
その会社が人気ガチャガチャの商品『コップのフチ子』でお馴染みの「奇譚クラブ」です。コップのフチ子は累計1000万個以上も売れていて、日本の歴史に残るおもちゃと言っても過言じゃないですね。
去年の秋ごろまで僕は某おもちゃメーカーの企画・開発部に勤めていて、僕が目指しているような企画が奇譚クラブから商品化されることが多く、それがめちゃくちゃ悔しかったんです。僕のは前社でボツりまくってましたから…。尖った企画を商品化する奇譚クラブがずっと羨ましかったんですよ。
会社を辞めて奇譚クラブで働きたい!
そんな思いが爆発した矢先、奇譚クラブが企画部の求人を始めたんです。実は奇譚クラブが求人を出すことってこれまで一切なくて。「これは運命だ!応募するしかない!」と衝動に駆られて、ボツになった企画書をまとめてポートフォリオにして速攻で応募しました。こんなグッドなタイミングで募集かけるなんて完全にアレだろ!これはアレするだろ!と。奇譚クラブへの愛には絶対の自信があったし、完全に頭が奇譚クラブナイズドされているつもりだったので。
書類審査通過の連絡が来た時は「やっと認めてくれる人がいた! 俺、間違ってなかったんだ…」と感慨深いものがありました。そして最終面接へ。緊張すると仕草がオカマっぽくなっちゃうクセもいい感じに作用して、面接もすごく盛り上がったんですよね。正直、完全に受かったと思ってました。
でも、結局そこから連絡がなくて……
で、なんか元同僚が受かったとかそんな話を聞きまして……
チクショウ、こんなに好きなのに!!!
空回りした僕の想いを察してくれたのか、ジモコロ編集長の柿次郎さんが
「よし、そんなに好きなら直接確認しに行こう! ついでに奇譚クラブの仕事論を聞いてこよう!」
…と声をかけられたわけです。
奇譚クラブに行ってきた
奇譚クラブは、広尾駅からちょっと離れた静かな住宅地にあります。ここに来るのは実は3回目。好きすぎてどういう所で働いているのか気になり覗きに行ったのが1回目、面接で行ったのが2回目、そして今回の計3回です。最初、完全にストーカーですね。
案内された応接室には過去の商品がズラリ!! コップのフチ子さんシリーズもたくさん並んでます。全部持ってますよ、俺!
「今日はお時間いただきありがとうございます。ほんと奇譚クラブには"愛"と"憎"、いわゆる愛憎しかないんですよ…」
「何何!? いきなりめんどくさいな!!」
「こいつ取材に来て取材先に文句を言っている…」
「ハァハァ…スイマセン、話を本題に戻します。今回の取材の目的はですね、こういった面白い企画を出し続けている奇譚クラブだったらボツネタも面白いはず!ボツネタから奇譚クラブの企画力が見えてこないかなと!コップのフチ子さんの話は一切しない覚悟で来ています。フチ子さんについてはもう色々な場所で話されているじゃないですか」
「えー! 最近あったフチ子の話あるのに…いいんですか?」
「…前言撤回します!今、完全に心のctrl+Zを押しました!聞きます!」
「この前コップのフチ子の最新作、コップのフチ子5の利益とか数字の確認をしたんですけど、全部売れたとしてもたった◯万円の利益にしかならなくて…。中国の工場の人件費が爆上がりしてるんですよね。まぁ、仕方ないんですけど。社員一同で『ン十万個売れても利益◯万かよー!ゲラゲラ』って爆笑しまして。でも、これまで通り200円で発売します、意地で!」
*伏せ字にしましたが笑えるくらい少なかったです
「いや、ありえます?利益率とか粗利とかって言葉知らないんですか? 普通のメーカーの判断なら発売しないですよ!」
「僕ちょっと僕分からないんですけど、フィギュアの高い安いってのはどこが基準になってくるんですか?」
「それはですね」
「基本的にはこんな感じでコストが決まります。そういう観点から見ると、フチ子のこだわりは異常なんですよ。両肘両膝にうすいピンクをわざわざ吹いてたり、シークレットに至ってはノーマルの10倍くらい工程数があったり…」
「結局フチ子の話してるし、自分の顔でフィギュアの工程画像作るセンスなんなの…」
奇譚クラブの企画会議
「会議で商品化の合否はどんな基準で判断しているんですか?」
「基準は企画会議で参加者みんなが笑ったらOKです。みんなの前で企画書を出して、5秒で可否が決まりますね。ガチャガチャってお客さんがDP(ガチャガチャの正面に入っている表紙のこと)をパッと見て買うか買わないか決めるじゃないですか?それと同じ目線に立つため企画書を見て『わー、いいね』とかリアクションがあったら雰囲気でGOがでるんです。コストなども後から考えるので、マーケティングとかはしたことないですね」
「マーケティングしない!? 前職ではよく『マーケティングをしろ』と言われましたけど、ぼくも面白いものってマーケティングで出来るとは思えなくて…。マーケティングをまったくしていない奇譚クラブがガチャガチャメーカーとして有名になっているって事実が、ぼくが嫌になったマーケティング主義に対してのアンチテーゼになっているんですよ…だから輝いて見えるんですかね…」
「せっかくいい話なのに、最後に自分の話に持ってくるところがキモいね…」
自信があってもスベるときはスベる
「先ほど5秒で企画の判断をするとおっしゃってましたけど、それだけが基準だからフチ子さんも商品化できたんですかね。『コップのフチに座るフィギュアです』って説明だけでみんなが『おもしろそう!』ってなって、それがいまや累計1000万個以上売れてるって…12人に1人は買ってる計算ですよ?」
「大手メーカーだったら世の中に誕生すらしてないかもですね…」
「フゥーーッッ、いい話!あ、そうだ!最近、奇譚クラブの商品でめちゃくちゃ好きなのが中国可愛的猫なんですが、あれ最高じゃないですか?」
「見てくださいよ、このDPの日本語!」
これは柔らかい猫です
とてもいい猫をたくさん集める素敵猫がパラダイスを作れ!
個性のいっぱい猫があなたと私と兄にハッピーをあげる幸せ!
「ネットの翻訳サイトにブチ込んで直訳したような怪しい日本語!逆輸入商品っぽくするため、あえてやってると思うんですけど、買う前のお客さんに唯一アピールできるDPでここまでふざけてネタを仕込む勇気、普通あります?」
「これ、知らなかったら本気でやってるように見えちゃうね」
「いやー、これは全然売れませんでしたね(笑)。商品もめちゃくちゃいんですけどねー!出す時代を間違えましたね(笑)」
「これの良さに気づいてくれ…世間の民よ…」
眼の焦点があっていなかったり、塗装がちょっと雑だったりこれも中国の残念なクオリティをあえて再現したフィギュア。
「あとこれ、メッチャクチャ伸びるんすよ」
「なにコレ!」
「うわ! 今言われて伸びることに気づきました。『伸びてかわいいよ!』みたいな写真をDPに載せるとか、もっとやりようあったじゃないですか!」
「こういうDPを普通作るのでは?」
「いやぁ、最初はDPに分かりやすく載せてたんですけど、『説明すると逆に中国感がなくなるからやめよう』ってことになりました。それが失敗だったんですかねー(笑)」
「わかりやすさよりも面白いをとる姿勢、やっぱ最高…。ロマン感じますね、こういう男気ある会社、すっごい抱かれたくないですか?」
「俺に聞くな」
「抱かれたいッ!」
「達するな」
本題のボツネタを見せてもらう
「余談が長くなって申し訳ないんですけど、本題のボツネタを見せていただきたいなーと思うのですが…」
「基本的にボツネタ公開って、弊社ではNGなんですよね。以前公開したら、某メーカーにパクられてしまって…。ま、でも代表の古屋に伝えたら『あの気持ち悪い奴が取材申し込んできたのならまあいいんじゃん』と言われたので、今回特別にお見せします!」
「気持ち悪くてよかった…」
「その発想気持ちわるっ!」
「これは逆シリーズですね、ことわざとは逆でネギが鴨を背負うっていう」
「これいま別メーカーがことわざ動物みたいな商品名で発売してますよね? フツー先に表があっての逆じゃないですか? 先取りしすぎですよ!」
「というか、そのままだして売れそう…」
「これは"他社がやりそう"って理由でボツですね」
「確かに、言われてみると他社が出しそうですね…」
「やっぱガチャメーカーにおける奇譚クラブっていう立ち位置を大事にしてるんですね。ボツネタから、奇譚クラブの強みはちょっとでも面白いと思ったのであれば発表できる環境なんじゃないかなと思いました。"これは伝わらないだろうからやめとこう"と企画会議に出さないという選択をしないことが、フチ子も産みだせたのでは?」
「最初にしないって言ったのに、やけにフチ子を例に出すなぁ…」
再度、古屋代表と対面する
「おおきちくん。せっかくなんだし、面接の合否を古屋さんに聞いてみたら?」
「ウワァ、ちゃんと聞くとなるとすっごい緊張します。聞きたいような聞きたくないような…」
「落ちたよ」
「ウッ…!」
「理由ってなんかあります?」
「なんだろなー…なんかダメだったんだよね!」
「ぎにゃぁぁぁぁ!!!」
「ま、でも採用ってそんなもんじゃない? フィーリングが合わなかったら、ウチにいちゃいけないんじゃないかな? って思うんだよね」
「そうですね。なんかテイストが違う感じがする」
「ってか、不採用の時は連絡しないって最初に言ったじゃん(笑)」
「ウッ!正論で返すのやめてくださいよ…」
「ウッ…ぼ、僕の元同僚の五十嵐はどうですか? ちゃんとしてますか?」
「あー、おんなじ会社だったもんね。ちゃんとやってるよ。今も重要な商品担当してて…。気になるの?」
「まあ、そりゃアイツが面接来てなかったら僕そっちにいたかもしれないわけですからね。でも、正直言うと前職の企画会議で五十嵐のアイデアがおもしろくて『奇譚クラブとかのが合ってる気がします!』と話してたんですよ。五十嵐のセンスを知ってるだけに受け入れてしまえるってことも逆に悔しくて!どこぞの知らない人が入社してたら完全な逆恨みができたのに!!」
奇譚クラブを倒してください
しきさんが取材途中に言っていた発言に心を打たれました。
「ぼくらは、そこにキャッチャーがいないのに全速力で球を投げ続けようと思っています。誰もいないとこに全速力でボールを投げるのって無謀なんですけど、受け取ってくれる人は必ずいると信じてるんです。全速力で投げたコップのフチ子さんは、口コミで広まってどんどんファンの方がキャッチしてくれて、ガチャガチャではありえない数字、累計1,000万個以上売れました!」
「くぅ~! カッコいぃぃぃぃぃぃぃ!!」
どうですかこの奇譚クラブの精神!素晴らしくないですか?
なのでこれを見た企画職の方! いや、企画職の偉い方! 部下が全速力でボールを投げようとする企画を持ってきたら、どうかやらせてあげてください。
見えてこない企画って怖いんですけど、必ず拾ってくれる人はいるし、想定外のおもしろいことが起きるんですよ! そのドキドキって企画職の醍醐味じゃないですか!
「今の会社では全速力投げられないな…」そう思っているあなた。イーアイデムでは多数の企画職が集まっています。奇譚クラブもギャフンって言いたくなる企画をかましたってください。そう、ジモコロはイーアイデム様の協力で成り立っているメディアなんですよ!
うまく協賛企業と結びつけることができました。
さて今回の取材で奇譚クラブに落ちたということを改めて認識したんですけど…
僕は一体今後どうすればいいのでしょうか?
死に顔(しにフェイス)で記事を終えたいと思います。
後日談
後日、奇譚クラブの企画会議に参加させていただきました。オモコロライターの企画案を含めた合計40案くらい持ち込みプレゼンした結果…。
なんと!
惨敗でした
「こういうのって普通ハッピーエンドで終わるんじゃないの?なんだよこの結果!リアルかよ!」
「でも、好き…」
ライター:おおきち
1988年生まれ。ゴッサムシティ(荒川区)で深夜ラジオとインターネットに影響を受け続けている。尊敬する人はふかわりょう。ハイエナズクラブなどにも書いてます。 blog「おおきちナイトニッポン」 twitter:@ookichiinmyhead