Quantcast
Channel: イーアイデムの地元メディア「ジモコロ」
Viewing all 1396 articles
Browse latest View live

【ヴィジュアル系のみ】専門店「ライカエジソン」でCDが売れ続ける理由

$
0
0

f:id:eaidem:20170607183614j:plain

こんにちは、非常勤ライターのひにしあいです。


今日はヴィジュアル系(以下V系)音源だけを取り扱うV系専門のCD店「ライカエジソン」にきています。

ライカエジソンは、バンギャ(V系バンドの女性ファンのこと)・ギャ男(V系バンドの男性ファンのこと)なら、誰もが知るCDショップ。もはや『聖地』といっても過言ではありません。

 

ライカエジソン東京店

住所|東京都新宿区西新宿 7-15-14 坂本ビル1F

営業時間|AM11:00~PM8:00

・公式サイト

 

f:id:sunwest1:20170512150504j:plain

店内にはV系のCDやフライヤー、V系雑誌のバックナンバー、メンバーのポスターやサイン色紙が貼られ…V系好きにはたまらない空間!!

 

14歳からV系の世界に足を踏み入れ、今でもずぶずぶバンギャ沼に浸かる私も……

 

f:id:eaidem:20170607183618j:plain

「同じ雑誌、私も持ってる! 当時買った! 」とすぐさま大喜びの状態になります。

 

そんな「ライカエジソン」はV系の音源だけを扱い続けてなんと20年になるそう。

 

「CDが売れない」といわれるこの時代に、ヴィジュアル系しか扱わないにも関わらず、なぜその地位を維持し続け、CDを売り続けることができたのでしょうか?

 

バンドメンバーが店頭に立つ「インストアイベント」の裏話から専門店だからこその営業の極意、そもそも何をもってV系と定義しているのかなど、その秘密を探ってきました。

 

f:id:sunwest1:20170512152516j:plain

お話を伺ったのはこの方!

ライカエジソン東京店 チーフマネージャーの松本さん 

 

数々のV系バンドとのイベントのブッキングや、仕入れなど、ライカエジソンの営業のすべてに関わり続けて14年というベテランマネージャーです。

しかも年齢は33歳、私と同い年! 共感率めちゃめちゃ高かった……!

 

というわけで、ちょっと聞きづらいこともどんどん聞いていくぞー!

 

 

V系の歴史の変遷とライカエジソン

f:id:eaidem:20170607183615j:plain

f:id:eaidem:20170607105145p:plain「まずは、ヴィジュアル系の歴史を知らない読者のために、超簡単に歴史とかバンド名をまとめてみたのですが……。ぶっちゃけて一番売り上げ的にすごかったのはどの時代なんですか?」

f:id:eaidem:20170607105118p:plain「最初の質問から結構エグいとこ聞いてきますね……」

 

f:id:eaidem:20170612175114p:plain

※ひにしがまとめたV系の歴史・簡易版

f:id:eaidem:20170607105118p:plain「僕がこのお店で働きだしたのは2000年代初頭なんですが、やっぱり90年代後半のヴィジュアル四天王時代はV系シーン自体がすごかったので、そこが一番だとおもいます」

f:id:eaidem:20170607105145p:plainやはりそこなんですね…あの頃は『BreakOut!』などのV系バンドのみを紹介する番組が地上波でやっていましたもんね。ちなみに松本さんの記憶の中でこのお店で最も売れたCDは、誰の曲なんですか?」

f:id:eaidem:20170607105118p:plain「たしか『ナイトメア』のメジャーデビュー曲の『- Believe -』ですね。うちの店だけで1万枚くらい売っていた記憶があります」

f:id:eaidem:20170607105145p:plainメアー! 1店舗でそんなに売れるとか確かに凄まじい!『ナイトメア』といえば、ネオビジュアル系の代表格バンドの1つですもんね」

f:id:eaidem:20170607105118p:plain「『- Believe -』に関しては、ジャケット違いが数種類あったんで、揃えたい!って人が多かったのかもしれませんね」

f:id:sunwest1:20170608154316j:plain

ひにし友人所有の「B-type」の「- Believe -」

f:id:eaidem:20170607105145p:plain「なるほど。昔と今とで、V系バンドの変化とかファンの変化ってありましたか?」

f:id:eaidem:20170607105118p:plain「バンド名とかは、昔と今で違いがありますね」

f:id:eaidem:20170607105145p:plain「バンド名? 私が現役だった90年代頃は『ルナシー』『ラクリマ』『ラレーヌ』『ラスティア』みたいに、とにかくラ行のバンドが多すぎるってのが定説だったんですが、今は違うんですか?」

f:id:eaidem:20170607105118p:plain「実は違うんですよ。ほら、このCD棚を見てください。最近は、サ行のバンドが比較的多い傾向がありますね。『サグ』シドシビレバシルスタア区。サーティーンとかね

f:id:eaidem:20170607105145p:plain「うわ!ほんとだ、棚の中でサ行がむちゃくちゃ幅とっていますね。バンド名にも時代によって傾向があるとは盲点だったわー」

 

f:id:eaidem:20170607183622j:plain

f:id:eaidem:20170607105145p:plain「ライカさんで音源を取り扱う時には、どういう基準でV系と定義しているんですか?『これはV系じゃない』『いや、V系だ』みたいな会議ってあるんですか?」

f:id:eaidem:20170607105118p:plain「その辺りは結構 明確に基準があって、

・そのバンドがそもそもV系と名乗っている
・活動しているライブハウスがV系御用達かどうか(高田馬場AREAや池袋CYBERなど)※V箱とも呼ばれる
・バンギャやギャ男が受け入れられる感じか
・レコード会社さんがV系枠として売っているか

などで判断するので、結構分かりやすいかと思います」

f:id:eaidem:20170607105145p:plain「活動している箱が基準ってのは、言われてみれば納得! なるほどなー」

 

ヴィジュアル系専門で20年も続いてきた理由とは

f:id:eaidem:20170607105145p:plain「ライカさんは、最初からヴィジュアル系の専門店として営業を始めたんですか?」

f:id:eaidem:20170607105118p:plain「いえ、最初は『UKエジソン』という名前で、UKロックを中心に扱うお店だったんですよ。なので、ほんとにたまーにですが、『この店UKロックの店じゃなかったけ?』と訪れる50代~のお客様もいらっしゃいますね」

f:id:eaidem:20170607105145p:plain「昔はV系じゃなかったんだ……! 昔UKロック好きだったおじさんが久しぶりにお店にきて、この有様だったら、そりゃびっくりしますよね」

 

 

f:id:eaidem:20170607183616j:plain

この有様

 

f:id:eaidem:20170607105145p:plain最近は『CD売れない』『音源売れない』と言われる時代ですよね? ニッチな市場である『V系』に特化しているライカエジソンは、ぶっちゃけ売り上げとかってどうなんですか? 下がってないんですか?」

f:id:eaidem:20170607105118p:plain「そうですね。ライカは今の音楽業界の流れには逆行するようなスタイルですが……ガクンと売り上げが落ちることもなく、わりと安定した売り上げを維持していますね

f:id:eaidem:20170607105145p:plain「昔からあるようなオールジャンル取り扱うCDショップが縮小したり、撤退しているのに、なぜライカさんはV系しか無いのに好調なんでしょうか…?」

f:id:eaidem:20170607105118p:plain「ひにしさんはバンギャだから知っていると思いますけど、うちのお店だけでなくV系の専門店って実は昔より増えているんですよね。それってある意味答えなのかなって思います」

f:id:eaidem:20170607105145p:plain「たしかに…『リトルハーツ』さんとか『自主盤倶楽部』さんとか、V系の専門店は私が若い頃より増えていますよね…。専門店だからこその好調の秘密があるってこと? わーもっと教えて、松本さん!」

f:id:eaidem:20170607105118p:plain「ただCDを置いているだけでは、そりゃ私たちの店も売れないです。ライカではファンがお目当てのバンドと触れ合ったり交流できるような……体験と共にCDを買っていただくということを、かなり早い時期から行ってきたと思います」

f:id:eaidem:20170607105145p:plain「なるほど! 昔は大手レコードショップではなかなか行われなかったいわゆる、インストアイベントやお店独自の音源特典、握手会などのふれあいが、専門店が好調に生き延びてきた鍵ってことですね?」

  

 

店舗ならでは! インストアイベントの裏話

f:id:eaidem:20170607183619j:plain

ライカエジソン店内のイベントスペース。憧れの場所に座れて笑顔しか出ない!

 

インストアイベント(以下インスト)とはアーティストがサイン会、握手会 、ミニライブ、トークショーなどをCDショップなどで行うイベントのこと。主にCDやDVDが発売する際に行われ、該当のCDを買うことでイベントに参加ができる。

 

f:id:eaidem:20170607105145p:plain「超素朴な疑問なんですが、インストって1時間いくらとかでお店を時間貸ししているんですか? それなら、例えば私がインストしたい!って思ったらやれるってこと?」

f:id:eaidem:20170607105118p:plain「時間貸しは基本しないですね。だってインストをやっている最中は、CDを買いに来ただけのお客さんには迷惑をかけることになっちゃう。メリットとデメリットが釣り合ってる必要があるんですよ」

f:id:eaidem:20170607105145p:plain「なるほど。でもインストってアーティストと近づける夢…ありますよね。私も『Raphael』の握手会のためにライカに並んだ18歳の頃を思い出します…。さまざまな種類のインストを行っていると思うんですが、企画するのはお店側なんですか?」

f:id:eaidem:20170607105118p:plain「お店側から企画することもありますが、事務所やアーティスト側から企画してもらう方が多いですね」

f:id:eaidem:20170607105145p:plain「そうなんだ!ライカさんだと、『ベル』の『しまむら私服コーデ対決』とかが話題になりましたよね? 他に、企画力がすごいとか、インストの内容がいつも面白いバンドってありますか?」

f:id:eaidem:20170607105118p:plain「それなら、ダントツで『えんそく』ですね」

 

f:id:eaidem:20170607112112j:plain

『えんそく』公式HP

 

f:id:eaidem:20170607105118p:plain「『えんそく』が過去にうちで行ったインストでも

・ラップ越しキス会
・壁ドン撮影会

この2つは特に印象に残っています」

f:id:eaidem:20170607105145p:plain「う~ん? どちらも、『嬉しいけど、よくありそう』という印象で、特に面白さは感じられないのですが……」

f:id:eaidem:20170607105118p:plain「いやいや、そこが味噌なんです。『ラップ越しキス会』の場合は、参加者が1人1人ブースに入って行うのですが、必ず中から『きゃあ~』という黄色い声があがり後ろに並んでいる方にも聞こえてくるわけです」

f:id:eaidem:20170607105145p:plain「そりゃ、好きなアーティストにラップ越しでもキスなんてされたらぶっ倒れますもん、私なら」

f:id:eaidem:20170607105118p:plain「いや、実際ブースの中で何が行われているかというと、魚の「キス」をもって参加者のホッペにくっつけるという、文字通り『ラップ越しキス会』…ってイベントなんです。歓声というより悲鳴っぽいのが聞こえるような気もしますけどね(笑)」

 

f:id:eaidem:20170609190151p:plain

悲鳴を喜びの声と勘違いし、「本当にキスされてるんだ……」とドキドキするバンギャ達

 

f:id:eaidem:20170607105145p:plain「じゃあ、『壁ドン撮影会』ってのも…まさか…」

f:id:eaidem:20170607105118p:plain「これもブースに入って行うのですが、後ろの壁を『ドン!と鳴らして

アーティストと写真を撮るというイベントです」 

f:id:eaidem:20170607105145p:plain「やっぱりそういうことか…」

f:id:eaidem:20170607105118p:plain「こんな企画、どうやって考えてるのか。いつも『えんそく』はすごいなと感心しています」

f:id:eaidem:20170607105145p:plain「たしかに。あえて行ってみたくなりました(笑)。インストってお店によってイベントや特典が違うから、てっきりお店側が企画しているんだと思ってたけど、アーティスト側で各お店ごとに違うイベントや特典を考えていたりするんだなあ…すごいな…」

 

 

当たり前化するインストアイベントと今後のライカエジソン

f:id:sunwest1:20170512154238j:plainf:id:eaidem:20170607105145p:plainメンバーとの撮影会インストもあると思うんですけど、昔と今で違いとかあるんですか?」

f:id:eaidem:20170607105118p:plain昔は携帯のカメラで撮るのは禁止でデジカメだけ!でしたね。やっぱりV系ですから、美しい写りは重要なので。昔の荒い写真しか撮れない時代は、携帯カメラNGでしたね。懐かしい…」

f:id:eaidem:20170607105145p:plain「たしかに美しさは大事ですよねぇ。私が行ってた頃はたしかにデジカメしかだめ!って言われたことあるわ…。携帯のカメラの性能による違い…時代ですね」

 

f:id:sunwest1:20170512161635j:plain

麗しいV系バンドのポスターたち

 

f:id:sunwest1:20170512150530j:plain

ここまできれいに撮るのは不可能とはいえ、やはりV系バンドは美しく写真に残りたいもの……

f:id:eaidem:20170607105145p:plain「インストなどがより活発になってきたのはいつ頃なのでしょうか?」

f:id:eaidem:20170607105118p:plain「やはり、2010年代になってから増えています。昔はバンドが売れていけばいくほどインストをやらなくなる傾向があったのですが、ありがたいことに今は大きなホールでワンマンライブができるくらい売れても引き続きインストを行ってくれるバンドが多いので、インスト自体がマストになってきている感がありますね」

f:id:eaidem:20170607105145p:plain「アーティストとの距離が近いのは嬉しいことですが、昔の『手の届かない存在』として応援してきた身としては、『そんなに距離が近すぎてもなあ…』と、複雑な気持ちもあります」

f:id:eaidem:20170607105118p:plain「それはあるかもしれませんね。今はTwitterとかでアーティストがリプを返したりすることもあるので、アーティストに対して『友達目線』になっているファンの方が多くなっているのは感じますね」

f:id:eaidem:20170607105145p:plainSNSの発達によって、以前よりもファンとの距離感が縮まっている。それに加えてインストなども増えている、というのが、現在のV系を取り巻く状況なんですね。今後の展開などは考えてらっしゃいますか?」

 

f:id:sunwest1:20170512152223j:plain

f:id:eaidem:20170607105118p:plain「もちろんこれまで通り、インストや特別特典などを積極的にやってくれるバンドは応援し続けます。しかし、インストなどは事情もあって行えないけれども、ただただ良い音楽を作っているバンドっていうのも存在してるんです」

f:id:eaidem:20170607105145p:plain「わかります!!!」

f:id:eaidem:20170607105118p:plain「そういうアーティストにも光を当てて、バンギャやギャ男といった人たちに知ってもらいたいんですね。そんな機会も、今後はさらに増やしていきたいと考えています」

f:id:eaidem:20170607105145p:plain「具体的にいうと、どんな仕掛けを考えていらっしゃるんですか?」

f:id:eaidem:20170607105118p:plain「例えば、ライカエジソン主催で『ライカ・ザ・ライブ』というイベントを各地で行っています」

 

f:id:sunwest1:20170604164454p:plain

f:id:eaidem:20170607105118p:plain「こういった、ライブイベントでもライカならではのアーティストラインナップというのにこだわっています。V系シーンをより盛り上げていくことが、結果としてお店の今後につながるので、様々な仕掛けをどんどん行っていきたいですね」

f:id:eaidem:20170607105145p:plain「やはり、V系専門で20年続けてきたのは、このシーンを愛する気持ちとファンが喜ぶ仕掛け、そして未来への投資を絶えず行ってきた結果なんだなあ…。V系だけでなくすべてのエンタテインメントに通ずる極意かもしれない」

 

f:id:eaidem:20170607183620j:plain

ライカエジソンの松本さん、本日は様々なV系専門店の裏側を教えてくださりありがとうございました!

 

f:id:eaidem:20170607183623j:plain

V系好きにはたまらない空間すぎて取材後もずっとうろうろしていました

 

f:id:eaidem:20170607183621j:plain

ご興味ある方は是非お店にも立ち寄ってみてください!

 

 

 

 

ちなみに今回はおまけとして、松本さんの「俺的V系名盤CD」も教えてもらいました!

X JAPAN「BLUE BLOOD」
Pierrot「パンドラの匣」
Laputa「翔~カケラ~裸」
Dir en grey「GAUZE」
MASCHERA「iNTERFACE」
PENICILLIN「VIBE∞」

ライターひにしも松本さんと同年代だからか、ほぼ所有の名盤揃いでした~~!ぜひ参考にしてCDを購入してみてくださいね! そしてみなさんもV系の沼に足を踏み入れましょう!

 

 

(おわり)

 

▼ひにしあいの他の記事を読む

ライター:ひにしあい

f:id:sunwest1:20160310163647p:plain

本業はSEOの非常勤ライター。好きな本は路線図、好きな音楽はビジュアル系。特技はカラオケ芸。嫌いなものは犬好きを装う女。スクールカーストは常に2軍。女ならではのあるあるを試し続ける人。トゥギャッチやコネタ –Exciteで活動中。個人サイト「hinishi.com」。Twitter ID→@sunwest1 

 


「金がないなら稼げ」元ヒモのマッドサイエンティスト農家が語る人類改造計画

$
0
0

f:id:tmmt1989:20170602164642j:plain

こんにちは、ライターの友光だんごです。本日は編集長の柿次郎とともに、山形県鶴岡市のとある農園にお邪魔しています。

 

というのも、現地の人から「植物の研究をしている面白いおじさんがいる」と教えてもらったのです。

f:id:tmmt1989:20170522114009p:plain「どんな人なんだろう」

f:id:tmmt1989:20170522113636p:plain「『会えばわかります』と言われましたね。ごめんくださ〜い」

 

f:id:tmmt1989:20170602164747j:plain

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「あれ、どうしたの!」

f:id:tmmt1989:20170522113636p:plain「僕たちは東京から来…」

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「おお、俺はここで600種類の野菜を育ててんだよ。あなた顔に覇気がないね? うちの野菜を食えば、すぐに元気100倍だよ」

f:id:tmmt1989:20170522113636p:plain「は、はあ、お父さんは農家を…?」

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「うんにゃ、いろんなところに講演も呼ばれるよ、講演料は50万円だけどな。あとは企業に呼ばれて研究もしたし、このハウスの隣に銀行から金もらってレストランを建てとるんだ。あのな、女性に野菜をな…」

f:id:tmmt1989:20170522113636p:plain「ちょ、ちょっと情報量が多いですね。一回整理しましょう。あと僕たちが何者か名乗っていいですか」

 

f:id:tmmt1989:20170602164811j:plain

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「ん、なに、あんたたち取材の人?」

f:id:tmmt1989:20170522113636p:plain「何だと思ってたんですか。あと変わった帽子ですね」

 

入った瞬間からトップギアだったこちらの方の名は、山澤清(やまざわ・きよし)さん。落ち着いて話を聞いてみると、すごい経歴の方だったんです。なんでも、

  • 20万平米の農場で野菜やハーブを栽培
  • 大企業のハーブ工場やウイスキーの研究所に招かれて働いたことも
  • 日本で唯一、食用ハトの養殖をしている
  • 日本で初めて、化粧品製造業の資格を個人で取得
  • 製造するオーガニック石けんは、皇后さまも使った

などなど…

もらった名刺も「ハーブ研究所SPUR代表」「大日本伝承野菜研究所専務理事」「地域特産物マイスター ハーブ」「株式会社庄内パラディーソ代表取締役」と4枚。いったい何者?

 

脳の処理が追いつかないのでひとまず心の中で「マッドサイエンティスト農家」と名付けさせていただいて、一つ一つ話を伺うことにしました。

 

乳首」から「人類の未来」にまで広がるマッドサイエンティスト農家のめくるめく世界へ、いざご招待します。

 

f:id:tmmt1989:20170613185542j:plain

 

始まりはハーブから  

f:id:tmmt1989:20170602164839j:plain

f:id:tmmt1989:20170522113636p:plain「お父さんの農園は、そもそもどういう風に始まったんですか?」

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「ああ、ハーブが最初だな。まだ日本でハーブを育ててる人がいない頃だよ。まず原書で勉強して、種はヨーロッパから取り寄せたんだ」

f:id:tmmt1989:20170522113636p:plain「相当大変だったのでは…」

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「暇なんだもん。俺ヒモだったからね。暇つぶしだよ」

f:id:tmmt1989:20170522113636p:plain「暇つぶし!」

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「100年続く旅館に婿入りしたんだ。若い頃はヒモに限るよ!」

f:id:tmmt1989:20170522113636p:plain「そんな『ビールは生に限る』みたいに言い切られても。ハーブの話に戻っていいですか」

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「そうだな、ハーブはずっと研究していて、オーガニックの化粧品も作ってる。俺は個人で化粧品の製造業を持ってるんだけど、そんな奴なかなかいないよ。30年前に大臣の許可をもらったんだから」

f:id:tmmt1989:20170522113636p:plain「30年前!」

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「化粧品の製造販売をすれば、製造業はついてくるからね。瓶詰や缶詰の加工業、漬物、惣菜、動物の餌を作る許可も持ってる。あとはうちのハーブを餌にして食用鳩を養殖してるんだ!」

f:id:tmmt1989:20170522114009p:plain「鳩って美味しいんですか?」

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「はー美味いんだから。日本で30年、俺だけだよ食用鳩の養殖は。1羽2500円で高級レストランに卸してるんだ。鳩の糞は土の肥料にして、無農薬の循環型農業ってやつだよ」

f:id:tmmt1989:20170522113636p:plain「無農薬にこだわりがあるんですか?」

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「あのね、土の中の微生物の影響で野菜はできてるの。でも、農薬はその微生物のバランスを崩すの。農業は微生物のおかげでできてんだよ」

 

 

俺は微生物フェチ

f:id:tmmt1989:20170602164923j:plain

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「あ、ちょいと待ってな、マイク着けっから」

f:id:tmmt1989:20170522113636p:plain「ヘッドセットのマイクが出てきた!講演慣れしてる…!」

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「ああ、スピーカーも7つあっからよ」

 

f:id:tmmt1989:20170602164952j:plain

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「よっしゃ、それでなんだっけな」

f:id:tmmt1989:20170522113636p:plain「(この距離だとマイク意味ないな)農業と微生物の話でしたね」

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「ああ、俺は微生物フェチなんだ。35年間実践して、微生物の果てを常にみてる。農業ってのは命をつなぐ『なりわい』なんだけど、それが今壊れてるんだ」

f:id:tmmt1989:20170522113636p:plain「それはどんな風に…」

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「『市場原理』よ。農業そのものは効率がものすごく悪いわけ。それを効率よくたくさん作ろうって、農薬や化学肥料を使うだろ。それが土の中の微生物のバランスを崩して、よくない土になる」

f:id:tmmt1989:20170522114009p:plain「大量生産しようとした結果、痩せた土になってしまうと」

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「そうだな。もう一つは、『こりゃ金になるべ』って同じ作物ばっかり植えるだろ。そうすっと微生物の数種類だけが異常に繁殖して、やっぱりよくない土になんの」

f:id:tmmt1989:20170522113636p:plain「なるほど」

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「だから人間が効率を求めると土が死んで、生産性は下がるの。だから俺は、微生物の多様性を大事にしながら、『未来へ繋がる土』で野菜を育ててるの」

f:id:tmmt1989:20170522113636p:plain「土が痩せると、将来の子供が困るから…」

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「やりすぎると、一瞬でペナルティがくるよ。生産性がなくなっと、少ない食べ物を巡って人は争うだろ。そしていい女を側さ置いて、ブスを追いやって、みんな心さ歪むのよ」

f:id:tmmt1989:20170522114009p:plain「急に女の話になる!(笑)。お父さんの研究って、大学で勉強されてたとか?」

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「全部独学だよ。1日4時間くらいは本読んでるから俺。事業始めたのも30代からだよ」

f:id:tmmt1989:20170522113636p:plain「独学でここまで…」

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「天文学者が星を見ても金になんないだろ、でも地球の生い立ちはわかる。無駄なもんはないのよ。だから学者でもなんでもやりたいことをやればいいよ。そしたら金を出さねえ周りが悪いのよ」

 

 

成功してないけど、失敗もしてない

f:id:tmmt1989:20170602165014j:plain

f:id:tmmt1989:20170522113636p:plain「さっきから気になってたんですが、お父さん、足に何か付けてます?」

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「これね、自分の足が軽すぎるから足に重りつけてんの。2kgずつね。ダークマターが引っ張ってるんだよ俺を」

f:id:tmmt1989:20170522113636p:plain「どういうこと?????」 

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「70のクソジジイだけどよ、1日10時間、重りつけて生活してっから筋肉ボッコボコだよ。まあ、自分ルールを作るってことよ。誰にも相手されないから暇なんだ。愛人でもいればいいけどよ」

f:id:tmmt1989:20170522113636p:plain「わ、ほんとに筋肉すごい。ちょっとまた逸れそうなんで戻しますけど、お父さんの人生についてもっと知りたくて。企業に呼ばれて研究してたっておっしゃってたのはどういうことですか?」

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「ああ、20数年前にセ◯ムに呼ばれて1年間、植物の研究してたの。セ◯ムに野菜を育てる工場があんのよ。そのあとハーブもやってくれってなって、また1年ね。そのあとニ◯カとも組んだよ」

f:id:tmmt1989:20170522113636p:plain「ウイスキーの??」

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「そう、水と香りの研究で、5年間ね。俺は使われるのが嫌いだから気が進まなかったんだけどね、山澤さんしかいないって」

f:id:tmmt1989:20170522113636p:plain「すごいじゃないですか…!」

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「ものを知ってれば役に立つんだな。俺はいらないって言ってんのに金くれてよ」

f:id:tmmt1989:20170522113636p:plain「え、お金ほしくないんですか?」

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「金は無えけど、暮らすのには困んないからね。俺は成功してないけど、失敗もしてないの。そのほうが研究ができるから」

f:id:tmmt1989:20170522114009p:plain「十分、成功してるように見えますけどね。常に新しいことをしてるんですね」

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「そうだな、今は隣のレストランだよ。銀行の出資金や県の補助金ももらってな、温室で作った野菜を食わせるために建てたのよ。すごい金額使ってるよ、女の子に使えばモテモテなのにな」

f:id:tmmt1989:20170522113636p:plain「70になってもモテたいですか?」

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「精神的欲望とよ、肉体的欲望しかないな人間は。みんなプライドが高すぎるのよ。自分はないもんと思って生きればええの」

 

  

種をとって未来へ繋げる

f:id:tmmt1989:20170602165254j:plain

f:id:tmmt1989:20170522113636p:plain「この温室の野菜についても聞きたいんですが、見慣れない名前が多くて」

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「こいつらみんな『在来種』って言ってね、日本に古くからある品種なの。その種を全国から預かって、ここで育ててんのよ」

 

f:id:tmmt1989:20170602165311j:plain

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「これは昔の白菜だよ」

f:id:tmmt1989:20170522113636p:plain「え、スーパーで売ってる白菜って、もっとギュッと詰まった形をしてますよね」

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「それはね、人間が改良した品種なの。たくさん作ってたくさん売れば儲かるから、品種改良して育てやすい一つの品種ばっかり農家が育てるだろ。そうすっと自然界ではペナルティが発生するんだ」

f:id:tmmt1989:20170522113636p:plain「ペナルティ?」

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「1種類しかないと、同じ病気で全部やられちゃうのよ。絶滅しちゃう。じゃがいもでも、バナナでも、何百年も前から起きてることだよ。だからね、多様性っていうのはとても大事なんだよ」

f:id:tmmt1989:20170522113636p:plain「じゃあ、お父さんはここでいろんな種類の野菜を育ててるってことですか?」

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「そうだな、個人でシードバンク(種の保存)をやってるのは日本で俺だけだよ。在来種はどんどん作る人が減ってて、放っておいたら絶滅しちゃう。でもね、例えばこのカブは400年前からある品種なのよ。その種をとって未来へ残すの。それで人の心も残ればいいなあと思ってな」

f:id:tmmt1989:20170522113636p:plain「人の心?」

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「やっぱり浅ましいのはよくねえよ。目先のことばっかりで、邪魔なもん滅ぼしてばっかじゃ。無駄なものなんてねえんだから。俺はここにいる生き物は基本的に殺さないんだよ、ナメクジでも」

f:id:tmmt1989:20170522114009p:plain「正義のサイエンティストじゃないですか!」

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「遊びだよ遊び。遊びに命をかけてんの」

 

 

突然の「乳首上げ計画」

f:id:tmmt1989:20170602165334j:plain

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「あ、これ見なさい、ポールダンスだよ」

f:id:tmmt1989:20170522113636p:plain「温室のなかに!!!??? ポールダンス鑑賞が趣味なんですか???」

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「ぜんぜん趣味じゃない。これは乳首を上げるやつだから」

 

f:id:tmmt1989:20170602165417j:plain

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「ポールダンスやったことある? ピッて乳首が上がるのよ」

f:id:tmmt1989:20170522114009p:plain「『乳首が上がる』って初めて聞きましたよ(笑)。どんだけ弾持ってるんだこの人…」

f:id:tmmt1989:20170522113636p:plain「ついていくのに必死です。えっと、ここの農園に来た人がポールダンスを?」

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「いや、隣に作ってるレストランの客がやるんだよ。レストランの料理はな、この農園の野菜を使うの。味付けはシンプルにしてな、350gの野菜を食べさせるのよ。仕事は忙しいし上司はハゲだし部下はバカだし、そういう女の子に来てもらいてえんだ」

 

f:id:tmmt1989:20170602165445j:plain

f:id:tmmt1989:20170522113636p:plain「ハンモックヨガもある…」

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「そうよ、ポールダンスもヨガもエクササイズ。おいしい野菜をヤギみてえに食って、腸を埋めるだろ。それで運動すっと、体が変わるの」

f:id:tmmt1989:20170522114009p:plain「お父さんの乳首上げ計画すごいですね」

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「こんなポールダンスとかヨガとか農業に関係ないと思うだろ、それが素晴らしい関係があんだな。まっとうな心でない限り、まっとうなものは作れないのよ」

f:id:tmmt1989:20170522113636p:plain「体にいいものを食べて、運動して、健康になろうってことですか?」

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「そうだな、『なにを食べるか』っていうことはとても大事なのよ。化粧品だってそうだよ? 肌につけるもんなんだから。女の人が子供産んだり、未来につなげることを考えてうちの化粧品は作ってっから」

f:id:tmmt1989:20170522113636p:plain「体にやさしいものにこだわってるんですね」

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「そうだよ、皇后さまが前に山形さいらっしゃった時、滞在先で俺の作ってる石鹸を使われたんだから」

f:id:tmmt1989:20170522113636p:plain「さっきまで乳首の話してたのに、落差が激しい…」

 

f:id:tmmt1989:20170602165523j:plain

皇后さまも使われたというオーガニックの石鹸 

  

 マッドサイエンティスト農家の野望とは

f:id:tmmt1989:20170602165536j:plain

f:id:tmmt1989:20170522113636p:plain「この地図に載ってるのが、日本の在来種ですか」

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「そうだよ、みなさんが普段食ってる野菜ってのはよ、F1種っていう1代限りの種。つまり、子供を産まない野菜ってことだな。地球の歴史の中で、子供を産まないものを食った生きものはいないよ」

f:id:tmmt1989:20170522113636p:plain「在来種は生殖能力があるってことですか?」

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「そうだよ、子供ができないって人には、俺はF1種じゃなくて在来種の野菜を食べさせてえんだ。若い人にもな。そしたらみんな元気になるよ」

f:id:tmmt1989:20170522113636p:plain「お父さんがこれだけ元気ですもんね」

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「俺はもうダメだけどな! 食べ物なのよ結局は。そのことを伝えたいわけ」

f:id:tmmt1989:20170522114009p:plain「じゃあ若い人で農家やりたいって人がいたら…」

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「おう、ここ来ればいいよ。継承するよ。これから農業に取り組んで、10年もあれば億万長者になれるよ」

f:id:tmmt1989:20170522113636p:plain「すごい!稼ぎたいな〜」

 

f:id:tmmt1989:20170602165630j:plain

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「なにあなた、金ないの? なんであるようにしないの? 稼げるシステムを作ればいいのよ。自分のことだけ考えちゃダメだよ、作る人も、エンドユーザーも両方幸せになるシステムだよ。そのために実験してるのよ!」

f:id:tmmt1989:20170522113636p:plain「レストラン以外にも稼ぐ計画があるんですか」

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「そりゃもう、2020年のオリンピックに合わせて野菜を作ってるのよ。今の日本ではね、農家が搾取され続けてっから、世界基準の野菜が作れてないの」

f:id:tmmt1989:20170522113636p:plain「じゃあ世界と勝負できる野菜を作ったら、億万長者に」

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「そう! 微生物だからよ、究極は。微生物が人間の未来を作るんだよ。化学物質はたかだか何百年の歴史だけど、微生物は何万年だよ。今は農家が微生物を搾取してるの。土から奪うばかりじゃなく、土が豊かになるように手をかけて返さねえと」

f:id:tmmt1989:20170522114009p:plain「いやあ、お父さんの話は50万円の価値がありますね」

f:id:tmmt1989:20170522113705p:plain「だろ? 女の子連れて来たら5万円引いてやるよ」

 

 

おわりに

f:id:tmmt1989:20170602165722j:plain

いかがでしたか? マッドサイエンティスト農家の小宇宙。

僕は帰ってからお父さんの名前で検索して、出てきたHPを見てもう一度驚きました。いえ、すごい方なのは十分わかってたんですが、お会いした時とのギャップが激しすぎて。

 

女とか乳首とかの話の奥に、とてもとても深い人間の未来についての思想があり、山澤さんはあの山形の温室から世界を変えようとしてるんだと思いました。

 

目に見えない微生物のこと、ふだん口にする食べ物のこと、農業の未来のこと……興味が湧いた方は、山澤さんのレストランと農園へぜひ遊びに行ってみてはいかがでしょうか。

僕も今度は350gの野菜を食べて、ポールダンスして、乳首を上げてこようと思います。 

 

 

 

 ▼伝統野菜とハーブのレストラン「土 遊 農」
住所:山形県鶴岡市羽黒町市野山字山王林121-1
営業時間:11:30〜16:00ラストオーダー
定休日:毎週木曜日(諸事情により変更あり)
メニュー:毎日変わる野菜のワンメニューが男性2200円、女性はいつでもレディースデイで2000円。
ドリンクのみ(桑の葉茶もしくはブレンドハーブティー)は一人300円

 

f:id:tmmt1989:20170603220412j:plain

※現在はプレオープン中。グランドオープンは7月3日を予定。

 

最新情報は「ハーブ研究所」のHPもしくは公式Twitterをご確認ください。

 

 

 

 

 

 

書いた人:友光だんご

f:id:tmmt1989:20170202163058j:plain

編集者/ライター。1989年岡山生まれ。Huuuu所属。犬とビールを見ると駆けだす。Facebook:友光 哲 / Twitter:@inutekina / 個人ブログ:友光だんご日記 / Mail: dango(a)huuuu.jp

写真:小林 直博

f:id:kakijiro:20151217200120p:plain

長野県奥信濃発のフリーペーパー『鶴と亀』で編集者兼フォトグラファーをやっている。1991年生まれ。ばあちゃん子。生まれ育った長野県飯山市を拠点に、奥信濃らしい生き方を目指し活動中。

「ビットコインから物々交換へ」お金の進化が僕らに教えてくれること

$
0
0

f:id:ONCEAGAIN:20170509104436j:plain

こんにちは、ライターの根岸達朗です。

 

みなさんはお金の未来に興味がありますか?

 

興味があるもなにも、今の時代のお金と向き合うのが精一杯だよ! なんて人も多いかもしれません。

 

お金がないとおいしいご飯も食べられないし、住むところも得られないし、余暇を楽しむなんてもってのほか……

 

f:id:ONCEAGAIN:20170525172827j:plain

これがないといろいろ大変なんだからーーーー!

 

と、つい大きな声を出したくなってしまう人もいるでしょう。まあ、わかります。私もそうですから。

 

でも、私たちはこの「円」をお金として使っているだけで、世界にはこうした紙幣や硬貨だけをお金として使ってこなかった文化も、実はたくさんあるんですよね。たとえばこちら。

  

f:id:ONCEAGAIN:20170528044002p:plain

石貨(せきか)。

 

ミクロネシア連邦のヤップ島では「石貨」と呼ばれる巨石がお金として使われていたといいます。

 

この石貨はヤップ島では産出されず、約500キロ離れたパラオで採掘し、石斧で何ヶ月も加工し、いかだで持ち帰っていたそうです。すごい労力。

 

さらにはこんなものも。

 

f:id:ONCEAGAIN:20170528044032p:plain

貝貨(ばいか)。

 

これはメラネシア地域などで使われていた「貝貨」と呼ばれる貝殻のお金です。儀式やお礼など、さまざまな人間関係に用いられたそうです。

 

きれいな貝殻を交換の手段に使うなんてロマンチックですてきだなあ、などと思ってしまうのは、現代社会に毒されすぎている証拠でしょうか。

 

さて、私たち人類は、そんな感じでいろいろなものをお金として使ってきたわけですが、今の時代は「円」や「ドル」などの法定通貨とは異なる「デジタル通貨」という無国籍なお金が、従来のお金に代わる存在になるかもしれないと、大きな注目を集めています。

 

そこで今回は、デジタル通貨の寵児ともいえる「ビットコイン」を取り上げて、これに詳しい研究者と「これからのお金」のかたちを考えていきたいと思います。

  

 

お金の本質に迫るジモコロ的チャレンジ、ぜひ最後までお付き合いください。 

 

それでは始まります。

 

f:id:ONCEAGAIN:20170619154456p:plain

 

話を聞いた人:斉藤賢爾(さいとう・けんじ)

f:id:ONCEAGAIN:20170508130919j:plain

1964年生まれ。「インターネットと社会」の研究者。日立ソフト(現日立ソリューションズ)などにエンジニアとして勤めたのち、2000年より慶應義塾大学SFCへ。デジタル通貨研究の博士で、現在同大学SFC研究所上席所員。福島のこどもたちのために活動する一般社団法人アカデミーキャンプ代表理事。著書はこちら→

  

ビットコインってなんだ?

f:id:ONCEAGAIN:20170509131807j:plain

f:id:tmmt1989:20170530233613p:plain「突然ですが、斉藤先生。最近、未来のお金としてビットコインに関心を持つ人が増えているのですが、はたしてこれはイイものなのでしょうか?」

f:id:tmmt1989:20170530233618p:plain「それについては順を追って説明する必要がありますね」

f:id:tmmt1989:20170530233613p:plain「結論を急いですみません。お金のことになるとつい・・・」

f:id:tmmt1989:20170530233618p:plain「いいんです。私も自分の本に書いたのですが、この通貨は大きな意味では、インターネットと暗号技術を使った社会実験なのです。これからご説明しますので、それを踏まえて、この歴史的な実験に参加するかどうかを決めてみてはいかがでしょうか?」

 


f:id:tmmt1989:20170530233613p:plain「焦りは禁物ということですね…!」

f:id:tmmt1989:20170530233618p:plain「はい。理解を深めた上で、あなた自身が態度を決めるということが大事なのです。少しずつ進んでいきましょう」

 

f:id:ONCEAGAIN:20170509134200j:plain

f:id:tmmt1989:20170530233613p:plain「しかし、先生。少しずつとはいっても、ビットコインをめぐる経済のスピード感は年々増しているようにも思います。これが広まると、世界経済が活性化してみんながハッピーになると期待している人もいるようですが……」

 


f:id:tmmt1989:20170530233618p:plain「どんな新しい技術も、社会のなかで実際に使われながらもまれ、洗練され、私たちの生活を支えるツールとして育っていくというプロセスを経ます。ビットコインもその渦中にあると考えていいでしょう」

f:id:tmmt1989:20170530233613p:plain「特にお金という事柄はみんなの大きな関心ごとですからね」

f:id:tmmt1989:20170530233618p:plain「そうですね。では少しでも安心してもらうために、まず、本質的にお金とはどのようなものなのか、ということからご説明しましょう。根岸さんにおたずねしますが、私たちが使っているこのお金、なぜ使えるのかわかりますか?

f:id:tmmt1989:20170530233613p:plain「え? なぜって・・・」

f:id:tmmt1989:20170530233618p:plain「お金というのはですね、実は、そのお金をほかの人もお金と認めているから使えるんです。たとえば、AさんがBさんから何かを買ったとして、Bさんがその代金を受け取るのは、その受け取ったお金が別の誰かに対しても使えると信じているからです。次の図を見てください」

 

f:id:ONCEAGAIN:20170601095533j:plain

f:id:tmmt1989:20170530233618p:plain「この図でおもしろいのは、お金を受け取るBさんが、お金をくれるAさんを信用するかは問われないのに、未来のある時点で、次にお金を受け取ってくれる誰か知らない人のことは、暗黙に信用しているということです。目の前の相手ではなく、未来の見知らぬ取引相手のことを信じているから、お金は受け取られるのです

f:id:tmmt1989:20170530233613p:plain「おぉ……本質ですね」

f:id:tmmt1989:20170530233618p:plain「お金がお金であるためには、『みんなからそれがお金であると信じられる』という条件以上のものはありませんから、結局はなんだってお金になれるわけです」

f:id:tmmt1989:20170530233613p:plain「なるほど。だから貝や石がお金に成り得たんですね。じゃあビットコインというお金は、今、実社会で少しずつお金として認められつつありますが、これはその条件にかなり近づいてきたともいえるのですか?」

f:id:tmmt1989:20170530233618p:plain「はい。そのデジタルデータをお金としてみんなが認めるようになってきたから、いろんなお店で買い物ができるようになってきたのです」

 

f:id:ONCEAGAIN:20170509132155j:plain

f:id:tmmt1989:20170530233613p:plain「いやあ、すごい。でも、デジタルデータのビットコインって、いってしまえばドラクエの『ゴールド』みたいなものじゃないですか。それがどうして現実世界でも『使えるもの』として世界中に広まったのでしょうか?」

f:id:tmmt1989:20170530233618p:plain「ビットコインがある意味でラッキーだったのは、それが登場したのが、ちょうど従来の通貨への信用がゆらぎはじめる時期と一致していたことなんです」

f:id:tmmt1989:20170530233613p:plain「運用が始まったのは、確か2009年頃でしたね」

f:id:tmmt1989:20170530233618p:plain「そうです。その頃は、リーマン・ショックの影響などで世界経済が混乱し、自国の通貨が信用できなくなる状況が生まれていました

 

f:id:ONCEAGAIN:20170531085111p:plain「信用できないから、自分の資産をビットコインに換えて持っておくという選択が生まれ、それが人々の『損をしたくない』という気持ちと合致し、加速度的に広まったのでしょう。ちなみにこれをつくったのはサトシ・ナカモトという人物です」

f:id:tmmt1989:20170530233613p:plain「日系人ですか?」

f:id:tmmt1989:20170530233618p:plain「わかりません。サトシ・ナカモトという名の集団かもしれません。謎なんです」

f:id:tmmt1989:20170530233613p:plain「謎……」

f:id:tmmt1989:20170530233618p:plain「サトシ・ナカモトは、現在の経済に対して非常にネガティブな考え方を持っていて、旧来型のお金を使っていると、個人の自由が奪われることを懸念したのです。だから自分たちでお金を発行し、国家や銀行を介することなく、個人から個人に対して送金できるような仕組みをつくったと考えられます」

f:id:tmmt1989:20170530233613p:plain「めちゃくちゃアナーキーですね。国家や銀行をすっ飛ばしても成り立つ仕組みをつくるなんて……」

f:id:tmmt1989:20170530233618p:plain自分のお金を誰かに送ることを誰にも止めさせたくないという信念でしょう。たとえば、中央銀行や政府が『今の通貨を公式なものにするのはやめます』といったら、それでもう自分が持っているお金が使えなくなることはあるのです。昨年末、インドではそれが起きて、高額紙幣が突然使えなくなりましたね」

 

 

f:id:tmmt1989:20170530233613p:plain「これはつまり、私たちが信じているお金の価値は、それを発行する中央の力が働けば、いとも簡単に変わることを意味しますよね。サトシ・ナカモトはそれが許せなかったのかなあ……」

f:id:tmmt1989:20170530233618p:plain「はい。だからビットコインでは、そうさせないためにも『どこにも中心がない構造』にする必要がありました。それをブロックチェーンと呼ばれる技術や暗号技術を用いて、かたちにしたのです」

 

<ここまでの要点まとめ>

●お金が「使える」のは、それをほかの人もお金と信じているから

●ビットコインは銀行や国家をすっ飛ばして、個人から個人に送金できる

●ビットコインをつくったサトシ・ナカモトは今の経済にネガティブな考え方を持っている

 

ビットコインは「正しい」のか?

f:id:ONCEAGAIN:20170515145240j:plain

f:id:tmmt1989:20170530233618p:plain「私としては、政府や中央銀行ではない者がお金を自分でつくりだすということには、未来の経済社会を考えるうえで、可能性があると信じています」

f:id:tmmt1989:20170530233613p:plain「確かにある意味では、民主的かもしれないですね。誰でもコインを生み出せるというのは」

f:id:tmmt1989:20170530233618p:plain「はい。でも私は『本当に誰でも対等に扱われるのか』というのは、実は疑問を持っていますし、ビットコインの設計の仕方には、いろいろ問題があるとも思っています」

f:id:tmmt1989:20170530233613p:plain「え、そうなんですか!?」

f:id:tmmt1989:20170530233618p:plain「ビットコインは『採掘(マイニング)』と呼ばれる作業によって、新たなビットコインを掘り起こし、それを自分のものにすることができるのですが、実はその上限が2100万BTCまでと定められているんです」

 

f:id:ONCEAGAIN:20170601095119j:plain

ビットコインの概要図。意味がわからなくてもOKなので、適当に読み進めてください! 

f:id:tmmt1989:20170530233613p:plain「へえ、なんだかゲームのようですね」

f:id:tmmt1989:20170530233618p:plain「この『採掘』は競争的なプロセスで、より高速に計算ができるコンピュータ環境を持っている人が『勝つ』仕組みになっています。ですから、競争が激化している現在は専用のハードウェアを使わなければ、ほんの少しのBTCでも得ることがむずかしいのです」

f:id:tmmt1989:20170530233613p:plain「じゃあ、そういう環境をつくりだすことができる一部の人にビットコインが集中する可能性がある…?」

f:id:tmmt1989:20170530233618p:plain「現にそうなっています。また、そこで採掘されたBTCが、正しく送金元から送金先に移動しているかどうか、データの改ざんがないかどうかを確かめる仕組みが構築されているのですが、これもまた、やろうと思えば壊すことができます

f:id:tmmt1989:20170530233613p:plain「ええ? どうやってですか?」

f:id:tmmt1989:20170530233618p:plain「大量のハードウェアです。ただそれをやるには、ものすごく財力を必要とします。財力があるのならビットコインの仕組みを壊す必要なんてないんじゃないか? と思われるかもしれないのですが」

f:id:tmmt1989:20170530233613p:plain「はい。なんでそんなことをする必要が?」

f:id:tmmt1989:20170530233618p:plain「さまざまな可能性が考えられます。たとえば、ビットコインがアンダーグラウンドに利用される状況が広まることで、国がその仕組みを壊す必要に駆られたらどうでしょうか」 

 

f:id:ONCEAGAIN:20170509133253j:plain

国って結構金持ちなんです。

f:id:tmmt1989:20170530233613p:plain「国……!」

f:id:tmmt1989:20170530233618p:plain「ビットコインがどうなっていくのか、それについてはさまざまな不確定要素がありますが、壊れる可能性のあるものということは知っておいてもいいでしょう」

f:id:tmmt1989:20170530233613p:plain「なるほど。でも今、結構本気でそこに賭けたいと思っている人もいそうですよね…!?」

f:id:tmmt1989:20170530233618p:plain「はい。誰もがビットコインに期待し、その仕組みを維持したいと熱意を抱いていれば、これは誰にも止められないものになるでしょう。ただ、私は今のシステムのままのビットコインに対して、そんな熱意が生まれるのをよいとは思っていません」

f:id:tmmt1989:20170530233613p:plain「どうしてですか? 新しい通貨に可能性はないでしょうか?」

f:id:tmmt1989:20170530233618p:plain「世界中でビットコインを使うのが当たり前になったら、ある面では、今よりも悪い経済社会が訪れると思っています。なぜなら、ビットコインはそれが使われる市場が広がっていくと、常に希少になるように設計されているからです。希少になれば、当然価値も高騰します」

f:id:tmmt1989:20170530233613p:plain「確かに、採掘量には上限がありましたが……」

f:id:tmmt1989:20170530233618p:plain「何をするにもビットコインが必要になっているのに、それが得にくかったらどうでしょうか。持てる者と持たざる者の格差が、今以上に広がることになりませんか?」

f:id:tmmt1989:20170530233613p:plain「………」

f:id:tmmt1989:20170530233618p:plain「希少なビットコインを得るために、現実社会でやらなくてもいいような労働をたくさんしなければならなくなるかもしれません。それは、ビットコインの奴隷として生きることです」

f:id:ONCEAGAIN:20170531085120p:plain「奴隷はいやだ〜」

f:id:ONCEAGAIN:20170531085111p:plain「新しい通貨にできることはあると思いますが、私は今のビットコインとは異なる、別のかたちをつくる必要があると考えています」

 

<ここまでの要点まとめ>

●ビットコインは高速に計算できるコンピュータ環境を持っている人が「勝つ」仕組みになっている
●ビットコインの仕組みを「壊す」のは財力
●ビットコインは「格差」を広げるかもしれない

 

お金のいらない世界がある。それは・・・ 

f:id:tmmt1989:20170530233613p:plain「これまでの話を聞いて、ふと思ったのですが……どうもこれって私たちが普段使っているお金の状況にも似ていませんか? 格差の問題とかまさにという感じがしました」

f:id:tmmt1989:20170530233618p:plain「それはビットコインというものが、現代のお金の延長にあるものだからです。それを今から説明しましょう」

  

f:id:ONCEAGAIN:20170509134750j:plain

(キュッキュッキュ・・・)

 

f:id:tmmt1989:20170530233618p:plain「次の図は、地域通貨研究で有名な森野栄一さんという人から教わった『信用の氷山モデル』というものです。これを見ると、人間はどのような場面でお金を使い、どのような場面ではお金を必要としないのか、信用で成り立っている貨幣経済の基本的な構造がわかります」

 

以下、斉藤さんの著書より引用します。

 

f:id:ONCEAGAIN:20170601095631j:plain 

私たち人間は、生まれてくると、まず最初に、貨幣のない世界で生活をはじめます。それは、家族、あるいはそれに類するコミュニティです。 

 

この図では、貨幣をあつかう取引は、広い意味での人間の経済活動のうち、氷山の一角にすぎず、水面下には広大な信用の世界が広がっています。

 

そのいちばん深いところにあるのが家族です。私たちはみんな、そこからやって来ました。それと接するように、親しい友人たちとの世界があり、それより浅いところには、あまり親しくない友人や知り合いとの関係が織りなす世界が広がっています。地域通貨は、そんな世界のなかで信用を深めていくのに役立つツールです。

 

そして「信用=貨幣」の水面の上では、信用の対象は、人ではなく、むしろ貨幣になります。ビットコインは「(人と社会への)信用ではなく、暗号学的な証明に基づく支払いシステムをつくる」という設計思想を持っていますから、その傾向がもっとも強い種類の貨幣です。

 

引用:『これでわかったビットコイン[生きのこる通貨の条件]』(太郎次郎社エディタス)

 

f:id:ONCEAGAIN:20170509135306j:plain

f:id:tmmt1989:20170530233618p:plain「つまりビットコインというのは、この図におけるまさに頂点にあるのです」

f:id:tmmt1989:20170530233613p:plain「頂点! 極限まで信用のない関係性において使えるお金ということですか?」

f:id:tmmt1989:20170530233618p:plain「はい。でもそれが悪いと言っているのではありません。人には、人間関係が断ち切られている状態でも経済活動をしたい局面があります。現金やビットコインはそのためのツールとして役立ちます。人間関係がなければ交換ができないとなったら、レジの人が入れ替わる現代のコンビニでは買い物ができないということになってしまいます」

f:id:tmmt1989:20170530233613p:plain「そうか、なるほど……」

f:id:tmmt1989:20170530233618p:plain「これはお金自体を信用することによって、相手を見なくてもよくなる、ということでもあります。お金というのは、相手を見なくてもそれが使えるところがすごいのです。その究極形がビットコインですから、図でいえば、私たちはまさにこの頂点にいるといってもいいでしょう」

 

f:id:ONCEAGAIN:20170601095631j:plain 

<ここまでの要点まとめ>

●お金は「信用」を代替するツールである
●人間関係の深さによって、お金の必要性は変わってくる
●ビットコインは人間関係が断ち切られている状態での経済活動に役立つ

 

「貸し借りの歴史」から考える未来

f:id:ONCEAGAIN:20170509132358j:plain

f:id:tmmt1989:20170530233613p:plain「もう行き着くところまで来たという感じがしちゃいますね……。この先、どうなるんでしょう?」

f:id:tmmt1989:20170530233618p:plain「それでいうと私は、人類はこれからものすごい勢いで、下の世界に向かっていくという感覚を持っているんですよ」

f:id:tmmt1989:20170530233613p:plain「え!? 下の世界というと……お金を必要としない世界へ?」

f:id:tmmt1989:20170530233618p:plain「はい、そんな感覚があります。たぶんこれからは…」

 

f:id:ONCEAGAIN:20170509142134j:plain

物々交換の時代になると思います。

f:id:tmmt1989:20170530233613p:plain「ええ!? 物々交換!? シェア経済が広がりつつあるのでわからなくもないのですが……ええ!?」

f:id:tmmt1989:20170530233618p:plain「はい。そう言うと、大昔をイメージする人がいるのですが、これまでに物々交換の時代ってありましたっけ?」

f:id:tmmt1989:20170530233613p:plain「よく習うのは、まず物々交換の時代があって、次に石とか貝とか何らかのものを介して交換をする時代になって、さらに硬貨や紙幣が発明されて、それが便利だからますます経済が発展して、お金がないときでも払える信用貸しも生まれてとか……」

f:id:tmmt1989:20170530233618p:plain「そうですね。そうやって習うことが多いかもしれません。でも、社会全体が物々交換で成り立っていた時代って、そもそもなかったと思うんです。なぜなら、交換をしようと思った瞬間に人は途方にくれるはずだから」

f:id:tmmt1989:20170530233613p:plain「ん〜??」

f:id:tmmt1989:20170530233618p:plain「考えてみてほしいのですが、Aさんが持っているけれどいらないと思っているものが、Bさんは欲しくて、Bさんがいらないと思っているものをAさんが欲しいというようなマッチングが、その時代に起こりえたでしょうか?」

 

f:id:ONCEAGAIN:20170509142656j:plain

f:id:tmmt1989:20170530233613p:plain「んー。確かにインターネットのない時代にそれは……」

f:id:tmmt1989:20170530233618p:plain「貨幣経済の前は、貸し借りの世界だったと思います。人類最古の記録として残されているのは、メソポタミア文明のくさび形文字ですが、そこに書かれていたのは『あいつはこいつにこれくらいの貸しがある。証人は俺(名前)』ですからね」

 

<ここまでの要点まとめ>

●物々交換が経済活動の中心にあった時代はなかったと思われる
●貨幣経済以前は「貸し借り」の世界だったと考えられる

 

消費者が消える・・・!?

f:id:tmmt1989:20170530233613p:plain「じゃあ、物々交換の社会は人類がこれまでに到達したことのない未来ってこと……?」 

f:id:tmmt1989:20170530233618p:plain「はい。とはいっても、今の時代で使っているお金がまったくなくなるわけじゃないでしょう。それは今でいうと贈与経済、つまりお歳暮を送ったりとかの風習が残っているように、お金も残るかもしれません」

f:id:tmmt1989:20170530233613p:plain「あ、そうなんですかね」

f:id:tmmt1989:20170530233618p:plain「でも、お金を使って買い物したんだ? めずらしいね、昔を大事にするんだね、みたいな話にはなると思います」

f:id:tmmt1989:20170530233613p:plain「それって、今から100年後ぐらいの話ですか?」

 

f:id:ONCEAGAIN:20170509143106j:plain

f:id:tmmt1989:20170530233618p:plain30年後かもしれません」 

f:id:tmmt1989:20170530233613p:plain「!!!」

f:id:tmmt1989:20170530233618p:plain「今の世の中のスピード感を考えたら、それもありうるでしょう。じゃあ、そこで何が起こるか。まず、消費者がいなくなります。消費者へのメッセージもなくなるでしょう」

f:id:tmmt1989:20170530233613p:plain「じゃあ、広告が……?」

f:id:tmmt1989:20170530233618p:plain「なくなります。看板もなくなるでしょう。なぜなくなってもいいか。それは必要な交換のマッチングをコンピュータとインターネットと人工知能によって、誰もができるようになっているからです

f:id:tmmt1989:20170530233613p:plain「へええ。たとえば、お米がないなあというときは……?」

f:id:tmmt1989:20170530233618p:plain余っているところから届きます。その人のニーズは何で、余計に持っているのはこの人で、というのがわかるんです。技術的にはもうそれができるようになっています」

 

<ここまでの要点まとめ>

●30年後に物々交換の社会が訪れている可能性がある
●必要な「交換」はコンピュータとインターネットと人工知能によってなされる
●お金は残るかもしれないが、ほとんど使われないかもしれない

   

私たちは今、何に「投資」をすべきなのか?

f:id:ONCEAGAIN:20170516131216j:plain

f:id:tmmt1989:20170530233613p:plain「うーん、SFの世界みたいだなあ……。でも、斉藤先生。どんなにすごい未来が訪れようと、現状ではまだお金というものに、人間の活動が寄りかかっている部分って大きいですよね」

f:id:tmmt1989:20170530233618p:plain「そうですね」

f:id:tmmt1989:20170530233613p:plain「個人の捉え方ひとつなのかもしれないのですが、この過渡期ともいえる時代をよく生きるには、どういう風にお金と向き合っていったらいいと考えますか?」

f:id:tmmt1989:20170530233618p:plain「私は『投資』のためにお金を使うことがいいと思います。それはお金を増やすための投資ではなくて、長らく価値を生み出し続けるものに、自らの資産を投じるという意味での『投資』です」

f:id:tmmt1989:20170530233613p:plain「長らく価値を生み出し続けるもの、ですか?」

f:id:tmmt1989:20170530233618p:plain「そうです。では自分にとって、いちばん長く続くものとはなんでしょうか?」

 

f:id:ONCEAGAIN:20170516131353j:plain

それは自分です。

f:id:tmmt1989:20170530233613p:plain「自分!」

f:id:tmmt1989:20170530233618p:plain「自分にとってもっとも長く続くのは、自分自身です。そして、自分と周囲の関係です。さらにいえば、自分の寿命を超えて生きていく、この星を継ぐ子どもたちです」

f:id:tmmt1989:20170530233613p:plain「まさにそうですね……」

f:id:tmmt1989:20170530233618p:plain「自分を高めるための勉強や経験にお金を使ってもいいでしょう。自分を支えてくれる人や、困っている誰かのためにお金を使っていくこともいいでしょう。どうせお金を使うなら、新たな信用の海に飛び込むために使いましょう。それが投資となって、自分にとって長らく価値を生み続けてくれるはずです」

 

まとめ 

f:id:ONCEAGAIN:20170508130327j:plain

話題のデジタル通貨「ビットコイン」の仕組みから、未来の交換のかたち、そしてこの時代におけるお金との向き合い方にまで、広く話が及んだ今回のインタビュー。

 

お金につい主導権を握られがちな今の世の中で、私たちは何を大切にし、どう生きていくのか。それを決めるのは、ほかならぬ人間としての自分自身であることを、あらためて考えさせてくれる貴重な機会になりました。もしかしたら、むずかしい話もあったかもしれないのですが、みなさんはどう感じましたか? 

 

詳しく知りたくなったら、本を読んでみてください↓

 

ビットコインをめぐるニュースでは、最近はこんなサービスの登場も注目を集めましたね↓

 

実は、今の時代には今回取り上げたデジタル通貨や、円やドルなどの法定通貨とも異なる、もっとアナログ的なお金のかたちも存在します。それが、地域の仲間内で使える「地域通貨」です(斉藤さんが描いてくれたピラミッドの図では、ちょうど真ん中あたりに位置していましたね)。

 

www.e-aidem.com

 

これは、お金を必要としなくなるかもしれない未来への道標になるものだと、私自身は感じています。次回はそれを取り上げて、みなさんと一緒に「これからのお金」について考えていきます。 

  

またお会いしましょう。

 

書いた人:根岸達朗

f:id:ONCEAGAIN:20161209112841j:plain

ライター。発酵おじさん。ニュータウンで子育てしながら、毎日ぬか床ひっくり返してます。メール:negishi.tatsuro@gmail.com、Twitter ID:@onceagain74/Facebook:根岸達朗

 

ブーム再燃か? 使えば使うほど「地元愛が芽生える」―不思議なお金『地域通貨』の話

$
0
0

f:id:ONCEAGAIN:20170516150006j:plain

こんにちは、ライターの根岸達朗です。

 

突然ですが・・・

みなさんは昨日、いくらお金を使いました?

 

えーと、昨日は飲み会があったし、昼は友達とランチしたし、かわいい洋服があったからそれもつい買っちゃって・・・なんて、使えば使うほど、財布のなかからはお金がどんどん消えていきますよね。

 

ほんとどんどん消えるんですよね。不思議だなあ。不思議すぎますよね〜〜。

 

f:id:ONCEAGAIN:20170525172827j:plain

このお金って。

 

まあ、消えた分だけ入ってくればいいのかもしれないんですが、そうしようと思うと、やらなくていいような仕事をたくさんしないといけなくなったりもして、なかなか大変ですよね〜。

 

なんだか、お金に追われているような感覚で、私なんかは疲れてしまうことがあります。

 

なるべく気持ちよくお金を使って、ご機嫌に生きていきたい。それは今の時代、誰もが思うところではないでしょうか。

 

実は、ここにイイものがあります。

 

f:id:ONCEAGAIN:20170508123557j:plain

地域通貨です。

 

なんだそりゃ? という人も多いかもしれないのですが、この地域通貨を上手に使うと、お金に対する考え方が少し変わるかもしれません。お金にとらわれすぎちゃう自分も変えられるかもしれません(私のことです)

  

以下、地域通貨の定義となりますが、むずかしい文章を読むのがめんどくさい人はすっ飛ばしてもOKです。

 

◆地域通貨とは?

1)特定の地域内(市町村など)、あるいはコミュニティ(商店街、町内会、NPO)などの中においてのみ流通する。
2)市民ないし市民団体(商店街やNPOなど)により発行される。
3)無利子またはマイナス利子である。
4)人と人をつなぎ相互交流を深めるリングとしての役割を持つ。
5)価値観やある特定の関心事項を共有し、それを伝えていくメディアとしての側面を持つ。
6)原則的に法定通貨とは交換できない。

引用:重田正美「地域通貨の将来像―スイスの地域通貨「WIR」の事例を参考に―

 

さて今回はそんな地域通貨に注目して、「もうひとつのお金」のかたちについて考えていきます。

 

f:id:kakijiro:20170621121645p:plain

 

お金の本質に迫る、ジモコロシリーズ第二弾。始まります。前回の「未来のお金」の話はこちらからどうぞ。

  

www.e-aidem.com

 

まずやってきたのは、東京・国分寺市

f:id:ONCEAGAIN:20170503184634j:plain

 

ここに「クルミドコーヒー」という、『食べログ』の喫茶部門で1位に輝いたこともある超人気カフェがあります。1位ってヤバくないですか? 実際、めちゃくちゃいいカフェです。

 

f:id:ONCEAGAIN:20170503184728j:plain 

このお店を含む市内の4つの飲食店が中心となり、2012年から運用を始めたのが、地域通貨「ぶんじ」です。

 

f:id:ONCEAGAIN:20170503190143j:plain

 

この地域通貨は「券面式」と呼ばれるタイプ。「ぶんじ」のネットワークに加盟する市内の飲食店や青果店(計26店舗)のほか、各種地域イベントなどで、お金と併用しながら使うことができます。

 

100ぶんじ=100円の目安ですが、これ一枚でラーメンのトッピングを無料にしているお店などもあり、その価値はそれぞれのお店が自由に決められることになっています。

 

f:id:ONCEAGAIN:20170601130409j:plain

 

発行数は1万3千枚(2017年5月現在)。そのうち、約1万1千枚が流通していて、主にFacebookグループで情報を共有している約300人が利用しています。

 

ぶんじを手に入れるには、地域イベントのお手伝いをするとか、地元の農家の作業を手伝うとか、いろんな方法があります。

  

今回はそのぶんじの事務局メンバーで、こちらのお店から生まれた出版事業「クルミド出版」のメンバーである今田順(いまだ・じゅん)さんに、その成り立ちや仕組みについて話を聞いてきました。

  

地域通貨ってなんだ?

f:id:ONCEAGAIN:20170509114000j:plain

f:id:tmmt1989:20170605102943p:plain「今日は地域通貨について、勉強したいと思ってきました。知らないことも多いので、ぜひいろいろと教えてください。早速ですが、地域通貨というのはいつ頃できたものなのですか?」

f:id:tmmt1989:20170605103001p:plain「元祖とされているのは『LETS』というカナダ発の地域通貨で、これが生まれたのは1980年代ですね」

f:id:tmmt1989:20170605102943p:plain「へえ、そんなに前から」

f:id:tmmt1989:20170605103001p:plain「90年代に入るとアメリカで『イサカアワーズ』という地域通貨が生まれて、そのあたりから日本でもポツポツと地域通貨が生まれていくんです。日本で本格的なブームがきたのは1999年あたりかと」

f:id:tmmt1989:20170605102943p:plain「世紀末ですね。きっかけとなるような出来事があったんですか?」

f:id:tmmt1989:20170605103001p:plain「NHKのドキュメンタリー番組『エンデの遺言 -根源からお金を問うこと』で、世界の地域通貨が紹介されたことですね。ミヒャエル・エンデという児童文学作家をご存知ですか? 『モモ』などのベストセラー小説を書いている人なんですが」

 

モモ (岩波少年文庫(127))

モモ (岩波少年文庫(127))

 

 

f:id:tmmt1989:20170605102943p:plain「あ、子どもの頃に読んだ記憶があるかも! 時間どろぼうの……」

f:id:tmmt1989:20170605103001p:plain「ですです。エンデは晩年にお金に対する問題意識を持って、地域通貨の可能性に触れています。その番組を見て共感した人たちが、地域通貨の世界に可能性を感じて飛び込んだんですね」

 

▼こちらはNHKで放送されたドキュメンタリー番組の内容をまとめた一冊。現代のお金の常識を破る考え方や、欧米に広がる地域通貨の試みが紹介されている。興味があれば読んでみてください。

エンデの遺言 ―根源からお金を問うこと (講談社+α文庫)

エンデの遺言 ―根源からお金を問うこと (講談社+α文庫)

 

 

インタビューを続けます。

 

感謝の気持ちを通貨にのせて

f:id:ONCEAGAIN:20170531144804j:plain

f:id:tmmt1989:20170605102943p:plain「ところで、今田さん。『ぶんじ』というのは、どういうところが普通のお金とは違うのですか? 一見すると、割引券のようですが」

f:id:tmmt1989:20170605103001p:plain「裏面を見てもらってもいいですか? ここに実は10個の吹き出しがあって、そこにメッセージが書けるようになっているんですよ」

 

f:id:ONCEAGAIN:20170503190417j:plain

f:id:tmmt1989:20170605102943p:plain「あ、ほんとだ! いろんなメッセージが書いてある」

f:id:tmmt1989:20170605103001p:plain「ぶんじを誰かに渡すときにはメッセージを書くのを一応の原則としています。『ありがとう』『おいしかった』『助かりました』とか、感謝の気持ちが込められたものであればなんでもOKです」

f:id:tmmt1989:20170605102943p:plain「へええ。メッセージを読むと、この『ぶんじ』がいろんな場面で使われたこともわかりますね。みんな書いてくれてます?」

f:id:tmmt1989:20170605103001p:plain「平均して2、3のメッセージが書かれている『ぶんじ』がよく出回っている印象がありますね。10個の吹き出し、全部が埋まっている『ぶんじ』は『コンプリートぶんじ』と呼んでいて、実はそれを集めて展覧会もやったことがあります」

f:id:tmmt1989:20170605102943p:plain「えーおもしろそう。でもなんでメッセージを書けるようにしているんですか?」

 

f:id:ONCEAGAIN:20170509113231j:plain

f:id:tmmt1989:20170605103001p:plain「ここが割引券とは違うところなのですが、僕たちはメッセージを書いてもらうことで、一つひとつの交換に光を当てたいと思っているんです」

f:id:tmmt1989:20170605102943p:plain「光を当てる?」

f:id:tmmt1989:20170605103001p:plain「はい。今の時代って、お金を払ったらサービスを受けるのは当たり前と思うような感覚がありますよね。ラーメン屋さんで食券を買ったら、ラーメンが出てくるのは当たり前というような」

f:id:tmmt1989:20170605102943p:plain「そうですね。それでラーメンが出てくるのが遅かったらイラついたり、それがおいしくなかったら不満を抱いたり」

f:id:tmmt1989:20170605103001p:plain「みんなそうだと思います。でも、お金がなかった時代の物や仕事の交換って、自分が何かをしてもらったら、それに対して何かを返そうというようなかたちで、人と人が気持ちを交換していたと思うのです。貨幣のはじまりの時期には、貨幣と気持ちというのはより親密な距離感を持っていたのではないかと」

f:id:tmmt1989:20170605102943p:plain「気持ちの交換か〜。確かにその方が自然ですし、そうであったと思いたいですよね」

f:id:tmmt1989:20170605103001p:plain「はい。だから僕たちはその交換の場面であえて少し立ち止まって、メッセージを書くことにしています。それによって、本来の交換にはあったと思われる『気持ち』も送りたい。通貨としての円も使いながら、気持ちを送り合うということを楽しみながらやっていきたいと思うのです」

  

循環のキーワードは「農」

f:id:ONCEAGAIN:20170504164251j:plain

f:id:tmmt1989:20170605102943p:plain「気持ちの循環を目指しているということなんですねー。それでいうと、今『ぶんじ』はどのようなかたちで流通しているのですか? お店で使われるということになると、いったんはお店に『ぶんじ』が集まるかたちになると思うのですが」

f:id:tmmt1989:20170605103001p:plain「これはひとつのルートですが、『ぶんじ』は地元農家と連携しているので、飲食店であれば、野菜の仕入れの一部にこれが使えます。なので、まず飲食店からから地元農家さんのところに『ぶんじ』が回ります」

f:id:tmmt1989:20170605102943p:plain「となると、今度は農家さんのところに『ぶんじ』が集まることになります」

f:id:tmmt1989:20170605103001p:plain「はい。農家さんは次にその『ぶんじ』を自分たちの仕事を手伝ってくれた援農ボランティア(※)さんに感謝の気持ちとして渡します。国分寺は都心に近いのですが、比較的農地が残っていて、農業に関心のある人も多い地域だと思います。地元の農業につながる循環というのが、ぶんじの特徴にもなっています」

 

f:id:tmmt1989:20170605141808p:plain

 ※ 国分寺市では他の市に比べ、早い時期から援農ボランティア制度が設立された

f:id:tmmt1989:20170605102943p:plain「地元の農業が元気になるのはいいですよねー。おいしい地場野菜も食べたいですし」 

f:id:tmmt1989:20170605103001p:plain「そうですね。あと、私としては『ぶんじ』を少しでも『円』に近づけて『使える』ものにしたいと思っていて。たとえば、地元で起業をしたい人のスタートアップの資金の一部にできるとか、空き家の改修資金に当てられるようにするとか。地域の暮らしが楽しくなるような使い方がもっと広がるといいなあと思っています」

f:id:tmmt1989:20170605102943p:plain「おお〜それができたら可能性が広がりますね。これからも注目しています! 今日はためになる話をありがとうございました」

f:id:tmmt1989:20170605103001p:plain「こちらこそです。あ、ちょっと待ってくださいね」

 

(おもむろにペンを取り出す今田さん・・・)

 

f:id:ONCEAGAIN:20170601171715j:plain

 

f:id:ONCEAGAIN:20170601170719j:plain

 

100ぶんじゲット!(ありがとうございます!)

 

続いてやってきたのは、旧藤野町

f:id:ONCEAGAIN:20170508123126j:plain

神奈川県北西部の中山間地域にある旧藤野町(現・神奈川県相模原市緑区)。山々に囲まれた人口1万人の小さな町です。

 

旧藤野町は2000年代初頭から芸術振興に力を入れていて、現在はものづくりの担い手や芸術家をはじめ、創造的な教育で知られる「シュタイナー学園」の学校関係者など、さまざまな分野の人材が移住してくる、ちょっとおもしろい地域になっています。

 

f:id:ONCEAGAIN:20170509114549j:plain 

話を聞かせてくれたのは、地域通貨「よろづ」の発起人である池辺潤一(いけべ・じゅんいち)さん

 

先ほどご紹介した「券面式」の地域通貨に対して、こちらの地域通貨は「通帳式」と呼ばれます。その特徴について、話を聞きました。

 

書き込むだけで取引が成立する

f:id:tmmt1989:20170605102943p:plain「池辺さん、今日はよろしくお願いします。先日、券面式の地域通貨を取材してきたのですが、通帳式というものもあると聞きまして」

f:id:tmmt1989:20170605103301p:plain「そうですね。今、日本の地域通貨のほとんどは『券面式』か、この『通帳式』だと思います」

 

f:id:ONCEAGAIN:20170508123557j:plain

2009年から始まった通帳式の地域通貨「よろづ」。世帯ごとに加入し、メーリングリストで情報共有するかたちで、現在は旧藤野町に住む約300世帯(400人くらい)が利用している。

 

f:id:tmmt1989:20170605102943p:plain「どうやって使うんですか?」

f:id:tmmt1989:20170605103301p:plain「暮らしのなかの頼みごとや困りごとを、これを介してやりとりするんです。たとえば、Aさんが『畑仕事をだれか手伝ってくれませんか?』とメーリングリストで呼びかけたとしますよね」

f:id:tmmt1989:20170605102943p:plain「ふむふむ」

f:id:tmmt1989:20170605103301p:plain「メーリングリストは『よろづ』に参加している400人が見ているので、その日に空いてる人はそれに対して『いいですよ』と返事をします。マッチングしたらそれで実際に仕事を手伝うんです」

f:id:tmmt1989:20170605102943p:plain「えー!それだけですか!? 報酬はあらかじめ設定するんですか?」

f:id:tmmt1989:20170605103301p:plain「してもいいですし、しなくてもいいです。『食事+◯◯よろづ』とか、何かの組み合わせで謝礼とする場合も多いですね。1よろづ=1円の目安です」

f:id:tmmt1989:20170605102943p:plain「へえ。通帳はどうやって使うんですか?」

f:id:tmmt1989:20170605103301p:plain単純に書き込むだけですね。たとえば、畑仕事を『1000よろづ』で頼んでいたとしたら、手伝った方は『プラス1000よろづ』、手伝ってもらった方は『マイナス1000よろづ』と記入します。最後にお互いの通帳を交換してサインして終わりです」

 

f:id:ONCEAGAIN:20170508125131j:plain

<これまでの取引例>

・2週間旅行に行くので、花に水をあげてほしい

・インフルエンザで動けないので、子どもの面倒をみてほしい

・いらなくなったバスケットゴールを誰か引き取ってほしい

・ソフトバンクの電波がどこまで届くのか教えて欲しい

・クルマの運転ができないので、誰か送迎してほしい

...etc 

 

f:id:tmmt1989:20170605102943p:plain「え〜!?  書き込むだけで取引成立ですか!」

f:id:tmmt1989:20170605103301p:plain「はい。これのいいところは、毎回取引のときに相手の通帳が自分のところにくることなんです。そうなると、必然的にその人の別の取引を見ますよね」

f:id:tmmt1989:20170605102943p:plain「はい。こんな取引してたのね、なんて思いそうです」

f:id:tmmt1989:20170605103301p:plain「実はこれって、地域資源の発掘なんですよ。自分の地元にはこんな人がいる、こんなことをしてくれる人がいるというのが、通帳を見るとわかるわけです」

f:id:tmmt1989:20170605102943p:plain「なるほど。そこから新しい頼みごとが生まれたり?」

f:id:tmmt1989:20170605103301p:plain「よくありますね。包丁研いでくれる人がいるんだ? 私もお願いしたい!みたいな感じで。連絡先はみんなで共有していますから、気になる人には直接コンタクトすることもできるんですよ。通帳を介して、どんどん地域の関係性が広がっていくんです」

 

「マイナス」は悪くない

f:id:ONCEAGAIN:20170508125413j:plain

f:id:tmmt1989:20170605102943p:plain「いやあ、すごい仕組み! でも、そうやって誰かに仕事を頼み続けていたら、自分の通帳はどんどんマイナスがかさんでいきますよね。それでいいんですか?」

f:id:tmmt1989:20170605103301p:plain「そこをいかに理解するかが、いわゆるお金から意識的に脱却できるかということだと思うんです。というのも、最初に登録してもらうと白紙の通帳が渡されるわけなのですが、その時点での原資はゼロです。すべての人がゼロスタート」

f:id:tmmt1989:20170605102943p:plain「ふむふむ。そこから仕事をお願いしたり、お願いされたりすると、プラスマイナスがいろいろ動いていくと」

f:id:tmmt1989:20170605103301p:plain「そうです。だから、すべての通帳を一箇所に集めて計算したら、残高の合計はゼロになります。必ず、プラスのぶんだけマイナスがあります。これが、私たちの大切にしているお互いさまのネットワークです」 

f:id:tmmt1989:20170605102943p:plain「お互いさまなのだから、マイナスもあっていいということですか?」

f:id:tmmt1989:20170605103301p:plain「はい。いわゆるお金の感覚だと、マイナスがかさむことは悪いことだとしますが、そうではなくて、地域のなかでは誰かに何かをお願いすることも、誰かを生かす行為ですからそれは貢献です

f:id:tmmt1989:20170605102943p:plain「なるほど〜。でもあんまりマイナスがかさんだら気になっちゃいません?」

f:id:tmmt1989:20170605103301p:plain「そうですね。最初はそれが気になるんです。自分はお願いばかりしているし、誰かの役にも立たなくちゃと。別にしなくてもいいんですけどね」

f:id:tmmt1989:20170605102943p:plain「すごいなあ。自然と地域貢献への意識も高まっていきそうです」

f:id:tmmt1989:20170605103301p:plain「でも結局はこれって、お互いさまの関係が自分のなかで築かれていれば、通帳なんて必要ないんです。だから不思議なことに、使って何年もするとこの数字には意味がないと思えてくる。実際、通帳に書かないで単に助け合っているだけの人たちもいますね」

f:id:tmmt1989:20170605102943p:plain「おおお。じゃあ地域のなかで、真にお互いさまのネットワークが完成したら、この通帳自体がいらなくなる可能性があるんですね。おもしろい〜〜」

 

たった10人からはじまった通貨

f:id:ONCEAGAIN:20170508125652j:plain

f:id:tmmt1989:20170605102943p:plain「ところで、この『よろづ』は『トランジション藤野』という地域活動にも紐付いているそうですが、それというのは?」

 

  

f:id:tmmt1989:20170605103301p:plain「これは限りあるエネルギーに依存しすぎない、真に自立した社会に、地域単位でゆるやかに移行していくための活動です。再生可能エネルギーの発電システムを自分たちでつくったりしています」

f:id:tmmt1989:20170605102943p:plain「確かにエネルギー依存は考えなくちゃいけない問題ですよね。それがなくなったら、生活が立ち行かなくなるのが現実ですし……」

 

f:id:ONCEAGAIN:20170508125824j:plain

f:id:tmmt1989:20170605103301p:plain「僕たちは生活のなかでさまざまなものに依存していて、そのひとつがお金ですよね。その依存から抜け出そうというのが、実は『よろづ』のベースとなっている考え方です」

f:id:tmmt1989:20170605102943p:plain「お金への依存……確実にありますね」

f:id:tmmt1989:20170605103301p:plain「僕もそうでした。でも、僕たちはお金がないと本当に幸せになれないのでしょうか?そういうことを仲間内で考えることからこの地域通貨は始まっていて、実は最初はたった10人で始めたんですよ」

f:id:tmmt1989:20170605102943p:plain「えー10人! そんな少人数から始められるんですね」

f:id:tmmt1989:20170605103301p:plain「それがもう、2〜3か月で60人とかになってどんどん広がっていっちゃった。それで翌年に事務局をつくって、本格的に始めるようになったんです」

f:id:tmmt1989:20170605102943p:plain「それだけみんなの心に響くものがあったんでしょうね〜。脱お金の求心力すごすぎ!」

 

地域通貨の鍵となるデジタルツール

f:id:ONCEAGAIN:20170508130112j:plain

f:id:tmmt1989:20170605102943p:plain「でも、地域通貨って実際始めてもなかなかうまくいかなかったりするって聞いたことがあります。それってどうしてなんですか?」

f:id:tmmt1989:20170605103301p:plain「単純に地域の割引券になってしまったケースもあるとは思うんですが、ひとつに考えられるのは事務局の負担が大きくなりがちなことでしょうね。それを避けるためにも、無理はしないというのは大事で。我々なんて基本的に何もしないですよ(笑)」

f:id:tmmt1989:20170605102943p:plain「えー。それで大丈夫なんですか?」

f:id:tmmt1989:20170605103301p:plain「はい。その代わり、よろづに加入したい人へは、最初にコンセプトをしっかりと説明します。それを理解してもらった上で、グループに入ってもらっています」

f:id:tmmt1989:20170605102943p:plain「なるほど。通帳型ははじめるまでに時間を必要とするんですね。気軽に始められる券面式と違うのはそこなんだ」

f:id:tmmt1989:20170605103301p:plain「そうですね。あと、地域通貨を軌道にのせるには、デジタルツールをうまく使うことも大事だと思います。僕らはあえてメーリングリストというローテクを使っているのですが、これがいいのはやりとりが可視化されるところにあって」

f:id:tmmt1989:20170605102943p:plain「可視化ですか。何かそこにルールみたいなものがあるんですか?」

f:id:tmmt1989:20170605103301p:plain「基本的にこのメーリングリストには、『お願いごと』と『結果報告』だけを投稿してもらうことにしているんです」

f:id:tmmt1989:20170605102943p:plain「ほうほう」

f:id:tmmt1989:20170605103301p:plain「だから誰かの『お願いごと』がしばらく解決されていないというのもわかるんですが、それがあるときに誰々さんに解決してもらいましたというような『結果報告』がされてなんとかなったことがわかる。するとやっぱり、ちょっとホッとするんですよ」

f:id:tmmt1989:20170605102943p:plain「ああ、それが切実なお願いだったりしたら、なおさらかもしれないですね」

f:id:tmmt1989:20170605103301p:plain「それがメーリングリストから最小限に『見える』のがいいんです。今のところ『よろづ』から抜けたい人がいないのは、そこで可視化された地域の人たちの声を、みんなが『いいね』と思っていることにもあるんじゃないかと」

f:id:tmmt1989:20170605102943p:plain「確かにメーリングリストくらいが、丁度いいのかもしれませんね。SNSだとやりとりが活発すぎて追いきれないこともありそうなので。でもいまふと思ったのですが、この仕組みは、藤野という人口密度が低くて、みんな顔見知りみたいな状況に比較的なりやすい土地柄だからうまくいくということもあるんでしょうか?」

 

f:id:ONCEAGAIN:20170508130212j:plain

f:id:tmmt1989:20170605103301p:plain「必ずしもそうではないと思います。都市でも、信頼をどうやって築いていくかということに、しっかりと意識を向けられる人同士が集まるコミュニティであれば、成立するはずです。たとえばマンション通貨でも、会社通貨でもいいでしょうね」

f:id:tmmt1989:20170605102943p:plain「おおお、それはおもしろそう!」

f:id:tmmt1989:20170605103301p:plain「僕たちの地域通貨は、コミュニティをつくることはできないけれど、すでにコミュニティのあるところでは機能します。少人数からでも始められるので、興味があれば実験的に始めてみるのもいいかもしれませんね」

  

まとめ

f:id:ONCEAGAIN:20170602144908j:plain

それぞれに特徴を持った地域通貨のかたち。アプローチは違えど、どちらにおいても共通する目的は「人間関係を深める」ことであり、地域通貨はそのためのツールでもありました。

 

既存のお金は交換の手段として便利です。だから、私たちの経済はこうして発展してきたともいえます。でも、その便利さに絶対的な信頼を置いてきたがゆえに、そこから逃れることもむずかしくなってしまったのが現実です。

 

それだけにとらわれることが、私たちの暮らしから自由を奪っているのだとしたら、そもそものあり方を考え、別の可能性に目を向けることも、これからの時代をよく生きていくためには大切なことなのかもしれません。

 

www.e-aidem.com

 

お金のあり方を考えるジモコロシリーズはこれにて終了します。

 

またどこかで、お会いしましょう。

  

書いた人:根岸達朗

f:id:ONCEAGAIN:20161209112841j:plain

ライター。発酵おじさん。ニュータウンで子育てしながら、毎日ぬか床ひっくり返してます。メール:negishi.tatsuro@gmail.com、Twitter ID:@onceagain74/Facebook:根岸達朗

 

【号外】ジモコロフリーペーパー最新作が出ます

$
0
0

f:id:kakijiro:20170619011933p:plain

号外〜!号外〜!

2017年7月上旬頃、ジモコロのフリーペーパー最新作が出ます!!

 

「出ます」と言っても相変わらずの手弁当スタイル。関係性のある本屋さん、雑貨店、ゲストハウスなど、限られた部数を配送して、店舗に置いてもらう予定です。

 

さらに今回から「LOCAL POP PAPER」(略称:LPP)というシリーズ名で展開。「ローカルをポップに伝えたい」という想いを込めています。紙モノの制作は楽しいので、フリーペーパーに限らずこのシリーズで作っていきたい!

 

www.e-aidem.com

前回のド派手な新聞サイズではなく、今回はコンパクトなB5サイズかつ、手元に残しておきたくなるようなデザインと紙質にこだわっています。

採算度外視!泣くのはスポンサーのアイデムさん!

ジモコロ読者はもちろん、ジモコロをぜんぜん知らない人にも「なんだろ、これ?」と手を伸ばしてもらえたら嬉しいなーと。紙ならではの”偶然性”を演出できれば最高です。

 

f:id:kakijiro:20170619012012p:plain

そして現時点での配布先は以下の通り。東京は結構埋まったので、ローカルで良いコミュニティを作っている本屋、カフェ、ゲストハウスなど、ジモコロのフリーペーパーを置いてもいいよ!って人はお問い合わせフォームからご連絡ください。編集長の柿次郎本人に直接連絡しても問題ありません。

 

▼配布先(予定)※2017年06月23日時点 追記していきます

・東京都 神楽坂「かもめブックス

・東京都 東小金井「ONLY FREE PAPER

・東京都 蔵前「Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE

・東京都 五反田「コワーキングスナック CONTENZ分室

・東京都 渋谷「HMV&BOOKS TOKYO

・長野県 信濃町「ゲストハウスLAMP

・大阪府 心斎橋「スタンダードブックストア

・和歌山県 「本屋PLUG

 

▼刊行記念イベント(予定)※2017年06月23日時点 追記していきます

・7月19日(水)スタンダートブックストア心斎橋店

f:id:kakijiro:20170623095322p:plain

 「のんびりおじさん、ジモトをヒラク!」藤本智士×徳谷柿次郎×小倉ヒラク

 

さらにジモコロフリーペーパー刊行イベントもやっていきます。

一発目は編集者の大先輩・藤本智士さん、そしてジモコロでも何度もお世話になっている発酵デザイナーの小倉ヒラクくんとトリプルリリースイベントをやります。

 

藤本さんの新著『魔法をかける編集』は、ライター、編集者はもちろん、企画・広告に関わる人必見の内容です。大阪に魂を置いていく覚悟なので、みなさんぜひ遊びに来てください。

また、ジモコロ主催の初イベントも開催予定!お楽しみに!

 

徳谷 柿次郎

f:id:kakijiro:20170530121855j:plain

株式会社Huuuu代表取締役。ジモコロ編集長として全国47都道府県を取材したり、ローカル領域で編集してます。趣味→ヒップホップ / 温泉 / カレー / コーヒー / 民俗学など Twitter:@kakijiro / Facebook:kakijiro916 Mail: kakijiro(a)gmail.com

 

ロシアの夫とハラショー日本「和菓子作りとロシアのケーキ」

$
0
0

f:id:eaidem:20170412180941p:plain

 

東京で生活するマンガ家・シベリカ子が、夫のロシア人男性・P氏と共に、日本をレポートします。料理や文化など、ロシア人から見た日本や東京を、優しい絵柄でのんびり切り取りますよ!

きっとハラショー(素敵)なニッポンが待っている……?

 

f:id:eaidem:20170411142715p:plain

f:id:eaidem:20170626102626j:plain

f:id:eaidem:20170626102641j:plain

f:id:eaidem:20170626102655j:plain

f:id:eaidem:20170626102710j:plain

f:id:eaidem:20170626102727j:plain

f:id:eaidem:20170626102742j:plain

ロシアの夫とハラショー日本|一覧

 

 

●シベリカ子の単行本情報

おいしいロシア (コミックエッセイの森)

おいしいロシア (コミックエッセイの森)

 

 

書いた人:シベリカ子

f:id:eaidem:20170411132436j:plain

埼玉県出身、東京都在住。漫画家、イラストレーター。ロシア人の夫と1年間ロシアに滞在した時のことを描いたコミックエッセイ「おいしいロシア」で単行本デビュー。
ツイッター:@ShibeRikako
ブログ:シベリカ通信

滋賀県民の言う「琵琶湖の水を止めるで!」……止めるとむしろ大変なことに

$
0
0

f:id:eaidem:20170420175118j:plain

こんにちは、ライターのギャラクシーです。

 

先日、滋賀出身の友人と久しぶりに飲んでまして、冗談で滋賀県を軽んじる発言(滋賀って県庁が湖底にあるんでしょ?など)をしたところ、こんなことを言われたんです。

 

「滋賀をバカにしたら、琵琶湖の水を止めるで!」と。

 

思えば滋賀県民って、関西の他府県民に対して「琵琶湖の水を止める」という脅し文句をよく言う気がします。

※注:僕の周りでは、という話です

 

 

f:id:eaidem:20170420175119j:plain

滋賀県民をイジる→「琵琶湖の水をとめるで!」という流れは、少なくとも僕と友人との間ではよくある光景なんですが、実際に琵琶湖の水を止めるって可能なの?

仮にできたとして、大阪や京都に影響あるの?

 

これ以上 滋賀県民に脅迫されたくないので、琵琶湖の専門家に確かめることにしました。

 

 

f:id:eaidem:20170420175120j:plain

やってきたのは、滋賀県立 琵琶湖博物館。

琵琶湖の調査研究、資料収集、保存活動を行い、その成果を展示している施設です。

 

琵琶湖博物館

住所|〒525-0001 滋賀県草津市下物町1091

開館時間|9:30~17:00

休館日|毎週月曜

観覧料|一般:750円、高校・大学生:400円
※詳しくは公式サイトをご覧ください

 

 

 

f:id:eaidem:20170420175121j:plain

 ひっろ。

 

 

f:id:eaidem:20170420175122j:plain

入ってすぐのロビーから、ゴリゴリに琵琶湖ビューが楽しめます。

ベンチも設置されているので、湖面を眺めながらまったりと読書(金田一少年の事件簿「悲恋湖伝説殺人事件」など)するにはピッタリではないでしょうか。

 

金田一少年の事件簿 File(6) (週刊少年マガジンコミックス)

金田一少年の事件簿 File(6) (週刊少年マガジンコミックス)

 

 

 

館内には膨大な数の資料や展示品、さらに、水族館まであるようです。とても一人では理解できそうもないので、学芸員の方に解説してもらいましょう。

 

f:id:eaidem:20170420175123j:plain

案内してくれたのは総括学芸員の芳賀 裕樹さん。

 

 

琵琶湖ってどんな湖?

 

本題に入る前に、まずは館内を案内してもらいながら琵琶湖についてお聞きします。なぜなら、第一声が「琵琶湖の水って止められます?」だと、テロリストと勘違いされるかもしれないからです。 

 

f:id:eaidem:20170531171126j:plain

 

f:id:eaidem:20170530184400p:plain「琵琶湖って関西に住んでてもあまり知らなかったりするんですが(注:僕は兵庫県出身です)、どういう湖なんでしょうか」

f:id:eaidem:20170530184413p:plain「まず、何はさておき、デカいですよね。博物館の1Fロビーからの景色はご覧になりました?」

f:id:eaidem:20170530184400p:plain「はい! 海かと見紛うくらいの大きさですね! これが琵琶湖かぁ~って感心しました」

f:id:eaidem:20170530184413p:plain「いやいや、あの窓から見えるのは、琵琶湖全体の30分の1くらいですよ」

f:id:eaidem:20170530184400p:plain「え?」

f:id:eaidem:20170530184413p:plain「遠くに白い橋が見えたかと思いますが、あれは琵琶湖大橋と言いまして―」

 

f:id:eaidem:20170530112249j:plain

水平線近く、小さく写っている橋がおわかりになるだろうか

 

f:id:eaidem:20170530184413p:plain「で、全体の地図で見ると、琵琶湖大橋の位置はここです」

f:id:eaidem:20170530144246j:plain

f:id:eaidem:20170530184400p:plain「おわぁぁ!! ごくごく一部しか見えてませんでした! なのにあんなデカいの~!?」

f:id:eaidem:20170530184413p:plain面積が約670.3平方km、一周約235kmありますからね」

f:id:eaidem:20170530184400p:plain「235kmというと、直線距離にすると東京から名古屋近くまでありますね。途方もないわ……」

 

※面積は数字で聞いてもピンとこないと思うので、地図に重ねてみました

f:id:eaidem:20170531202245j:plain

・東京―23区全部を水没させられそう

 

f:id:eaidem:20170531202326j:plain

・大阪―角度をうまく調節したら京都・大阪・神戸の三都を水没させられる?

 

f:id:eaidem:20170531202336j:plain

・愛知―違和感がないというか、「似合ってる」とすら思ってしまいました 

 

f:id:eaidem:20170530184413p:plain全体の平均水深は41.2m最も深いところだと、水深103.52mになります」

f:id:eaidem:20170530184400p:plain「そんなデカいところに水が貯まってるって、想像もつかないですね」

f:id:eaidem:20170530184413p:plain「さらに想像がつかなくなるかもしれませんが、275億トンの水が貯蔵されてます

f:id:eaidem:20170530184400p:plain「275億トン!!!!! ということは、ちょっと待ってくださいね? えーっと、『機動戦士ガンダム』に出てきた巨大モビルアーマー、ビグ・ザムが重量1936トンだから……」

f:id:eaidem:20170530184413p:plain「は?」

f:id:eaidem:20170530184400p:plain「ビグザム1420万体分! すごーーーい! 完全に連邦に勝てますよ!!」

f:id:eaidem:20170530184413p:plain「はぁ、ありがとうございます……?」

 

1/550 MA-08 ビグ・ザム (機動戦士ガンダム)

1/550 MA-08 ビグ・ザム (機動戦士ガンダム)

 

 

 

f:id:eaidem:20170531171820j:plain

最大水深103.52mといえば、30階建てのマンションがすっぽり入るくらいの深さ

 

f:id:eaidem:20170530184400p:plain「琵琶湖は日本人なら誰もが知る最大の湖ですが……では、2位の湖は?」

f:id:eaidem:20170530184413p:plain大きさで言うと霞ヶ浦(茨城県~千葉県)ですね。ただ、霞ヶ浦は水深が平均3.4mしかないので、水量で言うと支笏湖(北海道)の方が断然上です」

 

▼琵琶湖

面積:670.3km2、平均水深:41.2m、貯水量:27.6km3

▼霞ヶ浦

面積:167.6km2、平均水深:3.4m、貯水量:0.6km3

▼支笏湖

面積:78.4km2、平均水深:265.4mm、貯水量:20.8km3

※出典:理科年表|貯水量は、面積×平均水深=容積で計算したものです

 

f:id:eaidem:20170531175659j:plain

湖の面積と水量をブロックで表現したモデル

 

f:id:eaidem:20170530184400p:plain「比較すると、琵琶湖……圧倒的ですね」

f:id:eaidem:20170530184413p:plain「日本では1450万人が琵琶湖の水を使ってますからね。これくらい大きくないと」

f:id:eaidem:20170530184400p:plain「10人に一人が琵琶湖の水を飲んでるわけですね。こんなに便利な貯水場所があるなんて、なんだか人間にとって都合が良すぎるような気もします」

f:id:eaidem:20170530184413p:plain「そうですねぇ。水を貯めるならダムという手もあるんですけど、琵琶湖の貯水量は、ダムとはケタがあまりにも違うんです」

f:id:eaidem:20170530184400p:plain「いや、ダムも大概でっかいのでは? ちょっとググってみていいですか? えーっと国内最大級のものだと貯水量6億m3以上あるみたいです。……あれ? 琵琶湖っていくらでしたっけ」

f:id:eaidem:20170530184413p:plain琵琶湖は275億m3です。ね? 比較にならないでしょ。水に関して、関西は恵まれすぎていると思いますよ」

f:id:eaidem:20170530184400p:plain「そんなこと聞いたら、東京に戻った時に『おいおい、川しかないのに、水は足りるのか?』って心配になっちゃうじゃないですか……」

  

 

琵琶湖の水って止められるの?

f:id:eaidem:20170420175124j:plain

では、ここからはいよいよ本題、「琵琶湖の水を止めるで!」は可能なのか、聞いていきます。

 

f:id:eaidem:20170530184400p:plain「僕には滋賀出身の知り合いが数人いるんですが、共通する特徴として『琵琶湖の水、止めるで!』ってよく言われるんです。これ、滋賀の人は全員言うことなんですか?」

f:id:eaidem:20170530184413p:plain「あぁ(笑)。全員とは言わないまでも、私も何度か聞いたことがありますね。自分では言ったことがありませんけど」

f:id:eaidem:20170530184400p:plain「まずお聞きしたいんですが、それは……」

 

f:id:eaidem:20170530203547j:plain

「可能ですか?」

 

 

f:id:eaidem:20170530203321j:plain

「……………」

 

f:id:eaidem:20170601184905j:plain

「無理です」

 

f:id:eaidem:20170530184400p:plain「おぉ、ハッキリと、無理なんですね?」

f:id:eaidem:20170530184413p:plain「絶対無理です。琵琶湖から唯一流れ出ている川は『瀬田川』と言いまして、その川が京都では『宇治川』、大阪では『淀川』と名前を変えます。で、瀬田川の水量を調節する堰(せき)は、滋賀ではなく国が管理してますから、滋賀県の一存ではどうしようもないです」

f:id:eaidem:20170530184400p:plain「ほっ……良かったぁ~!」

f:id:eaidem:20170530184413p:plain「ただし琵琶湖から京都へは、明治時代に作られた『琵琶湖疏水』という水道も引かれています」

f:id:eaidem:20170530184400p:plain「では、そっちを止めれば京都・大阪にダメージを与えることはできるんですね?」

f:id:eaidem:20170530184413p:plain「しかし琵琶湖疏水もやはり、滋賀県だけで勝手にどうこうはできません」

f:id:eaidem:20170530184400p:plain「ということは結局、滋賀県民が『琵琶湖の水を止める』のは不可能ってこと? 仮に滋賀県が独立国家宣言しても……?」

f:id:eaidem:20170530184413p:plain「そんなことあり得ないと思いますが、何らかの手段で琵琶湖の水を完全に止めたとしたら……確かに京都・大阪には大きな影響が出るでしょうね」

f:id:eaidem:20170530184400p:plain「それはどういった……?」

f:id:eaidem:20170530184413p:plain京都で大規模な水不足が発生すると思われます」

f:id:eaidem:20170530184400p:plain「ぐむむ……大阪はどうですか?」

f:id:eaidem:20170530184413p:plain琵琶湖の水を止めた場合、淀川の流量は約3分の1になっちゃう計算ですね。相当困ったことになると思いますよ」

 

f:id:eaidem:20170531180330j:plain

琵琶湖の水を利用しているエリアを、水色の光点で表示したモデル(縦長に切り取られているのでわかりにくいですが、上が琵琶湖、下が大阪湾)。京都、大阪はかなり利用率が高い

 

f:id:eaidem:20170530184400p:plain「終わった……大阪や京都の人間は、『琵琶湖の水を止めるで!』って言われたら、素直に滋賀県民の靴を舐めるしかないんですね」

f:id:eaidem:20170530184413p:plain「ところが、川を止めちゃうと、今度は水が溢れ出して、琵琶湖周辺はあっという間に水没してしまいます」

f:id:eaidem:20170530184400p:plain「!? そうか! 水の逃げ道がなくなって、溜まる一方だと溢れてしまうんだ!」

f:id:eaidem:20170530184413p:plain「琵琶湖から水をどれくらい流すか、という問題は―

▼雨が少ないと……

滋賀=滋賀県でも水を確保しておきたい!

大阪・京都=水が足りなくなるからもっと流してくれ~!

▼雨が多いと……

滋賀=洪水になっちゃうから水を流させてくれ~!

大阪・京都=こっちの川が氾濫するから流さないで!

 ―といった感じのやりとりが、昔から続いてます」

f:id:eaidem:20170530184400p:plain「上流と下流で利益相反があるわけですか」

f:id:eaidem:20170530184413p:plain「そうなんです。大事なのは、下流の人は上流を、上流の人は下流を、互いに思いやろうってことですね」

  

 

世界から見た琵琶湖

 

f:id:eaidem:20170531184212j:plain

 

f:id:eaidem:20170530184400p:plain「ここまでの話で琵琶湖が、国内(特に大阪・京都)に多大な恩恵をもたらしているすごい湖だとわかりました。では、世界的に見ると、どれくらいのポジションなんでしょうか」

f:id:eaidem:20170530184413p:plain世界中に湖は3億4千万あると推定されているんですが、琵琶湖は188番目に大きいです(淡水だけだと129番)」

※2001年時点

f:id:eaidem:20170530184400p:plain「ちなみに世界一大きいのは何という湖なんですか?」

f:id:eaidem:20170530184413p:plainカスピ海(中央アジア~東ヨーロッパ)という塩湖ですね。日本列島とほぼ同じくらいの巨大な面積を誇ります。淡水湖だと最大のものはロシアのバイカル湖です」

 

▼カスピ海

面積:374000km2、平均水深:209m、貯水量:78166km3

▼バイカル湖

面積:31500km2、平均水深:740m、貯水量:23310km3

▼琵琶湖

面積:670.3km2、平均水深:41.2m、貯水量:27.6km3

※出典:理科年表|貯水量は、面積×平均水深=容積で計算したものです

 

f:id:eaidem:20170531184542j:plain

 

f:id:eaidem:20170530184400p:plain「琵琶湖もでかいと思ったけど、まだ上に187もの巨大な湖があるんですね……」

f:id:eaidem:20170530184413p:plain「ただ、湖というのは大きさだけが価値基準ではありません。琵琶湖には、そこにしかいない生物(固有種)がいます。いや、カスピ海やバイカル湖にも固有種はいるんですけど、かなり希少な湖というのは確かです」

f:id:eaidem:20170530184400p:plain「大きいだけがすごさではないと」

f:id:eaidem:20170530184413p:plain『固有種がいる』『10万年以上の歴史がある』、この2つの条件を満たした湖を『古代湖』と言います。古代湖は世界に約30しかありませんから、本当に希少なんです。普通の湖は1万年も経たずに消えてしまいますからね」

 

f:id:eaidem:20170530202331j:plain

琵琶湖が形成された時期は、約400万年~600万年前と言われています。その頃、周辺には巨大な象やワニがたくさんいたんだとか

 

f:id:eaidem:20170530202130j:plain

琵琶湖固有種を僕に見せるために、水族館の窓に乗り出して魚を探してくれる芳賀さんのお尻です

 

f:id:eaidem:20170530201940j:plain

人気のビワコオオナマズは岩陰で寝ていたため、結局見ることはできなかったんですが、こういう形だそう

 

その他の固有種としては、ビワマス(魚類)、ナガタニシ(貝類)、ネジレモ(水草)、ビワコシロカゲロウ(昆虫)など50種以上

※学説によっては「固有種」と 認められていない種類もあります

 

f:id:eaidem:20170530184400p:plain「変なこと聞きますけど、やっぱり琵琶湖より大きい湖……カスピ海やバイカル湖に対してライバル心というか、嫉妬みたいなものはあるんですか?」

f:id:eaidem:20170530184413p:plain「ないですよ(笑)。もともと、湖という存在自体に興味があったからこの仕事をやってるわけで。実際、世界の色んな湖に調査旅行してます」

f:id:eaidem:20170530184400p:plain「では、カスピ海博物館からヘッドハンティングの話が来ても、心は揺らがない?」

※カスピ海博物館が実在するかどうかは知りません

f:id:eaidem:20170530184413p:plain「もちろん! だって琵琶湖が好きですから」

f:id:eaidem:20170530184400p:plain「好きな理由はありますか? 琵琶湖という湖の“良さ”って、何なんでしょう」

f:id:eaidem:20170530184413p:plain変化に富んでいるのが良いですね。南の方は都会的な感じだし、北の方は自然に溢れている。四季があって、景色も生息している生き物も、全然違う」

 

f:id:eaidem:20170531200131j:plain

春の海津大崎の桜。湖岸の4kmにわたり桜並木が続く(以下写真は琵琶湖博物館提供)

 

f:id:eaidem:20170531200454j:plain

湖北、近江舞子海岸。夏には水泳場に

 

f:id:eaidem:20170531200723j:plain

北端の奥琵琶湖パークウェイかわの風景。水平線が丸いのがおわかりでしょうか

 

f:id:eaidem:20170531200938j:plain

こちらは湖南、志那。冬は水鳥が多数飛来します

 

f:id:eaidem:20170530184400p:plain「なんか、嬉しそうに話してくれますね~」

f:id:eaidem:20170530184413p:plain「結局、湖が好きなんですよね。私はこの博物館で23年働いてますけど、これからもきっと『好きだな~』って思いながら働くんだと思います」

f:id:eaidem:20170530184400p:plain「う~ん、素敵なお話! 今日はありがとうございました! では次はプライベートで訪れたいと思います」

f:id:eaidem:20170530184413p:plain「お待ちしております」

 

 

まとめ

 

というわけで、県立 琵琶湖博物館で、琵琶湖のことや、水を止めるとどうなるのか、などを聞いてきましたが、いかがだったでしょうか。

今後、滋賀県民に「琵琶湖の水を止めるで!」と言われたら、「そしたら滋賀県は洪水になっちゃうんだぜ……!」と説得して、やめてもらいましょう。

 

だってそんな争い、雄大な琵琶湖の風景の前には、無意味なのだから……

 

f:id:eaidem:20170530195627j:plain

取材が終わって外に出るとめちゃめちゃきれいな夕焼けでした。最高……

 

 

では最後に、記事に入り切らなかった雑学を披露して締めたいと思います。

 

▼琵琶湖おまけ雑学

・湖の定義

自然のもの=湖、人工のもの=池 ※注:湖沼学での呼称です(ダム湖も湖沼学の定義では池)。ちなみに真ん中まで草が生えていれば沼と呼ぶ。地図上の呼び名としては○○沼となっていることもあるが、湖沼学的には湖だったりする

・機関によって定義が変わる

琵琶湖は、環境省的には「湖」だが、国土交通省的には「一級河川」

・琵琶湖の由来

形が弁才天(七福神のひとりとしても有名)の持っている琵琶に似ていたから

・泳げる

琵琶湖には20箇所くらい水泳場がある。有名なのは、鳥人間コンテストの舞台・松原水泳場など

 

 

(おわり)

 

▼ギャラクシーの他の記事を読む

ライター:ギャラクシー

f:id:eaidem:20150708183337j:plain

株式会社バーグハンバーグバーグ所属。よく歩く。走るし、電車に乗ることもある。Twitter:@niconicogalaxy

【8コマ漫画】木下晋也 『特選!ポテン生活』 (15) - 食前リハーサル/おもしろ3組

$
0
0

 f:id:eaidem:20160628120135p:plain

 

<ポテン生活|一覧>

  

f:id:madmania:20170626150024j:plainf:id:madmania:20170626150025j:plain

 

 

 

f:id:madmania:20170626150026j:plain

f:id:madmania:20170626150027j:plain

  

<ポテン生活|一覧>

 

●「ポテン生活」とは?

ギャグ漫画界の新鋭・木下晋也が描く、の~んびりして、クスッとしてしまう8コママンガ。独特の中毒性から、10巻までの単行本は大きな話題になりました。ジモコロでは、そんな「ポテン生活」から、おもしろかった話を毎月2本、選り抜きでお届けしますよ!

 

 

書いた人・木下晋也

f:id:eaidem:20160322122138j:plain

1980年大阪生まれ。2008年、『ポテン生活』で第23回MANGA OPEN大賞受賞。単行本『ポテン生活』全10巻、『おやおやこども』が好評発売中。Docomoエンタメウィークで『マコとマコト』連載中。木下晋也公式サイト、cakesでもいくつか作品を公開中です。趣味はプロレス観戦。TwitterFacebook

 

ジモコロは求人情報サイト「イーアイデム」の提供でお送りしています


1本200万円の杖が売れる! 国内唯一の専門店「つえ屋」は年商2億円

$
0
0

f:id:yh1123:20170703073706j:plain

ギッチギチの杖に囲まれてこんにちは、おかんです。

ここは京都のとある武器屋。表向きはメジャーな武器を取り扱っていますが、ある合言葉を言うと超怖い顔の店員さんから「……入りな」と言って通される隠し部屋があり、そこにはこのように杖型の強力な武器が所狭しと並べられているのです。

 

嘘です。

 

いまや国民総人口の27%が65歳以上の高齢者である日本。高齢者のマストアイテムである杖でガッポガポに儲けているお店が京都にあるのをご存知でしょうか。

その名も「つえ屋」さん。

何度か店舗の前を通りかかったことがあったので「あの店か〜」とFacebookページを覗いたところ……。

 

f:id:yh1123:20170526181732j:plain

「負けた事に負けるな!!」

 

f:id:yh1123:20170526181758j:plain

「私利私欲から公利公欲!!」

 

f:id:yh1123:20170526181842j:plain

休んだら死んでしまう!!

 

何このパワーワードの連続。

杖の専門店はじめたらえらい皆さんに可愛がっていただいて、よろしおすわぁ〜って感じのはんなりしたお店かなとばかり思っていましたが、どうやら違うみたい。

 

f:id:kakijiro:20170703121153j:plain

気になったので取材をしたところ、ビジネス雑誌もかくやという濃密な仕事人としてのお話が盛りだくさんでした。全ての働きマンたちに読んでほしい!

 

1店舗に何万本の杖?杖だらけの店内

f:id:yh1123:20170703073742j:plain

やってきたのは「つえ屋 京都丸太町店」。市内各所や大阪、東京にもお店を構えるつえ屋さんの実質的な本店です。

 

f:id:yh1123:20170703073802j:plain

中に入ると、空間を埋め尽くさんばかりの杖!

 

f:id:yh1123:20170703074749j:plain

メタリックな杖!

 

f:id:yh1123:20170703074815j:plain

真っ赤な杖!

 

f:id:yh1123:20170703075043j:plain

傘になる杖!

こんなに杖って種類があるもんなの!?と入店から驚きの連続です。めっちゃ儲かってるらしいですけど、実際どんなことして儲けているんだー!?

 

社会貢献からバカ売れショップへ!

f:id:yh1123:20170703075142j:plain

取材を受けてくれたのは代表取締役の坂野さん。

f:id:tmmt1989:20170530223515p:plain「杖の専門店って珍しいですよね。なにがキッカケでお店をはじめたんですか?」

f:id:tmmt1989:20170530222309p:plain「高齢化で伸びしろのある分野だとは思いましたが、なにより『誰もやっている人がいない』というのがキッカケですね」

f:id:tmmt1989:20170530223515p:plain「いわゆるブルーオーシャンってやつだ」

f:id:tmmt1989:20170530222309p:plain「そうそう。でも最初の3年は全然伸びずに不安だらけの日々でした。転機は、難病にかかって目が見えなくなったことですね」

f:id:tmmt1989:20170530223515p:plain「え、坂野さん、目見えていないんですか」

 

f:id:yh1123:20170703090947j:plain

f:id:tmmt1989:20170530222309p:plain「そうですね、視力が0.01くらい、近いところ以外は視界がぼやけています。以前は『売れたらいいや』と受け身の体勢でしたが、発病後はもっと頑張らないと!と奮起しました」

f:id:tmmt1989:20170530222309p:plain「まずは目の見えない人に勇気を持ってもらえるよう、さまざまな種類の杖をそろえることで、ひとつの社会貢献になろうと思いました。そのうち周囲の応援やメディアからの取材が増えて、現在に至ります」

f:id:tmmt1989:20170530223515p:plain「ただの銭ゲバかと思ってたら、いきなり徳の高い話だった」

f:id:tmmt1989:20170530223751p:plain「でもしっかり儲けさせていただいてます!」

 

f:id:yh1123:20170703091020j:plain

f:id:tmmt1989:20170530223751p:plain昨年の年商は2億円越えでしたから

f:id:tmmt1989:20170530222450p:plain「にお……」

 

f:id:yh1123:20170703091053j:plain

ワシなんてこのデニムシャツ、古着屋で1500円やぞ?

f:id:tmmt1989:20170530223515p:plain「こう言っちゃなんですがエエもん食べてそうですね」

f:id:tmmt1989:20170530223751p:plain「ははは!食べてますよ!特にワインが好きですね〜」

f:id:tmmt1989:20170530223515p:plain「清々しくて笑う」

f:id:tmmt1989:20170530223751p:plain「飛行機も先頭しか座りません」

f:id:tmmt1989:20170530223515p:plain「あ、そういえばFacebookのあの画像!飛行機のビジネスクラスの席だ!」

 

f:id:yh1123:20170526190907j:plain

このモフッとしたかたまり、座席だった。

f:id:tmmt1989:20170530223751p:plain「よく気づきましたねえ〜!」

f:id:tmmt1989:20170530223515p:plain「あ、あの『なるほど語録』って何なんですか?」

f:id:tmmt1989:20170530222309p:plain「思いついた標語を記録しているんですよ。365個つくっていずれはカレンダーにしたいですね」

f:id:tmmt1989:20170530223515p:plain「まさかの日めくり。パワーワードにボッコボコにされる予感しかない」

 

f:id:yh1123:20170531181543p:plain

 

 

カラフルな杖から1本●●万の杖まで!つえ屋にない杖はない!?

f:id:yh1123:20170703091203j:plain

店頭にあったかわいい花柄の杖。人気商品のひとつなんですって。

f:id:tmmt1989:20170530223515p:plain「普通こんな派手な柄の杖ってないですよね?」

f:id:tmmt1989:20170530222309p:plain「杖のデザインは僕がしているんですが、目が見えないから自然と派手になってしまったんです。それがたまたまウケた。杖は『目が悪い』や『加齢』を象徴するネガティブなもの、というイメージがありましたが、カラフルで華やかな『持ちたくなる杖』を目指してつくりました

f:id:tmmt1989:20170530223515p:plain「オシャレな杖だったら持つのも楽しくなりそうですもんね」

f:id:tmmt1989:20170530222309p:plain「そうなんです。誰かがついている杖を見たことでお客さんが増え、業績も急成長しました。百貨店でもよく催事をしているんですが、本来、杖は介護用品売り場の商品。うちは化粧品売り場と同じフロアで販売するなど、雑貨と同じような感覚で購入してもらえるような戦略をしています」

f:id:tmmt1989:20170530223515p:plain「なるほど……!ポジティブなイメージを杖に持たせたんですね」

 

f:id:yh1123:20170703091239j:plain

お話をうかがったのは本社の会議室。会議室なのに店と同じくらい杖がいっぱい。

f:id:tmmt1989:20170530223515p:plain「それにしても、すごい量の杖ですね。ちょっと見てもいいですか」

f:id:tmmt1989:20170530222309p:plain「どうぞどうぞ、よかったらビニールも外してご覧になってください」

 

f:id:yh1123:20170703091316j:plain

f:id:tmmt1989:20170530223515p:plain「……これ、螺鈿と漆ですよね。すごくキレイですけど、高そうだなぁ」

f:id:tmmt1989:20170530223751p:plain「それはねえ、130万円

 

f:id:yh1123:20170703091402j:plain

!!!

f:id:tmmt1989:20170530223515p:plain「ビニール外せるかい!!」

f:id:tmmt1989:20170530222309p:plain「こっちのこれは190万円、あれは210万円……」

f:id:tmmt1989:20170530223515p:plain「そんな高い杖、買う人いるんですか!?」

f:id:tmmt1989:20170530222309p:plain「いらっしゃいますよ、高級指向のお客さんは。まだ売り上げが少なかった頃、とあるお客さんに『●●の木はあるか?』と尋ねられたんですが、当時はそんな杖なかったんです。『専門店なのに大した事ないな』と返されて悔しい思いをしました。それからどんどん色々な種類の杖をつくっていったんですよ」

f:id:tmmt1989:20170530223515p:plain「ほげー。どこの世界にも玄人はいるんだなあ」

 

f:id:yh1123:20170703091421j:plain

持ち手を左右に開くと一脚のイスになったりする杖や、

 

f:id:yh1123:20170703091446j:plain

持ち手が犬になっている杖、

 

f:id:yh1123:20170703091515j:plainどこかの民族が持っていそうな杖に、室内でも杖がつける、杖に履かせる靴下のようなアイデアグッズまで。

f:id:tmmt1989:20170530223515p:plain「種類豊富すぎ……」

f:id:tmmt1989:20170530222309p:plain「1万円以下のリーズナブルなものや、コンパクトに折り畳める杖もあります。アルミ、カーボンファイバー、木……。値段や素材、あらゆる種類の杖を網羅するようにしていますね」

f:id:tmmt1989:20170530223515p:plain「だいたいどれくらいの本数があるんですか?」

f:id:tmmt1989:20170530222309p:plain「全店舗合わせて9000種類ほど、約15万本の在庫があります」

f:id:tmmt1989:20170530223515p:plain「なるほど、多すぎてわからん!」

f:id:tmmt1989:20170530222309p:plain「杖の専門店である以上、どんな杖もなくてはいけないと思っています。先述の高級な杖もそうですが、ライトがついている杖、ベルがついていて音が鳴る杖、『こんな杖がほしい』という要望があれば、なんでも作ってきました。買い付けるものもありますが、基本的には自社オリジナルの製品です」

f:id:tmmt1989:20170530223515p:plain「9000種類をオリジナルで生み出すなんて、もはや神の領域」

 

 f:id:yh1123:20170531181627p:plain

 

杖業界のプラダやルイ・ヴィトンになれ

f:id:yh1123:20170703091551j:plain

f:id:tmmt1989:20170530223515p:plain「それだけの数を自社でつくるのは大変じゃないんですか?」

f:id:tmmt1989:20170530222309p:plain「ユニクロさんと一緒ですよ。海外で製造小売して、うちでつけた値段が、業界の値段になっているんです。杖の専門店はうちだけだから」

 

f:id:yh1123:20170703091622j:plain

「うちが100万円と言えば100万円になる」と強気姿勢!

f:id:tmmt1989:20170530223515p:plain「競合他社がいないから、市場価格を自分たちで設定できるんだ」

f:id:tmmt1989:20170530222309p:plain人の物を売っていたらいつまでたってもその値段ですから、生きていけないです。買うか買わないかはお客さん次第ですが、買ってもらえるようなブランドづくりをすればいいんですよ

f:id:tmmt1989:20170530223515p:plain「な、なるほろ……」

f:id:tmmt1989:20170530222309p:plain「プラダやルイ・ヴィトンだって、そのブランドだから買うんです。『つえ屋の杖だから買いたい』というブランドづくりをしてきたからこそ、今日の発展があると思いますね。だからいま、他社が入っても絶対に勝てないですよ」

f:id:tmmt1989:20170530223515p:plain「もしつえ屋さんの隣に同様の専門店ができても?」

f:id:tmmt1989:20170530222309p:plain「はい。社会貢献から幅広いニーズへの対応、独自ブランドのしての戦略。他社の追随はないですね」

 

f:id:yh1123:20170703091645j:plain

これが高みへと上り詰めた「つえ屋」のロゴ!

f:id:tmmt1989:20170530222309p:plain「ちなみに、うちは家電のように保証をつけているんです。杖に保証をつけるなんて他にないでしょう。値段が高いことについて『ブランドです』と言うだけではいけませんから、サービス面の充実もしっかりしています」

f:id:tmmt1989:20170530223515p:plain「今日ってマジでジモコロの取材?カンブリア宮殿とかプレジデントじゃなくて?」

 

店舗は倉庫!在庫をぎっしり抱えて売る戦略

f:id:yh1123:20170703091707j:plain


そんなつえ屋さんですが、お店のなか、なんぼなんでも商品を詰め込み過ぎてるような……。

f:id:tmmt1989:20170530222309p:plain「それはですね、うちは倉庫を兼ねて店舗展開をしているんです

f:id:tmmt1989:20170530223515p:plain「お店が倉庫になっている……?」

f:id:tmmt1989:20170530222309p:plain「在庫が膨大なので、店舗と倉庫が別だとコストがかかります。だから店舗使いできる倉庫で販売しているんですよ」

f:id:tmmt1989:20170530223515p:plain「だから在庫を抱えていても売り上げを伸ばせるのかー!」

f:id:tmmt1989:20170530222309p:plain「そうです。現在、京都市内に7店舗ありますが、年中無休の店舗もあれば予約がないと開けない店舗もあります。どのお店もガラス張りなので店内の杖が視認できるため、閉めていてもつえ屋の看板になるんです」

 

f:id:yh1123:20170703091733j:plain

各店舗の様子は監視カメラの映像をiPadに送って常に見える化。

f:id:tmmt1989:20170530223515p:plain「たしかに杖がギッシリ詰まった空間があれば超目につくわ……!」

f:id:tmmt1989:20170530222309p:plain「そして閉店後でも深夜2時までライトをつけています。夜、暗くなった街につえ屋がパアッと目立って……。これ以上のアピールはないでしょう」

f:id:tmmt1989:20170530223515p:plain「店舗・倉庫・看板……ひとつの空間の活用術がすごすぎる」

f:id:tmmt1989:20170530222309p:plain「その店舗も、近い距離同士で展開しているんです。靴屋の『ABCマート』さんと同じようなやり方ですね。同じものを複数のお店に置かずに散らす。もしA店で在庫がなくても、近くのB店にある在庫を取って来れるでしょ」

f:id:tmmt1989:20170530223515p:plain「ひとつの店舗じゃ在庫すべてを抱えきれないしなぁ。基本的に在庫ってマイナスイメージじゃないですか。でも、つえ屋さんにとって在庫が儲かるカギなんだ」

 

沖縄にも出店!海外も行くぞ!つえ屋は今日も休まない

f:id:yh1123:20170703091758j:plain

敏腕社長の背後にそびえる無数の杖、これが一代でつえ屋を築き上げた努力の結晶やで……!

f:id:tmmt1989:20170530223515p:plain「今後はもっと店舗を増やしていくんですか」

f:id:tmmt1989:20170530222309p:plain「そうですね。3月に大阪、4月に京都でもう1店舗がオープン。北海道はすでに店舗があり、もうすぐ沖縄にも出店します。海外はヨーロッパから展開していきたいと思っています」

f:id:tmmt1989:20170530223515p:plain「ワールドワイド『TSUEYA』の予感!」

f:id:tmmt1989:20170530222309p:plain「海外での展示会は何度もしていますし、最低でも月に1回は海外出張があります。近いうちに海外でオープンするのは間違いないですね」

f:id:tmmt1989:20170530223515p:plain「すごい……!そんなに早歩きで仕事して疲れませんか……?」

f:id:tmmt1989:20170530222309p:plain「うちの経営理念は『経営革新と日々成長し続けること』、『日本の新しい文化を創造する』という2本の柱で成り立っています。 基本的に杖は持ちたくないネガティブな商品ですからね。だからこそ杖を持ちたいものにするという革新を続け、明るい健康的な社会をつくることがミッションです。そしていずれは杖という文化そのものをポジティブなものに変えていきたい。休んでいる暇はありません

 

おわりに

f:id:yh1123:20170703091827j:plain

ガッツある経営理念、がつがつ儲ける気概にあやかりたいショット〜!

難病発症、社会貢献、種類豊富な杖の数々、ユニークなお店の作り方……モリモリの取材でお腹いっぱいだ〜!京都にこんな面白い会社があるなんて全然知らなかった。

みなさん、杖をつくおじいちゃんおばあちゃんの見かけたら、その杖にぜひ注目してみてください。ひょっとしなくても、つえ屋さんの杖かも。

f:id:tmmt1989:20170530223515p:plain「私も仕事を一生懸命頑張ろうって気になりました!坂野さんのお話、超影響力ある〜!」

f:id:tmmt1989:20170530222309p:plain「ありがとうございます。杖が必要な際はぜひ、つえ屋にお越しください」

f:id:tmmt1989:20170530223515p:plain「ちなみに、この縁起が良さそうな金色の杖はおいくらですか?」

f:id:tmmt1989:20170530223751p:plain60万円です

f:id:tmmt1989:20170530223515p:plain「……」

 

 

 

頑張ろう、60万の杖が買えるその日まで……

 

 

 

書いた人・平山(通称:おかん)

f:id:eaidem:20160621180113j:plain

京都の編プロ、合同会社バンクトゥの編集/ライター。兵庫県出身。大学のあだ名「おかん」がそのまま通称に。しかし実態は色々とおっさんに近い。酒場と酒を愛し、将来の夢はスナックのママ。
個人ブログ:おかんの人生飲んだくれ日記/Twitter:@hirayama_okan/所属:合同会社バンクトゥ

 

本当に成立するの?那須どうぶつ王国で「ネコのショー」を見てきた

$
0
0

f:id:fushigishiatsu:20170607093029j:plain

こんにちは! 栃木県出身ライターの斎藤充博です。

 

今日来ているのは那須どうぶつ王国。栃木県が誇る那須という観光地の中にある動物園なのだが、ここは日本でも珍しいネコのショー見ることができるのだ。

 

はたしてネコが本当に人間の言うことを聞くのか?

なぜネコはあんなにもかわいいのか?

おれは来世はネコにはなれないのか?

 

f:id:kakijiro:20170705095734p:plain

いろいろ疑問がわき上がってくるが、まずはネコのショーを見てみたい!

 

これがネコのショーだ

f:id:fushigishiatsu:20170607093317j:plain

ネコのショーは那須どうぶつ王国の一画で行われている、「THE CATS」というイベントだ。これが平日に1回、土日祝日は2回行われているという。

 

どことなく劇団四季っぽいタイトルで心配になるが、あっちは「キャッツ」という名称で、出ているのはネコのマネがメチャクチャ上手なただの人間だ。全くの別物なので、どうか安心して欲しい。

 

f:id:fushigishiatsu:20170607101537j:plain

中に入ると、NHK教育テレビのような身なりのお姉さんが登場。幼児向けの雰囲気が高まってきて不安になってきた。

 

平日の昼間にもかかわらず、家族連れで賑わっている。「本当にネコがショーなんてできるのか」「いやあ、できないでしょう……」なんて声もちらほら聞こえてくる。ああ、やっぱりみんな、不安な中見に来ているんだ。

 

f:id:tmmt1989:20170616115137p:plain「みなさ~~~ん。こんにちは! ネコちゃんって寝てばかりだと思っていませんか? でもネコちゃんは高い身体能力を持っていて、とても頭がいいんです。今日はそんな身近なのに知らないネコちゃんのことを、ぜひ知っていって下さい!」

 

ここで「ケータイの電源はオフ」「カメラのフラッシュ禁止」「急に席を立ったりネコを驚かせるたりする行為の禁止」などの注意事項が伝えられる。

 

f:id:tmmt1989:20170616115137p:plain 「それではみなさん、ネコが好きですか? お返事は元気よく『にゃ~~~ん』でお願いします。まずは会場のお子様と女性の方、いかがですか~~~?」

f:id:tmmt1989:20170618172922p:plainにゃ~~~ん

f:id:tmmt1989:20170616115137p:plain 「ありがとうございました! 続いて男性の方! 期待していますよー。ネコ好きですか? それでは行きますよ~~~」

f:id:tmmt1989:20170616115244p:plain 「にゃーん……」

f:id:tmmt1989:20170616115137p:plain「男性の皆さんありがとうございます。背筋がゾッとしますね! それでは『THE CATS』の始まりです。ネコちゃん、どうぞ~!!」

 

 

f:id:fushigishiatsu:20170607221408j:plain

こんな客いじりの軽いはずかしめを受けながらも、ショーは始まった。

 

f:id:fushigishiatsu:20170607103014j:plain

お姉さんがネコを呼ぶと、ネコが2匹走ってきて、サッと台に乗る。ここでもういきなりびっくりする。ネコって呼ばれたら来るの?

 

f:id:fushigishiatsu:20170619085139j:plain

お姉さんが合図をすると、ネコが立つ。あれ、本当にショーになっているぞ……?

 

f:id:fushigishiatsu:20170607103415j:plain

お姉さんの脚を左右から何度も飛び越えるネコ。なんだかお姉さんが指示しているというよりも、遊具にされているようにも見える。

 

f:id:fushigishiatsu:20170607105258j:plain

ジャンプして輪くぐりまで! これは本当にびっくりしたんだけど、さらに……

 

f:id:tmmt1989:20170616115440g:plain

2匹同時の輪くぐりもこなしている。微妙にタイミングがズレて見えるかもしれないけど、やっているのは、ネコだぞ。そう思うとコンマ一秒のズレも感じられなくなってくる。

 

f:id:fushigishiatsu:20170607105312j:plain

玉乗りをするネコまででてきた。信じられない……!!! 始まる前は不安な雰囲気に包まれていた会場も、大盛り上がりだ。

 

f:id:tmmt1989:20170616115415g:plain

なにかトリックがあるんだろうか。そう思って目をこらしてみるが、正真正銘、ネコが玉乗りしている。ネコ、うたがってすまんかった!!!

 

f:id:fushigishiatsu:20170607123639j:plain

綱渡りもする。

これもすごい! ……と一瞬思ったんだけど、そもそもネコってバランス感覚が優れている動物だ。綱渡りができるのは、当たり前のことかもしれない。そのへんの野良ネコだって、塀の上を器用に歩いているし。

 

そうすると、実は玉乗りだって、ネコの能力があれば、そんなにむずかしくないのかもしれない。

 

ん? ネコにとって、どこからが当たり前にできることで、どこからがすごいことなんだろう?

 

f:id:fushigishiatsu:20170607134608j:plain

ショーの終了後にネコのお姉さんこと、トレーナーの千葉友里さんに聞いてみた。

 

f:id:tmmt1989:20170616172328p:plain「どうしてネコが人の言うことを聞くんでしょうか?」

f:id:tmmt1989:20170616115534p:plain「大前提として、その個体が好きで得意な事をやってもらっています。例えば、玉乗りをする子は、昔からボールを追いかけるのが好きだし、自然と乗ることもあったんです。そこからトレーニングを始めました」

f:id:tmmt1989:20170616172328p:plain「そのトレーニングの仕方というのが想像がつかない……。うまくできたら餌をあげるんですか?」(恐くて聞けないけど、失敗したらこっそりムチでひっぱたいたり?)

f:id:tmmt1989:20170616115534p:plain「トレーニングするときは、ネコのハンティングの本能を引き出すようにしています。ターゲットをネコに適した場所とタイミングで出すんです」

 

f:id:fushigishiatsu:20170607143339j:plain

これがターゲット。

 

f:id:fushigishiatsu:20170607143437j:plain

スッっとネコが無視できないような位置とタイミングでターゲットを出す千葉さん。

f:id:tmmt1989:20170616115534p:plain「ターゲットを捕まえたら、ごほうびをあげます」

f:id:tmmt1989:20170616172328p:plain「『適した場所とタイミング』! 言うのは簡単ですが、むずかしそう……」

f:id:tmmt1989:20170616115534p:plain「トレーナー側の根気は必要ですね(笑)」

 

f:id:fushigishiatsu:20170607143552j:plain

f:id:tmmt1989:20170616172328p:plain「ネコとの接し方で気をつけている事ってありますか」

f:id:tmmt1989:20170616115534p:plain「他の動物でもそうなんですが『絶対に怒らない』ことです。その子ができたことを褒めるだけ」

f:id:tmmt1989:20170616172328p:plain(ムチでひっぱたいたりしていなかった! よかった!)

f:id:tmmt1989:20170616115534p:plain「ただ、褒めると言ってもむずかしいんです。なでたら喜ぶとは限らないし、一緒に遊んだら喜ぶとも限らない」

f:id:tmmt1989:20170616172328p:plain「最終的にはネコの気持ちはわからないんですね……。人間相手の方が、ある意味ラクそうですね」

f:id:tmmt1989:20170616115534p:plain「ネコって頭はいいんですが、気分屋です。指示を聞くかどうかは気分で決めていることもありますね」

f:id:tmmt1989:20170616172328p:plain「ショーの本番で失敗することもありますか?」

f:id:tmmt1989:20170616115534p:plain「ネコって集中していられる時間が短いんです。たとえば、お子様が持っているおもちゃを落としてしまうと、そっちを見てしまう。虫が一匹入ってきたら、虫を追いかけてしまいます」

 

f:id:fushigishiatsu:20170607222957j:plain

f:id:tmmt1989:20170616115534p:plain「でも、許せちゃう空気がネコにはありますよね。そういうところが、私は好きです」

f:id:tmmt1989:20170616172328p:plain「確かに。失敗パターンも見たいです」

 

f:id:fushigishiatsu:20170607143817j:plain

f:id:tmmt1989:20170616172328p:plain「ちなみに、千葉さんの好きな動物は?」

f:id:tmmt1989:20170616115534p:plain「私は元々犬派だったんですが、ネコのショーのトレーニングをするうちにネコ派になりました。ネコ、かわいいですよね」

 

なるほど。話をまとめると、そもそもネコができることをやっていて、言うことを聞かないこともあるのか。

見ている分にはかわいいけど、ぼくがトレーナーだったら、ネコのことを嫌いになっている可能性が高い。トレーナーをやりながらネコを好きになっている千葉さんはすごいな……。

 

那須どうぶつ王国は人間と動物の距離が近い

f:id:fushigishiatsu:20170607145330j:plain

さて、ここでちょっと那須どうぶつ王国の見どころも紹介したい。ネコのショーだけではないのだ。広報の林健さんに案内してもらった。

 

f:id:fushigishiatsu:20170607145650j:plain

f:id:tmmt1989:20170616115833p:plain「一番おすすめしたいのが今年できた『熱帯の森』です。ここには檻がありません。熱帯の生き物を建物の中で放し飼いにしています」

f:id:tmmt1989:20170616172328p:plain「えっ。じゃあ動物に自由に触れちゃうんですか!」

 

f:id:fushigishiatsu:20170607145708j:plain

f:id:tmmt1989:20170616172328p:plain「あっ。触るのはダメなんですね。気をつけないとカメを踏みそうになりますね……」

まるでスーパーマリオみたいだな、と思ったけど言わないでおく。

 

f:id:fushigishiatsu:20170607162243j:plain

この施設、ふつうに通路にカメやら鳥がいる。もちろん優先されるのは人間よりも動物だ。かなり注意深く歩く必要があり、全く落ち着かない。

 

f:id:fushigishiatsu:20170607145939j:plain

でもその分 動物がメチャクチャ近い。たとえば、このナマケモノの毛の流れるような感じ、見ているだけですごく気持ちがいいのだ。

 

f:id:fushigishiatsu:20170607145951j:plain

爪も近くで見ると、鋭くてピカピカしている。もうふつうに取材じゃなくて動物園に遊びに来た人になっちゃっているけど。

 

f:id:fushigishiatsu:20170607145731j:plain

f:id:tmmt1989:20170616115833p:plain「ここ見てくださいよ。苦手な人もいるとは思いますが……」

 

f:id:fushigishiatsu:20170607145742j:plain

f:id:tmmt1989:20170616115833p:plain「コウモリが集まっているんです」

f:id:tmmt1989:20170616172328p:plain「本当にちょっと気持ち悪い! でもかわいさもありますね」

 

うーん。見たいような、見たくないような。悩ましい。こういう入り交じった感覚って、ケージ越しじゃ湧かないかもしれない。

 

f:id:fushigishiatsu:20170607150208j:plain

f:id:tmmt1989:20170616115833p:plain「『カピバラの森』 では自由にカピバラに触ることができますよ」

f:id:tmmt1989:20170616172328p:plain「今までカピバラに触ってみたいなんて思ったことないけど、触れるなら触ってみたい気はする……」

 

f:id:fushigishiatsu:20170607150226j:plain

カピバラ。触れる以前に、ものすごく近い。 なんという穏やかなたたずまいなんだ。

 

f:id:fushigishiatsu:20170607150237j:plain

f:id:tmmt1989:20170616172328p:plain「毛がすごく固いんですね。まるでほうきみたいだ」

f:id:tmmt1989:20170616115833p:plainカピバラは水の中にいることも多いんです。陸に上がったときにすぐに体が乾くように、こういう毛になっています」

 

f:id:fushigishiatsu:20170607150248j:plain

この木で囲まれた部分は「カピバラの休憩エリア」。ここにいるカピバラは触ってはいけない。ちゃんとカピバラのストレスにも配慮されていて安心する。

 

ずっと寝ているのも能力の一つ

f:id:fushigishiatsu:20170607150604j:plain

那須どうぶつ王国・総支配人の鈴木和也さんにも話を聞いてみた。

f:id:tmmt1989:20170616172328p:plain「そもそもどうして『THE CATS』を始めたのでしょうか」

f:id:tmmt1989:20170616120021p:plain「国内でネコのパフォーマンスを見せているところがまず無い、というのがありますね。海外だとサーカスの演目の一つとしてあるのですが」

f:id:tmmt1989:20170616172328p:plain「ノウハウも何もない状況で始められたわけですよね」

f:id:tmmt1989:20170616120021p:plain「そうです。オープン前に1年かけてトレーニングをしたのですが、さんさんたる状況でしたね。これはパフォーマンスとしてお見せできるのかな、という状態だったんです。そこからなんとかオープンできた時は本当に嬉しかったですよ」

f:id:tmmt1989:20170616172328p:plain「やっぱりうまくいかないときがあったんですよね……」

f:id:tmmt1989:20170616120021p:plain「ただ、こちらの考えとしては『ネコに何かをさせる』というイメージでやっているわけではありません。ネコ科の動物って身体能力が高いし、個体ごとの個性が際立っているんです。ずっと寝ている子もいるし、凶暴な子もいる。何にでも興味を示す子もいる。その個性を引き出してお見せしたいなと思っています」

f:id:tmmt1989:20170616172328p:plain「そういえば、ショーの最中にずっと寝ているネコがいました!」

 

f:id:fushigishiatsu:20170607191751j:plain

画像右上のネコ。最初から最後まで、ずっと動かずに寝ていた。たしかにこれは特徴を活かしているな。

 

f:id:tmmt1989:20170616120021p:plain「そうそう。ぜんぜん動かないというのも能力じゃないですか」

 

いいなあ……。ぼくも家で何もしないで寝ている能力を評価してくれる人が欲しい。それがムリなら来世はネコになりたい。

 

ネコとの人の間に信頼関係はあるのか?

f:id:fushigishiatsu:20170607170808j:plain

f:id:tmmt1989:20170616120021p:plain「そうそう、よくお客様から『ネコちゃんとトレーナーの間に信頼関係があるんですね』って言われることがあるんですが、それはちょっと違うと思っているんですよ」

f:id:tmmt1989:20170616172328p:plain「どういうことでしょう」

f:id:tmmt1989:20170616120021p:plain「種としての性質と、個体ごとの個性を活用しながら、トレーニングを進めてゆく。そこで動物がのびのびと動いていると、トレーナーも嬉しい。でも、それが『信頼関係』かというと、違うんじゃないかなあ。そう見えるかもしれませんが。やっぱりネコは気まぐれですよ」

f:id:tmmt1989:20170616172328p:plain「確かに、トレーナーの千葉さんも、最終的にはネコが何を考えているかはわからないみたいでした」

 

ある意味、ネコたちが好き勝手に遊んでいるところを僕たちが見て、感心しているだけなのかもしれない……。トレーナーの人はネコからほとんど遊具みたいに扱われていたし。

f:id:fushigishiatsu:20170607224004j:plain

おわりに

ぼくは動物園に来ると気持ちがすごく穏やかになって、疲れがとれる。なんでそんな風に思えるんだろうと前から疑問だった。

今日少しわかったところがある。多分、生き物が元気にのびのびとしている様子を見るだけで救われるというのがあるんだろう。「THE CATS」のネコたちはみんな元気だった。あれも生き物の見せ方の一つなのだ。

 

f:id:fushigishiatsu:20170607193521j:plain

那須どうぶつ王国は標高が高いところにあって、景色がメチャクチャいいです。風も気持ちよく吹いています。理屈抜きでスカッとするところ。

 

都会でのつまらない雑事に疲れた人に、超おすすめですよ!

 

那須どうぶつ王国からの告知

f:id:fushigishiatsu:20170622093733j:plain

f:id:tmmt1989:20170616115833p:plain「『THE CATS』は、2017年夏にリニューアルします。  お姉さん達の衣装がかわいくなります。もちろんネコ達のパフォーマンスにもご注目ください! ぜひ夏休み中にいらっしゃってください」

www.nasu-oukoku.com

書いた人:斎藤充博

f:id:tmmt1989:20170616120709j:plain

1982年栃木県生まれ。東京で指圧師をやっています。インターネットで記事を書くことをどうしてもやめられない。ツイッター:@3216 / ホームページ:下北沢ふしぎ指圧 / 書いた物まとめ:斎藤充博ライター活動まとめ

【8コマ漫画】木下晋也 『柳田さんと民話』 - 17話「温泉にまつわる民話」

$
0
0

f:id:eaidem:20160404141459j:plain

<柳田さんと民話・一覧>
17

  

f:id:madmania:20170705222257j:plain

f:id:madmania:20170705222258j:plain

 

 

 

<柳田さんと民話・一覧>

 

・1話~10話までをまとめ読みする!

 

●「柳田さんと民話」とは?

ひとり旅を趣味とする男性・柳田久仁夫が、日本各地で地元に伝わる民話を聞き歩く、ユルくておもしろくてためにならない8コママンガです。

 

書いた人・木下晋也

f:id:eaidem:20160322122138j:plain

1980年大阪生まれ。2008年、『ポテン生活』で第23回MANGA OPEN大賞受賞。単行本『ポテン生活』全10巻、『おやおやこども』が好評発売中。Docomoエンタメウィークで『マコとマコト』連載中。木下晋也公式サイト、cakesでもいくつか作品を公開中です。趣味はプロレス観戦。TwitterFacebook

 

ジモコロは求人情報サイト「イーアイデム」の提供でお送りしています

せどりから古本屋で年商16億円!? amazonでよく見る「バリューブックス」の正体

$
0
0

f:id:hitomonji:20170607154009j:plain

本棚からこんにちは、ライターのナカノです。 

 

みなさん本は好きですか?私は大好きです。

ビジネス書も小説もマンガも雑誌もだーいすき!!
 

私は今、本好きにはたまらない場所に来ています。

 

f:id:kakijiro:20170711113241j:plain

本の海だ〜!! 

 

 

f:id:hitomonji:20170607170702j:plain本の山だ〜!! 

 

f:id:hitomonji:20170607164224j:plain大量の本棚で向こう側が見えないぞ〜〜〜!!!! 

 

f:id:hitomonji:20170607170829j:plain

どこを見ても本、本、本

 

こちらは、長野県上田市にある「株式会社バリューブックス」の倉庫です。

 
「バ、バリューブックス…?どこかで聞いたことがあるような…」

という方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 

f:id:hitomonji:20170607164410j:plain

あ、Amazonだ〜〜〜〜!!!!!

 

そう。バリューブックスは個人や法人が商品を出品・販売できる「Amazonマーケットプレイス」の出品者のひとつ。

 

 

twitterでの評判は上々、Amazonでの評価も97%と高評価です。

私もAmazonで古本を買う際にはバリューブックスをよく利用するのですが、注文から到着までが早く、梱包も本の状態がとてもきれい。

 

2017年3月末にはバリューブックス「古本販売時に出版社に対して利益還元 」する取り組みを始めたというニュースを目にしました。

 

 

単なる中古本の売買だけではとどまらないバリューブックスの動き。

気になります。

  

まずは巨大倉庫を案内してもらおう! 

f:id:hitomonji:20170607154528j:plain今回、お話をお聞きしたのは株式会社バリューブックス代表の中村大樹さんです!

中村さんは現在34歳。東京電機大学を卒業後、約2年間せどりで生計を立て、24歳の時に株式会社バリューブックスを設立しました。

 

24歳で起業して、2017年の7月で10年目を迎えるバリューブックス。中村さん、めちゃくちゃ腕利き経営者では?!

 

f:id:hitomonji:20170607154525j:plainお話を聞く前に、倉庫を案内していただきました。

  

f:id:hitomonji:20170607164755j:plain

f:id:hitomonji:20170616205140p:plain「当たり前ですけど、どこを見渡しても本だらけですね…」 

f:id:hitomonji:20170616205133p:plain「全倉庫合わせて、1日に査定のために全国から送られてくる本が2万冊。Amazonから注文された本を1万冊配送しているんですよ!」

f:id:hitomonji:20170616205140p:plain1日で2万冊!本の循環が活発すぎる…」

  

f:id:hitomonji:20170607162837j:plainバリューブックスが所有する倉庫は全部で3つ。
今回訪れたのは、元ホームセンターで900坪の広さを持つ「上田原倉庫」です。
1日6000冊の本が全国のAmazonユーザーに配送されるメインの倉庫なのです!

 

f:id:hitomonji:20170607154515j:plain倉庫内の本には発行日順に番号が振られ、大型、単行本、文庫本の3サイズで分類されています。本棚に並んでいるジャンルは全てまぜこぜ。 

 

f:id:hitomonji:20170607174317j:plain 

f:id:hitomonji:20170616205133p:plain「倉庫内での作業は、大きく分けて査定・出品・配送の3つ。ここでは、査定の業務をしています」

 

f:id:hitomonji:20170607174931j:plain

f:id:hitomonji:20170616205140p:plain「どうやって査定金額を出しているんですか?」 

f:id:hitomonji:20170616205133p:plain「Amazonを参考にしています。このパソコンからAmazonにアクセスして査定金額がでるようになっているんです」

 

f:id:hitomonji:20170607154514j:plainこちらではAmazonへの出品業務中。
効率よく出品できるよう、キータッチひとつで本の状態が入力できる便利なシステムです。

  

f:id:hitomonji:20170607173126j:plain

f:id:hitomonji:20170616205140p:plain「あれ、ここで本の販売も行っているんですか?」 

f:id:hitomonji:20170616205133p:plain「はい、毎週日曜日に倉庫を開放して、本の販売も行っています」

f:id:hitomonji:20170616205140p:plain「単行本は2冊で100円、マンガは4冊で100円…?破格すぎる」

f:id:hitomonji:20170607173456j:plainドラマ化などで話題になった原作本は、ブームが過ぎ去ると手放してしまう人も多い。

 

f:id:hitomonji:20170607165108j:plainマンガは単品の買い取りは作業数が増えてしまうため、基本的にはセットでの査定。

働きたくなくて始めた「せどり」で年商◯◯万?!

f:id:hitomonji:20170607212756j:plain

f:id:hitomonji:20170616205140p:plain「そもそも、バリューブックスはどういった経緯で立ち上げられたんですか?やっぱり本が好きだから…?」 

f:id:hitomonji:20170616205133p:plain「僕、大学卒業して働きたくなかったんですよね…」

f:id:hitomonji:20170616205140p:plain「えっ?」

f:id:hitomonji:20170616205133p:plain「東京の大学に進学して、22歳で卒業したけど就職したくない気持ちが大きくて。卒業は決まったけど食べていくにはどうしようか考えていたんです」

 

f:id:hitomonji:20170607212123j:plain

f:id:hitomonji:20170616205140p:plain「私も大学4年の12月まで就職活動をまったくしていなかったのでなんとなくわかりますが…」 

f:id:hitomonji:20170616205133p:plain「資格もないし、お金もないしで悩んでいた時、ちょうどAmazonが日本に入ってきて認知され始めたころだったんですよ」

f:id:hitomonji:20170616205140p:plain「そのタイミングで本を売り始めたんですか?」

f:id:hitomonji:20170616205133p:plain「はい、当時はまだAmazonマーケットプレイスへの古本の供給が追いついていない状況で。自分が持った本を試しに売ってみたら、すぐに売れて驚きました!」

f:id:hitomonji:20170616205140p:plain「今のメルカリみたいな感覚ですね」

f:id:hitomonji:20170616205133p:plain「そうそう、まさにそういうイメージですね。大学時代の教科書や読んだ本を出品したら、次から次へと売れて。次に本を仕入れるために古本屋チェーン店へ行くようになったんですよ」

f:id:hitomonji:20170616205140p:plain「それって、いわゆる『せどり』ってやつですか!」

 

f:id:hitomonji:20170607212959j:plain

f:id:hitomonji:20170616205133p:plain「そうです。例えば100円コーナーの棚で価値のある本を探す。Amazonで他の中古販売価格を調べて…販売するという流れですね。大学卒業後の2年間は、個人事業主としてせどりをやっていました」 

f:id:hitomonji:20170616205140p:plain「なるほど。価値のある本を見極める知識が必要ですね」

f:id:hitomonji:20170616205133p:plain「安く仕入れて高く売る。商売の基本ですし、トレジャーハンティング的な魅力もありました。でも、店員さんからの冷たい視線もあって精神的に辛かったこともありましたね…(笑)」

f:id:hitomonji:20170616205140p:plain「私のイメージですけど、せどりって苦労の割に稼げないのでは…?」

f:id:hitomonji:20170616205133p:plain
「最終的に稼いだのは年商ベースで8000万円くらいかな」

 

f:id:hitomonji:20170607184809j:plain

f:id:hitomonji:20170616205140p:plain「年商8000万円!?」 

f:id:hitomonji:20170616205133p:plain「その頃になると、友達と5人くらいで本の調達から配送までを行っていましたね」

f:id:hitomonji:20170616205140p:plain「おお!バリューブックスの前身ですね!」 

f:id:hitomonji:20170616205133p:plain「そう。地元・上田市に倉庫を借りて、古本屋で買った本の配送を高校の同級生に手伝ってもらったんですよ」

 

f:id:hitomonji:20170607154519j:plain

せどりをしていた中村さんが目をつけたのが「専門書」

当時中村さんは、古本屋チェーン店が50円や100円で買い取っていた専門書を1000円や2000円で買い取れば差別化できるのでは?と思ったそうです。


店舗での販売だとなかなか需要に結びつかない専門書も、欲しい本を自由に検索できるネット上では需要があるため、高値で買い取ることが可能なのだとか。

 

古本の流通を広げていく

f:id:hitomonji:20170607211656j:plain

f:id:hitomonji:20170616205140p:plain「起業してから10年間、変わらずAmazonに軸足を置いて事業展開されてきたんですか?」

f:id:hitomonji:20170616205133p:plain「販売は今でもAmazonに依存しているところが大きいのですが、本の流通・販売場所に目を向けるようになりました」

f:id:hitomonji:20170616205140p:plain「と言うと…?」

f:id:hitomonji:20170616205133p:plain「流通面でいうと、専門書を出す中小出版社5社の本が売れた時に、売上の33%を出版社に還元するという取り組みです」

f:id:hitomonji:20170616205140p:plain「ニュースで見ましたよ、その取り組み!」

 

 

f:id:hitomonji:20170616205133p:plain「古本の流通で出版社と提携するのは業界で初めてのことなんですよ」

f:id:hitomonji:20170616205140p:plain「提携するのは、どんな5社ですか?」

f:id:hitomonji:20170616205133p:plain「英治出版、アルテスパブリッシング、ミシマ社、夏葉社、トランスビューの5社。読者に長く愛され、書籍を絶版にしないようなコンセプトを持って本をつくる出版社です」

f:id:hitomonji:20170616205140p:plain「愛される本をつくる出版社に古本の売上も還元って、いい循環が生まれていますね…」

f:id:hitomonji:20170616205133p:plain「ベストセラーももちろん素敵なことですけど、長い目線で本づくりをしている出版社と一緒に『短期的に売れたらOK』だけじゃない世界をつくっていきたいよねという話から始まった取り組みなんですよ」

f:id:hitomonji:20170616205140p:plain「本好きだからこその取り組み…」

 

f:id:hitomonji:20170615165957j:plain

 

f:id:hitomonji:20170616205133p:plain「NPOを通じて本の買い取りを行う『charibon(チャリボン)』という取り組みも始めました」

f:id:hitomonji:20170616205140p:plain「NPO!なんだか一気にネットからリアルなつながりに…!」

f:id:hitomonji:20170616205133p:plain「資金調達をおこなっていかなければいけないNPOですが、『支援金お願いします!』の呼びかけばかりだと疲れてしまいます」

f:id:hitomonji:20170616205140p:plain「確かに、お金お金言うのは嫌になってきそう」

f:id:hitomonji:20170616205133p:plain「そこでお金の代わりに、NPOの方々に古本の寄付を募っていただきます。集まった古本の査定相当額をNPOの活動資金として還元する取り組みを始めました」

f:id:hitomonji:20170616205140p:plain「なるほど!古本だとNPOの方々も気負いせず、呼びかけやすいですね」

 


  

さらに2015年には、上田市内にブックカフェ「BOOKS & CAFE NABO」を立ち上げました。店内に並ぶのは、もちろんバリューブックスが取り扱う古本。

 

f:id:hitomonji:20170607185700j:plain 「古本屋を開業したい!」と古本の卸の相談を受ける機会が増えた中村さんが、古本の販売をネット上からリアルな場所へ広げる実験の場でもあります。

 

f:id:hitomonji:20170607183443j:plain毎日イベントの開催をおこなったり、パンの販売をおこなったりすることで、地域の人が足を運び、本との関わりを持つ工夫も施されています。

 

他にも、

  • 買い取れなかった本の一部を老人ホームや児童館などの施設に寄付する『book gift project』
  • 古本屋の開業へのアドバイス
  • ブックバスを購入して、本屋や図書館のない地域を廻る

など、バリューブックスではネットの販売を超え、本に関わる実験を数々行っています。

 

スタッフが得る「働いている実感」

f:id:hitomonji:20170615165848j:plain

 

f:id:hitomonji:20170616205133p:plain「『charibon』や『book gift projec』は、バリューブックスの従業員にとってもプラスになる取り組みだと思っています」 

f:id:hitomonji:20170616205140p:plain「従業員の方にとってですか?」

f:id:hitomonji:20170616205133p:plain「ネット上での本のやり取りばかりだと、どうしても社会との関わりが希薄になってしまいます」

f:id:hitomonji:20170616205140p:plain「Amazonで本を買った人も売った人も、直接顔が見えるわけじゃないですもんね」

f:id:hitomonji:20170616205133p:plain「例えば、『book gift project』でうちから寄付した本が、おばあちゃんの通う老人ホームに置いてあったら、孫がおばあちゃんにほめられるみたいな環境が増えると思うんです」

f:id:hitomonji:20170616205140p:plain「想像しただけで泣ける」

f:id:hitomonji:20170616205133p:plain「むりやり会社でほめようじゃなくて、従業員が社会や家族からほめられることが増えたらいいなって思っています」 

 

f:id:hitomonji:20170607215144j:plain現在バリューブックスの倉庫では、アルバイト・パート合わせて400名を超える方々が働いています。年齢層は16歳から63歳までと幅広い!

 

f:id:hitomonji:20170607154526j:plain

バリューブックスでパートとして働き始めてから2年弱の水野恵魅さんにもお話を伺いました!水野さんは現在、倉庫内でのパート・アルバイトの管理、新人のフォローをおこなっています。

 

f:id:hitomonji:20170616205140p:plain「バリューブックで働いてみていかがですか?」

f:id:hitomonji:20170616205132p:plain「子どもが熱を出してしまった時や一日の休みではすまないような事態にも臨機応変に対応していただけているので、本当に助かっています…!プライベート面も大切にしてと言ってくれる会社なのでありがたいです」

f:id:hitomonji:20170616205140p:plain「なんという優良企業…!ちなみに、水野さんは元々本は読みますか?」

f:id:hitomonji:20170616205132p:plainここで働くようになってから本を買うようになりました。Amazonで古本を登録したりしていますから!自己啓発本を読んで刺激を受けています。ただ、一日に200冊以上の本に触れるので、タイトルを忘れちゃうことがあります(笑)」


他の方にもお話を伺ったのですが、ママ友の紹介で働き始めた方が多いとのこと。本に囲まれた空間の中で働いていたら水野さん同様、働いているうちに本に興味を持つ方も沢山いそうですよね。

 

ミッションは、“誰もが本を読める環境を整えること”

f:id:hitomonji:20170607213711j:plain

 

f:id:hitomonji:20170616205133p:plain「バリューブックスは『日本および世界中の人々が本を自由に読み、学び、楽しむ環境を整える』というミッションをかかげているんです」

f:id:hitomonji:20170616205140p:plain「めちゃくちゃかっこいい!」

f:id:hitomonji:20170616205133p:plain「誰もが本を読める状況をつくって、持続可能なものにしていきたいんです!」

f:id:hitomonji:20170616205140p:plain「ミッションに対して、これから新しく着手する事業はあるんですか?」

f:id:hitomonji:20170616205133p:plain「これまで僕たちはネットで本を売ってきました。本と関わる場所といえば、図書館も人が本と関わる重要な存在なんですよね。後々は、図書館へのサービスを考えたり、ヒントとなるようなこともしていきたいと考えています」

f:id:hitomonji:20170616205140p:plain「中村さん、本めちゃくちゃ好きじゃないですか…!せどりから始まり、本をお金儲けの対象だと思っているのかと…。すみませんでした!」

f:id:hitomonji:20170616205133p:plain「ひどいこと言うなぁ(笑)」

 

まとめ

f:id:hitomonji:20170607233103j:plain

古本の可能性を最大限に引き出し、ぐんぐん社会を巻き込んでいく中村さん。

Amazonでよく見かけるバリューブックスは古本の売買だけでなく、古本を介して社会をよりよくする仕組みづくりも行っていました。

 

 

この記事をご覧の方の中にも、バリューブックスに本を買い取ってもらったことがある方がいらっしゃるのではないでしょうか。
読み終わった不要な本も、どうせだったら捨てないで買い取ってもらうのも手。

 

さっそく私も不要になった本をバリューブックスに持っていこうと思います! 

 

 

 

神対応に感動しました…。

(おわり)

  

 

■BOOKS & CAFE NABO

■バリューブックス10周年特設サイト

www.valuebooks.jp

書いた人:ナカノ ヒトミ

f:id:eaidem:20160819173431j:plain

1990年長野県佐久市生まれ。
長野↔東京で二拠点生活の実験中。
twitter: @jimonakano/個人ブログ: ナガノのナカノ

女の子なら誰もがトキめいた低価格アクセサリー!『サン宝石』のすべて

$
0
0

f:id:hirakocha:20170708191300j:plain

こんにちは。わたくし、WEBライターのモンゴルナイフと申します。

久しぶりに「ちゃお」を読んでいるのですが、懐かしさよりも絵の進化に驚きを隠せてません。ちゅるんとしてますね。

 

時代は変わるねえ~。お!でもここは変わってない!

 

f:id:hirakocha:20170710062751j:plain

サン宝石の通販!

懐かしいなあ! 小学生でも買える低価格のアクセサリーに夢中になって、はがきに切手いっぱい貼ってお買いものしてたわ…。

学校で友達とアクセサリー交換したり、好きな先生(男性)にアクセサリーを毎月貢いだり。

 

そんなサン宝石ですが、

・今時の小学生もサン宝石でおしゃれしているのかな?

・商品ラインナップはどう変化したの?

・価格も値上げされてるのかな?

 

気になりません? いや、すべての女性が気になるはず!

 

 

ファンシーポケット原宿店に潜入!

 

f:id:hirakocha:20170708184410j:plain

というわけで原宿・竹下通りにて、サン宝石のアイテムを販売する直営店「ファンシーポケット原宿店」にやってきました!

私は通販しかしたことなかったので、路面店は初めて! 外観からゴリゴリにファンシーです。

 

ファンシーポケット原宿店

〒150-0001
住所|東京都渋谷区神宮前1-19-2 ミノワビル 2F

営業時間|10:00~19:00(年中無休)

 

 

f:id:hirakocha:20170710070147j:plain

店内はどこを見てもポップでカラフル! 「地味な」「落ち着いた」といった言葉とは宇宙で一番かけ離れた空間です。

 

 

f:id:hirakocha:20170711124819j:plain

そして爆安の商品! 情熱の価格…は違うお店か!

 

 

f:id:hirakocha:20170711133149j:plain

これこれ!

サン宝石で小学生のとき買ってたのは「マグネットピアス」だったよなあ~。

ピアスという大人のアクセサリーを、小学生でも身につけられる魔法のアイテムだった! 

 

f:id:hirakocha:20170711130104j:plain

おお! 文具のコーナーだ!

小学生の頃は、ペンをたくさん持った者が、女子のスクールカーストを制してる時期があるんです。

特にミルキーペンが一世を風靡していた気がする。

 

 

はぁ、一気に小学生の頃の記憶が蘇ってきました。

さっそく店長さんに色々聞いてみましょう! 店長さぁ~ん!

  

f:id:hirakocha:20170710065626j:plain

 
「初めまして~! 原宿店・店長の『チェリー』です♡」

 

f:id:hirakocha:20170708184441p:plain「(すごいロリな店長さんだ……!)こんにちは! いきなりなんですけど、今の女子小中学生のみんなも、サン宝石さんでお買いものしておしゃれしてるんですか?

f:id:hirakocha:20170708184454p:plain女子小中学生のお客様はたくさんいらっしゃいますよ!」

f:id:eaidem:20170711102857p:plain「私が買ってた頃とは流行が変わってると思うんですけど、今はどういうアクセサリーが人気なんですか?」

f:id:eaidem:20170711102854p:plain「数年前から、花冠なんかが人気ですね。こういうのです」

 

f:id:hirakocha:20170711130904j:plain

 

f:id:eaidem:20170711102857p:plain「これが花冠! フェスで充実してる人たちがつけている代物だと思ってたんですけど、子供たちもつけてるんですね」

f:id:hirakocha:20170708184454p:plain「あと今年は圧倒的にチョーカーがキてます。女子大生あたりがつけてるイメージありますが、小学生たちもコーデに取り入れてるんですよ〜!」

 

f:id:hirakocha:20170711135824j:plain

チョーカーはサン宝石オンラインショップでも人気 

 

f:id:hirakocha:20170708184454p:plain「そして手元はアクセサリージャラづけする、と」

f:id:hirakocha:20170708184441p:plain

「手首にジャラづけってシノラーを彷彿させますね。子供の時にこんなかわいいアクセサリーを着けたかった……!」

 f:id:eaidem:20170711102854p:plain「何言ってるんですか。今からでも遅くないですよ!」

f:id:hirakocha:20170708184441p:plain「え、じゃあ……あの、私を女子小学生だと思い込んでコーディネートしていただけませんか?!

f:id:hirakocha:20170708184454p:plain「いいですね! やっちゃいましょう!」

 f:id:hirakocha:20170708184441p:plain「ノリがいい~~~~! じゃあお願いします!」

 

 

f:id:hirakocha:20170711135113j:plain

 

f:id:hirakocha:20170711135127j:plain

 

f:id:hirakocha:20170711135141j:plain

 

 

 

 

 

 

f:id:eaidem:20170711201149j:plain

 バァァーーーン!!!

 

f:id:hirakocha:20170709161905p:plain「どうですか、かわいいですか?」

f:id:hirakocha:20170708184454p:plain「かわいいですよ~♡」

f:id:hirakocha:20170709161905p:plain「かわいい~??」

f:id:hirakocha:20170708184454p:plain「かわいい~~♡」

 

f:id:eaidem:20170711201515j:plain

f:id:eaidem:20170711102858p:plain「ほんとに? ほんとにかわいい~??」

f:id:eaidem:20170711102854p:plain「ほんとにかわいい~!」

f:id:eaidem:20170711102858p:plain「ほんとのほんと? ほんとにかわいい~??」

f:id:eaidem:20170711102854p:plain「か~わ~い~い~」

 

f:id:eaidem:20170711202853j:plain

「ほんとのほんとのほんとに……」

 

f:id:eaidem:20170711202940j:plain

「もういいでしょ」

  

f:id:hirakocha:20170709161905p:plain 「すいません、嬉しくてテンションあがっちゃった! さて、だいぶてんこ盛りにしてもらったのですが、総額どれくらいなんですか?」

f:id:hirakocha:20170708184454p:plain「花冠、チョーカー、指輪、ブレスレッドなど、合計19点で……お値段総額でこちらになります♡」

 

f:id:hirakocha:20170709161826j:plain

全部で2,322円!?

 

 

f:id:hirakocha:20170709161905p:plain「こんなに大人買いしたのに?! いつも買うイヤリング1個分くらいの値段だ。サン宝石やっぱり安い!」

f:id:eaidem:20170711102854p:plain「子供のおこづかいで買える価格帯ですからね」

f:id:hirakocha:20170709161905p:plain「それにしても、大人が使っているアクセサリーを子供向けに落とし込むのがうまいですね! どういう人が作ってるんだろ?」

f:id:hirakocha:20170708184454p:plain「お会いになります?」

f:id:hirakocha:20170709161905p:plain「会ってみた~い! この店の奥にオフィスが…?」

f:id:hirakocha:20170708184454p:plain「山梨県に本社があります」

f:id:hirakocha:20170709161905p:plain「やまっ…………?」

 

 

f:id:hirakocha:20170711135622j:plain

プァーン 

 

f:id:hirakocha:20170708191658j:plain

山梨県中央市、空気がおいしいなあ……

 

 

f:id:hirakocha:20170710073221j:plain

というわけで、サン宝石本社に話を聞きに来ちゃいました。

 

 サン宝石本社に潜入!

 

f:id:hirakocha:20170708203055j:plain

話を伺ったのはこちらのお二人。企画部の岩渕さん(左)と土橋さん(右)

 

f:id:hirakocha:20170708184441p:plain「今日はよろしくお願いします! お二人とも、やっぱり子供の頃からサン宝石のファンで、入社されたんですかぁ!?」

f:id:eaidem:20170711102856p:plain「……いえ」

f:id:hirakocha:20170708184640p:plain「あまり買ったことはなかったですね」

f:id:hirakocha:20170708184441p:plain「そういうこともありますよね! ではサン宝石という会社自体のことについて聞いていきましょう。どのような経緯でアクセサリーを作り始めたのでしょうか?」

f:id:hirakocha:20170708184634p:plain「実は最初からアクセサリーを販売してたわけじゃなくて、創業当初(1967年)はハンコ屋だったんです」

f:id:hirakocha:20170708184441p:plain「なんでハンコ屋さんがアクセサリーを売ろうと思ったんですか?」

f:id:hirakocha:20170708184634p:plain山梨が宝石の街だから、というのがありますね。いわゆる地場産業というやつです。水晶や鉱石の産地だったんですよ」

f:id:hirakocha:20170708184640p:plain「そこで最初は、ごく普通に大人向けのアクセサリーを作っていたんです。これが初期の頃のカタログです」

 

f:id:hirakocha:20170708195324j:plain

 

f:id:hirakocha:20170708184441p:plain「わあああ〜〜〜本当だ! 価格も現在の商品と比べてお高いですねえ。そこからどうやって子供向けのアクセサリー事業に発展したんですか?」

f:id:hirakocha:20170708184640p:plain大人向けの商品って、他にもやってるメーカーが多いから埋もれちゃうんですよね。当時は子供向けのアクセサリーって珍しかったから、やってみようと」

f:id:hirakocha:20170708184441p:plain「え、そんな理由なの!?」

f:id:hirakocha:20170708184640p:plain「本当は『女の子に向けてわくわくドキドキするような商品を届けたい』という理念もあったんですが、恥ずかしいので言いませんでした」

f:id:eaidem:20170711102857p:plain「言ってくださいよ」

 

 f:id:hirakocha:20170710075318j:plain


ちなみに、サン宝石と言えば女子のアイテムというイメージですが、実はメンズ向けのアクセサリーもあったんです。昔はジャンプの後ろのページにも掲載してたんだそう。

 

あのページもサン宝石だったんだ……!

 

 

時代が反映されるサン宝石のアイテム

 

f:id:hirakocha:20170713094456j:plain

ここで広報の方が昔のカタログを持ってきてくれました

 

f:id:hirakocha:20170713094522j:plain

 

f:id:hirakocha:20170708184634p:plain「これは今までのカタログです」

f:id:eaidem:20170711102857p:plain「わぁ、デザインに時代を感じる! 私がちょうど通販していた時代のカタログもありますね」

 

f:id:hirakocha:20170710074105j:plain

私が小学生くらいの頃(2003年)のカタログ

  

f:id:hirakocha:20170708184441p:plain「人気のアイドルとかモデルさんの影響ってあるんですか?」

f:id:hirakocha:20170708184634p:plain「ありますあります!AKB48が出てきたときはチェック柄の商品やシュシュとかカチューシャが売れたり、ミニモニ。が人気のときは派手なパステルカラーのものが売れたりしましたよ」

 

f:id:hirakocha:20170713094534j:plain

ミニモニ。が日本で猛威を振るっていた頃の紙面

 

f:id:eaidem:20170711102855p:plain「あと浜崎あゆみさんがつけてた、ふわふわした尻尾とか」

f:id:hirakocha:20170708184441p:plain「時代によって流行って変わっていくんですね。逆に、昔から変わらず売れてる定番商品っていうと、どういうものになります?」

f:id:hirakocha:20170708184640p:plainホコリ取り』ですかね。制服を着る学生さんから、大人まで機能的で使いやすいと評判のロングセラー商品です」

f:id:eaidem:20170711102857p:plain「あぁ! 持ってた~!! 値段が安くて重宝してました」

 

f:id:hirakocha:20170709005635j:plain

10年くらい前からデザインがほぼ変わっていないそう

 

f:id:hirakocha:20170709005159j:plain

 ちなみに現在は¥190で販売中!安い!

  

 

 現在の人気商品は意外にも……?

f:id:eaidem:20170711102856p:plain「昔はアクセサリーが主流でしたが、年々雑貨も仕入れるようになって、今では雑貨も主力商品となりました」

f:id:hirakocha:20170708184640p:plain「学校でネタ的に使えるものが人気商品になりやすい傾向にありますね。このサンマのクッションとかもそうです」

 

f:id:hirakocha:20170708202825j:plain

 

f:id:hirakocha:20170708184441p:plain「これをどう使うのでしょう。もしかして小学生たちは、学校で大喜利してるの?」

f:id:hirakocha:20170708184634p:plain 「子供の間でもスマートフォンが普及したことによって、みんなSNSを利用していて、YouTubeにアップする動画のネタにしたりしてるみたいですよ」

f:id:hirakocha:20170708184441p:plain「あぁ~!なるほど! 少ないお小遣いでネタ探すのは難しいけど、サン宝石さんなら手が出るっちゅ~わけですね。他にどんなものが人気ですか?」

f:id:hirakocha:20170708184640p:plain「最近一番売れているものはスクイーズですね」

 

f:id:hirakocha:20170709162349j:plain

スクイーズというのは触って楽しむ不思議な触感のおもちゃのこと

 

f:id:hirakocha:20170708184441p:plain「網に入ったカラーボールみたいなものがありますけど、これもスクイーズですか?」

f:id:hirakocha:20170708184640p:plain「それは『つぶすと飛び出るぷにぷにボール』という商品ですね。握ってみてください」

  

f:id:hirakocha:20170708202923j:plain

 

 

f:id:hirakocha:20170708202935j:plain

 ニュグッ

 

 

f:id:hirakocha:20170708203409j:plain

ぎゃああああああああああああああああああ!!

 

f:id:hirakocha:20170708202959p:plain「なんですかこれ! シメジみたいなものが生えてきた~~~~~~!」

f:id:hirakocha:20170708184640p:plain「これが今人気ですね。握ってストレス発散したり癒されたり。店頭では売り切れ続出しています」

f:id:eaidem:20170711102857p:plain「スクイーズが人気ということは、現代っ子は疲れている…?」

 

※ちなみに後で聞いたんですが、原宿店でもスクイーズが人気で、売れ筋商品の上位をスクイーズが占めているそうです

 

原宿店の売れ筋商品ベスト3

 ※すべてスクイーズ!

f:id:hirakocha:20170709155455j:plain

3位 クマドーナツのむにむにストラップ

 

 

f:id:hirakocha:20170709155331j:plain

 2位 食パンダさん

 

 

f:id:hirakocha:20170709155327j:plain

 

1位 顔付食べかけチョコまんむにむにストラップ

 

 

ピンチのサン宝石、救世主となったキャラ

f:id:hirakocha:20170713094609j:plain

 

f:id:hirakocha:20170708184441p:plain「そういえば私が子供のときは、500円ぶん買えたらリッチな方でしたが、現代の小学生は一回のお買い物でどれくらい使うんでしょうか?」

f:id:hirakocha:20170708184634p:plain「今もみなさん500円くらいですよ! 変わらないですね」

f:id:hirakocha:20170708184441p:plain「ほっ。確かにカタログを見ると、昔と値段に変化がないですね子供向けのアクセサリー通販で、サン宝石さんはずっとトップを独走しているんですよね?」

f:id:hirakocha:20170708184640p:plain「確かに、子供向けのアクセサリーを作り始めてから、少女漫画や少女誌にも載せていただいたりして、売り上げは右肩上がりでした」

 f:id:eaidem:20170711102856p:plain「だけど2000年くらいに少しずつ停滞し始めたんですね」

f:id:hirakocha:20170708202959p:plain「ええ!なぜですか?」

f:id:hirakocha:20170708184640p:plain100円均一のお店の台頭ですね。身近に安くアクセサリーが買えるところが増えたからか、売り上げが伸びなくなりましたね」

f:id:hirakocha:20170708184441p:plain「ああ、100円でなんでも買える!って子供ながらに軽く革命でした」

f:id:hirakocha:20170708184640p:plain「試行錯誤した結果、幅広い世代に向けた商品展開をしたんです。大人向けの高めの値段設定の商品を出したんですね」

f:id:hirakocha:20170708184634p:plain「おかげで大人のお客さまもチラホラご購入してくれたんですが、逆に今までのお得意だったお子さまは離れてしまって……結果的にはマイナスになりましたね」

f:id:hirakocha:20170708184441p:plain「サン宝石さんの氷河期ですね」

f:id:hirakocha:20170708184640p:plain「そこで、『子供たちがおこづかいの中でおしゃれできるものを作る』という初心に戻り、大激安セールを行ったんですね」

 

f:id:hirakocha:20170713094742j:plain

当時のカタログ。右上に注目してください。安さを前面に押し出しています

 

f:id:hirakocha:20170708184441p:plain 「おお!安そう!これは目を引きますね」

f:id:hirakocha:20170708184640p:plain「この企画で離れていたお客さまが戻ってきてくれたんです……が! 持ち直したのも束の間、2006年くらいからまた停滞し始めるんです」

 f:id:hirakocha:20170708184441p:plain「ええ?!せっかく復活したのに、今度は何!?」

f:id:hirakocha:20170708184634p:plain「このあたりから安いアクセサリー屋さんがどんどん台頭して、競合他社が増えてきたんですよね」

f:id:hirakocha:20170708184441p:plain 「万事休す! 今度こそ終わった……?」

f:id:hirakocha:20170708184640p:plain「そんなときに、救世主とも言えるキャラクターが誕生するんです」

f:id:eaidem:20170711102857p:plain「アニメの展開みたい。どういうキャラクターなんですか?」

f:id:eaidem:20170711102856p:plain「現在も大人気の、ほっぺちゃんです」

f:id:hirakocha:20170708184441p:plain「ほっぺちゃん? もしかして、原宿店や本社にたくさんいるこのキャラクターですか?」

 

f:id:hirakocha:20170710082634j:plain

これが人気のキャラクター、ほっぺちゃん

 

f:id:hirakocha:20170712171341j:plain

ちなみに本社の正面玄関を入った直後もこんな状態

 

f:id:eaidem:20170711164639j:plain

そこかしこにほっぺちゃんが!フィーバーっぷりがヤバい

 

f:id:hirakocha:20170708184634p:plain 「ほっぺちゃんは幼児から小学低学年のお子さまに人気が出て、サン宝石を代表するキャラクターになりました。原宿に『ほっぺちゃんショップ』もオープンして」

f:id:hirakocha:20170708184441p:plain「ほっぺちゃんって、どういう経緯で生まれたんですか?」

f:id:hirakocha:20170708184634p:plain 「当時、スイーツデコという、シリコンのパーツを駆使してかわいいパフェを作るブームがあったんですね」

 

f:id:hirakocha:20170710082201j:plain

f:id:hirakocha:20170708184441p:plain 「懐かしい! 食品サンプルみたいなパーツを買って来て自分で好きなものにつけてデコるやつですよね」

f:id:hirakocha:20170708184634p:plain「そのときに工房のパートさんが、余ったシリコンを絞り出して、ラインストーンをつけて顔みたいにしたものを作ったんです

 

f:id:eaidem:20170711165807j:plain

こういう感じで余ったシリコンを絞り出して、なんとなく顔をつけたそう

 

f:id:eaidem:20170711102855p:plain 「たまたまお店で、袋に詰めたスイーツデコ3点セットを売るということになって、このキャラかわいいから入れちゃう?ということになったんですね。そしたら飛ぶように売れまして

f:id:hirakocha:20170708184441p:plain「なるほど。ラーメン屋でまかない飯の人気がでて、お店のメニューに採用されるみたいな感じですね」

f:id:hirakocha:20170708184640p:plain「え? そんな感じ……なんですかね?」

 

f:id:hirakocha:20170713093843j:plain

 乾燥室で出荷を待つほっぺちゃんの貴重なショット

 

 小学生のトレンドをいつまでも追い求める

f:id:eaidem:20170712191158j:plain

 f:id:hirakocha:20170708184441p:plain大人になっても小学生の女の子たちの気持ちを知るのって難しいのでは? どうやって今のトレンドを追ってるんですか?

f:id:eaidem:20170711102856p:plain「やっぱり原宿に行くことが多いですね。定期的に竹下通りで定点観測してます。それで何が流行っているか見てたりします」

f:id:eaidem:20170711102855p:plain「あと、お子さんがいる社員は、子供(リアルカスタマー)が集まるイベントに行く機会が多いのでそこで何が流行っているのかリサーチしたりしますね」

f:id:eaidem:20170711102857p:plain「なるほど、それは手っ取り早い」

f:id:eaidem:20170711102856p:plain「そういった情報を、できるだけ早く反映させるのが大事なんです」

f:id:eaidem:20170711102855p:plain「最近だとハンドスピナーなんかは、ネットで見つけたとき、会議にかけもせず急いで発注しましたね。店舗は土日の売り上げがかなり多いので、流行りのものは週末に間に合うように死に物狂いで発送してます」

 

f:id:eaidem:20170711185533j:plain

最近流行のハンドスピナー

 

f:id:eaidem:20170711102857p:plain「今、会議とおっしゃってましたが、企画会議みたいなものは当然あるんですよね? ヒット商品ばかり世に出しててすごいですね」

f:id:hirakocha:20170708184634p:plain「企画は女性ばかりを集めた専門チームがいます。ただ、決してヒット商品ばかりってわけじゃなくて、ボツもたくさんあります。100個アイディアを出して10個採用できたらいい方ですよ」

f:id:eaidem:20170711102857p:plain「わえ〜〜〜! つらい! 企画・デザイン職の宿命ですね」

 

f:id:eaidem:20170711183424j:plain

貴重なラフやデザイン画を見せてもらいました。絵の段階ですでにかわいい~!

 

f:id:hirakocha:20170708184634p:plain大人の“かわいい”と、子供の“かわいい”って全然違うんですよ。大人の感覚で作ってみたら、色が渋すぎる!って指摘されたりしますね」

f:id:hirakocha:20170708184441p:plain「大人になるとベージュとかカーキみたいな、落ち着いたアースカラーをよく着るようになりますからね~」

f:id:hirakocha:20170708184640p:plain「ボツを乗り越えて自分なりの“かわいい”の感覚をやしなって行くんです。うちの企画チームはそうやって叩き上げてきた、優秀な人間ばかりだと思ってます」

 

 

f:id:eaidem:20170711181723j:plain

こちらが企画チームの皆さん

 

 

f:id:eaidem:20170711182847j:plain

和気藹々と企画出しをしているんですって。この雰囲気が良い商品を生み出すの?

 

 

 人はみなサン宝石に帰ってくる

f:id:eaidem:20170711204952j:plain

f:id:hirakocha:20170708184441p:plain「ひとつ気になってることがあるんですが、聞いてもいいですか?」

f:id:eaidem:20170711102856p:plain「なんでしょう?」

f:id:eaidem:20170711102857p:plain「女子小中学生向けに商品を作るということは、いつかはみんなサン宝石を卒業していってしまうということですよね?」

f:id:hirakocha:20170708184640p:plain「そうなりますね」

f:id:hirakocha:20170708184441p:plainいつかやってくる卒業を想定しながら作るのは、寂しくないですか?」

f:id:hirakocha:20170708184634p:plain「う~ん、寂しくはないですね。だって、また帰ってきてくれると思っているので」

f:id:hirakocha:20170708184441p:plain「帰ってくる??」

 

f:id:eaidem:20170712192556j:plain

 

f:id:hirakocha:20170708184634p:plain「子供の頃にサン宝石を利用してくれていた方は、大人になった時に、お子さんと一緒にまたサン宝石で買い物してくれるんです。だから寂しいとは思いません」

f:id:eaidem:20170711102855p:plain「原宿のショップでは実際にそんな光景をよく見ますよ」

f:id:hirakocha:20170708184441p:plain「わぁ~良い話! シャケが生まれた川に戻ってくるみたいな感じですね!」

f:id:eaidem:20170711102855p:plain「え? そんな感じ……なんですかね?」

 f:id:eaidem:20170711102857p:plain私も早くサン宝石に戻ってこれるように婚活に励みます…!

f:id:hirakocha:20170708184634p:plainf:id:hirakocha:20170708184640p:plain「ぜひ頑張ってください!」

 

 

 

f:id:hirakocha:20170710083753j:plain

 

というわけでサン宝石のショップ、そして本社と話を聞いてきましたが、いかがだったでしょうか。

 

いつの時代も、「お小遣いで買えるアイテム」を作り続けるサン宝石。私も、もう良い歳なのに、魅力的なアイテムを見て胸がときめいてしまいました。

 

だって……女の子だもん!

 

 

(おわり)

 

 

書いた人:モンゴルナイフ

f:id:eaidem:20170711194957j:plain

北海道は道東出身の元気で明るいOLです。仕事のストレスをインターネット(オモコロ)で日々発散しながら暮らしています。好きな食べ物はカレー。
twitter : @amanattif

【もとADが教える】芸能人を唸らせたロケ弁 一般人でも食べられる4店

$
0
0

f:id:eaidem:20170712212453j:plain

みなさん初めまして、ジモコロライターの松岡です。

 

僕は今年の3月まで約5年間、テレビ番組の制作スタッフ(AD)として働いていました。

 

f:id:fccmatsuoka:20170710174358j:plain

ADというのは、好きでないとやってられないハードな業務でしたが……辞めてから考えてみると、ひとつ得をしたことがありました。

 

それは……

貴重な経験?

幅広い人脈?

“気づかい”の心を持てたこと?

 

いいえ、美味しいロケ弁を食べられたことです。

大物芸能人だろうと、人気ミュージシャンだろうと、僕のようなADだろうと、基本的には同じロケ弁を食べるのです。

 

f:id:eaidem:20170712212454j:plain

 

ロケ弁とは―

屋外での撮影(ロケ)やテレビ番組のスタジオ収録を行う際にスタッフや出演者の方に配られるお弁当のこと。

※スタジオ収録は「ロケ」ではないんですが、弁当に関してはすべて「ロケ弁」という呼称で統一されています

 

芸能人は1週間のうちに何度もロケ弁を食べるため、ロケ弁のチョイスひとつで、その日のテンションが変わります。だから収録時の食事にはかなり気を使ってるんです。

 

f:id:fccmatsuoka:20170710190515j:plain

というわけで、今回はそんな僕が、芸能人にもファンが多い至高のロケ弁を、4つご紹介します。もちろん我々一般人でも、1個から買って食べることが可能ですよ!

 

 

f:id:eaidem:20170712162224j:plain

 

 

上石神井:『津多屋』の「のり二段幕の内弁当」

はじめに紹介するお店は、西武鉄道新宿線「上石神井駅」南口から徒歩5分、『津多屋』です。

 

f:id:fccmatsuoka:20170710174813j:plain

 

創業は1972年。グアム島で元日本陸軍兵士・横井庄一さんが発見された年に創業し、今年で45年目を迎える老舗の名店です。

 

オープンをして間もない時期に『8時だヨ!全員集合』のプロデューサーの目にとまり、そこから口コミでテレビ局全体に広まったそう。

現在ではロケ弁といえば津多屋というブランドを確立するに至っています。

 

f:id:eaidem:20170712212455j:plain

お店にはショーケースがあり、お惣菜のみの購入や、売店でしか買うことができないコロッケや春巻きの販売もしています。

 

f:id:eaidem:20170712212456j:plain

ちなみにこのコロッケ、マジでおすすめなのでこれだけ買いに行くのもアリです。シンプルで素朴な味ゆえに、ジャガイモのホクホク感が際立ちます。

 

 

そんな『津多屋』で人気のお弁当は……

 

f:id:eaidem:20170712212457j:plain

「のり二段幕の内弁当」(税込1,080円)

 

おふくろの味を再現したお弁当は、仕込みから仕上げまで手作りにこだわった逸品。

10種類のおかずは どれも主役級の美味しさ! あっさりとした和の味付けで、何回食べても飽きません。

 

f:id:eaidem:20170712212458j:plain

食感が楽しい“豚のごぼう巻き”や、やわらかく優しい味の。ごはんが進む進む!

 

f:id:fccmatsuoka:20170710180602j:plain

”鶏味噌炒め”は、とろとろの鶏肉と歯ごたえの良いカシューナッツという組み合わせが最高すぎます。

 

「待って待って!美味しすぎて疲れるわ!」と思ったら、鶏味噌炒めの背後にチラッと写ってる里芋で一息入れましょう。はぁ、落ち着く。

 

f:id:eaidem:20170712212459j:plain

そして、海苔。

この、ビロードのような輝きをご覧ください。

『津多屋』の「のり二段幕の内弁当」は、海苔こそ主役。

 

海苔そのものの味と香りが強く、染みた醤油が食欲をそそります。

 

f:id:eaidem:20170712212500j:plain

そして嬉しい二段構造。のりの下に“おかか”が敷いてあるのも良いですなぁ。

 

肉、魚、野菜のバランスもよく、ボリュームも多いため、満足感と満腹感が得られる、まさに至高のお弁当でした。

  

 

芸能人では、

林家木久扇さん、有吉弘行さん、マツコ・デラックスさん、山下智久さん、速水もこみちさんなどが、津多屋のお弁当をオススメしております!

 

 

お弁当は、店頭で1個からでも購入可能。

ただし、お弁当やお惣菜は売り切れ次第終了となってしまうため、早めの時間に行くのがオススメです。

なお大量に頼む場合は、配送も行っており、東京23区近郊であれば、40個以上から注文が可能です。

 

津多屋
住所:東京都練馬区上石神井1-25-1
電話:03-3928-9336
営業時間:11:00~売り切れ次第終了 配達時間:10:00〜19:00
定休日:無休

 

www.tutaben10.com

 

市ヶ谷:『喜山飯店』の「お好み4種弁当」

続いて2件目に紹介するお店は、ロケ弁界の“キングオブ中華”と名付けていいほどの存在感を誇る「喜山飯店」です。

 

創業は1985年。 今年で32年目を迎える老舗店です。

 

f:id:fccmatsuoka:20170710181835j:plain

お店の場所は都営新宿線「市ヶ谷駅」A3出口から徒歩7分ほど。

看板があまりにも目立つので一瞬で発見できることでしょう。

 

1番人気のお弁当は……

 

f:id:eaidem:20170712212501j:plain

「お好み4種弁当(お弁当A)」(税込864円)

 

こちらは喜山飯店で人気のおかず4種が入った弁当。

 

4種のおかずは日替わりになるのですが、正直、全部美味しいです。「どうせどれでも美味しいから何でもいいよ」と投げやりな気持ちになってしまいそうですが……あえて1番のおすすめを挙げるなら、”エビチリ”ですね。

 

2度揚げしたエビに、独自のチリソースを絡めることで、辛さの中に濃厚な旨味を感じさせます。

 

f:id:fccmatsuoka:20170710182151j:plain

エビチリのエビには衣(ころも)がついていません。プリッと弾ける食感を存分にお楽しみください

 

f:id:fccmatsuoka:20170710182301j:plain

豪快な”麻婆茄子”!

ゴロゴロ入ったナスとたっぷりのひき肉は、白米に本当に合うんです!「ガッツリ中華食いてぇ~!」という欲望の炎も、これなら満足してくれるでしょう。

 

f:id:fccmatsuoka:20170710182421j:plain

”ピーマンと豚肉の細切り炒め”

ピーマンとタケノコのシャキシャキ感に、もちっとした豚肉がからみつくゥ~!

 

f:id:eaidem:20170712212502j:plain

”キクラゲとタマゴ”は、ふわふわのタマゴと、コリコリしたキクラゲのハーモニーがたまりません!

 

 

日替わりでお弁当のおかずが変わるため、バリエーション豊富で飽きることがない、『喜山飯店』の「お好み4種弁当」でした。

 

f:id:eaidem:20170712212503j:plain

今回紹介したおかず4品、見た目は味が濃そうですが……実は日本人好みのサッパリした味付けが特徴なんです。ボリュームはあるのにスルスルとおなかに入っちゃう!

 

芸能人では、

YOUさん、川口春奈さん、ローラさん、指原莉乃さん、古川未鈴(でんぱ組.inc)さん

など女性からの人気が高いようです!

 

 

お弁当の販売は17時頃まで行っているため、市ヶ谷や麹町に訪れた際には、立ち寄ってみてください。

 

喜山飯店

住所:東京都千代田区三番町24-13

電話:03-3512-8138

営業時間:9:30~18:00 配達時間:10:00〜19:00

定休日:無休

公式HP

 

 

四谷三丁目:『オーベルジーヌ』の「チキンカレー」

3店目……ここらで少し趣向を変えて、カレーなどはいかがでしょうか?

“カレーのマエストロ”と呼ぶにふさわしい、欧風カレー『オーベルジーヌ』のお弁当を紹介しましょう。

 

創業は1987年。 「ファイナルファンタジー」(シリーズ第1作)の発売年に創業し、今年で30年目を迎える老舗店です。ていうかFFって30年前なのか……!

 

f:id:eaidem:20170712212504j:plain

お店は東京メトロ丸ノ内線「四谷三丁目駅」4出口から徒歩5分ほど。

 

カレーの種類が豊富で、チキン、ビーフ、ポーク、野菜、チーズ、海老、あさり、帆立、シーフードミックスの9種類があり、カレーの辛さも甘口〜辛口の好みに合わせて調整することが可能です。

 

1番人気のお弁当は……

 

f:id:eaidem:20170712212505j:plain

「チキンカレー(ロケ弁Bタイプ)」(税込1,080円)

 

オーベルジーヌのカレーは、3日間 煮込んだ玉ねぎの甘みと、スパイスの旨味が魅力。

1番人気のチキンカレーは、若鶏のもも肉を焦げ目がつくまで焼き、香ばしさと食感が楽しめるように工夫されています。

 

f:id:eaidem:20170712212506j:plain

付属のバターをアツアツのルゥの上に……。じゅわ~っと溶けてコクが増します。

 

f:id:eaidem:20170712212507j:plain

鶏ももは、外側に香ばしさを残しつつ、中は程よく火が通ってホロッホロ。

見ておわかりの通り、大きなかたまりが、かなりの数 入っているため、ボリュームたっぷりです。

 

f:id:eaidem:20170712212508j:plain

おや? ごはんがなんだか黄色いような……? カレーの汁が飛んじゃったのかな……と思ったら実はチーズのトッピングでした。人類はどこまでコクを求めれば気が済むの?

 

f:id:eaidem:20170712212509j:plain

ロケ弁Bタイプについてくる”ジャガイモ”は、じゃがバターにしたり、カレールゥにつけたりしてお召し上がりください。

 

f:id:eaidem:20170712212510j:plain

カレーの種類が豊富なので、味の変化を楽しむことができるお弁当です。

 

芸能人では、

木村拓哉さん、中川翔子さん、ケンドーコバヤシさん、小島瑠璃子さん、大久保佳代子(オアシズ)さん などの方たちが、オーベルジーヌのお弁当をオススメしております。

 

 

お弁当の販売は、店頭での販売の他に、デリバリーも行っております。四谷店の他に、三田店もあるので、近いほうに急げ~!

 

欧風カレーオーベルジーヌ

住所:東京都新宿区四谷3-1 福島ビル2F

電話:03-3357-7418

営業時間(配達時間):

平日・ランチ11:00~15:00/ディナー17:00~21:30

日曜・ランチ11:00~15:00/ディナー17:00~20:30

定休日:G.W、年末年始

公式HP

 

www.aubergine.co.jp

 

代々木上原:『金兵衛』の「銀だら西京漬け焼き弁当」

王道のり弁・中華・カレーと紹介してきましたが、トリを飾るのは“魚系”、『金兵衛』

創業は1997年。 比較的新しいお店ですが、その評価はすでに不動のものとなっております。

 

f:id:fccmatsuoka:20170710184723j:plain

お店は小田急線・千代田線「代々木上原駅」西口から徒歩5分ほど。

 

f:id:fccmatsuoka:20170710184858j:plain

店頭のみで販売している幕の内弁当や、魚だけの単品販売も行っています。

 

しかし並んでいるお客さんのお目当て……1番人気のお弁当はなんと言ってもこちら!

 

f:id:eaidem:20170712212511j:plain

「銀だら西京漬け焼き弁当」(税込1,296円)

これ! これを食べなきゃ終われませんって!

 

f:id:eaidem:20170712212512j:plain

主役はもちろん、身が柔らかく、舌の上でほろほろと崩れる銀だら。小樽の市場から取り寄せた、脂が乗って身が大きい切り身です。

食べた瞬間に西京味噌のほのかな甘味と、脂の旨味ジュワッ!と口の中に溢れます。

 

AD時代から、このお弁当を食べる方々の姿を見てきましたが、初めて食べる人は例外なく「うまっ!?」と一口目で言います。「うまっ」ではなく「うまっ!?」なのは、想定していた『おいしさ上限』を飛び越えてくるからです。

 

f:id:eaidem:20170712173845j:plain

同僚に食べてもらったところ、5人中・5人が一口目で「うまっ!?」と叫びました

 

 

f:id:eaidem:20170712212513j:plain

主役を囲むように彩る6種類のおかずも粒ぞろい!

ハズレなしでしょこれ。

 

f:id:eaidem:20170712212514j:plain

ほのかな甘味でやさしい気持ちになる"卵焼き"

 

 

f:id:eaidem:20170712212513j:plain

和のテイストを取り入れた"マカロニサラダ”。このマカロニが食べたくて弁当を買っている人もいます。

 

どれも激しい主張をするようなおかずではありませんが、全体を通した調和が見事!

職人の技を感じるいぶし銀のお弁当です。

 

f:id:eaidem:20170712212516j:plain

お米もハリがあっておいしいんですよ!

 

芸能人では、

渡部建(アンジャッシュ)さん、バカリズムさん、前園真聖さん、ギャル曽根さんなどが、金兵衛のお弁当をオススメしております。

 

 

お弁当の販売は店頭での販売と、配送も行っており東京23区、近郊であれば一定個の数から注文が可能です。

店頭での販売はお弁当が売り切れ次第終了となってしまうため、早め早めを心掛けましょう!

 

魚屋さんのお弁当 金兵衛

住所:東京都渋谷区西原3-1-7 翔原ビル2A

電話:03-3468-6998

営業時間:11:00~売り切れたら終了

配達時間:9:00~18:00(土・日・祝 17:30)

定休日:無休

公式HP

 

 

www.kinbe.co.jp

 

 

まとめ

 

f:id:fccmatsuoka:20170710190042j:plain

というわけで、今回は“芸能人を唸らせた至高のロケ弁4店”を紹介しました。

 

芸能人じゃなくても、たまには「ロケ弁」を食べてみるのもいいのではないでしょうか。

その際、「僕が大好きなアイドルも、今頃これと同じ弁当食ってんのかなぁ……」と妄想すると、変な感慨にふけることができるのでおすすめです。

 

 

 

(おわり)

 

 

書いた人・松岡クジャク

f:id:eaidem:20170712212517j:plain

1990年生まれ。千葉県八街市出身。
元テレビ番組の制作スタッフ(AD)で、現在は株式会社バーグハンバーグバーグ所属のアルバイト。好きなサウナは「フィンランド式サウナ」。Twitter:@matsuokujyaku

珍スポを継ぎし者! 5500万個の貝が生んだ「竹島ファンタジー館」伝説

$
0
0

f:id:tmmt1989:20170719102846p:plain

時空のトンネルからこんにちは。ライターの友光だんごです。

このトンネル、よく見ると…

 

f:id:tmmt1989:20170704153858j:plain

全部「貝」でできています…!

壁一面に貼られているのは「オウム貝」。多すぎじゃない?と思ったあなた、驚くのはまだ早いです。

 

ここでは、すべてが貝なのですから。

 

 

f:id:tmmt1989:20170706144553j:plain

あれも、

 

f:id:tmmt1989:20170706144436j:plain

これも、

 

f:id:tmmt1989:20170708221537j:plain

どれもが貝でできています。

 

本日は、そんな見渡す限り貝まみれの怪しい建物「竹島ファンタジー館」にやって来ました。

 

f:id:tmmt1989:20170704154154j:plain

竹島ファンタジー館があるのは、知多半島と渥美半島に囲まれた愛知県蒲郡市。国の天然記念物に指定されている島「竹島」のほど近く、海辺の観光地の一角に建っています。

 

f:id:tmmt1989:20170706145050j:plain

貝でできた壁画に、天井からぶら下がった巨大なシャコ貝。入口からして貝への熱すぎる想いが伝わってきます。

この謎の熱量は、“王道ではない変テコな観光スポット”=「珍スポ(珍スポット)」と呼んでさしつかえないでしょう。

 

 

珍スポは日本全国に点在し、ひそかな愛好家も多い一ジャンルです。しかし、昭和(特に高度経済成長〜バブル期)に作られたものが多いため、老朽化やオーナーの高齢化が進み、近年では閉鎖も相次いでいます。

 

そんななか、竹島ファンタジー館が他と一線を画すのは「珍スポを継ぎし者」がいるという点なのです。

 

珍スポって継げるの・・・?

 

f:id:tmmt1989:20170706150752j:plain

こちらが現館長の杉浦巧さん(75)。一度は閉館し、取り壊される寸前だったファンタジー館を2013年に購入し、2014年に再オープンした人物です。

 

なぜ、いかにして珍スポを受け継いだのか?

そもそもどうしてこんなに貝まみれなのか? 

 

f:id:tmmt1989:20170718171442j:plain

絶滅の危機に瀕する珍スポが生き残るためのヒントになる(かもしれない)館長へのインタビューをお届けします。

  

昭和×平成センスのごった煮パーク

f:id:tmmt1989:20170706172202j:plain

まずはファンタジー館の中をご案内しましょう。館内では、角を曲がるたびに妙な存在感のあるオブジェが登場します。

 

f:id:tmmt1989:20170706173128j:plain

目が怖いこちらの彼女は「女海賊」らしいです。

 

 

全面が貝殻でできたヤバイトンネル

Shinpei Nakayaさん(@nkysp)がシェアした投稿 -

ビカビカに輝く時空のトンネルを抜けると… 

 

f:id:tmmt1989:20170707223241j:plain

火を吹くドラゴンが登場! 案内板をみると「ファンタジードラゴン」という名前だそうで、「竜宮城への道案内」なんだとか。竜宮城…?

 

f:id:tmmt1989:20170707223443j:plain

ありました、竜宮城。乙姫さまに浦島太郎もいます。

 

f:id:tmmt1989:20170707223643j:plain

その先には貝で覆われた巨大な壁が!水が壁をどうどうと流れ落ち、滝のようになっています。高さは10m以上…!

 

ここまで見ると、ザ・昭和の秘宝館テイスト

しかし、「古さ」とともに「新しさ」が同居しているのが竹島ファンタジー館なのです。

 

f:id:tmmt1989:20170706173418j:plain

なにやらキャラクターたちが喋る画面、向こうが透けてます…もしや「透過スクリーン」というやつでは…? 急に新しいテクノロジーが出てきたぞ。

 

f:id:tmmt1989:20170706173523j:plain

こちらでは巨大な3画面でCGアニメが放映中。ちゃんと時間とお金がかかっていそうなクオリティです。

 

f:id:tmmt1989:20170707231307j:plain

最後の部屋では、卵型のオブジェを使ってプロジェクションマッピングが。最後に卵から火の鳥が孵り、地球を救って終わりました(どうやら「浦島太郎」をベースにした一大スペクタクルが繰り広げられていたようです)。

 

この「昭和テイスト」と「最新(っぽい)テクノロジー」が交互に押し寄せて来るため、脳がキャパオーバーして途中からはひたすら笑っていました

 

一体どうしてこんな施設ができたんでしょう…?

 

館長に話を聞いてみよう

f:id:tmmt1989:20170706170549j:plain

放心状態で売店にたどり着くと、館長が出迎えてくれました。

 

f:id:tmmt1989:20170709203533p:plain「お兄ちゃんたち、ミニゲームするかい? 景品あげるよ」

f:id:tmmt1989:20170709203556p:plain「景品もほしいですけど、ファンタジー館について聞きたいです。最初に作られたのはいつ頃なんでしょう?」

f:id:tmmt1989:20170709203533p:plain35〜40年前に『蒲郡ファンタジー館』という名前でオープンしたんだ。前のオーナーはもう亡くなってる」

f:id:tmmt1989:20170709203556p:plain「やっぱり貝好きの方だったんでしょうか」

f:id:tmmt1989:20170709203533p:plain「そうだな。フィリピンやオーストラリアや100カ国から貝を買って、ここを作ったと聞いてる。全部で約5500万個の貝が使われとるんだ」

f:id:tmmt1989:20170709203556p:plain「5500万個…⁉︎」

f:id:tmmt1989:20170709203533p:plain「当時は貝の値段も安かったんだけど、今は同じだけの貝を10億円出しても買えないよ。昔は現地で貝を採る人の日当も安かったから。それに、法律で海外からの持ち込みが禁止されてる貝も増えたからね。今じゃとても作れない場所だよ」

 

f:id:tmmt1989:20170707233351j:plain

あの坂上忍主演のオリジナル映画を制作するくらい、ファンタジー館ができた頃は景気がよかったそう。映画の制作費なんと3600万円! ちなみにビデオは定価3689円のところ、380円でセール販売されていました

f:id:tmmt1989:20170709203533p:plain「20年くらい前までは団体客がたくさん来てたんだけど、近くに大きな遊園地ができたりして、人が減って行ったんだな」

f:id:tmmt1989:20170709203556p:plain「なるほど」

f:id:tmmt1989:20170709203533p:plain「それで、お金持ちだった前のオーナーが破産してしまったんだ。フィリピンに6億円の島を買ってホテルを建てたんだけど、それが火事になってしまったのがきっかけらしい。それでファンタジー館も手放すことになったんだ。それが2010年くらい」

f:id:tmmt1989:20170709203556p:plain「そこで館長に買い取る話が」

f:id:tmmt1989:20170709203533p:plain「私が骨董品好きなもんだから、『龍をやるから見に来い』と言われてな。そしたらもう建物の前でショベルカーが待ってたのよ。10台くらいな。取り壊す寸前なわけ!」

f:id:tmmt1989:20170709203556p:plain「ギリギリのタイミングでしたね…!館長はここへ来たことはあったんですか?」

f:id:tmmt1989:20170709203533p:plain「いや、なかった」

f:id:tmmt1989:20170709203556p:plain「え、なかったんですか」

f:id:tmmt1989:20170709203533p:plain龍もそのとき初めて見たよ。電気も止まって真っ暗でな、懐中電灯で照らしながら見たわけ」

 

f:id:tmmt1989:20170707223739j:plain

「やる」と言われた龍がこちら。全長数mはあります

f:id:tmmt1989:20170709203533p:plain「こんなでかい龍持って帰れんわと思ったんだけど、その時に現場に居合わせた銀行員が、たまたま若い頃の知り合いだったんだ。そいつが『お金貸すから』と言うもんだから、建物ごと買うことになった」

f:id:tmmt1989:20170709203556p:plain「仕込まれていたんじゃないかと思うぐらいの話ですね。下世話な話で恐縮ですが、おいくらくらいで…?」

f:id:tmmt1989:20170709203533p:plain「それは言えないくらいよ」

f:id:tmmt1989:20170709203556p:plain「言えないぐらいの金額…。もしかしてお金持ちですか?」

f:id:tmmt1989:20170709203533p:plain「いや、金はないよ。貝ならあるけど

 

珍スポの維持はお金がかかる

f:id:tmmt1989:20170707234654j:plain

普段は公開してないファンタジー館の2階へ移動しながら、インタビューは続きます。

 

f:id:tmmt1989:20170709203556p:plain「うわー広い!ここはなんですか?」

f:id:tmmt1989:20170709203533p:plain昔は2階がレストランだったんだ。1200人収容できる規模でね。でも今は使ってない

f:id:tmmt1989:20170709203556p:plain「こんなスペースがあるのにもったいない…」

f:id:tmmt1989:20170709203533p:plain「2階にスプリンクラーをつけるのに1億円くらいかかるのよ。そこまで余裕がなくて、1階だけ改装してオープンしたんだ」

f:id:tmmt1989:20170709203556p:plain「買い取った時、ファンタジー館はどんな状態だったんですか?」

f:id:tmmt1989:20170709203533p:plain「貝のオブジェは傷んどった。だから修繕したんだ」

f:id:tmmt1989:20170709203556p:plain「やっぱり職人さんを呼んで…」

f:id:tmmt1989:20170709203533p:plain「貝をボンドで貼り付けただけだよ。若い衆も呼んで、私も一緒に手作業でな。貝は倉庫にいくらでもあったからなぁ。ちなみにトラック3〜4台分はある」

f:id:tmmt1989:20170709203556p:plain「芸能人のバレンタインチョコみたいな規模。CGアニメは誰が手がけたんですか?」

f:id:tmmt1989:20170709203533p:plain「原案を私が考えて、地元の製作会社に発注したんだ。ミニシアターを見ながら海底冒険をする『歩く映画館』をテーマに、元のオブジェに加えて改装したんだよ」

f:id:tmmt1989:20170709203556p:plain「だから昭和感と平成感が同居してたんですね」

 

f:id:tmmt1989:20170707235306j:plain

レストランで使用されていたテーブル

 

f:id:tmmt1989:20170707235338j:plain

天板一面に貝!テーブル1台を作るのにいくらかかったんだろうか…

 

f:id:tmmt1989:20170707235519j:plain

同じく2階にあるホール。テーブルの上の照明も、もちろん貝

 

f:id:tmmt1989:20170709203533p:plain「再オープンするのに、外壁も塗り直して看板も新しくしたんだ。それだけで数千万円かかってな。それからなんでも自分でやるようになった」

f:id:tmmt1989:20170709203556p:plain「そんなにするんですね。維持費も大変そうな…」

f:id:tmmt1989:20170709203533p:plain「節約のために照明は全部LEDにしたね。箱物はお金がかかるんだ」

f:id:tmmt1989:20170709203556p:plain「リニューアルにかかった費用って総額どれくらい…?」

f:id:tmmt1989:20170709203533p:plain「とても言えんわ。たくさんだよ。2階は今のところ宝の持ち腐れだね」

f:id:tmmt1989:20170709203556p:plain「まだ使う予定はないんですか?」

f:id:tmmt1989:20170709203533p:plain「私の息子が食堂をしてて、100人分くらいなら食事を作れるようになった。だからイベントや、結婚式のパーティーなんかはできると思うんだ。どんどん使ってほしいね」

 

f:id:tmmt1989:20170708005523j:plain

ステンドグラスの窓があるお座敷も。かつてはここで団体客たちが食事をしていたそう

 

世界のどこにもこんな施設はない

f:id:tmmt1989:20170708005603j:plain

f:id:tmmt1989:20170709203556p:plain「そういえば館長さん、本業は別にあるんですか?」

f:id:tmmt1989:20170709203533p:plain「私は魚屋だよ。車で1時間くらいの碧南市に会社がある。朝3時起きで市場へ行って、自分の店へ行って、それからファンタジー館へ来るんだ。毎日、毎日。ファンタジー館は水曜が休みだけど魚屋は営業してるから、私は休みなんかないの。なんでその年でそこまでやるんだと友達にも言われるよ」

f:id:tmmt1989:20170709203556p:plain「趣味ってありますか?」

f:id:tmmt1989:20170709203533p:plain「骨董品集めが趣味だけど、安いものばっかりだよ。この間、ダビデ像をもらったのよ。6mくらいある」

f:id:tmmt1989:20170709203556p:plain「え!」

f:id:tmmt1989:20170709203533p:plainただ6mもあるから外から股間が丸見えになるだろ? だから庭に寝かせとるんだ。あっはっはっ

f:id:tmmt1989:20170709203556p:plain「めちゃめちゃよくできた話だ…。ファンタジー館の龍もそうでしたけど、大きいものを譲る時は館長に話がいくんですね」

f:id:tmmt1989:20170709203533p:plain「そうそう、タダが好きだから。もらっちゃうんだぁ

f:id:tmmt1989:20170709203556p:plain「その癖で珍スポまで継いだんですね。すごい!」

  

おわりに

f:id:tmmt1989:20170708221215j:plain

最後に、ファンタジー館は館長にとってどんな場所か聞いてみました。

 

f:id:tmmt1989:20170709203533p:plain「世界のどこにもこんな施設はないよ。世界一だと思ってるから、もっとたくさんの人に来てほしい」

f:id:tmmt1989:20170709203556p:plain「外国の人も好きなんじゃないかと思います。2階もイベントに使えそうですし、いろんな可能性はありそうですね」

f:id:tmmt1989:20170709203533p:plain「そうだな。ただ、今のところ宣伝をやる費用がないのよ」

f:id:tmmt1989:20170709203556p:plain「この記事で宣伝しますよ!」

f:id:tmmt1989:20170709203533p:plain「ありがたい。記事のお礼に貝をあげるよ。金はないけど貝はあるから

  

元のオーナーの貝への情熱に現館長のサービス精神が加わり、世界でも唯一無二の存在となった「竹島ファンタジー館」。子どもから大人まで楽しめる場所として心からおすすめします。近くには温泉もあり、夏休みの旅行先にぴったりです。

愛知を訪れた際にはぜひ一度、遊びに行ってみてはいかがでしょうか。
 

 

f:id:tmmt1989:20170709122730j:plain

けして貝で買収されたわけではありません。

 

 

竹島ファンタジー館
住所:愛知県蒲郡市竹島町28-14
営業時間:9:00~17:00(7〜8月は〜17:30、11〜2月は〜16:30)
電話番号:0533-66-3888
定休日:毎週水曜日

入場料:大人1000円(小・中学生500円、3歳以上の幼児300円)
http://www.fantasykan.jp/

 

  

書いた人:友光だんご

f:id:tmmt1989:20170202163058j:plain

編集者/ライター。1989年岡山生まれ。Huuuu所属。犬とビールを見ると駆けだす。Facebook:友光 哲 / Twitter:@inutekina / 個人ブログ:友光だんご日記 / Mail: dango(a)huuuu.jp


離島薬剤師が語る「お金の話」「仕事のやり甲斐」「島暮らしの難しさ」

$
0
0

f:id:madmania:20170717025814j:plain

こんにちは、ジモコロ編集長の柿次郎です。

 

みなさんは「Dr.コトー診療所」というドラマ(原作はマンガ)をご存知でしょうか。

離島に診療所を開いた医師が、孤軍奮闘しながら、少しずつ島民に愛されていくというお話なんですが……

 

Drコトー診療所 写真集

Drコトー診療所 写真集

 

 

あれって実際はどうなのでしょうか? 

離島といっても医療は絶対必要。でも都会と離島では労働条件がかなり違うハズ。

わざわざ離島に行きたいなんて医療関係者がいるのでしょうか?

 

住まいはどうすんの?

ぶっちゃけ、給料高いの?

人間関係は?

 

というわけで今回は、沖縄本島から西におよそ60kmのところにある粟国(あぐに)島で働く薬剤師に、実際のところどうなの!?という本音を聞いてみたいと思います。

 

ただし、僕には薬剤師の知識はゼロなので、現役の薬学部学生に同行してもらうことにしました。

  f:id:madmania:20170717025816j:plain

千葉大学薬学部の学生、寺田さん(左)です。

では、さっそく二人で、離島薬剤師の給料や人間関係など、知りたくてしょうがなかったことを質問しにいきましょう!

 

 

離島で働く薬剤師に話を聞いてみた

 

f:id:madmania:20170717025750j:plain

東京から飛行機とフェリーを乗継ぎ5時間超。美しい海に囲まれた人口700人の小さな島、粟国島に到着しました。

人口700人って、体育館に全員入りきっちゃう人数ですね。

 

沖縄本島との距離感はこんな感じ

 

f:id:madmania:20170717025809j:plain

そしてこちらが、2015年8月にオープンしたばかり。粟国島唯一の調剤薬局「あぐに薬局」です!

 

f:id:madmania:20170717025807j:plain

ここで働いている薬剤師の岡野紘子さんに気になる質問をぶつけてみましょう!

 

f:id:madmania:20170718102556p:plain「はじめまして、よろしくお願いします」

f:id:madmania:20170718102542p:plain「薬学部で勉強している学生として、離島で働くってどんな感じだろうって興味津々です! いろいろ質問させて頂きたいです」

f:id:madmania:20170718102548p:plain「はい、何でも質問してくださいね」

f:id:madmania:20170718102542p:plain「ではさっそくですが……離島ってAmazonは届くんですか?

f:id:madmania:20170718102548p:plain「そこが一番気になってたんだ!? えーっと、もちろん届きますよ。生活用品含めて、手に入らないものはあまりないですね。Amazonだと注文してから3~4日くらいで届く事が多いかな」

 

f:id:madmania:20170717025757j:plain

f:id:madmania:20170718102542p:plain「わー、そうなんですね。良かった…」

f:id:madmania:20170718102556p:plain「都会にいると『商品を注文した翌日に届く』というのが当たり前になるもんなぁ」

f:id:madmania:20170718102542p:plain「ちなみに楽天やYahoo! ショッピングはどうでしょうか」

f:id:madmania:20170718102548p:plain「もちろん注文できます。ただ、海の状態が悪くてフェリーが止まってしまうと、届くまでに1週間以上かかることはよくあります……あれ? 薬剤師のことについての取材でしたよね? ショッピングの取材でしたっけ?」

 

 

f:id:madmania:20170717025819j:plain

ちなみに―

離島で働くというと、気になるのが交通の便。台風が近づいてくるとフェリーの運航がない時もあるとか。

そんな時は『ヘリタクシー』という手段も!

 

最大5名まで搭乗可能で、1フライトの料金は通常10万8000円(税込)が、沖縄県の補助によりなんと80%オフの2万1600円!

 

沖縄本島↔︎粟国島がフェリーで片道2時間かかるところ、ヘリだとたった30分で移動できるとか。

割り勘すれば安いし、グループで移動するならヘリがいいかも!

 

 

離島で働くと稼げるの?

f:id:madmania:20170717025759j:plain

 

f:id:eaidem:20170718150741p:plain「では、ここからは具体的な話を聞きたいんですが、なぜわざわざ不便そうな離島で働こうと思ったんでしょうか」

f:id:eaidem:20170718121947p:plain「ここに来る前は、沖縄本島の大きめの病院の院内薬局で働いてました。ちょうどタイミングがいろいろ重なってここに配属されたって感じなので、“わざわざ”ってわけではないかな。だから最初はすごく不安でしたよ」

f:id:madmania:20170718102542p:plain「それでも離島でやってみようと思えたのは、やっぱり稼げるからですか?」

f:id:madmania:20170718102548p:plain「うーん、離島の調剤薬局はここが初めてなので、お給料の相場は分からないですね。でも、お金が入って来る云々よりも、出ていくところが少ないので結果で言えば、貯まります!

f:id:madmania:20170718102542p:plain「おぉぉ!」

f:id:madmania:20170718102548p:plain「 私が今住んでいる家は借家の2DKの一軒家なんですけど、家賃は会社持ちなので私の負担はゼロなんです。食事も何だかんだおすそ分けを頂けたりするので、かなり抑えられますね」

f:id:madmania:20170718102556p:plain「都会の薬局で働くのと貯金額だけで比較したら、相当な年収レベルになりそうですね。2〜3年間働くだけで1,000万円以上貯金できるんじゃないですか!?」

f:id:madmania:20170718102548p:plain「お金の話になった途端、めちゃくちゃテンション上がってますね」

f:id:madmania:20170718102556p:plain「へき地で働く人って『自然とともに暮らしたい』とか『お金よりも大切なものが、ここにはある』ってモチベーションが多いのかなって思ってたんですが、岡野さんは貯金通帳見てニヤニヤするタイプなんですか?」

 

f:id:madmania:20170717025800j:plain

f:id:madmania:20170718102548p:plain「いえ、通帳は全く見ないですね。記帳すらしていなくて『早く記帳してください』っていう手紙が来てます(笑)」

f:id:madmania:20170718102556p:plain「これは相当貯めてるぞ……」

f:id:madmania:20170718102542p:plainお金を稼ぎたい!というモチベーションで、こういった場所に来る人をどう思いますか?」

f:id:madmania:20170718102548p:plain全然良いと思いますよ!ちゃんと仕事をこなすのは大前提として、目的が『稼ぎたい』で来るのはありでしょう。実際、私の友達でもお金がたくさんもらえるから田舎で働くよっていう人もいます」

f:id:madmania:20170718102542p:plain「でも、稼げる反面、島の暮らしって慣れる努力が必要そうに思えるのですが、どうでしょうか?」

f:id:madmania:20170718102548p:plain「私は幸い島の暮らしに苦労は感じませんでしたが……これは、人それぞれ合う合わないがあると思います。『ちょっとくらい大変でも、待遇がいいから頑張れる!』という人もいると思いますし」

 

 

離島の人付き合いってどんな感じ?

 

f:id:eaidem:20170718152046j:plain

f:id:madmania:20170718102542p:plain「人口が少ない離島だと、人付き合いとかどんな感じなんでしょう」

f:id:madmania:20170718102548p:plain「この島に来てから1年以上経ちましたが、友達は島民以外にも、外から移住してきた方や、地域おこし協力隊という活動をしている人たちなど、色んな方と友達になることができましたよ

f:id:madmania:20170718102542p:plain「この島に初めて来た時は、知っている人が誰もいなかったんですよね?」

f:id:madmania:20170718102548p:plain「いませんでした。よそ者が受け入れられるのかな?という不安は、正直ありました」

f:id:madmania:20170718102542p:plain「住んでみて実際はどうでした?」

f:id:madmania:20170718102548p:plain「来てみたらそんなことは全然ありませんでした! みんな気軽に話しかけてくれるし、家に帰ったら玄関に果物や野菜とかが置いてあったりもして。私がお返しにと、故郷の桃をおすそ分けしたら、桃がメロンになって返ってきたこともありました」

f:id:madmania:20170718102556p:plain「素敵な繋がり方ですね~。とはいえ、コミュニティが狭いと、噂とかもすぐ広まりそう。恋愛とかも難しいのでは? みんな知り合いだから浮いた話があるとすぐ広まっちゃうので、好きな人がいても一歩踏み込めないとか」

f:id:madmania:20170718102548p:plain「たしかに噂は良いことも悪いこともすぐ広まりますね。話にいっぱい尾ひれがつくことも…(笑)。人と人との距離がとても近いので、プライベートをしっかり確保したい人は、ちょっと大変かもしれないです」

f:id:madmania:20170718102542p:plain「都会育ちの希薄な人間関係が当たり前と思ってたら、戸惑いそうですね」

 f:id:madmania:20170718102548p:plain「それは人や場所によると思いますが……私は、住むんだったら楽しく地域の人と仲良くしたいし、島のみんなに住まわせてもらってるんだなっていつも感謝しています

f:id:madmania:20170718102556p:plain「愛が強い人だなぁ……」

 

 

あぐに薬局ができた理由

f:id:madmania:20170717025803j:plain

f:id:madmania:20170718102556p:plain「この薬局は昨年オープンしたんですよね? 以前は診療所で薬が処方されていたのに、今は薬局で処方されるとなると、患者さん的には手間になってしまうと思うのですが、この薬局の役目って何かあるんですか?」

f:id:madmania:20170718102548p:plain「たしかに患者さんからしたら『今までは診療所でもらえてたのに!』となりますよね。ここに調剤薬局が出来て薬剤師がいるメリットは、患者さんに対して細かいケアができるというのがあります」

f:id:madmania:20170718102556p:plain「ケアってどういうことをするんですか?」

f:id:madmania:20170718102548p:plain「患者さんがわざわざ病院や診療所まで行かなくても、気軽に体の不調や悩みなどの相談ができたり、薬の飲み方などの指導が受けられたりします。必要だったら薬局から診療所の先生に連絡もしますね」

f:id:madmania:20170718102556p:plain「なるほど。病院や診療所が混んでいて、なかなかお医者さんに相談できないってこともありますもんね」

f:id:madmania:20170718102548p:plain「また、この島で私が薬剤師として働くやりがいにも繋がっているのですが、お年寄りの薬の飲み忘れ対策もケアの一つです。例えば、ご自宅までお邪魔して生活環境を見せていただいたり、実際にどれだけ薬が残っているのかなどを見て、患者さんの生活背景まで分かった上で、一人一人に合った対応をすることができます」

f:id:madmania:20170718102556p:plain「たしかに、お年寄りが多い地域はそういったアドバイスは大切ですね!」

 

f:id:madmania:20170717025806j:plain

f:id:madmania:20170718102548p:plain「そしてもう一つのメリット。これはここの薬局に限らず、全国に薬局があることの利点になりますが、処方の間違いを防げるという点です」

f:id:madmania:20170718102556p:plain「えっ!お医者さんや看護師さんが薬を間違えることなんてあるんですか!?」

f:id:madmania:20170718102542p:plain「私もいま薬局でバイトしているんですけど、以前、『子供の患者さんなのに大人の量の薬が出ている』といった処方量のミスがありました」

f:id:madmania:20170718102548p:plain「先生も看護師さんも人間ですから、処方する薬の種類や量を間違える可能性はゼロではありません。薬局の薬剤師がダブルチェックすることで、そのようなミスを未然に防ぐことができるんです。こうやってそれぞれの仕事を分けることを、医薬分業といいます」

f:id:madmania:20170718102556p:plain「僕、薬剤師さんの存在意義がよく分かりませんでしたが、そういうことだったんですね。医者の先生や看護師さんがまさか『薬を間違える』とは思ってませんでした……」

 

f:id:madmania:20170717025758j:plain

 

f:id:madmania:20170718102542p:plain「このあぐに薬局には1日にどれくらいの患者さんが訪れるんですか?」

f:id:madmania:20170718102548p:plain「一日平均20人くらいですかね。基本的に全て一人でやっています」

f:id:madmania:20170718102556p:plain「ひとりだとやることが多くて忙しそうですね…! 残業とか結構ありそう!」

f:id:madmania:20170718102548p:plain「全く忙しくないと言ったらウソになりますが、そこまで大変ではないですよ。基本の業務時間は9時から18時で、たまに残業するくらいです。その時でも遅くても20時くらいには帰っています」

f:id:madmania:20170718102542p:plain「そうなんですね。もっと忙しいと思ってました」

f:id:madmania:20170718102548p:plain「薬剤師としては、以前よりも患者さんひとりひとりにかける時間が増えたのが幸せですね! 離島だと島民みんなの顔がわかるし、処方されている薬が変わったなとか、体調が今どうなのかというのも分かりますから」

f:id:eaidem:20170718150741p:plain「なるほど。顔が見える医療……羨ましい!」

f:id:madmania:20170718102548p:plain「それと先日、事務として働いてくれる島の方が見つかったので、今後は今よりも残業や負担が減ると思います!」

f:id:madmania:20170718102556p:plain「へぇー、島の雇用にも一役買ってるんですね」

 

 

 

島ならではの良さって?

 f:id:madmania:20170717025811j:plain

f:id:madmania:20170718102542p:plain「粟国島のいいところってどんなところでしょうか」

f:id:madmania:20170718102548p:plain「まずは美しい自然ですね。海は本当に綺麗です。あと、見たことがないくらい星がよく見えます。こんなところで生活できて、本当に幸せだなぁ……と心から感動する瞬間ですね」

 

f:id:madmania:20170717025751j:plain

粟国島の夜空 撮影:四方 正良さん(粟国村観光協会)

 

f:id:madmania:20170718102548p:plain「島に来たばかりの頃は、自宅から薬局まで歩いて『空が青いなぁ、海が綺麗だなぁ、夕日が美しいなぁ』と毎日感動してました」

 

f:id:madmania:20170717025749j:plain

粟国島の夕日 撮影:岡野さん

 

f:id:madmania:20170718102542p:plain「うわぁ、本当に素敵!」

f:id:madmania:20170718102548p:plain「まあ、慣れてくると『今日は暑いから車で行こう』ってなっちゃうんですけどね(笑)」

f:id:madmania:20170718102556p:plain「実際住んでたら当たり前になっちゃうのか」

f:id:madmania:20170718102542p:plain「ちなみに粟国島には娯楽施設みたいなのはありませんよね。休日は何をして過ごしてますか?」

f:id:madmania:20170718102548p:plain「私は海が大好きなんです。夏の休日はスキューバダイビングシュノーケリングをして過ごしていますね!」

 

f:id:madmania:20170717025818j:plain

シュノーケリングをしている岡野さん

f:id:madmania:20170718102548p:plain「最近までは『ギンガメアジのトルネード』というのが凄い時期で、毎週これを見るために潜ってました。ダイバーには有名なスポットで、これ目的に来島する観光客の方も沢山いました」

f:id:madmania:20170718102542p:plain「スキューバダイビング好きには最高の島なんですね」

 

f:id:madmania:20170717025817j:plain

ダイバーには有名な粟国島の「ギンガメアジ トルネード」 撮影:岡野さん 

 

f:id:madmania:20170718102542p:plain「他にはどんな過ごし方がありますか?」

f:id:madmania:20170718102548p:plain「島の人が魚捕りに連れて行ってくれたりするので、モリとか網とか追い込み漁させてもらったりしてます」

f:id:madmania:20170718102556p:plain「自分で獲った魚っておいしいんだろうなぁ。じゃあ、食事の面では言うことなしですか」

f:id:madmania:20170718102548p:plain「この島では魚も捕れるし、野菜ももらえるし、大抵のものはおいしいです。ただ、豚や牛などの生肉が売っていないんですよね。不満といえばそれが一番の不満かな。冷凍のものはあるんですけどねぇ……」

 

f:id:madmania:20170717025815j:plain

ちなみにヤギ肉を食べるという文化はあるんですが、岡野さんは独特の臭いが苦手なんだそう

 

 

薬剤師の仕事で大事なこと

f:id:madmania:20170717025802j:plain

f:id:madmania:20170718102542p:plain「薬学部の学生として聞きたいんですが、薬剤師の仕事で大事なことって何なんでしょうか」

f:id:madmania:20170718102548p:plain「患者さんから言葉を引き出す質問をすることではないでしょうか」

f:id:madmania:20170718102542p:plain「言葉を引き出す質問……?」

f:id:madmania:20170718102548p:plain「ちょっとした雑談の中でさりげなく探る質問をするんです。そこで『あ、さてはお薬を飲んでないな?』と気付けたり、逆に、お薬が必要無いのに何か飲まないと気が済まない患者さんは適切にアドバイスしたりして」

f:id:madmania:20170718102556p:plain「あぁ…『わざわざ来たのに薬の一つも出さねぇのか!』って怒る人いそう!」

f:id:madmania:20170718102548p:plain「そういう時は『胃腸が弱っているならアロエを食べるといいですよ』という感じで、患者さんの気分を損ねないように上手く話を持って行くとかね。人として柔軟に接することができなければ、ロボットでもいいわけですから」

f:id:madmania:20170718102556p:plain「相手とコミュニケーションをしながら、その人を理解したうえで適切な対応をするってことですね」

f:id:madmania:20170718102548p:plain「患者さんのことを理解してあげることが薬剤師の役割だと考えています。私は、『わからないことがあったら、あそこの薬剤師に聞きに行こう』と言われる存在になりたいんです」

 

f:id:madmania:20170717025756j:plain

f:id:madmania:20170718102548p:plain患者さんの顔を見ることができるこの島では、仕事にとってもやりがいを感じることができます。薬剤師としては本当に幸せなことだと思います」

f:id:madmania:20170718102556p:plain「はぁ、立派な人だわ…。今日はいい話聞けました。寺田さんどうです?」

f:id:madmania:20170718102542p:plain「そうですね、今回お話を聞いて、『離島は稼げそう』から、『離島は稼げる!』へと変わりました」

f:id:madmania:20170718102556p:plain「そこかい!」

 

f:id:madmania:20170717025801j:plain

f:id:madmania:20170718102542p:plain「お金以外にも、自分が将来どのような薬剤師になりたいかというビジョンが見えてきた気がします! 今日はありがとうございました!」

f:id:madmania:20170718102548p:plain「こちらこそ、ありがとうございました!」

f:id:madmania:20170718102556p:plain「あっ、最後にひとつだけ質問いいですか?」

 

f:id:madmania:20170717025808j:plain

f:id:madmania:20170718102556p:plain「店内にお薬色々ありますけど、岡野さんが個人的に一番好きな薬って何ですか?」

f:id:madmania:20170718102542p:plain「知って何になるの?」

f:id:madmania:20170718102548p:plain「えーっと、あっこれです!」

f:id:madmania:20170718102542p:plain「あるんだ」

 

f:id:madmania:20170717025804j:plain

f:id:madmania:20170718102548p:plain葉酸錠。パッケージが好きなんですよ。かわいいですよね」

f:id:madmania:20170718102556p:plain「ありがとうございます。満足しました」

 

f:id:madmania:20170717025810j:plain

ゆっくり流れる時間の中で、美しい自然と優しい住民に囲まれて、お金もいっぱい稼げる離島薬剤師の仕事はとても魅力的ですね。

 

これから薬剤師を目指す学生の皆さんや、現役薬剤師の方も是非、離島やへき地で働く薬剤師を目指してみてはいかがでしょうか!

 

 

最後に今回の取材のダイジェストムービーをどうぞ!


 

 

 

 

 

さて、本記事の依頼主である株式会社梟屋(ふくろうや)では、今後も離島薬剤師の現場を取材をしていくそうで、今回の岡野さんのような取材を引き受けてくれる離島の薬剤師さんや、離島の病院、薬局を募集しています。

 

離島の医療について広く知ってもらいたい、興味がある、という方は問い合わせフォーム(https://fukurouya.co.jp/contact/)から気軽に連絡してみてください!

 

 

※ この記事は2016年10月に公開された「絶景の離島で『薬剤師』をやると高待遇で働けるって知ってた?」を再編集したものです

  

<広告主>

株式会社梟屋

 

徳谷 柿次郎

f:id:kakijiro:20170530121855j:plain

株式会社Huuuu代表取締役。ジモコロ編集長として全国47都道府県を取材したり、ローカル領域で編集してます。趣味→ヒップホップ / 温泉 / カレー / コーヒー / 民俗学など Twitter:@kakijiro / Facebook:kakijiro916 Mail: kakijiro(a)gmail.com

 

【8コマ漫画】木下晋也 『特選!ポテン生活』 (16) - おもひでぽろぽろ/逸材

$
0
0

 f:id:eaidem:20160628120135p:plain

 

<ポテン生活|一覧>

  

f:id:madmania:20170724131254j:plain

f:id:madmania:20170724131255j:plain

 

 

 

f:id:madmania:20170724131256j:plain

f:id:madmania:20170724131257j:plain

 

<ポテン生活|一覧>

 

●「ポテン生活」とは?

ギャグ漫画界の新鋭・木下晋也が描く、の~んびりして、クスッとしてしまう8コママンガ。独特の中毒性から、10巻までの単行本は大きな話題になりました。ジモコロでは、そんな「ポテン生活」から、おもしろかった話を毎月2本、選り抜きでお届けしますよ!

 

 

書いた人・木下晋也

f:id:eaidem:20160322122138j:plain

1980年大阪生まれ。2008年、『ポテン生活』で第23回MANGA OPEN大賞受賞。単行本『ポテン生活』全10巻、『おやおやこども』が好評発売中。Docomoエンタメウィークで『マコとマコト』連載中。木下晋也公式サイト、cakesでもいくつか作品を公開中です。趣味はプロレス観戦。TwitterFacebook

 

ジモコロは求人情報サイト「イーアイデム」の提供でお送りしています

1/12サイズの巨大スラム・九龍城!? 異端のドールハウス作家が語る「汚しの美学」

$
0
0

f:id:kakijiro:20170725180637j:plain

ドールハウス。

 

一般的に1/12スケールで作られたミニチュアの家のことを指し、部屋の内装や調度品も制作します。

可愛らしい趣味とあって、ドールハウス作家の8割は女性。ほとんどの作家さんが可愛くてキレイなミニチュアを作るなか、ひときわ異色のドールハウスを作りつづける作家さんがいるのをご存じでしょうか。

  

f:id:matsuzawa7:20170628141241j:plain

 

 

f:id:matsuzawa7:20170628141345j:plain

「廃墟のドールハウス」を得意とする遠藤大樹さんです。

 

禍々しい空気を放つこの作品は、香港にあった巨大スラム・九龍城(クーロン城)をモデルにしたドールハウス。

ゴミが散らかった道路、乱雑にエロチラシが貼られた薄汚れた壁、からまった電線があまりにもリアルです。

 

f:id:matsuzawa7:20170628141513j:plain

人間と比較するとこんなに小さい…!

 「貼った壁にサビを作ったり、ツタを這わせたりしてるときが最高に楽しい。汚しが楽しいです」と語る遠藤さん。

はじめて見たドールハウスのトイレが、あまりにピカピカで一度も使われてないようだったそうです。一般的なドールハウスは汚しをあまりせず、1枚の絵のように美しく仕上げるのが特徴。

そこで遠藤さんは人間らしさがないと面白くないな、ひたすら人間らしいものを作ってやろうと胸に誓い、これだけの生活感と使用感が溢れるドールハウスを作るようになりました。
 

f:id:matsuzawa7:20170628151300j:plain

もともとは歯科医師を目指して学校に通っていた遠藤さん。

体を壊して中退したのですが、せっかく買った石膏を削る道具や細かい作業をする技術を、そのまま使えるのは何かなとかんがえたときに辿りついたのがドールハウスだったそうです。

 

www.youtube.com

ドールハウス制作を始めたのは2009年頃。模型作家・芳賀一洋さんの教室に通って、はんだごての使い方や薬品で金属を黒く染める技術などを習いました。

これまで制作したドールハウスは小さいものをふくめて20個ほど。普段は茨城の工房で制作に励んでいます。

 

見立ての技術! みそ漬けの包装紙が革バッグに変身する?

 

f:id:matsuzawa7:20170628140542j:plain

このミニチュアの革バッグ、質感が渋くてかっこいいですよね。

みなさんにちょっと考えてほしいのですが、どうやってこの質感を出してるとおもいますか?

 

実は・・・

 

f:id:matsuzawa7:20170628140651j:plain

 「おとうふの味噌漬けのパッケージ」をそのまま使っているんです。

 

あの渋い革バックが、味噌漬けのパッケージの使い回しだなんて信じられません。

遠藤さんは「それほど難しく考えず、100円均一で売ってる物やお菓子の包装紙など身の回りにあるものでドールジオラマは作れます。アイデア次第ですね」と当たり前のように話します。

 

 

f:id:matsuzawa7:20170628140557j:plain

 

f:id:matsuzawa7:20170628140631j:plain

 おもむろにゴソゴソと箱から取りだしたのは家具の足の部分。

 

「こうやってひっくり返して置くと、樽にも見えるし、椅子にも見えますよね」

 

 

f:id:matsuzawa7:20170628140759j:plain

 

「これは工場で拾った鉄の残骸。必要な部品をパンチで抜いたあとのゴミですね。でも、こうやって横にすれば錆びたベランダの柵になります」

 

 

f:id:matsuzawa7:20170628140906j:plain


「下の白いやつはノートパソコンの裏ブタ。でも、こうやって地面に置けばドブの側溝のフタにも見えますよね?」

 

見立ての力で、ゴミが家具にもインフラにもなるのです。すごい。

 

使えそうな物はなんでも集めて寝かせておくので、5~6年使ってなかったパーツが急に必要になると「どこにやったかな?」と家中を探しまわることもあるのだとか。

 

 

f:id:matsuzawa7:20170628161645j:plain


この床屋のサインポール。銃の薬きょうとパチンコ玉で作っているそうです。

意外な物同士を組み合わせて、リアルな質感を追求する姿勢が狂気的…!

 

「本物に近づけたリアリティではないけど、組み合わせの工夫で自分だけのオリジナリ

ティが出ます」と遠藤さん。

 

こういうミニチュアはてっきりゼロから手作りしてるものばかりだとおもっていたので、これなら初心者でも楽しんで妄想を膨らませそうです。

 

f:id:matsuzawa7:20170628141554j:plain

プラモデルの捨てる部分(ランナー)も、材料パーツとして使えるのでたくさん保管しています。

  

f:id:matsuzawa7:20170628141755j:plain

たとえば、左の蛍光灯はランナーで制作。こういう作り方は珍しく、木やプラスチックでゼロから作るのが普通だとか。遠藤さんの技術が光ります。

   

f:id:matsuzawa7:20170628134956j:plain

さらにこちらは・・・

 

f:id:matsuzawa7:20170628135231j:plain

京極夏彦の小説『書楼弔堂』の表紙になったドールハウスです。

日本家屋は見慣れている分、極端なアレンジをすると違和感を覚えます。そのため海外をモデルにしたドールハウスよりも、寸法も正確に測り、釘を打つ位置から調べる徹底ぶり。

 

f:id:matsuzawa7:20170628135108j:plain

このドールハウスで一番手間がかかっているのは、意外なことに入口の「すだれ」。枝で作るにはあまりに細すぎるので、ワイヤーや紙、木などを使って試行錯誤しましたがどうもピンとこなかったとか。

最終的には蓮系の植物のスジを抜きだし、乾燥させて束ねたそうです

気の遠くなるような作業というか、そもそも植物のスジを抜き出すってどうやるんでしょうか。

 

キレイに作っても汚したくなる

f:id:matsuzawa7:20170628141241j:plain

冒頭でもお見せした巨大スラム・九龍城のドールハウスは、完成まで3か月もかかっています。 

 

f:id:matsuzawa7:20170628141513j:plain

 

f:id:matsuzawa7:20170628141345j:plain

「朝ご飯を食べて夜寝るまで、ずっと作業をし続ける。締め切り直前ともなると16時間ぶっ続けで作業することも珍しくないですね」

趣味でやってる人の中には、週末に一つずつミニチュアパーツを作って、1ハウス完成させるのに10年かかるなんてケースもザラ。3か月でも早いほうなんですね。

 

f:id:matsuzawa7:20170628141415j:plain

クーロン城のエレベーター内は、「アスベスト(石綿)」が施されています。芸が細かい。

 

f:id:matsuzawa7:20170628141309j:plain

ちなみにどうやって質感を再現しているのか尋ねたところ・・・

 

「このアスベストはタオルをちぎって貼りつけたものです。外壁のペンキは一回塗って直射日光に当てて、ポロっと剥がれたものをもう一度貼りつける。これでペンキ剥がれを演出できます」

 

説明されてようやく工程をイメージできる職人芸…! キレイに作るよりもむしろ一手間かかるわけですね。

 

 

f:id:matsuzawa7:20170628145618j:plain

 小さな自分になって、廃墟ドールハウスの中に入る妄想が楽しいと話す遠藤さん。

「ミニチュアの人形を入れてしまうとドールハウスがその人のものになってしまう気がするので、建物や小物だけで人の気配を感じさせるのが一つの到達点ですね」

ただし、物語が出て良い案配になるので、かならず動物は1匹入れているそうです。

 

f:id:matsuzawa7:20170628142746j:plain

これは映画「イージーライダー」に出てきそうなガソリンスタンド。

映画本編に出てくるわけじゃないけど、その世界観を想像して作ったドールハウスです。

  

f:id:matsuzawa7:20170628142617j:plain

「人間は作らないんですけど、そこに住んでる人の設定はきちんとします。廃墟探索と同じで、どんな人が住んでたのか考えるのがおもしろいんですよ」

 

バイクの横にある台に注目してください。いくつか空きビンが乗っていますが、栓抜きはなく、スパナが転がっています。

自由を求めてハーレーで旅するイージーライダーの主人公。ワイルドな性格なので豪快にスパナで開けちゃうんじゃないかとの設定です。

 

f:id:matsuzawa7:20170628142559j:plain

普通は水洗いしない革靴も、ワイルドに蛇口で洗って干してますね。

  

f:id:matsuzawa7:20170628142647j:plain

 

「こっから先は時間にしばられないぜ」とバイクの脇には時計が捨てられています。

 

 

f:id:matsuzawa7:20170628140143j:plain

 

f:id:matsuzawa7:20170628140157j:plain

これはアメリカ・ダウンタウンの治安が悪いエリアのコインランドリーをイメージしたドールハウス。制作期間は約半年。貧しい白人、ヒスパニックや黒人が独自ルールに従ってみんなで使っていて、待合い室のベンチもコーラで薄汚れています。

 

f:id:matsuzawa7:20170628140405j:plain

店先に置かれたバイクもボロボロ!

バイクの写真をたくさん集めて、乗ってるうちにどこが焼けつくかを研究し、新品のプラモを汚していったそうです。 

 

断面が嫌いな男の子っていますか?

f:id:matsuzawa7:20170628145655j:plain

 

f:id:matsuzawa7:20170628142015j:plain

廃車になった車が放置されてる廃ガレージ。

このハウスはクーロン城の10倍ほど手間がかかっていて、完成まで半年間かかった超大作。360°どこからでも鑑賞できるようにしているので裏側で補強することもできず、耐久度を高めるのが難しかったそうです。

 

 

f:id:matsuzawa7:20170628142117j:plain

シャッターを巻きあげる内部機構まで作っています

 

この廃ガレージもそうなのですが、遠藤さんのドールハウスは断面へのこだわりが異常です。普通は黒一色にして済ませる断面部分を精密に作っています。

 

この写真はシャッターの断面。どうしてもリアルに作りたかったので、壊れたシャッターを見るために、廃墟を巡りまわって群馬で見つけたんだとか。

 

f:id:matsuzawa7:20170628143141j:plain

「断面図鑑シリーズ」を何冊も持っていました


子どものころから断面が大好きで、断面図鑑シリーズは買いまくっていたとのこと。

「断面って嫌いな男の子いませんよね?空港の断面図、トキメキませんか?」と熱弁されていましたが、そんなシリーズがあること自体知りませんでした。

 

  

f:id:matsuzawa7:20170628143356j:plain

タイヤの断面

 

f:id:matsuzawa7:20170628143907j:plain

洗濯機の断面

 

f:id:matsuzawa7:20170628143333j:plain

ドラム缶の断面

断面の美学がすごい!

とにかく断面を作りたくて、タイヤも洗濯機もわざわざ断面にしています。ドラム缶の中にはガソリンが入ってますし、横のコンクリブロックの隙間にはわざわざ空き缶が詰まっています。異常な世界…。

 

業界の異端児に修復の仕事がまわってきた

f:id:matsuzawa7:20170628140302j:plain

遠藤さんはドールハウスの修復仕事もしています。

箱根のドールハウス美術館から、18世紀のアンティークドールハウスの修復依頼がある日届いたそうです。

 

f:id:matsuzawa7:20170628135955j:plain

 

f:id:matsuzawa7:20170628140506j:plain

これはカリフォルニアのトレーラーハウス。

貧しく生活してるヒッピーが住んでるという設定。浜辺に止まっているので潮風であちこち錆びています。 

テレビでこちらのトレーラーハウスが取りあげられた2年前から、ちょくちょく修復依頼が回ってきたそうです。

 

「元々業界でも異端児扱いだったんです。ドールハウスの王道かくあるべしってのが当然あって。いろいろ言われてたんですよね。でも、ドールハウス協会の会長さんが頭の柔らかい方で、テレビの取材依頼で私を推薦してくれました。ドールハウス作家のほとんどが女性。私のような男性がほとんどいないため、競合のない世界でやれているんでしょうね」

  

f:id:matsuzawa7:20170628151539j:plain

美術館やテレビ局からのドールハウスの制作依頼、レンタル依頼も多いそうですが、ミニチュア単体での制作依頼はあまり多くありません。

遠藤さんが作る物は異端過ぎて、お客さんが持ってるハウスとマッチングしないんだとか。

「ピカピカのお皿を飾りたい人は、私が作ってる廃墟感ある汚れた食器棚は買いません。一時期、迷走して売れそうなキレイなものを作ってたころもありますけど、やっぱりもっと汚したい、個性的にしたいっておもっちゃうんですよね」と笑っていました。

 

 

5分で酒瓶が作れちゃう

f:id:matsuzawa7:20170628152501j:plain

プラモの捨てる部分(ランナー)を切ります

 

f:id:matsuzawa7:20170628152535j:plain

使い終わったボールペンの替え芯も切ります

 

ワークショップを開いて、初心者向けにミニチュア作りを教えることもある遠藤さん。今回は5分もあればサクッとできちゃう酒瓶の作り方を教えてもらいました。

 

主な材料はプラモデルの捨てる部分ランナーと、油性ボールペンの替え芯ケースです。

音波で振動する超音波カッターを使うと、プリンのようにサクッと切れます。

 

 

f:id:matsuzawa7:20170628153031j:plain

 替え芯のなかに樹脂を流しこんで、ランナーを刺しこみます。

 

f:id:matsuzawa7:20170628152839j:plain

ランナーの先端にガラスビーズをくっつけ、飲み口を表現します。

これでもう大枠は出来たようなものです。

 

f:id:matsuzawa7:20170628153051j:plain

紫外線照射装置に入れると樹脂が固まり、パーツがくっつきます。

  

f:id:matsuzawa7:20170628153637j:plain

ビンの形は完成です。

 

f:id:matsuzawa7:20170628155801j:plain

旅行鞄に貼るラゲージラベルを小さくプリントしてシール化したものです。

好きなラベルを選びます。

 

f:id:matsuzawa7:20170628160319j:plain

先ほどの替え芯+ランナーに貼りつければ、酒瓶の完成です。

手先が不器用な私でも5分ほどで出来ました。

 

 

2017年8月、横浜ランドマークタワーで作品展があるよ

f:id:matsuzawa7:20170628163257j:plain

遠藤さんに「これからも汚しの効いたドールハウスを作りますか?」と質問したら、こんな答えが返ってきました。

 

「突き詰めればドールハウス作りの技術は似てしまうので、観たことない材料を使っていたり、他の人が作らない物を作ってるのが差別化になります。

アメリカにはミニチュア椅子だけを作って40年という元家具職人もいます。なんでも作る私みたいなのは技術力で勝てるわけがない。総合力でおもしろいドールハウスを作っていきたいですね」

 

f:id:matsuzawa7:20170718003827j:plain

遠藤さんの作品を生で見てみたいという方に朗報!

『遠藤大樹 作品展』

日程:2017年8月5日(土)、6日(日)10:00~18:00

場所:横浜ランドマークタワー33階パナホームビューノプラザ

料金:入場無料

記事では1つ1つ紹介しきれないほど細かいところまで作り込んでいるドールハウスの数々…。実物の情報量は異常です。貴重な機会なのでぜひ遊びに行ってください。

 

 

書いた人:観光会社「別視点」

f:id:tmmt1989:20170221103805p:plain

取材・文:松澤茂信 観光会社「別視点」の代表。「東京別視点ガイド」書いてます。(Twitter

撮影:齋藤洋平 観光会社「別視点」副代表。観光カメラマン。(Instagram

社長と語らう夕べ:「好きな漫画ベスト5」―それ絶対カッコつけてるよね?

$
0
0

f:id:eaidem:20170725164257j:plain

こんにちは、ジモコロを運営している株式会社バーグハンバーグバーグの取締役社長・シモダです。

 

社長という立場上、最近は社員とコミュニケーションをとりにくくなってきましたが……ここで、世の社長様に申し上げたい儀がございます。

会社という生き物がもっとも重視しなければいけないのは、外交よりもむしろ内部のコミュニケーションではないでしょうか?

 

そこで今回は、このようなお題で社員を集め、話し合いの場を設けてみました。

 

f:id:eaidem:20170725210930j:plain

 

招集したメンバーは3人。ここに僕を加えた4人で、設定したお題について話し合っていきます。社員の性格は「趣味」で把握できる!?

 

 

f:id:eaidem:20170725164323j:plain

 

メンバー紹介

f:id:eaidem:20170725143516p:plain取締役社長

好きな漫画ベスト5を語り合いたいだけと言いつつ、実はある目的があって社員を招集した。仕掛けは全員が一通り発表したあと作動する

f:id:eaidem:20170725143517p:plain部長

アニメ・漫画が大好物。萌えからグロまで何でもイケる性格だが、基本的に嗜好が子供

f:id:eaidem:20170725143515p:plainオモコロ編集長

どこから情報を得てくるのか、知る人ぞ知る名作を確実に抑えていたりする

f:id:eaidem:20170725143514p:plainジモコロ副編集長

学生時代はマンガ家を目指して雑誌に投稿していた漫画好き。一昔前の漫画に詳しい

 

 原宿のベスト5

f:id:eaidem:20170725143516p:plain「今回は社長も社員もなく、みんなで『好きな漫画ベスト5』を発表して、わいわい語り合いましょう」

f:id:eaidem:20170725143515p:plain「では一番手、僕の好きな漫画ベスト5はこちらです!」

 

f:id:eaidem:20170725164342j:plain

 

f:id:eaidem:20170725143508j:plain

f:id:eaidem:20170725143516p:plain「3位の『ワールドイズマイン』、よくタイトルを聞くけど、触れてこなかったなぁ。おもしろいの?」

f:id:eaidem:20170725143515p:plain「かなりブ厚い完全版が出ているので、漫画好きなら絶対に読むべき作品です」

f:id:eaidem:20170725143516p:plain「確かに『おもしろくなかった』という感想をあまり聞かないですね」

f:id:eaidem:20170725143515p:plain「ただ文字が多いし、内容もかなりハードな犯罪やバイオレンス描写があるんで、慣れてないと苦痛に感じるかもしれません」

 f:id:eaidem:20170725143514p:plain「ロックミュージシャンはほぼ全員、これ読めって言いますよね。昔のテキストサイトの管理人とかも」

f:id:eaidem:20170725143517p:plain「僕は読みましたけど、内容がハードすぎて気分悪かったわ……。漫画喫茶で明け方にこれ読みながら、コーンポタージュ飲んで、ソフトクリーム食ってたから、全部食い合わせが悪くて吐きそうだった

f:id:eaidem:20170725143515p:plainわかる人にはわかるんですけどねぇ」

 

真説 ザ・ワールド・イズ・マイン 1巻(1) (ビームコミックス)

真説 ザ・ワールド・イズ・マイン 1巻(1) (ビームコミックス)

 

 

▼その他、原宿の感想

・どうらく息子(尾瀬 あきら)

保育園で保父をしていた主人公が落語の世界に魅入られ、30歳にして落語家に弟子入りする話です。新人に厳しい演芸界で、色んなやらかしをしながら成長していく姿に共感が持てます。毎回古典落語を紹介してくれるので、落語初心者が読むのもオススメ!

どうらく息子(1) (ビッグコミックス)

 

・かぶく者(たなか 亜希夫、デビッド・宮原)
歌舞伎版の「ガラスの仮面」です。伝統と家柄を重んじる歌舞伎の世界で、「客を感動させれば勝ち!」とばかりに才能を発揮する天才歌舞伎役者の話。「ボールルームへようこそ」とかも好きなんですけど、天才を描く漫画って面白いですよね。

かぶく者(1) (モーニング KC)

 

 

山口のベスト5

f:id:eaidem:20170725143517p:plain「続いては僕がいきましょう。こちら!」

 

f:id:eaidem:20170725143512j:plain

 

f:id:eaidem:20170725143514p:plain結構有名な作品が多い中、『魔法少女オブ・ジ・エンド』はかなり異質ですね。僕は読んだことないです」

f:id:eaidem:20170725143516p:plain「知らないなぁ」

f:id:eaidem:20170725143517p:plain「とにかく、ガチガチに人が死ぬ漫画なんですよ。魔法少女がいきなり来て、主人公のクラスにいるやつをとにかく殺しまくる」

f:id:eaidem:20170725143515p:plain「え、魔法少女は味方じゃなくて敵なんだ」

 

f:id:eaidem:20170725164711j:plain

f:id:eaidem:20170725143517p:plain「グロさで話題になったと言ってもいい作品で、頭は爆発するわ、体はねじ切れるわ、臓物全部口から吐き出すわ……」

f:id:eaidem:20170725143514p:plain「それ読んで、『わーおもしろ~い!』って思うんですか? ヤバくない?

f:id:eaidem:20170725143517p:plainグロいの好きなんで。グロと聞くと読みたくなる。最近はそれだけじゃなくて、今まで謎だった伏線が回収されてきて、ストーリーも盛り上がってきました」

f:id:eaidem:20170725143516p:plain「実は僕もグロい作品はとりあえず手に取りたくなってしまいます。これ、読もうっと」

f:id:eaidem:20170725143515p:plain「二人とも、うちの家族にはあまり近付かないでほしい」

 

f:id:eaidem:20170725164649j:plain

 

魔法少女・オブ・ジ・エンド 1 (少年チャンピオン・コミックス)

魔法少女・オブ・ジ・エンド 1 (少年チャンピオン・コミックス)

 

 

▼その他、山口の感想

・さくらの唄(安達哲)

『お天気お姉さん』の作者が描くダークな青春もの。エグい話だけどエッチなシーンも多くて、興奮しながら読んでた

さくらの唄(上) (ヤングマガジンコミックス)

 

・レベルE(冨樫義博)

子どもたちが不思議な力を手に入れて原色戦隊カラーレンジャーになる話が好きだった。性格の悪い王子(このできごとを仕組んだ人)とのやりとりが最高!

レベルE 上 (ジャンプコミックスDIGITAL)

 

 

ギャラクシーのベスト5

f:id:eaidem:20170725143514p:plain「では、三番手は僕で。こちらです!」

 

f:id:eaidem:20170725143506j:plain

 

f:id:eaidem:20170725143517p:plain「全部知らん」

f:id:eaidem:20170725143515p:plain「マンガ自体は名作だけど、このベスト5を選出した人、めんどくさそう

f:id:eaidem:20170725143516p:plain「1位の『薔薇と拳銃』って何ですか?」

f:id:eaidem:20170725143514p:plain「『薔薇と拳銃』と言えば、皆さんご存知、谷弘兒先生のあの名作に決まってるじゃないですか」

 

f:id:eaidem:20170725165323j:plain

f:id:eaidem:20170725143516p:plain「いつ頃のマンガ? 何系? どういう雑誌に載ってたの? 基本情報が不足しすぎでしょ」

f:id:eaidem:20170725143514p:plain「この漫画は1993年に発売された、いわゆるガロ系の作品ですね。エロ・グロ・バイオレンスなストーリーなんですが、美しい愛が全編を貫いている名作です」

f:id:eaidem:20170725143515p:plain「めんどくさそう、から、めんどくさい、に印象が変わりました」

f:id:eaidem:20170725143514p:plain「ガロ好きな人の中でも『きみ、わかってるね』と言われるくらいには知る人ぞ知る作品ですかね。全1巻なんで、ぜひ古本でお求めください。絶版なのでプレミアがついてますけど」

f:id:eaidem:20170725143517p:plain「読みたいと思う“とっかかり”が一切無い」

 

薔薇と拳銃

薔薇と拳銃

 

 

その他、ギャラクシーの感想

・14歳(楳図かずお)

培養鶏肉からチキンヘッドの主人公が生まれる冒頭、そしてラストのムチャクチャな着地点まで、全編勢いがすごくてかっこいい!

14歳(フォーティーン)(1) (ビッグコミックス)

 

・孤高の人(坂本眞一)
単独行で数々の山を踏破してきた登山家がモデルのマンガ。社会に馴染めず孤独に山へ向かう姿に共感して、自分でも登山をはじめた。

孤高の人 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

 

 

シモダのベスト5

f:id:eaidem:20170725143516p:plain「じゃあ最後は僕のベスト5ですね。こちらです」

 

f:id:eaidem:20170725143510j:plain

 

f:id:eaidem:20170725143514p:plain「……ほう」

f:id:eaidem:20170725143515p:plain「へぇ……」

f:id:eaidem:20170725143517p:plain「なるほどね」

f:id:eaidem:20170725143516p:plain「どうかしました?」

 

f:id:eaidem:20170725165600j:plain

f:id:eaidem:20170725143515p:plainいえ、なんでもないです。小学館の作品が多いですね」

f:id:eaidem:20170725143516p:plain「『うしおととら』こそ最高の漫画ではないでしょうか? 冒険、戦い、友情―少年漫画のすべてが詰め込まれてる」

f:id:eaidem:20170725143514p:plain「異議なし!」

f:id:eaidem:20170725143516p:plain「ん? ギャラクシーさんは確か1位が『薔薇と拳銃』とかいう漫画でしたよね?」

 

f:id:eaidem:20170725165742j:plain

f:id:eaidem:20170725143514p:plain「いや、まあ、それはアレですけども……あ、『スプリガン』もおもしろかったですね」

f:id:eaidem:20170725143516p:plain「中二病のかたまりみたいな漫画ですけど、それが良いんですよね~。凄腕の特殊工作員でありながら、普段は普通の高校生っていうのが、全男子中学生憧れのシチュエーションですから」

f:id:eaidem:20170725143515p:plain「『よつばと!』は『あずまんが大王』の人(あずまきよひこ)ですよね。おもしろいんですか?」

f:id:eaidem:20170725143516p:plain「むちゃくちゃおもしろいですよ。よつばっていう言う4~5歳の女の子の、基本的には何もない一日を描いた漫画なんです」

f:id:eaidem:20170725143517p:plain「何もないなら漫画にしなくてよくない?」

 

f:id:eaidem:20170725165915j:plain

f:id:eaidem:20170725143516p:plain「何もないから良いんです。大人にとってはありふれた日常だけど、子供の目を通して見ると、すべてが初めてで特別な体験なんですね。世界はこう見えてたのかっていう」

f:id:eaidem:20170725143514p:plain「なるほど、ちょっと読んでみたくなった」

f:id:eaidem:20170725143516p:plain「色んな人に出会って、色んな所に行って、ちょっとずつ成長していくよつばが、可愛くてしょうがない

f:id:eaidem:20170725143515p:plain「さっきグロいの大好きって言ってて、今は幼女大好きとなると、なんか……」

f:id:eaidem:20170725143516p:plain「違います」 

 

よつばと!(1) (電撃コミックス)

よつばと!(1) (電撃コミックス)

 

 

その他、シモダの感想

HUNTERXHUNTER(冨樫義博)

こんなに続きが気になる漫画はない。ここで気取って『レベルE』と言い出さないあたり、自分でも素直だなぁって思います。

HUNTER×HUNTER カラー版 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

 

・東京喰種(石田スイ)

世間的にはアニメも終わって一段落着いた感じであり、今これを好きだというのは若干恥ずかしいのですが……好きなものは正直に言ったほうが良いと思うので。

東京喰種トーキョーグール リマスター版 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

 

 

今回の真の目的

f:id:eaidem:20170725211207j:plain

f:id:eaidem:20170725143516p:plain「さてみなさん、僕の『ベスト5』に、何か違和感を覚えたかたもいるのではないでしょうか?」

f:id:eaidem:20170725143517p:plain「どういうこと?」

f:id:eaidem:20170725143515p:plain「なんか、ひねりが無いな~とは思ってました」

f:id:eaidem:20170725143516p:plain「それは、正直にベスト5を書いたからです。実は僕にはある仮説があったんです。それは……

好きな漫画教えてって言うと、大抵『カッコイイと思われたい欲』を発揮し、ファッションとして選んだベスト5を言ってくる説

です!」

f:id:eaidem:20170725143515p:plain「ああああああああ!」

f:id:eaidem:20170725143516p:plain「そう思いませんか? 1位が『薔薇と拳銃』のギャラクシーさん」

f:id:eaidem:20170725143514p:plain「ギクッ!」

f:id:eaidem:20170725143517p:plain「若干……カッコつけたかも……若干……」

f:id:eaidem:20170725143516p:plain「僕は、社員に素直な、本当の“好き”を教えてもらいたかった……。嘘偽りのない、心からおもしろいと思っているマンガを!」

f:id:eaidem:20170725143514p:plain「すいません」

f:id:eaidem:20170725143516p:plain「というわけで、やり直し!

f:id:eaidem:20170725143515p:plain「えー!」

 

f:id:eaidem:20170725211429j:plain

 

 

原宿の「真の」ベスト5

f:id:eaidem:20170725143516p:plain「では改めて、みなさんに真のベスト5を発表してもらいましょう!」

f:id:eaidem:20170725143515p:plain「恥ずかしながら、僕から発表します。こちらです!」

 

f:id:eaidem:20170725143509j:plain

こちらが真のベスト5

 

f:id:eaidem:20170725143508j:plain

こちらは冒頭で発表した、カッコつけたベスト5。比較してご覧ください

 

f:id:eaidem:20170725215224j:plain

f:id:eaidem:20170725143514p:plain「かなり変えてきましたね」

f:id:eaidem:20170725143515p:plain「カッコつけたベスト5では1位は『銀と金』って書きましたけど……どう考えても『カイジ』なんですよね」

f:id:eaidem:20170725143517p:plain「さっきは、なぜ『銀と金』にしたんですか?」

f:id:eaidem:20170725143515p:plain「それは、誰でも知ってるカイジより、もうちょっと詳しい感を演出したかったからです……」

 

f:id:eaidem:20170725213337j:plain

f:id:eaidem:20170725143516p:plain「正直、まだ若干カッコつけてますよね?『闇金ウシジマくん』とか、古谷実とか」

f:id:eaidem:20170725143514p:plain「ガンが取りきれてない」

f:id:eaidem:20170725143517p:plain「カッコつけベスト5では、落語や歌舞伎といった伝統芸能への興味もチラ見させてましたよね」

f:id:eaidem:20170725143515p:plain「大人だから勉強してます、学んでます、と言うスタンスを表現しました……」

f:id:eaidem:20170725143516p:plain「これは、まだ再発の可能性がありますね

f:id:eaidem:20170725143515p:plain「本当の本当に正直なこと言うと、2位は『幽☆遊☆白書』かな。自分でもどれくらい病巣が深いかわからない

f:id:eaidem:20170725143514p:plain「こわい。なにこれ。精神をえぐられてる感覚」

 

賭博黙示録 カイジ 1

賭博黙示録 カイジ 1

 

 

 

山口の「真の」ベスト5

f:id:eaidem:20170725143517p:plain「では僕からも真のベスト5を発表しましょう。こちらです」

 

f:id:eaidem:20170725143513j:plain

真のベスト5

 

f:id:eaidem:20170725143512j:plain

カッコつけたベスト5

 

f:id:eaidem:20170725143515p:plain「そんなに変わってない気が……?」

f:id:eaidem:20170725143516p:plain人の良さがすごい。そもそも、カッコつけたベスト5の時も、他の人みたいに気取ったところがなかった。こういうところに社員の性格や態度が現れると思ってます」

f:id:eaidem:20170725143514p:plain「『好きな漫画ベスト5』で、ドラゴンボールを入れるのは勇気がすごい。『誰でも知ってるだろ』とか『有名な漫画しか読んでないの?』って思われそう

f:id:eaidem:20170725143516p:plain「誰でも知ってる作品を挙げると『そりゃそうだろ』で話が終わっちゃうっていうのはありますけどね」

 

f:id:eaidem:20170725215425j:plain

f:id:eaidem:20170725143517p:plain「でも実際ドラゴンボールはめちゃくちゃ面白いんで」

f:id:eaidem:20170725143515p:plain「冨樫義博が2作品もランクインしてる」

f:id:eaidem:20170725143517p:plain「本当に好きな、と言われたから『幽☆遊☆白書』を入れたいけど、『レベルE』も本当に好きだから」

f:id:eaidem:20170725143515p:plain「信用に足る人物すぎる」

 

幽★遊★白書 カラー版 11 (ジャンプコミックスDIGITAL)

幽★遊★白書 カラー版 11 (ジャンプコミックスDIGITAL)

 

 

ギャラクシーの「真の」ベスト5

f:id:eaidem:20170725143516p:plain「正直、カッコつけベスト5で一番イタかったの、ギャラクシーさんですからね。『薔薇と拳銃』とか、諸星大二郎とか。ちゃんと反省してます?」

f:id:eaidem:20170725143514p:plain「カッコつけてたっていうか、もともとセンス良いからああいう結果になっただけですけどね。一応真のベスト5も書いてみましたけど……」

 

f:id:eaidem:20170725143507j:plain

真のベスト5

 

f:id:eaidem:20170725143506j:plain

カッコつけベスト5

 

f:id:eaidem:20170725214118j:plain

f:id:eaidem:20170725143516p:plain「変わりすぎでしょ」

f:id:eaidem:20170725143514p:plain「なんだかんだで『スラムダンク』が一番おもしろい」

f:id:eaidem:20170725143517p:plain「やっぱりカッコつけてたんだ」

f:id:eaidem:20170725143515p:plain「『薔薇と拳銃』って何だったの」

f:id:eaidem:20170725143514p:plain「あれも本当におもしろい漫画なんですよ? でも、本棚に飾って見栄を張りたいっていう選考基準はありました」

f:id:eaidem:20170725143516p:plain「確かに、本棚は一軍・二軍みたいな“くくり”がありますね。奥に二段入るならこっちを手前にしよう、みたいな」

 

f:id:eaidem:20170725214459j:plain

f:id:eaidem:20170725143515p:plain「さっきはいけ好かないサブカルクソ野郎って感じだったのに、一気に散髪屋の本棚みたいになった」

f:id:eaidem:20170725143516p:plain「ほんとだ、商店街の散髪屋だ!『WORST』入ってるのが特にね。ヤンキー漫画好きなんですか?」

f:id:eaidem:20170725143514p:plain「実は好きです。『WORST』は、映画化された『クローズ』の続編で、男の生き方みたいなものが学べるんで、マジでオススメしたい」

f:id:eaidem:20170725143516p:plain「男の生き方が学べるって、主人公たち男子高校生ですけどね。40代のギャラクシーさんが学んでいいものなの?

f:id:eaidem:20170725143515p:plain「『はじめの一歩』、『ワンピース』、スラムダンク』……なんの驚きもないベスト5になったな」

f:id:eaidem:20170725143514p:plain「ライターやめて散髪屋で働きます」

 

WORST(1) (少年チャンピオン・コミックス)

WORST(1) (少年チャンピオン・コミックス)

 

 

 

 まとめ

いかがだったでしょうか。社員の心の裏に潜む『カッコつけたい欲』が露わになりましたね。

全国の社長さまにおかれましては、こういった施策で、社員の性格を把握してみるのも良いのではないでしょうか。

 

f:id:eaidem:20170725214720j:plain

 

読者のみなさんもこの機会に、今まで隠してた「カッコつけてない漫画ベスト5」をツイートして頂けると嬉しいです。

なぜならそれを見ながら「この人は正直だな」「この部分、まだカッコつけてるな」などと社内で盛り上がれるからです。

 

 

(おわり)

 

 

書いた人:シモダテツヤ

f:id:eaidem:20150428154322j:plain

1981年京都生まれ。Webクリエイター。バーグハンバーグバーグ代表取締役社長。 代表作は「インド人完全無視カレー」「分かりすぎて困る! 頭の悪い人向けの保険入門」など。著書に『日本一「ふざけた」会社の - ギリギリセーフな仕事術』がある。Twitterアカウント→@shimoda4md

 

ジモコロは求人情報サイト「イーアイデム」の提供でお送りしています

ロシアの夫とハラショー日本「ロシアの夏休みは3ヶ月!?」

$
0
0

f:id:eaidem:20170412180941p:plain

 

東京で生活するマンガ家・シベリカ子が、夫のロシア人男性・P氏と共に、日本をレポートします。料理や文化など、ロシア人から見た日本や東京を、優しい絵柄でのんびり切り取りますよ!

きっとハラショー(素敵)なニッポンが待っている……?

 

f:id:eaidem:20170411142715p:plain

f:id:eaidem:20170727173626j:plain

f:id:eaidem:20170727173627j:plain

f:id:eaidem:20170727173628j:plain

f:id:eaidem:20170727173629j:plain

f:id:eaidem:20170727173630j:plain

f:id:eaidem:20170727173631j:plain

ロシアの夫とハラショー日本|一覧

 

 

●シベリカ子の単行本情報

おいしいロシア (コミックエッセイの森)

おいしいロシア (コミックエッセイの森)

 

 

書いた人:シベリカ子

f:id:eaidem:20170411132436j:plain

埼玉県出身、東京都在住。漫画家、イラストレーター。ロシア人の夫と1年間ロシアに滞在した時のことを描いたコミックエッセイ「おいしいロシア」で単行本デビュー。
ツイッター:@ShibeRikako
ブログ:シベリカ通信

Viewing all 1396 articles
Browse latest View live