こんにちは。ヨッピーです。
本日は「国境なき医師団」の日本事務局本部に来ております。
「国境なき医師団」と言えば1999年にノーベル平和賞を受賞した事でもお馴染み、世界各地の紛争地域などで人命を救助しまくっているゴリッゴリの「立派な団体」でありますので、「お前みたいなコッパのライターがそんな所で何してるの?」って聞かれそうな今日このごろです。
こちらが「国境なき医師団」の旗。発祥がフランスなのでフランス語で書かれており、「MEDECINS SANS FRONTIERES」はそのまんま「国境なき医師団」という意味なんだそうだ。略してMSFと言う。
そして現地で撮影された写真の数々。
例えば日本の東日本大震災、ネパールの大地震など自然災害における緊急援助活動や、シリアやアフガニスタンなど紛争地域における医療救援活動など、世界中で起こる災害や紛争、疫病の流行など、「人命に関わる大きな問題」が発生した時にいち早く現地に飛び込んで医療活動を行っているのが「国境なき医師団」であります。
しかしながら、その「国境なき医師団」で活躍している人々の中には日本人もたくさんいる事や、どういう人たちがどういう目的を持って、どのような活動を繰り広げているのかを具体的に理解している人はけっこう少ないのではないでしょうか。
そこで本日は、
「国境なき医師団ってどういう団体で、どういう人たちがどういう目的でやってるの?」
みたいな部分についてフォーカスしてみたいと思います!
【そもそも、国境なき医師団ってなんだ?】
まず最初にお話をお伺いしたのがこちら!
国境なき医師団日本で資金調達を担当していらっしゃる是則(これのり)さんです!
「今日はよろしくお願いします! 国境なき医師団については、なんとなく『立派な団体!』『えらいひとたち!』くらいの認識しか持っていないので色々教えて頂ければと思うのですが……!」
「そうですね。まず、私たち国境なき医師団は大きく分けて『医療』と『証言』という2つの役割を担っています。国境なき医師団はフランスのジャーナリストと医師が中心になって結成された団体なので『医療』と『証言』なんですね」
「『医療』については大規模な災害の現場や紛争地域、難民キャンプや疫病の流行地帯など、そういった言わば『最前線』に飛び込むことでなるべく多くの人命を救おう、という活動です。こちらについては皆さんもイメージしやすいかも知れません」
「ですね。『証言』というのは……?」
「『証言』は、そういった危機的な状況にある現場が、今、どうなっていて、何が求められているのか、という部分を最前線から、世界に対して発信する役割を担っています」
「現場で何が起こってるか世間に知って貰わないと抜本的な解決にはならないですもんね」
「そうなんです。そして『国境なき』という言葉に示されるように、活動の範囲は国境による分け隔てがなく、全世界が対象です。世界各地に28の事務局があって、日本にもそのうちの一つがあります。2015年の実績では38,000人以上の海外派遣スタッフと現地スタッフが、約70の国と地域で活動しました」
アフガニスタンで生まれた未熟児に聴診器をあてるMSFの医師 ©kate Stegeman/MSF
「派遣先は、『その時に一番困ってる人達のところに行く』みたいな感じでしょうか?」
「その通りです。国境を越えて、命の危機に直面している人達を助けに行くのが国境なき医師団です。病気や怪我の治療はもちろん、水や食料などの緊急援助や、現地の方々に医療に対する啓発活動を行って予防に努めるような事もします。そして特徴的なのは、どの国家、組織にも属さない独立した団体であることなんですね」
「あ、そうなんだ。国連の一部とかじゃないんですね」
「いえ、あくまで民間による、非営利の独立した団体です。そして運営資金は9割以上が民間からの寄付によってまかなわれていて、特定の国や組織に属しているわけではありません。更にその支出についても私たちの収支報告は極めて透明性の高いものになっております。この『独立した組織』というのがけっこう、大事な事なんですよ」
「なんでですか?国連なりアメリカ政府なり、どっかの大組織に属してた方が予算も多いだろうし何かと便利なような気がするんですけど……」
「うーん、例えば、アメリカの支援を受けて活動するとすれば、アメリカと敵対している国で活動出来なくなるんですよ。『敵だ!』ってみなされてしまうので」
「おお……!なるほど……!『僕らは独立した組織で中立だよ』って言うわけですね」
「そうです。特定の国家やイデオロギー、政治宗教に関わらず、あくまで独立した団体であるからこそ、紛争地域に入っていけるんですよ。例えばAという部族とBという部族が対立している地域に入って行くとしたら、両方の部族に話を通すんですね。『私たちはあくまで現地で医療行為をするだけだ。宗教的、政治的な意図は一切ないから認めてくれ』みたいな話を現地で力を持っている人達に通すわけです」
「そうしないと、私たちの病院まで攻撃対象になってしまう。その上でAの部族にもBの部族にも、分け隔てなく医療行為を行うんです」
紛争地域である南スーダンで栄養失調の子供を抱えるMSFの医師 ©Nick owen/MSF
「なるほど。実際に現場に行く人はお医者さん達がメインなんですか?」
「現地に行く人間をざっくり分けると、『医療従事者』と『非医療従事者』が居て、非医療従事者は物資調達や車両管理を担当するロジや、人事財務を担当する事務方に分けられます。医療従事者はその名の通り、医師や看護師、薬剤師などですが、チームの中で言えば3~4割程度でしょうか。他の人達は例えば建築士が病院の建設に関わったり、技師が車の整備や電気設備の設営、保守をしたり、物資の調達から配送など物流を担当する人間も居ます」
「あ、そうなんだ。ほとんどがお医者さんなのかと思ってた」
「『国境なき医師団』という名前ではありますが実際には医師以外の人達もたくさん居て、医療従事者と非医療従事者、あとは現地で雇った現地スタッフがチームを組んで活動します」
東日本大震災では被災者への心理ケアも行った ©Eddy McCALL/MSF
「そういう人たちはみんなボランティアなんですかね?」
「いえ、給与はお支払いしております」
「これ、聞いて良いのかどうかわかりませんけど、月収で言うといくらくらい……?」
「最初の1年間の契約期間は一律166,704円で、海外派遣期間が1年を超えた後は経験や職種などを考慮して187,542~568,626円となります」
「えー!16万円スタートって、やっす!お医者さんの給料として考えるとめちゃくちゃ安いし、そもそもそういった危険な地域に行くことを考えるとその値段だとやってられないのでは……!」
「そうですね。実質的にはボランティアのようなものだと思います」
「ちなみに参加資格ってあるんでしょうか?」
「医療スタッフなら医者や看護師、薬剤師など医療従事者である事と、英語もしくはフランス語でコミュニケーションが取れることが必須条件です。非医療のスタッフだと、人事、財務、車両整備や建築、医療機器の設置やメンテナンスなどといった分野で2年以上の実務経験があること、そして医療関係者と同じく英語もしくはフランス語でのコミュニケーションが取れること、が必須条件になります。募集職種についてはこちらを見て頂ければ」
難民キャンプに向かうMSFスタッフ。人種、国籍に関わらずMSFでは様々な人々が活動している。©Yuna CHO/MSF
「なるほど、色んな国から人が集まるから言語が統一されてないといけないんですね」
「多国籍のチームなのでコミュニケーションが何よりも大事なんですね。日本人同士のチームだと起こらないようなトラブルが起こったりするので」
「生活習慣の違いとか文化の違いとか?」
「そうです。それに現地では『コンパウンド』と呼ばれる拠点の敷地内でしか暮らせなかったりするので、コミュニケーションが取れないとストレス解消の手段も限られてくるんですよ」
「それは拠点の外に出ると危ないからっていう?」
「はい。誘拐のターゲットにならないとは限りませんし、治安が良い場所でないことも多いので。外国人だと目立ちますしね」
「確かにストレスが凄そう……!」
「あんまりこういうお話をすると、『お手伝いしたい』と言う人が尻込みしそうなので言わない方が良いのかも知れませんが、例えば紛争中の地域に乗り込んで拠点を作って医療活動をするとします。そこで大規模な戦闘や爆発が起こったりすると、すごくたくさんの怪我人が私たちの病院に押し寄せて来るんです。それこそ、千切れた右腕を持って来る人、足が吹き飛ばされた人、なんて。それがたくさん」
イエメンでMSFの治療を受けた被害者 ©Guillaume Binet/MYOP
「oh……!」
「でも、治療にも限界があるんですよ。ベッドの数も限られているし、治療するための薬の数も医師の数にも限界があります。ある程度の人数を受け入れてしまうとキャパオーバーになってしまうので、そこからは病院に来た人達を断らなきゃいけなくなるんです」
「エボラ出血熱の時も入口にスタッフが立ってね、今にも死にそうな子供を抱えた親が、泣き叫びながら『この子の命だけでも、なんとか救ってくれ!』って言うんですよ。でも、もう入れてあげる事は出来ないんです。そういう人が何十人も居るんですよ。それを入口でスタッフが『申し訳ないが、病院にはもう入れない』って断るんです」
「想像を絶する世界ですね……」
「日本だとまずあり得ないことじゃないですか。腕がふっ飛ばされて病院に来たのに病院が受け入れ出来ない、なんていう事はまずないでしょう。でも、現地だとそれが日常の光景だったりするんです。その入り口で病人を押しとどめていたスタッフは『涙が止まらなくなった』って。もちろんそういう心理面のケアをするためのスタッフも同行しておりますが、やはり現場の苦労は並のものではないので……」
「だから、そういった『無力感との戦い』という側面はあると思います。私自身も、今申し上げたような事については全て伝聞でしかありませんし、現地で大変な思いをしている仲間たちが居るのに、自分はこうやって平和な日本で活動しているっていう後ろめたさみたいなものは常にありますから。でも、広報活動や資金調達っていう私の仕事も、間接的に多くの命を救っているはずだ、と自分を納得させながらやっています」
「なんていうか、皆さん立派すぎてコメントに困りますね……!尊敬の念しかない……!」
「その、『尊敬する』とか『えらい』なんて言われている段階だと、『国境なき医師団は、まだまだ遠い存在なんだな』と思ってしまうんですね。別に私たちは特別な存在ではありませんし、普通の一人の人間ですから、特別視するのではなく、対等な関係で、『私にも何か出来る事は無いか』という目線で見て欲しいな、と思うんです。全ての人間がそういう視点を持つことによって、もっと救われる命があるはずです」
ちなみにこちらは研修合間のランチタイムの様子。実際にスタッフとしての参加を名乗り出た人達には事前にみっちり研修を施すそうです。
「研修の内容ってどんなのですか?」
「研修で学ぶ事はたいへん重要でして、心のケアの話や、異文化間で起こりやすいトラブルの話とか。あとは命に関わるようなことですね。例えば『現地で誘拐された時にどうやって対処するか』とか。現地に行く前に、本人にしかわからない暗号を書いて、封印をして事務局に預けておくんですよ。それでもし、現地で誘拐されたらその暗号を言ってもらうことで『あ、これは本人だ』ってわかるようになっていたり」
「とんでもねぇな……!」
「あとは研修と並行して、予防接種を受けるだけで時間がかかるんですよ。黄熱病に狂犬病に肝炎に、って10本くらい打たなければいけないんですが、ある程度期間をおいて受ける必要があるワクチンなんかもあるので、最初は数か月かかったりとか。10年くらい有効なワクチンもあるので2回目以降はそれほど大変ではないんですけど」
「なんでそこまでしてやるんだろう……!」
「それは是非、現地に行っている人間に直接聞いてみてください!」
【何故国境なき医師団で働くのか】
さあ、そんなわけで「何故そんな大変な思いをしてまでやるのか」という部分について聞くために、国境なき医師団の吉野先生にお伺いしました。過去に活動されていた地域はナイジェリア、パキスタン、アフガニスタン、パレスチナのガザ地区など。ちなみにこの記事が掲載される頃はイラクのモスルから帰国したところだそうです。
「すごく変な事を聞きますが、めちゃくちゃ大変そうなのに、何故国境なき医師団で活動を……?」
「そうですね。中学生の頃くらいって、『将来何になりたいかな』みたいな事を考えるじゃないですか。そんな時にユニセフの募金活動を見たんですよ。『今、アフリカでは何秒に1人、小さい子供の命が亡くなっています』みたいな。それを見て『どうにかしてあげたい』と思って、まず『教育だ』と思ったんですね。教育がじゅうぶんじゃないから貧困に陥るんだと。だから最初は『先生になろう』って思ったんですよ」
「でも、色々と勉強しているうちに、『勉強以前の問題』がゴロゴロある事を知るんです。ワクチンがじゅうぶん行き渡らなくてたくさんの子供が死んでる、とか。ワクチンが無いせいで命が失われるって、それはもう勉強するとかしないとか以前の問題じゃないですか」
「確かにそうですね。学校があったとしても栄養失調だと勉強どころじゃないでしょうし」
「そうそう。それで『教育よりもまずは健康だ』と気付いたんです。だから高校三年の時に急に『医者になろう!』と思って方向転換するんです。それで勉強して医学部に受かって、研修を終えて外科の専門医として経験を積んだんですよ。6年かな。で、駅を歩いている内に、ふと『国境なき医師団』の募集ポスターを見たんですよ。それで『ああ、そうだ。私はこれがやりたいから医者になったんだった』って」
コンゴ民主共和国で手術を終えたばかりの子供を抱き上げる吉野先生 ©MSF
「それから申し込みをして、今では1年の内半年を国内の総合病院で外科医として働いて、残り半年を国境なき医師団の活動にあてています」
「やり甲斐みたいなものはあるんでしょうか」
「もちろんありますよ!自分の手で、実際に人の命を救えるっていうのはすごく『やっててよかった』と思います。死にそうだった子供が、私の手術によって元気になって走り回ってるとか、もしかしたら私が助けた子供が大きくなってその国を良い方向に導いてくれるかもしれないじゃないですか」
「その『人の命を救う』っていうことは、日本で医師として活動していても同じじゃないかなって思うんですが……」
「救える命の絶対数が違いますね。例えば私の場合、国境なき医師団の活動だと一か月に100件くらい手術をするんですよ。何日も寝ないで手術をしたり。日本だとそんなハイペースでやる事なんてあり得ないんです。日本だと、私がやらなくても別の誰かがやってくれる恵まれた環境ですけれども、現場だと私がやらないとその人は間違いなく死んじゃうんですよ。だからやらなくちゃいけない。そういう使命感ですね」
「日本でやる手術と現場でやる手術って違うんですか?」
「日本だと、医療が高度化しているんですね。例えば私は日本に居る間はガンの手術をすることが多いんですが、腹腔鏡とか精度の高い顕微鏡を使いながら手術をするんですよ。でも現場だとそういう機材がそもそも無いですし、『〇〇の専門医』みたいな事があんまり関係ないんです。日本だと脳手術の専門家とか、この病気ならこの先生、みたいに専門がかなり細分化、高度化されているんですが、現場だともうそんなの全然関係なくて、『とにかくなんでもやる』みたいな環境に居ますね」
「私も帝王切開もしますし、脳外科の手術もしますし、手の千切れた患者さんの手術からもう何から何まで。だから日本の外科医として得た経験が通用しないことも多くて本当に大変でした」
「ふーむ、『離島のお医者さん』って感じですね」
「そう!本当にそうだと思います!物資も機材も限られている中で、全ての事をひととおり自分で出来なきゃいけないので。逆に大学病院などで高度医療を専門にやられている医師だと面食らうと思います。CTスキャンもMRIも無いし、レントゲンの精度も悪いから触診で判断するしかないんですよ」
現地で使われる道具の数々。何せ物資が足りないので、ありあわせのもので作っちゃう事もあるらしい。
「でもね、不思議と、それだけ高度に発達した日本の医療でも医療不信って起こり得るのに、現地の人はみんなすごく私のことを信用して、信頼してくれるんですよ……。私が手を施しても、やっぱり助からなかった命もあるわけですが、それで遺族の方が『お前のせいだ!』なんて言って来る事は今まで一度も無くて……。『ありがとう』『貴方はよくやってくれた』って。もちろん命が助かった時は感謝されますし」
「なんとなく聞いていて思ったんですけど、『医療の原点がそこにある』っていう感じですね。命の危機がそこにあって、手を尽くす事でそれが救われて、周りの人に感謝されて、っていう」
「あ、まさにそうですね!その『医療の原点』っていうのは国境なき医師団で活動する理由としてすごくしっくり来る気がします。今後、私もそれ使っていきたいくらい!困ってる人が居て、それを助ける、っていう、医療の原点がそこにはあるんですよ。だから行くんです」
「逆に大変な事ってないですか?そもそも、そういう地域に行くのって怖くないんですか……?」
「派遣先によっては断る事も出来るんですよ。派遣先の地域って、例えば栄養失調プログラムで行く先なんかはそれほど治安に問題があるわけじゃないので、休暇日にホテルのプールで息抜きしたりするんですが、私みたいに外科医だとだいたい紛争の最前線だったりするんですよね(笑)」
「外科だと怪我人の治療がメインになるわけですもんね……」
「私が過去に行った先だとパキスタンの時なんかは怖かったですね。もちろん事前に、紛争の当事者達に『攻撃対象にしない』っていう確約を得てから現地に入るんですけれども、シャワー浴びてたらスタッフが飛び込んで来て『おい!すぐ逃げろ!5分で出るぞ!』って怒鳴るんですよ」
「何それめっちゃ怖い」
「警察とかも来てて『すぐ逃げてくれ!』って。もう慌てて病院から飛び出して。話を聞いてみると『病院が攻撃される』っていう噂が流れたみたいで。まあその時は誤報で済んで良かったのですが、アフガニスタンでは実際に国境なき医師団の病院が攻撃された事※もあって……。私、その病院で働いてた事があったので……。当時の同僚も亡くなったんですよ……」
※クンドゥーズ病院爆撃事件……2015年10月3日、アフガニスタン北部クンドゥーズで国境なき医師団の病院に対してアメリカ空軍が攻撃を加えた事件。42名の死者の内、14名が国境なき医師団のスタッフ。後にオバマ大統領が攻撃を認め謝罪したが、第三者機関による独立した調査の受け入れは拒否されている
「あとは窓の外から空爆の飛行機が見えて、そのあと大きな爆発があって爆風で建物が揺れたり。窓から見えてる建物が爆発したりするので、万全を期しているとはいえ、やっぱり怖いですし、その辺で遊んでた子供が空爆の巻き添えで運び込まれて来たりすると本当にやるせないです。『この子が日本に生まれていればこんな目に遭わなかったのに……』って」
ガザ地区の空爆により破壊された車と子供達。Yann Libessart/MSF
「そんな中で手術するんですよね……」
「そうですね。腕がちぎれてる人とか足がちぎれてる人とかがいっぱい来るんですよ。床が血の海になっていたり。血を見慣れている外科医の私でも気を張ってないとぶっ倒れてしまいそうになるので、日本ではあまり見ない光景だと思います」
「ヘビーすぎる」
「国境なき医師団が掲げるスローガンに、『国の境目が、生死の境目であってはならない』というものがあるのですが、でも現実にはやはり国境が生死の境目を分けているんですよ。戦争している街から1時間ほど車を走らせた別の国では畑のそばで優雅にお茶を飲んでたりしますから。戦争って、本当にやるせないです。せめて武器を使わずに、殴り合いくらいで決められないかなって思うんです」
こちらの紙を子供の腕に巻くことで栄養失調の緊急度合を測る。危険な状態にある子供は指2本分の腕の太さくらいしかないことがわかる。
「なんか僕、『のうのうと平和に生きててすいません』っていう気持ちになってきました……」
「いえ、そんなことはないですよ。技術がある人は技術を、お金がある人はお金を、何もない人は関心を持ってくれるだけで私たちの活動は随分やりやすくなるはずなんです。だから、まずは自分の事を精いっぱいやって、少しある余裕で応援して頂ければな、って」
「なるほど。じゃあ頑張って書きます!」
【何故国境なき医師団に支援するのか】
さあ、そんなわけで「国境なき医師団」の事務局の方、現地で働く方というそれぞれの立場でお話を聞かせて頂いたわけですが、「国境なき医師団」にはもう1人、大事なプレーヤーが居ます!
この方にご登場いただきましょう!
「高須クリニック」院長の高須克弥先生です!
「今日はよろしくお願いします!今日は何故先生にお話を聞きに来たかと言うと、支援者の目線っていうのが欲しいな、って思ったからなんです。ほぼ全額を寄付金でまかなってる団体ですから、支援者も重要なプレーヤーの一人だな、って」
「それで国境なき医師団の方と打ち合わせをしている時に色々とスライドを見せて頂いてたら、いきなりその中に高須先生の写真が出てきて、『なんで高須先生が写ってるんですか?』って聞いたら『この病院、建設費用の一部が高須先生の寄付によるものなんです』って」
「ああ、アンマンの病院かな?僕、正直色んな所に寄付してるからあんまり細かい事は覚えてないんだけど。1000万円だったかな?」
「そうそう。ちょうどこの間もね、サウナに入ってる時にぼーっとテレビ見てたら、高須先生が大阪大学の相撲部に土俵をプレゼントする※、みたいな事をやってたり。あとはリオオリンピックのナイジェリア代表のサッカー選手団に寄付したり※もしてましたよね」
※大阪大学の相撲部は長年土俵が無い中での練習を強いられており、相撲部主将からの訴えを聞いた高須院長が相撲部に土俵を寄付
※リオオリンピックのサッカーナイジェリア代表チームがベスト8まで進むも、給料の未払いを理由に準々決勝のボイコットを示唆。窮状を見かねた高須院長がナイジェリア代表に私費での支援を表明したことでボイコットを回避。結果的にナイジェリア代表はベスト4まで進んだ。
「そう。阪大の相撲部は500万円で、ナイジェリア代表は3,900万円」
「これまでに合計、いくらくらい寄付してるんですかね?」
「計算してないからわかんない(笑)何十億っていうくらいかな?国境なき医師団も相撲部もナイジェリアも比較的最近の事だから覚えてるけど、古い事だといちいち覚えてないからね」
「何十億……!とんでもねぇな……!先生って、色んな人に『ご支援を!』ってお願いされると思うんですけど、当然ながら全員にお金をあげてるわけじゃないですよね?」
「そりゃもちろん!『頑張ってて、それでも支援して欲しい人』とか、『理不尽な目に遭ってる人』とかはなんとか助けてあげたい、と思うけどさ、例えば『生活が苦しいからお金を下さい』なんて言われても、『それは僕の役割じゃないな』って思っちゃう」
「そうですね。その辺は政府の役割ですもんね」
「そう。今の日本なら本当に飢え死にしそうでも、ちゃんと救われるべきセーフティネットがあるじゃない。でも外国の人はそうじゃないからね。難民の人達なんて、何も悪い事してなくても戦争に巻き込まれて住む所がなくなって、それで政府が機能してなかったりするんだから本当に理不尽だよね。そういう所はなるべく助けてあげたいって思ってる」
「先生はなんでそういう人を『助けてあげたい』って思うんですか?」
「僕はね、小さい頃にめちゃくちゃいじめられたんだよ」
「えっ、高須先生の家って代々お医者さんでいわゆる名家※ですよね?」
※高須家は江戸時代から続く医師の家系
「確かに血筋はそうなんだけどね、僕は防空壕の中で産まれたし、高須家の家も土地も全部戦後の農地改革で取られちゃったんだよ。で、両親が医者でしょ。そのころって文革の時の中国みたいなもので、いわゆるブルジョワジーに対する反発がすごく強かったんだよね」
「そうすると医者の息子っていうだけで農家の息子とか漁師の息子とかからすごくいじめられるんだよ。でも親父がね、『克弥!負けたまんまで帰って来るな!』って言って、バットを持たされて家を追い出されるわけ。でも、バットを振るっていう動作ひとつとっても、むこうは四六時中クワを振ってるんだから農家の息子の方が断然強いよね(笑)」
「そんな親父も僕が中学生の時に亡くなったし、だからずっといじめられっ子だよ。それからかなぁ。『弱い人達をいじめるようなヤツは許せない!』って思うようになったんだよね」
「へー、めちゃめちゃ意外でした……!」
「それにね、国境なき医師団みたいな事を、もっと若ければ本当は僕自身がやりたかった、っていうのもある。防衛医大に入りたかったくらいだからね。あとはなんだろうなぁ。別に偉そうな事を言うつもりはなくてさ、単純に寄付って楽しいんだよ。喜んでもらえるし、感謝されるでしょ。昔ね、教会が『免罪符』って言って『これ買えば天国に行けるよ~!』なんて宣伝してお札をたくさん売ってね、ルターがそれを批判して宗教改革につながったやつ」
「社会科の授業で習った気がします」
「そうそう。その『免罪符』を買ってるようなものだと思ってる。これだけ人に喜んで貰えたら天国に行けるかなぁ、って。僕はね、自分の遺産とか残すつもりは無くて、全部どこかに寄付して死ねたらいいな、って思ってるの。僕ももう72歳だしね、いつ死ぬかもわからないから毎年遺言状書いてるよ。どこそこにいくら寄付してくれ、みたいなね」
「先生はあんまりお金とかに執着が無いんですかね?」
「そうだね。昔から物欲とかそういうの全然ないもの。別に高いものを食べたいとも思わないし。ちょうどね、東日本大震災が起こる前の年にね、僕の母親と、家内と、愛犬がね、同じ年に亡くなったんだよ。絶望だよね。目の前が真っ暗でさ。それで次の年に東日本大震災でしょ。もう生きる希望とか全部亡くしてさ。『もう、人生に何の未練も無いや』って思って出家したんだよね。だから僧籍もあるしお経も読めるよ」
「おお……。その時から見ると随分元気になられたような……」
「そう!それは全部西原のせいだよ!※ 西原がね、美味いご飯をやたらと食べさせたりさ、なんか色んな所に僕を引っ張りまわすせいでね、食べ物の味がわかったりとか、『煩悩』みたいなものが少しづつ戻ってきたんだよね!西原は悪魔みたいな女性ですよ!」
※現在は漫画家の西原理恵子と交際中
高須先生があちこちから貰った感謝状。これでもまだ一部だそうで、表にあんまり出せないものもあるらしい。
「聞いた話なんですが、『国境なき医師団』って、支援金額の多さで言うと日本国内で4番目とか5番目なんですって。上位はユニセフとか赤十字らしいんですけど。で、アメリカだと国境なき医師団って50番目くらいでしかないのに、金額の多さで言うとそれでも日本の何倍もあるんですって。よく、『日本には寄付文化がない』って言われますけど、実際そうなんですかね?」
「うーん、まず寄付の控除の仕組みが日本はあんまり整ってないんだよね。個人でやると『節税対策だろ』とか言われるんだけど、ダライラマに寄付したって税金が控除なんてされないよね。日本の税金ってすごく高いんだから!僕は以前に脱税で挙げられたことがあるんだよ。僕は経理にずっと任せっぱなしだったから、なんでそれが僕のせいになるんだって最高裁まで争ったんだけど負けちゃってね。8億円取られたもん」
「そのせいで医師免許が1年間の免停食らってね。その1年は国内じゃ仕事出来ないから海外で仕事してたらその時の人脈で国際美容外科学会の会長になっちゃった(笑)
あとは、日本で大金持ちと呼ばれる人達って株とかで総資産は多くても、意外と現金を持ってなかったりして。そのかわり企業が寄付したり社会貢献したりはしてるよね」
「どうしたら寄付とかって増えるんだろうなぁ。『寄付額ランキング』みたいなの出して公開するとか……?」
「それは良くないね。寄付なんてさ、金額じゃないんだから。それをやるならパーセンテージの方がずっと大事だよ。月収1000万の人が月に5万円寄付するより、月収20万円の人が月に5000円寄付する方が立派なんだから。その人に出来る事をする、っていうのが大事なんだよね」
「ああそれ、国境なき医師団の先生にも言われました。技術がある人は技術を、お金がある人はお金を、それも無ければ関心を、って」
「そう。気持ちが大事なの。お金ってさ、車で言うところのガソリンみたいなものでさ、生きて行く上で必ず必要になるものだけど、タンクローリーにガソリンを満載にしてさ、そのまま死んだって意味ないよね
「ガソリンが無くて動けなくて困ってる人が居たらじゃんじゃん分けてあげればいいし、自分がガソリンなくて困ってる人は無理しないで、誰かに助けてもらいながら、余裕が出た時にまた別の誰かにガソリンを分けてあげればいいんだよ。そうやって世の中は出来てるんだから。だって、人の役に立てるって気持ち良い事だし、楽しいよ」
「なるほど……!なんとなくわかったような気がします……!」
そんなわけで「国境なき医師団」では皆さんの「技術」「支援」「関心」を大募集中です!
医療関係者や技術者など「実際に現地で活動をサポートしたい」という方はこちらの募集要項を!
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