Quantcast
Channel: イーアイデムの地元メディア「ジモコロ」
Viewing all 1396 articles
Browse latest View live

愛が枯渇する!? ゲストハウス経営者が抱える「孤独」のジレンマ問題

$
0
0

f:id:kakijiro:20170206130932p:plain

 

孤独。

 

のっけから気持ちがきゅっとするようなことばですが、これが、今回のテーマです。日常に孤独を抱えている方もそうでない方も、どうぞお付き合いください。

 

f:id:kakijiro:20170131014634j:plain

 

柱を抱きながら失礼します。ライターの根岸達朗です。

私は今、山口県・萩市に来ております。

 

萩といえば、明治維新胎動の地。古い街並みが残る歴史深い城下町ですが、実はここに、国内外から旅人がやってくる人気のゲストハウスがあります。

 

f:id:kakijiro:20170206131251j:plain

萩ゲストハウス「ruco」

 

f:id:kakijiro:20170129184543p:plain

萩ゲストハウスruco | 山口県萩市に宿泊

元楽器店だったビルを改装して、2013年にオープンしたこちらのゲストハウス。廃材を利用した個性的な内装デザインが特徴で、1〜2階は誰でも立ち寄れるカフェ&バースペース、3〜4階が宿泊施設になっています。

 

f:id:kakijiro:20170206131229p:plain

おしゃれな雰囲気だけでなく、ゲストハウスならではのアットホームな魅力にもあふれる「ruco」。今回はこちらの名物オーナーに、ジモコロの取材で全国のゲストハウスを泊まり歩く柿次郎編集長が聞いてみたいことがあるようで。

 

そろそろやってくる頃だと思うんですが……

 

……あ、きましたね!

 

f:id:kakijiro:20170131014635j:plain

タッタッタッタ…

 

f:id:kakijiro:20170131014636j:plain

タッタッタッタ…

 

 

f:id:kakijiro:20170131014637j:plain

シュタッ!

 

f:id:kakijiro:20170129183954p:plain「ようこそ萩へ!」

 

話を聞いた人:塩満直弘(しおみつ・なおひろ)

1984年、山口県・萩市生まれ。県内の大学在学中に、海外に渡る。帰国後はスポーツメーカーと旅館で勤務し、2011年に地元・萩に友人とバー「coen.」、2013年にゲストハウス「ruco」をオープン。

 

この壮健でさわやかなナイスガイが、近年のゲストハウスブームを引っ張る「ruco」の名物オーナー。早速、宿に移動して話を聞かせてもらうことにしました。

 

ゲストハウスオーナーと「孤独」

f:id:kakijiro:20170131014633j:plain

 

f:id:kakijiro:20170129184004p:plain「早速なんですが、僕は今回、塩満くんにちょっと聞いてみたいことがあって」

f:id:kakijiro:20170129183954p:plain「どうぞどうぞ! 私に答えられることであればなんでも」

f:id:kakijiro:20170129184004p:plain「じゃあ、単刀直入に聞きますが、塩満くんはゲストハウスをやっていて……」

 

f:id:kakijiro:20170131014627j:plain

「孤独を感じることってある?」

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

f:id:kakijiro:20170129183954p:plain「それは、いつも感じてますよ」

f:id:kakijiro:20170129184004p:plain「やっぱり!」

f:id:kakijiro:20170129184038p:plain「やっぱりって……どういうことですか?」

f:id:kakijiro:20170129184004p:plain「実は長野でゲストハウスをやっている友達が、『ゲストハウス経営は孤独だ』と言ってまして」

f:id:kakijiro:20170129184038p:plain「え? ゲストハウス経営が孤独? 人がたくさん集まる楽しそうなところじゃないですか!」

f:id:kakijiro:20170129184004p:plain「はい。僕もそれってどうなんだろうと思ったので、いろんなゲストハウスの人に話を聞いてみたんです。そうしたら、どうもみんな少なからず同じような思いを抱いていることがわかってきて……」

 

<case1>

ゲストハウス「LAMP」支配人の堀田樹さん

f:id:kakijiro:20170129185141j:plain

東京のLIGというWEB制作会社で働いていたら、ある日いきなりゲストハウスの支配人をやることになって…。

当初の半年間は慣れない土地で朝から深夜まで働き続けました。ありがたいことに「LIGブログを見てきました」という人がたくさんいて、毎日のように声をかけられて、いつしか「あ、一人になりたい…」と感じている自分がいました。「私もゲストハウスやりたいんです」って人には「やめたほうがいいよ」と反射的に答えてる自分がいたり(笑)。

そしてLAMPで働き始めて半年経ったぐらいに休みをもらって旅行したんですが、ホテルのベッドに横たわった瞬間にわけもなく涙が出てきて、男ながら大声を出して泣いてしまいました。支配人としての責任感、そして孤独感がピークに達したんじゃないかと思います。

2年ちょっと経った現在では孤独感との付き合い方が分かるようになってきて。スタッフを信頼して仕事を任せたり、一人きりのコーヒー屋さんを始めたり、時間の使い方がうまくなってきたかもしれません。

 

 

<case2>

ゲストハウス「1166バックパッカーズ」 オーナー飯室織絵さん

f:id:kakijiro:20170129190918j:plain

柿次郎さんと知り合ったイベントで「ゲストハウスと孤独」について話したんですが、そのときはゲストハウス立ち上げ直後の葛藤がメインでした。24時間365日、一人オーナー体制で宿の対応をする日々で。精神的にいっぱいいっぱいのときとか、時間対応外に連絡なしで「荷物置いてもいいですか?」なんてお客さんが来たら思わず居留守してしまったり…。どこか追い込まれていたのかもしれません。

そうそう。あのイベント内でも「2種類の孤独」が存在しました。実際に「一人の時間」というところの孤独。そして、「経営者の立場の自分は決して誰とも根本的なところで気持ちを分かち合えないので、孤独だ」という意味と。

さて前置きが長くてすみません。孤独ですが、私は後者の方をよく感じます。前者も大好物で、それは知り合いのいなさそうなお茶処なんかで過ごして獲得してました。好きと嫌いは表裏一体で、自分としてはたいして特別なおもてなしをしているわけでもないのに「めっちゃ好き」と言われる。じゃあ「小さなきっかけでめっちゃ嫌いになるんじゃないか」と思ったり。そんなとき、孤独を感じますね。

 

 

 

<case3>

Hostel & Salon「SARUYA」共同代表の赤松智志さん

f:id:kakijiro:20170131014247p:plain

僕にとっての孤独は充電のようなものかなと思ってます。ゲストハウスはお客さんあっての商売ですし、絶対ではないにしても地域の方々ともしっかり関係を作っていく必要があるので、対人コミュニケーションで日々飯を食ってるようなものかなと。

運営している中で、どうしようもなく孤独に浸りたい時って、やっぱり自分のキャパを超えた対人コミュニケーションで自分が押しつぶされそうになっている時なんだろうと思います。僕の場合は、ひとり軽トラの運転席に座っている時間こそ、あえて孤独を作る瞬間です(笑)。この瞬間がなくなると、きっとツラくなりますね。

孤独に浸ることで、自分の軸を再確認したり、自分を良い意味で肯定したり、日々のコミュニケーションを咀嚼して吸収したり。それが僕にとって、外的に演じている自分を、本当の内的な自分に取り戻す作業であり、また外的な自分を改めて気持ちよく作っていくための時間なんだろうと思いますね。

 


 

f:id:kakijiro:20170129184038p:plain「これは……激エモな言葉の数々……」

f:id:kakijiro:20170129184004p:plain「僕も想像の3倍くらいエモい回答が返ってきてビビりました。そもそもゲストハウスって人がつながる場所だし、みんな言いづらいこともあるとは思うんです。でも僕はそこ、正直に言ってもいいと思ってます」

f:id:kakijiro:20170129183954p:plain「んー……」

f:id:kakijiro:20170129184004p:plain「そのあたり、ここ数年のゲストハウスブームを引っ張ってきた塩満くんに、話を聞いてみたかったんです。こうしたコメントを読んで、どう感じましたか?」

f:id:kakijiro:20170129183954p:plain「まあ、確かに言いづらい部分はあるけど、みなさんが言ってることは」

 

f:id:kakijiro:20170131014631j:plain

「すごくよくわかるんですよ」

 

f:id:kakijiro:20170129184038p:plain「おお……」

f:id:kakijiro:20170129184004p:plain「やっぱり。表情の暗さは全然やっぱりじゃないけど、そんな気がしていました。まず、宿をやるとコミュニケーションをとる人数が圧倒的に増えるから、Facebookメッセンジャーのやりとりの量がやばくなるでしょう?」

f:id:kakijiro:20170129183954p:plain「はい」

f:id:kakijiro:20170129184038p:plain「……(そういうものなんだ?)」

f:id:kakijiro:20170129184004p:plain「それでいて、リアルの場では365日24時間、誰かと接している。もし僕がゲストハウスのオーナーだったらきっと、『うわあ、全部捨てたい!全部捨てて京都の6畳一間でしばらく暮らしたい!』ってなると思うんです」

f:id:kakijiro:20170129183954p:plain「まあ、それはね。そうやと思います」

f:id:kakijiro:20170129184038p:plain「柿さんの話は、マジで追い込まれて奥さんに言ったやつですよね。つまり人付き合いに疲弊しちゃうってことかな?」

f:id:kakijiro:20170129184004p:plain「それもあるんでしょうけれど、僕はこれ、自分自身の愛の総量が足りなくなることだと思ってて」

f:id:kakijiro:20170129184038p:plain「愛?」

f:id:kakijiro:20170129184004p:plain「愛=他者に優しく接するエネルギーみたいなもんですね。ゲストハウスの仕事って、愛をみんなに振り分けることでもあると思うんですよ。でも、振り分けられる愛には限りがある」

f:id:kakijiro:20170129183954p:plain「はい、それもよくわかります」

f:id:kakijiro:20170129184004p:plain「愛がゼロになると、ホントにしんどい。その状態で人と接しても、絶対にいい感じでは返せないわけで……。僕はこれを『愛の枯渇問題』と言っています」

f:id:kakijiro:20170129184038p:plain「愛の枯渇問題」

f:id:kakijiro:20170129184004p:plain「そうです。その枯渇した愛のバロメーターを回復させる過程で、みんな『孤独』と向き合っているんじゃないかと」

 

楽しいだけでは、続けられない

f:id:kakijiro:20170131014626j:plain

 

f:id:kakijiro:20170129183954p:plain「…………」

f:id:kakijiro:20170129184038p:plain「なんか妙にエモい展開になってきましたが、大丈夫ですか? 塩満さん、表情が……」

f:id:kakijiro:20170129183954p:plain「はは、大丈夫ですよ。僕、普段明るく振る舞ってるように見られるんですが、実は結構暗いんです。根暗なんです(笑)」

f:id:kakijiro:20170129184038p:plain「根暗って……」

f:id:kakijiro:20170129183954p:plain「で、愛の話ですが、枯渇するって……それはそうやと思います。でも、僕はそれ以上に『求められること』への葛藤で苦しくなることがある」

f:id:kakijiro:20170129184038p:plain「求められる?」

f:id:kakijiro:20170129183954p:plain「ええ。地域のなかでゲストハウスをやらせてもらっていると、いろんなところから求められている気になってしまったりするんです。なんていうか、むずかしいんですけど……」

f:id:ONCEAGAIN:20170131111759p:plain「言いづらいとこに突っ込んですみません」

f:id:ONCEAGAIN:20170131111817p:plain「いえ……。そういえば、以前ゲストハウスをされていた発酵デザイナーの小倉ヒラクさんが、ブログでも書かれていましたよね。それを個人的にも分岐点に当たるようなときに読んだんですが、あーわかるなあと」

 

 

f:id:kakijiro:20170129184038p:plain「ふーむ。ゲストハウスは『仕組みビジネス』であると書いてありますね。ゲストハウスが地域を盛り上げるとか、そういうストーリーもあるけれど、それよりもまず、宿主は自分の宿のビジネスモデルを磨いていかないとっていう」

f:id:kakijiro:20170129183954p:plain「はい。もちろん、いろんな考え方はあっていいと思うのですが……」

 

f:id:kakijiro:20170131014630j:plain

f:id:kakijiro:20170129184004p:plain「ゲストハウスってそもそも、めちゃくちゃ時間を取られるわりに、実入りが少ないんです。だから、続けていくためには、経営スキルの向上は必須になる。思いも大事だけど、まずはビジネスとしての仕組みをきちんと築いていくことが大事なんでしょう」

f:id:kakijiro:20170129184038p:plain「実に、現実的な話ですね」

f:id:kakijiro:20170129184004p:plain「結局、経営がうまくいって、ある程度の経済的な余裕もできてこないと、さっき言ってた『愛』だって、枯渇したままでチャージされない。『愛を与えたい→でも経営が不安定→愛が充電されない→愛が枯渇する→体力&精神的にもきつくなる』という負のスパイラルに陥るわけで」

f:id:kakijiro:20170129184038p:plain「ビジネスが『愛』に紐付いている。なんだか考えさせられちゃうなあ」

 

『孤独』をエネルギーに変えて

f:id:ONCEAGAIN:20170113115438j:plain

 

f:id:kakijiro:20170129184038p:plain「でも、孤独って、そういう経営者的な『孤独』と、もっと繊細な、なんていうか、自分の根っこにある『孤独』みたいなものも、きっとありますよね? 気質っていうのかなあ」

f:id:kakijiro:20170129184004p:plain「それはありそうですよね。ほら、ゲストハウスオーナーってバックパッカー経験者多いですし。塩くんも、孤独に一人旅するの好きだったりしますか?」

f:id:kakijiro:20170129183954p:plain「ああ、そうですね。今でもたまにふらっと海外とか行きたくなりますから。というのも、僕、いつも何か新しい景色に出会いたいときは、かならず一人でいくんですよ。そこでしか感じられない幸せがあるから」

f:id:ONCEAGAIN:20170131111759p:plain「へえ〜。どんな幸せなんですか?」

f:id:kakijiro:20170129183954p:plain「たとえば、海外で、言葉も通じない、誰も自分のことを知らない、そんな環境で自然に生まれた出会いから、ふっとまちに受け入れられたときとか、ものすごく幸せを感じるんです。失神しそうなくらいに」

f:id:ONCEAGAIN:20170131111759p:plain「そんなに!?」

f:id:ONCEAGAIN:20170131111817p:plain「はい。アウェイで、すごく孤独な状況なんだけど…」

 

f:id:kakijiro:20170131014628j:plain

「うわー幸せだあって」

 

f:id:kakijiro:20170129184038p:plain「その表情を見るかぎり、そうなんでしょうね」

f:id:kakijiro:20170129183954p:plain「あはは。思い出したらうれしくなっちゃって。でも、何者でもない自分が、その場に受け入れてもらえた瞬間の幸せって、ほんと、最高なんですよ。この感覚は、海外にいるときに感じたことが多かったなあ」

f:id:kakijiro:20170129184038p:plain「ああ、確かニューヨークで生活されてたとか。そのときの経験が今に影響を与えている部分は?」

f:id:kakijiro:20170129183954p:plain「大きいですね。海外経験がなかったら、今の自分はなかったと思います。死んでたかもしれない」

f:id:kakijiro:20170129184038p:plain「またまた………」

f:id:kakijiro:20170129183954p:plain「いや、ホントそうだと思います。多様性を認め合い、あらゆるものを受け入れ合うような世界観に出会って、それを日本の、しかも地元の萩でやりたいと思って、僕は『ruco』をつくったので」

f:id:ONCEAGAIN:20170131111759p:plain「そっかー。塩満さんはそういう海外での孤独だけど幸せな体験が、『ruco』をつくる原動力になったんだ。バックパッカーって、孤独な旅から生きるエネルギーをもらっている人が多いのかなあ」

f:id:kakijiro:20170129184004p:plain「それはあるかもですね。あと、ゲストハウスのオーナーって、実はさみしがり屋なんじゃないかと。だから、いろんな人が集まる宿をやりたくなる。でも、根っこが旅人だから、孤独にひとりで見知らぬ土地に飛び込んでいくことも大切にしている」

f:id:kakijiro:20170129184038p:plain「なるほどー。ちょっとずつバックパッカーという生き物が見えてきた気がします」

 

自分のなかの「内」と「外」

f:id:ONCEAGAIN:20170117151134j:plain

 f:id:ONCEAGAIN:20170131111759p:plain「もちろん孤独との付き合い方って、ゲストハウスのオーナー一人ひとりにやり方があるんでしょうね。それが塩満さんの場合は、海外のような、できるだけアウェイな環境に身を置くことでもあるわけで」

f:id:kakijiro:20170129183954p:plain「そうですね。僕はどんなに忙しくても、どうにかタイミングをつくって、東京に行ったりとか、なるべく外には出るようにしているんです。やっぱり外に出ると、感動があるんですよ」

f:id:kakijiro:20170129184038p:plain「旅と同じように?」

f:id:kakijiro:20170129183954p:plain「ええ。地元の外に出て、普段食べられないようなものを食べたり、普段触れられないようなものに触れたりすると、心の底から感動するんです。うわーいいなあって。これがなんともいえない、ものすごい多幸感で」

f:id:kakijiro:20170129184038p:plain「それは普段、萩という『内』に深くコミットしているから、というのもあります?」

f:id:kakijiro:20170129183954p:plain「ありますね。自分には萩・山口という『内』があるから、『外』の世界に出たときに、深く感動できるんだと思います。これはやっぱり、根無し草のように生活している人には得られないことじゃないかと」

f:id:ONCEAGAIN:20170131111759p:plain「でも、その大切にしている『内』には『求められる』ことの重圧とか、人付き合いのむずかしさとか、小さなコミュニティならではの問題も、いろいろとあるわけじゃないですか。自分のなかに押し込めておかないといけない感情が多くて苦しくなったりはしませんか?」

f:id:ONCEAGAIN:20170131111817p:plain「うーん。でも、感情を表に出した瞬間に失ってしまうものもあるわけで…。結局、いろいろある『内』にコミットして、ゲストハウスをやっているのは自分ですから、誰かのせいにするのではなくて、自分自身の問題としてちゃんと捉えていかないといけないなと」

f:id:ONCEAGAIN:20170131111759p:plain「ある種、修行みたいですよね」

f:id:ONCEAGAIN:20170131111817p:plain「僕は人生そのものやと思ってるんです。自分にとっての『内』と『外』は、どっちがいいとか悪いとかではないなと。むしろどっちもあるからいいんだ、という風に思っていて」

f:id:ONCEAGAIN:20170131111759p:plain「『内』と『外』の両方をひっくるめて、全体=人生として捉える」

f:id:ONCEAGAIN:20170131111817p:plain「ええ。そうしていくことによって、少しずつ自分の『ものさし』が広がっていくんじゃないかと。その『ものさし』を使って、『内』と『外』のバランスを上手に取れるようになっていきたいですね」

f:id:ONCEAGAIN:20170131111759p:plain「経営者として地域のなかで孤独な戦いをしていかなければならない『内』の自分と、孤独な旅から英気を養う『外』の自分。それを、まるごと人生として受け入れ、ニュートラルに生きる。ゲストハウス『ruco』は、そうした塩満さんの生き方の集大成なんでしょうね」

 

まとめ

f:id:kakijiro:20170131014625j:plain

地域化時代の文化的な魅力が詰まっているともいえるゲストハウス。等身大のビジネスとしての「いい感じ」の面がクローズアップされることも多いけれど、実はそれが、これまであまり公にはされてこなかった「人間的な葛藤」の上に成り立っている。

この現実は、これからローカルビジネスを始めようという人や、すでに始めている人にも、さまざまな「気付き」を与えてくれるのではないでしょうか。

 

f:id:kakijiro:20170131014638j:plain

ゲストハウスをやるということは、地域のホストとして、ほとんどエンドレスに人と接し続けなければならない「定め」を背負うことでもあるのでしょう。

多忙な日々のなかで、どのように自分の時間を作り、どのように心身のバランスを保っていくか。当事者にならなければわからないことも多いはずですが、身を削りながらがんばっているゲストハウスオーナーの切実な思いに、少しだけ触れることができたような気がする、そんな今回のインタビューでした。

 

萩を訪れる機会があれば、ぜひ「ruco」に立ち寄ってみてください。

旅のなかでしか得られない「いい時間」がきっと待っていると思います。

 

それではまたどこかで!

 

▼取材協力

萩ゲストハウスruco

住所:山口県萩市唐樋町92

電話:0838-21-7435

料金:1泊2800円〜

http://guesthouse-ruco.com/

 

Photo by ayumi yagi

 

書いた人:根岸達朗

f:id:ONCEAGAIN:20161209112841j:plain

ライター。発酵おじさん。ニュータウンで子育てしながら、毎日ぬか床ひっくり返してます。メール:negishi.tatsuro@gmail.com、Twitter ID:@onceagain74/Facebook:根岸達朗


ひとつだけ県が抜け落ちた日本地図、違和感に気づく人はいるのか!?

$
0
0

f:id:eaidem:20160715102537p:plain

 

 

f:id:eaidem:20160715104942j:plain

どうもお久しぶりの都道府県マスター潤です。

皆さんお好きな都道府県、愛でてますか?

 

 

 

 

 

f:id:eaidem:20160715104942j:plain

愛でてる?

 

 

 

 

 

 

f:id:eaidem:20160715104942j:plain

何指で愛でてますか?

 

 

 

 

 

 

 

f:id:eaidem:20170206103034j:plain

中指?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

f:id:eaidem:20160715104942j:plain

…さて残念ながら今日は悲しいご報告を発表しなければなりません…

 

 

 

 

それは…

 

 

 

 

 

f:id:eaidem:20170206103019g:plain

 

 

 

 

f:id:eaidem:20170206103035j:plain

無くなっても気づかない都道府県を発表しなくてはならないのです!!!!!!

 

 

 

 

 

f:id:eaidem:20170206103036j:plain

なぜそんなことをしないといけないかと言いますと、遡ることひと月前…

 

 

 

 

f:id:eaidem:20170206103020j:plain

f:id:eaidem:20170206103021j:plain

f:id:eaidem:20170206103022j:plain

f:id:eaidem:20170206103023j:plain

 

 

 

f:id:eaidem:20160715104942j:plain

 

 

 

 

 

f:id:eaidem:20160715104942j:plain

…しかし

 

 

 

 

f:id:eaidem:20170206103034j:plain

私は思ってしまいました。

もしかしたら都道府県がひとつなくなっていたとしても、本当に人々は気づかないのかもしれないと。

 

 

 

f:id:eaidem:20170206103024j:plain

 

 

 

f:id:eaidem:20170206103035j:plain

とある問題を作成したのです!!!

 

 

 

それは……

 

 

 

 

 

f:id:eaidem:20170206103039j:plain

 

一見普通に見えるのに、実はどこかの都道府県がひとつだけ抜け落ちている日本地図を12枚作って、知り合いという知り合いすべてに解答してもらいました。

 

果たして「どこが足りていないのか」解答できる人間はいるのでしょうか?

 

 

f:id:eaidem:20170206103028j:plain

WEBディレクター男性
かなりの速度で答えていましたが、50%以下の正解率でした

 

 

f:id:eaidem:20170206103029j:plain

WEBデザイナー女性
「地理がまったくわかりません」と言いながらもそこそこの正答率でした

 

 

f:id:eaidem:20170206103030j:plain

ジモコロ副編集長
「日本人なら正解できなきゃおかしい」と頼もしいお言葉―

 

 

f:id:eaidem:20170206103031j:plain

全然違うし、せめて漢字で書けよ!

 

 

 

 

 

 

f:id:eaidem:20170206103036j:plain

というわけで、総勢18人にアンケートをとった結果、この世で一番悲しいランキングができてしまいました。

 

そう…

 

 

 

f:id:eaidem:20170206103025j:plain

 

 

第3位

f:id:madmania:20170206150437j:plain

 

みなさんは当然わかりますよね?
わからない場合はクリックしてみてください。
 

 

 

 

そう、答えは…

f:id:eaidem:20170206103036j:plain

加賀百万石の城下町、金沢市が有名な石川県がなくなっていたのです!

富山県(石川の右にある県)の左の出っ張りが、能登半島に打って変わるようで、気づかれませんでした。

 

 

能登半島、ちょびっとすぎだろ!!!

気づけよ!!!!!

 

 

第2位

f:id:madmania:20170206150439j:plain

わかるかな? わからない場合はクリック!

 

 

 

 

そう、答えは…

f:id:eaidem:20170206103036j:plain

出雲大社でお馴染みの島根県がなくなっていたのです!
他府県民にとって中国地方は、「山口県に向かってシュッしてる」というイメージしかないようです。

 

 

 

神々に謝れ!!!!

 

 

第1位

無くなっても気づかれない都道府県第一位は……ここ!

f:id:madmania:20170206150441j:plain

これに気付けた者は、都道府県愛に満ちあふれた素晴らしき人物だと言えるでしょう!(もしくはそこの住人!)

わからない場合はクリック!

 

 

 

そう!

 

答えは……

 

 

 

 

 

 

和歌山県!!!!

 

f:id:eaidem:20170206103026g:plain

 

f:id:eaidem:20170206103035j:plain

おいおい!

和歌山県といえば、都道府県マスターでも取り上げた「ゴムパッチンできる都道府県」だろ!!

アドベンチャーワールドにはパンダいっぱいだぞ!!

 

 

 

f:id:eaidem:20170206103036j:plain

しかし縁のない人と、さらに関西出身者に至るまで、近畿地方の違和感に気づきませんでした…。

 

 

 

f:id:eaidem:20170206103036j:plain

和歌山県のみんな!ごめん!!!
潤はそんなこと全然思わないよ!!!
むしろ一番好きだから!まじ!これはまじ!

 

 

 

 

f:id:eaidem:20170206103036j:plain

 

 

 

 

f:id:eaidem:20170206103037j:plain

つうかさ!もっと複数無くしていってもわかんなくない?

逆に?

 

 

 

f:id:eaidem:20170206103037j:plain

こうなったらさ、
限界まで無くしていってみようよ!

 

 

 

 

 

 

そうして、

 

 

 

私は

 

日本地図の形を崩さないように

 

どんどん都道府県を

 

 

削ぎ落としていくことにしました。

 

 

 

ひとつ

 

 

ひとつ

 

 

パッと見じゃ気づかないように。

 

 

 

 

 

 

すると…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

f:id:eaidem:20170206103040j:plain

ドンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

f:id:eaidem:20170206103032j:plain

 

 

f:id:eaidem:20170206103034j:plain

お役に立ちましたでしょうか?

 

 

おまけ

今回アンケートのために作成した地図は12枚ありました。せっかくなので、ご紹介できなかった残り9枚の日本地図を公開します! みなさんもチャレンジしてみてくださいね!

※見比べるのは禁止です!

※どうしても答えがわからなければクリックしてみましょう!

 

 f:id:madmania:20170206150443j:plain

※ヒント:りんご

 わからない場合はクリック!

 

 

 f:id:madmania:20170206150445j:plain

※ヒント:吉田松陰

わからない場合はクリック! 

 

 

 f:id:madmania:20170206150447j:plain

※ヒント:甲子園

わからない場合はクリック! 

 

 

 f:id:madmania:20170206150449j:plain

※ヒント:落花生

わからない場合はクリック! 

 

 

 f:id:madmania:20170206150451j:plain

※ヒント:ノーヒントでお答えください

わからない場合はクリック! 

 

 

 f:id:madmania:20170206150453j:plain

※ヒント:ノーヒントでお答えください

わからない場合はクリック! 

 

 

 f:id:madmania:20170206150455j:plain

※ヒント:うどん

わからない場合はクリック! 

 

 

 f:id:madmania:20170206150457j:plain

※ヒント:松阪牛

わからない場合はクリック! 

 

 

 f:id:madmania:20170206150459j:plain

※ヒント:ノーヒントでお答えください

わからない場合はクリック! 

 

 

 

以上です!

 

f:id:eaidem:20170206103038j:plain

お分かりになりましたでしょうか?

 

 

 

f:id:eaidem:20170206103038j:plain

え? わかったって?

すごーい!

 

 

 

 

f:id:eaidem:20170206103038j:plain

 

 

 

 

 

f:id:eaidem:20170206103038j:plain

ははははは

 

 

 

 

f:id:eaidem:20170206103038j:plain

……………

 

 

 

 

f:id:eaidem:20170206103033g:plain

本当なら
わかって当たり前なんだよ!!!!!!

 

 

 

(おわり)

ランキングに使用した都道府県のみなさん、ごめんなさい

 

 

 

 

 

「都道府県マスター潤」一覧はこちら

 

 

ライター:室木おすし

f:id:kakijiro:20150610200320j:plain

イラストレーター。イラスト・マンガ・GIFアニメ等を使用して活動中。オモコロライターとしても活動。特技「たべっ子どうぶつ盲牌」がフジテレビの番組「ジマング」で取り上げられて、そのことをたまに思い出してはニヤけている。お仕事常に募集中!お気軽に! 公式サイト:スシックスタジオ(http://www.susics.com)/ TwitterID:@susics2011

 

ジモコロは求人情報サイト「イーアイデム」の提供でお送りしています

新潟県の求人、アルバイトはこちら!

【地方創生の新手法】クリエイター5人の熾烈な競争、動画制作キャンプの可能性とは?

$
0
0

f:id:tmmt1989:20170126122630j:plain

集合写真でこんにちは。後列右から4番目の友光(ともみつ)と申します。

 

f:id:tmmt1989:20170208235607j:plain

これです。

以前、『【保存版】明日は我が身! 災害時に役立つ「車中泊マニュアル」を教わってきた』という記事で、車中泊のアドバイザーとしてジモコロに取材を受けました。

 

今回は取材される側から、する側へと立場を変えて、先日参加した「TAKA Winter Video Camp」の模様を振り返ってみたいと思います!

 

 

 最近、よく日本のいろんな自治体のPRムービーを見かけませんか?宮崎県小林市の「ンダモシタン小林」や大分・別府市の「湯~園地計画」告知動画など、目にした方も多いのではないでしょうか。

ここ兵庫・多可町(たかちょう)でもPRムービー計画が進行中なのですが、 その手法が一風変わっています。それが「5人の映像クリエイターに2泊3日のキャンプをしてもらい、PRムービーのため町の『SUGOI』を発見してもらう」というもの。

面白そうじゃないですか? 実際めちゃめちゃ楽しい経験になったので、同行したジモコロ編集長の柿次郎と共に、レポート形式で振り返ってみましょう!

それでは当日の朝からスタートです!!!

 

幕開けは大寒波の予報とともに

f:id:tmmt1989:20170209000123j:plain

左:ジモコロライター 友光(僕)・右:ジモコロ編集長 柿次郎

 f:id:tmmt1989:20170207163450p:plain「今回の取材、すごい刺激を受けて今もカラダが火照ってる感じです!」

f:id:tmmt1989:20170206232556p:plain「友光さんには出発前日に声をかけたんだけど、来てよかったでしょ?」

f:id:tmmt1989:20170207163450p:plain「『前日に声をかける』、というのは社会人としてどうかと思いましたが、暇だったんでちょうどよかったです」

f:id:tmmt1989:20170206232556p:plain「そもそもこのキャンプには僕がメンター(※指導者・助言者)として呼ばれていて。そこにジモコロの取材をくっつけた形なんですが……しかしこの旅行、雪との戦いだった」

f:id:tmmt1989:20170207163450p:plain「『最強寒波』とやらが来てましたからね。出発した時は晴れでしたが、『絶対ヤバい量降るから』ってどの天気予報見ても言ってました」

f:id:tmmt1989:20170206232556p:plain「まず、新大阪のレンタカー店でひと悶着あったよね。予約したレンタカーはノーマルタイヤだったから。でも、ほぼ間違いなく雪積もるって言ってるし……」

f:id:tmmt1989:20170207163450p:plain「スタッドレスタイヤにしたらなかなかの追加料金とられましたね」

 

結果的にスタッドレスにして良かったのです。なぜなら……

 

f:id:tmmt1989:20170209000518j:plain

次の日には、一面、ご覧の雪景色になってたからです!

 

翌日のことはまだ露知らず、我々を乗せた車は、キャンプの集合場所である駅へ到着。

 

f:id:tmmt1989:20170126164018j:plain

 駅前には、キャンプに参加するクリエイターさんの姿が。

 

f:id:tmmt1989:20170129181308j:plain

さらに今回のキャンプを企画・運営する「株式会社ロフトワーク」のスタッフ、そして多可町役場の皆さんが到着! 参加者がそろったところで、 いよいよ多可町へと移動します。

f:id:tmmt1989:20170206232556p:plain「だんだん旅のパーティーが増えてく感じ、たまらない」

f:id:tmmt1989:20170207163450p:plain「ここで、参加クリエイター5名の皆さんを紹介します」

 

クリエイター①:くろやなぎてっぺいさん

f:id:tmmt1989:20170207185455j:plain

ミュージックビデオからTVOP、アニメーションまで多岐にわたり活躍し、アートユニット「1980円」としても活動。音楽と平和を愛する人たちが「あいうえお作文」でラップする「あいうえお作文RAPプロジェクト」も話題に。

 


クリエイター②:宮下直樹さん

f:id:tmmt1989:20170207190217j:plain

故郷の京都と東京を行き来しながら、「Terminal81Film」として活動。「うるしのいっぽ」など、写真や映像表現を用いたプロモーションやブランディングを手掛ける。

 


クリエイター③:齋藤汐里さん

f:id:tmmt1989:20170207190242j:plain

今回の参加クリエイターの紅一点。テレビ番組の制作を経てクリエイターとして独立し、アメリカと日本の二拠点で活動中。自由大学(東京・表参道)にて「魅せる!映像学」の教授も務める。

 


クリエイター④:岸田浩和さん

f:id:tmmt1989:20170207190300j:plain

会社員、ライターを経て、2011年の震災を機に映像記者に。さまざまな人とモノの背景にあるストーリーをドキュメンタリー手法で可視化し、映像や写真・テキストによる表現でメッセージを伝える。

 


クリエイター⑤:

松岡真吾さん

f:id:tmmt1989:20170207190320j:plain

広告制作会社勤務ののち、東京・多摩エリアの地域出版社「けやき出版」に入社。編集業と並行し、東京区外30市町村の街の映像を記録し配信するシリーズ『La Vie Landscape Archives』を制作している。

 

f:id:tmmt1989:20170207163450p:plain「どの方の映像も本当に素敵なんです」

f:id:tmmt1989:20170206232556p:plain「ジャンルもキャラクターもバラバラで面白かったね。みんな個性的!」

 

そもそもどういうキャンプなのか

f:id:tmmt1989:20170129182522j:plain

多可町役場へ到着すると、手書きの黒板がお出迎え。手作り感の良さですね。

 

f:id:tmmt1989:20170129184305j:plain

はじめにロフトワークさんからキャンプの目的や流れの説明があり……

 

f:id:tmmt1989:20170129182602j:plain

柿次郎から、普段のジモコロの記事作りを元にした「地域の魅力の発見の仕方」「広く読まれるコンテンツの作り方」などに関するトークがあり……

 

f:id:tmmt1989:20170129185109j:plain

町長さんからのお話があり……

 

と、ここでやっと、勢いで来てよく分かっていなかった僕もイベントについて理解しました。まとめますと…

 

f:id:eaidem:20170209145521p:plain

・クリエイターはキャンプでのワークショップやフィールドワークを通じ、多可町のSUGOI魅力を発見する

・キャンプ後に、PRムービーのコンペを実施。町民投票と最終審査を行う

・グランプリを受賞したクリエイターが、多可町のPRムービーを実際に制作し、後日公開される

という流れでした。そもそも今回でPR映像を撮るんじゃなくて、あくまで下調べなんだ。めちゃくちゃ大がかりだなこの企画……

 

f:id:tmmt1989:20170206232556p:plain「そう!クリエイターの募集が始まったのが去年の秋で、プロジェクト自体はそのもっと前に始まってるから。参加クリエイターも数十人応募があって、5人に絞られてるんです」

f:id:tmmt1989:20170207163450p:plain「町長さんが『肝入り』って言ってた理由がわかりました」

 

一体なぜこんなにも「TAKA Winter Video Camp」に力を入れているのか?

多可町は、そもそも3つの町が合併してできた町。町名の『多加』は元々郡名のため、知名度が低いのが課題だそうです。そこで、PR映像で日本全国、いや世界に魅力を発信したい!というのが今回のプロジェクトの発端だそう。

 

f:id:tmmt1989:20170201175410j:plain

ちなみに、役場の庁舎は元小学校。渡り廊下に並ぶ地元のチェーンソーアーティストの作品がいい味でした

f:id:tmmt1989:20170206232556p:plain「地元のPRムービーを作る方法って色々あると思うんだけど、今回は映像を作る過程を『皆で楽しめる』ようになってるのがすごいと思った」

f:id:tmmt1989:20170207163450p:plain「映像のテーマ探しもワークショップ形式にして、クリエイターが楽しみつつ、発想を手助けしながらより良いアイデアが生まれるようになっていましたね。役場の人も全面協力で、クリエイターと地元の人の間をうまく取り持ってくれて」

f:id:tmmt1989:20170206232556p:plain「お互いが無理せず、自然に交流できるような雰囲気を作ってくれてるのも好印象だった」

 

地元のお母さんを中心に運営される「田舎のコンビニ」へ

f:id:tmmt1989:20170129185706j:plain

さて、役場を出て向かったのは「マイスター工房八千代」。地元のお母さんを中心に運営される「田舎のコンビニ」で、人気商品の「太巻き寿司」は一日に1500〜2000本が完売するほど!年商2億円!

 

f:id:tmmt1989:20170129185743j:plain

噂の太巻き寿司。めちゃおいしかった!

 

f:id:tmmt1989:20170129185719j:plain

こちらは「マイスター工房八千代」の施設長・藤原たか子さん

 

f:id:tmmt1989:20170130102615j:plain

マイスター工房の喫茶室で藤原さんのお話を聞かせてもらいました。話がめちゃおもしろい!

f:id:tmmt1989:20170206232556p:plain「藤原さんは『マイスター工房八千代』の経営者であり、『太巻き寿司』を開発したアイデアマンであり、多可町の『母』よね『母』」

f:id:tmmt1989:20170207163450p:plain「藤原さんについては、あまりにおもしろすぎたので、近日中に別記事で詳しく紹介します! お楽しみに!」

 

f:id:tmmt1989:20170130102348j:plain

 その後、役場でワークショップが開かれ、夜はいよいよ交流会です。

 

多可町最初の夜は更けて

f:id:tmmt1989:20170130104834j:plain

地元企業の代表から青年団の方まで、町の人も多数参加した大交流会。メイン料理は名産「播州百日どり」のすき焼き。たれは藤原さん特製です。

 

f:id:tmmt1989:20170130104846j:plain

多可町では「山田錦」という日本酒の素材となる酒米も作られているんです。だから乾杯は日本酒で!

 

f:id:tmmt1989:20170131225852j:plain

交流会では、カメラマンとして同行してくれた「鶴と亀」小林さんのトークイベントと、クリエイター陣の自己紹介タイムも。クリエイターそれぞれの映像作品が流され、皆さん真剣に見つめています。

f:id:tmmt1989:20170206232556p:plain「僕もジモコロで全国いろいろ回ってますけど、なかなかこんな会ないですよ。規模もそうだし、ただ宴会するんじゃなく、自己紹介タイムまで組み込まれてて」

f:id:tmmt1989:20170207163450p:plain映像を見て、ぐっと距離が縮んだ感じがあったような。『こんな凄い映像で多可町を撮ってもらえるんだ』って地元の人は思いますよね」

f:id:tmmt1989:20170206232556p:plain「映像っていいなって思ったな〜。『引き込む』力がめちゃくちゃ強い!普段、文字の世界で戦ってるから、つくづく映像の強みを感じた」

f:id:tmmt1989:20170207163450p:plain「地元の人と意見交換できたのも面白かったですね。『おせっかいなおばちゃんの力をもっと活かしたい』とか、『交通の便がもっと整えば』とか、いろんな意見があって」

f:id:tmmt1989:20170206232556p:plain「あの場でも言ったけど、すでに十分魅力的だと思うんよね。人にエネルギーがあるし、実際、町に来てみて、風景もすごいいいし。だから、自分の土地を『ここが駄目』って卑下するより、前向きに『ここが好き、もっと知ってほしい』って言う方が、より良くなっていくと思う!」

 

f:id:tmmt1989:20170130105133j:plain

宿泊先のコテージに移動して部屋飲み。酒量も増え、アツい話でヒートアップしました。いつ寝たのかは憶えていません。

 

地場産業「播州織」で頑張る人たち

さて2日目の朝です。

 

f:id:tmmt1989:20170130161655j:plain

た、大変だ〜〜〜

 

f:id:tmmt1989:20170130161717j:plain

雪……

 

f:id:tmmt1989:20170209001124j:plain

雪が、めっちゃ積もっとる〜〜〜〜!!!

 

寒波寒波とは聞いていましたが、地元の人曰く、多可町でこれほど積もるのは「20〜30年に一度」だそうです。マジか。

 

豪雪の中、最初に向かったのは「コンドウファクトリー」。地場産業である「播州織」の工房です。

 

f:id:tmmt1989:20170130162459j:plain

 正直、ここだけで記事になりそうなくらい面白かった! 

『播州織』は約230年の歴史を持つ綿織物で、昔は多可町に700軒くらい機(はた)屋があったとのこと。ところが、中国の台頭で打撃を受けて、いまは90軒まで減少。しかし、現在は若い人たちが頑張ってなんとか盛り上げてるんです。

 

f:id:tmmt1989:20170130163831j:plain

「コンドウファクトリー」オリジナルの、赤ちゃん用の「スタイ(よだれかけ)」と巾着のキット

 

f:id:tmmt1989:20170130163846j:plain

同じく、ボウタイ(蝶ネクタイ)のキット 

f:id:tmmt1989:20170207163450p:plain「オリジナルの生地が素敵でした! ジャカード織といって、柄をあとからプリントするんじゃなくて、先に染めた糸を織って、柄ができているんですよね。その生地を使った手作りキットもあって」

f:id:tmmt1989:20170206232556p:plain「こちらの工房、コンドウファクトリーは、『今までの町の中での商売じゃなく、外へ売らなきゃ駄目だ』と方針転換したらしいね。播州織を継いだ若い世代が他にも何軒かあって、とっても印象的だった」

f:id:tmmt1989:20170207163450p:plain「みなさん、地場産業であり家業である播州織の現場に危機感を持って、新しいやり方を考えて挑戦してる。これからが楽しみですね」

 

フィールドワークin多可町

さて、ここからはクリエイター&地元の人がペアを組み、町の魅力を探すフィールドワークへ。

 

f:id:tmmt1989:20170130164654j:plain

各チーム、地図を見て作戦会議中。この後、それぞれ車に乗り込み、出発です。

 

一方、我々ジモコロチームはというと……

 

f:id:tmmt1989:20170130164834j:plain

 

f:id:tmmt1989:20170130164838j:plain

腹ごしらえして……

 

f:id:tmmt1989:20170207170723j:plain

 

f:id:tmmt1989:20170207170601j:plain

たい焼き食べて……

 

f:id:tmmt1989:20170207170614j:plain

温泉入って……

 

f:id:tmmt1989:20170130165606j:plain

昼寝しました。

f:id:tmmt1989:20170207163450p:plain自由かよ」

f:id:tmmt1989:20170206232556p:plain「いや、風呂は重要ですよ。充実した旅かどうかに大きく関わってくるから!」

f:id:tmmt1989:20170207163450p:plain「こういうのがフィールドワーク……なのかな」

f:id:tmmt1989:20170206232556p:plain「そういうこと! 遊んでるように見えて、ちゃんと取材してたんです!たい焼き屋のおっちゃんの話、面白かったでしょ」

 

f:id:tmmt1989:20170131233653j:plain

f:id:tmmt1989:20170207163450p:plain「たい焼きの衣も餡も手作りなんですよね。添加物を『すぐれもの』って言ってて、たしかに便利なんだけど、あえてうちは使わないと。職人でした」

f:id:tmmt1989:20170206232556p:plain「『仕事っちゅうのは遊びの一コマ』っていうセリフもよかったな〜」

f:id:tmmt1989:20170207163450p:plain「ふらっと行ったのにめちゃめちゃ話が盛り上がって、その人が長年生きてきたからこその『人生観』みたいなものも出てきて」

 

f:id:eaidem:20170209150034j:plain

f:id:tmmt1989:20170206232556p:plain「腹ごしらえした洋食屋『古時計』もよかったね。コーヒーも美味しくて、素敵ランチでした」

f:id:tmmt1989:20170207163450p:plain「ただ、クリエイターの皆さんは、暗くなるまであちこち回ってたみたいで……。『温泉入ってました〜』とはなかなか言いづらかったですよ……」

 

3日間の集大成

f:id:tmmt1989:20170130170351j:plain

翌朝はもっと雪が積もってました。地元の人は大変なんだろうけど、雪化粧した風景はすごく美しかった。

 

f:id:tmmt1989:20170130170445j:plain

キャンプ最終日には、クリエイターさんたちのキャンプの総決算となる時間がありました。各自がこの3日間で発見した多可町の魅力を、最後に発表するのです。

 

f:id:tmmt1989:20170131112930j:plain

まずは一人目、松岡真吾さん。

町のラーメン店や純喫茶を取材して作成したショートムービーが披露されます。魅力だと語った「店の人とお客さんの距離感」や皆さんの「人柄」が、映像の中のなにげない仕草や表情から伝わってきました

f:id:tmmt1989:20170206232556p:plain平穏感というか手触り感がすごくよかった。まだ20代半ばなのに、ムービーのBGMが井上陽水だったり、純喫茶を選んだりっていうギャップもいい。ジモコロ的にツボでした」

 

f:id:tmmt1989:20170131112939j:plain

続いて齋藤汐里さん。

米農家の人や他の土地から移住してきた人などを、「元うしろ指さされ組」というキーワードとともに紹介。厳しい状況や周囲の反対にも負けず、自らの生業を見つけた大人たちがいる多可町は、「大人がなりたい大人が集う町」だと語りました。

f:id:tmmt1989:20170207163450p:plain「地元で新しいことを始めたり、Uターンした人の苦労を丁寧に取材していて、地域の人が共感できる内容で。ジーンときましたね。」

 

f:id:tmmt1989:20170131112946j:plain

三番目は、くろやなぎてっぺいさん。

マイスター工房八千代の女性たちの「もてなし」やおしゃれなアームカバーの魅力を語ったほか、播州織の織り機のリズムに藤原さんのラップを乗せた映像を披露してくれました。

f:id:tmmt1989:20170206232556p:plainあいうえおラップの新作が見られるとは。別のアイデアも思いついたと言っていたので、本番も楽しみ!」

※あいうえおラップ=音楽と平和を愛する人たちが「あいうえお作文」でラップするプロジェクト。企画・監督がくろやなぎさん

 

f:id:tmmt1989:20170131113000j:plain

続いて宮下直樹さん。

多可町のあちこちに神話のエッセンスや平安貴族のDNAを感じる、という仮説を発表。「古くからの歴史や神話のようなルーツが見えてきて、そもそも多可町はすごいんだ、と思った」と語りました。

f:id:tmmt1989:20170207163450p:plain「ファンタジー好きなので、とってもわくわくする発表でした。まだ仮説の段階だと思うのですが、本当にすごいルーツが隠れていそう」

 

f:id:tmmt1989:20170131113016j:plain

最後は岸田浩和さん。

なんと昔、実家が西陣織を営んでいたという岸田さんは、播州織に携わる人たちを取材。若き作り手たちの姿を映したドキュメンタリー映像を披露し、危機感をもちつつ、地元愛とともに挑戦する彼らの姿から「日本全体が抱える不安と希望が見えてくるのでは」と語ります。

f:id:tmmt1989:20170207163450p:plain骨太なドキュメンタリーで、圧巻でした。あの短時間で作ったクオリティとは思えない」

f:id:tmmt1989:20170206232556p:plain「いや〜皆さん、想像の20倍すごかった。このキャンプだからこその、新しいものが生まれていたと思う。我々がメシ食って風呂入ってる間にあんなにしっかり取材して、プレゼンの準備して……素晴しすぎる!!!」

 

キャンプを終えて

f:id:tmmt1989:20170202130624j:plain

解散したあと、多可町の隣町の温泉へ。隙あらば温泉です。写真は足湯に入りながら食事ができる「足湯喫茶」です。

f:id:tmmt1989:20170206232556p:plain「つくづく面白いキャンプだった。先進的な事例だと思うし、全国でやってほしい。1人に絞るなんて言わず、5人全員のPRムービーが見てみたい!」

f:id:tmmt1989:20170207163450p:plain「役場の方が『お金だけ渡して作ってもらうんじゃなく、地元の人とのふれあいが生まれてよかった』って嬉しそうだったのも印象的でした。単にムービーが残るだけで終わらず、人の交流からまた別の新しいものが生まれそうですよね」

f:id:tmmt1989:20170206232556p:plain「今回のプロジェクトが、多可町が盛り上がっていくきっかけになればいいな。何度も言うけど、元々ポテンシャルのある土地だと思うので、やり方次第でもっと面白くなると思います! あとやっぱり映像がうらやましい! 引き込む力すげ〜〜って何度思ったことか」

f:id:tmmt1989:20170207163450p:plain「文字の力も負けてられませんよ! 温泉入って、これからも頑張るぞ〜〜〜!!!」

 

f:id:tmmt1989:20170202131406j:plain

見えませんが、足元は足湯になってます。極楽。

 

ではまた次の旅でお会いしましょう〜〜!

 

グランプリを受賞し、実際に制作されたPRムービーは、3月末までに多可町の公式映像としてWebなどで公開されるとのこと。楽しみだ〜〜! 

 

 

書いた人:友光だんご

f:id:tmmt1989:20170202163058j:plain

編集者/ライター。1989年岡山生まれ。暮らしからミニコミまで、面白いものと美味しいものが好きです。Facebook:友光 哲 / Twitter:@inutekina / 個人ブログ:tmmtの日記 / Mail: momoaka1989(a)gmail.com

【提案】日常に疲れたらプチ逃避行!鄙びた温泉へ日帰りひとり旅

$
0
0

f:id:eaidem:20170209033159p:plain

いつもお世話になっております。赤祖父と申します。普段はシステム系の仕事に従事する30代後半・妻子ありの会社員です。ジモコロでは普段、鉄道関係の記事を書いてきたのですが…

 

 

今回は、都内からほど近いながらもあまり知られていない”七沢温泉郷”を訪れたときのことを書かせていただきます。

 

 

日常からのプチ逃避

とある平日、精神が疲弊していたため、有給を取った。迷惑をかけないよう事前に調整は済ませていたが理由は特に誰にも語らないでおいた。

朝8時半、いつものように子供を保育園に預ける。普段は送りが自分、お迎えが妻と分担しているが、自分が休みの日はお迎えも担当する。そのタイムリミットは17時。この時間で何をしよう。そうだ、温泉に行こう……そんな使い古されたフレーズが頭をよぎり、ベタだなあと頭の中で自分につっこむ。

……この限られた時間で日帰りでき、それもできるだけ鄙びたような、人がいないところが良い。だからいわゆる東京の奥座敷として人気の箱根や熱海は今の気分とはちょっと違う。そしてお金もあまりかけたくない。

そこで脳内の「あとで読む」ならぬ「あとで行く」リストに何となく残っていた、都内から近いある温泉のことを思い出し早速行き方をググり始めた。

 

その温泉地の名前は「七沢温泉」。温泉が好きで全国色々巡っているつもりだったが、こんな近くに温泉郷があることに気付いたのはつい最近のことだった。

 

f:id:akasofa:20170129103223p:plain

住所としては神奈川県厚木市に位置する。ここなら余裕で日帰り可能、しかも地味すぎて(失礼)殆ど情報もないし、平日なら人もいないだろう、そんな期待を込めてこの七沢温泉郷をひとり訪れてみることにした。

 

 

 

七沢温泉郷までの道のり 

f:id:akasofa:20170129084253j:plain

七沢温泉郷へ行くには本厚木駅からのバスが良いらしい。新宿からは敢えて小田急の特急ロマンスカーを使って旅の気分を出す。目的の本厚木駅までは通常の運賃プラスたった570円である。

 

 

 

 

 

f:id:akasofa:20170129084256j:plain

新宿からは40分ほどで本厚木駅に到着。ちょっと検索をしているうちに着いてしまったが、ロマンスカーと、平日休みという特別感、それに個人的に殆ど馴染みの無い駅なので既に旅気分が自分の中で盛り上がりだしていた。

 

 

f:id:akasofa:20170129084318j:plain

本厚木駅から徒歩数分のところにあるバスターミナルに向かう。ここに書いてあるように七沢方面へのバスも出ている。通常地元の人なら七沢温泉へは車で行く人が殆どなのかもしれないが、ここも敢えて鉄道とバスを使うことで旅の感じが出るのではないだろうか。自分はただ単に車を持っていないだけだが。

 

 

f:id:akasofa:20170129084327j:plain

バスターミナルも立派で便利。イオンが隣接していて買い物にも便利かもしれない。

 

 

f:id:akasofa:20170129084321j:plain

七沢温泉郷方面へのバス停を見つける。平均して1時間に2本前後の運行で、かなり便利なほうではないかと思う。地方では平気で1日数便しか出ていないバスなどザラにある。

 

 

f:id:akasofa:20170129084329j:plain

バスの車内は途中でハイキングを楽しむであろう集団が降り、後は自分ひとりとなった。地方のバスやローカル線の列車で自分ひとりで乗っていると、自分ひとりのために働いてもらって申し訳なくなる気持ちと、空気を運ぶよりは客がいたほうが良いじゃ無いかという気持ちが複雑に絡み合う。運転手さんはどっち寄りの気持ちだろうか。 

 

 

 

f:id:akasofa:20170129084348j:plain

バスは終点の「七沢」で下車。ここまでは40分弱かかった。降りたのは勿論自分ひとりである。

 

 

 

温泉へ

f:id:akasofa:20170129084351j:plain

まず目的の「かぶと湯温泉 山水楼」に向かう。この温泉は厳密には七沢温泉とは別の源泉らしいので別の名乗りになっているが、近いので併せて入ろうと思ったのだった。

 

 

f:id:akasofa:20170129084353j:plain

f:id:akasofa:20170129084356j:plain

宿へのアプローチ。山道をとぼとぼと歩く。平日ということを差し引いてもここまで来ると野鳥の声しか聞こえない。勘違いしそうにもなるが、ここは立派に神奈川県厚木市である。

 

 

 

f:id:akasofa:20170129084400j:plain

山水楼の湯は源泉掛け流しということでとても期待している。適温に加温はされているとのことだが、それでもやはりなるべく手を加えないお湯に入りたいというのが温泉好きの人情だ。

 

 

f:id:akasofa:20170129084429j:plain

鄙びた雰囲気で、人の気配が全然ない。うーん良い雰囲気じゃないか……と思ったら、

 

 

f:id:akasofa:20170129084431j:plain

本 日 休 業

 

 

 

f:id:akasofa:20170129084435j:plain

思わずズコーっと倒れてしまった(そして倒れたことを表現するためにセルフタイマーで撮影をした)。休みなら人の気配がないのは当たり前である。そして後からよーく見たらホームページにも定休日に該当することがわかった。完全にこちらのミスであった。しかしここは絶対リベンジしたい……。

 

 

 

f:id:akasofa:20170129084439j:plain

バス停に戻ると、先ほどのバスがそのまま停まっていたので再乗車。「七沢」のひとつ手前のバス停「広沢寺温泉入口」で下車し、そこから徒歩で七沢温泉の温泉街に向かう。温泉街と言っても旅館が何軒かあるだけで、饅頭屋や射的屋などがあるわけではない。きわめて地味であるがそれが良い。

 

 

 

f:id:akasofa:20170131134020j:plain

こんな道を歩いていると、なんでここまでひとりできたのだろう、とふと思い直す。仕事や子育て、家庭、ときどき全て捨てたくなるときがある。正直、煩わしいと思うときもある。平日はソコソコに仕事をこなし、休日にはひとりで気ままに旅行に出て見たいものを見て行きたいところに行く、そんな自由な生活に戻りたい、という感情もまた事実として自分の中に湧き出てくる。そこに罪悪感を感じる必要があるのかは人それぞれだが、残念ながら本当にそう思うときがたまにはやっぱりあるので、自分はそういう理想的な良き家庭人・社会人のようにはなれない人間なのだと思うしかなかった。

 

 

 

f:id:akasofa:20170129084442j:plain

f:id:akasofa:20170129084445j:plain

f:id:akasofa:20170129084448j:plain

七沢温泉郷に点在するいくつかの旅館から、まずはこちらの「元湯 玉川館」で日帰り入浴をすることにした。

 

 

 

f:id:akasofa:20170129084450j:plain

f:id:akasofa:20170129084533j:plain

f:id:akasofa:20170129084539j:plain

館内は和モダンといった雰囲気で、移築した古民家らしいのだが清潔感もあるしおしゃれだ。

 

 

f:id:akasofa:20170129084542j:plain

f:id:akasofa:20170129084545j:plain

風呂に向かう風景も良い。新宿からたったの1時間半ほど……「1時間半で日常からここに辿り着いた」ということが不思議な感覚になる。

 

 

f:id:akasofa:20170129084548j:plain

お湯も想像していたよりも全然良かった。ヌルヌルしていて油断すると思いっきり転びそうだ。七沢温泉は強いアルカリ性だそうで、いわゆる美肌の湯というやつだが要は肌が溶かされているわけだ。玉川館は施設がキレイなので古びた建物が苦手な人にも良いと思う。

 

 

 

 

f:id:akasofa:20170129084551j:plain

玉川館を出た後はハシゴ湯をしようとホカホカになった体を冷やすため敢えての薄着のまま外を歩く。車の音すらしないシンとした山道の冷たい空気が心地よい。

 

……昔、仕事で付き合いのあった人に言われた、「サボりたいとか、なんかダルいとか、今日は乗らないなとか、そういう気分には素直になったほうが良い。それは体で言う咳が出るとか鼻水が出るとか、そういうのと同じようなもので精神の不調のサインだったりするから」というような言葉がずっと忘れられない。その人は精神をやられてしばらく仕事を休んだ経験がある上でそう教えてくれたのだった。もちろん人にもよるとは思うが、自分の場合は多分日常から逃げたいと思う気持ちにウソをついてはいけないのだと思っているし、そうやってサラリーマン生活を10年以上なんとか継続してきた。そしてその逃げ場という意味で、この七沢温泉は近い割にとてもとても遠くに来た気分にさせてくれている。

 

 

 

f:id:akasofa:20170129084555j:plain

先ほどの玉川館のすぐ先にあった「中屋旅館」で2件目の日帰り入浴をすることにした。年季の入った建物が素敵だ。

 

 

 

f:id:akasofa:20170129084558j:plain

受付で日帰り入浴料を支払いお風呂に案内してもらう。平日の昼下がり、滞在客はゼロの様子だった。

 

 

 

f:id:akasofa:20170129084602j:plain

内湯をいただく。実家にあるのと同じ、星がきらめくような模様が入ったガラスに思わずニヤリとする。

 

 

f:id:akasofa:20170129084605j:plain

内湯は脱衣所から一段下がったような場所にある。豆タイルやジオラマのように作られた日本庭園風な雰囲気も良い。ここもアルカリ性のいわゆるヌルヌル系なので、肌が溶かされている感覚が心地よい。

 

 

f:id:akasofa:20170129084607j:plain

風呂から出て、廊下のきしむ音を少なくするよう配慮しながら歩く。こうしてさほど遠くない厚木の温泉にいながら、東北や九州に1日かけて行ったときのような心境になっている自分が不思議になる。ひとりで温泉を堪能している時間の尊さ、それと同時に、煩わしいと思っていたものがもう一度必要だとも思えてくる。この揺り戻しを繰り返しつつ現状をこなしていくことがもしかしたら自分の精神衛生上は一番良いのかもしれない。

 

 

 

f:id:akasofa:20170129084610j:plain

七沢温泉くらい近場で、それでいて鄙びた温泉はかえって貴重かもしれない。温泉に関する雑誌やサイトでもあまり見かけない。温泉マニア的に刺さる部分が少ないというのも正直言ってあるのかもしれない。でも決して悪くないし、少なくとも自分はとても気に入った。

 

 

 

f:id:akasofa:20170129084613j:plain

中屋旅館は芸能人が訪れた例も多いようだった。撮影か何かだろうか。この建物は遠くの温泉地のそれと同様の鄙びた雰囲気が素晴らしい。

 

 

f:id:akasofa:20170129084616j:plain

宿泊すれば露天風呂も楽しめるようだ。近すぎる温泉宿に泊まるという贅沢もしてみたいとは思うものの、実際のところなかなかハードルが高い。自分がここに泊まることはあるだろうか、そんな名残惜しさを感じつつ、日常に帰ることにした。

 

 

 

日常に帰る 

f:id:akasofa:20170129084622j:plain

七沢温泉郷からバス停に戻る道すがら、公園とも駐車場ともつかぬ空間があり、その向こうに動物の檻があるのを見つけた。

 

 

 

f:id:akasofa:20170129084619j:plain

近づいてみるとなんとイノシシであった。種類はよくわからないが比較的元気で、こちらに気付き寄ってきたりする。ただ、ペットのようにも思えないしまして動物園のようにも思えない雰囲気が気になった。

 

 

f:id:akasofa:20170129084625j:plain

と、敷地の一角にこのようなものを見つけた。なるほど……。

 

 

 

f:id:akasofa:20170129084628j:plain

イノシシのことをなんとなく忘れようとしながらバス停まで歩いて戻った。帰りのバスでは遠足の帰りと思われる幼稚園児が大量に乗ってきて、大人ひとり分の席に1.5人座る勢いで詰め詰めとなり一気に賑やかになった。よその子供たちを見るたびに、もし自分の子供がこのくらいの年齢に成長したらどんな感じなのだろうな、と思考してしまう。他の友達に対して「おい!ちゃんと座れよ!」と大人ぶって仕切っている子のリュックがこちらの腕にガツガツとぶつかってきていて、仕切る割に全くこちらには気が回ってない感じもまた微笑ましい。

 

 

f:id:akasofa:20170129084324j:plain

本厚木のバスターミナルに戻ってきた。遅い昼食としてバスターミナル目の前にある中華料理店「相楽」に入る。"さがら"ではなく"そうらく"と読むらしい。個人的には、もうこの建物の「ラーメン」の極太レタリングだけで旨そうに見えてしまう。

 

 

f:id:akasofa:20170129084631j:plain

店内は数名の先客。同じように遅い昼食を取るサラリーマンや近所の人がいた。テレビでは昼のワイドショーの時間。ごくごく普通の平日の午後。カレンダー通りの勤務体系の自分にとっては、特別で貴重な時間に感じるひとときだ。

 

 

 

 

f:id:akasofa:20170129084633j:plain

ラーメンとチャーハンのセットを注文した。見た目どおりの裏切られない、安定した味であった。コテコテしたラーメンが苦手になって、こういうラーメンが好きになったのはいつからだったろうか、などと思い出してみようともするが、いつも答えが出る前に完食して、結論を忘れてしまうのだった。

 

 

 

 

本厚木駅からは普通列車で新宿まで帰り、新宿に着いたのは16時頃。十分な余裕を持って保育園のお迎え時間に間に合った。

 

保育園の入り口でダッシュでこちらに寄ってくる自分の子供に向け、日常に帰ったぞという意味も一緒に込めて、ただいま、と言った。

 

 

f:id:akasofa:20170131235417j:plain

 

 (おわり)

 

ライター:赤祖父

f:id:eaidem:20150818100714j:plain

三流情報サイト「ハイエナズクラブ」の執筆や編集をしたり「全国ノスタルジー探訪」というブログを書いたりもしているインターネット大好きおじさんです。鉄道や写真も好きです。スマホの電波が入らない場所に行くと急に弱気になります。

Twitterアカウント→@akasofa

若者に「日本酒」を飲んでもらうたった1つの方法

$
0
0

f:id:kakijiro:20170210190025p:plain

 

f:id:kakijiro:20170207113536j:plain

f:id:kakijiro:20170130141120j:plain

f:id:kakijiro:20170130141124j:plain

f:id:kakijiro:20170130141128j:plain

f:id:kakijiro:20170130141131j:plain

f:id:kakijiro:20170130141135j:plain

f:id:kakijiro:20170130141145j:plain

f:id:kakijiro:20170130141149j:plain

f:id:kakijiro:20170130141152j:plain

f:id:kakijiro:20170130141156j:plain

写真レポート

f:id:kakijiro:20170130141632j:plain

お話を聞かせてくれた杜氏の長瀬さん(左)、代表取締役の薄井さん(右)

 

f:id:kakijiro:20170130141652j:plain

大雪渓が手がけている日本酒の数々。ラベルがかっこいい!

 

f:id:kakijiro:20170130141734j:plain

今回「アルプス吟醸 大雪渓」をベースに、カメントツデザインのコラボラベルを制作! 北アルプスに向かって歩いているのは、ジモコロのマスコットキャラ「イエティ」です。

 

f:id:kakijiro:20170130142206j:plain

大雪渓の杜氏を引き継いだ長瀬さん。髪型に目がいってしまうが、語り口も独特でおもしろい人。

 

f:id:kakijiro:20170130141829j:plain

ここから大雪渓さんの工場見学へ。赤と青のケースがドーンと並ぶと迫力がある。

 

f:id:kakijiro:20170130141851j:plain

大雪渓で使用している酒米「長野米」。安曇野の土、水で育んだ酒米は、長野産純度100%。地元にしっかりと根付いたお酒です。

 

f:id:kakijiro:20170130142000j:plain

酒米を磨くと宝石のような真っ白の状態に!

 

f:id:kakijiro:20170130142032j:plain

麹を入れて元気に発酵中。この時点で日本酒の良い香りが鼻孔をくすぐります。

 

f:id:kakijiro:20170130142057j:plain

さらに発酵中の日本酒のタンク。ここに顔を近づけると…

 

f:id:kakijiro:20170130142108j:plain

脳が「危険だこれは!!」と拒絶するほどのガスが充満しているのでお気をつけください。古くからこの作業工程で気を失う杜氏が多かったのだとか。

 

 

f:id:kakijiro:20170207135334j:plain

今回、イーアイデム×ジモコロ×大雪渓のコラボ企画として、日本酒「ジモコロ大雪渓」を抽選で100名にプレゼントします。

 

【応募方法】

ハッシュタグ「#ジモコロ日本酒プレゼントキャンペーン」をつけて本記事をツイートしてください。イーアイデムTwitterアカウント(@eaidem_tw)から当選者にダイレクトメッセージでご連絡しますので、アカウントのフォローをお願いします。

応募締切:2017年2月28日(火)
応募資格:20歳以上の方
※お届け先は日本国内に限らせていただきます。

 

●大雪渓酒造

長野県北安曇郡池田町大字会染9642-2

http://www.jizake.co.jp/

※大雪渓の直営店でジモコロ大雪渓の取扱い予定

※ジモコロ大雪渓を取り扱いたい!という居酒屋さんがいたらお問い合わせフォームまでご連絡ください 

 

漫画描いた人:カメントツ

f:id:eaidem:20150528145211j:plain

仮面を被った漫画家ライターゆえにカメントツ。オモコロでもマンガを描いているという噂がある。仮面凸ポータルから呼ばれればどんなときも予定があいてれば駆け付けるぞ。Twitterアカウント→@computerozi

「日本最後の一人になったから弟子を取った」燕三条から播州へ受け継がれた職人魂

$
0
0

f:id:tmmt1989:20170128090628j:plain

 

f:id:tmmt1989:20170205142308j:plain

 

f:id:tmmt1989:20170128090655j:plain

思わず目を奪われるような作品の数々、実はこれ飴細工なんです。独学で技術を磨いてきた若き職人・手塚新理さんが……

f:id:madmania:20170203174220p:plain「ちょっと柿次郎さん、前回と全く同じじゃないですか!」

f:id:tmmt1989:20170131194246p:plain「お、若くして『飴細工アメシン』を立ち上げ、最近では海外での活動や弟子も増えている手塚くん」

f:id:madmania:20170203174220p:plain「説明的な口調。それより、間違って前回の記事を開いちゃったのかと思いました。熱心なジモコロ読者が怒りますよ」

f:id:tmmt1989:20170131194246p:plain「手塚くんが『前回』と言ってるのは、2015年末に公開した『「若きアメ細工職人」と「引退を余儀なくされた鋏職人」』という記事のことですね」

 

f:id:tmmt1989:20170131194246p:plain「今回は、上の記事の『続き』なんです」

f:id:madmania:20170203174220p:plain「1年以上前の記事なのに」

f:id:tmmt1989:20170131194246p:plain「いや、あの後めちゃくちゃ気になっていたんだよね。だって、手塚くんのアメ細工に欠かせない握り鋏(にぎりばさみ)がもう新しく作れないかも、ということだったじゃない」

 

f:id:tmmt1989:20170128110716j:plain

f:id:madmania:20170203174220p:plain「この鋏ですね。普通の握り鋏よりも大きくてばねの力が強いものを、燕三条の外山健さんという職人さんに特注していたんです。ところが、柿次郎さんと一緒に外山さんに会いに行ってみたら、鋏作りにドクターストップがかかってしまったと言われ、どうしようかと思いました……」

f:id:tmmt1989:20170131194246p:plain「燕三条で握り鋏を打てる職人さんは外山さんが最後だったもんね。でもその後、兵庫・小野市の職人さんが見つかったんでしょ?」

f:id:madmania:20170203174220p:plain「そうなんです!実は、新しい握り鋏の試作品もできあがっていて。ちょうど打ち合わせで会いに行こうと思ってたんですが、一緒に行きません?」

 

f:id:kakijiro:20170215013245p:plain

f:id:tmmt1989:20170131194246p:plain「もちろん!ということで、『鋏職人とアメ細工職人のその後の物語』、始まります!」

 

出会いのきっかけはFacebook

f:id:tmmt1989:20170127103024j:plain

手塚くんとやって来たのは、兵庫・小野市の「水池鋏製作所」。

小野市の位置する兵庫県の南西部は「播州」と呼ばれ、古くから金物産業が根付く土地です。

 

f:id:tmmt1989:20170126210211j:plain

工房では、職人の水池長弥(おさみ)さんが出迎えてくれました。

f:id:tmmt1989:20170131194951p:plain「遠いところをようこそ」

f:id:tmmt1989:20170131194246p:plain「こんにちは!あれ、お隣にいるのは……?」

f:id:tmmt1989:20170131200105p:plain弟子の寺崎研志です」

f:id:tmmt1989:20170131194246p:plain「おお〜〜なんと!お弟子さんまでいるとは!!」

f:id:madmania:20170203174220p:plain「僕がそもそも水池さんのことを知ったのは、『兵庫・小野市の鋏職人さんが弟子をとった!」というニュースを見たのがきっかけ』だったんです」

f:id:tmmt1989:20170131194246p:plain「テレビかなにかで?」

f:id:madmania:20170203174220p:plainFacebookで記事がシェアされてたんです」

f:id:tmmt1989:20170131194246p:plain「めちゃ現代ぽい」

f:id:madmania:20170203174220p:plain「そのシェアされた記事は、小野市在住のデザイナー小林新也さんが書いたもので。記事をシェアした友人を通じてすぐに小林さんに連絡をとって、彼の紹介で水池さんと繋がることができました」

 

f:id:tmmt1989:20170128100224j:plain

デザインスタジオ「シーラカンス食堂」を拠点に、「播州刃物」のブランディングなど、小野の地場産業の魅力を発信しようと活動する小林さん

f:id:tmmt1989:20170131194951p:plain「小林くんは、小野の職人の現状にすごく危機感をもって動いてくれているんだ」

f:id:tmmt1989:20170131194246p:plain「ジモコロで色んな土地を回っていると、職人の高齢化、後継者不足というのは共通の問題として気付くんですが、小野もやはり……」

f:id:tmmt1989:20170131194951p:plain「そうだね。年寄りばかりになってしまって、後継者も少ないな。私も寺崎を弟子にとるときは、かなり悩んだんだ。汚れて儲けの少ない仕事だし、自分の息子には継がせていなかったからね。将来の不安もそうだし、日々の注文を捌くので時間的にも体力的にもやっとで、弟子をとって教える余裕は無いという職人も多いんじゃないかな」

f:id:tmmt1989:20170131194246p:plain「職人さんが高齢になってしまうと、そこから弟子をとるのは難しくなりますもんね」

f:id:madmania:20170203174220p:plain「燕三条の外山さんは『いつまで体が動くかわからなくて、一人前になるまで教える自信がないから弟子はとらない』、と言っていましたね」

f:id:tmmt1989:20170131194246p:plain「技術を伝えたくても、弟子をとるのをためらってしまう色んな要因があるんだ……」

 

f:id:tmmt1989:20170130153921j:plain

水池さんは現在71歳。昔のように一日中、鋏を打つことは難しくなってきたという

 

f:id:tmmt1989:20170131194951p:plain「まあ、私の場合、小林くんの熱意もあって、弟子をとることになったんだけどね」

f:id:madmania:20170203174220p:plain「長年、培われてきた職人さんの技術が途絶えてしまうのはとっても惜しいですからね。おかげで、僕の鋏もまた作ってもらえるようになったので本当によかったです」

f:id:tmmt1989:20170131194246p:plain「燕三条から小野の地へと、いわば鋏に導かれて辿り着いたのが面白いよね。それに76歳の外山さんから71歳の水池さんへのバトンパスって、考えてみたらめちゃくちゃ奇跡的じゃないですか?」

f:id:madmania:20170203174220p:plain「僕も今でこそ普通にしてますが、水池さんが見つかった時の興奮はすごかったです」

 

外山さんと同じ形でも、違う個性の鋏

f:id:tmmt1989:20170128100858j:plain

f:id:tmmt1989:20170131194246p:plain「じゃあ、握り鋏について詳しく聞かせてください。最初の手塚くんからの依頼は、どんな風だったんですか?」

f:id:madmania:20170203174220p:plain「まず、燕三条の外山さんに作ってもらっていた経緯を説明して、それから外山さんが作った握り鋏の実物をお渡ししました」

f:id:tmmt1989:20170131194246p:plain「そういえば、前回の記事で外山さんも『(同じ職人なら)実物を見せれば頭の中で図面を引いて作れるはずだ』って言ってましたね。その鋏を見て理解する感じ、めちゃくちゃアツくないですか?」

f:id:madmania:20170203174220p:plain「経験を積んだ者同士だからこその無言の会話というか……」

f:id:tmmt1989:20170131194951p:plain「私は小さい(通常のサイズの)握り鋏しか知らなかったから、最初に手塚くんから届いた鋏を見て驚いたね。大きいし、ばねがこんなに強くちゃ使いにくいんじゃないか?と思ったよ」

f:id:madmania:20170203174220p:plain「鋏の切っ先でアメに細かい細工をするので、ばねの強さは必要なんですよね。長い時は一日中握って作業するので、普通の握り鋏とは違うところが多いです」

f:id:tmmt1989:20170131194951p:plain「驚いたけど、それは私が飴細工をやったことがないからだと思ってね。手塚くんの求める形に近づけようと思ってやっているよ」

 

f:id:tmmt1989:20170127111019j:plain

f:id:madmania:20170203174220p:plain「水池さんの作ってくれた握り鋏を見て驚いたんですが、形は同じでも、外山さんと違うところもあって。例えば、この刃の根元の鋼のつけ方とか……」

f:id:tmmt1989:20170131194246p:plain職人さんの個性の違いってことですね!」

f:id:tmmt1989:20170131194951p:plain「根元は刃を重ねたときに何度も刃同士がぶつかるから、耐久性があった方がいいな、とか、そういう工夫は考えるね」

f:id:madmania:20170203174220p:plain「実際に小野に来るのは3回目ですが、その間も電話で何度もやりとりしています。微妙な点も使いやすさに影響するので、つい、めちゃくちゃ細かい注文をしちゃってると思いますね」

f:id:tmmt1989:20170131194951p:plain「まあ、手塚くんの方も『このおっさん、俺の言うこと聞けへん』なんて思ってるんじゃない(笑)? やっぱり、細かな注文は、職人だからこそのこだわり。使う人には満足してもらいたいから、そのこだわりにはちゃんと応えたいね」

 

f:id:tmmt1989:20170202113558g:plain

回転するヤスリに鋏を当て、「砥ぎ」の作業を行う水池さん。何十年と繰り返してきたその手つきは、まさに「熟練」

f:id:madmania:20170203174220p:plain「こんな細かく頼めるのも職人さんの手作りだからこそで。こんなことを頼めるのも、いまや水池さんだけになってしまったんですよ」

f:id:tmmt1989:20170131194246p:plain「『日本で最後の手打ち鋏職人』ってことですね」

f:id:tmmt1989:20170131194951p:plain「そうだねえ……あ、コーヒー飲んでください」

 

f:id:tmmt1989:20170127133503j:plain

我々のために、石油ストーブの上で缶コーヒーを温めてくれていた水池さん。優しさ……!

 

「邪魔にならんから」と父から教わった手打ちの技術

f:id:tmmt1989:20170128102630j:plain

f:id:tmmt1989:20170131194246p:plain「ルーツ大好きおじさんなので気になるんですが、そもそも、小野の鋏づくりはどこから来たんでしょう?」 

f:id:tmmt1989:20170131194951p:plain200年以上前に、大阪に播州から数人の職人が修行に行って、鋏づくりを学んできたのがきっかけといわれているね。その後、堺や関、燕三条につぐ刃物の生産地と呼ばれるくらいになって、私が工房を継いだ50年ほど前には、160人くらいの鋏職人が小野にいたんだ」

f:id:tmmt1989:20170131194246p:plain「それが、いまや鋏職人は水池さんひとりに」

f:id:tmmt1989:20170131194951p:plain「プレス(機械を使う製法)の職人は何人か残っているけどね。彼らも、もうあと数年で辞めると言っている」

f:id:madmania:20170203174220p:plain職人さんがガクッと減ってしまったきっかけはあったんですか?」

f:id:tmmt1989:20170131194951p:plain繊維産業が工場を海外に移す流れが20年くらい前に始まったんだ。握り鋏は、繊維工場での需要が大きいんだよ。ひとつの工場で使う鋏の数も多いし、その分、鋏を修理・調整する需要も生まれるしね。だから、日本の繊維工場が無くなると、小野への鋏の注文も減って、職人も廃業せざるをえなくなっていった」

 

f:id:tmmt1989:20170127131636j:plain

海外の工場で大量生産される安い握り鋏が増えたのも、苦境に輪をかけた

f:id:tmmt1989:20170131194246p:plain「大量生産して安く売るために、人件費の安い海外へ工場を移した結果、工場で使われている道具を作る国内の職人さんに影響が出ていたんですね。ファストファッションチェーンの洋服、安いからつい買っちゃいますけど……」

f:id:tmmt1989:20170131194951p:plain「消費者の側は安価なもの、便利なものに流れるのはしょうがないとは思うんだよ。だけど、反面、影響を受けている場所もあるんだよね。気づいていないだけで」

f:id:madmania:20170203174220p:plain「しかも、問題として皆が気づいたときには、ほとんど手遅れなんです。現に、燕三条は鋏が作れる職人さんがいなくなってしまったので」

f:id:tmmt1989:20170131194246p:plain「小野にプレスの職人さんが数人と仰ってましたが、手打ちとどういう違いがあるんですか?」

f:id:tmmt1989:20170131194951p:plain「プレスは機械を使うから、手打ちと違って量産できるんだよ。私がまだ父の鋏作りを手伝っていた頃、小野の鋏職人が一気に機械を導入したときがあって、プレスの職人がほとんどになった。だけど、父は手打ちをやめなかったんだ」

 

f:id:tmmt1989:20170131100712j:plain

水池鋏製作所でも機械を導入し、工程の一部で使うことはある。しかし、メインは手打ち

f:id:tmmt1989:20170131194246p:plain「量産できる方が儲かりそうな気はしますし、そちらに流れる職人さんの気持ちもわかります。でも、お父さんはあえて、周りとは逆を行ったんですね」

f:id:tmmt1989:20170131194951p:plain「そうだね、その後、私が45、6歳のときに、手打ちの技術を父から教えられたんだ。『覚えておけば邪魔にならんから』と言われてね。周りの状況をみて、技術が途絶えてしまうという危機感が、父にあったのかもしれない」

f:id:tmmt1989:20170131194246p:plain「そこで教わっていなかったら、燕三条のように、小野でも手打ちが途絶えていたかもしれないんだ……!」

f:id:madmania:20170203174220p:plain「お父さんの決断がなかったら、途絶えるのは燕三条より早かったかもしれませんね」

f:id:tmmt1989:20170131194951p:plain「だから、私の体が動く今のうちに、寺崎に『火作り』までは伝えておかないとと思うね」

 

f:id:tmmt1989:20170127111746j:plain

真っ赤になるまで温めた鉄を叩き、形づくる「火作り」の作業。火を起こすため時間がかかり、飛び散る火花で火傷も絶えない、労力のかかる作業

 

f:id:tmmt1989:20170131194246p:plain「そうだ!寺崎さんはどんな経緯で弟子入りしたんですか?」

 

熊本からやってきた弟子・寺崎さん

f:id:tmmt1989:20170127110410j:plain

f:id:tmmt1989:20170131194951p:plain「ああ、まずジャックとダミアーノの話をしなきゃ」

f:id:madmania:20170203174220p:plainf:id:tmmt1989:20170131194246p:plain「誰????」

f:id:tmmt1989:20170131200105p:plain「まずですね、ジャパンブランドを海外展開するための『MORE THAN プロジェクト』という経済産業省の事業がありまして。デザイナーの小林さんがプロジェクトの支援を受けて、小野の職人さんに弟子を紹介すべく活動していたんです」

f:id:tmmt1989:20170131194246p:plain「小林さん、マジのキーマンですね」

f:id:tmmt1989:20170131200105p:plain「職人が高齢化していて、かつ弟子もいない人がほとんどなので、このままではまずいとなったんですね。それで、小野の金物組合を通じて、親方(水池さん)に弟子をとらないかという話があったんですよ」

f:id:tmmt1989:20170131194951p:plain「さっきも言ったけれど、最初はあまり乗り気じゃなかったんだ。こんな状況で弟子なんて、と思ってね。実際、最初の募集では、日本人の応募はなし。ただ、海外からの応募は来たんだ。それがジャック」

f:id:tmmt1989:20170131194246p:plain「ジャックさんはどちらの方だったんですか?」

f:id:tmmt1989:20170131194951p:plain「アメリカ人だね。その次に来たのが、イタリア人のダミアーノ」

f:id:tmmt1989:20170131194246p:plain「2人続けて海外の方だったんだ。日本の職人への憧れみたいなものがあるんですかね」

 

f:id:tmmt1989:20170131101832j:plain

上段が剃刀、下段が握り鋏の製造過程を並べたもの。鉄の棒から細かな手作業を繰り返し、美しい刃物へと仕上げられる

f:id:tmmt1989:20170131194951p:plain「ダミアーノが一昨年の2月だったかな。ただ、海外の人を弟子として受け入れるのは、私の方もプロジェクトの方でも受け入れ態勢がうまく整っていなくて、丁重にお断りすることになった。その後で、寺崎が応募してきたんだ」

f:id:tmmt1989:20170131194246p:plain「やっと日本の方が!」 

f:id:tmmt1989:20170131200105p:plain「僕は当時、熊本に住んでいて、普通の会社員だったんです」

f:id:tmmt1989:20170131194246p:plain「ええ!ちなみにどんなお仕事を?」

f:id:tmmt1989:20170131200105p:plain「フィルム関係なので、鋏には全然関係がなくて。鍛冶屋は小さいころからの憧れだったんですよ。それで、『MORE THAN プロジェクト』のHPを見て、思い切って応募しました。当時36歳だったので、やるなら今しかないと」

f:id:tmmt1989:20170131194246p:plain「あ、インターネットで募集を見つけたんですね」

f:id:tmmt1989:20170131200105p:plainいまどき、『鍛冶屋のなり方』なんてネット以外に調べる方法がないじゃないですか」

f:id:tmmt1989:20170131194246p:plain「確かに……ハローワークには求人出てなさそう」

f:id:tmmt1989:20170131194951p:plain「インターネットでいろんな情報が得やすくなったから、いい時代だよね」

f:id:madmania:20170203174220p:plain「作り手の側からも発信できて、自分で販路を確保することもできますよね。そういえば僕が水池さんを知ったのもインターネットだ」

f:id:tmmt1989:20170131194246p:plain「うお〜、インターネットがいい仕事してますね!」

 

日本の職人のこれからは……

f:id:tmmt1989:20170127111842j:plain

f:id:tmmt1989:20170131194246p:plain「手塚さんみたいな、オーダーメイドの注文は多いんですか?」

f:id:tmmt1989:20170131194951p:plain「そうだね。これは庭仕事用にオーダーされた握り鋏。それから、去年の暮れに、北海道から漁船で使う鋏を依頼されたな」

f:id:madmania:20170203174220p:plain海外に機械で鋏を作っている工場はあるんですが、細かいオーダーメイドの注文は無理ですからね。できる人がもういないから、注文が集まっているんです。そうだ、水池さん、もっとお金とっちゃっていいんですよ!! 握り鋏に僕のブランドのロゴを入れるための「刻印」(金属のハンコのようなもの)を頼んでいる浅草の職人さんも、とても安い料金しかとっていなくて……」

f:id:tmmt1989:20170131194246p:plain「手塚くんが怒ってる」

f:id:madmania:20170203174220p:plain「刻印の職人さんも世界的なブランドの仕事をするような、すごい技術を持った方なんです。だから、仕事の適正価格という意味で、もっと料金をもらっていいいと思います。もっと職人が儲かって、子供からカッコいいって憧れられるような仕事になってほしいんですよ!!」

f:id:tmmt1989:20170131194246p:plain「寺崎さんにも頑張ってもらわないとですね」

f:id:tmmt1989:20170131194951p:plain「奴は去年、結婚もしたしな」

f:id:tmmt1989:20170131194246p:plain「え!お相手は?」

f:id:tmmt1989:20170131200105p:plain「熊本にいたときに付き合っていた方と……」

f:id:tmmt1989:20170131194246p:plain「弟子入りしてから兵庫に呼んで、結婚したってことですか?めっちゃいい話〜〜〜〜!稼ぎましょう寺崎さん!そしてフェラーリ買いましょう!」

f:id:madmania:20170203174220p:plain「僕のアメ細工がもっと有名になることで、水池さんや寺崎さんにも利益が生まれると思うんですよね。最近、海外に行くことも多いんですが、僕のブランドの鋏を欲しいと言ってくれる現地のファンの方もいるので。日本だけでなく海外でも鋏が売れて、小野の鋏の良さも海外へ伝わって……というのが理想です」

f:id:tmmt1989:20170131194246p:plain手塚くんの弟子が寺崎さんの鋏を使うこともあるんだよね。受け継がれる意志……!なんだか、この先がめちゃくちゃ楽しみになって来ました! 」

 

取材を終えて

f:id:tmmt1989:20170127143308j:plain

前回の外山さんのときのように、手を比べてみた。左が水池さん、右が柿次郎の手だが、親指の太さが全然違う!何十年もの歴史が刻まれた職人・水池さんの手。いつか寺崎さんの手も、こんな風になるのだろうか。

 

f:id:tmmt1989:20170127110536j:plain

並んで作業するお二人。ローラーで回転するヤスリで、鋏を研ぐ

水池さんのお父さんから水池さん、そして寺崎さんへ。小野で古くから受け継がれてきた技術が次世代へ受け継がれることは、本当に大きなことだと思います。

燕三条から始まった手塚さんの鋏の物語は、ここ小野へと移り、続いていきます。やがて、寺崎さんとともに、日本のみならず世界へも続いていくのでしょう。

 

そして、今回の継承の物語のキーマンであるデザイナーの小林さんのインタビューも、後日ジモコロにて掲載予定です。お楽しみに!

 

ライター:友光 だんご

f:id:tmmt1989:20170202163058j:plain

編集者/ライター。1989年岡山生まれ。暮らしからミニコミまで、面白いもの、美味しいもの、特に「だんご」が好きです。Facebook:友光 哲 / Twitter:@inutekina / 個人ブログ:tmmtの日記 / Mail: momoaka1989(a)gmail.com

企画・編集:徳谷 柿次郎

f:id:kakijiro:20170215014443p:plain

株式会社Huuuu代表取締役。ジモコロ編集長として全国47都道府県を取材したり、ローカル領域で編集してます。趣味→ヒップホップ / 温泉 / カレー / コーヒー / 民俗学など Twitter:@kakijiro / Facebook:kakijiro916 Mail: kakijiro(a)gmail.com

なぜ人は情熱大陸に出たがるのか?「自分語り」に「他人」が必要な理由

$
0
0

f:id:eaidem:20170217152027p:plain

 

情熱大陸に出たい。

本日は、この欲望について考えてみます。実際に情熱大陸に出ている人ではなく、「出たがる心理」のほうに注目してみるということですね。

便利なので「情熱大陸」と限定しちゃいましたが、実際は「プロフェッショナル仕事の流儀」もそうでしょうし、自伝の出版や、インタビューで半生を語ることなんかも同じだと思います。

自分はこういう人間で、こういうことを考えていて、これまでこんなふうに生きてきた。いわゆる「自分語り」というやつですが、情熱大陸のようなものが魔力を持っているのは、この自分語りに「太鼓判」を押してくれそうだからだと思うんですね。

そのへんのことを書いてみます。

 

恋愛とストーカーのちがい

なぜ、自分の物語に「太鼓判」を押してほしいのか?

なぜ、「認めてもらう」というステップが必要なのか?

 

勝手に自分の物語を作って、

勝手に語っちゃえばいいのでは?

 

そう開き直れないのが、なかなか辛いところなんですね。

 

たとえば、「恋愛」というのは、もっとも小さな物語の共有です。「僕は君に出会うために生まれてきた」と片方が言い、「わたしもあなたに出会うために生まれてきた」と返ってくる時、そこに「恋愛」が成立するのです。

そして、「僕は君に出会うために生まれてきた」と言い、「完全に迷惑です」と返ってきたのに付きまとう時、「ストーカー」が成立するわけですね。

「僕は君に出会うために生まれてきた」という言葉は、相手の同意がなければ、「ヤバいやつの思い込み」なわけです。

 

「自称」という言葉に込められた悪意

「自称」という言葉に悪意が込められることもあります。たとえば誰かを「自称アーティスト」とか「自称アイドル」と表現するときの悪意ある視線ですね。

本人のほうで「まあ自称ですけど」と言ってしまう場合は、他人の視線をシミュレートして、ひるんでしまったと言えます。これまた「勝手に語ること」に開き直れないということですね。

このへんの心理があるから、なかなか「自分の物語を勝手に自分で語る」というふうにはならない。どうしても「誰かに認めてもらう」というステップを踏みたくなる。

そのとき出てくるのが、「情熱大陸に出たい」という気持ちだったりするわけです。

 

ナレーションの「神っぽさ」  

「私はこういう人間です」というふうに語って、それを認めてほしい。

昔は、そんな気持ちに答えてくれる装置が「神様」だったりしたんでしょうが、今は「情熱大陸」だったりするわけですね。

ということで、情熱大陸の場合、「淡々としたナレーション」がひとつのポイントだと思います。抑制された雰囲気が「神っぽさ」を演出する。現代において、神とは客観性のことだったりもしますので。

 

ナレーションの声質で「信頼性」が消える

出川哲朗や板東英二がナレーションをしても、情熱大陸は機能するか?

そんな問いも考えられます。ものすごく癖のあるナレーションだと、「ナレーターの信頼性」を意識しちゃうということですね。

これは文章でもそうなんですが、語り手が透明になったときに、なんとなく「客観性」が成立したように感じるわけです。その意味で、ドキュメンタリーは「感情を排したナレーション」であることが重要なんだと思います。

まあ、個人的には板東英二がナレーションする情熱大陸を見てみたいですが、たぶん、悪い冗談のような番組になると思います。「板東英二がナレーションする情熱大陸でも出たいか?」と問いかけてみると、意外に面白いかもしれません。

 

「イチロー」という美しい物語

このへんでイチローの話をしてみます。

イチローは情熱大陸じゃなくてプロフェッショナルのほうだった気もしますが、それはいいとして、「イチローという物語」は、やはりすごく美しいと思うんですね。

私が好きなエピソードは色々とあるんですが、たとえば中学生のとき、クラスメイトに成人式の話をふられてイチローは言ったそうです。

 「ごめん、俺は成人式に出れないと思う。そのときはプロ野球選手になってるから」

これにたいするクラスメイトの反応は、「爆笑」なわけです。この時点では、ギャグとして受け止められてしまう。

 

「笑われながらやってきた」とはどういうことか?

似た話として、小学生のイチローが父親といっしょに熱心に野球の練習をしている。それにたいする周囲の反応も、「あいつ、プロになるんだってよ(笑)」なわけです。いや、ここはもっとリアルな表現を使うべきで、キツめのニュアンスを入れるならば、

あいつwwwwwプロになるんだってよwwwwww

イチローは「笑われながらやってきた」と言うときの、具体的な意味はこれでしょう。イチローのカッコよさというのは、「現段階では笑われてしまう」という状況だろうが、黙々と行動を重ねてきたところにあるんだと思います。 

 

未来を根拠に語っちゃってもいい

ということで、実際に情熱大陸に出る人は、ハナから自分を情熱大陸の上に置いてたりするわけです。それはまあ笑われるし、ヤバい奴あつかいもされるわけですが、知ったこっちゃないということですね。

「自分で勝手に語ってしまう」というのは重要なんですよ。

何かを確信している人間の迫力は、他の人間に影響を与えるんですね。べつに過去だけを参考に自分を語らなきゃいけないというルールはないんで、未来を根拠に語っちゃってもいいわけです。確信の強さは「行動」というかたちで、実際に未来を作るからですね。

 

へんな例ですが、宗教を作るときは、教祖はマジモンの狂人で、参謀に計算高い人間を置くべき、みたいな話もあります。理屈で考えたものには、どうしても迫力が宿らないんですね。人は理屈じゃ信じない。どうしても最後は「確信者の迫力」が必要になる。理屈は迫力に負けるのです。

 

本当に「何者にもなれない」のか?

このへんで終わりにしますが、最後に。

情熱大陸的なものの裏面に、「自分は何者にもなれなかった」という嘆きがあります。これはこれで、よく見かけます。んで、これもひとつの「物語」だと思うんですよ。「語る物語がないときの物語」というか。

私はこの連載で、2000連休がどうとか、離人症がどうとか言ってんですが、これはむしろ「普通、人はすでに何者かになってしまっている」という問題を扱ってるんですね。

「何者にもなれなかった」とかつまんないこと言ってないで、

「なぜ、何者かにならなければならないと思い込んでいるのか?」

「なぜ、何者かになりたいという心理のプロセスそのものを観察しないのか?」

という方向に進んでみると、面白いんじゃないかということです。「自分という物語を無自覚に語る、その一歩手前に何があるか?」ということですね。

最近の私は、どうしたらみんな離人症になってくれるのかな、とか考えてるんですが、ひとまず今回はこんな感じで。

 

 

<過去のコラムはこちらから!>
f:id:eaidem:20160701185807j:plain

 

 

ライター:上田啓太

f:id:premier_amour:20160212111940j:plain

京都在住のライター。1984年生まれ。
居候生活をつづったブログ『真顔日記』も人気。
Twitterアカウント→@ueda_keita

年商2億!孫に5万円! 巻き寿司で町を変えた「カンピューターおばちゃん」

$
0
0

f:id:eaidem:20170209034952j:plain

はじめまして。今回「ジモコロ」ライターとしてお初にお目にかかります、くいしんです。普段は、これからを考えるウェブメディア「灯台もと暮らし」で編集・執筆をしていて、妖怪の記事を書いたりしてます。

 

 

今回、ジモコロ編集長の柿次郎さんのお誘いで初のローカルメディアコラボを実施! ひとつの土地を同時に取材して、それぞれのメディアで記事を作るという試みです。つまり僕は、記事を2本書かないといけません。頑張るぞ〜!

 

多可町で出会った「カンピューターおばちゃん」って!?

f:id:tmmt1989:20170206231444j:plain

さて、先日からお伝えしている「TAKA Winter Video Camp」。

本日は、旅の間に訪れた女性・高齢者等活動促進施設「マイスター工房 八千代」の施設長、藤原たか子さん(通称:カンピューターおばちゃん)への公開インタビューの様子をお届けします。

そんな藤原さんが作る、マイスター工房一番の名物は写真にある「天船巻き寿司」。マイスター工房にしかない、特別な巻き寿司です。

 

f:id:tmmt1989:20170206231536j:plain

 

f:id:tmmt1989:20170206231547j:plain

 

f:id:tmmt1989:20170206231653j:plain

見てください、この表情! 信じられないくらい美味しいんです

 

f:id:tmmt1989:20170129185743j:plain

中身はこんな感じ。海鮮が入っていないのにこんなに豊かな味がするなんて……。地元の食材にこだわり、水分たっぷりのキュウリが絶妙な食感を生んでいます

 

マイスター工房とは!?

f:id:kakijiro:20170213182353p:plain

マイスター工房はもともと、地域の女性たちによってつくられた生活研究グループでした。野菜づくりや漬物づくりなどの活動を行う中で、せっかくやるなら特産品になるようなものを作りたいという気持ちが芽生えてきたことが立ち上げのきっかけ。

 

f:id:tmmt1989:20170206231833j:plain

2001年、統合で廃園になった保育所と農協店舗跡地を利用して、マイスター工房がスタートします。最初は数名のメンバーでスタートしましたが、現在は総勢4、50名ほどのメンバーで運営されています。開始当初の一年ほどは赤字だったものの、今では年間売上が2億7000万円を超えるそうです。

農村コンビニ」として多数のテレビや新聞に取り上げられ、巻き寿司を求めて他県からも多くの人々が訪れます。

f:id:tmmt1989:20170206232556p:plain「くいしんさん、この資料見た? すごいで、マイスター工房の歴史がまとまってる」

f:id:tmmt1989:20170206232607p:plain「あっ、ホントだ。『平成17年、節分の巻き寿司の注文が8000本を超える』」

f:id:tmmt1989:20170206232556p:plain「平成21年には9000本超えてるね。東京のイベントにも出店してる」

f:id:tmmt1989:20170206232607p:plain「平成25年からめちゃくちゃテレビに出てますね。関西ローカルや神戸のラジオはもちろん、NHK『新・ルソンの壺』、日本テレビ『秘密のケンミンSHOW』、テレビ東京『たけしのニッポンのミカタ!』、テレビ朝日『スマステーション!』って」

f:id:tmmt1989:20170206232556p:plain「民放テレビ局を制覇してるね。平成28年11月に藤原さんが黄綬褒章受章、農水省にて伝達式、皇居宮殿にて拝謁(はいえつ)」

f:id:tmmt1989:20170206232607p:plain「拝謁……初めて聞きました」

f:id:tmmt1989:20170206232556p:plain「そこ!? 思ってたよりもめちゃくちゃすごい人みたいやね」

f:id:tmmt1989:20170206232607p:plain「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!」

f:id:tmmt1989:20170206232556p:plain「どうした!?」

f:id:tmmt1989:20170206232607p:plain「話を聞くのがおもしろそうです。めっちゃ気合い入ってきました」

f:id:tmmt1989:20170206232556p:plain「今まで気合い入ってなかったでしょ!」

f:id:tmmt1989:20170206232607p:plain「いやいや! より一層ってことですよ。質問しまくります」

 

なぜここまで売れる巻き寿司をつくれるのか? その秘密は藤原さんの人柄とチームを活かすマネジメント能力。そして、「カンピューター(?)」です。

準備段階でめちゃくちゃ盛り上がる柿次郎編集長とくいしんのもとへ、ついに藤原さんが登場。

いざ、インタビューが始まります! が、しかし……。

 

f:id:tmmt1989:20170206231904j:plain

f:id:tmmt1989:20170206232607p:plain「本日はお忙しい中、お時間をいただきありがとうございます。これからお話をうかが……」

f:id:tmmt1989:20170206232815p:plain「ここは喫茶マイスター。先ほどみてもらったのが工房ですね。すぐ隣にあるのが簡易郵便局。以前にね、田舎のおばちゃんや農村女性が輝けるように、ということでエステルームをつくってもらったこともあるんだけど、結局ね、なんぼ磨いても私らのようになってしまうから、止めました」

f:id:tmmt1989:20170206232828p:plain「ははは(笑)。今日はありが……」

f:id:tmmt1989:20170206232837p:plain「それは冗談やけど(笑)。エステルームで使っていた部屋が、今度はパン屋さんに変わります。パンを作って、この喫茶室で朝食べてもらうようにしようということで。明日から機械が入るみたいです。寿司はいっぱい売れてるので、今度はちょっと私が憧れているパンを食べたいなと。私は、今度の3月で70になります」

f:id:tmmt1989:20170206232607p:plain「改めて本日はよろ……」

f:id:tmmt1989:20170206232815p:plain「マイスター工房は、私がつくったんです。先ほど食べてもらった『天船巻き寿司』は、マイスター工房の一番の名物。これも私がつくりました。みなさんが先ほど入られた工房。あれはね、農協の跡。私ね、学校を上がってから農協に勤めとったんですよ。でもちょっと病気をして、仕事辞めて家業の手伝いしたんですけど」

 

「マイスター工房」ができるまで

f:id:tmmt1989:20170206231942j:plain

f:id:tmmt1989:20170206232815p:plain「その農協が、古い古いお店だったんですけども、そこがなくなるということで。さびしいなあと。なんとかならへんかな、ということで、農協跡を私たちがお願いして、工房にしてもらいました。最初は役場にお願いしてもらってできたんです。

f:id:tmmt1989:20170206232607p:plain「すごいですね!そ……」

f:id:tmmt1989:20170206232815p:plain「この喫茶マイスターは、天船地区というのは6集落あるんですけど、その集落の農会長さんとか婦人会とか老人会とか区長会とか、4団体がここはなんとかわしらで守りたいということで、つくりました」

f:id:tmmt1989:20170206232607p:plain「そのとき、藤……」

f:id:tmmt1989:20170206232815p:plain「年寄りが憩いの場として『ちょっと朝お茶を飲みに行きたいな』『モーニングっていうのはどんなもんやろ』って思った人がね、来られるようにしたのがこの喫茶です。今のところは、1日150人から200人の人が来てくれてる」

f:id:tmmt1989:20170206232607p:plain「そんなにたくさ……」

f:id:tmmt1989:20170206232815p:plain「はじめは集落のお年寄りたちとお母さんが井戸端会議するのにね、使ってくれて。オープンドアになってるので子どもを預けて、遊ばして、こっちでお茶を飲む。バリアフリーになっとるから、年寄りの人も来れるっていうようにして、わりかし人気が出ました」

f:id:tmmt1989:20170206232607p:plain「ちょ……」

f:id:tmmt1989:20170206232815p:plain「私はね、家はもともと自動車屋なんです。自動車屋をやりながら、昭和52年に私と周りの仲間たちで『生活研究グループ乙女会』というものをつくったんです。そうして最初は自分の家からいろんな材料を持ってきてたりしたんですけども。田舎で珍しい寿司を食べたいとあるとき言われてね」

f:id:tmmt1989:20170206232607p:plain「あ……」

f:id:tmmt1989:20170206232815p:plain「お寿司をつくるにあたって、百姓屋さんもおりますので、自分たちの庭で採れた野菜をうまく利用して使おうかとはじめは言っていたんですけど。1日10本か20本やったらなんとか野菜はとれるんやけど。その当時はそれで良かったんです」

f:id:tmmt1989:20170206232607p:plain「あの……」

f:id:tmmt1989:20170206232815p:plain「ただ、だんだんそうしているうちに、20本になり100本になり200本になりということになって、売れてきたんです。この田舎でやって何がよかったのかなというのは、まず私のしゃべりがよかったということ。なんでもしゃべるからね。でね、マイスター工房は、私が憧れていたコンビニにしたかったんです。カンピューターです」

f:id:tmmt1989:20170206232607p:plain「カンピューターってな……」 

 

f:id:tmmt1989:20170206232035j:plain

f:id:tmmt1989:20170206232815p:plain「もともとコンビニなんかないからね。西脇市(多可町の隣町にあたる、栄えた町)に行ったときに、なんにも言わんでも好きなものを取れるからええなと思いまして。あるとき地方の新聞の記者に取材をされてね、『私はここを田舎のコンビニにしたいんです』言うたんですよ」

f:id:tmmt1989:20170206232607p:plain「(『田舎のコンビニ』?)」

f:id:tmmt1989:20170206232815p:plain「そうしたらね、兵庫県全域の新聞に『農村コンビニ誕生』って出たんです。それがまずよかった。『農村コンビニってどんなんやろ?』ってみんなが思ってくれた。みんなでもそう思うでしょ?」

f:id:tmmt1989:20170206232607p:plain「(そう思います)」

 

f:id:tmmt1989:20170130102659j:plain

 

f:id:tmmt1989:20170206232815p:plain「農村コンビニ、ちょっとこの言葉ええなあと思いました。それから大阪の朝日放送に取り上げられましたよ。おもしろいおばちゃんがおるなということで、また取材に来てくれて。それでだんだんとお客さんが都会から来られるようになった。でもね、まずかったら、こんな遠いところまで来て、二度と行かんわとなるよね。もういっぺん行ってみたい、もういっぺんあそこ行ってあのおばちゃんと話したい、と思ってもらえるのがマイスター工房なんです」

f:id:tmmt1989:20170206232607p:plain「(なるほど)」

 

f:id:tmmt1989:20170130102647j:plain

f:id:tmmt1989:20170206232815p:plain「私は、どこにもないものを作ろうと思ったんです。やっぱりインパクトのあるものを作りたかった。しいたけをものすごく甘辛くして、始めて半年くらいしてから、きゅうりを半分で使おうと思いました。それがね、どこにもないということで、もう一回食べたいと思われる味になったんじゃないかなと今は思います」

f:id:tmmt1989:20170206232607p:plain「(全然口を挟めない……!)」

f:id:tmmt1989:20170206232815p:plain「家庭で作る巻き寿司はカラフルで、ニンジンが入ったり卵焼き黄色できれいかったり、素晴らしいんですけど、それはどこでもあるんですよね。家庭で作るんじゃなくて、あそこに行かな出会えないと思われるものを作らないかんということで、作りました」

f:id:tmmt1989:20170206232607p:plain「(どうするくいしん……)」

f:id:tmmt1989:20170206232815p:plain「今、一日に1500本、2000本と売れていくんです。自慢じゃないですけど、この山奥で毎日350人来てもらおうと思ったら本当に大変です。でも、おかげで、はじめは8人やった従業員が今42名になりました。最初の一年は赤字やったんですけど、16年の間にうなぎ昇り。こういう感じであがっていきました」

 

f:id:tmmt1989:20170206232134j:plain

こういう感じで

f:id:tmmt1989:20170206232815p:plain「今度どうなるか楽しみですよ。3月の決算では3億行くかなと思うんです。去年は2億7000万。マイスター工房は、木金土日の4日間の営業なんですよ。あまりにも『私のところでも出したい』というお話をたくさんいただいたもんやから、今は水曜日に、デパートに1000本ずつ、姫路やったら2か所、加古川、大阪、神戸、京阪とあらゆるところに出してもらってます」

f:id:tmmt1989:20170206232607p:plain「(そろそろ何か……)」

f:id:tmmt1989:20170206232815p:plain「みんな手作りだから、毎日だんだんと年齢を重ねるのでちょっと困ってるんですけど。それでも売れていく。私もこの人気がわからないんですよ。なんでかね、おいしいからと言われたらそうなんですけども。私たちのいろんなものが入ってるん違いますかね、お寿司の中に」

f:id:tmmt1989:20170206232607p:plain「気持ちが──」

f:id:tmmt1989:20170206232815p:plain「毒が」

f:id:tmmt1989:20170206232607p:plain「毒!?!?」

f:id:tmmt1989:20170206232837p:plain「それは冗談ですけどね(笑)」

f:id:tmmt1989:20170206232607p:plain「(でしょうね)」

f:id:tmmt1989:20170206232815p:plain「売れたから言うて、しいたけを小さくしよう、卵を小さくしようじゃないんですよ。売れれば売れるほど嬉しゅうて、サービス精神が旺盛になるんです。ジャムなんかも作ってます。私たちは、きゅうりの皮まで使う。お寿司だけじゃなくて、きゅうり1本から、何十種類も商品ができるんですよ。名前は『びっきゅうりジャム』にしとるんやけどね(笑)。ネーミングもすべて私がつけるし。この絵も字も私が書きます

f:id:tmmt1989:20170206232607p:plain「へえー」

f:id:tmmt1989:20170206232556p:plain「すごっ」

f:id:tmmt1989:20170206232815p:plain私はね、自分の思った通りになるタイプなの。夢は叶う。あとは、ひとつ私が言えるのは、雇用です。おいしいものを作るのは当たり前で、雇用をしなくちゃいけない。雇用は16年間やってきて、子育てして大学出てお嫁にいった子もいますし、フレックス時間もあるし、今やったら9時に来て3時に帰るっていう子もおります。おばあちゃんのお世話しながら、ちょっと帰ってきますって言って、また来るというような人もいる。いろんな働き方のできる場所にしたいんです」

 

f:id:tmmt1989:20170206232207j:plain

f:id:tmmt1989:20170206232815p:plain「今日はね、みなさんが来てくれるということだったから、朝、何でおもてなししようと考えていまして、ちょっと寒かったでしょう。だから、お鍋をしようと思いました。素晴らしい、美味しい鶏を食べてもらいたいと思って今日は用意してますのでね、召し上がっていってください。はい。では、さっそくですけどね、そちらのほうから聞いてもらおうかな。私はようしゃべらんから……

f:id:tmmt1989:20170206232607p:plain「えっ」

f:id:tmmt1989:20170206232556p:plain「途切れた……今だ、くいしんさん!!」

 

f:id:tmmt1989:20170206232239j:plain

 

f:id:tmmt1989:20170206232607p:plain「質問ターーーーーーイムッッッ!!!」

f:id:tmmt1989:20170206232556p:plain「お水飲んでください」

f:id:tmmt1989:20170206232607p:plain「優しさおじさんだ」

f:id:tmmt1989:20170206232556p:plain「一息つきましょう」

f:id:tmmt1989:20170206232607p:plain「なんですかこれ! 全然インタビューじゃない! れっきとした講演ですよ! 独演会ですよ! 藤原さん、30分間ぶっ続けでしゃべってましたよ。僕の胸に秘めたインタビューに対する熱い意気込みをどこに捨てたらいいんでしょう?」

f:id:tmmt1989:20170206232837p:plain「つい、しゃべり続けてしまったね(笑)」

 

f:id:tmmt1989:20170206232315j:plain

f:id:tmmt1989:20170206232607p:plain「いえいえ……」

f:id:tmmt1989:20170206232556p:plain「独擅場でしたね」

f:id:tmmt1989:20170206232607p:plain「まずはお座りください。落ち着きましょう」

f:id:tmmt1989:20170206232837p:plain「落ち着きのないタイプですので(笑)」

f:id:tmmt1989:20170206232607p:plain「では改めて質問なんですけど、最初のコンセプトの田舎のコンビニについてお聞きしたいんですけど、憧れていたコンビニはありますか?」

f:id:tmmt1989:20170206232815p:plain「うん。まあローソンやろかね」

f:id:tmmt1989:20170206232556p:plain「ローソンなんだ!」

f:id:tmmt1989:20170206232607p:plain「さっき『コンビニは好きなものを取れるからええな』って説明してもらったんですけど、それってどういう意味ですか?」

f:id:tmmt1989:20170206232815p:plain「コンビニのように、買い物に行くのが気楽に行けるとええなという意味です。おばあちゃんおじいちゃんが買い物に来られたときにね、『これおいしいで、これ食べて』と言わんところもあったら嬉しいなあと」

f:id:tmmt1989:20170206232607p:plain「自然に持ってレジに来てもらいたい、みたいなことですか?」

f:id:tmmt1989:20170206232815p:plain「田舎のことやから何にしても『おいしいから買っておき』と言われてしまうことが多いんですよ。そうやなくて、私は自分の好きなもの買いたいんやって思ったんですね」

f:id:tmmt1989:20170206232607p:plain「押しつけるんじゃなくて、好きなものを選んでもらいたかったんですね。さっき出てきた『カンピューター』というのはなんのことですか?」

 

f:id:tmmt1989:20170206232338j:plain

f:id:tmmt1989:20170206232815p:plainカンピューターは『ひらめき』のことなんです私は、特殊な発想をするんですよ。何にしても突飛な発想をするんです」

f:id:tmmt1989:20170206232607p:plain「ひらめき、ですか」

f:id:tmmt1989:20170206232815p:plain「例えば、さっきのきゅうりもそう。ゴミ処理機が壊れてしまいそうなくらい、皮やなんかの廃棄がたくさん出ていたんですよ。そのときにパッとひらめいたのが、油の中に入れて揚げたらいいんやないかなと。ご飯のお供にすごくいいし、おつまみにもいいということで、よく売れてます」

 

f:id:tmmt1989:20170206232357j:plain

カンピューター

f:id:tmmt1989:20170206232607p:plain「今までで一番のひらめきはなんでしょうか?」

f:id:tmmt1989:20170206232815p:plain「それはやっぱり、一番のひらめきは巻き寿司よね。私たちは最初は無償で働いていましたよ。赤字やったし、ここの電気代払われへんしね。最初は、巻き寿司が200本300本と注文があったとしてもお店で出していたんですけど、だんだんトラブルが増えてきました」

f:id:tmmt1989:20170206232607p:plain「お客さんのクレームですか」

f:id:tmmt1989:20170206232815p:plain「そう、予約注文した人とパッと買いに来た人たちが一緒にお会計をしていてね、『注文してるのになんでわしら待たんなんねんな』ということもありました。その当時は部屋が空いてたので、そっちで渡そうかと考えたりね。そういう小さな思いやりの積み重ねで、ちょっとずつ変わってきた。そのうち黒字になりましたよ」

f:id:tmmt1989:20170206232607p:plain「いつか黒字に、というのは意識したんですか?」

f:id:tmmt1989:20170206232815p:plainやるからには、赤字だったら続けられないですよ。これだけ巻き寿司が売れてますけど、もし一年ずっと赤字が続くようになったら、あっさりとやめます。赤字まで出しておることはないなってみんなに言うてますので。赤字が続くようやったら申し訳ない。そういうふうに普段から、みんなに言うてありますので」

f:id:tmmt1989:20170206232607p:plain「そういうふうに、カンピューターが言ってるわけですね」

f:id:tmmt1989:20170206232815p:plain「いや、先祖さんが言ってる」

f:id:tmmt1989:20170206232556p:plain「そこは先祖さん!?!?」

f:id:tmmt1989:20170206232815p:plain「先祖さんに感謝ですよ。東日本大震災のときもね、『ああ、私たちは仕事ができることだけでありがたいんやな』って本当に思いました。だからね、スタッフ旅行を取りやめて、100万円を義援金で寄付したんですよ。感謝の心やからとみんなに言ってね。旅行せんと、100万円寄付してあげましょうよということ」

f:id:tmmt1989:20170206232607p:plain「えっ、じゃあ旅行しなかったんですね」

f:id:tmmt1989:20170206232815p:plain「いや、あとでしたんやけど」

f:id:tmmt1989:20170206232556p:plain「してるんかいっ!」

 

f:id:eaidem:20170209034644j:plain

 

f:id:tmmt1989:20170206232607p:plain「他の田舎で、マイスター工房と同じように、みんなでこういう施設を作ろうと思っても、うまくいってない例が多いと思うんですよ」

f:id:tmmt1989:20170206232815p:plain「そうかもね。あまり自分で自慢したくはないけどね。私がいつも思うのはね、『ただ職場に行けばお金になる。時間給になる』ということじゃないんですよ。大事なのは、リーダーが『心』を教えてあげることなんですよ」

f:id:tmmt1989:20170206232556p:plain「心」

f:id:tmmt1989:20170206232815p:plain「心とやさしさ。時間が来たらただ帰る、という仕事が多いでしょう。私は、ミーティングの間でも、食事のときでも、いろんな話をしながら、その人が成長してくれるように話していくんですよ」

f:id:tmmt1989:20170206232607p:plain「従業員の方と積極的にコミュニケーションをとるんですね」 

f:id:tmmt1989:20170206232815p:plain「みんなが向上するようにせなあかんから。派閥みたいなものができたら困ります。4人でも3人でも、派閥を作ってしまう人たちはいるらしいですけどね。うちはこの16年間、マイスター工房はね、ひとりでも辞めてしまったらあかんのです。だから、私が拾い上げてくる。辞めた人は今までいませんよ

f:id:tmmt1989:20170206232607p:plain 「いないんですね」

f:id:tmmt1989:20170206232815p:plain「足が痛かったり、入院してお腹切ったり、そうやって病気になって来られへん人はいるんですよ。でも辞めた人はいない。それが自慢なんです。そうそう、キャディーさんがあるとき入ってきたんですよ」

 

f:id:eaidem:20170209034826j:plain

f:id:tmmt1989:20170206232607p:plain「ゴルフのキャディーさん」

f:id:tmmt1989:20170206232815p:plain「うん。58歳で入ってきた。女の人やからできるやろなと思って入ってもらった。それでしいたけを切るときに、しいたけの傘を下に向けていた。ツルッツルやんか。切り方を知らないのよね。最初は切り方を知らなかったくらいやけど、今ではなくてはならない人になってますよ」

f:id:tmmt1989:20170206232607p:plain「欠かせない存在になってるんですね」

f:id:tmmt1989:20170206232815p:plain 「もうその人も71歳になりますよ。お互いに今までよくがんばってきたなって言うんですよ。褒めるんです。辛抱してがんばってくれたおかげで、孫にも小遣いやれるんですよ

f:id:tmmt1989:20170206232556p:plain「村の中で楽しく働けて、しっかり稼いで自信を持てる環境ってめちゃくちゃ大事ですよね。マイスター工房はそういう場所を作ってるんですね」

f:id:tmmt1989:20170206232815p:plain「そうね。おばあちゃんが20万も給料もらってたらすごいやろ」

f:id:tmmt1989:20170206232607p:plain「すごい。そんなに」

f:id:tmmt1989:20170206232815p:plain「あんたのおばあさんが20万円ほど給料もらってたら、『おばあちゃん5万円ほど貸して』って言えるやろ」

f:id:tmmt1989:20170206232556p:plain 「孫、そんなに借ります!? 5000円くらいでしょ」

f:id:tmmt1989:20170206232815p:plain5000円じゃ足らんやろ。5万円

f:id:tmmt1989:20170206232556p:plain「5万円!? 5万円もくれるおばあちゃんいますか?」

f:id:tmmt1989:20170206232815p:plain「私ですよ。22歳の孫がおるんです」

f:id:tmmt1989:20170206232556p:plain「甘やかしすぎでしょ」

f:id:tmmt1989:20170206232815p:plain「甘やかしすぎなんですよ!」

f:id:tmmt1989:20170206233826p:plainf:id:tmmt1989:20170206232828p:plain「ははははは(笑)」

f:id:tmmt1989:20170206232815p:plain「まっ、そういうことです」

f:id:tmmt1989:20170206232607p:plain「もうお時間ですね。今日はありが──」

f:id:tmmt1989:20170206232815p:plain「んー、なんか今日は乾燥しとんなあ。のどが詰まって詰まってもうしゃべれんわ」

f:id:tmmt1989:20170206232607p:plain「しゃべりすぎーー!! 全然インタビューじゃないっ!!」

 

f:id:tmmt1989:20170206232424j:plain

これまで日本各地で様々な取材を行ってきましたが、これだけしゃべり続けて本当に口を挟めない経験は初めてでした。しかしそれも藤原さんのパワフルさの証拠。商品もよくて、人柄もいい。経営のスキルも秀でていて、雇用に対する想いも持っている。

 

インタビュー当日、工房でいただいた巻き寿司を最初に一口食べたときのことが今も強く印象に残ってます。かんぴょうとしいたけの程よい甘さと水々しいきゅうりの食感。

 

取材をさせてもらって、自分の信じる道を一歩一歩進んできた藤原さんだからこそ、他のどこにもない、体験したことのない巻き寿司を生み出すことができるんだなと深く納得しました。今後もカンピューターを炸裂させて、美味しいお寿司をつくってくれることでしょう。必ずやまた会いに行きたいっ!

 

 

※灯台もと暮らしの取材記事はこちら。セットで読もう!

 

書いた人:くいしん

f:id:eaidem:20170209034232j:plain

1985年、神奈川県小田原市生まれ。株式会社Wasei所属。これからの暮らしを考えるウェブメディア「灯台もと暮らし」の編集者。高校卒業後、お笑い芸人見習い、レコードショップ店員を経て音楽雑誌編集者。その後フリーでウェブ制作を行いウェブディレクターに。数々の転職を繰り返し今に至る。グビ会主宰。Twitter:@Quishin Facebook:takuya.ohkawa.9 個人ブログ:天井裏書房

 


【4コマ】イエティーと髭博士「おかね」

$
0
0

f:id:eaidem:20161007103212p:plain

ジモコロの新キャラクター「イエティー」と「髭博士」の日常を描いた頭からっぽの4コマ漫画です。なんでも知っている髭博士となにも知らないイエティーのやりとりをお楽しみください。

 

●登場人物

f:id:eaidem:20161007103144j:plain

 

 

頭からっぽ4コマ

f:id:tmmt1989:20170215154734j:plain

f:id:tmmt1989:20170215154910j:plain

 

 

 

f:id:tmmt1989:20170215154946j:plain

f:id:tmmt1989:20170215155005j:plain

 

 

 

 

f:id:tmmt1989:20170215154956j:plain

 

  

<イエティーと髭博士の4コマ一覧>

 

 

 

漫画描いた人:カメントツ

f:id:eaidem:20150528145211j:plain

仮面を被った漫画家ライターゆえにカメントツ。オモコロでもマンガを描いているという噂がある。仮面凸ポータルから呼ばれればどんなときも予定があいてれば駆け付けるぞ。Twitterアカウント→@computerozi

「もっかいやらなあかん」下北沢で30年続いたタコ焼き屋『大阪屋』が復活したワケ

$
0
0

f:id:katsuse_m:20170201232325j:plain

こんにちは。ライターのカツセマサヒコです。

 

突然ですが、

みなさんには、忘れられない景色って、ありますか?

 

幼少期によく遊んだ滑り台とか、

小学校の頃に忍び込んだ廃屋とか、

中学校の頃に通い詰めたゲームセンターとか、

高校時代に寄ったエロ本がよく落ちてる公園とか、そういうやつです。

 

f:id:katsuse_m:20170201232432j:plain

僕は地元にあったおもちゃ屋さんが大好きで、潰れて新しいテナントが入って15年近く経った今でも、「あそこにはおもちゃ屋があったよな」と過去を懐かしむことがあります。

 

できれば、幼少期を過ごした街並は、いつまでも残っていてほしい。便利な世の中になっていくのはいいけれど、なんかこう、昔ながらの良さみたいなものは、消えないでほしい。

 

そう願ってしまうのは、その土地土地に思い入れのある人なら、誰もが経験することではないでしょうか。

 

f:id:katsuse_m:20170202181538j:plain

そして、僕の職場がある東京都世田谷区・下北沢にも、みなさんの住む街同様に、忘れられない景色がたくさん存在しています。

 

古くからある劇場やライブハウス、古着屋に居酒屋など、ところ狭しと店が並んだ“シモキタらしい景色”は、都市計画による再開発で徐々に姿を変えつつあるのですが、この度、そんな下北沢民にとってハッピーすぎる出来事が起こりました。それは……

 

f:id:katsuse_m:20170201234136j:plain

地元の老舗たこ焼き店「大阪屋」が、復活を遂げたことです!!!!!

 

「大阪屋」とは?

創業30年。下北沢民に深く愛され、行列を作り続ける老舗たこ焼き店。創業29年を迎えた2016年1月に閉店することとなったが、閉店日には100名を超える長蛇の列ができ、その人気ぶりが確固たるものであることを証明した。

同年12月3日に、下北沢内で場所を移し、再オープン。現在も平日土日問わず、多くの常連客で賑わっている。 

 

まさかの一年経たずの復活に、常連客は小躍りの日々! ローカルすぎてこの感動が伝わらない人は、X JAPANやTHE YELLOW MONKEYが突然復活したときと同じくらいの感覚に思ってもらえれば幸いです。要するに、ハンパじゃない衝撃。

 

f:id:katsuse_m:20170201235707j:plain

「どうして復活できたの?」

「逆に、10カ月休んでたのは、なんでなの?」

「そもそも、閉店した理由は、なんだったの?」

募る疑問はいろいろある。

それらを全て解決するため、大阪屋の店主と女将さんに、取材してみました!

 

f:id:katsuse_m:20170202000415j:plain

お話をお伺いするのは、兵庫県尼崎市出身・下北沢歴40年の店主(右)と、秋田県出身の女将さん(左)。30年間、阿吽の呼吸でたこ焼きを作り続けるおふたりは、この日も「マヨネーズと青海苔散らしていい!?」「元気~?」「ありがとうね~!」と常連客と陽気なコミュニケーションを交わしていた

 

 

f:id:kakijiro:20170223075557p:plain

 f:id:tmmt1989:20170208001637p:plain「復活、本当におめでとうございます! というか、帰ってきてくれて、ありがとうございます!」

f:id:tmmt1989:20170208001647p:plain「こちらこそありがとうね~!」

f:id:tmmt1989:20170208001656p:plain 「まだ35歳だからね! バリバリ現役ですよ!」

 f:id:tmmt1989:20170208001637p:plain「それだと5歳の頃からたこ焼き焼いてる計算になっちゃいますね」 

f:id:tmmt1989:20170208001647p:plain「本当は二人ともいい歳ですからね(笑)。最近、お客さんみんな『頑張って』とは言わなくなったわ。『お体無理せずね』って言われちゃう。この仕事、8時間立ちっぱなしだから

f:id:tmmt1989:20170208001637p:plain「『60過ぎて8時間立ち仕事』のパワーワード感がすごい。復活を喜ばれている方、多かったみたいですね!」

f:id:tmmt1989:20170208001647p:plain「そうね~! 毎日誰かしらは『また始めたんですね~!』って、声をかけてくれるの。前のお店と同じ看板だからかな。それが嬉しいんだよねえ」

 

f:id:katsuse_m:20170202002904j:plain

頭上には、店主が自ら書いた看板。再オープンにあたって、色を上から塗り直したとのこと

 

f:id:katsuse_m:20170202003032j:plain

実はこの看板、もともとは店主がたこやき店を始める前にやっていたお好み焼き屋のメニュー表だったらしい。内側を覗くと、たしかに御品書きを並べられる突起部分が見てとれる

 

”やめないで!” ファンの声が届き、再起を決意

f:id:tmmt1989:20170208001637p:plain「復活した理由も気になるんですが、そもそも、閉店となった理由は何だったんですか?」

f:id:tmmt1989:20170208001656p:plain「本当は29年も続ける前に、辞めようと思ってたんですよ」

f:id:tmmt1989:20170208001637p:plain「え、そうなんですか!」

f:id:tmmt1989:20170208001647p:plain「でも、当時の大家さんに、かなり良くしてもらっていたのね。その人から『わたしが死ぬまで、この仕事を続けてほしい。あなたたちに看取ってほしいから』って言われたの」

f:id:tmmt1989:20170208001637p:plain「すごいセリフだ……」

f:id:tmmt1989:20170208001647p:plain「大家さんは店と同じ敷地で1人暮らしをしていたから、私たちがたこ焼き屋をやることで、毎日顔を合わせられたのよ。親子みたいだったわ~。昨年、97歳で亡くなられてね」

f:id:tmmt1989:20170208001637p:plain「そうか、大家さんにとっても、おふたりがいてくれることは、ありがたいことだったんですね」

f:id:tmmt1989:20170208001647p:plain「そうだねー。それで昨年、大家さんが亡くなって、土地はすぐ売りにかかることになったのよ。そこでいい機会だと思って、わたしたちも店を一度閉めたんです」

 

f:id:katsuse_m:20170202072732j:plain

30年のキャリアがモノを言う関西風のたこ焼きは、言うまでもなく超おいしい。閉店前は15個入りも販売していたが、現在はお持ち帰りのときのみ提供で、通常は8個入り(350円)のみ販売している。常連客には、サービスで1個増やしてくれることもある

 

f:id:katsuse_m:20170202103500j:plain

伝わりますか。この匂いと、触感

 f:id:tmmt1989:20170208001637p:plain「復活するきっかけになったのは、どんなことだったんですか?」 

f:id:tmmt1989:20170208001656p:plain「店を閉じるときに“閉店しました、29年間ありがとうございました”って書いた紙を、店頭に貼るでしょ?」

f:id:tmmt1989:20170208001637p:plain「閉店したお店によく見かけるやつですね」

f:id:tmmt1989:20170208001656p:plain「それを貼って2〜3日したらね、紙を貼ったガムテープの上に、ものすごい数のメッセージが書かれてたんですわ

 

 常連の方のツイート。愛されていることがじんわりと伝わってくる。

 

f:id:tmmt1989:20170208001637p:plain「すごい! そんなことあるんですか!」

f:id:tmmt1989:20170208001647p:plain「辞めるって決めてから10日くらいで閉めちゃったからね。知らなかった人も多かったみたいで、みーんなメッセージを残していったのよ」

f:id:tmmt1989:20170208001656p:plain「わたしたちもそのメッセージを見て、改めて、愛されてることを知ってねえ。『じゃあ、もっかいやらなあかんと思って、物件を探し始めたんです」

f:id:tmmt1989:20170208001637p:plain「じゃあ、ファンの声がなかったら復活していなかったんですね」

f:id:tmmt1989:20170208001656p:plain「本っ当にそう。とっくに大阪帰ってたところだった」

f:id:tmmt1989:20170208001637p:plain「マジで再結成するバンドみたいな話になってきたなあ……」

 

f:id:katsuse_m:20170202103712j:plain

手書きの説明文。「お1人様2パック以内」と、やや厳しめにも思えるルールが書かれているが、20時の閉店前に粉が切れてしまうことも多々あるため、「少しでも多くのお客さんに食べてもらいたい」という、おふたりの配慮が生きているのである

 

f:id:katsuse_m:20170202105255j:plain

「朝イチで仕込みを始めて、ふたりでできるギリギリの量を作ってるんだけどね。20時に閉めて、器具を全部洗って、そこから帰ったら日付けが変わる時間だもん。大変だよ~」と、笑顔で語る店主。復活前は営業時間が夕方からだったため、深夜に帰宅することもザラだったらしい。30年間ふたりでそれを続けるって、体力がハンパじゃない。

 

f:id:tmmt1989:20170208001637p:plain「1月に閉店をして、再オープンまでに10カ月のブランクがあったじゃないですか。そこでは何をされていたんですか?」

f:id:tmmt1989:20170208001656p:plain「物件探しと改装工事だね。なにしろ適した物件がなかなか見つからなくってねえ」

f:id:tmmt1989:20170208001637p:plain「下北沢って、土地が狭いですもんねえ……」

f:id:tmmt1989:20170208001656p:plain「空いている物件自体はあるのよ。でも家賃が高かったり、行列を作りにくい立地だったりするから」

f:id:tmmt1989:20170208001637p:plain「あー、そうか。近隣の迷惑にならないようにしなきゃいけないんですね」

 

f:id:katsuse_m:20170202182736j:plain

現在の店は、列を作るスペースが敷地内にしっかり確保されている。

f:id:tmmt1989:20170208001637p:plain「今のお店は、駅から1〜2分だし、前の場所からも離れていないし、最高の立地だと思うんですけど」

f:id:tmmt1989:20170208001647p:plain「そうそう。この場所はね、久保寺さんって商店街の組合の人が見つけてきてくれたの」

f:id:tmmt1989:20170208001637p:plain「久保寺さん……?」

f:id:tmmt1989:20170208001647p:plain「若くてしっかりしていてねえ、あの人に助けられたから、再オープンできたのよー」

f:id:tmmt1989:20170208001637p:plain「なるほど。大阪屋の新装開店には、立役者がいたんですね」

f:id:tmmt1989:20170208001656p:plain「久保寺さんのお店はここからすぐ近くだし、きっと下北沢についていろいろ教えてくれるから、会ってみるといいよー」

f:id:tmmt1989:20170208001637p:plain「本当ですか。ちょっと話聞きに行ってみます!」

 

「大阪屋」復活の立役者が語る街づくりのカタチ

f:id:katsuse_m:20170202190606j:plain

ということで、「大阪屋」復活の立役者である久保寺さんに会うため、ギャラリー併設のコーヒースタンド「バロンデッセ」に向かいました。大阪屋から徒歩1分程度。シモキタは近所の店同士がやたらと仲が良い印象があるが、ここもやはり近い。

 

f:id:katsuse_m:20170202192156j:plain

こちらが、バロンデッセのオーナーであり、しもきた商店街振興組合の理事であり、下北沢の街づくり会社「ハッスルしもきた」にも従事する久保寺 敏美さん。大阪屋再建への立役者に、さっそく話を聞いてみます。

f:id:tmmt1989:20170208001637p:plain「大阪屋復活の後押しをされた経緯はなんだったんですか?」

f:id:tmmt1989:20170208002449p:plain「立役者ってほど、大袈裟なものじゃないです。僕、もともとボランティアで街がよくなるような活動や、街づくり会社のお手伝いなどをやっているんですよ」

f:id:tmmt1989:20170208001637p:plain「おお、じゃあ大阪屋の復活も、その一環で?」

f:id:tmmt1989:20170208002449p:plain「もちろんそれだけじゃなくて、大阪屋さんとは個人的な付き合いもあったんですけどね。せっかくシモキタであれだけ愛されたお店なんだから、いい場所あったら教えてあげたいなっていうのはずっと思っていて」

f:id:tmmt1989:20170208001637p:plain「ふむふむ」

f:id:tmmt1989:20170208002449p:plain「そしたら、街づくり会社『ハッスルしもきた』で、空いた物件をプロデュースする事になり、大阪屋さんにお声がけしたんです」

f:id:tmmt1989:20170208001637p:plain「なるほど~」

 

f:id:katsuse_m:20170203045243j:plain

久保寺さんは学生時代から下北沢に住んでおり、シモキタ歴は20年近く。愛着が沸きまくっているこの街への想いは強い。

f:id:tmmt1989:20170208002449p:plain「僕は大学院も経営学出身だし、デザインの仕事もしてきたので、お店を建てる際の立地についてはいろいろ考えがあるんですけど、下北沢で『たこ焼き店』って、物件選びが難しいんですよね」

f:id:tmmt1989:20170208001637p:plain「やっぱり行列問題ですか?」

f:id:tmmt1989:20170208002449p:plain「それもそうだし、大家さんだったり、家賃だったり、下北沢っぽい雰囲気の場所とか。あと、匂いがクレームになりそうとか、食べた後のゴミをお客様が空き缶専用のゴミ箱につっこんでクレームになりそうとか、周辺たむろしてクレームになりそうとか」

f:id:tmmt1989:20170208001637p:plain「立ち食い飲食店のクレームあるあるじゃないですか」

f:id:tmmt1989:20170208002449p:plain「でもあの物件なら全部解決できるから、ピッタリだと思って紹介しました」

f:id:tmmt1989:20170208001637p:plain「ラッキー!!」

 

f:id:katsuse_m:20170203060348j:plain

そんなわけで見つかった、大阪屋の新舞台。下北沢の再開発対象エリアにつき、約3年という条件付きだが、店主も女将さんも「そのぐらいが丁度いい」と言ってくれたそうだ。店舗の中にはイートインエリアもあり、大阪屋のほかにホットドック専門店やチャイ専門店などのカフェやバー、テナントも入っている。

f:id:tmmt1989:20170208001637p:plain「大阪屋さんだけじゃなくて、若い子たちが好きそうなカフェやバーのお店も併設されているのがおもしろいですよね」

f:id:tmmt1989:20170208002449p:plain

「あそこは総称を『スタジオ・バス』って呼ぶんですけど、物件自体は『ハッスルしもきた』が運営しています。昔ながらのお店も、これから何かしたい! 将来下北沢でお店をしたい! と考えている若い子たちも、住民も、お客様も、一緒に乗り合いできるバスみたくなれば、と考えて名付けられています。何か販売したい人やイベントしたい人はウェルカムです」

f:id:tmmt1989:20170208001637p:plain「コンセプトもめちゃくちゃいい」

f:id:tmmt1989:20170208002449p:plain「数店舗に分割すれば家賃も安くなるし、下北沢らしいこだわりの店を作りやすい。街全体を使ったイベントのときにはスペースを使うことができるうえ、ここで得た利益は、街を綺麗にする活動に使えるんです。このかたちは、街のためになることが多いと思うんですよね」

f:id:tmmt1989:20170208001637p:plain「たしかに、ほかの街にも使えそうな仕組みですよね」

f:id:tmmt1989:20170208002449p:plain「『ここで飲食すると街が綺麗になる』って認知が広がればいいし、“みんなの下北沢”のために、シモキタを古くから知っている人も、最近好きになった人も、みんなに使ってもらえたらうれしいです」

f:id:tmmt1989:20170208001637p:plain「シモキタ愛に溢れすぎてて最高です……。ありがとうございました!」

 

 

f:id:katsuse_m:20170213164415j:plain

下北沢は駅周辺だけでも4つの商店街があり、街全体を使ったイベントをやるとなると、折り合いをつけるのがなかなか大変だったらしい。そこで、横断的な街づくり会社として『ハッスルしもきた』が誕生したそうだ。法人なら営利目的でも活動できるし、シモキタ全体を盛り上げられる。このカタチは、街づくりを進化させそうな気がした。

 

f:id:tmmt1989:20170208001637p:plain「ご主人~! お話聞いてきましたよ! なんだかワクワクしました!」

f:id:tmmt1989:20170208001656p:plain「いい人だったでしょー? あの人から話もらえて、頑張ろうって思えたんだよねー」

f:id:tmmt1989:20170208001637p:plain「本当ですよ! この場所はあと3年くらいらしいですけど、大阪屋はあと30年は続けてください!!」

f:id:tmmt1989:20170208001656p:plainf:id:tmmt1989:20170208001647p:plainそりゃあちょっとキツいかな~!笑

 

 

変わりゆくシモキタ、変わらないシモキタ

f:id:katsuse_m:20170203064540j:plain

「僕が知っているシモキタって、“第一歩目の街”だから。音楽はじめるとか、役者で食っていきたいとか、写真展示してみたいとか、絵を描きたいとか、洋服屋やりたいとか、そういう前向きな若い子たちで溢れる景色を見ていたいし、そういう子たちを応援してくれる大人を増やしていきたいんですよね。それが、シモキタらしさを守ることなのかなと思うし、シモキタを魅力的にしていくための方法だと思うんですよ」と話す久保寺さん。

 

久保寺さんが語る「シモキタらしさ」を聞くと、街の景色というのは、建物だけではなく、そこにいる人たちが何をしているかも大切ということを気付かせてくれる気がします。

 

街が変われば、そこに集まる人も変わる。

人が変われば、街並も変わっていく。

 

そうして人と街は相互に影響しあって、次の世代へとバトンを渡していくのだなと実感する取材となりました。

 

再開発によって駅の出口すらどんどん変わっていく下北沢。その様子はまるで不思議のダンジョンみたいですが、そのぶん楽しい発見も多いです。みなさんも東京に来た際には、ぜひ足を運んでみてくださいね!

 

 

f:id:katsuse_m:20170203094636j:plain

それにしても……

 

f:id:katsuse_m:20170203094703j:plain

ホンッットうまいわあ……。

 

 

おわり

 

 

ショップ情報

①たこ焼き専門店「大阪屋」

・営業時間:平日14時頃~20時頃 / 土日祝12時頃~20時頃(売り切れ次第終了)

・定休日:毎週火曜

・住所:東京都世田谷区北沢2-25-10 Studio B.uS Shimokitazawa内

 

②コーヒー専門店「バロンデッセ」

・営業時間:10時半~21時

・定休日:毎週月曜

・住所:東京都世田谷区北沢2-30-11

・電話:03-6407-0511

・URL: http://ballondessai.com/

  

ライター:カツセマサヒコ

f:id:eaidem:20160308180710j:plain

下北沢の編集プロダクション・プレスラボのライター/編集者。1986年東京生まれ。2009年より大手印刷会社の総務部にて勤務。趣味でブログを書いていたところをプレスラボに拾われ、2014年7月より現職。
趣味はtwitterとスマホの充電。Twitter→@katsuse_m

【8コマ漫画】木下晋也 『特選!ポテン生活』 (11) - 自然の掟/瞳を閉じて

$
0
0

f:id:eaidem:20160628120135p:plain

 

<ポテン生活|一覧>

 

f:id:eaidem:20170227104651j:plain

f:id:eaidem:20170227104652j:plain

f:id:eaidem:20170227104649j:plain

f:id:eaidem:20170227104650j:plain

<ポテン生活|一覧>

 

●「ポテン生活」とは?

ギャグ漫画界の新鋭・木下晋也が描く、の~んびりして、クスッとしてしまう8コママンガ。独特の中毒性から、10巻までの単行本は大きな話題になりました。ジモコロでは、そんな「ポテン生活」から、おもしろかった話を毎月2本、選り抜きでお届けしますよ!

 

 

書いた人・木下晋也

f:id:eaidem:20160322122138j:plain

1980年大阪生まれ。2008年、『ポテン生活』で第23回MANGA OPEN大賞受賞。単行本『ポテン生活』全10巻、『おやおやこども』が好評発売中。Docomoエンタメウィークで『マコとマコト』連載中。木下晋也公式サイト、cakesでもいくつか作品を公開中です。趣味はプロレス観戦。TwitterFacebook

 

ジモコロは求人情報サイト「イーアイデム」の提供でお送りしています

「タカを飼いたいと思わせたくない」女性鷹匠マンガ家が伝えたい、命との距離感

$
0
0

f:id:eaidem:20170210180514j:plain

こんにちは、ジモコロライターの原宿です。本日は愛知県名古屋駅から電車で10分、車で20分ほど移動したところにある「とある田んぼ」に来ております。

 

f:id:eaidem:20170210181033j:plain

はい、とある田んぼです。東京に比べると空が広いな~。

 

一体何のために僕がこの場所に来ているのかと言うと、こちらの漫画の作者の方にお会いするためです。

 

f:id:eaidem:20170216110350p:plain

-鷹の師匠、狩りのお時間です-

 

こちらは鷹狩り歴15年の女性鷹匠・ごまきちさんによるエッセイマンガで、世にも珍しい女性×鷹匠×漫画家というプロフィールを持つ方による実録マンガということになります。ポーカーにおけるスリーカードの確率は2.1%とされていますが、人生のポーカーでこのスリーカードが揃う確率、たぶんもっと低いと思う。

 

f:id:eaidem:20170213165905j:plain

ご本人もこういうマンガを描いているわけですが、いやほんと、名古屋から電車で10分の土地で本当に鷹狩りができるんでしょうか? 確かに冒頭の田んぼは広々としていますが、いわゆる「里山」ではぜんぜん無いはずで、本当は鷹匠とか全部ウソで普通にOLをしている人なのでは……。

 

 

f:id:eaidem:20170213171440j:plain

もしかすると、こんな感じの人が現れる確率もゼロではありません。なんかこういうシーン、「ショムニ」にあってもおかしくなさそうだな。そんないらぬ想像をいろいろ働かせていると……

 

 

f:id:eaidem:20170213172304j:plain

あっ!あの人、手になんか止まってる! この状況で手になんか止まってたら、それは女性漫画家鷹匠以外にいない!

 

f:id:eaidem:20170215151313p:plain「すいません!ごまきちさんですか?」

 

f:id:eaidem:20170215151329j:plain

f:id:eaidem:20170215151340p:plain「どうも初めまして、ごまきちです!」

 

f:id:eaidem:20170215151313p:plain「うわーっ!手に鷹止まってるし初めまして!だいたいマンガのまんまだ!本当に女性漫画家鷹匠はいたんだ……」

 

f:id:eaidem:20170215151340p:plain「本当にいるからマンガを描けているんですが(笑)」

 

 

f:id:eaidem:20170213173634j:plain

 

f:id:eaidem:20170215151313p:plain「そして鷹。いろいろ鋭い。まんべんなく鋭いですね」

 

f:id:eaidem:20170215151340p:plain「こちらが私のパートナーである、オオタカの“師匠”(オス・4歳)です」

 

f:id:eaidem:20170215151313p:plain「師匠!よろしくお願いします!」

 

f:id:eaidem:20170215155346p:plain「チキ♪」

 

f:id:eaidem:20170215151313p:plain「おっ、鳴いてますね」

 

f:id:eaidem:20170215151340p:plain「“チキ”は、文句を言っている時の鳴き声ですね」

 

f:id:eaidem:20170215151313p:plain「えっ! 師匠、お怒りなんですか? 手土産を持参すれば良かったなあ……」

 

f:id:eaidem:20170215151340p:plain「いえ! 怒っているというほどではなくて、人間でも寒い時に『クッソ寒すぎ!』とか、不満を漏らすことがありますよね? その程度の感じです、チキは」

 

 

f:id:eaidem:20170213175911j:plain

f:id:eaidem:20170215155346p:plain「(ブチッブチッブチッ)」

 

f:id:eaidem:20170215151313p:plain「エサである鳥の羽根をむしっている勇猛な姿からは、にわかに信じられないんですが、本当にご機嫌なんでしょうか?」

 

f:id:eaidem:20170215151340p:plain「はい(笑) 鷹は獲物の羽根をむしるのがすごく好きなんですよね。人間でいったら梱包材のプチプチをつぶすとか、そういう感覚なのかなって想像してるんですが」

 

f:id:eaidem:20170215151313p:plain「羽根をむしるのとプチプチが同等なんですか!? まぁ、鷹には鷹の世界がありますからね。今日は鷹匠という立場から、ごまきちさんに生き物や自然との共生について、色々とお話を伺えればと思っています」

 

f:id:eaidem:20170215151340p:plain「はい、よろしくお願いします」

 

f:id:eaidem:20170213181040j:plain

 ※師匠は本当にご機嫌だということなので、思い切って匂いを嗅がせてもらいました。「決してイヤじゃない、人の頭皮の香り」がしました。お腹はフッサフサで気持ちいい。

 

 なぜ鷹の名前が「師匠」?

f:id:eaidem:20170215155756j:plain

 

f:id:eaidem:20170215151313p:plain「マンガのタイトルにもなってることなんですが、なぜ鷹の名前が“師匠”なんでしょう?」

 

f:id:eaidem:20170215151340p:plain「はい。これは私が学んだ諏訪流放鷹(ほうよう)術の教えが関連しているんですが……」

 

f:id:eaidem:20170215151313p:plain「す、すわりゅう……?」

 

f:id:eaidem:20170215151340p:plain「あ、鷹匠には武道と同じで流派がありまして、日本に現存しているのは諏訪流と吉田流の2つだけなんです」

 

f:id:eaidem:20170213183035j:plain

f:id:eaidem:20170215151313p:plain「なるほど。これはインタビュー後に調べたことですが、諏訪流初代の小林家鷹という人物は、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康と3人の天下人に仕えたらしいですね。すごい職歴!」

 

f:id:eaidem:20170215151340p:plain「で、その諏訪流でいちばん最初に教わるのが『鷹を主人だと思って仕えなさい』ということなんです」

 

f:id:eaidem:20170215151313p:plain「自分ではなく、鷹が主人……」

 

 

f:id:eaidem:20170213184513j:plain

f:id:eaidem:20170215151340p:plain「はい。これは神の化身である鷹を尊ぶ心を学ぶという意味もあるのですが、人間のエゴではなく鷹の立場になって物事を考えなければ、鷹狩り自体がうまくいかないからなんです」

 

f:id:eaidem:20170215151313p:plain「なるほど。何も知らない素人から見ると、鷹匠が鷹を思い通りに操っていると思いがちですが、人間が鷹を使役しているということでは決してないんですね」

 

f:id:eaidem:20170215151340p:plain「狩りは私の意志ではなく、あくまで鷹優先です。鷹匠は、鷹にとって利用価値の高いパートナーであらなくてはいけません」

 

f:id:eaidem:20170213184608j:plain

f:id:eaidem:20170215151313p:plain「思い通りにいかないものと向き合い、信頼関係を作る。鷹でも人間でも、相手の立場になって物事を考えるのが土台になるんでしょうね。確かに、こうしてごまきちさんの手に止まってる師匠、とってもリラックスしてるように見えますね」

 

f:id:eaidem:20170215160013j:plain

 

f:id:eaidem:20170215151340p:plain「鷹匠の腕は、鷹にとっての『お気に入りの枝』みたいなものですかね。で、空に舞い上がる時はカタパルトの役割を果たします」

 

f:id:eaidem:20170215151313p:plain「カタパルトってあの、『アムロ、行きま~す』の?」

 

f:id:eaidem:20170215151340p:plain「はい、鷹匠用語では羽合せ(あわせ)と呼びますが、鷹に助走をつけて空に送り出す行為ですね。鷹匠は世界各国にいるんですが、これをやるのは日本だけです」

 

f:id:eaidem:20170215151313p:plain「ぜひ見てみたいです!」

 

f:id:eaidem:20170215151340p:plain「師匠も丁度飛びたがってるみたいなので、いきますね!」

 

f:id:eaidem:20170216194040g:plain

 

f:id:eaidem:20170215151340p:plain「それ~~~!!」

 

f:id:eaidem:20170215151313p:plain「おお~!」

 

f:id:eaidem:20170214154033j:plain

 

f:id:eaidem:20170215151313p:plain「いや~、やっぱり大空を舞う鷹って絵になりますねえ。何だかこっちの心まで解放されるような心持ちがします。鷹匠の訓練でいちばん大変なことって、何かありますか?」

 

f:id:eaidem:20170215151340p:plain「う~ん、大変と言えば全部大変なんですが、代表的な訓練に『据(す)え』と言われるものがありますね。鷹って腕の部分ではなく、拳の上に止まるんですよ。据えは鷹を拳の上で安定させるための訓練なんですが」

 

f:id:eaidem:20170214154653j:plain

 

f:id:eaidem:20170215151313p:plain「え? 鷹を安定して止まらせるだけで3年かかるんですか? どうやって練習するんでしょう?」

 

f:id:eaidem:20170215151340p:plain「水をなみなみと注いだ湯呑みを拳の上に置いて、こぼさずに歩くんです。この時、湯呑みを目で確認してはいけません。コップでやるとこんな感じです」

 

f:id:eaidem:20170215160153j:plain

※喫茶店でごまきちさんに「据え」をやってもらった写真。

 

f:id:eaidem:20170215151313p:plain「これやってみると分かりますが、この状態でコップから目を離すだけでめちゃくちゃ怖いです。これで歩くのは無理だなー!」

 

f:id:eaidem:20170215151340p:plain「単純なことが意外と難しいんですよね」

 

f:id:eaidem:20170215151313p:plain「あれみたいですね。ジョジョ第一部で切り裂きジャックと戦った時の、『北風がバイキングを作った』ってやつ」

※ご存知ない方は恐れ入りますが、検索でお調べください。

 

f:id:eaidem:20170215151340p:plain「まさか鷹匠と波紋の修行がつながるとは、ですね」

 

f:id:eaidem:20170215151313p:plain「師匠をジョジョのスタンド使いに例えると誰ですかね? やっぱりペットショップ?」

 

f:id:eaidem:20170215151340p:plain「あれはタカではなくハヤブサなので……」

 

f:id:eaidem:20170215151313p:plain「あ、そうか」

 

f:id:eaidem:20170215151340p:plain「うーん、見た目は承太郎かな?と思ったんですが、繊細な性格を考えると花京院の方がしっくりきますかね」

 

f:id:eaidem:20170215151313p:plain「ハイエロファント・グリーン!」

※ご存知ない方は恐れ入りますが、検索でお調べください。

 

f:id:eaidem:20170215151340p:plain「生まれつきのスタンド能力者で、人と打ち解けず孤独……。DIOとの戦いでスタンドを『再び誰にも見えないようにしてやる』と罠をはった花京院……。 孤独、気付かせない、気配を消す、神経質っぽさがオオタカっぽい……」

 

f:id:eaidem:20170215151313p:plain「ごまきちさん、ジョジョお好きなんですね……」

 

f:id:eaidem:20170215151340p:plain「はい、割と……。あ、ハヤブサと言えば我が家にはオオタカだけでなく、ハヤブサもいるんです。ご覧になりますか?」

 

f:id:eaidem:20170215151313p:plain「ぜひ!」

 

 

ハヤブサのドン子ちゃん

f:id:eaidem:20170215160354j:plain

 

f:id:eaidem:20170215151340p:plain「こちらがハヤブサのドン子(メス・8歳)です」

 

f:id:eaidem:20170215151313p:plain「でかっ!」

 

f:id:eaidem:20170214162054j:plain

 

f:id:eaidem:20170215151313p:plain「この抑えきれないホルス感、神々しい……。ハヤブサって綺麗な鳥なんですねえ。タカとハヤブサの違いって、どんなところがありますか?」

 

f:id:eaidem:20170215151340p:plain「ハヤブサは目が真っ黒に見えるというのが分かりやすいのと、あとタカと違って、ハヤブサは食事の時に口の周りが汚れても気にしませんね(笑)」

 

f:id:eaidem:20170215151313p:plain「見た目の高貴さとは裏腹の、ワイルドサイドな一面もあるんですね。そう言えば最近、サウジアラビアの王子様が飼っている80匹のハヤブサのために、飛行機の座席を80席購入したというニュースがありましたが……」

 

news.livedoor.com

 

f:id:eaidem:20170215151340p:plain「アラブの富裕層の間では鷹狩りが盛んで、ハヤブサを飼うのがステータスと考えられているんですよ。UAE(アラブ首長国連邦)の国鳥がまさにハヤブサですし、ドバイの経営者が原作を小学館に持ち込んで、日本の漫画家と共作で鷹狩りバトル漫画を描いたなんて話もありました」

 

f:id:eaidem:20170215151313p:plain「いやさすがにそれは……って、本当にあった!」

 

togetter.com

 

f:id:eaidem:20170215151313p:plain「ホットエントリー入りしてるがな!アラブの人のハヤブサへの情熱、すげえな! ちなみにハヤブサを使う狩りでも“鷹狩り”と言うのですか?」

 

f:id:eaidem:20170215151340p:plain「はい。鷹という漢字は、実は“猛禽類全体”のことをあらわしているんです。なのでタカもワシもハヤブサもノスリもコンドルも鷹になりますし、その鳥と一緒に狩りをする人を“鷹匠”と呼びます。タカという鳥のことだけを指す時は、こうしてカタカナで書くのが正解です」

 

f:id:eaidem:20170215151313p:plain「はぁ~、鷹が猛禽類全体を指す漢字だったとは知りませんでした。ということは、フクロウを使って狩りをするのも鷹狩りってことですね」

 

f:id:eaidem:20170215151340p:plain「そうなりますが、残念ながら日本では猟をしていい時間が日の出から日没までなので、夜行性のフクロウを使った猟はできません」

 

f:id:eaidem:20170215151313p:plain「夜の猟、めちゃくちゃ怖そうなので『逆にできなくてよかった』と今思いました」

 

 

f:id:eaidem:20170214172053j:plain

※鷹狩りのパートナーであるイングリッシュ・ポインターのミラ(メス・9歳)。現在(2017年2月)、鳥インフルエンザの流行により鷹狩りはお休み中ということで、車に乗って猟に行けないことを残念がっていた。

 

タカを飼育する難しさ

f:id:eaidem:20170215160606j:plain

 

f:id:eaidem:20170215151313p:plain「今回、鷹匠としての日常をまとめた鷹の師匠、狩りのお時間です!が出版されるにあたり、ごまきちさんがいちばん伝えたかったことってなんでしょう?」

 

f:id:eaidem:20170215151340p:plain「一番は、そうですね……。『タカを飼いたいと思わせないようにしよう』ということでしょうか」

 

f:id:eaidem:20170215151313p:plain「えっ。かなり意外なお答えですね」

 

f:id:eaidem:20170215151340p:plain「出版社の方的には『鷹匠はカッコイイ!』というような売り文句を付けたいという一面もあると思うんですが……。鷹は大変ストレスに弱い生き物です。私はまず、猛禽飼育の大変さ、共生の難しさから伝えたいという思いがあります」

 

f:id:eaidem:20170215151313p:plain「ごまきちさんの作品にも、ふとした時に師匠が逃げてしまった過去のお話がありましたね」

 

f:id:eaidem:20170214181847j:plain

f:id:eaidem:20170215151340p:plain「鷹狩りを15年続けてきた私自身も、このようにたくさん失敗してきましたし、何年後かには『あの時のあの飼い方は間違ってた!』なんて大反省しているかもしれません。その飼育の難しさの割に、鷹匠には資格試験もありませんし、現在の日本ではあまりにも手軽に鷹たちが購入できてしまうんですよね」

 

f:id:eaidem:20170215151313p:plain「知識も自覚もないまま鷹を飼ってしまう人が増えることに、危機感を感じていると」

 

f:id:eaidem:20170215151340p:plainそもそも販売されている鷹を購入しても、狩りを仕込むまでには何年もの地道な特訓が必要ですし、鷹は決して『生まれながらのハンター』などではないんです。鷹は生まれつき鷹ではなく、鷹になる生き物なんだということを訓練の中で教えられました」

 

f:id:eaidem:20170214182132j:plain

f:id:eaidem:20170215151313p:plain「動物の一生を左右してしまう飼い主の責任の重みを、グッと感じる言葉ですね」

 

f:id:eaidem:20170215151340p:plain「猛禽類に関する飼育環境や制度、繊細な生き物を扱うという心構えの面で、日本には遅れている部分があると感じています。かといって私のやり方が正解というわけでもなく、私が鷹匠をしていることで、『自分にもできそう!』と安易に思ってしまう人が増えるのではないか……という葛藤は常にありますが、鷹を飼うって美しい面だけではないんだということも同時に伝えられたらと思っています」

 

f:id:eaidem:20170215151313p:plain「なるほど。飼うというつもりが無くても、迷ったり弱ったりしている鷹にたまたま遭遇した時にはどうすればいいのでしょう?」

 

f:id:eaidem:20170215151340p:plain「放っておけないという親切心から家に持ち帰って保護してしまう人もいるのですが、鳥インフルエンザなどの疾病のリスクもありますし、日本の野鳥は原則として捕獲、飼育が法律で禁じられているんです。まずは安易に触らないことが一番大事ですね!  その上で各都道府県の専門機関に連絡することをオススメします」

 

ケガをした鳥をみつけた | 野鳥を楽しむポータルサイト BIRD FAN | 日本野鳥の会

 

f:id:eaidem:20170215151313p:plain「ヒナ鳥が巣から落ちていたりしても、やはり持ち帰るのはマズいですよね?」

 

f:id:eaidem:20170215151340p:plain「はい。近くで親鳥が見守っているので、手を出すべきではないですね。鳥類にかぎらず幼い動物は、親とはぐれると自然で生きていく力を身につけることができなくなってしまうんです。誤認保護(救護)というのですが」

 

bylines.news.yahoo.co.jp



f:id:eaidem:20170215151340p:plain「動物たちを助けたいという気持ちは批難されるべきものではないのですが、保護にもリスクがあることを知っていただければと思います。動物のことを思えばこそ、人間との距離感が重要だと思うんです」

 

 

f:id:eaidem:20170215170201j:plain

都会のはずれで、鷹と自然と向き合い続けるごまきちさんは、生き物に投げかける優しいまなざしの向こうで、「鷹や生き物にとっての幸せとは何か?」を日々葛藤し続けている方でした。

自然と人間との付き合い方に100%の正解など存在しないのかもしれませんが、ごまきちさんが漫画を通じて発信するその生き方自体が、少しずつ答えに近づく手がかりとなっていくのかもしれません。

「人生棒に振る勢いで(本人・談)」、鷹と共に生きる覚悟を決めた女性・ごまきちさんによる鷹匠エッセイ漫画「鷹の師匠、狩りのお時間です!」は、星海社コミックスより絶賛発売中です!

 

 

f:id:eaidem:20170214201338j:plain

 

鷹の師匠、狩りのお時間です! 1 (星海社COMICS) 

 

 

 

 

f:id:eaidem:20170214192045j:plain

 

 

ライター:原宿

f:id:eaidem:20150618141452j:plain

株式会社バーグハンバーグバーグ所属。ご飯をよく噛むオモコロ編集長として活動中。Twitter:@haraajukku

【8コマ漫画】木下晋也 『柳田さんと民話』 - 13話「ひとり旅と女子と昔話」

$
0
0

f:id:eaidem:20160404141459j:plain

<柳田さんと民話・一覧>
13

 

f:id:eaidem:20170228163749j:plain

f:id:eaidem:20170228163808j:plain

<柳田さんと民話・一覧>

 

・1話~10話までをまとめ読みする!

 

●「柳田さんと民話」とは?

ひとり旅を趣味とする男性・柳田久仁夫が、日本各地で地元に伝わる民話を聞き歩く、ユルくておもしろくてためにならない8コママンガです。

 

書いた人・木下晋也

f:id:eaidem:20160322122138j:plain

1980年大阪生まれ。2008年、『ポテン生活』で第23回MANGA OPEN大賞受賞。単行本『ポテン生活』全10巻、『おやおやこども』が好評発売中。Docomoエンタメウィークで『マコとマコト』連載中。木下晋也公式サイト、cakesでもいくつか作品を公開中です。趣味はプロレス観戦。TwitterFacebook

 

ジモコロは求人情報サイト「イーアイデム」の提供でお送りしています

「100%ではなく120%の復興を目指す」奇跡の温泉宿・蘇山郷が考える攻めの経営論

$
0
0

f:id:kakijiro:20170301030221j:plain

自然豊かで雄大な山々を臨む熊本県・阿蘇。その麓にあるのが国内外の観光客に大人気の温泉宿「蘇山郷」です。

水害と地震、さらには噴火という数々の受難を乗り越え、歴史ある湯治場を守り続けてきました。阿蘇復活のキーマンの一人である館主の永田祐介さんに話を聞くために、険しい山道を越えて蘇山郷を訪れました。

 

 

不屈の精神を内に秘めながらも、最先端ビジネスにも精通した永田さんの経営論にライターであるわたし長谷川リョーと柿次郎編集長の二人はグイグイと引き込まれていくのでした。焼酎をいただきながら、深夜まで夜通し伺った話には誰もが勇気づけられるはずです。

 

「復旧と復興は違う」

 

地方・復興・観光へのヒントがたくさん詰まった永田さんのストーリーを、前編・後編の二つに分けてお届けします。

 

温泉宿開業のきっかけは与謝野鉄幹・晶子夫妻の逗留

f:id:ryh0508:20170204234724j:plain

話をおうかがいした永田祐介さん(内牧温泉蘇山郷 三代目館主)

 

―まずはじめに永田家のルーツも含めて、どういった経緯で「蘇山郷」が始まったのかを教えてください。

この辺り(阿蘇市・内牧)で温泉が出るようになってから120年になります。東北地方に行けば、江戸時代末期からやっている温泉もあるとは思いますが、それでも全国的にもそこそこ古い歴史を持っています。

 

f:id:ryh0508:20170206144928j:plain

 

―永田家の初代の方はどういう経緯で温泉旅館を始めることになったんですか?

もともと、うちはこの辺りで地主をやっていたというふうに聞いています。現在は市立体育館になっている場所に内牧城というお城が建っていました。

このお城が明治に入り時代と共に取り壊されることになり、その際に立っていた杉の木をうちの先代が譲り受けることになったんですね。

 

―お城の杉を!

はい。九州日日新聞社の記者であった後藤是山さんが「別府開拓の祖」といわれる油屋熊八さんや与謝野鉄幹・晶子夫妻を連れ立って、内牧に来られるという話になりました。

著名な方々が来訪されるということで、「簡素な旅籠ではまずいだろう」と、例の杉を使った邸宅を急いで改築することになったそうです。

 

―油屋熊八ってあの「温泉マーク(♨)」を考案したとされる人物ですよね!こんな著名な方々をもてなすということは、先代も相当な地主さんだったんでしょうか?

当時の財界の方とのつながりを強く持つ、ここら辺では名の知れた地主だったようですね。とはいえ普通の邸宅だったので、京都から宮大工さんを呼んできて、最後はかなり突貫工事だったようです。

いずれにしても与謝野夫妻が宿泊されたことが、旅館を始める一つの理由になっています。

 

f:id:ryh0508:20170219234655p:plain

与謝野夫妻が蘇山郷の原点となった邸宅に逗留されたときの写真。左から「油屋熊八」「与謝野鉄幹」「与謝野晶子」「後藤是山」「工藤久泉」

 

―与謝野晶子といえば今でも有名な歌人ですよね。若者言葉で、髪が乱れた様子を「与謝野る」なんて言ったりします。そこからすぐに旅館としてスタートするんですか?

いや、そこから戦争に入っていくことになります。一番大きかったのは、戦後の農地改革。これによって地主は食べていくことが難しくなりました。

それでも敷地内からはすでに温泉が出ていたということで、与謝野夫妻にお泊まりいただいてから21年後の、昭和28年に旅館として開業することになります。

 

―戦争を挟んで21年...けっこう経っていますね。

それから世の中は空前のハネムーンブームに入っていきます。この辺りと雲仙や青島周辺で新婚旅行客が次々に訪れるようになりました。

高度経済成長に合わせ、団体旅行を中心に観光客は右肩上がりに増えていきます。ところが、その後バブルの崩壊へと向かっていくわけです。

 

―今にも続く話ですが、そこで団体客から個人客に切り替えた宿と、今でも団体旅行客を中心にやられている宿で差ができていったということを耳にしたことがあります。

そこをうまく切り替えたのが、おそらく黒川温泉さんだと思います。団体旅行が廃れていくタイミングに合わせて、黒川温泉さんは個人向けに露天風呂巡りを始めました。

逆に内牧はキャパも大きかったので、修学旅行全盛期が終わったあとも、今度はインバウンドを団体で狙うというように、今でも団体旅行から脱しきれていない感があります。

 

相次ぐ自然災害

f:id:ryh0508:20170219234518j:plain

平成24年九州北部豪雨災害のときの様子

 

―そんなとき、災害が相次いだわけですね。影響は大きかったのでしょうか。

団体旅行のなかでも、修学旅行は、自然災害のようなネガティブなものを最も嫌います。親御さんの気持ちを考えれば仕方がないですよね。水害があって、噴火や地震があった阿蘇にはどうしても修学旅行としては行きにくくなってしまうのです。

 

―そうなると、今までの団体旅行中心のやり方では難しくなりますよね。 

そうです。エリア全体として、そもそも何をターゲットにしていくのかを改めて考えなくては、寂れた温泉旅館しかない地域になってしまうのではないかと地震のあとは特に危惧しています。

 

f:id:ryh0508:20170206151419p:plain

昨年の熊本地震のときの様子

 

―ちなみに初代、2代目、先代の時代にも災害は頻繁にあったのでしょうか。

噴火は20、30年前当時もありました。とはいえ昔は、噴火といっても「石が飛んできたー」という程度の話で、そこまで広がることもなかったんです。

今の時代はメディアを使って拡散するスピードが速いので、特に御嶽山噴火の前と後ではかなりネガティブな捉え方をされるんですよね。ここから火口までは10km以上離れていますし、実際のところ桜島と鹿児島市内ほど距離は離れているんです。

 

Facebook、LINEを活用し、自らが情報の主導権を握る

f:id:ryh0508:20170205000311j:plain

 

―テレビやネットなどのメディアを通して拡散されると、どうしてもイメージが固定化してしまいますもんね……。

適切な情報発信を心がけています。例えば、「今はレベル3なので、3kmまでは近づける」ということだから、「草千里まではOKで、草千里から先はダメですよ」といったように、気象庁の噴火警戒レベルに合わせ具体的に線引きをして、それを現地で、自ら発信していくことが重要なんです

 

―なるほど。 

地図をみていただければ分かるように、一口に「阿蘇」とはいっても範囲が大きい。外から見ると大きなくくりで捉えられてしまって、「阿蘇=行ってはいけない」というように風評被害はすぐに誇張されてしまいます。

とりわけ御嶽山噴火以後は、災害がクローズアップされることが増え、拡散するスピードも速くなっていますね。

 

―そういった風評被害に対してはどのように対応しているのですか?

ついこの間の話をすると、夜中に噴火が起こりました。朝方起きると、「大丈夫か?」というメールがたくさん来ていたのですが、外を見ても何も変化はない。

たしかに一の宮町の方には火山灰が流れ、あるところには噴石が飛来して、ビニールハウスや車の窓が割れたといった話もありました。

 

―被害が出たところもあるけれど、蘇山郷周辺は普段通りなわけですね。

だから、僕は何もなっていない部分をテレビに撮らせます。東京のメディアにも「しっかりと被害がない箇所に関しては、分けて報道してほしい」とお願いしたのですが、結局、どこかのビニールハウスが破れた話でニュースは終始していました。

 

―そんな……。

メディアはとにかく”ダメな部分”を拾いたがるんです。沈静化した状況は決して伝えられることはなく、必ずインタビューで聞かれるのは、「どこかに火山灰は落ちていませんか?」ということ。

蓮の葉の真ん中に溜まっている火山灰をズームで寄って撮るような報道の仕方をするんです。

 

―そこまで極端なんですね。

「キャンセルの電話が鳴っているところを取材したい」なんて言われることすらあります。なぜ彼らがこういった報道をするかというと、そこに食いつく一般の視聴者がいるからお涙ちょうだいでいった方が、ニュースソースとして支持されやすいんですよね。

 

f:id:ryh0508:20170206150609j:plain

最高級いも焼酎「黒瀬安光」を振舞っていただきました

 

―そこで、「自ら発信する」ことが重要になるんですね。

僕は自転車を趣味でやっているので、この辺りを20kmくらい走った上で、「一の宮町はこういった状況ですが、内牧は全然大丈夫ですよ」といったことをFacebookで発信し、拡散も促しました

自らも情報発信しつつ、それに食いついてきた媒体に対しては取材を受けて、「きちんと現状の報道をしてくれ」ということを言い続けます。

 

―「拡散」まで意識的に!

自分のFacebookで情報発信をすることのメリットとして分かりやすいのが、ある媒体の記者さんが「あのとき社長はこういうふうに言われていますけど、あれはどういう心境だったんですか?」と僕のFacebookの投稿を全部プリントアウトして辿ってくれていたんです。

 

―へー!Facebookのポストがしっかりと点で追える情報になっているんですね。

メディア関係者をすべてLINEのグループでつないで、一斉に情報を発信しています。たとえば、「この日から温泉を掘り始めるよ」とか「この日から宿を再開させるよ」といった情報を流すことで、ワァーッと連絡が来るんです。

 

―自分で情報の主導権を握ってしまうと。

民放が3社、そしてNHKとなんと合計8社がこんなに小さい旅館のリニューアルオープンの取材に来てくれました。

 

―すごい。芸能人の結婚記者会見みたいだ。

それも、今までの情報発信を通じて、メディアとのリレーションがあったからこそだと思います。

 

―LINEで報道の方々とグループを作るのはめちゃくちゃ良いですね。ソーシャルメディアを最大限に活用されていることがよくわかります。

 

120%の”復興”のためのクラウドファンディング

f:id:ryh0508:20170219234246j:plain

 

f:id:ryh0508:20170206151224j:plain

―他にもソーシャルの情報発信で気をつけていることや、工夫していることはありますか? 今後観光地が震災の被害を受けて、立ち直らなくてはいけない局面が同じように出てくることもあり得ると思いますので、何かヒントになるようなことがあれば教えていただきたいです。

例えば、旅館の屋上にルーフトップバーを作るため、クラウドファンディングを行いました。まだ200万円ほどしか集まっていませんが、1,000万円使って作っている途中です。

 

―クラウドファンディングで!

少し背景を説明すると、震災のグループ補助金は現状復旧のためにしか使うことが認められていません。

それでももちろんありがたいのですが、元通りの100%に向けた”復旧”ではなく、120%を目指す”復興”にしなくてはいけないと考えました。

もう一度賑わいを取り戻し、外国人にも来てもらわなくてはなりません。去年の宿泊者数が1万3千人で、外国人客はその約25%である3,200人だったんです。

 

―かなり多いですね。

しかも団体ではなく、すべて個人。それが今では1割くらいにまで落ち込んでしまっています。地震のあと、アジア人であれば「九州レールパス」(3日間で北部九州・5日間で九州全土利用できる周遊チケット)を使われることが多いんです。

又欧米の方は「ジャパン・レール・パス」(7日・14日・21日利用可)というチケットを使われる方が多い。このパスを使うと、日本国内どこの新幹線やローカル線もほとんどが無料になるんです。

 

―聞いたことがあります。すごいですよね。

それが今は熊本駅の先、豊肥本線の肥後大津と言う駅で途切れてしまっているんです。なので、JRで来るお客様が正直全く来れない。陸の孤島化してしまっているのが現状です。

 

―たしかに、日本人でも知らないと来るのが難しい。僕らも一度道を間違えてしまいました。

それでも僕は外国のお客さんに送迎車やタクシーを使ってでも、もう一度来てもらいたいと思っています。ルーフトップバーを作ったのもそのためです。以前からバンコクにあるようなルーフトップバーを作りたいと考えていて、このタイミングで実現させることにしました。

 

―震災前以上の“復興”には、お客をお呼び込むための新たな設備も必要で、それには資金調達も欠かせませんね。

そのための復興ファンドというものがありまして、手数料込みで一口10,800円です。そのうち半分は寄付という形になり、残りの半分は5年後にプレミアムをつけて返すという投資型になっています。

僕としては直接の投資型という形ではなく、「泊まりにきたから、この5,000円で飲ませて」といった消費の形でもいいのではないかと思うんです。 

 

―そんな方法があるんですね!

こうしたやり方はおそらく復興支援の形としては新しいと思っています。現状、寄付をしたとしても、そのお金が熊本城の修繕に充てられるのか、阿蘇神社にいくのか、農家にいくのか、分からないですよね。

今後の寄付や事業者の資金調達は、個人の意志に基づいて、行われるようになるのではないかと考えています

 

―「行ったことはないけど、ここに投資をした」という縁が生まれるわけですよね。そして、実際に訪れる人も増えると。

新しいご縁を創出するため、そして外国のお客様にもう一度選ばれる場所にするため、今回ルーフトップバーを作ることにしたんです。

 

この後、新たに作られたルーフトップバーに場所を移し、取材は深夜にまで及びました。

後編では「100%の復旧ではなく、120%の復興」を目指す、永田さんの「経営論」についてより深く掘り下げた内容をお届けします!

 

書いた人:長谷川リョー

f:id:ryh0508:20170117171144j:plain

編集者。『SENSORS』シニアエディター。リクルートホールディングスを経て、独立。修士(学際情報学)。将来の夢は馬主になることです。メール:ry.h0508アットgmail.com、Twitter ID:@ryh

バブル崩壊、廃業寸前、3度の自然災害…「地獄の旅館経営」を再建した男

$
0
0

f:id:kakijiro:20170301030222j:plain

相次ぐ自然災害、そしてバブルやリーマンショック。数々の危機を乗り越え、今や国内外から多くの観光客が訪れる人気の宿となった熊本県・阿蘇の「蘇山郷」。

館主の永田祐介さんは、自ら正しい情報発信を行い、クラウドファンディングなどを駆使して「攻めの経営」を常に続けています。

 

www.e-aidem.com

前編に続き、永田さんによる「現代の旅館の経営論」について、より深くお話を伺いました。

 

度重なる苦難を乗り越える、生産性を意識した経営

f:id:ryh0508:20170206150741j:plain

 

―後編では、蘇山郷の経営面について、もう少し深くお聞かせください。

はい。実は僕が高校生でバブル直前だった時期に、旅館業が破綻しかけていたことがありました。バブルの勢いに乗じて、「ツインタワー計画」という計画が動いていたんです。バブルの崩壊によってその計画も破綻し、うちも廃業寸前まで追い込まれました。

 

―なるほど、バブルの影響で……。

バブルが弾けたあとは高い利息だけが残って、僕が旅館に帰ってきたときには、保証協会の代位弁済に頼るところまで追いつめられていたんです。保証協会の債務が根っこに残っていると、他のどこの銀行からも新たな融資をしてもらえなくなってしまいます。

※保証協会:中小企業・小規模事業者の金融円滑化のための公的機関。信用保証を通じて、資金調達をサポートしたり、万が一返済が難しくなった場合に保証協会が代位弁済する。
※代位弁済: 保証協会が借入金を金融機関へ弁済すること。

 

―信用が一度完全になくなってしまうんですね。

どんなに「最先端の経営で実績を出す」という経営計画書を作っても、設備投資ができない。手元資金のキャッシュを作るために支払いのほとんどが手形になります。僕が旅館に帰ってきたときの20年前は、支払いの8割が手形決済でした。

 

―売上の8割!かなり危ない感じに聞こえますが。

売上はそこそこあるのに、いつ飛んでもおかしくない状況です。当時、専務だった僕が一番忘れらないのが、壊れた製氷機を買い直すことさえできなかったこと。

 

―製氷機は大事ですね...…。

20〜30万円のキャッシュさえないんです。1億5千万円ほどの売上のある会社が、20万円の製氷機のリースさえ通らない。「うちはどれだけブラックな企業なんだ...」とそのときにハッと気づいたんです。

そこから3年間かけて、約8,000万円ほどあった手形をほとんどなくしました。現金と手形を追いかけていたこの3年間、僕はほとんど給料はもらえていなかったですね。

こうした対応を行っていきながら、僕が館主を継いだのが7年前。ちょうどリーマンショックの後でした。

 

―うわ、また大変なときだ...…

当時は民主党政権で、モラトリアムの金融支援法案が閣議決定されたんですよね。

その翌朝9時には僕は銀行にいました。僕がその当時の支店長に言ったのは、「月々の返済額は変えない。月100万円ならそのまま100万円返す。その代わり半分を元金に入れて、金利を一度ゼロにしてください」ということ。

「できますよね?だって法律だから」と交渉して、金利をゼロにしてもらった半分を設備投資に回すことにしました。

 

―苦しい状況でも、お客さんを呼ぶための新しい設備投資を考えたんですね。 

その年に露天風呂付きの客室を2つ作り、その部屋をフラッグシップに高単価で売り始めたんです。二年目には8畳の部屋を5部屋改装し、11畳の部屋へ間取りを広げて、単価を上げました。三年目にモラトリアムの出口を模索している最中に、水害が起こったんです。

 

―リーマンショックの次は、自然災害……立て続けに……。

水害があったとき、うちは本当にキャッシュがありませんでした。スタッフと共に片づけをしていて、3日目に言われ、忘れもしないことがあります。

「社長、今やっている仕事は業務ですか、それともボランティアですか?」と尋ねられたんです。ここで、「ボランティアだ」といった瞬間、次の日からは誰も来なくなるでしょう。

 

f:id:ryh0508:20170219234134j:plain

 

―スタッフにも、自分たちの生活がありますからね。

なので、「業務だ」と答えました。そう言った以上は、翌月には必ず給料を払わなければなりません。キャッシュがなければ、宿を開けるしかない

うちは9日間の休業のあと、10日目には開けたんです。内牧では一番最初ですね。被害がひどいので壊すところ、今すぐには直せないところ、復旧させるところを三つに分けて、優先順位をつけることでなんとか間に合わせました。

 

―選択と集中ですね。

なんとかキャッシュが回り始めたので、次は保険の交渉を始めました。ところが、保険会社の査察官が何度来ても決まらない。9月末になっても決まらないので、ある方に相談したんです。

「永田さん困ったことない?」と聞かれたので、「保険が出ないんです」と伝えました。そうしたらその方が保険会社に電話してくださった様で・・・その翌日だったかな?満額振り込まれました(笑)

 

―えー!はやい!

それで建物を壊し始めて、駐車場にすることにしたんです。以前までは玄関の前に縦列駐車をしていました。昔まではお客様の代わりに駐車したり、寒いときには車内を暖めておくことがサービスだと思っていたのですが、今の時代は違いますよね。

 

―たしかに、自分の車を他人が動かすことに抵抗がある人も多そうです。

あとは10部屋を壊して、少しずつ客単価を上げる方向にシフトさせていきました。当時はメインの食事会場がなかったので、全室部屋食でやっていたんです。今考えたらぞっとします。 

 

時代に合わせた、旅館の形

f:id:ryh0508:20170206145943j:plain

僕らが宿泊させていただいた日の献立は「あか牛溶岩焼き会席」でした

 

f:id:ryh0508:20170206150001j:plain

山女の塩焼き。地元産の食材を使い、生産農家の想いを伝える料理にこだわっている

 

―考えてみれば、部屋食は宿の側がめちゃくちゃ大変ですよね。宿泊客の感覚としては、部屋で食べても、会場で食べても感覚的にはそれほど差はないように感じますが。

部屋食は時間も長いですし、一人の係りがみれるのも三部屋くらいが限界です。それならば、一箇所のレストランで食事をしてもらった方が明らかに生産性が高い。それでも部屋で食べたいというお客様や、子連れのお客様にはプライベートルームを確保します。その場合にはホテルのルームサービスと同様に、別途チャージを頂く。

 

―ホテルの手法を温泉宿にも取り入れるということですね。

そうですね。もう一点、うちはずっと「泊食分離」を推奨しています。一泊目は遅くにチェックインしてもらってもいい。2泊目だけはうちで食事をとってもらい、3泊目は自分の好きなものを外に食べに行く。

こうしたスタイルで外国のお客様を迎えたいんです。それによって稼働も上がります。部屋数も30部屋から22部屋へと2/3の規模になったのですが、売上は1.5倍になりました

 

―やっと経営が上向きになってきたように思えます。

それでもビジネスとしては順風満帆というわけでもありません。決算書をみれば一目瞭然ですが、一番大きいのは人件費で、3割ほどを占めます。

食事の原価でプラス2割。そこに水道、光熱費、浴衣、タオル、リネン代、お風呂周りの備品やアメニティーの費用がかかります。

あとは固定資産税や保険なども含めたら1割残らないんですよ。それでも、1割を残さないと元金返済ができなくなってしまいます。

 

―かなり厳しい...。だからこそ先ほどおっしゃっていたように、ホテルのルームチャージ制を取り入れて生産性を上げたり、客単価が上がるようなホテルの構造にシフトさせていったわけなんですね。

今ではビジネスホテルがガンガン増えていて、旅館は20年の間で8万軒から4万軒へ半減しています。その原因として後継者不足はもちろんあるのですが、これまでのように家業で続けることが難しくなっているのです。

 

―昔ながらの家族経営という形から、企業へと変わることも求められる時代ですよね。 

自分でやるのが難しいのであれば売却も一つの道でしょう。もしくは建物と土地の権利を所有したまま、レンタルという道もある。変な話マンションを建てて、家賃収入を得るビジネスモデルと大差ありません。その方が旅館は長続きするのではないかとさえ感じています。

 

―なるほど!時代に合わせて、柔軟に考えることが必要ですね。

 

国外に目を向ければ打ち手も変わる、インバウンドを呼び込むためにできること

f:id:ryh0508:20170206154225p:plain

地震の影響で止まってしまった温泉の泉源をいち早く掘削し、どこよりも早く150m地下より自噴させることに成功

熊本地震により、熊本県は観光をはじめとした経済に大打撃を受けることになりました。そこで昨年7月、政府は「九州ふっこう割」という合計180億円(熊本県への割当は65億円)にのぼる助成制度を創設しました。

永田さん自身も政府への働きかけや陳情、補助金の確保に東奔西走したといいます。その粘り強い交渉の結果、東北での前例がなかったグループ補助金を使った温泉掘削も、特例で認められる措置が取られることになりました。

 

―「ふっこう割」が一つのカンフル剤になったのは間違いないと思うのですが、それがなくなった瞬間に行かなくなってしまう人もいますよね。

僕は基本的に、(復興割は)ドーピングだと思っています。とはいえ、人間で考えても、弱っているときは点滴を打たないと体が持ちませんよね。だから、もとの血流に戻るまでは仕方がない部分もある。

 

―いまの状況は、かなり危機的ですからね。

交通という動脈が寸断されている阿蘇なんかは、平常ではないんです。点滴でもドーピングでもいいから、できることはなんでもやって、とにかく維持する。血が通わなければ死んでしまうじゃないですか。

 

f:id:ryh0508:20170219234342j:plain

f:id:ryh0508:20170219234404j:plain

 

―血が通わなければ死んでしまう、その通りです。

たとえば先ほどルーフトップバーについて話しましたが、万人受けしようと思うならまずはエレベーターを先に作りますよね。

 

―同じ1千万円を投資するなら、エレベーターを作って上の階のお客さんを快適にしようと・・・普通は思うかもしれません。

でも、僕は別の考え方なんです。つまり、エレベーターを作ってもお金は生まない。エレベーターはあって当たり前のもので、エレベーターに乗るのにお金は払ってくれない。それだと次の投資に繋がらないんです。

逆にバーはお金を生むので、そこから新しくエレベーターを作るためのお金が生まれます。

 

f:id:ryh0508:20170206152308j:plain

 

―そうか!順序が違うんですね。

ここにパラソルなんかを置いておけば、長期滞在の外国人のお客さんが日中ここに上がってきて、FacebookやInstagramに上げてくれたりするんです。それをみた他のお客さんが来てくれるサイクルができれば、蘇山郷が高級志向の外国人が泊まる宿というイメージが広がっていきます。

 

―お客さんひとりひとりが、いいイメージを拡散する広告塔になってくれるような仕組みができる……! 

そうなると今度は、蘇山郷の周辺に客単価の高い施設を誘致する話が出てきます。それに付随して既存施設にも補助金の話が出てくれば、うまく活用してエレベーターが作れるかもしれない。

つまり、僕は逆説的な描き方をしているんですよね。

 

―すごい発想ですね……。たしかにこのルーフトップバーはSNSに上げたくなりますよね。トリップアドバイザーやブッキングでも写真映えしそうです。

かかるお金が一緒だとしても、エレベーターの写真なんか誰でも撮らないですよね。日本国内だけでみたら高齢者が増えているので、エレベーターの優先順位が上がりそうですが、インバウンドでみると視点が変わってくるんです。

 

まとめ

f:id:ryh0508:20170219233940j:plain

永田さんのアツい眼差しと共に語られる力強い言葉には、旅館ビジネスに限らず、これからの地方や観光を考えていくためのヒントがたくさん詰まっています。

「蘇る阿蘇の山々と故郷」に由来する、蘇山郷。熊本地震が発生してから、まだ1年も経っていません。未だに復旧の目処が立たない仲間のために、今の僕ができることは「先に進み道筋を照らすこと」だと永田さんは語ります。

 

数々の災難により経営破綻の寸前まで追い込まれながらも、決して音を上げることはない。僕と柿次郎編集長の二人にとって、最も印象的だった言葉は「復旧と復興は違う」でした。ピンチのときこそ元の100%に戻そうとするのではなく、120%の世界を見据えて取り組む。エレベーターではなく、ルーフトップバーを作る。

普通ならば心が折れかけてもおかしくない状況でも、高い視座を保って、リーダーシップを発揮し続ける永田さんの姿勢に湯守としての矜持をみたのでした。

 

書いた人:長谷川リョー

f:id:ryh0508:20170117171144j:plain

編集者。『SENSORS』シニアエディター。リクルートホールディングスを経て、独立。修士(学際情報学)。将来の夢は馬主になることです。メール:ry.h0508アットgmail.com、Twitter ID:@ryh


東京観光で絶対行くべき最強のものまねショーレストラン「そっくり館キサラ」の世界

$
0
0

はじめに

f:id:chicchi0411:20170306111345j:plain

 

こんにちは、ビックロの店長っぽい風格を漂わす、バーグハンバーグバーグのまきのです。めちゃめちゃな髪型でお騒がせしております。

 

本日は新宿という愛憎渦巻く欲望の街に来ています。そしてこの新宿にある「名前は聞いたことあるけど入ったことなかったな〜」というお店に先日いってみたら非常に感動いたしましたので共有したいと思います。

 

その場所が「そっくり館キサラ」です。

 

 

f:id:chicchi0411:20170306112523j:plain

※サイトキャプチャ

そっくり館キサラ

住所:東京都新宿区新宿3-17-1 いさみやビル8F

システム

第1部:18:00~20:30
料金:お一人様5,500円(税込)
時間:18:00~20:30(ショーは19:30~60分)
内容:ショー + ビュッフェ食べ放題+飲み放題

第2部:21:00~23:00
料金:お一人様4,000円(税込)
時間:21:00~23:00(ショーは21:30~60分)
内容:ショー + 飲み放題

 

 

正直に言いますとそれまでは「モノマネタレントが出るお店でしょ…?」みたいな感じであんまり乗り気ではなかったのですが、一度行ったらもうその世界にドップリとハマることは必至。その後は常にサイトの出演予定表を眺めて想像を巡らす日々。

 

果たして何がそこまで良いのか?キサラがすごい理由を書いてみます。

 

 

 

 

 

キサラのここがすごい1:入店の時点で「始まっている」

f:id:chicchi0411:20170306113741j:plain

 

キサラは18:00〜20:30の第一部、21:00〜23:00の第二部の二部制になっており、事前に席を予約しておくことを推奨としています。

 

 

 

f:id:chicchi0411:20170306125204j:plain

 

そして入り口で予約名を確認して席に案内してくれるのですが、この時点ですでに始まっているのです。場を盛り上げる重要な役目を中心となって担っているのがこちらの店長。彼のトーク力、お客いじり力、盛り上げ力は本当に目を見張るものがあります。

 

例えばスーツの男性4〜5人で来店したとすると「石原軍団の皆様ご来店です!」

男性3・女性1で来店すると「レベッカの皆様ご来店です!」

 

と言った風に、店長が来店時の男女比・人数構成で瞬間的に音楽グループやお笑いユニットに当てはめてくれるのです。全てのお客さんをそうやって例えて時にいじってくれるので、この時点で楽しくなることは請け合い。

 

 

 

f:id:chicchi0411:20170307132205j:plain

 

見た目に特徴のある私などは髪型だけで入店時と退店時に「ラーメン大好き…?」と店長さんがいじってくれました(「小池さんじゃないです!」と返す)。

 

そんな感じで席につくと、第一部ではディナービュッフェで腹ごしらえができます。ショーが始まるまで好きなだけ食いまくりましょう。

 

 

f:id:chicchi0411:20170306123602j:plain

 

腕に自信のあるシェフを雇って作った料理はどれもうま〜〜い、です

 

 

 

 

 

キサラのここがすごい2:ショー自体は「全然始まらない」

f:id:chicchi0411:20170306124358j:plain

 

ビュッフェで取った料理を食べている間、お客さんによってはステージに上がって写真を撮ることが可能です。入店時の呼び込みをしてくれた店長がこちらも先導してくれるんですが、「それではそっくり館なので、西部警察っぽく銃を構えたポーズにしましょう!」とか「男女向かい合ってイエス、フォーリンラブ!で撮りましょう!」という感じで様々なポーズを指定してくれます。

 

そして先ほども述べたように店長が永遠にくだらない冗談を言いながらお客さんをいじってくれるのでそれを見るだけでも楽しい空間になっています。写真を撮る時も「私、写真係として就職してますので」「iPhoneは11まで使えます」みたいな冗談を言い続ける「愛すべきくだらなさ」がキサラを包み込みます。

 

 

 

f:id:chicchi0411:20170306123026j:plain

 

ある程度時間が経つといよいよショーが始まる…?と思いきや、前説のような役割のMCが登場。改めてキサラのシステムや決まりごとなどを説明してくれます。

 

そして乾杯〜!という流れになるのですが、ここで店長が叫び声をあげます。

 

「ちょっと待って下さい!あなた…2017年の『ミス乾杯ガール』に選ばれた方ですよね!?!?」

 

そうしてステージに上げられたのは完全に普通の女性なのですが、毎回一人「乾杯ガール」として祭り上げてくれるようです。

 

 

f:id:chicchi0411:20170306130053j:plain

 

そして乾杯ガールの神聖な音頭で乾杯!店長やMCもノリノリで乾杯。最早この勢いは誰にも止められません。

 

そしてこの辺りで「一体いつ本番のショーが始まるんだ!」と思ったりもするのですが、本番のものまねショーに入るまでの事前のやりとりや前説、お客さんとのコミュニケーションも全て含めて「キサラのパッケージ」なのです。

 

確かにキサラに入店してから一度たりとも退屈に感じたことはありませんでした。ステータスの「エンタメ」のパラメータに全振りした人々によるプロの盛り上げ術、文字だけで100%伝えるのは不可能なので是非その目で確かめていただきたいと思います(かなり端折ってますが、実際はこの300倍はくだらない冗談やノリを言い続けてます)

 

 

 

 

 

キサラのここがすごい3:ものまねショーはマジで最高

f:id:chicchi0411:20170306153257j:plain

 

そんな感じでようやくショーがスタート。本日は「DREAM4 スペシャルライブ」ということで、本来なら大トリを務めるような方が4組共演する良き日でした。

トップバッターはダブルネームのご両人。ケミストリー、湘南乃風、コブクロなどの分かりやすい歌ネタから、「ちびまる子ちゃん」のキャラ複数を一人でこなす声マネなど手広くこなす技巧派です。

 

 

 

f:id:chicchi0411:20170306155054j:plain

 

コブクロの身長差を出すためにビールケースを用意するという小ネタでしっかり笑いも取ります。

 

 

 

f:id:chicchi0411:20170306155200j:plain

 

二番手は90年代のJ-POP歌マネの翔子さん。大黒摩季、中島美嘉、ユーミン、篠原涼子、森高千里など、誰もが知っている名曲メドレー。普段聞かない懐かしい曲をめっちゃ歌ってくれるので改めて「J-POP良すぎ〜〜〜〜〜〜〜!!!」という気分にさせてくれるのもキサラの魅力。

 

 

f:id:chicchi0411:20170306170933j:plain

 

大黒摩季の「熱くなれ」はいつ聞いても最高にアガりますね。

 

 

 

f:id:chicchi0411:20170306155619j:plain

 

三番手はこの道20年のベテラン、亘哲兵さん。いきなりパク・ヒョンビンの「シャバンシャバン」という知ってる人の方が少ない韓国語の歌マネから入るあまり、観客の頭に浮かぶ「?」が実際に見えます。最早似ているかどうかが分からないのですが「ただ歌いたいから歌う」という尖った姿勢とフニャフニャした韓国語の響きと勢いには笑わざるを得ません。

 

 

f:id:chicchi0411:20170306160123j:plain

 

そして西城秀樹、前田吟などのものまねと漫談を挟んで、「本人より歌っている」と豪語するトシちゃんの「抱きしめてtonight」のものまねメドレーは圧巻。48歳とは思えない足の上がり方です。

 

 

 

f:id:chicchi0411:20170306160407j:plain

 

大トリを務めるのは電車ものまねの立川真司さん。構内アナウンス、警笛、車輪の音、冷却装置の音など、電車にまつわる全ての声・音を網羅するものまねは達人の域を超えた名人芸。構内アナウンスのマネを極め過ぎてJRの駅員に発声方法の講演を定期的に行うという逆転現象を起こしたり、「電車でGO!」の全シリーズの構内アナウンスの役を務めたり…といった、いわば究極の電車ものまね師です。

 

 

f:id:chicchi0411:20170306160858j:plain

 

電車ものまねも去ることながら注目すべきはその「催眠術のようなトーク力」。

 

「私の声を聞いたあとあなたは電車にのって帰るだろう。そしてそれまでは一切気にも留めていなかった構内アナウンスや発車ベル。それらを聞いただけで、あなた達全員は今後ずっとこの黄色いおじさんの顔が思い浮かんでくるだろう…」

 

と言った風に、淡々とした話術で観客の心をつかみながらものまねを披露していました。私はこの時初めて立川さんの話芸を見たのですが、ちょっと感動するレベルで笑ってしまいました。一度は生で体感するべき至高の芸ですよ…。

 

 

 

f:id:chicchi0411:20170306161531j:plain

 

と言った感じで「誰でも知ってる歌マネ」、「昔を思い出す懐かしい歌マネ」、「勢いで押してくるものまね芸」、「究極の話芸」という非常にバランスの取れた最高のステージが終わりました。

 

この楽しさの裏側に迫りたくなったので、店長さんに色々お話をうかがってきました。

 

 

 

店長の川倉さんに話を聞こう

f:id:chicchi0411:20170306170215j:plain

 

こちらがショー前に盛り上げまくってくれたキサラ店長川倉正一さん。優しそうなおじさんですね。早速お話をうかがいたいと思います。

 

 

f:id:chicchi0411:20170306172628p:plain「先ほどはお疲れ様でした!めちゃめちゃ楽しかったです!過去に二度来ているのですが、何回行っても『また行きたい!』って思えるのは最高ですね」

f:id:chicchi0411:20170306172638p:plain「ありがとうございます。光栄です」

f:id:chicchi0411:20170306172628p:plain「ショー開始前のマイクパフォーマンスはどういう経緯で始めたんですか?」

f:id:chicchi0411:20170306172638p:plain「私の前の店長がとても真面目だったんですよ。ショーパブだし真面目な方がいいかなと思ってたのですが、売上がちょっと下降した時に社内の空気的に『真面目過ぎね?』ってなったんです」

f:id:chicchi0411:20170306172628p:plain「当初は落ち着いた雰囲気だったんですね」

f:id:chicchi0411:20170306172638p:plain「ですね。それで真面目過ぎるかも、ということでもうお店に入った瞬間からその世界観に浸れるように工夫してみようって話になったんです」

f:id:chicchi0411:20170306172628p:plain「なるほど」

f:id:chicchi0411:20170306172638p:plain「とはいってもどうしたらいいのかな〜って思ってた時に、ご高齢の女性の団体が来たんです。そこでちょっと踏み込んでみようと思って『AKB48の皆様ご来店です!』って言ったのが最初ですね。4〜5年ぐらい前かな。それがウケたもんだからちょっとずつそういう呼び込みをやっていこうと」

f:id:chicchi0411:20170306172628p:plain「それが今こうして全員をいじる形になったんですね…」

f:id:chicchi0411:20170306172638p:plain「でも地声で叫んでたらポリープできて声が枯れちゃったんですよ。で、マイクつけてやってたんですが、そうするとどんな声も響いてしまうじゃないですか。なので下手なことは言えないので、パフォーマンスも兼ねていこうと」

f:id:chicchi0411:20170306172628p:plain「あの空気作りがすごくしっかりしているのですごく楽しい気分になっちゃいます!」

f:id:chicchi0411:20170306172638p:plain「ですね。そんな感じで『みんなでふざけあう』『真剣にじゃれ合う』っていうことをやっていけばお店の雰囲気も良くなるんじゃないかなと思います」

f:id:chicchi0411:20170306172628p:plain「良いですね〜。あの例えって何パターンあるんですか?」

f:id:chicchi0411:20170306172638p:plain「いや〜自分でも分からないです(笑)。しかも浅いですしね!」

f:id:chicchi0411:20170306172628p:plain「いやいやでもあの楽しさは体験しないと分からないですね」

f:id:chicchi0411:20170306172638p:plain「そう言ってくれるとすごく嬉しいです。でも女性グループがたくさん来ると困りますね。おニャン子、AKB、モー娘。、タカラジェンヌ…それ以上来たらどうしようって感じですね。誰でも知ってるような人に例えないと」

f:id:chicchi0411:20170306172628p:plain「わかりにくい人で例えて『??』ってなっちゃうと変な空気になりますしね」

f:id:chicchi0411:20170306172638p:plain「そうですね。あとはフォローもいれつつ絶対に嫌な気分にはさせないように心がけてます

f:id:chicchi0411:20170306172628p:plain「完全に別世界に来てしまった錯覚すらあるので、多少踏み込んでも笑って許してくれそうですね」

f:id:chicchi0411:20170306172638p:plain「そっくり館なんで『そういう風に見るのね』と思ってもらえればありがたいです」

 

 

f:id:chicchi0411:20170307104640j:plain

 

 

f:id:chicchi0411:20170306172628p:plain「店長さんはもともとどういった経緯でここに?」

f:id:chicchi0411:20170306172638p:plain「私はもともと役者やってたんですよ。で、ここキサラが私の集大成みたいなところはありますね」

f:id:chicchi0411:20170306172628p:plain「おお」

f:id:chicchi0411:20170306172638p:plain「20代は旅劇団に入って全国回って過疎化した村に芝居しにいって活性化させる…みたいなことやってました」

f:id:chicchi0411:20170306172628p:plain「へ〜すごいカッコイイですね」

 f:id:chicchi0411:20170306172638p:plain「年配の人と仲良くやれてるので続けてましたね。30代はドラマにも結構出させてもらえて。有名どころでいうと『さわやか三組』で教師役やったり

f:id:chicchi0411:20170306172628p:plain「え!そうなんですか」

f:id:chicchi0411:20170306172638p:plain「将来、教師になるか役者になるか悩んでた時期があったんですけど、役者をやればいつか教師役になれる…と思ってたので、そこで夢は叶いましたね(笑)」

f:id:chicchi0411:20170306172628p:plain「あ、そういう意味で…(笑)」

f:id:chicchi0411:20170306172638p:plain「で、そこそこ売れてる役者同士で集まって飲み歩いたりしてるうちに『お笑いやってみない?』って話になって、サイレント芸のネタをやるユニット組みました。それが結構ウケて地方のショーパブでトリを務めるぐらいになったんですよ」

f:id:chicchi0411:20170306172628p:plain「何でもそつなくこなしますね…」

f:id:chicchi0411:20170306172638p:plain「その後キサラでオーディションしたら当時の社長が気に入ってくれたんですけど『ものまねとぶつかってしまう』ということでまた別のお店に出してくれるようになって。そっちは閉店しちゃったもののそのまま社長に声かけてもらって、今に至る…みたいな感じですかね」

f:id:chicchi0411:20170306172628p:plain「店長さん自身もネタをやってたりしてるんですねえ」

f:id:chicchi0411:20170306172638p:plain「そうなんです。『鮪男(まぐを)』っていう名義で。R-1グランプリとかにも準決勝まで行ったり、レッドカーペットにも出してもらいましたよ」

f:id:chicchi0411:20170306172628p:plain「え!そうなんですか!結構見てたけど…!どういうタイプのネタをやられてるんですか?」

f:id:chicchi0411:20170306172638p:plain「ものまねもやりつつ、結構真逆でシュールなことをやったりしてますね…キサラでやってることは誰もが笑えるものを目指してますけど、個人的なネタはマイノリティな感じのが結構好きなんですよ

f:id:chicchi0411:20170306172628p:plain「またあとで調べてみます!意外とシュールなネタもやるんですね」

f:id:chicchi0411:20170306172638p:plain「そうなんです。でもキサラ的には皆が楽しめるものを目指しているので、最新のお笑い事情はここで教えてもらうことは多々ありますね」

 

 

f:id:chicchi0411:20170307112029j:plain

 

 

f:id:chicchi0411:20170306172628p:plain「日々のショーの内容はどのように作られてるんですか?」

f:id:chicchi0411:20170306172638p:plain「基本的には演者の方にお任せしていますが、新人さんには『一緒に作り上げていきましょう』というスタンスでアドバイスは出したりしていますね。ステージに上がるまではお手伝いするけど、そこから先はあなたの仕事だぞ、と」

f:id:chicchi0411:20170306172628p:plain「確かに演者が舞台に立ってからはあまりタッチしないですもんね、みんなキャラが強いから」

f:id:chicchi0411:20170306172638p:plain「演者次第なところはありますね」

f:id:chicchi0411:20170306172628p:plain「以前見た中ですごく感心したのが、西野カナの歌まねをする のゆんさんのネタでした」

f:id:chicchi0411:20170306172638p:plain「お、あれですか」

f:id:chicchi0411:20170306172628p:plain「西野カナの歌まねって正直言うと分からない曲もあったんですが、やっぱり『観客のおじさんを無理矢理壇上に上げる』ってのがすごく良かったです。そうすることで『おじさんが西野カナの曲を聞いてる状況』と、上げられたおじさんの身内は『あいつ何やってんだよ感』が出て笑いが生まれて曲を知らなくても全員が楽しめたんですよね。あれは発明だったな〜」

 

 

f:id:chicchi0411:20170307123412j:plain

この時同僚の永田が舞台に上げられ、クマのぬいぐるみを持たされるなどした

 

 

f:id:chicchi0411:20170306172638p:plain「あれは私が考案したんです。分かってもらえて嬉しいな…。おっしゃる通りでその『おじさんの目の前で西野カナメドレーやったら面白いだろうな』っていう思いがあったので」

f:id:chicchi0411:20170306172628p:plain「あれは最高でした。そんな感じで盛り上げて楽しませることってかなり特殊なことだと思うんですが、何か心がけていることってありますか?僕なんかはけっこう苦手で」

f:id:chicchi0411:20170306172638p:plain「私も奥手ですよ。例えばこのあと二人きりで電車に乗って帰るとなると、めちゃめちゃ湿っぽくなると思います」

f:id:chicchi0411:20170306172628p:plain「え、そうなんですか!?」

f:id:chicchi0411:20170306172638p:plain「そういう状況で全くしゃべれなくなるか、自分を隠して別のキャラでいて間をもたせるか…と考えたら、後者になると思います。誰とでも気さくに…とかは自分の性格だとちょっと難しいかもしれません。やはり仕事の時にガツンと切り替わる感じで」

f:id:chicchi0411:20170306172628p:plain「あ〜でもお笑いに身を置く人だと結構そういう人多いかもしれませんね。モチベーションの維持なんかは何かやってたりするんですか?」

f:id:chicchi0411:20170306172638p:plain「う〜ん、毎日やってるから最早自動的にこうなっちゃってますね。感覚が麻痺してるのかもしれません

f:id:chicchi0411:20170306172628p:plain「何度か見させてもらって、ずっとこのテンションで毎日やるって凄すぎるな…と思ってたんですが、やっぱりそうなっちゃいますか」

f:id:chicchi0411:20170306172638p:plain「どんな気分でも切り替わってやっちゃいますね。以前兄が亡くなって悲しかったんですが、その二日後ぐらいには普通に戻ってやってましたから。お客様にしてみたらこっちの事情は分からないですからね!」

f:id:chicchi0411:20170306172628p:plain「『喪中なので暗くなっちゃいますが…』なんて言えないですからね」

f:id:chicchi0411:20170306172638p:plainそう考えるとやっぱりどこかイカレてるのかもしれませんね(笑)

 f:id:chicchi0411:20170306172628p:plain「いや〜、本当にスゴイことだと思います。初めての人こそ足を運んでもらいたいですね!」

f:id:chicchi0411:20170306172638p:plain「これからも来てくれたお客様が全員笑顔になってくれると嬉しいですね。これからも頑張ります!」

 

 

 

おわりに

f:id:chicchi0411:20170307124649j:plain

 

そんな感じでここではこの辺りで!キサラの魅力はやっぱり「実際に体験してこそ楽しめるサイコーに楽しい空間」であることに尽きると思います。何回行っても本当に楽しいそっくり館キサラ、皆様も是非足を運んでみてはいかがでしょうか。

 

それではさようなら。

 

 

 

書いた人:まきのゆうき

f:id:chicchi0411:20170307125116j:plain

株式会社バーグハンバーグバーグで働く人。姉妹メディア「オモコロ」で開設当初から「うさねこ」という4コマ漫画を連載中。「演技が終わった瞬間のフィギュアスケーターの荒い呼吸」ぐらいしかものまねのレパートリーがない。Twitterアカウント→@yuuki

3.11東日本大震災を振り返るべく「津波の語り部」に会ってきた

$
0
0

f:id:eaidem:20170302022250j:plain

2017年3月11日。あの東日本大震災から6年が経過しました。

当時、僕は勤めていた東京の会社で普通に仕事をしていて、突然の揺れを感じて外へ飛び出しました。「ガシャンッガシャンッ」と建物のシャッターが大きな音を立て、街全体が悲鳴をあげているようでした。

ただごとではない大地震…。

阪神・淡路大震災を間接的に経験していたこともあり、すぐにその場を去って自宅を目指しました。徒歩30分の距離をあれほど心強く感じたことはありません。その後、友人数人を自宅に囲って、テレビのニュース番組にかじりつきました。時に余震で大きく揺れて、不安気な声を漏らす。

「まじかよ・・・」

ただ現地の状況と比べたら雲泥の差。目の前にはおぞましい津波の映像が流れていました。現実とは思えない光景。東日本中心に広がる不安感。6年前のこととはいえ、いまだ脳裏に焼き付いています。

 

f:id:eaidem:20170302022534j:plain

今日のジモコロは、自分なりに東日本大震災を消化するための記事をお届けします。当時何もできなかった歯痒さはもちろん、時間が経ってでも現場の空気感と語り部の声に触れたいと思ったからです。

何がどう解決するわけではないんですが、やはり「現地に行くこと」は大きな意味を持ちますし、「知ろうとすること」を伝えられたらと未熟なりに考えてみました。

 

防災の町 岩手県宮古市 田老地区へ

f:id:eaidem:20170302022735j:plain

東日本大震災の延長で訪れたことのある土地は、福島県南相馬市だけでした。すでに瓦礫は片付けられていたものの、避難指示が出されているエリアは人の気配が一切なく、文字通りのゴーストタウン…。

海が見えない土地を車で走っていたときに「ここも津波被害がひどかったんです」と言われて、「え、こんなところにまで!?」と驚きました。海から数キロ離れていたので、その距離感にピンとこなかったんです。

 

詳しくはこちらの記事でどうぞ。

 

f:id:eaidem:20170302023600j:plain

今回、訪れたのは岩手県宮古市の田老地区。

 

防災の町として知られていたんですが、その理由は歴史上何度も大津波の被害が出ている土地だからです。「津波太郎(田老)」という異名があるほどで、1611年の慶長三陸地震、1896年の明治三陸地震、1933年の昭和三陸地震など、それぞれ壊滅的な被害を受けています。

 

f:id:kakijiro:20170306061649p:plain

そういった歴史があるため、田老地区では1979年に世界一の防潮堤を作り上げました。長さ2433メートル、高さ10メートル。X字型の巨大な防潮堤は「万里の長城」と言われるほど。総工費約50億円。45年の歳月をかけて作り上げたんですが…

 

f:id:eaidem:20170302023957j:plain

東日本大震災の津波でいとも簡単に飲み込まれてしまいました。

 

f:id:eaidem:20170302030126j:plain

現地の語り部として活動している宮古観光文化交流協会の学ぶ防災ガイド・小幡実さんに解説をしてもらったんですが、それまでテレビやネットの記事で認識していた情報との差に正直愕然としました。

センセーショナルな映像ばかりが頭に流れ込んで来ていて、細かいディテールに思考が向いていなかった。もしかしたら「知ること」への恐怖心がそうさせていたのかもしれません。 

 

 

f:id:eaidem:20170302030138j:plain

季節は11月末。沿岸部の凍てつくような海風が身体の体温をグングンと奪っていきます。シリアスな話を聞くにつれて、僕自身の表情もこれまでと全然変わったものに…。

 

f:id:kakijiro:20170306031829p:plain

小幡さんはパンフレット片手に慣れた口調で話し始めました。

 

小幡さん:赤い線が第一防潮堤です。昭和8年の津波の後、関東大震災の復興に加わった技師二人をわざわざ田老に移り住んでもらい作ってもらいました。両脇をコンクリートで固めて頑丈に作ったそうです。

 

今回の大津波で一番損傷がなかったのが、この第一防潮堤。高波対策で作られた第二防潮堤(青線)は巨大なエネルギーの前に破壊されて、第三防潮堤(黄色線)はなんとか原型を留めていました。

 

この3つの防潮堤を合わせたのが、世界一と言われたX型の防潮堤です。俯瞰して地図を見るとよくわかります。津波のエネルギーを左右に分けて散らし、その間に避難する時間を作ろう。そういう理屈で作られたX型の防潮堤だったそうです。

 

小幡さん:地震から約37分後、3mぐらいの津波が岸壁を少しかぶるぐらいでやってきた。誰もがこれまでの津波同様に引いて終わると思ってたんですね。

 

次は5分後に太平洋全体が10mぐらいバーンとせり上がったような勢いで第三防潮堤へ。跳ね返った波が第二防潮堤を襲いました。

 

そのあとに第3波がすぐ追いつく感じでやってきて湾全体が16mぐらいまで盛り上がり、第一防潮堤をも乗り越えてたった4分の間に町は飲み込まれてしまったんです

 

f:id:kakijiro:20170311000314j:plain

たった4分の出来事。寒空の下、小幡さんは矢継ぎ早に言葉を続けます。まずは町の避難状況について。

 

小幡さん:第一防潮堤の内側に田老第一中学校があって、校庭に300人ぐらいが避難していました。ただ、10mの防潮堤で津波の第一波は見えなかったそうです。

 

しかし、第二波は岸壁にぶつかったこともあり、35mぐらいの波しぶきがあがった。その様子は見えた。

 

その後すぐに津波がグッと入ってきたから、『つなみてんでんこ』で裏山に逃げた。そしたらば案の定、地震から45分後に16mの津波が第一防潮堤を乗り越えて、校舎一階まで入ってきました。とっさの判断が功を奏して、生徒たちは全員無事だったんです。

 

 

f:id:kakijiro:20170306035527p:plain

東日本大震災の後、この「つなみてんでんこ」のおかげで多くの命が助かったと報じられています。小幡さんも「過去の津波で親が子どもを、子どもが親を助けようとして一家全滅した悲劇が多かった。そんな悲しいことはないから、何とか防ぐために生まれた言葉です」と語っています。

 

 

f:id:kakijiro:20170306040129j:plain

小幡さん自身、親戚のおばあさん、兄嫁、孫の3人が津波にのまれてしまったそうです。当事者だからこそ伝えられる重い言葉。当時の心境についても語ってくれました。

 

小幡さん:私は、たろう観光ホテルの近くで40〜50人が泊まれるような民宿をやっていました。大きな地震の後、テレビの方が確かだと思って点けようとしたら停電でダメだった。

 

モノも何も落ちてこなかったけど、大地の底からググっとくるおっかない感じがあって、近くの高台の駐車場まで逃げました。ただ過去に田老を襲った津波は約40分後くらいに来てるんです。

 

避難してから10分ぐらい経ってくると不思議なもんで少し余裕が出てくる。大事なモンを家に忘れて来てる気がするんですね。私も一度家に戻ろうとしたことをハッキリと覚えています。ただ、何かの勘で踏みとどまった。そこで助かった。

 

地震直後、停電の影響もあって町のサイレンは鳴らなかったそうです。とにかく静かだったと。過去何度も3mの津波程度で落ち着いた経験が町に浸透していて、「今回もきっと大丈夫だろう」と判断した人が少なくなかったようです。

 

小幡さん:今まで78年間、津波が来るぞ来るぞと言ってこなかった。いつもと同じだと判断して家に残った人、一度は避難したものの家に戻ってしまった人、そういった人が地震から45分後の津波であっという間に飲み込まれてしまったんですよ。

 

例えば、先祖の位牌を取りに帰る。大事だからね。すると人間というのは次から次に『あれも持っていこう』と欲が出てしまう。その点でいえば事の大きさを伝えるテレビが点かなかったのは大きいかもしれないね…。町には44箇所も避難場所が用意されているから、地震の後にすぐ山の方に向かって逃げれば助かったんだよ。判断ミスは怖いね。

 

防災の町として準備はできていた。ただ一瞬の判断ミスで生死を分けてしまう。 6年経った今も、小幡さんの言葉の端々に悔しさが残っているようでした。

 

 

f:id:eaidem:20170302030633j:plain

次に案内されたのは製氷貯氷施設という見慣れない建物。

 

よく見ると… 

 

f:id:eaidem:20170302030833j:plain

昭和=10メートル、明治=15メートル、平成=17.3メートルと書かれた目印が。

あの高さまで津波が押し寄せたなんて…。写真で伝わるでしょうか。

 

 

f:id:eaidem:20170302031226j:plain

被害状況について書かれた「災害復旧事業概要」の情報を引用します。

 

H23.3.11 東日本大震災に伴う大津波は、二重防潮堤(標高10.0m)を越え、背後地は堤防高まで湛水し甚大な被害をもたらしました。津波痕跡で最大痕跡高 標高16.3m(岩手県調査)、地震による地盤沈下は約70cmであったことが確認されました。

 

f:id:eaidem:20170302032556j:plain

一体どれほどのエネルギーがこの土地を襲ったかというと、地殻変動によって震災前から東南の方向へ2.18m移動し、0.31m地盤沈下したそうです。

 

f:id:eaidem:20170302031820j:plain

大陸自体が震源地の海側にググっと引き寄せられたような図が…。ちなみに移動量の最大は、宮城県牡鹿半島地区。東南東の方向に5.30m移動し、1.14mの沈下が観測されたそうです。

 

f:id:eaidem:20170302032614j:plain

これが…

 

f:id:eaidem:20170302032619j:plain

こうですからね。意味わかんないレベルの地殻変動だ…。

 

津波遺構「たろう観光ホテル」の爪痕

f:id:eaidem:20170302033228j:plain

続いて案内されたのは津波遺構「たろう観光ホテル」。高さ17メートルを超える大津波を受けて4階まで浸水し、1、2階部分は柱だけを残してゴボッと流失しました。目に飛び込んできた瞬間のインパクトがすさまじい建物です。

 

f:id:eaidem:20170302033639j:plain

被災地では被害のあった建物はほぼ取り壊してるんですが、この「たろう観光ホテル」は防災意識向上のために保全し、綺麗に残されています。

 

被害を受けた建物の取り壊しが進む中、宮古市は甚大な震災の記憶を風化させることなく、後世に伝えるための「津波遺構」として保存することを決定しました。

 

2014年(平成26)3月に宮古市が取得、2016年(平成28)3月までに被災した「ありのままの姿を残すこと」を目的とした保存整備工事を終えました。

 

今後は、訪れる人々に津波の恐ろしさを伝え、訪れる人々の防災意識を高めることにより、震災による被害が繰り返されないことへと繋がるよう、現在の姿のまま保存していきます。

 

f:id:eaidem:20170302034130j:plain

 

f:id:eaidem:20170302034049j:plain

 

f:id:eaidem:20170302034115j:plain

ちなみに現地では「学ぶ防災ガイド」として、防潮堤→たろう観光ホテルの順で解説してもらえるガイドコース(1時間=4000円)に申し込み可能。

※ガイド1人につき復興支援協力金4000円を募る。協力金は全額、市に寄付される。

 

●「学ぶ防災」ガイドのお申込み・お問い合わせ

宮古観光文化交流協会 学ぶ防災
受付時間 9:00~18:00 / TEL:0193-77-3305  

 

f:id:eaidem:20170302034729j:plain

参加者のみ、たろう観光ホテル内に入ることができて、無事だった6階の部屋でマスコミ未公開のDVDを観ることができます。これがまたすごいんです…。

 

f:id:eaidem:20170302034821j:plain

※写真使用の許可をもらっています 

2011年3月11日。たろう観光ホテルのオーナーは地震直後、6階のこの部屋にいたそうです。騒然とする町。「この高さなら大丈夫だ…」とビデオカメラを構えて、窓から町の様子を撮影していました。きっと津波が来るであろう、と。

大きな黒いうねりとなった津波が遠くから押し寄せてきます。その規模は想像以上。目線の下には逃げ遅れた車や、一度家に戻ろうとする人の姿が見えてオーナーは必死に「津波が来たよー!逃げてー!早く逃げないとー!」と何度も叫びましたが…たった4分で町をどんどん飲み込んでいきました。

 

 

f:id:eaidem:20170302040420j:plain

次の瞬間、映像は反転。オーナーのいたホテルに津波が直撃したのです。起き上がって再びカメラを構え、窓の外を見てみると6階部分ギリギリまで津波が押し寄せていて、海が17メートルせり上がったような景色が広がっていました。左右の引き波が大量の瓦礫と共にゆっくり動いているだけの光景。防潮堤を越えたたった4分の出来事でした。

 

 

・・・

 

・・・

 

 

 

f:id:eaidem:20170302040457j:plain

撮影していた場所で、その映像を観る。こんなにも怖い疑似体験は初めてです。

マスコミ未公開の意味も、この映像の生々しさを観れば分かると思います。とにかく巨大な津波が町を襲うスピードが早すぎる。そして建物に津波のエネルギーがぶつかったときの衝撃。オーナーの声。起き上がったら一面が瓦礫まみれの海に切り替わっている意味のわからなさ。大津波、怖すぎるだろ…。

 

 

f:id:eaidem:20170302040740j:plain

小幡さんは「最後に」と前置きした上で、言葉を選びながら話し始めました。

 

小幡さん:もし田老で防潮堤をつくっていなければどうなっていたのか? その世界を想像してみたいと思います。

 

あれだけの大きな地震ですんで、いかに津波に慣れた図太い田老の人でも、10mの防潮堤が視界を遮っていなければすぐに逃げたでしょう。もし防潮堤がなかったら…エネルギーは分散されずに今回助かった小学校やお寺、役場にまで津波が押し寄せていたかもしれない。

 

結果、ハッキリ言えることは防潮堤がなかったら全滅だったということです。

 

本当はあんなコンクリートの壁なんてない方がいい。海が見えた方が精神的には絶対良いわけですから。

 

だけど田老は過去の津波の経験で、あの防潮堤を作るしかなかった。あったがゆえに大勢の命が助かった。

 

先人の知恵を積み重ねた防潮堤は、充分に役割を果たしたんじゃないかな、というのが田老町の考えであり結論です。

 

もしもっと被害が大きかったら、今のような復興の姿はなかったかもしれません。

 

私自身でいえば、津波の宿命の町に生まれ育った、そういう諦めの悟りを今回の津波で学びました。

 

 

 

まとめ

f:id:eaidem:20170302040901j:plain

正直、今回の取材で何度か言葉を失う瞬間がありました。自分の目で見た景色と自分の耳で聞いた言葉の数々は、それまで触れてきた情報とは質感が違う…。それも語り部の小幡さんだけでなく、この土地に住む一人ひとりが当時の壮絶な体験を抱えている。そんな当たり前の事実を目の当たりして、たじろいでしまったのかもしれません。

当初はジモコロとして、メディアとして…なんて大義的なことを考えていましたが、今となっては「ああしろこうしろ」という気は一切なく。ただ単純に「現地に赴いてしっかり話を聞いて良かったな」と思っています。

そもそもの前提として、いつ自分や家族に災害が襲いかかるかもしれない。日本で暮らしている以上その可能性からは避けられません。その環境下で、小幡さんに津波の恐ろしさや災害時の心構えを教えてもらったことはかけがえのない経験になりました。

 

 

f:id:kakijiro:20170306050832j:plain

ちなみに今回宿泊でお世話になった「浄土ヶ浜旅館」は、朝食とは思えないくらい豪華な激ウマ料理が出てくるし、女将さんの笑顔満点なおもてなしに癒されること間違いなし。ホテル選びに困ったら候補のひとつにぜひ!

 

f:id:kakijiro:20170306051100j:plain

さらにフラっと夜中に入った宮古市の寿司屋「大寿司」は、人生トップレベルの寿司体験でした。職人技術を惜しまず使った寿司がこんなに美味いなんて…。たぶん東京だったら1万円以上しそうなのに、お会計をしたら1人3000円ぐらいでした。

 

どうなってんだ!

この寿司のためだけにもう一度宮古市に行きたい!!

 

というわけで岩手県含め東北の復興はまだまだこれからです。一度は岩手県宮古市を訪れてみてはいかがでしょうか。次は釜石市、遠野市、平泉町あたりもまわりたいな。

 

最後に…

 

●チャリティーソングを買って応援!

ジモコロ熊本復興ツアーでもお世話になったミュージシャンの[.que]くん。東日本大震災への寄付金、今後日本で大きな災害が起きた際の寄付金に活用されるチャリティーソングを制作しています。春の力強さ、美しさを表現した楽曲。めっちゃかっこいい。試聴した上で、iTunesで購入=寄付するのも1つの応援です。よろしければ!

 

Bloomy - Single

Bloomy - Single

  • [.que]
  • エレクトロニック
  • ¥600

 

 

記事を書いた人:徳谷 柿次郎

f:id:kakijiro:20170215014443p:plain

株式会社Huuuu代表取締役。ジモコロ編集長として全国47都道府県を取材したり、ローカル領域で編集してます。趣味→ヒップホップ / 温泉 / カレー / コーヒー / 民俗学など Twitter:@kakijiro / Facebook:kakijiro916 Mail: kakijiro(a)gmail.com

写真:小林 直博

f:id:kakijiro:20151217200120p:plain

長野県奥信濃発のフリーペーパー『鶴と亀』で編集者兼フォトグラファーをやっている。1991年生まれ。ばあちゃん子。生まれ育った長野県飯山市を拠点に、奥信濃らしい生き方を目指し活動中。

 

静岡で3つの珍スポ経営!? 伊豆の踊り子「セーラちゃん」に会ってきた

$
0
0

f:id:matsuzawa7:20170206120642j:plain

まぼろし博覧会からこんにちは。

 

観光会社「別視点」の松澤です。

へんちくりんなスポットを紹介するWEBサイト「東京別視点ガイド」を書いたり、なにかの分野のスペシャリストをまねいて町歩きする「別視点ツアー」をやってます。

ネットでリアルで、王道ではない観光地を人さまに案内することをライフワークにしてるわけです。

 

f:id:matsuzawa7:20170206125637j:plain

今回おとずれているのは「まぼろし博覧会」。

静岡県・伊豆半島にある最狂のカオス空間です。

 

 

じつは伊豆半島、知る人ぞ知る珍スポのメッカなのです。

・いまや日本で唯一の”秘宝館”「熱海秘宝館」

・トイレの万華鏡やお寿司の万華鏡など創作万華鏡をかざる「アトリエロッキー万華鏡館」

・家族経営の地獄テーマパーク「伊豆極楽苑」

などなど、超ド級の最高スポットがひしめきあっています。

 

f:id:matsuzawa7:20170206124011j:plainなかでもひときわ異彩をはなつのがまぼろし博覧会。

じつは伊豆にいくつか姉妹店があって「怪しい少年少女博物館」「ねこの博物館」「まぼろし博覧会」 とおなじ館長さんが珍博物館を3つも展開している。まさかの珍スポドミナント戦略。

日本中めぐり歩いたが、多店舗運営してる珍スポットはそうそうない。

そういう場所に興味がなくても「怪しい少年少女博物館」なら名前を聞いたことがあるって方も多いのでは。

 

f:id:kakijiro:20170313062325p:plain

そんな異色の珍博物館をなぜ3つも運営してるのか、館長さんに直接うかがってきた。

  

 

 そもそも、まぼろし博覧会ってどんなところなの? 

f:id:matsuzawa7:20170206102006j:plain

まぼろし博覧会をひとことで説明するなら

「リアル世界にあらわれたマッドなコラージュ空間」

といったところ。

 

f:id:matsuzawa7:20170214170207j:plain

全長15mのビッグサイズ聖徳太子像が、温室内に鎮座する

特筆すべきはその規模感。

閉園した植物園を買い取って博物館にしているので、スペースがとにかく広大だ。

広いのに展示がぎっちり詰まっていて密度が濃いので、ゆっくり見れば3~4時間は余裕でかかる。

  

百聞は一見にしかず。

”まぼろし博覧会的”としかいいようのない独特の世界観をご覧ください。 

 

f:id:matsuzawa7:20170214170210j:plain

レトロっぽさと個性的な人形の融合がまぼろし博覧会流

f:id:matsuzawa7:20170206115431j:plain

なんでもない通路にも恐竜がいたりするので、気を抜くひまがない

f:id:matsuzawa7:20170206115822j:plain

謙虚に頭をさげなければくぐれない鳥居。目の看板がつげ義春っぽい

f:id:matsuzawa7:20170206124159j:plain

はく製やマネキンが無造作におかれている。ぶきみだが賑やか。

f:id:matsuzawa7:20170214170130j:plain

セーラ服が描かれたゴリラ

f:id:matsuzawa7:20170206122930j:plain

ボロボロの丹下段平とジョーのマスクをかぶしたマネキン。段平のほうが真っ白に燃え尽きてる

f:id:matsuzawa7:20170206120851j:plain

 

淫靡なのか陽気なのか、カワイイのか怖いのか、どちらとも言い切れない雰囲気をかもしだしている

 

珍スポットはナチュラルボーンタイプか演出タイプに区別できるとかんがえている。

ナチュラルボーンはいわば天賦の才。理屈ではなく、感覚で動くタイプ。

演出タイプはロジックを積みあげ、1歩1歩正常な判断のもと、狂気への道をつきすすむ。

まぼろし博覧会にかんしては、本物の狂気なのか狙った演出なのかわからない、ギリギリのきわどいラインをせめているのだ。

 

f:id:matsuzawa7:20170206122608j:plain

学生運動のバリケード封鎖を再現。机の下をくぐってすすむ。

f:id:matsuzawa7:20170206121806j:plain

野球盤を楽しむ昭和の青年。色白すぎるし完全にカツラ

f:id:matsuzawa7:20170206123203j:plain

 

小学校の授業風景。学級崩壊どころの騒ぎではない。

 

f:id:matsuzawa7:20170206122248j:plain

 

マネキンの下半身と山口百恵のポスターをうまく組み合わせている

 

レトログッズも展示されていて、マネキンなどで当時の社会を再現しているのだが、その世界観は昭和ではないどこか。「懐かしい」とノスタルジーにひたる隙はない。

  

f:id:matsuzawa7:20170206121233j:plain

 一番びっくりしたのがこれ。ハッカー寺小屋。

壁の赤いボタンをしばらく押すと「基地局との接続が切れて、スマホが圏外になる」と書かれている。

半信半疑で30秒ほど押していたら……

 

f:id:matsuzawa7:20170206121154j:plain

ほんとうに圏外になった。

レトロもハイテクもなんでもありだ。

  

 

館長さんってどんな人なの?

f:id:matsuzawa7:20170206114510j:plain

 

f:id:matsuzawa7:20170206114341j:plain

館長のセーラちゃんだ。

 

言いたいことはわかる。「なんなんだ」と。

ただでさえわけのわからない博物館なのに、館長さんまでこのわからなさ。

いろんな疑問を解き明かすためにインタビューしてきたので、くわしくは後半に譲ろう。

  

f:id:matsuzawa7:20170206114605j:plain

 旗をふってお客さんをでむかえるセーラちゃん。

通りすぎる車のほとんどが、おもわずこちらをチラ見している。

   

 まあ、こりゃあ見ちゃいますわ。

こんな調子でひたすら踊ってくれるのだ。

 

 

セーラちゃんにいろいろ聞いてきた

f:id:matsuzawa7:20170206114108j:plain

真夏に5時間踊ってたら、体脂肪率6%になっちゃった

松澤:3年ぶりに来たら、展示がすっごい増えてておどろきました。

セーラ:とどまってしまうと寂れてるようにみえるし、やる気がないようにみえるでしょ。そういうのがいいって言う人もいるけど、それじゃあ続かないし、誰も来ない。

活気があって変わってるのが大切。

生きものですよ、社会とおなじです。

  

松澤:なぜセーラ服を着て踊るようになったんですか?

セーラ:「ここなんですか?」ってよく聞かれるんだけど、100説明しても伝わらないでしょ。怪しい怖いを強調しちゃうと普通の人は入ってくれない。

それなら楽しい、おもしろい、ノー天気にしてこういう場所に興味なかった人も入ってくれたらいいよね。

 

松澤:楽しさ、ノー天気さの象徴ですか。 

セーラ:以前は入り口にさびれたマネキンおいたり、怖い感じにしてたんだけど、あかるくて楽しい展示に変えたの。入り口に主張はいらないんだよね。怖いのは中にひっこめていかがわしさを減らす。

入り口をあかるくして、セーラちゃんが立つようになって家族連れが増えたよ。

これは女装ではなくてコスプレ。普通の女の子が着てるようなかっこうはしないよ。

松澤:たしかに。こんなかっこうの女性いませんね。

セーラ:こんなの架空のものだよ。女の子もしないでしょ。

去年の夏はビキニ着て踊ってたんだけど、真っ黒に日焼けしちゃった。ビキニ跡、まだ残ってるよ。5時間踊りつづけてたら体脂肪率6%になっちゃった。

松澤:季節で変わるんですか。

セーラ:春は振袖にしてこいのぼりを背負ったり、どんどん変えてるの。新しいことやってかないとおもしろくないでしょ。

流行ってることもやらない。こないだ真冬のイベントで、扇風機3つまわして風をぶっかけながらかき氷食べたんだ。カボチャすりおろして氷にふりかけて。冬におでんなんて食べてもしかたないよね。

おなじことやるのは飽きてくるから、変わったことやらないと。

 

松澤:いつからセーラちゃんになったんですか?

セーラ:おととしの夏のイベントで、エスパー伊東やセーラー服のおじさんが来たんだよ。で、自分もセーラー服着てTwitterにながしたら、いつのまにかセーラちゃんになってた。やっと自分で派手メイクができるようになったよ。

こういうかっこしてると「恥ずかしくない?」って聞かれるけど、まったく恥ずかしくない。いいかっこしたいから、対極として恥ずかしくなるんだよね。

松澤:なるほど。

セーラ:踊りにしたって、上手に踊る気がないまま踊ってやれっておもってる。音楽にあわせてりゃたのしいんだよ。

だんだんやってくうちに手を大きく動かしたほうがいいなとかわかってくる。

 

f:id:matsuzawa7:20170206114327j:plain

「渋滞中のバスが狙い目。乗用車だと2人だけど観光バスなら何十人ものってるから」とのこと

松澤:昔からそういうこと恥ずかしくなかったんですか?

セーラ昔から恥ずかしくないし、ゴキブリも怖くない。でも、ハチは怖い。ゴキブリって形だけでどうってことないでしょ。

ここには子どもも来るけど怖がるかどうかは環境の問題。子どもはヘビを怖がらないけど、母親がキャーっていうと怖くなってくる。それとおなじだよね。

 

出版社の社長がどうしてまぼろし博覧会を運営するのか

松澤:セーラちゃんは出版社も経営してますよね。

セーラ:なんの設備もなくて自分の頭でできるのが出版社だったの。

出版1冊目は田中角栄についての本。若いころはおもしろさを感じるのが狭い分野だったけど、どんどん興味の対象が広くなってきたね。

 

松澤:出版をされてるのに、なぜこういう博物館をひらいたんですか。

セーラ:こういうのが好きで集めてたんだよね。出版社をはじめたのは35歳のときだけど、情報をあつめて「こんなおもしろいことあるよ!」と伝えるって点ではおなじでしょ、本も博物館も。

野生ネコの百科事典をだしたときに「じゃあ現実にしちゃおう」って、ねこの博物館を作ったのがきっかけだね。ペンギン博物館もつくったけど、いまはやめて、怪しい少年少女博物館にしてますよ。

  

f:id:matsuzawa7:20170206121628j:plain

ペンギン博物館時代に作ったむちむちのペンギンたち

松澤:似たような怪しい少年少女博物館があるのに、なんでまぼろし博覧会をつくったんですか?

セーラ:怪しい少年少女博物館はオタクやレトロ好き向けでコレクターの世界なんだけど、まぼろし博覧会はお子さまから年寄りまで1人のこらず笑顔にしてやろうと。

社会のおもしろそうなものを集めまくって、むりやりコラージュしてやろうっておもってます。

おもしろいものとか変なものを集めて、そういうのがわかる仲間うちだけに褒めてもらっても仕方ないなって。知らない人、興味ない人にチャレンジするのが楽しいね

 

f:id:matsuzawa7:20170206123714j:plain

セーラ:それに怪しい少年少女博物館はスペース的に限界があるんですね。展示をこまかく修正してもだれも気づかない。その点、ここは大きいから飽きないね。この場所は10年くらいかけて交渉してたんです。

松澤:え、10年も!

セーラ:その間も潰れてしまう秘宝館やテーマパークから話しがあると、オブジェを買い取って倉庫におさめてたんですね。三重県にあった元祖国際秘宝館とか鎌倉シネマワールドとか。トラックで100台分は運んだかな。ここにかざってる以外にもたくさん倉庫に眠ってるよ。

秘宝館から引き取ったときは、トラックで7~8回通って持ってきた。外車一台分ぐらいのお金がかかったね。

 

f:id:matsuzawa7:20170214170209j:plain

元祖国際秘宝館から引き取った秘宝おじさん

f:id:matsuzawa7:20170214170206j:plain

顔を塗りかえ、まぼろし博覧会テイストにしている

高いものに興味がない。経済的価値で客をあつめても仕方ないよね

松澤:さきほどコラージュとおっしゃいましたが、組み合わせ方のこだわりはありますか?

セーラ:70年前のやぶれたカレンダーと子どもが描いたイラストなんかがならんでるのがおもしろいよね。高いものに興味がない。経済的価値で客をあつめてもねえ。

家壊すとき、中のものが欲しいね。いろりや鏡台は残しがちだけど、そんなのはいらないんだよ。50年前のチラシとかゴミが欲しいんだけど捨てられちゃう。そういうものこそ文化だとおもってるし、見たことないものがおもしろいよね。

 

松澤:どんな客層なんでしょう。

セーラ:お客さんは20代の女の子がいちばん多いけど、若い子が歌えるような曲は流さない。レトロではなく、どの時代にもないものを見せたい。それを堂々とやったほうがおもしろい。

「どれがいちばん思い入れがあるか?」ってよく聞かれるけど、どれもあるし、特別なのはない。この世界自体が好き。

 

f:id:matsuzawa7:20170206124839j:plain

お土産に買ったクソカキベラ。トイレットペーパー代わりだ。

セーラ:いまメル友みたいな人が100人ぐらい出来てて、Twitterもぜんぶ返信してる。この場所がそういう人たちにとって水滸伝の梁山泊みたいになって、みんなでいろんなもの作れたらおもしろくなるよね。

立派なものをみせてもらう場所じゃなくて、お客さんもみんな友だちだよ。

 

松澤:作り手すら混ぜてしまってコラージュするわけですね。

セーラ:作るものもやることもなんでもあり。ただし、汚すぎるもの、違法なもの、危険なものはNGだよ。いきなりウンコまかれたら困るから。でも、ビンに入った鹿のフン持ってきた人ならいるな。

 

f:id:matsuzawa7:20170214170208j:plain

朝起きてからずっと走ってる

セーラ朝起きてからずっと走ってるんだよ。

松澤:え?走る?

セーラ:やりたいこといっぱいあるから、移動で時間つかうのもったいない。1日平均4時間睡眠。じゃなきゃ、もったいないんだよ!やりたいこと100個あって3個かたづけても、またここ来ると10増える。やることがどんどんたまってるの。

だから展示は壊れても直さない。そのほうがおもしろいし、修繕ほどつまらないことはないよ。マイナスがゼロになるだけだから。その労力であたらしく作ったほうがおもしろい。 

 

松澤:すさまじい情熱ですね。

セーラ:お酒も若いころは一升ビンで飲んだけど、最近は缶ビール一本でいいね。酔ってなくても酔ってるような話しをしてるから!

本音でしか人と付き合わないし、もう境目がない。最悪のこと、身もふたもないことを話して付き合ったほうがいいね。

 

松澤:落ちこむときはないんですか?

セーラ:瞬間で落ちこむことは何度かあったけど、方針さえたてば前しか向かないから大丈夫!

落ちこんだら小さなことでもまずなにかやる。たとえば種を植えるとか。花が咲いて嬉しいとか、そういうことでいい。

ノー天気でまじめでポジティブ、それがセーラちゃんですよ!

 

f:id:matsuzawa7:20170206113601j:plain

ちなみにインタビューをおこなっていたのは温室のすみっこ。

「雨の日は雨漏りするけど、いまどき雨漏りなんて珍しいでしょ。夏はものすごく暑いんだけど、こんなに暑いの体験できるなんてラッキーだよね!」

と最後までひたすらノー天気でポジティブであった。

 

 --------

ちょっと別視点のお知らせ

 

f:id:matsuzawa7:20170212204025j:plain

2017年4月22日(土)~23日(日)に「1泊2日伊豆別視点ツアー」をおこないます。

・家族経営の地獄テーマパーク「伊豆極楽苑」

・トイレの神さまをまつってる「明徳寺」

・ディナーショー&海底温泉があるホテル「サンハトヤ」

などなど伊豆半島の珍スポ13個を貸し切りバスでめぐりたおすツアー。もちろん、まぼろし博覧会も行きますよ。

ご興味あるかたは、こちらをごらんくださいませ~。

 

www.another-tokyo.com

 

書いた人:観光会社「別視点」

f:id:tmmt1989:20170221103805p:plain

取材・文:松澤茂信 観光会社「別視点」の代表。「東京別視点ガイド」書いてます。(Twitter

撮影:齋藤洋平 観光会社「別視点」副代表。観光カメラマン。(Instagram

洋画のポスター、日本版はデザイン変えすぎ!? 映画配給会社の言い分は……

$
0
0

こんにちは〜! 株式会社人間の社領エミです!

みなさんはご存知でしょうか?
海外映画、日本でポスター作ったら全然別物になっとるやんけ問題を!

 

f:id:emicha4649:20170302113937j:plain

 

このような、

本国で公開した時と日本で公開した時で
ビジュアル・タイトル・キャッチコピーが全く違う

という現象が、一時ネット界で「ダサい」「ダサくない」の論争を巻き起こしたそうなのです。

 

その中でも特にこちら、「少女生贄」という映画が…… 

 

f:id:emicha4649:20170302114004j:plain


ンボボボボオォ……って何……?

ビジュアル自体はそのままといえ、なんか完全にチョケてない……?いいの〜!? 怒られないの!?

 

まぁこんだけ目立つように「ンボボボボオォ」って書いちゃってるんだから、「このお化け、もちろん映画の中で『ンボボボボオォ』って言うんだろうな〜」と思うじゃないですか。

気になったので観てみたんですけど、こいつ一切「ンボボボボオォ」って言わないんですよ……。

 

な、なんで「ンボボボボオォ」ってつけたの〜〜!?! 逆にホラーなんだけど!?

気になる…!

 

気になるゾ〜〜〜!!!

 

つくった人にきいてみよう

というわけで、このビジュアルを手がけた株式会社トランスフォーマーにやって参りました!!

トランスフォーマーさんは、「少女生贄」のほか多数のミニシアター系映画作品を手がける配給会社。

 

f:id:emicha4649:20170302114025j:plain


あの「ムカデ人間」や「二郎は鮨の夢を見る」等、不朽の名作も去ることながら……

 

f:id:emicha4649:20170307170219j:plain

怒りのデス・ゾンビ……!?

 

f:id:emicha4649:20170307170242j:plain

洋画なのに漢字で『肉』!?

 

f:id:emicha4649:20170307170257j:plain

ヘル!?! ケバブ!?!?

悪魔の肉肉パーティー!?!

「野菜のつぎ、おまえ!」……!?!?!

 

このように、ツッコミどころ満載な映画も多数手がけていらっしゃるのです!

 

 

f:id:emicha4649:20170308120433j:plain

 

今日は、宣伝を担当する國宗さん(くにむねさん / 写真左)にお話を伺います。

日本語版ビジュアルの作成方法について、みっちり語っていただきましょう!

 

f:id:emicha4649:20170223204700j:plain

 

ちなみにこの会社、映画「トランスフォーマー」を手がけてる会社ではないそうです。

 

少女生贄はどうしてこうなったのか

f:id:emicha4649:20170302113911p:plain「國宗さん、今日はよろしくお願いします! 早速ですがこの『ンボボボボオォ』ってなんなんですか!? 製作者を出せ〜!!」

 

f:id:emicha4649:20170308120445j:plain

f:id:emicha4649:20170308120944p:plain「あ、これ作ったの私です

f:id:emicha4649:20170302113911p:plainご本人か〜〜〜い!!!!

f:id:emicha4649:20170308120944p:plain「『少女生贄』は、この映画のビジュアルに伊藤潤二っぽさを感じたので、伊藤潤二の作品にある何とも言えない語感をイメージしてコピーを作りました。あと……」

f:id:emicha4649:20170302113911p:plain「あと?」

f:id:emicha4649:20170308120944p:plainいい加減普通のキャッチコピーつけんのやめたかったんですよね」

f:id:emicha4649:20170302113911p:plainそんな感じなの?

 

f:id:emicha4649:20170308120458j:plain

f:id:emicha4649:20170308120944p:plain「そもそもうちで手掛けている海外映画は、Blu-ray/DVD制作のみの『ストレート作品』と、文字通りの『劇場公開作品』の二種類があります。少女生贄はストレート作品なので、インパクト重視で作ったんです」

f:id:emicha4649:20170302113911p:plain「なんでストレート作品だとインパクト重視になるんですか?」

f:id:emicha4649:20170308120944p:plain「劇場公開作品は公開前にメディア露出や宣伝ができますが、ストレート作品はそういった活動抜きでレンタル店や販売店に直接並びます。いわばパッケージ一本勝負

f:id:emicha4649:20170302113911p:plain「ほうほう」

f:id:emicha4649:20170308120944p:plainとにかく『これなに!?』『観た事ないけどすごそう!』と手にとってもらうことが重視されるんです。ホラー系だとどれも設定がお決まりのものが多いので、特に目立たなければいけません」

 

f:id:emicha4649:20170302115125j:plain
(戦慄病棟 / 2016.02)

こちらもトランスフォーマーさんがコピーを手がけた作品。

実はこの映画、内容は病院に関係ありません……。「病棟に忍び込んでコテンパンにやられるシチュエーションってみんな大好きじゃないですか」とのこと。

 

f:id:emicha4649:20170302113911p:plain「あの……決してフザけて作ってるわけではないですよね……!?

f:id:emicha4649:20170308120944p:plainそんなまさか!絶対違います!日本の観客の皆さんに届くようカスタマイズするのが配給宣伝の仕事。『少女生贄』も賛否はありましたが、ともかくこの映画を手に取ってほしいという一心で作ったので、多くの方に興味を持って頂けてよかったです」

 

ビジュアルもタイトルもそのままで良くない?

お次は、『日本版の大幅なデザイン変更』の意図について聞いてみましょう。

こちらはトランスフォーマーさんが手がけた映画、「あなたのママになるために」。

 

f:id:emicha4649:20170224181106j:plain

 

f:id:emicha4649:20170302113911p:plain「これ、本国版と日本版でデザイン全然違うなぁ! タイトルも違うし! 全部そのままで公開しちゃダメなんですかね?」

f:id:emicha4649:20170308120944p:plain「そうですねぇ……本国だと、公開前にちゃんと告知があるでしょうし、主演女優の認知度もあるので、そのままのビジュアルでも手に取ってもらいやすいと思うんですが……日本でこのまま公開しちゃうと、ホラー映画っぽく見えちゃうかと」

f:id:emicha4649:20170302113911p:plain「本国では超有名なペネロペ・クルスだからこそのビジュアルってことか」

f:id:emicha4649:20170308120944p:plain「はい。しかし、ビジュアルの変更の度合いって、本当に作品それぞれなんですよね」

 

f:id:emicha4649:20170302115201j:plain

f:id:emicha4649:20170308120944p:plain「このようにほとんど変更しないものもあります。目的は、作品ごとに『どの劇場で公開するのか』『その劇場にはどういう人が集まるのか』『その中でもどの層に観てもらいたいのか』を考えて、お客さんの最大公約数を狙うことなので」

f:id:emicha4649:20170302113911p:plain「どの劇場で公開するかもビジュアルの方向性に加味されるのか。ミニシアター系ならではだな〜!」

 

f:id:emicha4649:20170223204710j:plain

こちらは、国宗さんが手がけた映画「ハイ・ライズ」のフライヤーたち。

主役は日本で大人気のイケメン俳優トム・ヒドルストン、原作者はこれまた日本で大人気のSF小説作家、J・G・バラード。

そのファン層をターゲットに定め、「映画館に足を運んでコレクションしたくなる&部屋に飾れる」をコンセプトに三種類のビジュアルを作ったんだとか……かっこE〜〜!! トムヒ〜〜!! 全部ほちいよ〜!

 

f:id:emicha4649:20170308120944p:plain「ちなみにこのビジュアルは本国の監督がめちゃくちゃ気に入ってくれまして、カンヌ国際映画祭の時に日本の制作チームをお部屋に招待してくれたりもしましたよ」

f:id:emicha4649:20170302113911p:plain「おげ〜! 羨ましい!」

 

日本のポスターごちゃごちゃしすぎじゃない?

f:id:emicha4649:20170302113911p:plain「あとですね、海外と比べて日本のビジュアルは文字が多くてごちゃごちゃしすぎって意見もよく見るんですが、それについてはどういう意図があるんですか?」

 

f:id:emicha4649:20170302115219j:plain
確かに文字が多いかも

f:id:emicha4649:20170308120944p:plain「そうですね……やっぱり、内容が最低限わかるキャッチコピーは必須だと思います。どんな作品かわからないと、最低限の方しか観に行かないかなと」

f:id:emicha4649:20170308120944p:plain「あと、お客さんはこれを見て『この映画はお金を払って観るに値するか』を判断するので、『受賞歴』『スターが出てる』『感動できそう』『有名人からのコメント』などの安心できる要素も必要だと思います。そうすると、どうしても文字は多くなってしまいますね」

f:id:emicha4649:20170302113911p:plain「なるほど。映画一本ってけっこうな金額ですもんね」

f:id:emicha4649:20170308120944p:plain「宣伝期間が短いものは情報てんこ盛りにしないといけなかったり……諸事情もあるんですけどね」

 

配給会社のジレンマ

f:id:emicha4649:20170302113911p:plain「配給会社が作ったものって、本国にチェックしてもらってるんですよね?」

f:id:emicha4649:20170308120944p:plain「はい。すべて英訳して共有し、許可を得たあと世に出しています」

f:id:emicha4649:20170302113911p:plain「じゃあ、一番通すのが難しかった映画を教えてください!」

f:id:emicha4649:20170308120944p:plain「どれも多かれ少なかれ修正はあるんですが……たとえばこれ、ミシェル・ゴンドリーの『グッバイ・サマー』という映画とか」

 

f:id:emicha4649:20170302115240j:plain

 

f:id:emicha4649:20170302113911p:plain「これまた全然雰囲気ちがうな〜! 原題は『ミクロとガソリン』?」

f:id:emicha4649:20170308120944p:plain「だけどこのタイトルじゃなかなか意味が伝わりません。

なので、宣伝コンセプトを『ミシェル・ゴンドリーの"スタンド・バイ・ミー"である』とし、彼らしいパステルでマジカルな色合いのビジュアルと、映画の内容がより伝わるタイトルを制作しました」

f:id:emicha4649:20170302113911p:plain「そんなガッツリ本国と方向性変えちゃってもいいんですか?」

f:id:emicha4649:20170308120944p:plain映画を観るには視点が大事だと思うんです。届けたい客層の視点を意識して宣伝コンセプトをつくるので、本国と路線が違うこともあります。

しかし、あまりにも雰囲気とタイトルが違うので、最初は制作元に『なんでそんな変更するんだ!』って言われましたね……」

f:id:emicha4649:20170302113911p:plain「そりゃ言われますよねぇ」

f:id:emicha4649:20170308120944p:plain「ただ、細かいニュアンスを共有したり修正したりして、最終的にはすべて合意を得ました。そのまま突っ走って作ることは絶対にありません」

 

f:id:emicha4649:20170308120515j:plain

f:id:emicha4649:20170308120944p:plain「私は出来る限り本国のままのタイトルとデザインで進めたいと思っているんですが、変えざるを得ない時もあるんですよね。全部『これはいける!』と思って仕入れた思い入れのある作品だし、なるべく多くの方に観てもらいたいじゃないですか」

f:id:emicha4649:20170302113911p:plain「ジレンマですねぇ……」

 

f:id:emicha4649:20170223204712j:plain

f:id:emicha4649:20170302113911p:plain「そういえば私、日本語版で一番許せないのがテレビタレントが声優やることなんですよね……!!! やっぱ声優って特殊な演技じゃないですか。普段ドラマで演じてる人が吹き替え声優をやった時の違和感たるや……くそ〜!!! マー◯ル〜〜!!!!」

f:id:emicha4649:20170308120944p:plain「でもまぁ、どんな配給会社も『映画を悪くしよう』なんて絶対思ってないですよ。うちが特徴的なコピーをつけることだってそう。どの要素も『人に認知してもらいたい』という狙いがあってのことなので……。認知しなければ、人は観に行きませんから」

f:id:emicha4649:20170302113911p:plain「だとしても……日本語版を作ったことで『ダサい』って叩かれること、正直ありますよね?」

f:id:emicha4649:20170308120944p:plain「ありますね。ちゃんと受け止めないとなって思います。でも特に今は、娯楽の多様化、ネットの普及、ライフスタイルの変化等の影響で映画館へ足を運ぶ人が減ってますし、なおさら制作物をメジャー化させないといけないので……」

f:id:emicha4649:20170302113911p:plainf:id:emicha4649:20170308120944p:plain「「ジレンマですねぇ……」」

 

映画が好きだからこの仕事をやっているし、素晴らしい作品はより多くの人に知ってもらいたい。

なのに、観てもらおうとすればするほどデザインにメジャー感が増すし、ファンは喜ばない。

スタイリッシュなものを最優先にもできるけど、それで果たして人は集まるの?

 

うーん、映画配給、まさにジレンマです……。

 

今こそ、映画ファンと協力すべき!

f:id:emicha4649:20170302113911p:plain「配給会社は、映画ファンと溝を深めたいわけじゃないですもんね」

f:id:emicha4649:20170308120944p:plain「はい、まったく本意じゃないです。私は映画ファンの方達に映画を提供したくてこの会社に入ったので……。そんなこともあって、昨年は同じ映画のビジュアルを2種類作ったりもしました」

f:id:emicha4649:20170302115305j:plain

 

ファンに向けて、できるだけ元のビジュアルを意識して作った左側のビジュアルと、俳優の写真を重視した右側のビジュアル。

私には左側の方が断然かっこよく見えるし、部屋に飾りたいです……がしかし! 右は右で、「知ってる俳優がいる」「タランティーノのコメントが入ってる」という理由でフライヤーを持っていく人が多いそう! どちらも役割があるんだなぁ。

 

f:id:emicha4649:20170308120944p:plain「ただ、映画の広報がパターン化してきているのも事実。そこで提案です! ここらで映画ファンの方に映画配給業界に入ってきていただきたいなと!」

f:id:emicha4649:20170302113911p:plain「うお〜! 転職してくれってこと〜!?」

f:id:emicha4649:20170308120944p:plain「正直、配給会社の宣伝マンより映画ファンの方が全然映画を観てると思いますし、『多くの人に映画の素晴らしさを知って欲しい』という気持ちは同じだと思うんです。そんな方達と意見を出し合って新しい広報の形を探していければめちゃくちゃ良いなと思いまして……!!」

f:id:emicha4649:20170302113911p:plain「いやいや、急に転職なんて難しいでしょ!」

f:id:emicha4649:20170308120944p:plain「確かにそうですよね。しかし、ぜひ建設的な意見だけでも頂ければと思います!うちは映画の公式twitterは配給会社が運営してますので、リプライやDMで貴重なご意見をいただければ嬉しいです」

 

國宗さんが自ら運営しているグリーンルームのtwitter。チャンスだぞーっ

 

f:id:emicha4649:20170308120944p:plain「特にうちのようなミニシアター系はファンの一声で変わることもあるので!『別バージョンのポスターが欲しい』という声に答えて作ったこともありますし、今は『福岡で上映してほしい』というご意見から上映に向けて頑張ってるプロジェクトもあります。

90年代のミニシアターブームを取り戻すべく、映画ファンの皆さん! ぜひご意見をお願いします!」

f:id:emicha4649:20170302113911p:plain「いやほんとに、映画好き同士今こそ結託すべきってことがよくわかりました。國宗さん、ありがとうございました!」

 

配給会社の人だって、映画が大好きなのだ

日本版ビジュアルがとにかくビシバシ叩かれがちな昨今ですが、その裏には映画大好きな宣伝マンの「素晴らしい作品を広めたい!」という情熱があったんですね。

当たり前だけど、配給会社の人たちみんな映画が大好きなんだな〜! 

 

すっかり映画館にも行かずアマゾンプライムでばかり済ませていた私ですが、
國宗さんの「その人の人生を二時間たっぷり見るわけだから、映画館で集中して見ないともったいない!」という言葉に心打たれてしまいました。

こんな人がつくってんだなと知ると、ポスターを見る目も変わるってもんですね。年に数回でも、ミニシアターに通いたいなと思った次第です。

 

最後に、國宗さんに「映画初心者な私にアドバイスはないですか?」と聞いてみたところ、「理解なんてしなくていい、感じることが一番重要」ということでした。

 

ブルース・リーか〜!

 

國宗さん、アツいお話をありがとうございました〜!

 

 

映画「グリーンルーム」、大ヒット公開中〜!

f:id:emicha4649:20170302113911p:plain「そんな國宗さんが手がけた映画『グリーンルーム』が、全国の映画館で大ヒット公開中です!(2017年3月現在)」

f:id:emicha4649:20170302115305j:plain

全米初登場No.1のアクション・スリラー。パンクバンドVSネオナチ、生死をかけた<極限>バトル・ロワイヤル!

アントン・イェルチン、イモージェン・プーツ、パトリック・スチュワート出演、

鬼才ジェレミー・ソルニエ監督最新作『グリーンルーム』新宿シネマカリテ他にて<極限>ヒット公開中!

公式サイト: <http://www.transformer.co.jp/m/greenroom/>

 

f:id:emicha4649:20170308120944p:plain「お待たせしました! みんな大好き『パンクバンドVSネオナチ』ですよ〜!」

f:id:emicha4649:20170302113911p:plain「みんな大好きなの!?」

f:id:emicha4649:20170308120944p:plain「当初は東京一館だけの公開でしたが、お蔭さまで満席が続き、全国で拡大上映することになりました。ネオナチとパンクバンドが一体化するライブシーンは映画史に残るカッコ良さ! 夏フェスシーズン前に、是非劇場でご覧ください! 」

 

 

(おわり)

 

ライター:社領エミ(株式会社 人間)

f:id:kakijiro:20150722115305j:plain

"面白くて 変なことを 考えている"会社、株式会社人間の書けるムードメーカー。一番好きなコスプレは駅員さんのコスプレ。
Twitterアカウント→@emicha4649

 

ジモコロは求人情報サイト「イーアイデム」の提供でお送りしています

大阪府の求人、アルバイトはこちら!

犬猫ルンバで学ぶ「評論家という病」

$
0
0

f:id:eaidem:20170317174429p:plain

 

犬猫ルンバという言葉は存在するのか。

たぶん、しないと思います。しかし私はよく「犬猫ルンバがあればそれでいいんだよ」と言うんですね。とくに缶ビールを三本ほど空けると言いはじめることが多い。しかしまずは説明しておいたほうがよさそうですね。

 

「犬猫ルンバ」というのは、犬や猫がルンバに乗って移動している光景のことです。さらに言えば、それをYoutubeなどで見る楽しみのことです。日常的にネットをしている人は、一度くらい目にしたことがあるんじゃないでしょうか。

 

www.youtube.com

これが犬猫ルンバの一例です。ほっこりします。

ということで本題です。今回は「犬猫ルンバ」を題材に、「評論家的なもの」が進化していく過程を考えてみたいと思います。

 

犬猫ルンバ内部での洗練

さまざまな画像がネットに氾濫することで、「犬猫ルンバ評論家」とでもいうべき人々が登場するわけです。彼らはもう素直に「かわいい!」とは言いません。過去に自分が見てきた無数の犬猫ルンバをもとに、新たに見た映像を位置づけていくのです。

たとえば、ルンバは何色が良いか? ルンバの速度はどの程度がいちばんよいか? 床はフローリングがよいか、畳がよいか? ルンバに乗っているのはネコがよいか、犬がよいか? 柄や大きさはどうか?

このように考えて、ネットにあふれる犬猫ルンバを格付けしていくのです。 それが評論家への第一歩です。

 

亀ルンバの登場

犬猫ルンバを楽しむあいだはいいです。しかし人間は飽きるものです。「人と同じではイヤだ」とも思うものです。それが「犬猫ルンバの先」を求めます。そして登場するのは、たとえば「亀ルンバ」です。ルンバの上に亀が乗っているわけです。

もちろん、これはマイナー受けです。「犬猫」を最終回答とするなら、その周辺での遊び。ポテトチップスがうすしお味とコンソメ味という最終回答に辿りついていながら新たな味を出すようなものです。

だから人々は亀ルンバを話題にしつつも、亀ルンバが主流となる世界のことは想像しません。犬猫ルンバという王道はあるのです。しかし王道はみんなと同じでイヤだというときに、「亀ルンバ的なもの」が出てくるのです。

 

他にも「イタチルンバ」「ねずみルンバ」「ザリガニルンバ」「トカゲルンバ」など、無数の生き物がルンバにのせられていきます。たとえば犬猫ルンバを楽しんでいる人々に対し、「わりぃ、俺、亀ルンバ派なんだよね」と言う感じ。

 

ルンバ犬猫と空白ルンバ

視点を変えるというパターンもあります。たとえば「ルンバ犬猫」。犬や猫の背中に、ルンバをのせるわけです。関係の逆転ですね。ネコの背中のほこりが取れます。あと、たぶんフギャーッと言われると思います。

 

さらに進むと「空白ルンバ」が登場します。すなわち、ただのルンバです。ルンバに何も乗せない。ただルンバが動いている状態を楽しむ。このあたりから、非常に評論家好みになってきました。

「文脈を楽しむんだよね」と彼は言います。 

「これはただのルンバに見えるかもしれないが、我々はすでに犬猫ルンバの存在を知ってしまっている。よって、我々はただのルンバの動きに「犬猫の不在」を読み取ってしまうのだ。このルンバには何も乗っていないのか? 否、「無」が乗っている。これは言うまでもなく仏教の問題、あるいはハイデガーにおける死の問題とも接続されることになるだろう……

 

というふうに、えんえんと言葉が紡がれてゆきます。「ルンバとハイデガーを接続されても」と思うのが人情ですが、ハイデガーは何にでも接続できるのです。あなたのがんばりひとつで。

 

ルンバがかわいい

「ルンバそのものがかわいいことを我々は忘れていたのだ」というパターンもあります。「犬猫がかわいいのではなく、ルンバがかわいいのだ」と言うわけです。これもまた視点の転換です。ルンバの回転ぶりや作動音のかわいさに注目してみるといいかもしれません。

 

ルンバ地球 

「ルンバ地球」という発想もあります。「そもそもルンバは地球に乗っていたのだ」という視点を提供するわけです。地球の回転の上にルンバはあった。そして「乗る物・乗られる物」のうち、犬猫ルンバにおいては「乗られる物」だったルンバが、ここでは「乗る物」になっている。だからこそ「地球ルンバ」ではなく、「ルンバ地球」となるのです。

そろそろみなさんも「こいつうぜえ……」と思いはじめたかもしれません。こんなことを真顔で語られたら、空から巨大なタライが降ってくることを期待してしまいますが、ひとつの視点としてでっちあげることはできるということです。

 

一周まわったうえで

このあたりで「ふつうの犬猫ルンバ」に戻るというパターンもあります。「ただかわいいだけ」ということです。「あらゆる表現の進化は原点を知るためにあったのだ」ということです。もっとも、「一周まわったうえで」と分かるようにしなければいけません。人は差別化をはかりたがる生き物ですので、なんらかのかたちで「ただ犬猫ルンバを楽しんでいる人」とはちがうことを示したいのです。

 

犬猫ルンバの抽象化

しかし、一周まわることは気に食わない。それじゃあ発展していかない。

そのときに出てくるのが「犬猫ルンバの抽象化」です。どういうことか? 犬猫ではなく「抽象化された動物の骨組」、ルンバではなく「抽象化された掃除機のエンジン」を提示するのです。犬猫ルンバから構造のみを抜き出して提示する。犬猫ルンバのアブストラクト。

この場合、呼び名も犬猫ルンバではなく、

DOG-CAT-ROOMBA

になります。さらに、抽象化したことを強調したい場合は「単語から母音を抜く」というテクニックが使われますので、正式な作品名は、

DG/CT/RMB

これが「作品名」です。とりあえず、これを犬猫ルンバの最先端としておきます。「ネコがルンバに乗ってるのかわいいよね!」と言われた場合、「DG/CT/RMB」に言及しておけば、まず間違いはないです。

 

かわいくはないので!

ちなみに、DC/CT/RMBは全然かわいくありません。むきだしの骨組の上にむきだしの骨組が乗り、真白い空間を一定の速度で移動しているだけです。

しかし、「かわいくないじゃん」と言ってしまえば、「分かってないなあ」という顔をされます。現代音楽に対して、「全然メロディアスじゃないじゃん」とか言うようなもんです。返事は鼻息です。「んなこと分かった上でやってんだよ」ということです。

 

以上、犬猫ルンバの進化を駆け足で考えてみました。

ちなみに私は普通の犬猫ルンバが好き。ほっこりしたいので。

 

 

<過去のコラムはこちらから!>
f:id:eaidem:20160701185807j:plain

 

 

ライター:上田啓太

f:id:premier_amour:20160212111940j:plain

京都在住のライター。1984年生まれ。
居候生活をつづったブログ『真顔日記』も人気。
Twitterアカウント→@ueda_keita

Viewing all 1396 articles
Browse latest View live