80年代に誰もが夢中になった伝説のテレビドラマたち……
制作会社が大映テレビだったことから『大映ドラマ』と言われ、昭和のテレビ史にその名を刻みました。
僕も若い頃は夢中になって見ていたので、未だに「テレビドラマといえば『大映ドラマ』」というイメージです。
現在もドラマは作られ続け、毎年ヒット作が生まれています……が、そもそもテレビドラマってどうやって作られているのでしょうか?
誰が最初に「このドラマを作ろう」て言い出すの?
俳優は何を基準に選んでるの?
たまに顔が良いだけの新人が大抜擢されることがあるけどそういうことがあったの?
というわけで、あらためましてこんにちは。ライターの倉沢学です。今回は大映テレビにお邪魔しています。
同社の社長・渡邉良介プロデューサーに、現代のドラマはどのように作られるのか、制作現場の裏話を聞いてみましょう!
業界人しか知らないドラマのあれこれ、すべて聞きます!
渡邉良介(大映テレビ代表取締役社長)
ドラマプロデューサー。代表プロデュース作品に「テセウスの船」「悪魔の弁護人」「下剋上受験」「リアル脱出ゲームTV」「魔王」など。
テレビドラマはどうやって作られる?
「今日はよろしくお願いします! 早速ですが、テレビドラマが生まれる瞬間ってどんな感じなんですか? 誰が最初に『こういうテレビドラマを作ろう』って口にするんでしょう?」
「誰が、というなら……それは僕のような『ドラマプロデューサー』の役目ですね。ドラマにおけるプロデューサーは、いわば言い出しっぺであり、責任を取る仕事です」
「へぇ~! プロデューサーって、セーターを首に巻いて『それいいね!(指パチーン)』ってやるだけが仕事だと思ってた」
「それはバラエティ番組のプロデューサーのイメージだし、バラエティ番組のプロデューサーも『それいいね!(指パチーン)』ってやるだけが仕事じゃないからね!」
「ではドラマのプロデューサーは、具体的にどのようにテレビドラマをスタートさせるのでしょうか?」
「まず最初に企画を立てます。今はマンガ原作のドラマが多いですから、常日頃からマンガを沢山読んで『これをドラマにしたらおもしろくなりそうだな』て感じでネタを探します。うちの部署は、昼間はみんなオフィスでマンガ読んでますよ」
「……サボってるだけでは?」
「いや、とても大事なインプットです。だから会社の本棚には常にマンガを補充しています」
「『これは絶対当たる!』という作品があれば、出版社に確認をとって企画書を作って……その企画書を手に、テレビ局の方々に『このマンガを原作に、こういうドラマを作りませんか?』とプレゼンするんです」
「テレビ局にとっては、大映テレビは外部の制作会社だから、ちゃんとプレゼンして良さを伝えなきゃいけないわけですね。企画が通ったら次は?」
「脚本家、監督、キャスティング、スタッフを埋めていきます。脚本に関しては、プロデューサーが意見を出したりもします」
「脚本と言えば、原作のマンガのストーリーが少し変わってたりしますが、そのままではダメなんですか?」
「何百巻でも続けられるマンガと、ワンクールしかないドラマでは、やはり同じようにはできないですね。このキャラのエピソードを削るならこっちのキャラの背景を分厚くしたいとか、やはり違いは出てきます」
「なるほど」
「だから原作にはないけどこんな役を足したいとか、こんな構成にしたいとか、変更することはあります。制作側としては原作を愛しつつも、『テレビドラマとして』もっとも面白くなるように、最善を尽くしてるつもりです」
「大変だなあ。セーター巻いて指パッチンしてるだけなんて、とんでもなかった」
大御所の役者さんは器もデカい
「テレビドラマの世界といえば、有名な俳優さんやお金をかけた撮影など、華やかなイメージです。役者さんとの思い出やハプニングなどはありますか?」
「入社して10日で『ロケ行ってこい』と言われまして。右も左も分からないまま『火曜サスペンス劇場』の、片平なぎささんと船越英一郎さん主演回に行かされたのが思い出深いですね」
「サスペンスの2大巨頭! めちゃめちゃ緊張しますね」
「当時の僕のような下っ端のスタッフは、ロケ地の福岡県まで何時間もロケバスに乗って連れて行かれまして」
「福岡までバスで行ったの!? その時点で大変だ」
「ヘトヘトになって到着したら、すぐに上司にサイン色紙を渡されて、『ご協力いただいてる近隣の方に渡すから、片平さんと船越さんのサインをもらって来い』と。その数がなんと50枚」
「多いな!」
「着いたその日に、いきなりサイン50枚もお願いしたら、さすがに怒られるよなぁと思って緊張しながらお伝えしたんですが、お二人とも『いいですよ~!』って。何一つ嫌な顔されなかったですね」
「すごいなぁ。やっぱり売れてる方は人間ができてらっしゃるんですねえ」
「他にも、寺尾聡さん主演のドラマでは、時間がおしまくって3時間もお待たせしたことがあって」
ルビーの指環
「えー! あんな大御所俳優さんを3時間も待たせたんですか!? 相当怒られたのでは?」
「覚悟して謝りに行ったんですが、寺尾さんは『役者は待つのが仕事だ。謝らなくていい』と」
「か、か、カッコいい~!」
「かっこいいですよね。やっぱり主演を張るような人は人間がデカい! ホッと胸をなでおろして他のキャストさんにも謝りに行ったんですが、若い役者さんには『何時間待たすのよ!』ってめちゃ怒られました。悪いのはこちらなんで平謝りしましたけど」
ドラマ制作の裏側を教えて!
ちなみに衣装部屋にも入れて頂きました。このコートも誰か有名な俳優さんが着たのかな?
「他に制作現場での大変な思い出などはありますか?」
「怒られた思い出しかないですね(笑)。新人なんて怒られるのが仕事みたいな時代だったから。昔は今と違ってスタッフさんもみんな怖かったし」
「どんなことで怒られるんですか?」
「ある時、夜のロケで録音部の人に『遠くで花火が上がっててうるさい! 行って止めてこい』と言われて。人間の耳には聞こえないくらいの音でしたが、どこか遠くで家族連れとかが花火をしてたんでしょうね」
「無茶振り過ぎる!」
「とりあえず『止めてきます』って言ったものの、どこでやってるかもわからないし、適当にその辺でタバコ吸って時間つぶして、『一生懸命探したんですが、無理でした!』って」
「無茶振りされる側も、したたかに生きてたんですね」
「音というと、真夏の外ロケにセミが鳴くなんて当たり前じゃないですか。セミはそれが仕事なんだから。それなのに録音部さんに『今すぐセミを鳴きやませろ!』と怒鳴られるんですよ」
「録音部厳しいな! どうしたんですか?」
「ドン・キホーテで大きなバズーカタイプの水鉄砲を買って、セミに向かって撃ちました」
「それは……棒でつつくとかよりは樹木に優しいですね。鳴き止んだんですか?」
「隣の木に移って元気いっぱいに鳴いてました」
「焼け石に水。そもそも『夏に蝉の声が聞こえる』なんて自然なことなんだから、そのまま撮影したらだめなんですか?」
「実は『うるさい』だけが問題じゃないんですよ。同じシーンなのに、さっきのカットではうるさく鳴いてて、別のカットではあまり鳴いてない、という状態だと、繋ぎがおかしくなる。それが問題なんです」
「ちなみにドラマの撮影現場って、何人くらいいるんですか?」
「スタッフだけで40人ぐらいですね。学校の1クラスより多いです。マンションのワンルームでのシーンとかだと、その人数が部屋に入るわけですから、地獄ですよ」
「夏とかめちゃくちゃ暑そうですね」
「ほぼサウナですよ。でも録音部は音にうるさいからエアコン止めろって怒るし」
「まったく無関係なはずなのに、僕まで録音部に腹が立ってきました」
「いや、録音部もプロとしての仕事を全うしてくれてるだけなんで、腹は立ちませんけど。こっちがわがままを言うこともありますから」
「現場が華やかなものではなく、過酷なものだということがわかりましたが……一日でどれぐらい撮影できるものなんでしょう? 一日かけて1話分ぐらい?」
「いやいや(笑)。丸一日撮影して、オンエアにしたら10分も撮れないです」
「えー! そんなに時間かかるんだ!」
「10分撮れたらすごく良い方で、平均7~8分かな。1時間ドラマ1本撮るのに1週間ぐらいかかりますね」
「むちゃくちゃ大変な世界だ! スタート時に撮り貯めはあるんでしょうけど、ドラマは一週間かけて撮影して放映して、また一週間撮影して放映してって、かなりギリギリで作られてるんですね」
いくつわかる?~ドラマのスタッフの仕事~
「ドラマのエンドロールを見てると、色んな役職のスタッフがクレジットされてるじゃないですか。中には『それどんな仕事!?』っていうのも多くて」
「例えば何でしょう?」
「『MA』というのは?」
「MAは『マルチオーディオ』の略なんですが、編集で音楽と台詞のミックスをする人ですね」
「なるほど。たまにやたらBGMが大きくて、セリフが聞き取れないドラマがありますよね」
「その場合はMAさんが下手だったということですね」
「では『TD』というのは?」
「TDは『テクニカルディレクター』の略で、どちらかと言えばバラエティでよく使う役職名だけど、カメラのスイッチングをする人です」
「あぁ! いくつかのカメラで同時に撮影をしている時、どのカメラの映像を採用するか決める人ということですね。『はい3カメなめ~の、ここで2カメ!』みたいな」
「さっきからイメージ古くないですか? でもそんな感じです。今は減りましたが昔はスタジオドラマが全盛だったからとても大事な役割でした」
「なるほど。たまに『映像』という役職名も見かけますよね。ドラマのスタッフなんだから、そりゃあ全員『映像』じゃないのって思いますが……一体何をやってる人?」
「映像は、別名で『VE』、ビデオエンジニアといったりもしますね。収録している時の色のバランスを見る人」
「色のバランス?」
「例えば実際は昼間だけど、色の調節をして夕方に見せたりね。シーンを撮り進める中で実際の天気も変わってくるし、同じ時間帯のシーンなのに色味が変わってきちゃうんです。それを調整したりするわけですね」
昼に撮影された写真でも色味を調整すると夕方に見える
「『編集』さんがあとで調節することもできるんですが、テレビドラマはオンエアまでの日にちが少ないので、現場で調整することが多いですね」
「色んな仕事の人がいるんだなぁ。スクリプターというのは?」
「スクリプターは『記録』とも呼ばれる役職ですね」
「さらにわからなくなった。何を記録するんですか?」
「『つながり』といって、例えばあるカットでスーツのボタンを開けていたのに次のカットで閉じられているとシーンが繋がらなくなる。それをチェックしているのがスクリプターさんです」
「えー大変そう! 一体どこまでチェックしているんですか?」
「飲んでいるお茶の減り具合とか、喋っている時の手の位置はどこだったかとか、繋がりが不自然になる可能性を全てチェックしています」
「細けぇ~! そんなの見てる人は気にしないのでは?」
「まぁ、気にしない人が大半だとは思いますが、繋ぎの不自然さは無いに越したことはないんで。日本のテレビドラマは特に『つながり』にうるさい文化と言われてますね」
「海外では違うんですか?」
「ハリウッドにもスクリプターという役職名はあるんですが、日本と違ってどのデータにどのシーンが撮影されたかを記録する役職らしいです。だから僕らのようなプロがハリウッド映画を観ると、全然繋がってない時がありますよ」
「実は日本人が誇るべき技術なんですね」
有名俳優たちが食べているお弁当って?
「撮影というとロケが多いと思いますが、お弁当ってどんなものを食べてるんでしょうか?」
「ドラマではキャストもスタッフも同じものを食べます。お弁当はその都度違いますね」
「人気のお弁当なんかあるんでしょうか?」
「『金兵衛』さんとかかなぁ。あとウチの現場では月イチくらいで慰労も兼ねて『叙々苑』の焼き肉弁当を出しますね」
「それはテンション上がる!」
※金兵衛さんなど、おいしいロケ弁を知りたい人はこちらの記事をどうぞ
「あとはメインどころの役者さんが、お店を出張で呼んでくれるスペシャルな日があったりしますね。お寿司屋さんとかラーメン屋さんとか」
「なにそれ! すごい!」
「最近だと差し入れで移動型カフェカーを呼んでくれたりするんで、外ロケの最中にカフェラテとか飲めちゃうわけですね。現場ではそれが大人気で」
「撮影が早朝から始まる場合はどうするんですか? 開いてない店も多いと思いますが」
「ロケ弁専門といってもいいお弁当屋さんで、『ポパイ』さんというのがあって。朝はポパイのおにぎりとから揚げ、又はゆで卵のセットと決まってます。バラエティもドラマも、昔から共通。みんな毎朝これを食べます」
「へ~テレビの業界人みんながいつも食べてるポパイ、食べてみたい!」
「おにぎりの具の種類がたくさんあるんですよ。これを選ぶ担当が若手の制作進行スタッフで。大変センスが必要な業務ですね」
「おにぎり選びにセンスが問われるんだ」
「朝なんだからおにぎりの具は定番で良いんですよ。なのに奇をてらって『ネギ味噌』とか買ってくる新人にはイラっとする」
「いやネギ味噌好きな人もいるでしょ!」
「あとおにぎりを中華チマキにすることもできるんです。女子ウケは良いんだけど男には評判が悪い。これもイラっとしますね」
「だからチマキが好きな人もいますから! 新人の皆さんは一刻も早く偉いプロデューサーになって、ネギ味噌と中華チマキこそが正義という社会に変革してください」
「あ! 最後にプロデューサーを目指してる人にひとことアドバイスしてもいいでしょうか?」
「ほう! なんでしょう? ヒットするドラマの法則とか!?」
「プロデューサーになっても、女優さんとはつきあえないですよ」
「そこ!?(笑)」
「大事なことです。エッチなマンガとかではよく大物プロデューサーが『ヒロインの座が欲しければ、今晩付き合いなさい……』みたいなことがありますが、現実ではあり得ないです」
「そもそもキャストってどういう基準で選んでるんですか? オーディション?」
「テレビドラマでオーディションはほぼないですね。プロデューサーや監督なんかが、役に合ってるとか、旬であるとか、そういう基準で選んで指名します」
「でもたまにドヘタな俳優が大抜擢されてるのを見ると、どうしても『そういうこと』があったのかな?って思っちゃうんですけど」
「それは演技力よりも話題性とか存在感とか、あと育成の意味で選んでたりします。僕らも“そういう誤解”は受けたくないので、大抜擢した俳優さんにはできるだけ頑張って演技してほしいな~って思ってます」
「わかりました。プロデューサーになっても、女優さんとはつきあえない……プロデューサーを目指している新人のみなさんは、この言葉を胸に頑張ってください」
まとめ
普段何気なく観ているテレビドラマは、たくさんの人の手によって地道な努力で作られているのがよくわかりました。
今度からは撮影しているシーンの後ろにいるたくさんのスタッフさんを想像しながら、その苦労を感じて、より深くドラマが観られそうな気がします。
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