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会社員が300万円かけてファミコンカセット全1053本を集めたら、ハッピーエンドが待っていた

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会社員が300万円かけてファミコンカセット全1053本を集めたら、ハッピーエンドが待っていた

あのとき、ファミコンは僕らの神様だった。

 

1983年7月に発売された家庭用ゲーム機「ファミリーコンピュータ」、通称ファミコン。

シンプルなビジュアルとサウンド、わかりやすいシステム、やればやるほど味が出るゲーム性で、その後約10年に渡り、日本と世界のテレビゲームシーンを引っ張った。

 

筆者はまさにファミコン世代。当時、多くの家庭ではゲームの時間を「1日1時間」などと親に制限されていた。僕らの24時間は、この1時間のためにある、そう思えるほどファミコンの楽しさに夢中だった。

 

そのファミコンのカセット、1053本。これを全て集めた方がいる。筆者と同年代である37歳の会社員・りんく(@akires11)さんだ。

 

1053本のコレクション。当時の子どもたちの夢を具現化した眺めである

 

コレクターでありつつ、いまも毎日のようにファミコンをプレーするりんくさん

 

30年以上前のものも数多いファミコンソフトを1000本以上集めるのは、並大抵の苦労ではなかったはずだ。

・どうやってソフトを集めたのか?

・高いソフト、安いソフトは何が違うの?

・どうやって仕事と両立したのか?

多忙な日々を送りながらも、全コンプリートの夢をかなえたりんくさんに、電話取材を行った。

 

ハードオフに思わぬ掘り出し物が

「そもそも、なぜファミコンソフトをぜんぶ集めたいと思ったのですか?」

「3歳ごろからファミコンで遊んでいたのですが、いつの日かコンプリートしたいと昔から思っていたんです」

「当時のファミっ子(※)の多くが思った壮大な夢ですね」

「あとはみんなが後継機の『スーパーファミコン』に移ったときも、僕は家庭の事情でずっとファミコンで遊び続けていたんです。なので、余計に思い入れが強くなって」

「私もスーファミを買ったのは93年ごろと遅いほうだったので、その気持ちわかります……!」

 

※ファミコンで遊ぶ子どもの愛称。当時はテレビ東京系列で『ファミっ子大作戦』『ファミっ子大集合』という番組も制作されていた

 

りんくさんが最初に買ったゲーム、『迷宮組曲』(ハドソン)

 

「大人になって財力もついたので、2016年の冬ごろに全部集めるぞと一念発起して、集め終わったのが2018年の7月です

「よくぞ2年でコンプリートしましたね……。どんな風に集めたんですか?」

「カセットなどの状態を見て買いたいので、なるべく直接買いに行きました。仙台、北海道・東京・大阪・新潟などへ車や電車で遠出することが多かったですね」

「おお、遠路はるばる! りんくさんは岩手在住ですよね。地元のお店にも?」

 

「岩手には専門店はあまり無いのですが、ハードオフやブックオフには行きました。たまに掘り出し物もあるんです。通常3000円ぐらいするソフトが800円で買えるとか」

「おトクですね」

「逆にめちゃくちゃ高いこともあります。通常500円くらいの『スーパーマリオブラザーズ』(任天堂)が3000円とか」

「相場の6倍! 誰が値付けをしているんでしょうね」

「店によって値段が違うので、おそらく各店で独自に行うのではないでしょうか」

 

外国人コレクターの財力には勝てない

「800タイトルを超えたあたりで未所持のソフトが店頭で見つからなくなり、それ以降は、ほぼネット購入になりました。Yahoo!オークション(ヤフオク)とか、メルカリ、ラクマとかですね」

「オークションサイト中心なんですね。Amazonのマーケットプレイスとかは?」

「あまり利用しませんでした。一番手堅いのは比較的、利用する年齢層が高めのヤフオクですね

「レアタイトルを探しに、東京のお店に行ったりもしました?」

「都内では秋葉原などで売ってても、外国人向け価格ですごく高いんですよ」

「外国人向け価格?」

「実は、外国人のファミコンファンはすごく多いんです」

「ああ、なるほど。日本までわざわざ探しに来た人なら、いくら高くてもポンと買っていきそうですし」

「そうなんですよ。彼らには敵わなくて……」

 

1992年のファミコン後期に発売された『ムーンクリスタル』(ヘクト)。美麗なグラフィックが魅力のアクションゲーム。 5万円の高値で販売されていた

 

箱と説明書が揃うと、10倍以上の値も

『バイオミラクル ぼくってウパ』(コナミ)のプレー画面。キャラはかわいいが、ゲームは難しい

 

「1053本をコンプリートするのに、総額でどれぐらいかかりましたか?」

だいたい250~300万円ぐらいです。私の場合は箱と説明書の揃った『完品』とソフトのみで半々ぐらい持っていますね」

「会社員の方のお給料からそんな大金が……。やはり完品のほうが値は上がるんですか?」

「モノによりますが、ソフト単品の値段より、完品は10倍ぐらい高くなるものもあります

「そんなに! なぜ値段に差が出るんですか?」

「希少価値があるんです。たとえばソフト単品だと3000~4000円の『ロックマン』(カプコン)は、説明書が冊子ではなくてつながった紙みたいなものなんですが、子どもは乱暴に扱いがちで破れたりすることが多くて。ちゃんとした完品だと3万円以上になります」

「10倍以上だ。実家に『ロックマン』のソフト残ってないかな……。逆に安かったゲームはありますか?」

「スポーツやギャンブルのゲームは比較的安いです。特にタイトーの『究極ハリキリスタジアム』は新品に近い状態のものが、50円でした

 

「それ、僕も持っていました! 当時は結構な人気ソフトでしたよね……それがなんでここまで安いんですか?」

カセットの生産数が多くて、続編も多いからだと思います」

「ああ、確かに野球ゲームの『ファミスタ』(ナムコ)あたりは、毎年シリーズの新作が出ていましたもんね」

「ちなみに『燃えろ!! プロ野球』(ジャレコ)は安いんですけれども、なぜかごく一部で人気です」

「そういえば昔、『燃えプロ風呂』と言って、燃えプロのカセットを浴槽に満載にして入っていた人もいましたね」

「そうそう、『悶えろ!! モエプロゲッターズ』ってサイトの方ですよね。カセットの赤い色が集めたくなるのかもしれません」

「(そんな理由……?)」

 

鮮やかな赤いカセットと緑色の箱が印象的だった、『燃えろ!! プロ野球』(写真右列)

 

「今も新作が出ている『ドラゴンクエスト』(スクウェア・エニックス)シリーズの値段はどうですか?」

「安い印象です。人気があり、生産数が多かったゲームほど後から安くなる傾向があるので、カセット単品だと50円で売られているときもありますよ

「なんと。発売から数ヶ月経っても売り切れ続出だったソフトが、のちに投げ売りされるとは」

「はい。あとこういうソフトはダブりやすいです。たくさんカセットが流通していて安いので、『10本で1000円』とかセット販売されている中によく入っていますから」

「世の無常を感じる……」

 

『ドラゴンクエストⅣ』。データをセーブするための当時の方式「バッテリーバックアップ」の電池はいまだに生きていることも多いとか

 

ソフト一本、25万円⁉︎ 最高額は意外なカセット

「手に入れるのに苦労したソフトはなんですか?」

「たくさんあるんですけれども、普通のカセットと形の違う『特殊カートリッジ』のソフトは多くが入手困難です。『カラオケスタジオ』(バンダイ)で曲を追加するための拡張カセットも手に入れるには苦労しました」

 

「だいぶトリッキーな形のカセットですね」

「あとはサンソフトの『なんてったってベースボール』とか。大きなカセットと、小さなカセットがあるんです

「カセットが二種類? なぜ?」

「大きいカセットに、小さな選手データカセットを入れて使うんです。『親ガメ』『子ガメ』ってコレクターには呼ばれているんですけど」

 

通称、左が「親ガメ」、右が「子ガメ」

 

「子ガメカセットで後期に出た『’91開幕編』が本当に見つからなくて」

「当時あんまり売れなかったんですかね」

皮肉なことに、売れないソフトほど高騰しがちです。僕はずっと店舗やフリマアプリでずっと探しつづけて、ついにヤフオクで見つけて買えたんです」

「りんくさんの執念だ……!」

「レアソフトが売り出されたときにチャンスを逃さないため、必死でしたね。あとは90年代になって発売されたファミコン後期のソフトがレアです。スーパーファミコンなどに遊ぶ人を持っていかれてしまい、需要が減ってソフトが売れなくなった時期なので」

「確かに、僕も後期はどんなソフトが出たのかくわしく知らないですね。とうとうファミコン時代が終焉に向かっていったときだ……」

 

1993年発売の『囲碁指南’94』(ヘクト、写真右下)もレアソフトの一つ

「いちばん高かったゲームはなんでしたか?」

「『データック』(バンダイ)というシリーズのソフト、特に後期に発売された3本は希少なのですが、『バトルラッシュ』は25万円でした

「ゲーム1本で25万円……!」

 

『バトルラッシュ』の入手は最難関クラスで、多くのコレクターが苦労した

 

「これには外付けの専用機器がありまして、そこにキャラクターごとのバーコードを読み取らせて遊ぶんです」

「『バーコードバトラー』みたいだ」

「まさに『バーコードバトラー』が流行ったときのソフトですね。『バトルラッシュ』はヤフオクで買ったんですが、めったに出回らないソフトなので、見つけた時にはうれしかったですね。逃したらもう買えないかもしれないですから」

 

仲間同士の融通が助かる

りんくさんが1000本目に買ったソフト、『舛添要一 朝までファミコン』(ココナッツジャパンエンターテイメント)。舛添氏の都知事辞職騒動の際には数万円で取引された

 

「ファミコンカセットを集めるのがイヤになったときもありましたか?」

「何度もありましたよ! 後半は持っていないソフトがどこにもないし、やっとオークションで見つけても、競り負けてしまうこともあって」

「やっと見つけたのに……。逆に、うれしかったことは?」

「Twitterで集めるところをずっと見守ってくれていたフォロワーさんから、レアソフトをいただことがあるんです」

 

フォロワーの方のメッセージと、ファミコン後期である1993年発売の『スターウォーズ帝国の逆襲』。難易度の高い横スクロールアクションゲーム

 

「あれはすごくうれしくて。いずれ何らかの形でお返ししたいと思っています」

「いい話! 逆にご自分のダブっているものをコレクター仲間にあげることもありますか?」

「それもよくあります」

「持ちつ持たれつの、いい関係があるんですね」

 

仕事が忙しいときは「あきらめる」

「ちなみに、りんくさんは何のお仕事をされているんですか?」

「コンビニのチルド商品を扱う食品会社の社員です。コンビニは年中無休なので、うちの会社も365日稼働してるんですよ。なので、なかなか私自身も休みが無くて」

「かなりお忙しそうですが、仕事とカセット集めをどうやって両立したんですか?」

忙しいときはあきらめて活動せず、自由な時間に集中していました

「無理に動かず……」

「はい、その代わり休日は早く起きて、クルマで遠出してソフトを集めて回りました。当時は本当にコレクションのことばかり考えていましたね。濃い2年間でした」

「その濃い2年間を締めくくる、最後に手に入れたソフトって何でしたか?」

「『カオスワールド』(ナツメ)です」

 

1991年発売のRPGゲーム『カオスワールド』

「まさかこれがっていう感じでした。完品で1万円前後なんですが、『ちょっとレア』くらいのソフトなので」

「巡り合わせですね。ぜんぶ集め終わったときは何を思いましたか?」

「不思議と実感が沸かなくて、『ホントにぜんぶ集まったのかな?』みたいな気持ちでした。あとやっと終わったのか……って。実感が沸かないような、力が抜けたような、何ともいえない感じでした」

「リアルな感想ですね」

「でもコンプリートしたことをTwitterに載せたら、いろんな人が『懐かしい』『おめでとう』『お疲れさま』と言ってくれたんです」(※当時のツイートは削除)

「6000ツイート、1万いいね以上になったそうですね」

「こみ上げてくるものはありました。ようやくやったんだなって」

 

一生涯をかけて、1053本を遊び倒したい

りんくさんのコレクション。いつも取り出して遊びたいので、手の届くところに置いているそう

 

「ファミコンソフトをぜんぶ集めたい方にアドバイスがあれば、教えてください」

どこを目標にするかですね。完品をぜんぶ集めたいのか、妥協するのか。ありえないぐらい高騰しているゲームもあるので、資金的に現実的かどうか、調べてみるといいと思います。あと、何を持っているか把握できなくなってしまうので、購入したソフトのリストを作ることをオススメします」

 

りんくさんが作っていたリスト

 

「マメに書かれていますね!」

「これをサーバーにアップして確認することで、同じものを2つ買うことを防いでいました」

「ちなみにファミコン以外だと、どんなゲームをされてらっしゃるんですか?」

「アーケードゲーム以外だと、プレイステーション2のゲームを少しやりますね。『グラディウス』の3や5とか」

「プレステ2もけっこう前ですよね」

 

「そうですね、なんか最近のゲームの『映像がきれいで、動きが速い』みたいな画面を見ていると酔っちゃうんですよ(笑)。いわゆる”3D酔い”です。なので、古いゲームをやることが多くて」

「体質的な理由なんですね」

「あと映像より、シンプルなゲーム性を重視しているんです。いまのゲームもすごいとは思いますけど、昔のゲームは限られた容量の中でどう表現するか、いかに楽しませるかに当時のクリエイターのこだわりが感じられて好きですね」

「当時は大容量と言われたドラクエ4だって、4メガビット(=512KB)しかないって言いますね」

「ニンテンドーSwicthも買いましたし、すごいですけど……気がつけばファミコンをやっています(笑)」

「ファミコン世代として、その気持ちはわかる気がします」

「思い出補正も大きいとは思うんですけどね」

 

「りんくさんにとって、ファミコンはどんな存在ですか?」

人生に深く関わった『兄弟』です。小さい頃から一緒に成長してきたので

「大切なことは、ファミコンが教えてくれましたよね」

「何度ゲームオーバーになってもあきらめずチャレンジするところとか……」

「大人になった僕らが、仕事や困難に立ち向かう原点かもしれないですね」

「わかってもらえてうれしいです。一生涯をかけて、1053本のゲームを遊び倒すつもりでいますね」

 

おわりに

この取材の後、りんくさんはファミコンを通して知り合った方と結婚しました。

 

ずっと一緒に歩んできたファミコンから、伴侶との出会いが生まれたりんくさん。

好きなもの、好きな人に囲まれて生きる、第二の人生がはじまりました。


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