ライターの井口エリです。
お部屋を借りる時や家を買う時、値段や駅からの距離、築年数など……人によって重視する点はそれぞれだと思います。そんな中でも、その物件が「事故物件じゃないかどうか」を気にする方も多いんじゃないでしょうか。
事故物件(じこぶっけん)とは?
不動産の売買や賃貸借契約の対象となる土地・建物・アパート・マンションなどのうち、物件の本体部分もしくは共用部分のいずれかで、何らかの理由で前居住者が死亡した経歴のある物件のこと。
「事故物件」と聞くと、自殺や殺人などショッキングな死因を思い浮かべがちではありますが、実際は孤独死が6割から7割、自殺が2割、残りのわずかに事件性があるだけなんだそうです。
そこで気になるのが「事故物件に住みたがる人って本当にいるの……?」という点。
私自身も、「人が亡くなっている物件は嫌だなあ……」と、今まで事故物件を敬遠していたのですが、先日「事故物件を専門に扱うサイト」の存在を知りました。それが「成仏不動産」です。
「成仏不動産」は、恐らく業界初の事故物件専門サイト。事故物件の売買をしたい、賃借をしたい人のためにつくられました。
でもこう言ってはなんですが、本当に「事故物件」の需要はあるんでしょうか? だとすれば一体どんな人たちに……? 気になったので聞いてきました。
「成仏不動産」について聞いてきました。
話を伺った成仏不動産の佐藤さん(写真、左)と、運営元である株式会社 NIKKEI MARKS代表取締役の花原社長(写真、右)
「今日は『成仏不動産』や『事故物件』について聞きに来ました。そもそも『事故物件』ってどういう定義で決まるんでしょうか? どうしても物騒なイメージがあるんですけど……」
「いえいえ! 『事故物件』と呼ばれるほとんどの物件は、孤独死が原因です。この場合の『孤独死』とは、主に一人暮らしの方が誰にも看取られずに亡くなってしまい、なおかつ発見されるまでにある程度時間が経ってしまった物件のことを言います」
「亡くなってすぐに発見された場合は、『事故物件』扱いにならない……?」
「そうです。自然死や孤独死は、それだけであれば事故扱いにならないんです。しばらく見つからずに腐食が始まって臭いが出たり虫がわいたりして、周りの方が気づいて初めて事故物件という扱いになります」
それそのものでは事故物件にはならない自然死も、そのまま見つからずに時が経ってしまうと……
「なるほど。亡くなり方というよりも、亡くなった後の違いで敬遠されてしまうんですね」
「はい。自殺や事件性のある物件は全体の2割ほどですし、あまりにひどい事件があった物件などは、ほとんど市場に出回らないですね」
「そういった事故物件の情報は、どこから手に入れているんですか?」
「主には不動産の会社さんですね。ただ、事故物件の情報が一番最初に入ってくるのは、特殊清掃の業者さんなんです。そこから相談をいただくことも多いですね」
「へぇ! 清掃業者さんづての紹介もあるんですね。それで、どうして事故物件の専門サイトを作ろうと思ったのでしょうか?」
「私たちの会社は、普段は不動産の建売りや買い取った中古物件をリノベーションして販売しています。その中で『事故物件を買い取ってもらえないか』という相談が増えたんです」
「事故物件の相談が!」
「はい。事故物件を掲載する際には、“告知事項あり”という記載がされます。それでも、通常の物件と並んで情報サイトに掲載されているので、事故物件に抵抗のある人が目にしてしまったり、『安いから問い合わせをしてみたら、事故物件だった』みたいなことが起こったりしがちで」
「ちゃんと記載してあっても、ミスマッチが生まれてしまうんですね」
「そうなんです。逆に言えば、事故物件でもいい人からすると、たくさんの情報の中からそういった物件を見つけにくい状況でもあります。それならば、専門のサイトとしてまとめてしまったほうが良いのではないかという話になり、『成仏不動産』を立ち上げました」
社内では反対もあった「成仏不動産」
「“事故物件専門サイト”自体、おそらく業界初なんですよね。事故物件というと、どうしても暗いイメージを持ってしまいがちですが、『成仏不動産』という名前はポジティブな印象でいいなと思いました」
「ありがとうございます! 日本は少子高齢化と核家族化が進んで単身者が増えているので、どうしたって孤独死は増えていきますし、減る事はありません。それであれば今までのように避けるだけではなくて、事故物件のイメージアップをしていくのも大切だと思っているんです」
「ちなみに、『成仏不動産』のアイデアはどなたが思いついたものなんですか?」
「わたしですね。ただ、立ち上げの際には社内から賛否両論ありました。本業は『横浜らしいおしゃれな建売を作ったりリフォームしたりする事業』なので、扱っている物件全部が事故物件に見えるんじゃないか、印象が『成仏』に持っていかれるのではないか、という懸念があったようで」
「それでも実現したのは、やはり社長が押し切ったとか……?」
「うちの会社のサブテーマが、『世の中の困りごとを解決する』でして。このテーマを掲げている以上は、やらない訳にはいかない!と、おっしゃる通り、最終的には代表権限で強引に押し切りました(笑)」
「なんでわかったんですか?」と、花原さん
そうはいっても心霊現象、怖くない……?
「ちなみに、お二人は心霊体験みたいなものにあったことはないんですか?」
「そういうのはまったく見たことないし、全然興味なくって……」
「わたしもまったく感じないし、信じないんですよね」
「ただ、清掃に入っている業者の方たちからは『霊はいる』という話を聞きますし、そういう体験談も聞いたことはあります」
「まったく感じないからこそ、成仏不動産をやれているところはあるかもしれないですね」
「亡くなった方にきちんと敬意を払っていれば、そういった怖い思いはしなくて済む、ということですね」
事故物件を選ぶメリットとは
「すごく気になっていたのですが、あえて事故物件を選ぶ人ってどんな人たちですか?」
「若い方もいればご年配の方もいますし、年齢層はバラバラですね。たまに『霊体験してみたい』という人もいますけど」
「いるんだ……!」
「ただ、正直なところ興味本位の気持ちで成仏不動産を利用してほしくないんですよね。
現場に行って特殊清掃の方や人の死に携わる人々の話を聞いていると、みなさんとても真剣に事故物件と向き合っているし、亡くなられた方にもさまざまな事情があると分かります。そういった姿をみていると、事故物件は悪いものではないと思わされるんです」
「若い方は経済的な理由から安く住めるなら、という動機が多いですね。ご年配の方は今からそんなにお金を出して買わなくとも、といった方が多いように思います。
事故物件の一番のメリットは、やはり価格が安いという点です。ただ、弊社では『価格が安いぶん、付加価値を足す』ということに取り組んでいこうとしています」
「事故物件に付加価値を……?」
「たとえば、5000万円のマンションが事故物件という理由で4000万円に下がるとします。そのぶん内装をおしゃれにしたり、蓄電池を入れて光熱費を下げたりして、よりよい物件にできるのではないか? と」
「駅近の数千万円するマンションも事故物件なら1〜2割安く買えるので、特に気にしない方からしたらとてもお買い得なんです」
「数千万円単位の買い物となるわけですから、その差は大きいですよね」
「『価格が安い』ことはメリットですが、そのまま価格だけの話にすると味気なくなってしまいます。そこに、価格が安いからこそ検討できるオプションを足すことによって、より快適に生活することができる。それが付加価値につながるんじゃないかと思っています」
「“事故物件だけどいいや”ではなく、“事故物件であることを踏まえて、住みたくなる付加価値”を生み出すんですね」
「それに、実際売りに出す前には徹底的にリフォームが入るので、中古物件でもとてもきれいな状態で入居できるメリットもあります」
「事故物件はこれからも増えていきますが、“事故物件でも気にならない人”は増えていかないと思うんですよ。そうすると、売りたい人と買いたい人のギャップが生まれてしまいます。それを埋めるためには『事故物件って、実はいいんじゃない?』という方向にもっていかないと、世の中のためにはならないんですよね」
「それは運営してみたからこそ、気づいたことですね……!」
「誰もが将来的に必ず亡くなるじゃないですか。それなのに、孤独死などの亡くなり方の理由だけで敬遠されてしまう。それは良くないなと思うので、世の中の意識を変えていきたいと思っています」
「正直な話、『事故物件』という言葉が良くないですよね。これからは業界全体で『成仏物件』に統一できたらいい。物件にとっては、『不動産を買っていただいた』という行為自体が成仏したことにもなるんじゃないかと思っているので……!」
事故物件の見極め方を専門サイトの人に聞いてみる
最後に、事故物件について聞いてみたかったことをぶつけてみました。
それは、「気づかないで借りた物件が事故物件でした」みたいな話をたまに聞くけど、事故物件はどうやって見分ければいいんだろう? ということ。事故物件を日頃から扱っているプロなら、答えを知っているのでは?
……
……。
「……ないでしょうね」
「え、ないんですか……?」
「自分がすでに住んでいる物件を見分ける方法ですよね? 基本的には説明義務があるので、住む前にわかると思いますよ。ただ、説明が必要ないぐらい風化している場合などもあるので、事前に説明を受けなかったのであれば、もうわからないです。強いて言うなら、『近所の方から聞く』とかですかね」
「事故物件って、そんなにわからないものなんですか」
「大体きれいにリフォームしますので、それとわかるような状態で住むことはないんです」
実際に扱っている事故物件のリフォーム後の写真を見せていただきましたが、めちゃめちゃキレイ……
「賃貸の場合は『何部屋か募集が出ている中で、その部屋だけ妙にキレイ』というのはよくあることなんですけど、そういうタイミングで出くわすことは稀ですし、見分けるのも難しいと思いますね」
「私が聞いたことがあるのは、『部屋の一部だけ妙に新しい物件は気をつけろ』みたいな。なにかあった部分だけきれいにしているから、とか」
「それはすごくわかりやすい例ですね。実際は物件全体をリフォームをするケースが多いので、なかなか巡り合わないと思いますよ」
「すごくわかりやすい例だったのか~……。逆にいうと、一般の物件とはそこまで見分けがつかないほどキレイな状態で住めるってことですよね。中古でもキレイな物件に住めるのは、メリットになりうるかもですね」
「たとえば孤独死した物件を親族の方が相続するとして、相続を受けた方々は手続きの面倒臭さや、そうなってしまった物件に携わりたくないといって、相続を放棄することもあるんです。そういう事例も『成仏不動産』に相談していただければと思っています」
「空き家の問題も多少解決できると思うし、今後の孤独死のリスク対策や事故が起きた際の処理などで、イメージアップに繋がる活動をしていきたいと思っています。とはいえ、しっかりリノベーションを済ませれば事故物件でも関係ないぐらいの状態になりますけどね。臭いも取り除かれますし」
「キレイになった物件に何度も行っていますが、言われなければ事故物件だと分からないほどです。臭いも清掃の専門家でも気づかない位まで取り除かれますので、一般の方はまず分からないでしょうね」
「リノベーションや清掃の技術もそれだけ向上しているってことなんですね。事故物件についていろいろ知れて良かったです。ありがとうございました!」
「事故物件」という選択肢があってもいい
取材を通して事故物件のことや関わっている人たちの思いを知り、事故物件に対する印象がかなりいい方向に変わりました。生きている限り、死は自然なことなんですよね。
とはいえ、自分自身が実際に事故物件を選ぶかといえば、まだはっきりと首を縦には振れません。ですが、事故物件も選択肢としてはアリかもしれないと思いました。
取材協力|成仏不動産(運営会社:株式会社 NIKKEI MARKS)