こんにちは。非常勤ライターのひにしです。新潟県の燕三条駅に来ています。
突然なのですが、この商品見覚えありますか?
全国のコンビニなどで売られていた、やさしい甘さが特徴のミルクコーヒー。筆者は中学生の頃、むちゃくちゃ飲みまくっていました。
ところがこれ、現在ではもう売られていない”消えた商品”になっていたんです。
どうして突如として消えてしまったのか?
その謎を探りに製造元に行ってきたら、まさかの変貌を遂げ、その裏にはものすごいパワフルな母が絡んでいたことがわかりました。
というか、先に言っておくとこのお母さんがまじで、すごすぎる人でした。
なんで「たんぽぽミルクコーヒー」は、なくなったの?
こちらがそのすごすぎるパワフル母、長山秀子さん。
以前「やさしいたんぽぽミルクコーヒー」などの製造・販売をされていた会社の現社長さんです。
「いきなりですが、どうして『たんぽぽミルクコーヒー』は市場からなくなっちゃったんですか?」
「早い話が連鎖倒産です。製造の一部を委託をしていた工場が倒産してしまい、出荷量が少なくなり、需要に供給が追いつかなくなって……『たんぽぽミルクコーヒー』の販売元だった雪里という会社(長山さんの父と兄が経営)も倒産したんです」
倒産した雪里の現在
「そういうわけで、『たんぽぽミルクコーヒー』は”消えた商品”になってしまったんです」
「そんな裏側があったんですね。もう飲めないのか……あの優しい甘さには何か秘密があったんですか?」
「うちはもともと乳業の会社ですが、『日本人に合うミルクが作りたい』というスローガンで出来た会社なんです」
「ん? 『日本人に合う』とは?」
「日本人の2〜3割の人は牛乳に入っている乳糖を分解できる酵素を体内に持っていないんですね。ほら、牛乳でお腹を壊す人って多いでしょう?」
「牛乳でお腹ゴロゴロするのってそれが理由だったんだ……」
「そこで、先代である私の兄が、ゴロゴロしちゃう要因の乳糖を分解して牛乳の甘みだけを取り出す濃縮の技術を開発して」
「甘みだけを……」
「その『牛乳の甘みだけぎゅーっとしたもの』と、たんぽぽコーヒー(焙煎したタンポポの根から作る飲料)とを掛け合わせて出来たのが、『たんぽぽミルクコーヒー』だったんです」
「はっ! だから、裏面に『砂糖不使用』『ミルクの甘みです』って書いてあったんだ! そういう意味だったのか」
「たんぽぽ由来のコーヒーだったから、本当にたんぽぽも入っていたのよ」
「知らなかった…。どうしてそんなスローガンが生まれたんですか?」
「私の母が弟を産んですぐ母乳が出なくなって、ミルクも少ない時代だからとても苦労をしたの。そんなこともあって『栄養豊富な牛乳を、ゴロゴロせずに誰でも気軽にとれるかたちで提供したい』という思いがあったのね」
「そうだったんですね…では、もう乳業はやってないんですか?」
「それはですね……」
「え、え? 急に誰? ていうか、知り合いの長山一石(かずし)さんですよね? ちゃんと喋ったことはなかったけど……なぜここに!?」
※ひにしの本業(SEO界隈)の人なので、お互い名前は知っている程度の関係
「いきなり、ごめんなさい。一石は私の息子なんです。私がさっきの『牛乳の甘みだけぎゅーっとしたもの』を使ったビジネスを新しく始めるんですが……それを手伝うために、勤めていたアメリカのGoogle本社をポーンと辞めて帰ってきてくれたのよ」
「え? はぁぁ? なんだって!? 情報量が多いぞ!」
「母が新しく作った商品、『ミルクハニー』がいい感じなので、ちゃんとビジネスにしたいなって気持ちもあって、日本に戻ってきたんです」
「Google本社にいたら給料すごそうなのに」
「いやいや。さっき母から、連鎖倒産の話とかありましたが、ここに至るまでにジェットコースターみたいな人生を送っているんですよ、僕たち。だからGoogleを辞めるくらい、大したことじゃないです」
「そんな起伏が…? 詳しく教えてください!」
社長の勉強熱心な人生と家庭内でダメ弟の元Google息子
中央・緑の服が長山社長。右下の帽子をかぶった子供が一石さん
「うちの父は夢を追いかける人だったから……母は大学を卒業して高校教師をやりながら家計を支え、同居していた祖父の面倒も見て」
「ふむふむ。もう大変」
「姉や僕が生まれてからも、スクールカウンセラーの勉強のため大学の聴講生になったり、不登校児支援の家庭教師をやってまして」
「子育てしながら!? すごいな」
「で、父がNPOのプロジェクトでアメリカに行くことになったから、一緒に渡米して。向こうでもボランティアの日本語教師をやったり、カウンセリングの勉強をしてた。僕もまだ小学生でABCもわからない中、現地の学校にポーンと放り込まれて……」
ABCもわからないまま現地校に放り込まれた長山少年の図
現地で日本語教師をボランティアで行うパワフル母
「お母さん、勉強熱心でほんとすごい。一石さんも大変ですよね。そりゃ、英語堪能になるわ。同じ業界で働いてたので、優秀な人って話はよく聞いてました」
「え、息子が優秀? そうなの~?」
「僕、家庭内ではダメなやつ扱いなんですよ。姉がとても優等生だったもんで。アメリカ行かないであのまま日本にいたら、まじで問題児だったと思いますよ」
「と、言うと?」
「色々と変わった行動が多いから、アメリカの学校でIQテストを受けさせたんですね。そしたら、IQ160って数値が出て、私も先生も全員驚いたのよ。絶対それとは逆だと思っていたから」
変わった行動が多かったIQ160判明の頃。
「えー! IQ160って、ほとんど金田一少年じゃないですか! 」
金田一少年の事件簿 File(1) (週刊少年マガジンコミックス)金田一少年=マンガ『金田一少年の事件簿』の主人公で、天才的な推理力を持つ。IQは180という設定
「アメリカって『本人の能力にあった教育を』という考え方だから、僕は特別クラスを受けられるようになったんですよね。10才〜12才くらいの頃かな」
「全然ダメ弟じゃないじゃん」
「2年向こうで勉強して帰国したら、母は虐待児の家庭児童相談室で1ヶ月に80件の案件を見たりしながら、2010年には大阪教育大学で心理関連の修士を取得したりして……」
「うわーなんかもうお母さんずっと勉強してる! すごすぎる。でも、今の所すごい!って話ばかりでジェットコースター感がないんだけど……?」
「あ、ジェットコースターは今からスタートします」
実家全焼、夫の交通事故死、自らのガン…
「もう30年以上前だけど、実家が家事でほぼ全焼しちゃったのよね。あの時は大変だったわね! アハハ」
「笑ってる場合……?」
「さらに僕が18歳の時、父が交通事故で亡くなっちゃったんですよね。乗ってた車が、居眠り運転のタンクローリーに追突されて」
「しかも、夫が亡くなった同じ年に、私が乳ガンになってしまって……こういうのって重なるものなんですかね?」
「僕は大学に入ったばっかだったんですけど、もうサークルとかやってる場合じゃなくて。家事もあるし、母の事もあるし」
「そりゃそうだわ。なんだ、一気に大変な話……」
「その翌年には、『たんぽぽミルクコーヒー』のメインの卸し先が債務超過に陥ったりもして、事業にも少し影響が出はじめたのよね…」
「うわぁ…」
「結局、その少しあと、最初に話した連鎖倒産に巻き込まれてね。家業を継いでいた兄は自己破産をしたの」
今も残る倒産前に使われていた、機材。
「これ父が亡くなってから、叔父の自己破産まで、8年くらいの間の出来事なんですよ」
「壮絶……これはジェットコースター以上だわ……」
兄が残したすごい技術の結晶
(右は社長のお兄さん)
「私はね、最初に話した、『牛乳の甘みだけぎゅーっとしたもの』を、単体で売りたいと考えて、兄と研究をしていたの」
「単体で? それはどうしてですか?」
「天然の甘味料として売れば、ヨーグルトにかけたり、コーヒーのシロップみたいに使ってもらうことができる。砂糖も、はちみつも使われていない“ミルクの甘み”だから、赤ちゃんにも安心して使えるでしょう」
「ふむふむ」
「でも、すぐに結晶化してしまうから、何かに混ぜて使うことしかできなかった。ジャムとか、たんぽぽコーヒーみたいにコーヒーに混ぜたりね。ジャムはカルディさんなんかにも卸していたのだけど」
(カルディなどに卸していたジャム。パッケージむちゃくちゃ可愛いな)
「でも兄は結晶化しない『牛乳の甘みだけぎゅーっとしたもの』=”乳蜜”を完成させたのよ。海外でもなかなか成功していない技術なんだけどね」
「登場人物 全員天才なの?」
「そんなわけで、私はこの”乳蜜”に『ミルクハニー』という名前をつけて売り出そうと、がんばっているのよ」
「『たんぽぽミルクコーヒー』は消えちゃったけど、その甘み成分だった”乳蜜”が、天然甘味料『ミルクハニー』という名前で世に放たれようとしているんですね! うおー興奮するなーそれは!」
「ミルクハニー」熟練の技術者も大変な再現な技術
「元々はうちの工場でミルクハニーの試作品などを作っていたんだけどね。設備の維持費とかも考えて、今は県内の業者さんに製造をお願いしていて。今日はそちらの工場に試作品を見に行くのよ」
「ぜひ連れてってください!」
たどり着いたのは、新潟市にある「石川味噌醤油」さん。自社製品の味噌や、様々な企業の商品を請け負っている地元の実力企業だ
ミルクハニーを作るために使う、「ミルクをギュー」とする機械=『濃縮機』の前で、製造を任されている養田さんに話を聞いた
「牛乳を発酵させて、濃縮することによってできるのが乳蜜。300リットルが60リットルくらいまで圧縮されるんだけどね、全ての工程において緻密な作業が要求されるんだよ。じゃないと、いいものが出来上がらない」
「こういった機械を使いなれている養田さんでも難しい…と」
「そうだね。とにかく酵素が厄介なんだ。ビーカーでは簡単に再現できても、ある程度の量を作るとなると、途端に難しくなる。最近になってやっと、しっかりお届けできる体制が作れてきたって感じかな」
「試作品ができているんですよね? 今、見せてもらえますか?」
「わ! 私も見たい!!」
「はい! これが試作品のミルクハニーです。かわいいでしょ?」
「うっわ。確かにこれ、めっちゃかわいい。インスタ映えしそうだし、この右側のパッケージが特に斬新でかわいい!!!!!!」
「せっかくだから、味見もしてみて。コーヒーに混ぜると美味しいわよ!」
「わっこれは、大好きだった『たんぽぽミルクコーヒー』思い出す〜〜〜! ベタベタしなくて後味がスッキリ! 砂糖や蜂蜜とは全然違う、スッと消える程よい甘さだ。そうそう、これこれ!これはいいわあ……」
「『たんぽぽミルクコーヒー』を好きでいてくれた人に、そう言ってもらえるのが何よりの喜びだわ」
「まさか『ミルクコーヒー』が『ミルクハニー』に大変貌していたとは……」
すごすぎ母「ミルクハニーへの思い」
「まだ『ミルクコーヒー』すら誕生していない昔。できたばかりのミルクを濃縮した液体を舐めたとき『ミルクってこんなに甘いの…?』と感動したことを、今でも強く覚えてます」
「たしかに、これが『ミルクからできたもの』というのはびっくりしました」
「これを作った父や兄の“世の中にない新しいものをつくりだし、広めていきたい”という熱意を絶やしたくない。広く多くの人に知って欲しいんです」
「お母さん、病気の時も助けられたって言ってたよね?」
「そう。夫が亡くなった5ヶ月後に乳がんの手術を受け、気持ちが落ち込んで、なかなか食欲が戻らなかった時があって」
「それは、そうでしょうね……」
「その時は味の強いものを身体が受け付けなかったんですね。唯一食べることができたのが、ミルクから濃縮したあの液体。懐かしくて優しい甘さでね……」
「心や身体が弱っているときは、人間にとってやさしい甘さの食べ物がとても大事なんだと改めて実感したの。だから、そんな商品を世の中に届けたいですね」
「じゃあ今は『ミルクハニー』を売ることに専念して……」
「いえいえ、週2日はカウンセラーとしての仕事もバリバリやってるわよー!」
「パワフルすぎるでしょ」
「ですよね。僕はお母さんの手助けをするために日本に戻ってきたのに、こんなに馬力のある人に対して、手助けなんか必要なのかなーって(笑)」
「そこは親子で助け合いながら頑張ってくださいよ! この柔らかい甘さの『ミルクハニー』、多くの人に届くといいですね!」
バイタリティ溢れまくって修羅場くぐり過ぎの社長も、東京で新しい会社を立ち上げつつ、お母さんを手伝う息子の一石さんも、お忙しいところありがとうございました!
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後味すっきり、スッと消える程よい甘さでヨーグルトにかけても、コーヒーに入れても美味しすぎるミルクハニー
ホットケーキにかけてもおいしいよ!
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