こんにちは、「週刊少年ジャンプ」が大好きなライターの大島一貴です。22歳ですが心は少年です。
ある日、いつものように「ジャンプ」を読んでいたのですが……最近、こんな連載が始まったことをご存じでしょうか?
その名も「ジモトがジャパン」!
47都道府県を旅した自称「都道府拳」(※)マスターの高校生・日ノ本ジャパンが、毎週のように「都道府拳」を駆使して騒動を解決したりしなかったりする学園ご当地ギャグ漫画です。
※都道府拳……各都道府県の名産品・有名人などにちなんだ技を駆使する格闘技。たとえば「山形拳」の秘技は「さくらんぼ種飛ばし」
2019年4月からはアニメ化されることも決定しており、いまノリにノッている作品!
同じ「ジモト」を名前に持つジモコロ的にも超気になる存在!!と、ジモコロ編集部でも話題になっていました。
だいたい1話に1県のペースで新しい「都道府拳」が登場するのですが、この週の「都道府拳」は香川拳奥義「うどん DE マリオネット」。
☆この週のあらすじ
文化祭の劇「白雪姫」の最中、秋田県のジモーラ(ジモトオーラ)の暴走によりステージ上が氷漬けとなってしまい、役者たちは次々と転んで気絶。絶望的な状況の中、劇を成功へと導くため主人公・日ノ本ジャパンはうどんのコシを活かして役者を人形のように操って動かそうと試みる――。
いつものようにヤバい漫画だな……と思いながらページを繰っていくと、
ありました。毎週恒例の「広告募集」ページ!
「ジモトがジャパン」では、
「ジモト」にまつわる広告を読者から募集し、毎回1/3ページで枠外に掲載
しているのです。
しかも広告は、漫画がコミックス化された際にもそのまま掲載されるとのこと。
つまり「ジモトがジャパン」が売れ続ける限り、半永久的に広告効果があるんです。
さらにさらに、通常の広告は広告掲載費をとるのに、これは無料!! いやいや、無料ってありえなくない? 広告代理店に怒られたりしない?
……などといろいろ気になっていたところ、ジモコロ編集部から「取材してきてよ!ついでにジモコロの無料広告も出せないか聞いてきて!」と言われました。(無茶振りが過ぎる)
というわけで!
都内某所、某ビルへ直撃。そう、ここは……
集英社の「ジャンプ」編集部に突撃しちゃいました~!!!
ジャンプっ子の血が騒いでしまい、テンションが上がるあまり編集部に突っ立ち、いろんなところを見渡してはニヤニヤしちゃいました。完全に不審者です。
そんな不審者によるインタビューに快く応じてくださったのは、こちらのお三方。
写真真ん中:「ジモトがジャパン」作者の林聖二先生(顔出しNGのため、画像を加工しています)
写真右:現担当編集者の石川颯介さん
写真左:初代担当編集者の村越周さん。連載立ち上げから第7話まで林先生と一緒に漫画を作ってきた
なんと現役バリバリ、超多忙な「ジャンプ」作家の林先生と担当さんにお話を伺うことができました! 神対応ありがとうございますー!!!
「ジモトがジャパン」のルーツは山口県PR漫画
「毎週楽しく読ませていただいてるんですが、そもそも『ジモトがジャパン』のルーツはなんなのでしょう? 林先生の都道府県愛がすごかったから?」
「地方は確かに好きですが、そもそも4~5年前に自分の出身の山口県の漫画を描いたことがきっかけですね」
「山口県の魅力をボクシングの試合に合わせて紹介する『おいでませ山口』という漫画です」
ボクシングヘビー級チャンピオンであるマイケル・ロブソン(架空の選手)の8度目の防衛戦の模様に合わせ、ナレーションでひたすら山口県の魅力を説くヤバい漫画『おいでませ山口』
☆「ジャンプ+」の作品ページ(WEB上で漫画を閲覧できます!)
「(ボクシングの試合に合わせて地元を紹介するって発想はどこからくるんだ)」
「その後、連載に向けて案を考えていたとき、当時から担当だった村越さんが『おいでませ山口』を面白いと言ってくれてたのを思い出したんです」
「ふむふむ」
「それで『山口県かー……あ、都道府県の「県」を「拳」に変えればいいじゃん!でも山口県だけだとネタも少ないし微妙だから、47都道府県でやろう!』と思いついたのが始まりでしたね」
「(都道府県の「県」を「拳」に変えるって発想も一体どこからくるんだ)」
無料広告のコンセプトは「読者参加型」と「ジモトへの熱意」
実際にこんな感じで広告が載っています
「では、なぜ無料で広告を載せることになったのでしょう?」
「村越さんから『こんなのどう?』って提案されて、僕が『いいですね!』と乗ったんです」
「意外とあっさり! 発案されたのは村越さんなんですね」
「もともと広告とは別に、読者から『ジモトネタ』を募集して紙面のはじっこに載せるハガキ投稿コーナーは1話からあったんです」
「ジャンプ」本誌。読者からのジモトネタが掲載されている
「そういう読者参加型の企画が最近『ジャンプ』に少ないと思っていたので、やりたかったんです。そんな中、たまたまうちにあった昔の『ジャンプ』を読んでいたら紙面のはじっこのほうに広告があって……『こういうの最近ないけど、めっちゃいいなー』と思ったのが始まりですね」
「なるほど。昔の『ジャンプ』に載っていたのは有料の広告ですよね? 今の裏表紙に載ってるスマホゲームの広告みたいな」
「そうですね。ただ今回は『読者投稿の延長線上』という形で無料にしたかったんです。ハードルを下げたかったのと、お金目的というよりはギャグみたいなものだと思っているので。『うちの広告載ってるから10冊買おう!』とか『ご近所に配ろう』とか(笑)、そのくらいの規模感で面白いことできたらなーと」
「僕はそのへんは信頼してるので、編集者さんが思いついた面白いものには全部乗っかろうという気持ちでした」
「おおー、信頼感があるんですね。ただ、『ジャンプ』の他のページには有料の広告が載ってるわけですよね。その中で無料にするのは大変だったのでは?」
「社内調整は結構しました(笑)。その結果、作品のコンセプトにあった地元密着型の広告を選ぼうというルールならOKということになりました」
「上司の方から『無料はちょっと……』みたいに怒られたりしませんでした?」
「最初は驚かれましたね。ただ、『面白がってやりゃあいいんじゃない?』って許してくれました」
「『面白ければやる』ってスタンスは『ジャンプ』ならではだと思います」
「僕の好きな『ジャンプ』そのままだ……!! では、無料広告に載せるものを選ぶ際、気を付けていることはありますか?」
「やっぱり『地元を盛り上げたい』という気持ちのありそうなものは載せたいですね。掲載先のチェックはしっかりしますけど、掲載する会社や媒体の規模とかでは選んでいません。どこかの街の小さな定食屋さんが送ってきてくれたら面白いな、とも思いますし」
「そういう温かい感じ、いいですね! その定食屋さんに毎週『ジャンプ』置いといてほしい」
「やっぱり雑誌の楽しみのひとつとして、『あ、自分の投稿が載ってる!』っていう喜びがあるじゃないですか。この無料広告でも、そのくらい素朴な感じがあるといいなと」
読者の方が地元ネタを投稿したハガキがどっさり。左のステッカーは、投稿のお礼としてプレゼントしているもの
ジモトギャグには愛が必要。「ご当地ディス」に頼らない
「話題を変えて、作品についてお聞きします。最近っていわゆる『ご当地漫画』が流行ってるじゃないですか。その流れで47都道府県をテーマにしよう!ということだったんですか?」
「それは関係なかったですね」
「なんか最近のご当地漫画って、地元をディスる(けなす)作品が多い気がするんですよね」
「ああ、特に北関東あたりがよく槍玉に上げられてるやつ……」
「この作品では、最初に『絶対にディスりはやめよう』と決めました」
「僕にディスるセンスもないですからね」
「(林先生、謙虚だな……)それで主人公も『ジモトを愛する』っていうキャラになったんですね!」
主人公・ジャパンのジモト愛に満ちたキメ台詞!
「はい。なので『ジモトがジャパン』はある意味、最近のご当地漫画へのカウンターだと思っています」
「作品の中でどこかの地域を貶めるようなことはしてないですね。シティボーイのマスラオ以外は」
東京生まれ、菊池益荒男。自らがシティボーイであることに誇りを持っており、田舎をバカにしがち
「あいつはあのくらい『男塾』みたいな見た目にして、やたらシティボーイアピールをしてくるギャグキャラに振り切ったんです」
「マスラオのあの見た目でサチモス聴いてるギャップ、大好きです」
「ギャグキャラにした結果、作品内で『やっつけてもいい』キャラになるんですよね。そうすると毎回の話が作りやすいので」
「なるほど、バイキンマン的な。そんな風に考えられてキャラを作るんですね…! ところで、今はだいたい1話ごとに新しい都道府県が出てきていると思うのですが、47話以降はどうするんでしょうか?」
「ああ、それは……」
「なんにも考えてないですね」
「すがすがしい」
「まずは47話まで続けられるようにがんばります! まだ自分の出身の都道府県が出てきていない読者さんも待っててくれているみたいで」
「いまは1話1県ペースでやってますけど、いきなりいろんな県が出てきはじめたら、察してください」
「そうならないことを祈ります!!」
ジモトネタは、ニッチすぎないバランスが大事
「気になっていたのですが、ジモトギャグってどういう感じで考えているんですか? ジモト要素と面白さとの両立が大変そうだなと」
「その都道府県について石川さんと調べて、面白くなりそうなネタをピックアップしてますね」
「注意点としては、『その県の人しかピンと来ない』というネタはあんまりやらないようにしてます」
「そうか、日本全国で読まれる『ジャンプ』のギャグ漫画ですもんね。ニッチすぎる地元ネタだと、他県の人がわからないから笑えないのか」
「あんまりニッチすぎるとただのうんちくになっちゃうので。読者がわりと知っているものとか、『あー、あるある』と思ってもらえるものじゃなきゃいけないかなぁと。なのでこちらで調べすぎるのではなく、読者が『ちょっとこの県に興味出たから調べてみよう』ってなるくらいのバランスがいいと思ってます」
「うんちく頼りじゃなくて『うんちくじゃなくても面白い!』ってところが大事ですね」
「あとは、キャラにしゃべらせる方言もけっこう大変で」
「ああ、確かに!」
「秋田出身の『こまちちゃん』というキャラがいるのですが、こまちちゃんをたくさん喋らせたときは大変でしたね。そのときは秋田県の知り合いの方に監修してもらったおかげもあり、Twitterで『この方言やたら完璧なんだけどどうしたの?』みたいなツイートがあって嬉しかったです」
秋田出身、湯瀬こまちちゃん。主人公・ジャパンの華麗なる「秋田拳」を見てジャパンへの恋に落ちる
「ほんとは毎回現地に行けたらいいんですが、僕自身あんまり旅行とかしないですし……そもそも週刊連載のスケジュールだと無理ですね」
ジャンプ作家のスケジュールって?
「週刊連載といえば、ふだんはどんな感じのスケジュールなんですか?『ONE PIECE』の尾田栄一郎先生は1日3時間しか寝ていないという話も耳にしますが……」
「僕は大体、週のうち3日くらい寝てますかね……」
「そんな寝てないでしょう(笑)」
「まあそうですけど、ネームがけっこう時間かかるんですよね」
「基本的なスケジュールとして、金曜日に原稿が完成するのが理想なんです。だから『水曜日までにネームを完成させてください』って言ってるんですけど、だいたいネームが上がってくるのが金曜日ですね」
「先週なんか土曜日の夜でしたもんね」
「めちゃ他人事感出してますけど、大丈夫なんですかそれ」
「え、今のスケジュールそんなにヤバいんだ?(笑)」
「なんでですかね……」
「(大物の風格がありすぎる)そういえば以前、1週に2話同時掲載されたことがありましたよね? あれも相当大変なのでは?」
「連載開始のとき、貯金として余分に数話作ってたのでそれは大丈夫です。ただその貯金がなくなってるので、結果こうなってるんですが……」
「僕、ケツに火がつかないとやらないんですよね」
「そこは読者のためにがんばってください!!」
美術が「4」だったから漫画家をめざした!?
「そういえば、林先生が漫画家になったのはいつだったんでしょう?」
「いま29歳で、初めて原稿を編集部に持ち込んだのは24~25歳のときですかね。それまでは漫画は全く描いてなかったです」
「あ、もっと皆さん若い年齢から始められてるのかと思ってました」
「僕はフリーターをやってたんですが、ふと『あ、このままだとヤバいな』と思って……漫画を描き始めました」
「『このままだとヤバいから漫画描こう』って24歳とかで考えるのもヤバいけどね?(笑)」
「『自分は何が得意なんだろう?』って考えたときに、美術の成績が『4』だったんですよ。絵は人よりもうまいのかな?というのと、あとはお笑いが好きだからギャグ漫画をやろうかな、と」
「そこは『5』じゃないんですね」
「ほかは全部『3』だったので」
「なるほど…………?」
「それで漫画を1本描いて『ジャンプ』に持って行ったら、たまたま村越さんが見てくれて。そのとき読みながら笑ってくれたんですよね」
「なんかセンスはあるな、と思いました」
「笑ってくれたので『あ、これもしかしていけるかも……!?』と思ったら『全然ダメ』って言われました。『さっき笑ってたのは何だったんだよ!』とは思いましたが(笑)、そこからいろいろ教えてもらって今に至ります」
「編集部への持ち込みからすべてが始まったんですね。『ジャンプへ持ち込みするなら若いほうがいい』という話も聞きますが、どうなんでしょうか?」
「若さというよりは、伸びしろのほうが大事ですね。たとえば同じクオリティの作品だとしたら、『もう5年描いてます』って人よりは『初めて描きました』のほうが伸びしろがありますよね。そのあたりを個々で判断しています」
「なるほど。まずは描いて、見せるのが大事と」
「ぜひ出版社へ持ち込みをしてほしいですね。ネットで1発バズっただけだとなかなか食べていけなかったりもしますから」
「なるほど。ちなみに林先生は『ネットでやろう』という発想はなかったんですか?」
「まあ、パソコン使えないですからね(笑)」
「(ある意味、漫画家っぽい……のか……?)」
「それでは、今後の展開についても聞かせてください」
「とりあえずは連載を長く続けることですね」
「ギャグ漫画なので、アンケート結果を受けて『このキャラが人気あるからこういう展開に変えよう』というテコ入れはあんまりやりようがないですからね。僕の仕事は単純に、林先生に全力でノッて描いてもらえる環境を作ることです」
「47話以降が見てみたいので、本当にがんばってください。僕もアンケート出して応援します!」
おわりに
「そういえばちょっとご相談なのですが、あの無料広告欄にジモコロの広告を載せていただくというのはどうでしょう……?」
「うーん……『地方の広告を載せる』というコンセプトからずれてしまうので、正直ちょっと違うかなと……」
「あの枠って広告部とのもろもろのバランスで成り立ってるので、媒体の広告を載せようとするとまた調整が大変になるかも……すみません!」
「こ、これ以上ジャンプ編集部の負担を増やすわけにはいかない……!!わかりました!」
というわけで、ジモコロ編集部のもくろみはあえなく消滅。それだけ信念をもって作られている無料広告だということがわかりました。
ただ……載った気分だけでも味わいたかったので、(勝手に)こんな画像を作ってみました。
(※もしもジモコロが無料広告に載ったら……というイメージ画像です!実際の誌面ではありません)
こんな風に自分のジモトのことがジャンプに載ったら最高ですね〜〜!
ということでジモコロ読者の皆さま! ぜひ「ジモトがジャパン」にジモト広告を投稿してみてください!
この記事がきっかけで、読者の方の広告が「ジャンプ」に掲載されたら何よりです。
僕ももっとジモコロの取材を通してジモト愛を深め、「都道府拳」の使い手になれるように頑張ります!!!
ちなみに「ジモトがジャパン」のコミックス1巻は1月4日に発売されていますので、ぜひぜひ~! あなたのジモトにまつわるネタも出てきているかも……!?
ジモトがジャパン 1 (ジャンプコミックス)
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ご当地ネタ→〒110-8050 東京都千代田区一ツ橋2-5-10 集英社少年ジャンプ編集部「ジモトがジャパン」ご当地ネタ係
ジモト広告→jimoto_is_japan@shonenjump.com
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