高知県の馬路村って知ってる?
こんにちは、ジモコロ編集長の柿次郎です。今回は高知県の馬路村(うまじむら)に来たんですが、村長が不在だったので勝手に座らせていただきました。やっぱり村長の椅子ってフカフカなんですね。
馬路村が位置するのは高知県の東側です。高知龍馬空港から車で約2時間ぐらいかかる山奥に位置する村で人口は約1000人。総面積の約96%が山林に覆われており、魚梁瀬杉(やなせすぎ)という銘木を中心に林業で栄えてきた歴史があります。
そんな土地になぜやってきたのか…?
少し前に自身の徳谷姓のルーツを辿る記事を作ったら、高知県の徳谷地区に行き着いたんです。何かと高知県に縁があるようなんですが…
結果そこそこ話題になったおかげで、以前から親交のある高知県の広報活動をしている横山久志さんに「柿次郎さん、あの記事当たりましたね! 高知でも話題になっています。この調子で今度、高知県東部の記事広告をやってくださいよ!」と声をかけられたんです。
普段は銀座のアンテナショップ「まるごと高知」で働いている横山さん
これまで人気ライターのヨッピーさんやARuFaくんしか指名してこなかったのに…。
手の平を返したかのような身の振り様に僕は思いました。記事一発で評価が変わるのがインターネットなんだな、と。だったら、やってやろうじゃないか!
ただし、高知市内や四万十川といった知名度のある土地ならまだしも、高知県東部にわざわざ行く人はあまりいない説…。だったら個人的に大好きな「柚子」で有名な馬路村を取材させてくれー! 柚子の生産者に話を聞かせてくれー!!
ほら、柚子とハチミツを使ったドリンク「ごっくん馬路村」って有名じゃないですか。食べログでも柚子の皮が入ってるだけで3.5評価つけがちじゃないですか。日本人の繊細な味覚にいつも彩りを添えてきた「柚子」のことをもっと知るべきなんですよ!!
みんな大好き「ゆず」の二人も来てるし!
あの小泉進次郎も来てるよー! ブログにも4行でまとめられてるよー!
高野光二郎さんの応援で、高知県馬路村から一日がスタートしました。名物の「ごっくん馬路村ゆずジュース」を飲んでから役場前で今日の第一声。人口約970人の村ですが、多くの皆さんに朝からお越し頂きました。馬路村の里山の美しさ、忘れません。
4行…。
柚子で一攫千金を狙った人口1000人の村
前段の長さに辟易して多くの読者が離脱したかもしれませんが、今回は柚子に興味がある人に読んでもらえればミッション完了です。さて、まずは柚子の錬金術に成功したと言われている施設「ゆずの森加工場」へやってきました。
敷地内に入るといきなり大量のテニスボールが…! もしかして出産時に使われる「いきみ逃し」のテニスボールはここで作られている…!?
ウィルソンではなしに…!?
よくみたら柚子でした。
いやー、立派な柚子ですね。馬路村では有機栽培をしているため、表面がゴツゴツしているのだとか。東京でこのサイズの柚子を買おうと思ったら「高いからやめとこ」となりがちですが、さすが生産量一位の高知県。全部の柚子を有効活用しているそうです。大量の柚子を浮かべた風呂に浸かりてぇぇぇ。
やけに“柚子の香り”と“成功の臭い”がする立派な工場内へ入ってみます。
思わず目を奪われる村のメッセージが出迎えてくれました。馬路村はかつて栄えた林業が衰退し、「このままでは村の危機だ!」と崖っぷちに立たされた状況から、村の名産である柚子に目をつけて再建した歴史があります。村人と農協の職員が官民一体となって地域を盛り上げているんですよね。
ここに国が掲げる「地方創生」を成功させるヒントが詰まってる気がしてなりません。
ここからは馬路村農協の本澤侑季さんに案内してもらいます!
「ほおお、ここで柚子を絞ってるんですか?」
「そうです。柚子は10月末から12月頭にかけて一気に収獲するんですが、馬路村だけで年間約800トンは穫れますね」
「800トンですか。ウルトラマンの体重35000トンには遠く及ばないですね」
「身長40メートルのウルトラマンと比較されても困ります。この時期は土日含めて村人全員が柚子収獲に駆りだされて休む暇もありません。というのも、収穫したその日に搾汁するスピード感がないと美味しい柚子果汁を作れないんですよね」
「わー、それは大変ですね」
ここで馬路村がどういった経緯で柚子の加工品に力を入れ始めたのか、僕みたいなバカでも分かるビデオを見ることに。寝不足で途中寝落ちしかけたんですが、ある一人の情熱によって想いが結実したストーリーに触れて目が覚めました。
「本澤さん、馬路村の柚子ビジネスって年間売上33億円もあるんですか!?」
「2014年度の売上はそうですね。ポン酢しょう油『ゆずの村』は年間約340万本、柚子ドリンク『ごっくん馬路村』は年間約600万本、ほかにも柚子の加工食品や化粧品など、おかげさまで全国の人たちに支持されているんです」
「人口1000人の小さな村でその事業規模はすごい。まさに柚子で起こしたゴールドラッシュ…!地方創生が叫ばれる昨今、馬路村が見出した活路はすごく貴重な例になりそうですね」
「この結果に繋がるまでの道のりは、決して平坦ではなかったんです。むしろ苦労の連続で(笑)。村の森林組合が柚子苗の育成を始めたのが昭和38年。桃栗3年、柿8年…柚子は大バカ18年と言われるくらい収穫まで時間がかかるんです」
「気が遠くなる時間ですね…」
「収穫ができ始めた昭和50年代に馬路村の主要産業だった林業が輸入材木に押されて衰退してきて、このままじゃいかん!ってことで柚子の佃煮を作り始めたんですが…鳴かず飛ばずでした。そんな危機を察知した現在の農協代表理事・東谷望史がガラっと流れを変えてくれたんです。『柚子のしぼり汁』を携えて全国の催事場駆け巡り、時間と熱量を惜しまず投資していきました。この時点では赤字の連続です(笑)」
「おお、なにかドラマの予感が…!」
「その熱がジワジワと広がったんでしょうね。馬路村出身の神戸大丸・食品係長と意気投合し、デパートの目立つスペースを借りることができたんです。とにかく場所がよかった。一週間で127万円の売上を記録したんです。そこからジワジワと口コミで評判を生み、産直の通信販売も大成功し、昭和63年には『ぽん酢しょうゆ・ゆずの村』が“日本の101村展”で最優秀賞を受賞しました!」
「ゴールドラッシュの産声!!」
「村の歴史が変わるほどの反響でようやく売上が1億円を超えました。その後、新たに柚子の果汁を活用しようと開発したドリンク『ごっくん馬路村』も大ヒット。通信販売やネットショッピングで独自の販路を見出し、柚子の馬路村というブランドも確立することができましたね。すべてのきっかけは東谷望史さんの馬路村愛といっても過言じゃありません」
「今では県外観光客はもちろん、外国の方もはるばる馬路村を訪れているんですよね。危機感を持って情熱的に取り組めば、誰かが必ず手を差し伸べてくれる。お話を聞いてちょっと鳥肌が立ちましたよ!」
「こんな歴史があるので、馬路村は村民と行政が一体となって村の危機を乗り越えた自負があります。小さい村で観光資源が乏しくとも、たった一人の情熱で変えられるのかもしれません。もちろん周囲の理解と支えが欠かせないと思います」
「あと工場見学をしていて思ったんですけど、働いている社員の方が仕事に自信を持って取り組んでいるなぁと。活気にあふれていて、笑顔が絶えない職場ですね」
「ありがとうございます。自分たちの手で村を成り立たせている実感がそうさせるのかもしれませんね。村人全員が「柚子」の恩恵を受けていますし。また、車で1時間ほどの町民が馬路村で働いているケースも増えてきてきて、雇用の場として機能すれば村の人口も増えていくはずです」
「馬路村でも過疎問題は他人事じゃないんですね」
「いくら柚子ビジネスがうまくいっていても、日本全体の人口は減り続けているわけですから。高知の山奥に若者を移住させるのは簡単ではないですよね。それでも『馬路村で働きたい!』と思ってもらえるような努力を今後もしていきたいと思います!」
「一度遊びに来れば、馬路村の魅力が伝わるでしょうね。美しい村ってこういうことなんだなと感動しました」
この馬路村農協のポスターに魅力が詰まっているような気がして。田舎の温かさをコピーの力で伝えるのって大事! 僕も「ジモコロに妥協はしとうない」って言っていこうと思います。
危険すぎる柚子収獲の実態…
馬路村の成り立ちを理解した後、柚子の収獲体験をやらせてもらえることになりました。柚子収穫の達人である馬路村役場の白川さんに教えてもらいます。ゴリゴリ獲るぞ〜!
って、そういえば柚子がなってる状態って見たことがないような…。
え、こんな民家のウラに? しかも、すごい斜面だな…。
わー! すごい急斜面に柚子がなってるー!!
そして、いばらのトゲトゲがすごい!
吹き矢に使えそうなイカついトゲが剥き出しになっています。なにこれ。刺さったらヤバいやつじゃないですか? 凶器? もしかして柚子の収獲ってダイハード? ブルース・ウィリス呼んだ方がよくない?
「馬路村は大半が山林地帯のため、農業に使える土地が少ないんです。そのため村内の空いた斜面や狭い土地に柚子を植えていて、収獲が大変なんですよね。なおかつこのトゲでしょう? 手に刺さるのは当たり前で、普通のスニーカーで立ったトゲを踏んだら貫通するほどの威力を秘めています」
「軽い武器じゃないですか」
「しかも、手に刺さった状態でトゲが折れたら最悪で。刺さった場所によっては軽く身をえぐらないと取り出せません。それが嫌でいまだに刺さったままのトゲが数本…」
「ぎゃー!!!」
「しかも、この斜面! 高枝バサミで収獲するにしても、目線が上で首が疲れるし、腰への負担がすごいし、めちゃめちゃ大変ですね」
「子どもからお年寄りまで、収穫時期は毎日朝から夕方までこの作業をやるんですよ」
「ひえええ。柚子に殺される。しかも、枝と枝が重なってるから、高枝バサミを伸ばすポイントが見えづらいですね。長い高枝バサミをこの斜面の狭い空間で動かすのも大変だし、常に鋭利なトゲを気にしないといけないし、想像の100倍キツい…」
「そんなへっぴり腰じゃダメですよ!それそれそれ!」
顔つきが変わって柚子収獲の修羅と化した白川さん
開始30分で音を上げました
「ゼェゼェゼェ…」
「柿次郎さん、柚子のありがたみが分かりましたか」
「はい。まさかこんな大変だったとは…柚子が高価な理由も分かりました…」
「収穫期は毎日村人全員で取り掛かってるわけですが、この柚子あっての馬路村なんですよね。観光事業や商品開発など、苦労の上に成り立ってるからこそ、これだけキツい作業もやれるわけです。ぜひ来年の収穫期も遊びに来てください!」
「もうやだ…」
採れたてピチピチの柚子を食べさせてもらったら、酸っぱすぎて一瞬で10歳ぐらい老けました。
その後、「ごっくん馬路村」のジュースを飲んだら甘味が際立って最高に美味い…。アメと鞭を超える、柚子果肉とごっくん馬路村の組み合わせ。この一連の体験をすれば、柚子に対する印象がガラっと変わるはずです。東京にいたら“商品の過程”が見えないもんなぁ。
高知のおもてなしはエグい
ドンッ!
ドドンッ!
ズバーンッ!!
な、なんなのこの豪勢な料理は…? 取材を終えて、宿泊先の「馬路温泉」で地元の方々と飲もうとしたら、とてつもないおもてなしが待ち受けていました。
高知の郷土料理「皿鉢料理」、そしてシイタケやミョウガ、刺身こんにゃくなどをネタにし、柚子果汁を混ぜ込んだ酢飯で作る「田舎寿司」など、「こりゃ美味い!」と思わず柏手が飛び出すほどの絶品料理ばかり。マジで美味しかったです。
さらに追い打ちをかけてきたのが、酒の消費量が日本一とも言われている高知県ならではの酒飲み文化「菊の花」。遊び方はカンタンで。まず「菊の花〜♪ 菊の花〜♪」と歌いながら、裏返したお猪口を一人ずつ開けていきます。中に花びらが入っていたら、その時点で開けた分のお猪口に日本酒を注いで全部飲み干すという地獄仕様なんです。
元々は土佐のお座敷遊びだったんですが、大人数で飲むときは必ず盛り上がる文化で今でもガッツリやるらしく、せっかくのおもてなしだから乗っかるじゃないですか。そして負けるじゃないですか。
こんな感じでグイグイと日本酒を飲み干していきます。高知の日本酒「土佐鶴」の熱燗、美味いんですよ? でも量が量じゃないですか? しかも、5分に1回ぐらいのテンポで回していくため、当然ながら酔い潰れていきます…。終わらない争いに巻き込まれていく感覚がとにかく強烈…。
みんな「菊の花」には気をつけて!!
まとめ
ただ柚子が好きだから訪れた高知県馬路村。決してアクセスの良い場所ではありませんが、山林に囲まれた小さな村で生き生きと暮らす村人の姿こそ、人を呼びこむコンテンツになっているなと感じました。そのきっかけは普段見慣れていた「柚子」の価値を見出したこと。
柚子の魅力を最大限に引き出し、「六次産業(生産・加工・販売)」の循環を生み出した馬路村の仕組みこそ、地方創生のヒントになりえるのではないでしょうか。少なくとも馬路村は課題解決に約30年前から着手し、自分たちの足で生きていける知恵と技術を身につけています。
自分の頭で考えて、がむしゃらに動き続ける。そこで得た失敗と成功の積み重ねの果てに「自信」が芽生える…どの仕事にも共通する大切な感覚だと思います。少しでも気になった人は、少し遠いからこそ面白い、高知県馬路村へ遊びに行ってみてください!
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書いた人:徳谷 柿次郎
ジモコロ編集長。大阪出身の33歳。バーグハンバーグバーグではメディア事業部長という役職でお茶汲みをしている。趣味は「日本語ラップ」「漫画」「プロレス」「コーヒー」「登山」など。顎関節症、胃弱、痔持ちと食のシルクロードが地獄に陥っている。 Twitter:@kakijiro / Facebook:kakijiro916
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