こんにちは、ライターの松岡です!
まだまだ寒いこの時期、夕飯に鍋なんか食べたくなりますよね。
しかし、今年はスーパーの野菜が高い!
白菜一玉が900円というニュースもありましたが、特に葉物野菜がものすごく高いんです。
そんなご時世にも関わらず、都内の一等地で、低価格なのにおいしい野菜や果物を販売している八百屋さんがあります。それが―
『旬八青果店』というお店!
旬八青果店(五反田店)
住所|東京都品川区西五反田2丁目31-6 1F
営業時間|平日・土祝:10時30分~21時 / 日:10時30分~19時
※他に目黒警察署前店、三田店、大崎店、東急百貨店本店(渋谷)、赤坂店、白金台店、など
こちらのお店、オープンから4年で都内に11店舗を展開するという、異例の人気店。もちろん普通に新鮮でおいしい青果も人気なんですが、その他にも
・規格外の野菜を安く販売
・自家製のスムージーやサラダなどを販売
・野菜をふんだんに使ったお弁当を販売
といった特徴を持つ、かなり変わった八百屋さんなのです。一体何なんだこの八百屋は……。
そもそも野菜が高騰してるこの時期に、どうしてこんなに安く販売できるの?
『旬八青果店』を運営する株式会社アグリゲートの代表取締役、左今克憲(さこん よしのり)さんに秘密を伺ってきました!
規格外品を有効活用することで規格品も安くなる?
「今日はよろしくお願いします! さっそくですが、今ってかなり野菜が高騰してるハズですよね? 『旬八青果店』は何故あんなに安く販売できるんでしょうか」
「あ、やっぱり値段のことが気になります? 秘密は、普通のスーパーでは販売していない野菜を売っているところにあるんです」
「普通のスーパーで売ってない野菜!? 引き抜くと悲鳴を上げて、聞いた人間は発狂してしまうというマンドラゴラとか……」
「違います。いわゆる規格外とされる野菜を販売してるんですね。味はおいしいのに形が歪んでいたりといった……スーパーで販売する際にはハジかれてしまうような野菜のことです」
曲がったキュウリ
二股や三股になった大根
「形が少々歪んでいても、おいしさに変わりはありません。むしろ旬八では、『“おいしいのに”規格外になってしまったもの』という基準を守ってセレクトしているので、そこらへんの形が整ってるだけの野菜より、味には自信があります」
「なるほど。でもそれはあくまで、規格外の野菜が安いという話ですよね? 旬八さんには、もちろん規格外ではない普通の野菜も置いているし、それらが安い理由にはなっていないような?」
「それが実は関係あるんです。農家の方から野菜を仕入れる時、『規格外の野菜も一緒に買い取るから、普通の(規格品)野菜を安く仕入れさせてください』って交渉をしてまして」
「え、え? どういうこと? なんでそれで普通の野菜が安く仕入れられるの!?」
「日本では野菜の年間収穫量が約1300万トンくらいあるんですけど、そのうち200万トンは規格外の野菜として捨てられている。つまり規格外の野菜はただのゴミとして捨てるしかなかったわけです」
※収穫量と出荷量の差(農林水産省統計データ)
「あ、ああぁぁ~! 今まで捨ててた規格外品に値段がついて、お金になるとしたら……!」
「そう、農家にとっては、普通の(規格品)野菜を僕らに安く売っても、トータルで考えれば今までより儲かる、というわけです」
「農家の方も得だし、僕らもおいしい野菜を安く買える……最高じゃないですか」
「過去に1つの農家さんから規格外の野菜を60万円くらい買ったことがあって。今まで0円だったところに60万円ドンと入ってくるみたいな感じで、そうなるとある程度価格交渉にものってくれるんですよね」
「それは農家の方にも嬉しい話ですね!」
「最終的にお支払いする額が今よりも増える状態に、今畑のインプットとアウトプットを考えた時、アウトプットに全部価値つけましょうという話をまずしてます」
「それは規格外品を有効活用した新ビジネスですね!」
「例えば、とある有名なお漬物屋さんに毎日何トンも大根を卸してる農家の方がいるんですが、折れたものなどの規格外品を、毎日500kg捨ててるって言うんですよ」
「500kg!? それはもったいない」
「有名なお漬物屋さんが贔屓にするほどの農家さんなんで、めっちゃ甘くておいしい大根なんです。だから、折れてるやつもください!と。これがまた好評で」
本来は規格外として捨てられてしまう大根
人も大根も見た目じゃない!! そう、その通り!
「他には、通常捨ててしまうブロッコリーの葉とかも仕入れてますね」
「確かに、そんなものをスーパーで見かけたことはないです。おいしいんですか?」
「甘みがあって味が濃い! お浸しとして食べるとおいしいですね。あとは豚バラ・キノコと一緒に炒めたり、単純にゴマ油で炒めたり。ちなみに、炒める前に下処理として茹でておくと、舌触りがよくなって甘みも出やすいです」
店頭で販売されている「ブロッコリーの葉」。食べ方などもPOPに書かれています(※入荷や価格は季節によって異なります)
「それはおいしそうですね!ちなみに最近、野菜がものすごく高いですけ旬八青果店にダメージはないんですか?」
「そこまでないんですよ。さっきの決め方をしてるので。僕らの仕入れ方だと、別に規格外でもどんどん仕入れられるので」
「ただ、そんなに仕入れてたら、売れ残った場合に大きなマイナスになるんじゃないでしょうか?」
「普通はそうですね。でも旬八では、廃棄ロスを少なくするため、野菜がおいしいうちに、お弁当やスムージーという形で販売しちゃうんです」
「あぁ! あのお弁当やスムージーって、そうやって作られてたんだ! 僕は特にお弁当が好きで、毎週必ず買ってるんです」
八百屋の平弁シリーズ(税込:550円)
肉系と魚系のおかずが数種類選べるため、毎日食べても飽きないおいしさ! そして何と言っても野菜がゴロゴロ入っててヘルシー! 女子ウケ良さそう。
1番人気のお弁当は「鶏の塩麹漬け弁当」だそう
旬ムージー(税込:200円)
こちらはこだわりの野菜と果物で作るスムージー。濃厚な野菜の味わいと果物の甘さが口の中で広がります!
「何重にも考えられた『おいしい青果を安く売るシステム』が、めちゃめちゃうまく機能してますね」
「ありがとうございます。そういうシステムを、ちょっとおしゃれなロゴであったり、女性にもウケるヘルシーさであったりといったブランディングで統一してるんです。見た目の部分は、さらにテコ入れしようと思ってます」
「有能すぎてなんかもう怖い」
【保存版】プロが教える野菜や果物の旬リスト
「旬八さんが取り組む新しい仕組みに驚かされっぱなしなんですが、なぜスーパーではそういったことができないんでしょうか。八百屋さんとスーパーの違いって何なんですか?」
「一番の違いは、八百屋には目利きの人(青果の良し悪しを見極めて仕入れる役割の人)がいるってことじゃないでしょうか。スーパーは売り場面積も広いですし、基本的に送り込まれてきたものを並べるだけになってしまうことが多いので」
「八百屋は青果のプロが良いものを目利きして売ってるってことか……」
「僕らは農家に足を運んで、実際に食べさせてもらうことにしています。さらに、店舗で売ってる人にも商品を食べてもらって、それでおいしいと判断されたら売る、という感じですね。仕入れも販売もプロフェッショナルでありたい」
「うんうん、旬八に行くと、販売員さんがPOPで味の感想やおすすめの調理法などを書いてて、『信用できるわ~』と思っちゃいますね」
販売員がおいしさや調理法をちゃんと書いてくれてるPOP
それはいいけど寒いからという理由での30円値下げは何なんだ(嬉しいけど)
「そんな青果のプロにお聞きしたいんですが……実は僕、野菜や果物の“旬”って全然わからないんです」
「ああ、でも最近はハウス栽培なんかもあるし、それに産地によって旬は変わってくるんです。暖かい土地では早く旬がきますから」
「あくまで一般的なもので結構です。昔から『初物七十五日』と言って、旬のものを食べると寿命が75日延びると言われていますよね。ぜひ教えてください!」
「そうですね、思いつく限りで言うと……」
春
野菜=たけのこ、キャベツ、ピーマン、そら豆、玉ねぎ
果物=甘夏、パイナップル、キウイ、びわ、マンゴー
旬八オススメ!=高知県トマトの村さん 「大玉トマト」
夏
野菜=レタス、きゅうり、とうもろこし、オクラ、枝豆
果物=スイカ、メロン、すもも、桃、さくらんぼ
旬八オススメ!=茨城県旬八農場 「ゼブラ茄子・白茄子」
秋
野菜=しいたけ、舞茸、さつまいも、銀杏、ジャガイモ
果物=洋梨、ぶどう、いちじく、くり、かき
旬八オススメ!=鹿児島県 種子島産 「安納芋」、山形県 「舟形マッシュルーム」
冬
野菜=白菜、ほうれん草、長ネギ、レンコン、春菊、
果物=りんご、いちご、みかん、ラ・フランス、ゆず
旬八オススメ!=京都府京丹後市 まつみやファーム 「ほうれん草」
「こんな感じかな。年中 青果が食べられるようになって曖昧になりがちですけど、やっぱり旬のものって良いですよね」
「役立つデータをありがとうございます! 『好きなフルーツがもう少ししたら店頭に並ぶぞ……』っていうのを知ってたら、頑張って生きていけるような気がします!」
「八百屋の僕が言うことではないですが、人生もっと良いことありますよ」
古着屋めぐりが好きで中目黒に出店
「左今さんが都内で青果店を運営しようと思ったきっかけはどこにあるんですか?」
「もともと人材業界で働いてたんですが、あまりにも多忙で食事がほとんどコンビニ食だったんですよね。だから、働いている場所とか生活動線の中で、気軽に野菜を提供できるお店を作りたいなと思ったんです」
「思うのは簡単だけど、実行するのは大変なのでは……? 起業したのはいつ頃なんですか?
「2009年ですね。ただしその頃は、スーパーや通販などで野菜を販売する営業代行をしていました。2013年の10月に、やっと中目黒に旬八の一号店を出したんです」
「なんでまた中目黒を選んだんですか?」
「僕は福岡県出身で、こっち(東京)に住み始めたのは大学からなんです。その頃よく遊びに行ってたのが中目黒で。趣味が古着屋巡りだったんですが、当時の中目黒には古着屋が多く立ち並んでたんです」
「古着屋と八百屋にどんな関係が……」
「いや、関係はあまりないんですけど(笑)。センスの良い人が多いだろうから、旬八みたいな八百屋も受け入れられるんじゃないかって」
「これが当時の写真ですね。中目黒の駅を出てすぐのところです」
「……ん? これってどこからどこまでがお店なんですか?」
「このショーケースみたいなやつが店舗です。タンスを改造して作った1坪のお店ですね」
「タンス一個がお店のすべて!?」
「あ、でもこのタンス、アンティークのやつですよ」
「そこはこだわるんかい」
「古着屋の横に出店できるお店をイメージしていたので。このお店が結構 成功したんですよね。家賃が1ヶ月5万円だったんですけど、1日で5万円近く売れました」
「めちゃめちゃ儲かってる! 都会の人間、野菜足りなすぎ!」
「これはイケるわと思って、2ヶ月後に目黒に店舗を出しました。その後、五反田と赤坂、さらに東急百貨店にも出店して」
「ひょっとして、まあまあ調子に乗っちゃった感じですか?」
「いえ、物流上の戦略があったんです。店舗には2トン車で青果を運んでたんですけど、荷台に空きスペースがあったら無駄じゃないですか。近くにいくつも店舗があれば、満タンで運べるから効率的なんです」
「調子の乗り方まで戦略的……。急激に店舗数が増えて、何か問題は起きなかったんですか?」
「その時期に手が足りなくなって人材を募集したら、応募が来すぎちゃって、どうしようみたいになったことはありました。たぶん採用基準がゆるかったせいだと思うんですが」
「どんな採用基準だったんですか?」
「『笑顔で話せる』です」
「誰でも受かるわ」
株式会社アグリゲート、福利厚生をハイパー魅力的にしていきます。
— 左今克憲 (@sako_2) 2018年2月1日
□青果報酬
【 全商品30%オフ 】
※青果報酬なのに加工品含む
□まかない制度
【お弁当と旬ムージー1つ無料】
※1日6時間以上勤務https://t.co/LauiIy7HJ7
ちなみに現在、旬八を運営するアグリゲートの社員は、『青果報酬』といって、旬八の商品が30%オフで購入できます。福利厚生まで新しい……!
「他にも、5店舗以降はいろんな所に出店して失敗したりとか。お店を出せば出すほど赤字になるみたいな構造に、一瞬なりましたね」
「その時の赤字はいくら出たんですか?」
「1年で6000万円とか。ただ、直接 産地まで行って関係を作り、価値化されていない規格外品を価値化して、物流まで自分で構築すると、手間とお金は絶対かかるんですよね。6000万はその投資として必要な金額だったと思ってます」
「戦略上の赤字だったんですね」
「おかげで今の旬八青果店の経営スタイルができたんで、今の成功は、あの頃の失敗のおかげだったなと」
今後の旬八について
「昨年の12月にオープンした『旬八キッチン』では、長崎県の雲仙市とコラボをしてお店を運営していますよね。きっかけはどこにあったんですか?」
「きっかけというか、雲仙市の市長がいきなり店に来たんですよ。『雲仙のモノ取り扱ってくれんかね?』って」
「え、市長ってそんな急に、飛び込み営業みたいなことをするものなの」
「全国の市区町村って1700くらいあるんですけど、農業産出データ(農業生産活動による最終生産物の総産出額)によると、雲仙って35位なんですよ」
「めっちゃ上位じゃないですか」
「でも、全然知られてない。実際に雲仙に行ってみたら、野菜が溢れてるんですよ。東京ではすごく野菜が高騰してるのに。じゃあ取り扱おうってことになって、しばらくは既存店でフェアをやってたんですね」
「最初は既存の店でのフェアという形だったんですね。『旬八キッチン』をコラボして運営することになったのは、どういう経緯で?」
「フェアをやると売れて、取扱量がバッと増えるんですよね。じゃあ運送するための物流を作らなきゃなぁと。最終的に『お店があれば物流が作れるよね』って話になって、一緒に店を作って……」
「市長も社長もフットワーク軽すぎません?」
「今後の目標みたいなものはありますか?」
「現在では物流手段が10トントラックとかなんですけど、効率的に満タンにできてるかと言えば、できていないんですよ」
「物流の問題があるんですね」
「市場にたまたま商品があれば、最適な品揃えにできますけど、無い場合は? そういった問題を解決できる物流を作りたいですね。組織として、その整備に取り組みたいと思ってます」
「期待してます! 今日はおもしろい話がたくさん聞けましたが、そのすべてに野菜への愛があって感動しました」
「カッコつけるわけじゃないですけど、八百屋ですから、野菜への愛があるのは当たり前ですよ」
「素晴らしいですね。では左今さんは、肉より野菜が好き?」
「え?」
「…………」
「肉のほうが好き……かな」
「正直かよ」
まとめ
というわけで今回は、旬八青果店を運営している株式会社アグリゲートの社長に、経営の秘密を伺ってきました。
・安さの理由は規格外の野菜を仕入れることによる新しいシステム
・ロスをなくすために作ったお弁当やスムージーがこれまた人気
・古着屋めぐりが好きで中目黒に出店
・自社で生産・流通・製造・販売を構築している
古くからある八百屋さんを、新しいセンスで再構築して、経営手腕で人気店に仕上げた社長の話は、本当におもしろくてためになりました。
ちなみに僕も規格外の、ちょっとエッチな形の大根を購入してみました。お値段は150円
おでんの素で煮詰めます
シュールな芸術作品みたいな大根のおでんが完成
会社で振る舞ったところ、甘くておいしいと大好評! 150円の大根1本で10人近くおでんが食べられました。規格外の大根、マジでおいしくてお得ですよ!
(おわり)
取材協力「株式会社アグリゲート」
書いた人・松岡クジャク
1990年生まれ。千葉県八街市出身。
元テレビ番組の制作スタッフ(AD)で、現在は株式会社バーグハンバーグバーグ所属のアルバイト。好きな野菜は「長ネギ」。Twitter:@matsuokujyaku