はじめに
福井県・鯖江で、良いメガネを買いました。
かっこいいですね。
鯖江は、「メガネフレームの国内生産シェア96%」とメガネフレームを作りまくってるまさにメガネの聖地のような街らしいです。へ〜
クレヨンで描いた地図です。場所はだいたいこの辺。
なんで鯖江でそんなに作りまくってるのか気になってきましたし、私自身メガネをかけ続けて十余年。せっかくなんで鯖江で聞いてみることにしました。
メガネ一筋60年!鯖江の「谷口眼鏡」へ
今回話を聞いたのは、有限会社谷口眼鏡さま。メガネ一筋60年です。
代表の谷口康彦さんに、お話をうかがいました。
「本日はよろしくお願いいたしますです」
「こちらこそ。遠いところまで来ていただきありがとうございました」
「早速なんですが、鯖江市がメガネフレームの産地として活発になった起源って何なんですか? 2文字以内でお願いします」
「ふゆ」
「なるほど…。1905年に増永五左衛門という人が、『冬の間に農業の代わりに出来る軽工業』として村人に伝えたのがキッカケなんですね…」
「よく分かりましたね。そうなんです。この辺りは冬の積雪が厳しいので、その間の地域活性化という意味も込めて始めたんですよ。ちなみに増永氏の胸像は市内のメガネミュージアムに飾られています」
これがその増永五左衛門の胸像。
増永家は、旧足羽群麻生津村生野(現・福井市)の庄屋を務める旧家だったそうです。
メガネをかけていなかったので、一旦私のメガネをかけてもらいました。
「冬の間の軽工業と言っても色々あったかと思うんですが、どうして数ある軽工業の中でメガネフレームをチョイスしたんですか?」
「これは、明治から大正にかけての戦争が鍵になっているんです(※)」
「戦争と、メガネフレームの関係性…?」
「チッチッチッチ…」
「あっ、制限時間が!」
「時間切れです。では答えをどうぞ」
「え〜。兵隊が遠くの敵を把握できるように視力を上げた…とか?」
「残念、はずれです」
「チキショー!100万円のチャンスが!」
「正解は…『新聞を読むため』です」
「新聞?」
「戦争をして、勝敗などの情報伝達は、当時新聞しか無かったわけです。人々が戦況を把握するために新聞が読まれる。ということは…?」
(ざわ…
「目の悪い人も小さい字を読むための道具が必要になってくる。ということで、メガネの需要が急激に拡大していったんです」
「五左衛門、先見の明ありすぎ〜〜!青年実業家〜〜!!」
「当時は都心部で作っていたんですが、鯖江の人たちが努力を重ねて、品質的にも負けないぐらいのメガネを作って産業を大きくしていきました。そして戦火から逃れた鯖江が逆転したんです」
「なるほど〜地の利もあったということなんですね」
※【補足】増永五左衛門の弟・幸八さんが大阪でメガネのサック(袋)作りをしていた際に、兄・五左衛門さんに「メガネの需要が高まるぞ!」という話を持ち帰ったんだそうです。
「日本国内のシェア96%ってすごい数字ですよね」
「実際には鯖江市を中心とする近隣都市(福井市・越前市・越前町)を含めて『メガネの産地鯖江』なんですが、2014年ごろで335億円です」
「すごい数値だ」
「ですが、最近安価で買えるメガネ小売店が増えていて、産地にとっては打撃になっていますね…」
「ああ、確かにアレとかコレとか、街にすごく増えた印象が」
「『メガネは1万円以下で買えるんだという意識』が人々に根付いてきたことが少なからず影響していますね」
「時代に合わせて安くするという選択肢もあるかと思いますが、産地としては生き残りにくくなりますよね」
「まさにそうです。我々は自信を持って良いメガネを作ることは出来ます。しかし、こだわりが強いがゆえ安くすることは難しい。鯖江=良いメガネというポジションをしっかり作って今後もやっていくしかないですね」
「たしかに。生き残りをかけて良いメガネを作っていこう、という舵取りをする必要がありますね」
「ですね。鯖江はメガネの産地らしい…という認知は漠然とされてきたんですが、まだまだお客さんとの距離は遠いのが現状なんです」
「こんなに頑張っているのに…」
「例えば『今治のタオル』は完成品で、その場ですぐ使えますよね? 対して『鯖江のメガネフレーム』はあくまでパーツ。今治のタオルと同じように流通させたくても出来ないんです」
「ルートが少し遠回りになってしまうのは不利ですね。お客さんとお近づきになるために何かしているんですか?」
「最近の鯖江の取り組みでいえば、今年の成人式で新成人600人にメガネを配りましたね。郷土愛と鯖江産メガネのPRを兼ねて…」
↑その時のニュースがこちら
「あら!いいですね〜」
「地道ですが、こうした活動で少しでも鯖江のメガネが広まっていくといいなと思ってます」
谷口眼鏡が自信を持っている「強み」とは?
「谷口眼鏡さんは今年で60周年とのことですが、産地で600社以上が切磋琢磨する中での強みとは何なんでしょうか?」
「『TURNING』というブランドを持てたことですかね」
「『TURNING』…1996年の立ち上げから、一番大切に追求してきた“掛け心地”にこだわった谷口眼鏡が自信を持ってお届けしている、あの…」
「パンフレットを読みながらありがとうございます。まさしくそれです。1996年にこのブランドを立ち上げたんですが、当時14〜15人の工場で自分のブランドを持つのは非常に稀だったんです」
「ほうほう」
「というのも、1994年に倒産寸前まで追い込まれたことがあって。当時鯖江には大きい会社が三社あって、我々はその内の一社の下請けをしていたんですが、そこが潰れてしまったんです」
「芋づる式にピンチが訪れたんですね」
「残り二つの会社に営業をかけるのも手なんですが、絶対潰れないと思っていた三社のうち一社がそうなってしまったので、この先その二社も存続しているか分からない……。だったら小さいけれど、自分たちで相撲を取らなきゃと思って、独自のブランドを立てる決心をしたんです」
「おおお、まさにターニングポイント。生き残りをかけてプロダクトを作るという決断が功を奏したんですね…」
「今も鯖江で頑張ってる会社さんはそういったキツい経験をしているので強いんです。順風満帆な会社はありません」
「素敵です。工場も少数精鋭ですが、手作り感がすごく伝わります」
作業場の全景
こちらは小さな蝶番(ヒンジ)をフレームに埋め込む機械
一つ一つ丁寧に埋め込んでいきます
フレーム上部の「マユ」をつけていく作業。これも手作業!
熱を加えてフレームの歪みを整えて、規格通りのラインに修正する作業
高速回転する丸い布(羽布・バフ)にフレームを当てて研磨する作業
奥にひときわぐるぐる回っている機械が。
「これ何ですか?中でジャラジャラという音がしてます。超巨大おみくじ?」
「これはですねぇ」
「中にこのような木片とギザギザのプラスチックを大量に入れて、そこにメガネフレームを入れるんです」
「そして一晩ぐるぐる回し続けることで、フレームのツヤを出しているんです」
「へ〜!そんな過程があるんですね〜〜〜中の木片もプラスチックも、擦り切れてめちゃめちゃ丸くなってる…」
自分にあったメガネを選ぶコツとは?
「最後に、メガネのプロフェッショナルが考える『メガネの選び方』って何かありますか?」
「う〜ん、これは正直に言いますとね」
「はい」
「センスの良いメガネ屋さんの店員に見てもらうのが一番良いと思います」
「あ、でもそれやったこと無いですね。メガネを買う時は、店員に聞かず自分で無難なやつ選んだりしてるかも。奇をてらったデザインは買うのが怖い…」
「メガネはそもそも視力を良くすることが最優先の医療器具。デザインは二の次になってしまうかもしれませんね」
「最近めちゃめちゃなデザインのパーカーを『似合う』っていう確信があるから買ったりしますけど、メガネを似合う重視で買ったことは無いですね〜」
「自分に似合うメガネを選ぶセンスを身につけるのはなかなか難しい。
そもそも、他人が見る顔の印象はほぼ目や鼻に集中しているでしょう。メガネはそこに位置づけるもの。目や眉の形、鼻やアゴの印象など…客観的な視点で似合う、似合わないを判断するのは大変です。
メガネアドバイザーという職業もあるくらいですから、やはりセンスの良い店舗、その店員さんに選んでもらうのが一番!」
「じゃあ買うぞ〜〜」
というわけで、めがねミュージアムにやってきました。
メガネの歴史が分かる博物館を見た興奮冷めやらぬうちに、そのままメガネも買えるという便利なミュージアムです。
博物館には有名人のメガネが寄贈されています。これはさだまさしさんのメガネ。
これはダブルメガネ…ではなく昔の鉄製眼鏡式双眼鏡と言った歴史を感じるものまで。
そしてミュージアム内部のメガネ屋さん。普段手を伸ばしたことのないかっこいいメガネがたくさん並んでいます。
アドバイザーの高宮さん曰く、「見た目が派手なので、メガネも遊びをきかせた派手なものでもいいかも」とのこと。
ちょっと試しにかけて見てもらいます。
ウケました。
ウケたし、色々かけてみてその場にいた人全員が満場一致で「それが一番似合ってる」と言ってくれたやつに決定!いつも買うようなところではやってくれないようなありとあらゆる視力検査で私の目をめちゃめちゃ調べてくれました。
で、これが私が購入した谷口眼鏡さんの「TURNING Step / TP-325(レンズ込みで約38,000円)」ってやつ。全員に似合うと言われつつ、いつもかけてるようなものとはタイプの違う、かつ自分の今の年齢や見た目に合ったものを選んでみました。
何より、MADE IN JAPANが良い!
というわけで、今回はこの辺で。
鯖江のメガネ産業を支えるのは、メガネに対する愛情を持ち、メガネ作りにひたむきに情熱を注ぐ職人さん達の姿でした。これからも「メガネ=鯖江」というイメージが定着するように頑張って欲しいです!私も一端のメガネかけとして、応援しております。
それではさようなら。
▼取材協力
・谷口眼鏡
書いた人:まきのゆうき
株式会社バーグハンバーグバーグで働く人。姉妹メディア「オモコロ」でたまに記事を執筆。かつて「メガネバリヤー」というテキストサイトを運営していた。Twitterアカウント→@yuuki(凍結中)