ジャラジャラ……ジャラ…………
パッ…シィィ~~~~~ン!!!
囲碁……
それは日本では平安時代から親しまれる「対戦型テーブルゲーム」である。白黒の石を、碁盤と呼ばれる板へ交互に配置し、最終的に、より広い領域(地)を確保することを目的とする。
あ、こんにちは、ライターのもりれいです。
みなさん「囲碁」を知っていますか? 名前を知っている人は多いと思いますが、じゃあルールは? と聞かれると……ほとんどの人が答えられないのではないでしょうか。
私は囲碁が趣味なので、初めて会う人にはいつも「囲碁って知ってます?」と聞くんですが、返ってくる答えは99.999%コレです。
「あぁ『ヒカルの碁』のやつでしょ?」
いや、確かに『ヒカルの碁』は名作ですよ。
伊角さんとの対局で、ヒカルが盤面に佐為を見つけるシーンなんて、もう何十回も読んでるのに、未だに号泣してしまいます。
でも、碁を知っていたらもっとおもしろいんです! 本当です! 信じてください!
だからみんな、もっと碁をやってくれ~!!
というわけで、やってきたのは大阪府・水無瀬にある「囲碁サロン 関山」。
こちらで、関西棋院のプロ棋士として活躍する関山利道九段に話を伺ってみましょう。
実はこの方、なんと初代「本因坊タイトル」を獲った方の孫なんです!
関山利道
実父は関山利夫九段、実祖父は第一期本因坊 関山利仙という関西棋院きってのサラブレット。また、「囲碁サロン 関山」にて一般の方に碁の指導も行っています。
プロ棋士から見た『ヒカルの碁』
「こんにちは! 今日は碁のおもしろさと『ヒカルの碁』について、プロ棋士の意見が聞きたくて伺いました!」
「はいはい、僕でわかることなら何でもどうぞ」
「そもそも関山先生は『ヒカルの碁』のことを、ご存知なんですか?」
「もちろん! 大好きな漫画です!」
「『ヒカルの碁』が流行したとき、どう感じました? 当時は囲碁が漫画になること自体、珍しかったと思いますが」
「あの頃 僕はすでにプロ棋士になっていて、仲間と『囲碁が漫画になるなんてね~』と話していたのを覚えています。その後、まさかあんなブームになるなんて思いもしませんでした」
「周囲の反応はどうでしたか?」
「関西棋院で院生師範(プロ候補生を指導する仕事)をしていたことがあるんですが、囲碁を始めたきっかけが『ヒカルの碁』だという子供が多かったですね」
「『ヒカルの碁』がきっかけで囲碁を始める人が増えたとは聞いていましたが、プロ候補生までも……」
「囲碁界全体でもかなりの人が読んでいたんじゃないでしょうか。アニメにもなって、『囲碁』という言葉が一般の人にも普及して……」
「『俺の時代が来た!』って思いました?」
「それは思いませんでした(笑)。ただ、囲碁の時代がきた!とは思ったかな。囲碁という文化が海外にも波及していって囲碁人口が爆発的に増えたのは、とてもありがたいことだと思いました」
「プロ棋士の方に是非聞きたかったことがあるのですが……『ヒカルの碁』の藤原佐為って、強いんですか?」
藤原佐為
作中でも1~2位を争うほど強い。その正体は、平安時代に天皇の囲碁指南役をしていた棋士の霊(?)。主人公・ヒカルにしか見えない。ヒカルの前には実在の棋士・本因坊秀策にとり憑いていたという設定。
「藤原佐為が強いかどうか……? めちゃくちゃ強いと思います!」
「おぉ、『ヒカ碁』ファンなら嬉しい言葉ですが……プロがそう思う要素って、漫画のどういう部分にありましたか?」
「そもそも本因坊秀策の中身が藤原佐為という設定なので、出てくる棋譜(対局の記録)も秀策そのものです。つまり囲碁の歴史上最強と呼ばれた本因坊秀策と同じ強さということです。そりゃ強いですよ!」
「とはいえ、囲碁は日々打ち方が進歩していますよね。秀策の棋譜だって研究されてるはず。一方、昔の棋士は現代の打ち方を知りません。ということは、対局すれば現代の棋士のほうが強いのでは?」
「どうでしょう。マンガの中の佐為のように、『現代の戦い方を学んで、さらに強くなってしまう』気がします。残された棋譜を見ると、彼がどれほど強く、柔軟な思考の持ち主であったかわかります」
「ホントにそこまで強いの?」
「たいていのプロ棋士は、秀策先生なら今でも間違いなく最強だと答えると思います」
「本因坊秀策・最強説……うわぁ、『そうであってほしい』と思ってたことを、プロ棋士の口から聞くとゾクゾクしますね!」
本因坊って結局なんなの?
「先ほどから“本因坊”の名がよく出てきますが、囲碁のことも『ヒカルの碁』のことも知らない読者のために、あらためて“本因坊”についてお聞かせください」
「そもそも“本因坊”というのは、江戸時代に囲碁が強かった家系のひとつである、本因坊家からきています」
「家(け)! 個人ではなく家系なんですね」
「当時は、お城で碁を打ってお殿様に披露するお城碁というのがあって、本因坊家を含む四家が切磋琢磨していました。その中でも最も多くの名人を輩出し、一番強いとされていたのが本因坊家です」
「さらにその中でも、最強と噂されるのが本因坊秀策だったと」
「はい、秀策先生は今でも最強の棋士に名前を挙げる人が多くいる伝説の棋士です。平安の本因坊から数えると、150年後くらい……江戸時代に活躍した棋士ですね」
「一体どのあたりが強いとされてるんですか?」
「有名なエピソードとしては、1849年から御城碁に出仕し、それ以後19戦19勝無敗の大記録を作ったというのがありますね。特に先番(先手)での打ち方は堅実無比と呼ばれ有名です」
「おぉ……。そんな天才を輩出したのが本因坊家だったと」
「ですね。本因坊の名は長いこと家元制だったんですが、1938年(昭和13年)、二十一世本因坊が引退してからは、実力制になりました。現在でも存在する『本因坊』の名を冠したタイトル戦がそれですね」
「囲碁界の七大タイトルのひとつですよね」
「そうです。で、そのタイトルを初めて獲ったのが、僕の祖父というわけです。第一期本因坊 関山利仙ですね」
関山先生の宝物を見せて頂いたんですが、その中にはお爺様の写真も。写真からでもすごい闘志が目に見えるよう!
初心者でも囲碁が打てるようになる3つのルール
さて、この記事は“囲碁を普及させたい”というのも目的のひとつなので、ここで趣向を変えて、「初心者でもわかる囲碁のルール」を関山先生に教えてもらいましょう。
初心者代表として、この人をお呼びしました!
ジモコロ副編集長のギャラクシーです。
囲碁に関しては『ヒカルの碁』の知識しかありません。なお、好きなキャラは伊角さんとのこと。
「よろしくお願いします! 囲碁って分かりにくくてとっつきにくいよなぁ~というのが正直なイメージです!」
「まあ、みなさんそんなイメージだと思います。分かりにくそうに見えますが、実は覚えるべきルールは3つだけなんですよ!」
「嘘ぉ!」
「本当です! 実際にこれでやってみましょうか」
「あの~、これ、盤もちっさいしヒカルの碁のキャラも描いてあるし……明らかにお子さま用のやつですよね? 脚が生えてるようなカッコイイ碁盤でやってみたいんですが……」
「これで十分だって! これは6✕6の盤だけど、ちゃんとしたやつはもっと大きいんですよ? 最初からそんなのでやると絶対混乱するって!」
「その通り。最初はできるだけシンプルに学んだほうがいいです。では、まず石を持ってみましょうか。ギャラクシーさんは先番(先手)なので、碁石の色は黒です。人差し指と中指で、中指を上にして石を挟み込む感じで…」
「こ、こう…ですか…? 」
「そうです! そのまま石を置きましょう。空白の部分ではなく、線が交差してる交点に打ってください」
ペチッ
「良いっ! 良い感じですよ~! ピーンとした小指がいいですね! もしかして才能がおありなんじゃ……?」
「営業トークすごいな」
ルール1:石は交点に置く
「囲碁は交代で石を置いていきます。次は僕、その次はギャラクシーさん、さらにその次は僕、という感じですね」
「そのへんは将棋と同じなんですね」
「さて、ちょっと局面が進んで、こういう状況になったとしましょう。で、ここに僕が石を置くと……どうなると思います?」
「……裏返る?」
「オセロかい!ていうか碁石は裏返しても黒は黒、白は白です」
「正解は、取られるでした!」
「えええー! 初めて知った! “取る”という概念があるゲームなんですね。次々と置いていくだけのゲームかと思ってた」
「やったことのない人って、ここまで知らないものなの……」
ルール2:石の周りを囲まれたら取られる
「ていうか、囲まれる前に移動したらダメなんですか? 将棋みたいにタテヨコナナメに“駒を移動する”という概念はないんですか?」
「残念ながら移動はできません。それができればどんなに楽かと思いますが」
「じゃあ、どこかに到達したら勝ちってわけでもないのか……。どうやったら決着がつくんでしょう」
「打ち進めていくと、こんなふうに白と黒の境界線がはっきりとしてきます。こうなったら終局です」
「???これで終わり? でも、どっちが勝ってるか全然わからないんですけど」
「白の陣地と黒の陣地の交点を数えて、多い方が勝ちです」
ルール3:自陣の交点の数が多い方が勝ち
※ここではわかりやすくするため、コミ(ハンデ)がないものとして数えています
「おさらいしましょう!
ルール1:石は交点に置く
ルール2:石の周りを囲まれたら取られる
ルール3:自陣の交点の数が多い方が勝ち
この3つさえ覚えれば、ほとんど碁は打てます!」
「なんとなく分かったような……でもこれ、やっと入り口にたどり着いただけって状態ですよね?」
「どこまで行っても、基本はこの3つです。ここから、難しい戦術などに発展していくんですが……それは、やり始めてから覚えればいいと思います」
「囲碁の魅力ってすごく伝えるのが難しいですよね。現に目の前のギャラクシーさんに伝えることもままならないわけなんですが、いったいどうしたらいいでしょう?」
「たとえばさっきみたいに小さな碁盤だとすぐ終わるのでとっつきやすいです。大きい碁盤も、ようするにあれと同じことを19✕19でやってるだけなので」
「19もあるの?! ちょっとやってみた僕からすると『途方もねぇ!』って思っちゃいますね。もう永久に小さい碁盤でいいわ」
「いつかギャラクシーさんにも、小さい碁盤を狭く感じるときが来ますよ」
「プロみたいなこと言うな」
「…ちなみに、19✕19の碁盤っていくらくらいするんですか?」
「ピンキリですけど、これは5万円くらいかな?」
「ご、5万……!!」
「あ、今は盤を買わなくても、『囲碁クエスト』という無料アプリもあります」
「『囲碁クエスト』私もやっているんですが、関山九段もやられるんですか?」
「僕もやっていますし、やっているプロはけっこういますよ。プロから初心者まで楽しめるアプリだと思います」
「5万の碁盤を買うのは難しそうなので、僕はアプリにしておきます……」
プロ棋士って毎日何してるの?
初心者でもわかる囲碁のルールを解説できたところで、さらに深い話を聞いていきましょう。プロってどうやって生活してるんでしょうか
「関山先生のようなプロの棋士って、どうやって収入を得ているんですか?」
「収入は、プロ同士の対局なら対局料、アマチュアの方への指導碁なら指導料などがあります。他にも講演したり、本を書いたり……ただ、メインのお仕事はやはり対局です」
「対局料というのは、勝っても負けても必ずもらえるものなんですか?」
「ボクシングのファイトマネーみたいなもので、負けても対局料は出ます。さらにタイトルを獲れば賞金ももらえます」
「囲碁の対局は何時間もかかりますよね。その間どんなこと考えてるんですか? 『ヒカルの碁』みたいに、『まさかそこに打ってくるとは…!!』とか『右辺が囲まれただと!!??』みたいなことは思うんですか?」
「思いますよ。もっと何十倍のスピードでですけど」
「想像もつかない。それが九段の世界なのか……」
特別に見せて頂いた九段の免状には「将(まさ)に神域に達す」という文字が
「長い対局の場合は、さすがにずっと集中してるのは無理なので、他のことも考えます。『終わったらどこ行こうかな~?』とか」
「え、そうなんですか?! もっとストイックなものかと……」
「どんなゲームでもスポーツでも同じだと思いますが、集中しっぱなしだと、逆に集中できなくなってしまいます。自分をベストな状態に持っていくためには、適度にリラックスすることも大切ですね」
「なるほど、適度なリラックス! 仕事の時に活かしたいと思います! 今日はご協力本当にありがとうございました! 最後に、関山九段が『ヒカルの碁』でいちばん好きなキャラクターを教えてください」
「もちろん 藤原佐為です!」
「即答!」
「佐為は実在していませんが、本当に真摯だし、強いし、ダントツにカッコいいですよ! そう思いません!? 思うでしょう?」
「あ、は……はい」
「自分の対局中にふと『もし佐為だったらどう打つかな?』と考えたこともあります」
「(……ひょっとして取り憑かれてる?)」
おわりに
関山九段は、毎年文化の日に行われる島本町の文化祭で囲碁イベントを開催されています。
囲碁棋士といえば、ただでさえハードな職業なのに、地域のため・囲碁普及のためにと活動されるなんて、まさにスーパーマンですね!
私はそこまでのことはできないので、とりあえず『囲碁クエスト』で修行しつつ、囲碁の素敵さを伝えていきたいと思います。
みなさんも、ぜひ…!!
(おわり)
住所:大阪府三島郡島本町水無瀬2-2 善歯科医院2F
最寄駅:阪急水無瀬駅・JR島本駅から徒歩5分
電話:075(962)3747
書いた人:もりれい
テクニカルライター 兼 webライター。北海道出身、大阪府在住。取説が好き。
Twitter|個人ブログ|取説ユニット「テク×テク団」HP