皆さんは「ゲートボール」を知っているだろうか?
「ああ、おじいちゃんおばあちゃんが広場でノホホンと球を打つアレね」と思った人も、ゲートボールのルールを聞かれるとほとんど答えられないと思う。
何がどうやったら勝ちになるのか? そもそもなぜ、老人はあんなにゲートボールをやるのだろうか?
知ってるようで知らないスポーツ、それがゲートボールだ。
もしかすると傍目には気づかないだけで、とんでもない快楽が潜んでいるのではないか。そこに快楽があるとなっては、いてもたってもいられない。
埼玉県の「彩の国くまがやドーム」でゲートボールの全国大会があると聞きつけ、さっそく現地へ向かった。ゲートボールの“甲子園”的な聖地らしいが、そもそも全国大会があるのが意外だ。
会場の中へ入ると、驚くべき光景が広がっていた。
子どもがゲートボールをしている!!
と思ったら海外の方まで! 皆とても楽しそうにゲートボールに興じているではないか。
目を見張りつつ会場で取材をした結果、ゲートボールに関する4つの意外な事実が発覚した。
もはやゲートボールは「老人の娯楽」などではなかった。世界で愛される一大スポーツ・ゲートボールの世界へ、いざご招待しよう。
もともとゲートボールは「子どもの遊び」から始まった!
今でこそ高齢者が楽しむものというイメージだが、ゲートボールは子どものために生まれた日本発祥のスポーツだ。
1947年、戦後の混乱期。北海道芽室町(めむろちょう)の鈴木栄治氏(のちに和伸に改名)がヨーロッパの伝統的競技「クロッケー」をヒントに考案した。
広場に子どもたちを集め、遊びながらルールを完成させたそうだ。
その後、1964年の東京オリンピックをきっかけに、日本全体でスポーツフォーオール(国民皆スポーツ)というムーブメントが起きる。そのなかで、ゲートボールも爆発的なブームに。全国大会も開かれるようになった。
この日、取材場所で開催されていたのもジュニアと社会人の全国大会だ。
現在、シニア層のプレーヤー数は減少傾向にあるが、小学生から高校生にかけてのジュニア層のプレーヤーが少しづつ増えてきているという。
いったい、どんな子どもたちがゲートボールチームに所属しているのだろう?
小1からジュニアチームでゲートボールをしている
岐阜県「緑ヶ丘ジュニア」の福井監督に話を聞いてみた。シニアの経験者がジュニアの指導をしているチームが多く、福井監督もプレーヤー歴20年のベテラン。
「まずはゲートボールのルールから伺っていいですか」
「はい。ゲートボールは5対5のチーム対抗戦でプレーします」
「番号順に、自分の番号が描かれたボールを打つんです」
「なるほど、10人だからボールが10個と」
「ボールの数字が自分の打つ順番ですね。コート内には第1〜第3のゲートがあって、ボールがゲートを通過すると得点になります」
「ボールが各ゲートを通過するごとに1点、ゴールポールに当てると2点。30分のゲームのなかで、チームの合計得点が多いほうが勝ち。すごくざっくり説明すると、こんな感じですね」
「わりとシンプルですね」
「ただし、ゲートを通すことだけを考えると勝てません。ゲートを通したあとどこにボールを置くか、相手のボールをどう防御し、味方をどうサポートするかがポイント」
「なるほど、打ったボールはグラウンドに残るから、それを利用すると」
「その通り。戦況を見ながら作戦を立てなければいけない『知的スポーツ』なんです」
「おお…でも、結構小さな子どももチームにいますよね」
「うちは小学校1年生から高校3年生まで所属してますよ。団地の子どもたちで作ったチームで、今は全員で11名。今年で結成10年目です。みんな部活もバイトもあるしね、なかなか練習できない。試合前だけでも来てねって言ってますよ」
「練習試合はどうしてるんですか?」
「年寄り連中と混ざってやります。子どもたちの面倒を年寄りに見てもらうんです。『こんな子どもとできるなんて楽しくてしょうがない』って人がいる一方、遊びながらやりたい人たちは『面倒なのはいやだなあ』と子どもたちが入るのを敬遠します」
「難しいですね」
「『2~3か月もやれば上手く回るよ』って説得しても『我々は元気なうちに楽しくできれば、それでいいや』って人もいるしね」
「『カワイイ子どもたち大歓迎!』ばかりでもないと」
「だから中学・高校にゲートボール部がもっと増えたらいいんですけどね。せっかく小学校から始めても、中学に入るとやれる環境がなくなってしまう。なので、私たちがクラブチームを続けることで、ゲートボールを続けられる仕組み作りをしていきたいです」
なぜか「進学校」にゲートボール部が多い理由
ゲートボール部のある中学・高校は少なく、続けていくのが難しい。
そんななか、意外な学校にゲートボール部があった。
それが全国トップクラスの進学校、東京都の「開成高校」だ。東京大学合格者数の全国一位を何度も獲得している。
ほかに青森山田高校や栃木県の作新学院にもゲートボール部がある。いずれも部員のほとんどが特進クラスの生徒だという。
進学校や特進クラス御用達の部活。これは知的だ。ゲートボールがどれだけ知的なのか、開成高校ゲートボール部主将の太田さんに聞いてみた。
「ゲートボール部に入ったきっかけはなんですか?」
「クラブ体験会で、先輩に打ち方を褒められまして。向いているのではないかと思い入部しました。週3回練習がありますが、ハードに動き回るスポーツではないので勉強と両立できます」
「知的スポーツと言われますが、ゲートボールのどの辺りが知力の使いどころでしょうか」
「ゲームの中で複数のボールを使うので、作戦が複雑なんです。サッカーや野球、テニスは同時に使うボールが1つですよね。でも、ゲートボールは10個もボールを使います。それを赤白交互に打っていく中で作戦を組み立てるのは、頭を使うんです」
「開成チームの作戦ってどんな感じですか?」
「実現可能な戦略を確実に行うことですね。理想的な作戦を考えても実行できなければ意味がありません。自分たちの技術力をしっかり把握して、実現できる最善策をとります」
「ち、知的……!ゲートボール部に入って良かったことってあります?」
「勉強が忙しいので、あまり部活動に時間をかけられません。こうして仲間とゲートボールをするのは楽しいですし、リフレッシュできるいい時間になっていますよ」
プレー中の表情にも、知性の香りが漂っている。
ゲートボールは、体への負担が少なくて勉強と両立させやすいスポーツ。だから、進学校にはゲートボール部が多いのだろう。
ウガンダからやってきた青年。「クールなゲートボールをアフリカ全土に広めたい!」
ゲートボールをプレーしてるのは日本だけではない。世界五大陸の50ヵ国以上でプレーされている。
とくにアジア圏の競技者が多く、中国にいたっては550万人以上もプレーヤーがいる。日本の5倍以上だ。
この日も一人の青年がゲートボールを祖国ウガンダで広めたいとやって来ていた。「アフリカのハーバード」と言われる、ウガンダ共和国のマケレレ大学で経営学を学ぶロバート・バカゼさん(28)だ。
ロバートさんがゲートボールを知ったきっかけはYouTube。たまたま見かけたゲートボール動画にはまり、「アフリカ大陸に広げたい!」と壮大な構想を抱いて、日本のゲートボール連合へ猛アプローチしたそうだ。
熱意にほだされた連合は、2年半前に1セットのゲートボール用具をウガンダへ送った。そして今回、ロバートさんは念願叶って来日をはたしたのだ。
「日本からゲートボール用具が一式送られてきたときはどうでしたか?」
「そりゃあ、すごく嬉しかったよ!ゲートボールへの想いが届いて感激したね!その道具で大学の友達と住んでるナンボレ村の人たちと練習してるよ」
「友達を誘ったらどんなリアクションだったんでしょう」
「スポーツ好きの友達だし、ゲートボールによく似たマレットゴルフをよくやってたからすんなりと楽しめたよ。ゲートボール用具がカラフルでカッコ良かったのも気に入ってた」
「ウガンダではどんなスポーツが人気ですか?」
「サッカーとバスケが特に人気だね。僕はどんなスポーツも大好きで、卓球、バスケ、フロアボール、サッカーをやってるよ」
「なんでもやるんですね!そんな中で、ゲートボールのどこに魅力を感じたんでしょう」
「そうだね、まずはチームスポーツということ。あとは考える要素が強いスポーツだってことだね。今日も試合を見て、こんなに色んな作戦があるのかと驚いてるよ!」
「わざわざ日本に来た甲斐がありましたか」
「GOOD!もちろん!すごく良かったよ!ウガンダではYouTubeや雑誌でしかゲートボールに触れられないからね。つきっきりで解説をしてくれたから、いろんな戦術を学べたよ。あとはこの腕につけるスコア記録用の器具が最高にクールだよ。大会の運営を生で見られたのも大きいね」
「将来はアフリカでも大会を?」
「そう、ゲートボールをアフリカに広めるためにはこういった大会が必須だと思う。だから、どうやって運営してるか分かったのは大きな学びだ。将来的にはアフリカ全土でゲートボール選手権を開催するのが夢なんだ。ゲートボールを通じて平和で友好的な世界になったらいいよね」
ゲートボールに魅了され、来日したロバートさん。
日本ではお年寄りの娯楽というイメージが強いけれど、そういったフィルターを通さない目にはクールなスポーツに見えるのだ。
これからロバートさんの情熱が、アフリカ大陸にどれだけ広がるか楽しみだ。
おわりに
知ってるようで知らないスポーツ、ゲートボール。
「お年寄りの娯楽」などではなく、年齢性別、国籍すら問わずにプレーできるすごいスポーツだった。
都内にも100ヵ所を超えるゲートボール場がある。
日本ゲートボール連合のサイトで近所のゲートボール場を探せるので、トライしてみるのも一興だ。新しい発見があるかもしれない。
取材協力:公益財団法人日本ゲートボール連合
書いた人:観光会社「別視点」
撮影・文:齋藤洋平 観光会社「別視点」副代表。観光カメラマン。(Instagram)
編集:松澤茂信 観光会社「別視点」の代表。「東京別視点ガイド」書いてます。(Twitter)