みなさんの住んでいる町には「なんでそんな名前なの?」という地名がありませんか?

たとえば埼玉県戸田市の地名「美女木(びじょぎ)」
「美女木ジャンクション」で有名ですが、なんで「美女木」? 冷静に考えたら意味がわからない。何があったらそんな名前になるの?
しかし、どの土地にも歴史があり、その名称には土地が経てきた果てしのない時間が反映されているはず。
今回はジモコロ編集部のメンバーで「なんでその名前?」という土地の名前の由来を当てて、当てて、当て果てたいと思います。
※地名の由来には諸説あります。この記事における「正解」は、現状最も信憑性の高そうな説とします。
地名の由来を当てようゲーム
参加者
恐山
東京都出身。
ずっと東京に住んでるのにまだ新宿駅で迷う。
原宿
神奈川県出身。
命名にはこだわりがあり、ゲームキャラの名付けに1日使う。
加藤
愛知県出身。
自分でも信じていない理論を力説するという、議論に決定的に向かない悪癖を持つ男。
まきの ゆうき
兵庫県出身。
あだ名は「チッチ」だが、由来はない。以前は「ゲル」だったこともあるが、由来はない。

無さを名前にするってアリ?「田無」
というわけで「なんで?」っていう地名の由来を推理してみましょう。まずはこちら。

東京都西東京市「田無(たなし)」です。
確かになんで「田無」なんだろう。
ストレートに「田んぼが無かった」のでは?
でもさ、ふつう「無い」を名前にする?
「無さ」を名付けていいなら、なんでもありだよね。ニューヨークだって「田無」じゃん。
こういう由来、時代とともに当て字とかで書き方や発音が変わりません?
昔は違う名前だったのが、なまって「田無」になったってこと?
そうです。つまり……

幕末。黒船来航の時代にやってきたアメリカ人の「ターナー氏」が住んでたのがなまって、田無になったんです。
そんなわけなくないですか?
いやいや、意外とあるんだって。逆に「田んぼがないから田無」の方が安直すぎてありえなくない?
正解発表
正解は……「田んぼが無いから」です!
そのままかい。
資料によると室町時代にはもう「田無」は存在していたらしいです。湧き水の流れが階段状の「棚瀬」だったのがなまった、とか、税制が厳しくて種もみまで取られたから「種無し」がなまった、など諸説あるのですが、これが一番有力とのこと。
ターナー氏説は……?
ありません。
ちなみに現在では田無にも田んぼがあるらしいです。
よかったね。
怖すぎる地名「馬喰町(ばくろちょう)」

続いては東京都中央区の「馬喰町(ばくろちょう)」です。
あー、これ気になってた!
字面が怖すぎ。
やっぱり、馬肉が旨い地域だったんじゃないの?
でも昔の日本人って明治維新くらいまで肉食文化なかったよね。
こっそり食ってる物好きくらいはいたんじゃない?
わかった!
江戸時代。当時は「乗り物」だった馬を、空腹に耐えかねて調理して食してしまった男がいた。そして叫んだわけです。「めちゃめちゃ旨いやんけ」と……。
その男の「めちゃめちゃ旨いぞ〜!」という叫びがきっかけとなり、突発的な馬肉ブームが誕生!しかし、移動用の馬がいなくなって、滅亡の危機に!
幕府はそんな事件の戒めの意を込めてこの地域に「馬喰町」と名付けた……。

つまり、馬が食べれることを「暴露(ばくろ)」してしまったんですな。
最後ので一気に信憑性が薄れたな。
正解発表
正解発表です。江戸時代、牛や馬を競り落としたり病気を治したりする「博労(ばくろう)」がいた町だったのが、表記が変わって馬喰になった、でした。
そんな言葉、知らね〜。
なんで表記変えたんだ。
博労が「あっし、馬で喰ってる身でさァ……」とか言ってたんだと思う。
そのまんまな理由なのか?「三軒茶屋」
続いては東京都世田谷区「三軒茶屋(さんげんぢゃや)」です。
こんなのもう、1個しかないでしょ。昔、有名な茶屋が3軒あったんですよ。
まあ、それしかないわな。
で、お互いに客を奪い合っていたと。三つ巴の経営戦争はどんどん過激化し、地名にまでなってしまった。

それがのちの「コメダ珈琲」「ドトール」「ルノアール」である。
そこはそんなわけなくない?
正解発表
最後の余計なボケ以外は正解です!
うおお!やったー!
江戸時代、ここは神社へお参りするために遠出する人が通る道になっていたんだそうです。で、そこに「しがらき」「角屋」「田中屋」という3軒の茶屋があったので、今も三軒茶屋と呼ばれているとか。
ちなみに田中屋は「田中屋陶苑」という陶器店になって今も存在するそうです。
第一次茶屋戦争、勝者は田中か……。
美女がいた?「美女木」

続いては埼玉県戸田市「美女木(びじょぎ)」です。
「美女木ジャンクション」の語呂の良さは好き。
私もまだ答えを知らないので、答えていいですか?

以前このあたりは空気の澄んだ森林になっていて、日本にはいないと思われていた美しい種族「エルフ」が住んでいたのではないでしょうか?
日本以外にもどこにもいないよ。
偶然木に登っているエルフに遭遇した村人たちが「美女木」伝説を広めたんだろうね。
しかし、ジャンクション建設決定によって森が切り倒され、今はもうエルフはどこに行ったかわからないんです。そんな、哀しいお話。
いや、ストレートに「美女木」がここに生えていたのでは?

こういう形の木が。
最低。
ネットに出せるかよ。
全部描くな。
正解発表
この美女木という呼称、1300年代にはすでにもうあって、江戸時代には由来も曖昧だったらしいです。
そんなに昔!?
というわけで由来は諸説あるのですが、1800年代に書かれた『新編武蔵風土記稿』という本によると……。
美女が来たことがあるから、らしいです。
は?
「大昔、訳あって京都から関東に移り住んで来た美しい官女がいたから美女木になった」というのが有力らしいです。その本にも「いとおぼつかなき説なれど」って書いてあるんですけど。
一番有力な説でもいとおぼつかないのかよ。
美女が来て地名になるって、当時よっぽどインパクトある事件だったんだな……。うちの男子校、今年から共学になるらしいぜ! みたいな。

物を集める女?「物集女」
つづいて京都府向日市「物集女(もずめ)」はどうでしょう。
そんな地名あるんだ。
物を集める女……。それって「片付けられない女」のことでは?
夕方のニュースでよくやってるやつ。自治体の人が注意しに来ても聞かない。
たぶん、片付けられない女、発祥の地なんでしょうね。平安時代あたりに。脱ぎ散らかした十二単が山のように積み上がって。
いたとして、それを地名にします?
コレクター的な意味の「物集め」じゃないですか?

アニメイト一号店ができたのがここだったのでは?
女性向けグッズが充実してたんだろうね。光源氏のアクリルキーホルダーとか。
「ちょ、待たれ待たれ……あはれ……あはれなり……尊し尊し……無理……」
推しのグッズを手に入れて感極まった大昔のオタクだ。
正解発表
これも諸説あるようなのですが「大鳥郡(今の大阪)の百舌鳥(もず)という地域に勢力を持っていた豪族が移り住んできた説」が有力です!
「百舌鳥(もず)」が「物集女(もずめ)」になるの、意味わからんな。
「もず」に当て字した「物集」を「もづめ」と読むようになって、「女」を足して……みたいな変遷があったようです。
大阪の「百舌鳥(もず)」って地名も相当変だけど、それはなんで?
百舌鳥駅前にはあの有名な古墳の仁徳天皇陵があるんですけど、そこは「百舌鳥耳原(もずみみはら)」っていう名前なんです。
「耳」? なんで「百舌鳥耳原」なの?
日本書紀によると、古墳建設工事をしてたら鹿がこっちに走ってきて「やばい!襲われる」と思ったら、なぜか鹿が急死したらしいんですよ。
?

で、死んだ鹿の耳から百舌鳥(もず)が飛び出してきたんだそうです。
?
そして人々は「そうか、この百舌鳥は鹿から俺たちを守るために鹿の体内に潜り込んで戦ってくれたのか!」と感激し、「百舌鳥耳原(もずみみはら)」になったそうです
何言ってんの?
実際そういう伝説があるんだからしょうがないじゃないですか。
百舌鳥の戦い方、スタンド攻撃みたいでエグいな。
で、鳥のモズはなんで百舌鳥って書くの?
もうやめましょう。キリがない。
謎のラスボス「????」
最後はこちらです。


!?
岩手県江刺区稲瀬「天竺老婆(てんじくろうば)」です。
名前ヤバすぎだろ。
これ、私もまだ由来を調べてないので全員で予想してみましょう。
天竺ってインドのことよね?
天竺といえば仏教のイメージがあるので、ここにお寺があったのでは?

で、そこで老婆用のお経をもらえたんです。
字、薄っ。
お経に老婆用とかなくない?インドから来た尼さんがいるお寺があったとかならまだわかるけど。

暗い由来ですが、シンプルに「姥捨山」だったのでは? 食いぶちを減らすため、肉親を「インド旅行に行きましょうね〜」と騙して山に……。
うーん、それで「天竺」がつくのは無理がある気がする。
この「老婆」の正体が謎を解くキーだと私は推理します。
「天竺」も必ずしもインドじゃないと思うんですよ。昔の人にとっては「外国=天竺」くらいの認識だったかもしれない。つまり……。

クレオパトラがローマから逃げて来て着いた先がここだったんじゃないでしょうか?
青森には「キリストの墓」とかあるしね。
こういう説を何十年も唱えてる変わったおじいさん学者ってたまにいるよね。

あ、思いついた。
「点字クローバー」
だから何?
帰れ。
正解発表
では正解発表を……。
めちゃめちゃ気になる……。
正解は……
わかりません!
おい、ふざけるなよ。このモヤモヤをどうすればいいんだ。
いままではネット上の情報から参考文献を手に入れて調べてたんですが、「天竺老婆」に関しては全く手がかりがないんです……。
なんか怖くなってきたな。
大きめの図書館に行って調べなおしてみます。
数日後…
まったくわかりませんでした……。
でっかい図書館行ったんだろ、おい!!
『角川日本地名大辞典』っていう、ひとつの県の地名情報だけで広辞苑くらい分厚いうえ全47巻もあるバケモノみたいな本を調べたんですが、そもそも項目が載ってませんでした。そのほかの辞典類もダメです。
『新訂 全国地名駅名よみかた辞典』(2006),156p
手がかりと言えば、『新訂 全国地名駅名よみかた辞典』にかろうじて名前だけ載ってたくらいですね。あまりに狭い地域なので、文献が触れる機会すらなかったのかもしれません。
天竺老婆の謎は迷宮入りか……。
この名前で言及されないことってある?
ちなみにこの周辺には「目割沢(めわりさわ)」「耳取(みみとり)」などの地名もあります。
マジで怖くなってきた。
情報求む
……というわけで、岩手県の地名「天竺老婆」に関しては、地名の由来をつかむことができませんでした。
もし読者の皆様の中に、この地名の手がかりをご存じの方がおられましたらご一報ください。
求む! 情報!
【参考文献】
ユーキャン東京の地名の由来研究会, 浅井 建爾(2012)『まるごと一冊! 東京の地名の由来』U-CAN
日外アソシエーツ編集部(2006)『新訂 全国地名駅名よみかた辞典』日外アソシエーツ
「角川日本地名大辞典」編纂委員会(1989)『角川日本地名大辞典』角川書店
http://www.city.sakai.lg.jp/kurashi/jutaku/jutaku/jukyohyoji/chimeiyurai.html
http://blog.goo.ne.jp/0000cdw/e/c9228197496d358ed6a106930b87a243
http://www.toda-c.ed.jp/site/bijyogi-e/bijyogi-e-yurai.html
https://edokara.tokyo/conts/2016/08/13/528
http://www.city.nishitokyo.lg.jp/siseizyoho/syokai/ayumi/oitati_tanasi.html
ライター:ダ・ヴィンチ・恐山
株式会社バーグハンバーグバーグ所属。作家名義は品田遊。
レトルト食品の湯煎や椅子の高さ調節など、多方面で活躍中。
ブログ→品田遊ブログ
Twitterアカウント→@d_v_osorezan