こんばんは。ジモコロライターの田中嘉人です。めちゃめちゃ不機嫌な顔で申し訳ありません。
しかし高速道路を運転中、目の前にこんな光景が広がっていたら、誰だって不機嫌になるのではないでしょうか。
そう……
もう〜! 遅々として進まない状況に、自分も車も、そして膀胱もストレスが溜まっちゃう! そもそも高速料金を払ってるのに、こんな渋滞に巻き込まれるなんて、おかしくないですか?
これって、完全に高速道路を管理している会社の職務タイマンじゃないんですか!
というわけで、中日本地域の道路を管理・運営しているNEXCO中日本(中日本高速道路株式会社)の川崎道路管制センターにやってきました。
そもそもなぜ渋滞してるのか。そして、これから年末年始にかけて予想される帰省・Uターンラッシュを前に、渋滞解消する策があるのか、ハッキリさせましょう!
オラー! 責任者どこー!? どこよー!?
どんっ……!
「はじめまして、NEXCO中日本・高速道路ドライブアドバイザーの花房です。渋滞に関して知りたいことがあるとか?」
「ありますとも!『高速道路の渋滞、どうなってるんですか!』という文句を言いに来た本日、ここに来るまでの間にまたも渋滞にハマったんですけど、どうなってるんですか?」
「……申し訳ありません」
「こっちだって急いでるんだから! 車線変更を繰り返して繰り返して、やっとここまでたどり着きましたよ!」
「あの~、車線を変更するより、走行車線をキープしたほうが早く渋滞を抜けられると思いますよ」
「あ、あれ? そう…なの? 追い越し車線を走ったほうが早く抜けられると思ってた……」
「そういうドライバーさんが多いため、結局左のレーンを走ったほうが速いんです。何より渋滞中の事故は、6割は追い越し車線で発生しています。やみくもに車線変更はしないほうがいいですよ」
「へぇ~そうなんですか。こりゃ冒頭から良いこと聞いちゃった! ありがとうございます!」
意外な原因! 渋滞は簡単に解消できる?
「というわけで、あらためてよろしくお願いします! 今日はお察しの通り、渋滞について聞きに来ました」
「お手柔らかに」
「中央道の『小仏トンネル』とか東名の『大和トンネル』とか、週末の夕方はいつも渋滞してますよね? これって、一体誰のせいなんですか?」
「もちろん、我々の力不足という面もあるんですが……『誰』のせいかという問いに関してだけお答えするならば……」
「あなた……かもしれません」
「……はい? いやいやいや、渋滞の原因ってアレでしょ? インターチェンジやサービスエリアなんかの合流がうまくいかないからなんですよね? 僕、そんなとこでモタモタした覚えはないですよ!」
「確かに、以前は合流地点で渋滞が起こっていたんですが、実は最近ではほぼ解消されています」
「じゃあ、一体何が原因で渋滞が起こってるんですか?」
「高速道路が渋滞する最大の原因は、ゆるやかな下り坂が、上り坂に転換する”サグ部”と呼ばれる箇所なんです」
「ジオン公国軍の緑色のモビルスー……」
「違います」
「サグ部と呼ばれる箇所で渋滞が起こっているのはわかりました。でも、それは“なぜ”なんでしょう? そして“僕のせいかもしれない”という理由は?」
「ではお聞きしますが、サグ部は『大和トンネル』や『小仏トンネル』にもあります。気づいてました?」
「え、そんなのあったっけ……?」
「そう、あまり気づいていない。気づかないうちに坂道をのぼると、どうなるか? 気づかないうちに速度が落ちて……」
「はっ! 後続の車も速度が落ちて、その後ろも速度が落ちて、さらに後ろも……」
「実はそれこそが渋滞の原因だったのです!」
「な、なんだってーッ!!!」
「まさに、知らないうちに、僕が渋滞の原因になってるかもしれないってこと? こっわ~! そんなの『ここから上り坂だよ~』とか言ってくださいよ!」
「言ってますよ!!!!」
「坂の手前の看板、LED電光掲示板、色んな場所で『ここから坂道ですよ~!』って書いてあります。ぜひご覧になってください」
「知らなかった……いや、『坂道ですよ』という看板は見た憶えがあるような気はしますが、『だから何?』って思ってました」
「極端に言うと、ドライバーのみなさん全員が、『坂道だから速度が落ちてるな……』と気づいてくれれば、渋滞はかなり少なくなるでしょう」
「……ん? あれ? たった今グッドアイデアを思いついてしまったんですが……ひょっとして、サグ部を埋め立てて平らにしちゃえば、問題解決では?」
「いえ、現実的にはインターチェンジを設置する土地の標高がバラバラなので、直線で繋いでも、ず~っとゆる~い上り坂になるか、ず~っとゆる~い下り坂になるか、どっちかです」
「むむむ……」
「それに、サグ部は渋滞の主な原因ではありますが、唯一の原因というわけではありません。新東名は斜度を2%くらいに抑えられましたが、それでも渋滞は起こっている。となると、莫大な工事費を投じて斜度をゼロにするのは難しいでしょう」
「八方塞がりだー! 何か策はないんですか!!」
「私たちも、渋滞のポイントを知ってもらえるように努力はしているつもりです。さっきも言いましたが、道路上の電光情報板に『速度低下ポイント』『速度回復願います』といった文言を掲示したり……」
道路の上の掲示板、「速度低下に注意」の表示が見えるでしょうか
「坂道のサグ部だからスピード落ちてるよ~ってことですよね? もっと具体的に『スピード出してー!』って言葉にしたほうがわかりやすいのでは?」
「それが言えたらどんなに楽かと思うんですが、安全面のことも考えて、我々の口から『スピード出して!』とは言えません。暗に伝えなければいけないんです」
「月が綺麗ですねと言って愛を伝えるニュアンスだ 」
「本音で言うなら『アクセルを思い切り踏み込もう!』とかにしたかったんですけどね……。警察から事故の原因になるような文言はやめてほしいとNGが出まして」
「う~ん、安全面のことを考えたら、仕方ないのかな……」
「しかしですね、実は……」
「高速道路で起きる交通事故の4割は渋滞が原因だと言われているんです。ということは、渋滞をなくせば、交通事故の4割を減らすことができるとも考えられませんか? そうでしょ!?」
「つまり『スピードを出せ!』と」
「私の口からは何とも申し上げられません」
「『アクセル踏め!』と」
「私の口からは何とも申し上げられません」
「え~っと、つまり……はい、わかりました」
渋滞解消のためにNEXCOが取り組んでいること
話を続けながら、施設内を案内してもらいました。ここは高速道路を管理するための管制室。もちろん年中無休、24時間営業です
エヴァのネルフみたいでかっこいい!
どこで事故が起こってて、どこで工事しているのか、などが表示されていて、職員が対応します
無数にあるモニターの中には、ひとつだけテレビ番組が映っていました。サボってる……?と思いきや、地震や災害の速報はテレビが一番早いので、常につけているんだそう
「スピードを落とさずに坂道を上れば、渋滞は解消できるけど、『アクセル踏んで!』とハッキリ言うわけにもいかない。そこで考えたんですが、“ドライバーがスピードを出したくなるような仕掛け”を作ってはどうでしょう?」
「ほう、例えば?」
「『ロッキー』のテーマソングを、上り坂のところだけ大音響で流すとか」
「良いですね! 確かに『ロッキー』のテーマソングを聴けば、人はアクセルを踏みたくなるものです。高速道路のFMはかなりピンポイントで流すことができるので、実現できるかもしれません。考えておきます」
「あと、ドッグレースってあるじゃないですか。オモチャのネズミを追いかけて犬が走るやつ」
「ありますが、それが何か?」
「ああいう感じで、“追いかけたくなるもの”が前方を走っていれば、アクセルを踏むんじゃないでしょうか。例えばフライドチキンを高スピードで走らせるとか」
「この時代にフライドチキンを追いかけたい!と思う人がいるかどうかわかりませんが、似たようなシステムはすでに採用されています」
「嘘でしょ!?」
「道路脇にライトが並んでいて、光の点滅がスーッと前方に流れているように見えるシステムですね。実際に、ある程度効果はあるようです」
「冗談で言ったのに……」
「トンネルの入り口で速度を緩める人がいることも、渋滞の原因のひとつだと聞いたことがあります。明るいところから暗い場所に行くと、やはり速度を落としたくなるものですからね」
「トンネル入口も、渋滞の原因のひとつではありますね」
「もっとビカビカに明るくしたらダメなんですか? スーパー玉出みたいに」
「実は明るくすればいいというものでもないんですよね。簡単に言うと、トンネルの内と外で同じくらいの明るさにするのが理想なんです」
「あ、そうか……夜中だと今度は『急に明るいところ』を警戒してスピードを落とそうとする心理が働くのかな」
「現在のトンネルは、暗さをセンサーで感知して、ちょうど良い光量に自動調節するライトを使ったりしています。なので、一昔前ほど大きな渋滞理由ではなくなってますね」
NEXCO中日本 川崎道路管制センターに併設している『コミュニケーション・プラザ川崎』には高速道路のジオラマが設置されています。細けぇ~!
「ずっと『これを聞くとアホと思われるかもしれない』と思って黙ってたことを聞いてもいいでしょうか」
「何でも聞いてください」
「そもそも、車線を増やしたら渋滞ってなくなるんじゃないですか? 100車線くらいに」
「それはもはや道路というか、大地と呼ぶべきものだと思いますが……そうですね、車線を増やせば確かに渋滞はなくなるでしょう」
「やっぱり! 渋滞解消だ!!」
「『大和トンネル』などは3車線から4車線に増やす工事が始まったところなので、2020年までには、今よりは快適になると思います」
「その調子でジャンジャン車線を増やしましょう!」
「ところが、そうカンタンにはいかないんですよ。車線を1つ増やすには、膨大なお金がかかるわけです。本当にもう、“膨大”としか形容できないくらいの金額です。そのお金がどこからくるかというと……」
「……もしや?」
「そう、みなさんにお支払いいただいている高速料金にはね返ります。しかも、高速料金はプール制。たとえば、地方に住んでいる人が、普段利用しない首都圏の路線拡張工事のために、地元の高速道路の料金を値上げされたりするわけですね」
「うっ……それは、お願いします!とは言いにくい」
「ですよね~」
天気みたいに渋滞の「予報」を知ろう!
NEXCO中日本の建物屋上からは、東名高速道路の東京料金所が見えます
こんな角度で料金所を見たことない
「もうすぐお正月ですね。年末年始もすごい渋滞が起きるんだろうなぁ……」
「道路の渋滞と言っても、24時間365日ず~っと混んでるわけではありません。渋滞が起きる時間は避けることができます」
「理屈はわかるんですが、渋滞が起きやすい時間帯ってどうやったら知ることができるんですか?」
「私たちが全力で作った『渋滞予測ガイド』にすべてが記されています!」
「『待ってました!』って感じが出すぎです」
こちらが『渋滞予測ガイド』の冊子
●WEB版はこちら
「たとえば、2017年度の年末年始、東名でいうと、年末は『連日16時〜翌早朝4時の間に下り車線の秦野中井ICを通過』、年始は『深夜0時〜早朝7時の間に上り車線の大和トンネルを通過』できれば、事故などの場合を除いて渋滞を回避できる見込みです」
「めちゃめちゃ流暢に告知するじゃないですか。これ、本当に当たるんですか?」
「当たらないほうがいいんです。この予測を公開したところ、2017年のお盆は、1年前には35kmだった渋滞を27kmまで減らすことができました。天気予報と違って、渋滞予測は人間のチカラで覆すことができるんです」
「なるほど、当たらないほうがいい予測かぁ」
「我々だけでできることって、たかが知れてるんです。ドライバーの皆さんの協力あってこそ、渋滞は緩和できると考えています」
「そうですね。坂道で知らず知らず速度が落ちて、自分が渋滞の原因になっていたのかもしれません。僕も気をつけます! 今日はありがとうございました!」
「こちらこそ、ありがとうございました! よい年末年始を!」
「最後に今回の記事を一言でまとめると、『坂道ではアクセルを踏んでスピードを出せ』ということでいいですよね?」
「私の口からは何とも申し上げられません」
まとめ
NEXCO中日本さんが渋滞解消のためにあの手この手で工夫をされていることがよ〜くわかりました。インフラ関連の事業って”できて当たり前”と思われがちですが、見えない苦労がたくさんあるんですね。
僕も「速度低下に注意」という表示を見かけたら、ロッキーのテーマ曲をかけて、全力で速度回復に努めたいと思います。
では、よいお年を!
(おわり)
書いた人:田中嘉人
1983年生まれ。静岡県出身。2008年にエン・ジャパン入社。その後CAREER HACKをはじめとするWebメディアの編集・執筆に関わる。2017年5月に独立。Twitter=@yositotanaka