11月3日、大阪の「四天王寺前夕陽ケ丘駅」という駅の近く、少し変わったカフェがオープンした。
その名も「Laugh Rough Laugh(ラフラフラフ)」。
看板にあるように、カフェのスタッフが全員「保育士、幼稚園の先生、または育児経験者」なのだ。
このカフェを作ったのは、僕の知り合い……というか、僕が勤める株式会社バーグハンバーグバーグにとって重要な人だ。
高橋美幸さん。大阪を中心に活動しているフリーランスのWEBデザイナーであり、1児の母だ。
正直、高橋さんはWEBデザイナーとしてかなり忙しい。たぶんデザイナー1本でもじゅうぶんな稼ぎがある。でもカフェを作った。高橋さんをそうさせたのは何なんだろう。
そこには、「働くことと育児」という生きていく上で多くの人がぶつかる問題があった。これは最近1児の父となった僕にとっても、自分ごととなるテーマだった。
どうもお久しぶりです。高橋さんとはもう7年くらいの付き合いになりますけど、お会いしたのはその間に1度だけなんですよね
お久しぶりです。そうですね、そもそも出会いが、ねぇ
ねぇ……
なんかあったんですか?(撮影に同行していた)
まだギャラクシーさんが入社する前の話なんですけど。 Twitterで「バーグハンバーグバーグバーグって美容院のサイトとかも作るんだ」ってツイートを見かけまして。
ほう……?
いやいや、ウチはそんなの作った覚えがないぞと。それで、そのツイート主さんにURLを教えてもらって見てみたら、その美容院のサイトにウチのコピーライトが入ってたんです
※こんな感じで、オシャレな美容院のサイトにバーグハンバーグバーグの名前が。
そのサイトをね、作ったのが私なんです
ん?どういうこと?
コピーライトのつづりって、難しくて覚えられないじゃないですか。それで、普段からよく見ていたバーグさんのサイトがたまたまその時もブラウザで開いてて。あとで社名のところだけ書き換えようと思ってコピペしたのを、そのまま公開しちゃったんです……
それが僕らの目に入った、というわけで。笑っちゃいました。とりあえず美容院に連絡したんですよ、変な社名になってますよって
もうね、連絡もらった時真っ青になりましたよ
ウフフフ……
これは慰謝料やと思いました
でもね、その時社員全員まっ先に思ったのが「この人のデザイン、めっちゃ良い〜」だったんですよ。こんなことってまずないし、せっかくだからこの人と組めないかな?ってみんなで話しまして
お詫びのメール送ったら「それより一緒に仕事しましょうよ」ってお返事もらって、それからよくご一緒するようになりましたね
よく一緒に仕事してますけど、過去にそんなことがあったとは
それから7年くらい、ホントよく一緒に仕事をしてますよね
これも、
これも、
これも。出しきれないけど、もっともっとあります。よく「バーグハンバーグバーグの作ったサイトだと思ったら、その通りだった」ってTwitterとかで言われるんですけど、そのデザインの起源は高橋さんと言っても過言ではないです
いえいえそんな……
そんなこんなで、4年くらい前に、高橋さんにお子さんが生まれて。たぶんこのカフェの誕生にも関係してくると思うんですけど、あの時は産後の復帰がめちゃくちゃ早くなかったですか?
そうですね、相当早かったと思います。「もうお仕事できますんでいつでも言ってください〜」って。今考えると無茶だなと思うし、実際無茶してました……
さすがにこっちもね、すぐにはお仕事お願いできませんでした。無理だろ!休んでよ!って思いましたもん
あとで詳しくお話しようと思うんですけど、私も旦那もフリーランスで家にいたので「育児も2人で分担して乗り切れる!」と思ってたんですよね。完全に甘く見ていて。でもその経験が、このカフェを作るきっかけになったんです
フリーランスになったのは「付き合ってるのがバレたから」?
メニューにあった、カボチャの入った美味いサンドイッチ。いただいております。
そもそもWEBデザイナーになったきっかけって何だったんですか?
ちょうど私が専門学校を卒業しようという時に「WEBは儲かるらしいぞ」という話をチラホラと聞いていたので……
金かぁ
もともと美術的なものは好きでしたよ!でもイラストレーターになれるほど画力もなかったし、フォトショップをいじる事が好きだったので、WEBデザインなら私に向いてるんじゃないのかな?って。
最初からフリーランスで働き出したんですか?
いえ、専門学校を出てから何社かで働きましたよ。全部WEBの制作会社ですね。
それで一念発起して独立しようと。
いや……そういうわけじゃないんですが……
?
最後に働いていた会社にいる時は今の旦那と付き合っていまして、社内恋愛だったんです。4人くらいの小さな会社だったんですけど、社長さんがそのことを知らなくてですね…なんとなく怪しんでたみたいではあるんですけど……
???
ある年のクリスマスの翌日に旦那と2人揃って遅刻しまして。盛大に付き合ってる事がバレて、「この人たち、不潔よッ!!!」と……。それでクビになってしまったので、仕方なくフリーランスになって今に至ります
(いらんこと聞いてしもたなぁ……)
「育児」も「仕事」も、両方頑張りたい人のためのカフェを作りたかった
ここで旦那さんも合流。ちなみに旦那さんもフリーランスのエンジニアです。
なんでカフェをやろうと思ったんですか?ウェブデザイナー1本で、じゅうぶんやっていけるでしょうに
やっぱり私自身が母親になったのが大きいですかね。うちは私も旦那もフリーランス同士で家にいますから、育児もうまいこと分担できるやろうと思ってたんですけど……
完全に見誤ってましたね〜
あらまぁ……
2人が抱えている仕事に、単純に子育ての負担が乗っかっただけだったんですよ
ほんまに大変でした。2人とも結構な量の仕事を抱えてまして。なんとか無理を通しましたけど、地獄でしたね
そんな経験もあって、子育ても仕事も両方頑張りたい。だから仕事をしたり、ゆっくりしてる間、子供の面倒を見てくれるようなカフェがあったらいいな〜と思ったんです
なるほど
(「デザインの仕事してカフェ経営もやるほうがしんどそうだけど、ここはいったん黙っておこう」)
実際、ノマドをしに来るお母さんもいらっしゃるんですか?
いますねー。その方にはめっちゃいい!って言ってもらってます
僕たちフリーランスみたいに、家で仕事をしていると特にそうなんですけど、子供をそばに置いといて仕事するじゃないですか。しばらく仕事に集中した後にふと子供を見ると、めちゃくちゃ退屈そうにしてて
それはすごいわかる
その罪悪感たるや!というのがあって。だからお母さんが仕事や休憩をしてる間に、子供はカフェのスタッフと全力で遊べる……というシステムにしました。だからスタッフはみんな育児経験者なんですよ
スタッフさんは保育士、幼稚園の先生、または育児経験者。カフェのコンセプトを考えると、この条件は必須だったということか。
カフェの地下は子供が全力で遊べるスペース。カラーボールの海に飛び込むもよし、おもちゃで遊びまくるのもよし。その間、カフェのスタッフさんが子供の面倒を見てくれます。
2階には、いわゆるノマドっぽ〜いスペースも。もちろん電源は完備、WiFiもバリバリ飛びまくっています。
まだ地下で遊ぶには早い年齢の子供が遊べる柵や、授乳室も完備。
完全に自分の経験が活きた感じですね
そうですね。あと、「将来の働き方」についての布石でもあります
ほほう?
私たちが60歳くらいになったときに、まだWEBのデザインしてるかな……と思うと、正直怪しいじゃないですか。なのでそれ以外の働き方を持っておくのは必要かなと思いまして
最近は国をあげて副業を奨励してる節もあるし……複数の働き方を持つ人って増えてきてますよね
4,000万で家建てるなら、1,000万のお店を4つやったほうがいいんちゃうか、と思ってるんですよね。そのほうが将来の可能性が広がるし。まずはこのカフェを軌道に乗せてからですけどね
ちなみになんですけど、スタッフさんはどうやって雇ったんですか?友達つながりとか?
いえ、普通にa◯で……
ストップ!ジモコロはアイデムのメディアだから、こりゃ〜載せられまへんわ!
旦那さんもカフェをやりたかった
実際にカフェをやってみて、どうですか?
まだオープンしたばかりなので、これからだというところもあるんですけど、色々な方とコラボレーションできる楽しさがあるとわかりました。WEBのデザインだけだと得られないような刺激があったりして、結局それがデザインもしかり、次のやりたいことにも繋がっていくんだなと感じてますね
ヨガの先生や英語の先生、ジェエリーデザイナーといった多ジャンルの人達とコラボレーションしたワークショップを開くことも多いため、そこから輪が広がっていくそうです。
ほんとはね、僕が先にまったく別のコンセプトのカフェを思いついてたんです
えっ、そうなんですか?
仲間を集めて、デジタルアート的なカフェをね。そのあと妻もこのカフェのアイディアを思いついて、じゃあ先に実現の目星がついたほうをやろうと夫婦で決めまして。結局妻のほうが先に開業資金を引っ張ってきたので、このカフェをやることになったんです
拗ねました?
どっちをやるのも楽しそうだったので、拗ねませんでした
カフェのロゴや店舗のデザインコンセプトは高橋さんが手がける。
カフェの地下と1階にある、謎のモニター。
これは現在企画中の、地下のプレイスペースで行われる「Youtuberごっこ」の様子をリアルタイムで見れるよう、エンジニアの旦那さんがシステムを組んでいる真っ最中。夫婦お互いの強みを生かしているのがすごい。
じゃあこのお店も落ち着いたら、次は旦那さんのお店ですかね
そうなりますかね
実はこんなことやりたい!っていうアイディアはいっぱいあって、カフェはその中の1つでしかないんです。夫婦で話してるうちに満足しちゃうこともあるんですけど
そうなんです!実はね……
このあと旦那さんが「60歳になったら息子の部屋を再現したラブホテルを作りたい」という夢を延々語り出しやがったので、お話を聞くのはこのへんで。
まとめ
とにかく、高橋さんは面白いと思ったことをすぐやる。その面白さは自分のいまいる場所や立場とリアルにつながっていて「あ〜それあったら嬉しい〜」というものが多い。
お店の工事着工前に、壁じゅうに落書きをするイベントをしたり、
地下のプレイスペースを風船で埋め尽くしてみたり、
「サンタさん、来たよ」という写真を合成して作ってあげるサービスをやったり。ぜんぶ、育児のリアルな経験の中からアイディアが生まれてきているようだ。
母親になった時の苦労や経験から、高橋さんはこのカフェをはじめた。行動力はすごいけど、そのきっかけは僕らも普段感じているようなちょっとしたことなんだな、とも思った。
「WEBデザイン以外の働き方を持っておきたい」というのもリアルだった。今は絶対に安全な働き方なんてないし、いくつかの収入口や可能性に投資することの重要さを改めて考える良い機会になったように思う。
カフェを経営する!って、たぶん「夢」みたいなフワフワしたものじゃなくて、「自分の将来」を見据えた、現在と地続きなものなんだな、と。
あ、最後に高橋さんはバリバリでWEBデザイナー現役なので「デザインのほうのお仕事もお願いしますー!」とのことでした。
もう産後すぐの時みたいな無茶はしないでよね!
〒543-0001
大阪府 大阪市 天王寺区上本町9丁目3-1
Tel:06-4302-5882
大阪市営地下鉄谷町線「四天王寺前夕陽ケ丘駅」より徒歩6分
書いた人:山口むつお
株式会社バーグハンバーグバーグで働く、海鮮丼の化身。
Twitter: @e_yamaguchi