こんにちは、ライターの根岸達朗です。
突然ですが、皆さんは普段どうやって用を足していますか?
トイレでうんちやおしっこをしたら、そのまま流して終わり……というのが、おそらく大半の人の排泄スタイルなのではないかと思います。
たとえばそれを、人間の生活サイクルで考えると、このような図に表せるのではないでしょうか。
では、次のような場合だったらどうでしょうか?
これが今回の記事のテーマになる「パーマカルチャー」の仕組みです。
パーマカルチャーは、英語のPermanent(永久)とAgriculture(農業)をつづめた造語で、ざっくり言うと、上記のイラストで示されているような循環を生活のなかでひたすら繰り返していくことを意味します。
そして、その仕組みを生活のなかに取り込んで、人の暮らしもそこにある自然も同時に豊かにしていくことを目指すのです。
もしパーマカルチャーが人間にとって、生命にとって、正しい循環の仕組みであるとするなら、現代社会のシステムってだいぶヤバいことになってる気がするんですが、僕の気のせいでしょうか。こんなこと思うのは、僕がオーガニックくそ野郎だからでしょうか。
そこで今回はこの考え方に基づいた循環生活を山梨県北杜市の自宅で実践している、パーマカルチャーデザイナーの四井信治さんを取材してきました。
うんちやおしっこを土に還すってどういうこと!?
おしえて、四井さーん!
話を聞いた人:四井信治(よつい・しんじ)さん
パーマカルチャーデザイナー、土壌コンサルタント。“人が暮らすことでその場の自然環境・生態系がより豊かになる”パーマカルチャーデザインを山梨県北杜市の自宅にて実践。日本文化の継承を取り入れた暮らしの仕組みを提案するパーマカルチャーデザイナーとして、国内外で活動中。2児の父。
すべては土に還る
はい! というわけでやってきました四井家。
今回のカメラマンは、四井さんともつながりのあるアートディレクターの土屋誠さん。土屋さんは東京からのUターン移住者で、現在は山梨の暮らしを伝えるフリーペーパー「BEEK」を手がけるなど、地元を拠点に精力的に活動しています。
「ジモコロ初登場! よろしくお願いします!」
「いやーそれにしてもすごい家! でも、肝心の四井さんが見当たらないなあ……」
……ダダッダダッダダッ
「あ、四井さんですか!? 今日はよろしくおねが……」
「ああ、悪いんだけどさ! このヤギちょっと見ててくれる? すぐ戻るから!」
「え? はい…!」
「ちょっ…すごい力!」
……ああッ!!!!!!
ドンッ!!!!(頭突き)
「いってえ!!!!」
「いい絵が撮れました」
「おい、鬼か」
「はっはっは。野生動物の力ってすごいでしょう」
「はぁ……思ったよりもかなり……」
「この子はキューちゃんって言うんだけど、うちでは草刈り担当だね。土に杭を打って、草ぼーぼーのところに紐でつなげておくでしょ。朝から夕方までの間に草がなくなってて、食べた後がきれいな円になってるんだよ」
「ええ! ヤギってそんなに草食べるんですか!」
「すごいよ。で、食べたら土の上に糞をするでしょ。土のなかにはみみずとか、そのほかにもたくさんの微生物がいるから、彼らがその糞を分解するんだ。結果的にそれが堆肥になって、土が豊かになるんだよ。で、今日は何しにきたの?」
「いや、パーマカルチャーについて教えてもらおうと……」
「ふーん、そうなんだ。じゃあこっち来て。見せたいものがあるから」
「おお。ウサギやニワトリも飼ってるんですね」
「うん、ここは堆肥小屋だよ。家畜の糞はここにある土で堆肥化してるんだ。ストックしておいて、タイミングを見計らって畑に使うんだよ」
「へえ、畑に。それにしても、家畜が集まっている場所にありがちなにおいがほとんどないですね」
「そうだよ。小屋のなかにこの土があるからね。土の上で糞をさせればそのまま堆肥化するでしょ。ちゃんと発酵すれば、いやなにおいってほとんどないんだよ。だから、人間の糞尿もここに撒いてるよ。子どもたちもここでおしっこしてるし」
「え、おしっこも!?」
「おしっこが大事なんだよ。人間のおしっこってのはさ、うんち以上に自然にとっていい養分が入ってるの。だからうちの家族はみんな専用の瓶におしっこを貯めているんだよ。ほら、これにね」
「まじっすか!すごい……」
「それにね、おしっこってのは、人間のテリトリーを示すためにも、土に還すことが大事なの。ほら、最近は野生動物が山から人里に降りてくるじゃない? あれは人間が山におしっこをしなくなったからなんだよ。人のにおいを感じないからどんどん降りてくる」
「おしっこが結界になってた!?」
「そうだよ。うんちやおしっこを土に還すっていうのは、全部意味があるんだよ。ついでだから、僕が普段使ってるトイレも見ていきなよ」
「へ、これがトイレ!?」
「うん、堆肥小屋と同じ仕組みだよね。このなかに土や枯葉が入ってる。ここで用を足したら、容器の横についてるレバーをぐるぐる回して、なかのギアでかきまぜるの。座ってみる?」
「いいんですか? じゃあ、失礼して……」
「どう? くさくないでしょ?」
「……ですね。うちは水洗トイレなんでなんかすごい新鮮な感じです」
「僕はここでドアを開け放って用を足しながら、スマホでFacebook見てるの(笑)。これは僕専用になってるんだけど、だいたい3ヶ月くらい使えるかな。なかの土が堆肥化したら、これもストックしといて畑に撒くよ。そうやったら無駄がないじゃない。でも、今の世の中って水洗トイレに流して終わりって感じでしょう。そんなことずっとしてたらさ……」
「文明が滅びるのは間違いないよ」
「なんかすごい話になってきた」
「だって、陸上のミネラルが海にどんどん流れてるんだよ。それが還ってくればいいけど、還ってこれないんだ。川も護岸しているから、流れている途中で栄養分を回収できないしね。当然生き物は少なくなるよ。土の質も変わってきているし、作物に含まれている栄養分も、60年前に比べたら10分の1くらいになってると言われているんだ。長い年月をかけてゆっくり変化してるから、みんな気付かないんだよね」
「ケンシロウにお前はすでに死んでいるって言われてるような気がしてきました。大丈夫か、地球」
循環が人と自然を豊かにする
「でも、とりあえず、自分のうんちは自然の力で土に還すことができるわけで、それを覚えておくだけでもいいかもしれないですね。住環境的にできるできないはあると思うので」
「そうだね。ただ、僕はそれだけじゃなくて、自分が堆肥化させた土で食べ物を育てたいし、そこで育った食べ物を食べて、またそれを住んでいる土地に還していきたいんだ。その循環に意味があるんだよ」
「意味?」
「うん。これは僕の持論なんだけど、食べるっていうのは、体のなかにものを集める行為なの。食欲が出たら、なんとしても食べ物を見つけなくちゃって、いろんなところを歩いて回ったり、ときには誰かに食べ物をもらったりとかするわけじゃない。やり方はさまざまだけど、結果的に人の体にはものが集まる。で、食べたら用を足す。それを自分が住んでる土地に還すということは?」
「えっと……」
「そこに栄養が集まるんだよ。つまり、その人がそこに暮らせば暮らすほど、その土地が豊かになる。土地が豊かになるということは、ほかの生き物の生態環境にも良い影響を与える。それを繰り返していくことで、人も自然も豊かになっていくんだよね。あらゆる生き物は本来、そういう循環のなかに生きている。それが命の仕組みであり、その仕組みに沿った暮らしをしていくのが、僕の考えるパーマカルチャーなんだよ」
「命の仕組みかあ……すごい話だ」
「いやいや、当たり前の話だよ。僕らは生き物だから、生き物の仕組みに沿っていろんなものごとを考えていくのが一番間違いがないのよ。だって、40億年近く生き物としてやってきたわけだからさ、その仕組みに沿わないのは愚かとしか言いようがないじゃない?」
「くわー!」
「どういうリアクションだよ(笑)。でも、考えさせられるよね」
「考えさせられます。まじで」
手を動かして、考える
「そういえば、四井さんってこういう暮らしをしているからなのか、腸内細菌がすごいことになってるそうで」
「腸内細菌? なんか関係あるんですかね」
「ああ、テレビの『世界ふしぎ発見』に出たときに調べてもらったんだよ。腸内細菌には善玉菌、日和見菌、悪玉菌っていうのがあるでしょ。それらの理想的なバランスって、2:7:1と言われているんだよね。つまり善玉が2に対して、日和見が7、悪玉が1の割合がいいとされているんだ。でも、うちの家族はさ……」
「善玉が5割もあったんだよね」
「なにそれすごい! 循環をくり返すと、善玉が増えるの⁉︎」
「いやーよくわからないんだけどね。ただ、腸内細菌を住んでいる土地に還すっていうのは、命の仕組みに沿った循環だから、それが人間の体に良い影響を与えてくれるならうれしいよね」
「いやあ、一貫してますね。なんか、自然のなかで、壮大な実験をしている感じがします」
「ほんと楽しいんだよなあ、これが。寝るのも惜しんで考えたりつくったり、一日中なんかずっとやってるもんねえ。ビニールハウスもつくるし、農具もつくるし……最近はものを持たない生き方っていうのもあるみたいだけど、僕の暮らしではものが必要なんだよ。だから、必要なものはできるかぎり自分の手を動かしてつくるよ。ほんとは手を動かすっていうのが考えることじゃない? 頭のなかだけで考えたって、考えてるとは言わないんだよね」
「くわー!」
「だからどういうリアクション?」
「情報なんていうのは、全体の一部でしかないんだから、手を動かさないとだめなんだよ。自然っていうのは、人知を超えてるんだ。自然は僕たちが考えているよりも、ずっとずっと、深いんだよ」
自作の回転式コンポスト。主に落ち葉が入っていて、これで生ゴミを発酵させて堆肥化する。堆肥づくりは切り返しと水分調整と、窒素と炭素の割合が重要。小さな力でも回転させることができるので、子どもたちの遊び道具になっている。
台所の排水をろ過する「バイオジオフィルター」。ブロックのなかは石の層になっていて、そのなかに数十万匹のミミズが生息している。水をろ過する(排水中の有機物を分解する)のは、石に棲んでいる微生物の役割。ミミズが根詰まりを食べて、浄化の手助けをしている。
バイオジオフィルターで浄化された水は配管を伝ってこの「ビオトープ」に流れる。ビオトープにはメダカやカエルなどの生き物が生息している。水辺にはみつば、せり、しょうぶ、わさびなど、食べられる植物から薬草になる植物までわんさか。
四井家の給湯システムのひとつが、屋根に設置している「太陽熱温水器」。太陽の熱で水を温め、それを貯めておいて給湯する。太陽熱温水器 - Wikipedia
古い技術だが、太陽光パネルなどの自然エネルギーを利用する機器のなかでもエネルギー効率が高く、費用対効果もいいらしい。設置費用は40〜50万円ほどだが「すぐにペイできるよ」と四井さん。
四井家のもう一つの給湯システムがこの「マッチボイラー」。太陽熱温水器は雨の日になると使えなくなるため、そういうときはこのマッチボイラーに切り替えてお湯をわかす。紙ゴミなどはすべてここで燃やすことができる。
燃料は庭に自生している竹。竹は体面積あたりのエネルギー生産量が高く、「非常によく燃える」らしい。竹1本で約200リットルの水を沸騰させることが可能。
都会でもパーマカルチャーはできる
「いろいろ見せていただきましたが、四井さんの仕事っていうのは、こういうライフスタイルを広めていくことなんですか?」
「そうだよ。一個人、一世帯の暮らしをあたかも『小さな地球』のような仕組みにしていくっていうのが僕の考え方で、そういう暮らしをしていきたい人に、それを実現するための方法を提案しているんだ。だから家づくりのアドバイスから技術指導、新しくできる施設の監修や本の執筆など、いろんなことをやってるよね。今はまだパーマカルチャーを取り入れた暮らしをしている人は、地球全体から見たら点のようなものかもしれないけれど、その点が増えればそれがいずれは線になる。線と線が面になって、いつかは全体がほんとにいい仕組みに変わっていったらいいと思ってるよ」
「たしかにこの考え方で生きる人が増えたら、世界が変わりそうですね。でも都会に住んでる人がこれを実践しようとしても、どこから手をつけていいかわからない気が……」
「家にベランダとか庭とかある? 小さくてもいいから」
「あ、携帯に写真が入ってたような。東京郊外のマンションなんですが、一階なので一応小さい庭がありまして……」
「ふーん、なるほどなるほど。いいじゃない。十分パーマカルチャーできるよ。まずは生ゴミコンポストとかやったら? 探せば小さいのも売ってるしさ。トイレは囲いつくらないといけないから、ちょっと難しいかもだけど」
「実はコンポストは昔、適当なゴミ箱に土を入れてチャレンジしたことあるんですよね。でも、ふたを開けたらハエがわーっと出てきて……」
「それは、炭素分が入ってないからだね。堆肥化させるには、窒素分と炭素分のバランスが大事なんだよ。炭素分を増やすには、そのへんに落ちてる枯葉を入れたら大丈夫」
「おお、そうだったんだ!」
「どんなに小さな単位でもいいからやってみるのが大事だよ。一度生態系ができれば、自然っていうのは自己増殖するからね。あとはそれを広げていく力を利用していけばいいんだ」
パーマカルチャーを楽しむ
「循環が大事なのはすごくよくわかりました。でも、現代の暮らしってそれすらも意識させないくらい、遠いところにいっちゃってる感じはありますよね」
「そうだなあ、今の人たち、特に都会に住んでる人たちって、水耕栽培みたいな暮らしをしてるわけでしょう。土を必要としない暮らしというか、お金さえ払えば、一応生活は成り立ってね。でも、本来の暮らしってそういうものじゃないんだよ。だって、暮らすっていうのは、汗水垂らして食べ物をつくったり、暮らしていくための道具をつくったりっていうものだったわけじゃない。今は分業化が進んで、お金の仕組みにそれが忘れられちゃってるのよ。だから一個人、一世帯の自立性がなくなってしまったわけで」
「たしかに自分が考えればできることも、必要以上にほかの人に委ねているところがあるかもしれませんね」
「別に自給自足をする必要はなくて、他人に委ねるところは委ねてもいいんだよ。社会は依存しあうことでできてるから。ただ、委ねすぎるといざというときに自分では何もできなくなってしまう。だから自分でもできることは、ある程度自分でやれるようになっておいた方がいいんだよ。それをさらにレジャーみたいにやれたらさ、やっぱり楽しいじゃない?」
「そうすね、無理なくやっていく方向を目指せたらいいなとは思います」
「そうだね。ただ、今の世の中ってさ、残念ながら自立性が失われているわけ。そうすると、どっかで集約的にインフラを整備しなくちゃいけなくなるんだけど、たまたま今の社会がぜんぜん命の仕組みと真逆のことをやってるから、どんどん国土が痩せていっちゃってるんだよ。社会のインフラが命の仕組みに沿った暮らしになっていれば、ほんとうはそこに人が暮らせば暮らすほど環境はよくなるはずなんだ」
「人が暮らせば暮らすほど環境がよくなる」
「本来はそうだよ。僕らは生き物なんだから、命の仕組みを社会や個人の暮らしに応用すれば、みんなもっと自分のペースで生きていけるようになるんだよ。パーマカルチャーの世界には『適正規模』っていうのがあるんだけど、今の世の中ってお金とか機械に人間のペースを合わせているから、それに追いつけなくてしんどいんだよね」
「人類は息切れしながら、お金や機械のペースに追いつこうとがんばりすぎてるわけか。パーマカルチャーが、命の仕組みにそって無理なく生きることだとしたら、それは今の時代に普遍的な価値を与えてくれるものかもしれないですね」
「命の仕組みで説明できないものはないんだよ。自然だけじゃなくて、会社だってそうだよ。命の仕組みがちゃんとデザインされている会社は命があると言ってもいい。昔のホンダなんかはそうだよね」
「なるほど……おもしろいですね」
「でもね、僕はパーマカルチャーが答えだとは思ってないよ。まだ発展途上だしね。でもそれが自然の仕組みを本当に応用した考え方だとしたら、パーマカルチャーはすべての人にとって正しいものだと思うんだ。もし都会でもやっと考えていることがあるなら、まずは手を動かしてやってみたらいいんじゃない? きっと楽しいよ」
「そっかあ、ありがとうございます。なんか不思議と生きる勇気が湧いて気がするなあ。楽しかったー!」
取材を終えて
パーマカルチャーの考え方に基づいて、命の仕組みに沿った暮らしをしている四井さん。植物を育て、生活の道具をつくり、子育てをして……なによりも楽しそうに日々を送っている姿が印象的でした。
生きている間に人類が滅亡するくらいの劇的な何かってもしかしたら起きないかもしれません。でも、僕たちが「小さな宇宙」をつくっていくことで、少しでも未来が明るいものになるならそれにこしたことはないし、そのためにできることがあるならやっていくっていうのが、人として素直で気持ちのいい生き方のようにも思いました。
人と自然のつながりは、都会生活のなかにいると感じにくいのは事実。かといって、満員電車に揺られながら社会への不満を募らせても、人生は楽しくなんてならないわけです。だったら、パーマカルチャーしかないでしょ。命の仕組みに沿っていくしかないでしょ。
その方が楽しそうでしょう!
というわけで、僕は取材後、ヤフオクで早速コンポストを落札。
価格は4千円でした。飲み会一回ガマンすればいいんだから安いもんだ!
それがこちら↓
やり方はこのなかに土や枯葉を入れて、生ゴミをぶちこんで回すだけ。
もう中身はセットしてあるので、あとは回すだけという状態になっています。
それではただ今より、記念すべき第一回転を行います。
いくぞぉ……ふんっ!
今日が僕の循環記念日。
ライター:根岸達朗
1981年、東京生まれのローカルライター。1児の父。多摩ニュータウンの端っこで子育てしながら、移住に想いを馳せてます。Mail:negishi.tatsuro@gmail.com/Twitter ID:@onceagain74/Facebook:根岸達朗