こんにちは、非常勤ライターのひにしあいです。
今日はヴィジュアル系(以下V系)音源だけを取り扱うV系専門のCD店「ライカエジソン」にきています。
ライカエジソンは、バンギャ(V系バンドの女性ファンのこと)・ギャ男(V系バンドの男性ファンのこと)なら、誰もが知るCDショップ。もはや『聖地』といっても過言ではありません。
ライカエジソン東京店
住所|東京都新宿区西新宿 7-15-14 坂本ビル1F
営業時間|AM11:00~PM8:00
店内にはV系のCDやフライヤー、V系雑誌のバックナンバー、メンバーのポスターやサイン色紙が貼られ…V系好きにはたまらない空間!!
14歳からV系の世界に足を踏み入れ、今でもずぶずぶバンギャ沼に浸かる私も……
「同じ雑誌、私も持ってる! 当時買った! 」とすぐさま大喜びの状態になります。
そんな「ライカエジソン」はV系の音源だけを扱い続けてなんと20年になるそう。
「CDが売れない」といわれるこの時代に、ヴィジュアル系しか扱わないにも関わらず、なぜその地位を維持し続け、CDを売り続けることができたのでしょうか?
バンドメンバーが店頭に立つ「インストアイベント」の裏話から専門店だからこその営業の極意、そもそも何をもってV系と定義しているのかなど、その秘密を探ってきました。
お話を伺ったのはこの方!
ライカエジソン東京店 チーフマネージャーの松本さん
数々のV系バンドとのイベントのブッキングや、仕入れなど、ライカエジソンの営業のすべてに関わり続けて14年というベテランマネージャーです。
しかも年齢は33歳、私と同い年! 共感率めちゃめちゃ高かった……!
というわけで、ちょっと聞きづらいこともどんどん聞いていくぞー!
V系の歴史の変遷とライカエジソン
「まずは、ヴィジュアル系の歴史を知らない読者のために、超簡単に歴史とかバンド名をまとめてみたのですが……。ぶっちゃけて一番売り上げ的にすごかったのはどの時代なんですか?」
「最初の質問から結構エグいとこ聞いてきますね……」
※ひにしがまとめたV系の歴史・簡易版
「僕がこのお店で働きだしたのは2000年代初頭なんですが、やっぱり90年代後半のヴィジュアル四天王時代はV系シーン自体がすごかったので、そこが一番だとおもいます」
「やはりそこなんですね…あの頃は『BreakOut!』などのV系バンドのみを紹介する番組が地上波でやっていましたもんね。ちなみに松本さんの記憶の中でこのお店で最も売れたCDは、誰の曲なんですか?」
「たしか『ナイトメア』のメジャーデビュー曲の『- Believe -』ですね。うちの店だけで1万枚くらい売っていた記憶があります」
「メアー! 1店舗でそんなに売れるとか確かに凄まじい!『ナイトメア』といえば、ネオビジュアル系の代表格バンドの1つですもんね」
「『- Believe -』に関しては、ジャケット違いが数種類あったんで、揃えたい!って人が多かったのかもしれませんね」
ひにし友人所有の「B-type」の「- Believe -」
「なるほど。昔と今とで、V系バンドの変化とかファンの変化ってありましたか?」
「バンド名とかは、昔と今で違いがありますね」
「バンド名? 私が現役だった90年代頃は『ルナシー』『ラクリマ』『ラレーヌ』『ラスティア』みたいに、とにかくラ行のバンドが多すぎるってのが定説だったんですが、今は違うんですか?」
「実は違うんですよ。ほら、このCD棚を見てください。最近は、サ行のバンドが比較的多い傾向がありますね。『サグ』『シド』『シビレバシル』『スタア区。』『サーティーン』とかね」
「うわ!ほんとだ、棚の中でサ行がむちゃくちゃ幅とっていますね。バンド名にも時代によって傾向があるとは盲点だったわー」
「ライカさんで音源を取り扱う時には、どういう基準でV系と定義しているんですか?『これはV系じゃない』『いや、V系だ』みたいな会議ってあるんですか?」
「その辺りは結構 明確に基準があって、
・そのバンドがそもそもV系と名乗っている
・活動しているライブハウスがV系御用達かどうか(高田馬場AREAや池袋CYBERなど)※V箱とも呼ばれる
・バンギャやギャ男が受け入れられる感じか
・レコード会社さんがV系枠として売っているか
などで判断するので、結構分かりやすいかと思います」
「活動している箱が基準ってのは、言われてみれば納得! なるほどなー」
ヴィジュアル系専門で20年も続いてきた理由とは
「ライカさんは、最初からヴィジュアル系の専門店として営業を始めたんですか?」
「いえ、最初は『UKエジソン』という名前で、UKロックを中心に扱うお店だったんですよ。なので、ほんとにたまーにですが、『この店UKロックの店じゃなかったけ?』と訪れる50代~のお客様もいらっしゃいますね」
「昔はV系じゃなかったんだ……! 昔UKロック好きだったおじさんが久しぶりにお店にきて、この有様だったら、そりゃびっくりしますよね」
この有様
「最近は『CD売れない』『音源売れない』と言われる時代ですよね? ニッチな市場である『V系』に特化しているライカエジソンは、ぶっちゃけ売り上げとかってどうなんですか? 下がってないんですか?」
「そうですね。ライカは今の音楽業界の流れには逆行するようなスタイルですが……ガクンと売り上げが落ちることもなく、わりと安定した売り上げを維持していますね」
「昔からあるようなオールジャンル取り扱うCDショップが縮小したり、撤退しているのに、なぜライカさんはV系しか無いのに好調なんでしょうか…?」
「ひにしさんはバンギャだから知っていると思いますけど、うちのお店だけでなくV系の専門店って実は昔より増えているんですよね。それってある意味答えなのかなって思います」
「たしかに…『リトルハーツ』さんとか『自主盤倶楽部』さんとか、V系の専門店は私が若い頃より増えていますよね…。専門店だからこその好調の秘密があるってこと? わーもっと教えて、松本さん!」
「ただCDを置いているだけでは、そりゃ私たちの店も売れないです。ライカではファンがお目当てのバンドと触れ合ったり交流できるような……体験と共にCDを買っていただくということを、かなり早い時期から行ってきたと思います」
「なるほど! 昔は大手レコードショップではなかなか行われなかったいわゆる、インストアイベントやお店独自の音源特典、握手会などのふれあいが、専門店が好調に生き延びてきた鍵ってことですね?」
店舗ならでは! インストアイベントの裏話
ライカエジソン店内のイベントスペース。憧れの場所に座れて笑顔しか出ない!
インストアイベント(以下インスト)とはアーティストがサイン会、握手会 、ミニライブ、トークショーなどをCDショップなどで行うイベントのこと。主にCDやDVDが発売する際に行われ、該当のCDを買うことでイベントに参加ができる。
「超素朴な疑問なんですが、インストって1時間いくらとかでお店を時間貸ししているんですか? それなら、例えば私がインストしたい!って思ったらやれるってこと?」
「時間貸しは基本しないですね。だってインストをやっている最中は、CDを買いに来ただけのお客さんには迷惑をかけることになっちゃう。メリットとデメリットが釣り合ってる必要があるんですよ」
「なるほど。でもインストってアーティストと近づける夢…ありますよね。私も『Raphael』の握手会のためにライカに並んだ18歳の頃を思い出します…。さまざまな種類のインストを行っていると思うんですが、企画するのはお店側なんですか?」
「お店側から企画することもありますが、事務所やアーティスト側から企画してもらう方が多いですね」
「そうなんだ!ライカさんだと、『ベル』の『しまむら私服コーデ対決』とかが話題になりましたよね? 他に、企画力がすごいとか、インストの内容がいつも面白いバンドってありますか?」
「それなら、ダントツで『えんそく』ですね」
「『えんそく』が過去にうちで行ったインストでも
・ラップ越しキス会
・壁ドン撮影会
この2つは特に印象に残っています」
「う~ん? どちらも、『嬉しいけど、よくありそう』という印象で、特に面白さは感じられないのですが……」
「いやいや、そこが味噌なんです。『ラップ越しキス会』の場合は、参加者が1人1人ブースに入って行うのですが、必ず中から『きゃあ~』という黄色い声があがり後ろに並んでいる方にも聞こえてくるわけです」
「そりゃ、好きなアーティストにラップ越しでもキスなんてされたらぶっ倒れますもん、私なら」
「いや、実際ブースの中で何が行われているかというと、魚の「キス」をもって参加者のホッペにくっつけるという、文字通り『ラップ越しキス会』…ってイベントなんです。歓声というより悲鳴っぽいのが聞こえるような気もしますけどね(笑)」
悲鳴を喜びの声と勘違いし、「本当にキスされてるんだ……」とドキドキするバンギャ達
「じゃあ、『壁ドン撮影会』ってのも…まさか…」
「これもブースに入って行うのですが、後ろの壁を『ドン!』と鳴らして
アーティストと写真を撮るというイベントです」
「やっぱりそういうことか…」
「こんな企画、どうやって考えてるのか。いつも『えんそく』はすごいなと感心しています」
「たしかに。あえて行ってみたくなりました(笑)。インストってお店によってイベントや特典が違うから、てっきりお店側が企画しているんだと思ってたけど、アーティスト側で各お店ごとに違うイベントや特典を考えていたりするんだなあ…すごいな…」
当たり前化するインストアイベントと今後のライカエジソン
「メンバーとの撮影会インストもあると思うんですけど、昔と今で違いとかあるんですか?」
「昔は携帯のカメラで撮るのは禁止でデジカメだけ!でしたね。やっぱりV系ですから、美しい写りは重要なので。昔の荒い写真しか撮れない時代は、携帯カメラNGでしたね。懐かしい…」
「たしかに美しさは大事ですよねぇ。私が行ってた頃はたしかにデジカメしかだめ!って言われたことあるわ…。携帯のカメラの性能による違い…時代ですね」
麗しいV系バンドのポスターたち
ここまできれいに撮るのは不可能とはいえ、やはりV系バンドは美しく写真に残りたいもの……
「インストなどがより活発になってきたのはいつ頃なのでしょうか?」
「やはり、2010年代になってから増えています。昔はバンドが売れていけばいくほどインストをやらなくなる傾向があったのですが、ありがたいことに今は大きなホールでワンマンライブができるくらい売れても引き続きインストを行ってくれるバンドが多いので、インスト自体がマストになってきている感がありますね」
「アーティストとの距離が近いのは嬉しいことですが、昔の『手の届かない存在』として応援してきた身としては、『そんなに距離が近すぎてもなあ…』と、複雑な気持ちもあります」
「それはあるかもしれませんね。今はTwitterとかでアーティストがリプを返したりすることもあるので、アーティストに対して『友達目線』になっているファンの方が多くなっているのは感じますね」
「SNSの発達によって、以前よりもファンとの距離感が縮まっている。それに加えてインストなども増えている、というのが、現在のV系を取り巻く状況なんですね。今後の展開などは考えてらっしゃいますか?」
「もちろんこれまで通り、インストや特別特典などを積極的にやってくれるバンドは応援し続けます。しかし、インストなどは事情もあって行えないけれども、ただただ良い音楽を作っているバンドっていうのも存在してるんです」
「わかります!!!」
「そういうアーティストにも光を当てて、バンギャやギャ男といった人たちに知ってもらいたいんですね。そんな機会も、今後はさらに増やしていきたいと考えています」
「具体的にいうと、どんな仕掛けを考えていらっしゃるんですか?」
「例えば、ライカエジソン主催で『ライカ・ザ・ライブ』というイベントを各地で行っています」
「こういった、ライブイベントでもライカならではのアーティストラインナップというのにこだわっています。V系シーンをより盛り上げていくことが、結果としてお店の今後につながるので、様々な仕掛けをどんどん行っていきたいですね」
「やはり、V系専門で20年続けてきたのは、このシーンを愛する気持ちとファンが喜ぶ仕掛け、そして未来への投資を絶えず行ってきた結果なんだなあ…。V系だけでなくすべてのエンタテインメントに通ずる極意かもしれない」
ライカエジソンの松本さん、本日は様々なV系専門店の裏側を教えてくださりありがとうございました!
V系好きにはたまらない空間すぎて取材後もずっとうろうろしていました
ご興味ある方は是非お店にも立ち寄ってみてください!
ちなみに今回はおまけとして、松本さんの「俺的V系名盤CD」も教えてもらいました!
X JAPAN「BLUE BLOOD」
Pierrot「パンドラの匣」
Laputa「翔~カケラ~裸」
Dir en grey「GAUZE」
MASCHERA「iNTERFACE」
PENICILLIN「VIBE∞」
ライターひにしも松本さんと同年代だからか、ほぼ所有の名盤揃いでした~~!ぜひ参考にしてCDを購入してみてくださいね! そしてみなさんもV系の沼に足を踏み入れましょう!
(おわり)
ライター:ひにしあい
本業はSEOの非常勤ライター。好きな本は路線図、好きな音楽はビジュアル系。特技はカラオケ芸。嫌いなものは犬好きを装う女。スクールカーストは常に2軍。女ならではのあるあるを試し続ける人。トゥギャッチやコネタ –Exciteで活動中。個人サイト「hinishi.com」。Twitter ID→@sunwest1