こんにちは。ライターのカツセマサヒコです。
ズボンのことを「パンツ」とか「ボトム」と呼ぶことに抵抗がある今日この頃、皆さんいかがお過ごしですか。胸元あたりのことを「デコルテ」って呼んで、ハイソな気分、味わってますか。
ファッションセンスというのは身に付かない人はいくつになっても
ところが先日、“
「ヴィンテージってアレでしょ? 要するに古着でしょ?『WE GO』で買うんじゃダメなの?」
「てか、服って博物館から買えるんだっけ?」
「そのお金でもっとウマい飯とか食えるんじゃない?」
と、ツッコミを入れてみたくなったので、今回はそんなオシャレ服に人生を奪われてしまったアパレルお化けに会いに行くことにしました。
レッツ・アーバンリサーチ!
ということで、今回取材させていただくオシャレ番長、長谷川彰良(はせがわ・あきら)さんの登場です。
10歳頃から洋服作りに目覚め、現在はフリーのモデリスト(※)をやりながら趣味で欧米諸国のヴィンテージ服を集めている。都内の一軒家で、奥さんと子どもと幸せに暮らしている素敵なパパでもあります。
※モデリストとは?
一言で言うと、“洋服のデザインから生産まで一貫して作れる人”のこと。「デザイナー」はあくまでもイメージまで、「パタンナー」はイメージを形にする人。モデリストはその二つの役割を併せ持ち、生産までしちゃうスゴい人。ドラクエで言う「バトルマスター」みたいな感じらしい。
初の個展で海外にまで注目を集める
「長谷川さんはとにかくヴィンテージ服が好きすぎて、趣味の域を超えちゃってるって聞いたんですけど、どんなことをやってるんですか?」
「僕、会社を辞めて最初にやったことが、集めたヴィンテージ服を分解し標本にしたもので個展を開くことだったんですよ」
「なんだそのパンクな個展」
「そしたら、○○○○美術館さんとか、アパレルの
「まさかの世界規模のラインナップ! 書けないのが悔しい……ッ!!」
「ヴィンテージ服を標本にしてる人って、そんなにいないんでしょうね。だから需要はあったんだと思います。でも、個展を開く準備で3カ月間ほぼ無収入で、初期費用に80万円くらいかかってますからね。なんとも言えないです(笑)」
「でも独立してすぐのタイミング、しかも妻子持ちで3カ月間無収入って、過酷すぎますよね……?」
「回収できるか心配だったんですけど、最終的には1400人くらい来場して、なんとか黒字にできました。無名の個人の個展としては、ギリ成功って言っていいんじゃないかと思ってます」
「初個展で1400人って、普通に考えてすごい」
「そもそも長谷川さんみたいなフリーランスのモデリストって、どうやって仕事を受けるんですか? 」
「僕は自分のブログから仕事の依頼を受けることが多いですね。『
「どんな人から依頼がくるんでしょう?」
「クライアントの9割はアパレルメーカーですね。海外メーカーからも仕事をいただいてます。クライアントによってはデザイン・パターン・生産までまるごと依頼をいただくこともありますし、個人の方からマニアックなオーダーメイドの依頼がくることもありますね」
「じゃあ長谷川さんは、いざとなったらどんな服でも作れちゃうってことですよね?」
「あー、でも僕、作る服の領域はめちゃくちゃ狭めているんですよ。たとえば、紳士服と婦人服だったら、紳士服しかやらない。編み物と織り物であれば、織り物の服しか作らない。パリコレに出るようなモードなモノは作らず、クラシックでスタンダードなものだけを扱うって決めているんです」
「じゃあ基本的にスーツばっかりだ。どうしてそれだけに絞ったんですか?」
「んー……」
「それが、僕がこの世に残したい服だから?」
「めっちゃかっけえ」
「僕のモノづくりに対するコンセプトが『100年前、150年前の感動を、100年後、150年後につなげたい』なんです」
「おお……!」
「将来的には自分のブランドをやろうとも思っています。ただ、『ブランド』という発信の仕方だけではなく、個展やセミナーなどにも積極的に取り組み、100年前の洋服の素晴らしさを僕らしい見せ方で、下の世代の人たちに伝えていき100年後の未来に繋げていこうと思ってます。」
「志の高さまで最高すぎる……」
ヤンキー御用達の「短ラン詰め職人」だった青春時代
「ファッションセンスが皆無な僕から聞きたいんですけど、どういう教育を受けたらヴィンテージの洋服に興味を持つようなオシャレさんになるんですか?」
「僕の場合、親の影響はまったく関係なくて、気付いたら好きだったんですよ。小学校3〜4年生くらいからミシン踏んでましたし」
「早すぎ」
「ボストンバッグが欲しいと思って、自分で作ったのがきっかけだったんですよね。親に布を買ってもらって、パターンみたいなやつ引いてました。確かその時点で、服作りを生業にするだろうなあと思ったのを覚えています」
「小学生男子って家庭科のエプロン作りすら嫌がって、ドッヂボールに命かけてるイメージだったんですけど」
「あ、でも、エプロンは全く上手に作れなかったですよ。たぶん、興味がないから(笑)」
「『好き』という理由だけでそこまで執着できるのが羨ましいです」
「中学・高校時代も服を作り続けていたんですか?」
「そうですね。出身が茨城なんですけど、ヤンキーが多い地域だったんで、友だちの学ランとかよく詰めてました」
「超いいエピソードじゃないですか。よし、ここでタイトル画像入れときますね」
「タイミング謎すぎるでしょ。実際、茨城のヤンキー文化を支えてた気がします。めちゃ怖そうな先輩から『長谷川くん、詰めてくれない……?』って遠慮がちに言われてましたし」
「ある意味スクールカーストの頂点ですよ、それ。長谷川さんも、ヤンキーだったんですか?」
「あ、僕は普通の学生だったんで短ランにはしませんでした。でも、当時って成長期だし、みんな入学当初って、大きめの学ラン買いませんでした?」
「買いました、買いました」
「僕、アレがすごいイヤだったんで、自分で裾とか詰めて、ひとりだけいつもジャストサイズを着てました」
「一周まわって短ランより怖いな」
「高校を卒業してからは専門学校に入って、
「アパレルまみれの人生すぎるし、『成るべくして成った』って感じがしますね」
圧倒的機能美! ヴィンテージ服お披露目
「ちなみにヴィンテージ服って、今もこの家に保管されているんですか?」
「ああ、ありますよ。見ますか?」
「ぜひ! ぜひ見たいです!」
ギィィィィ。
「屋上への隠れ階段とか、RPGすぎるでしょ」
「これが、今から120年前くらいのフランスの消防服です。20代始めのころに出会って、分解したら生き方が変わりました」
「生き方が変わるレベルなんですか、これが」
「量産されている既製服とオーダー服はつくりが全然違うんですけど、一度洋服の作り方を勉強すると、こういう服を見たときに発見がとても多いんですよ。この服なんか、人生ひっくり返るレベルでした」
「現代の服を分解しても、これとは全く違う形になるってことですよね?」
「そうですね。わかりやすいところで言うと、現代の服は肩周りが動きやすいように、背中側の布を前面よりも大きく作っているんです。でも、100年前の服は真逆で、前を大きく作っています」
「なぜそんなかたちに?」
「背面の布が小さいと、背筋を張らざるを得なくなるんです。そうすると、勇ましく見えたり、姿勢が良く見えたりするんですよね」
「へええ! たしかに世界史の教科書を見ていると、みんな胸を張ってるイメージある」
「それ、服による要因もあると思いますよ」
「なるほどー! 分解するだけでそんなことがわかるんですね」
「そうですそうです。
「え! 着ていいんですか!!!」
「あ、意外と似合ってる」
「本当ですか? なんか、ちょっとした露出狂に見えません?」
「大丈夫、イケます」
「こういう服、どこで手に入れるんですか?」
「仲のいいコレクターがヨーロッパをずっと周っていて、その人から買いました。これは100年前のアメリカ海軍の軍服ですね」
「海軍かー! かっこいい!!」
「こういうのを着たり分解したりすることで、歴史や背景を研究するのが楽しいんですよ。これとか『ソード・スリット』って言って、剣を刺せるスリットが付いてるんですよ」
「すげー!! 男の子が大好きなヤツじゃないですかこういうの!」
「ですよね(笑)」
「完全に呪われそう」
「博物館からディーラーに買いとってもらって、それを僕が買ったんです」
「いくらで買えるんですか、そんなの」
「これは時価だったんで、ジャケット2着とシャツ1着をオーダーで仕立てて、それと交換して買いました」
「スキルで物々交換するとか、めっちゃカッコイイ」
「ちなみになんですけど、これらを合わせたら総額いくらくらいになるんですか?」
「うーん、○○○万円くらいじゃないですか?」
「絶対に真似したくない趣味だな」
おわりに
軽い趣味の延長線上にあるかと思った「ヴィンテージ服の収集癖」は、いつしか趣味の域を遥かに超えて、世界が注目するブランドから声がかかるほどの異次元の世界に行っていました。
無趣味・無頓着でだらだらと生きてきた僕からすると、長谷川さんのように「何かを突き詰めること」に夢中になれる人は本当に尊敬ばかりです。
ましてや「3カ月間無収入でもやりたいこと」なんてこれっぽっちも浮かばない僕には、初の個展にそこまでの労力を割ける熱意が羨ましくてしょうがない。
そして何より、洋服のコンテンツとしての奥深さ! 一着を分解するだけで見えてくる歴史的背景に、かなりワクワクさせられました。
この世界観をもっと見てみたい方はぜひ、長谷川さんのブログを読んでみてください。ディープな世界が広がりすぎてて、若干引いたあとにめちゃくちゃ楽しめますし、各地でイベントやトークショーも主催しているようなので!
それでは、またお会いしましょう。
レッツ・ナノ・ユニヴァース!!
ライター:カツセマサヒコ
1986年東京生まれ。下北沢の編集プロダクション・プレスラボでライター・編集者経験を経て、2017年4月より独立。 広告記事、取材記事、コラム、エッセイ、Web小説等の執筆および、 メディア運営・企画・取材・編集・拡散等の領域で活動中。趣味はtwitterとスマホの充電。Twitter→@katsuse_m