こんにちは、ライターの友光だんごです。皆さん、「フェス」はお好きですか?
全国で開催されるフェスは年々増加し、2016年に開催された音楽フェスは180以上ともいわれます。
人気フェスの2016年の来場者数をみると
・FUJI ROCK FESTIVAL 約12万5千人(3日間+前夜祭)
・ROCK IN JAPAN FESTIVAL 約27万人(4日間)
・SUMMER SONIC 約19万4千人(2日間)
となり、この3つのフェスだけで鳥取県の人口と同じくらいの人が動いているようです…!
それだけの人を動かすイベントの運営ってめちゃくちゃ大変そうですよね。アーティストや出店ブースの調整、ましてや雨が降って中止になったらどうするんだろう…? チケット代の払い戻しだけで破産しそうじゃないですか…?
「フェス運営」という仕事に興味が湧いていたちょうどそのとき、なんと愛知県の「森、道、市場」というフェスの主催者にインタビューする機会ができました。
森、道、市場
開催日:5/12〜14(12日は前夜祭)
会場:大塚海浜緑地(ラグーナビーチ)&遊園地ラグナシア
●出演アーティスト
Chara / THE BEATNIKS(高橋幸宏+鈴木慶一) / KIRINJI / Gotch & The Good New Times / フラワーカンパニーズ / ストレイテナー / ZAZEN BOYS / クラムボン / チャットモンチー / 安藤裕子 / cero / 中村一義 / ハンバート ハンバート / 石野卓球 / THA BLUE HERB ほかおよそ80組が出演予定(詳しいラインナップはこちら)
先にこの「森、道、市場」(以下「森道」)の説明をすると、どうもいわゆる「フェス」とはひと味違うようなんです。
音楽ステージだけでなく、森道にはフードや雑貨などのブースが出店しているんですが、その数なんと300以上。イオンモール並みです。カフェやクラフト好きにはたまらない面子で、ピースフルなゆるい雰囲気を絶賛する声も多いです。
去年の様子はこんな感じ。
しかし、その「ゆるい雰囲気」の裏側には、主催者のグツグツと煮えたぎる「熱狂」がありました。フェス運営の裏話から今年の森道の注目ポイントまで、ガッツリ聞いてきたのでご紹介します!
フェス主催は超多忙!なかなか主催者と話せない
「森道」の舞台となる愛知・蒲郡市にやってきました。写真奥に見えるのは三河湾。夏は海水浴でも賑わうほか、愛知県内最大の温泉地でもあります。
この日は、「森道」内のコンテンツ「EATBEAT!FIRE」予告動画の撮影が行われていました。
↑この時撮影された動画はこちら
現場には「森道」本番に出店するお店や生産者、料理家さんら約40名近くが集まり、料理やお酒が並んでいます。その中に、主催者の方の姿がありました。
話を聞かせてくれた人:岩瀬貴己(いわせ・たかみ)さん
愛知県岡崎市在住。主催をつとめるイベント「森、道、市場」は2011年の初回以来、今年で8回目の開催となる。本業は建築関係。
「こんにちは!」
「あーどうも!まあしっかり食べてください!」
と言うなり岩瀬さん、なぜかスッと去ってしまいました。ひっきりなしに電話で通話し、とてもせわしない様子です。そばにいた人に理由を尋ねてみると、
「あの人、出店する300店舗以上と直接連絡とってるから忙しいんですよ」との答えが。
……そんなことってあるんですか?
謎が深まるなか、岩瀬さんをつかまえてインタビューが始まります。
逆ピラミッド構造が、結果ラク?
「料理を食べつつ失礼します。岩瀬さんが出店者に直接連絡をとってるって本当ですか?」
「そうですよ!毎年、市場の出店依頼はぜんぶ僕が直接メールして、一部、人に任せてるエリアもありますが、ほとんどは本番まで直接やりとりします」
「一人で300人以上も相手にしてたら僕なら気が狂いそうです」
「結局、直接やったほうが早いなってなったんですよ。森道の最初は市場の担当者がいたんですが、色々トラブルが起きてしまって。森道の第3回で『もういいわ!』って僕の下に直接全国の店ってシステムにしました」
「普通、運営の組織ってだんだん大きくなっていくと思うんですが」
「うちは問題が起きて人がやめていって『逆ピラミッド構造』ですね。でも、結果、一番ラクですよ。間に人を挟んだら時間かかっちゃうけど、僕が即決できるのでいろんな交渉ごとも早い」
「いやいや、なんか一周回ってる気がする。楽ではないでしょう!」
「『周りを巻き込む』のがコツですよ。森道の出店って基本的には紹介制なので、勝手を知らない新規の店でも、出店者の知り合いがサポートしてくれる。僕が全部カバーしなくてすむようになってます」
「それで回せます…?本当に…?」
利益をとらなければ、チケットは安くできる
「フェスの運営の人って、普段は別の仕事をされてるんですか?」
「そうですね、僕は建築関係で、お店の内装なんかをやってます。生計はそっちで立てていて、森道はあくまで『日常』。お金儲けが目的じゃないんです」
「なるほど〜ではチケットが安いのって儲け度外視なんでしょうか? 3日通し入場券が6400円(通常価格)って驚きました」
「いえ、赤字にはなってないです。やれるんですよ、利益さえとらなければ!」
「いや、普通なかなかやれないと思います」
「森道は『市場』がメインなので、チケットを高くしたくないんです。市場に買い物に行くのに、何万円も払わないでしょ? だから、できるだけ自分たちで頑張って、コストを抑えてます。主催側の意識としては、森道はフェスではなくて『市場』なんですよ」
「あと気になってたんですが、野外フェスって雨が降ったら大変ですよね。出店者への制作料の払い戻しとかってどうしてるんですか?」
「『イベント保険』っていうのがあるんですよ。事故賠償からイベント自体が中止になったとき用まで、保険料に応じて何種類かあります。保険料かけ捨てのもったいないやつですよ。うちも3回目で初めて入ったら、4回目が天気のせいで中止になって、入っててよかったなって(笑)」
「保険があるんですね、ちょっと安心しました。しかし岩瀬さんの肩に乗っかってる金額、想像したらゾクゾクします」
「そう、今の運営の形だと、僕が死んだら終わりなんですよね(笑)。だから健康に気をつけなきゃいけないんだけど、さっきも安い缶チューハイがぶ飲みしちゃった。出店者さんの日本酒の方が体にいいんだけど、日本酒飲めないから」
「甘酒とか体にいいやつ飲んでください」
今年は遊園地を『大人借り』した
「森道の最初は、蒲郡にある『三ヶ根山』っていう場所が面白くて、いろんな人に見てもらいたいなと思ったのがきっかけ。人を集めるために店を呼んで市場にして、音楽も必要だなと思ってアーティストを呼んで。その1回目でいきなり3000人くらい来たんです」
「それが2011年ですよね」
「最初の会場はすぐにキャパオーバーになって、2014年からいまの『ラグーナビーチ』に移りました。毎回、トイレが足りないとか駐車場が少ないとか問題が出るので、対応するうちにどんどん規模が大きくなっていったんです」
「いまの来場者数ってどれくらいですか?」
「今年は1日あたり18000人くらいが目標です。出店者や子どもも含めたら、20000人くらいになるのかな。会場も手狭になってきたので、今年は隣の遊園地を『大人借り』しました」
「遊園地を借りると駐車場が1000台分ついてくるんですよ! 遊園地のスタッフがそのまま森道のスタッフになってくれて、チケットのもぎりをしてもらえるし」
「『めっちゃお得』みたいに言ってますけど、それで普通、遊園地丸ごと借ります?タダじゃないですよね?」
「1日あたり〇〇〇〇円くらいかかってますね」
「相当な金額…!!!」
「それも遊園地と僕が直接交渉してたので、早かったですよね」
「そういう問題じゃないような」
音楽で集客して、市場を知ってもらうという発想
「相当苦労して運営してることはわかってきたんですが、森道のコンセプトって何なんでしょう?」
「ひとつは『いいものを体験してほしい』ってことです。たとえば添加物を使わずに作ったいいみりんって、味が全然違う。体験してもらえばファンになるはずなんだけど、『いいみりんです』だけ言ってても人は来ない。だから、音楽で人を呼んで集客するって発想です」
「音楽で集客!他のフェスにはなさそうな発想ですね」
「うちはあくまで『市場』なので。市場が安定したほうが、長く続けられると思うんですよ。それといいものの良さは若い子にこそ知ってほしいんです。森道の今のメインの客層は30〜40代だけど、そこだけに伝えてたら、10年後食いっぱぐれちゃうから」
「下の世代につなげるってことですね」
「まあ、カウンターカルチャーですね。愛知って元々ヒッピーが多い土地柄で、オーガニック志向みたいなものも強いんです。ただ、それを別にお客さんに押し付けるつもりは全くなくて、トップレベルなものをリアルな場で共有したいってだけです」
「運営をやってて大変なことってあります?ネットでディスられたりしません?」
「『今年変わってません?』とは言われますね。こちらが変わったつもりはなくても、何度も来てくれる人はその人のなかにイメージができちゃうので。それは仕方ないっちゃ仕方ないし…めっちゃ寝てないしスケジュール調整もめっちゃ大変ですけど、笑顔に勝るものはないんで」
「純粋に疑問なんですが、岩瀬さんって何百人と連絡とってて、愛が枯渇したりしませんか?全部投げ出してどっか行きたいってなったり…」
「愛?愛は切らさないようにしてますね。5分に一回電話かけてくる人にはちょっとげんなりするけど、枯渇しません。元がめっちゃ多いんじゃないかな」
「なかなか出ない答えですよ…今日はありがとうございました!」
おわりに
岩瀬さんの愛の総量の底知れなさは、すなわち森道の裏にある「熱狂」なんだと思います。
「直接やったほうが早い」「駐車場がついてくるから遊園地丸ごと借りよう」で本当にやれてしまうエネルギーは尋常ではなく、岩瀬さんのなかにはその熱狂が渦巻いているはずです。
しかし、滾るエネルギーを表にみせることなく、思想も押しつけず、あくまで「楽しんでほしい」というバランス感覚が、森道をここまで大きくしたのでしょう。もちろん、裏に潜む主催者の熱狂にどこか気づいて惹きつけられている人も、少なからずいるはずです。
僕も今年は現地で、その熱とともに「森道」を体験してきたいと思います。
さて、おまけとして「今年の森道のここがすごい」まとめです。
①会場に遊園地が加わり、広さが倍に
前年までのラグーナビーチに加え、隣の遊園地も会場に!駐車場も増えました!そしてなにより森道の来場者は遊園地のアトラクションに無料で乗れちゃいます。
②出演アーティストも過去最多の約80組
「市場がメイン」といいつつ、音楽部門も充実。海エリア4ステージ、遊園地エリア2ステージの計6ステージ!!僕はGotchバンドが楽しみです。
③コンテンツ量が尋常じゃない
前夜祭にはサカナクションの山口一郎さん率いる「NF」、食をテーマにしたライブパフォーマンスイベント「EATBEAT!FIRE!」、物語音楽家 × 裁縫師 × 照明作家による音と布と光のステージ「仕立て屋のサーカス」などなど、コンテンツも目白押し!
④地域がテーマのブースや企画も
糸島から「暮らす、食べる、糸島」、沖縄から「リトルオキナワ」、 台湾から「台湾日和」など、各地域の食や作家が集まる企画も!
いや〜、泊まりで行かないととても回りきれないボリュームですね。というかうっかり遊園地で遊ぶだけで1日潰れそう。
チケットはこちらで発売中!まだ間に合います!急げ〜〜〜〜!!!!
※公式サイト: http://mori-michi-ichiba.info/
※instagram: 森、道、市場 (@morimichiichiba)
書いた人:友光だんご
編集者/ライター。1989年岡山生まれ。Huuuu所属。犬とビールを見ると駆けだす。Facebook:友光 哲 / Twitter:@inutekina / 個人ブログ:友光だんご日記 / Mail: dango(a)huuuu.jp