東京大学をバックにこんにちは、散歩おじさんトリオです。「サンポー」という散歩メディアで愉快な散歩をしています。この短時間で「散歩」という単語を3つも出して恐縮です。記事を書いているのは左端の井上マサキです。
今日は東京大学駒場キャンパスに来ました。京王井の頭線で渋谷から2駅、駒場東大前駅の目の前です。さて、まずはこれを見てもらえますか。
中央に犬が見えますね。こちら、東京大学運動会のキャラクター「イチ公」といいます。東京大学の前身である「旧制一高」が名前の由来だそう。学帽と凛々しい眉毛に知性を感じます。
一方、渋谷には「ハチ公」がいることは皆さんご存じでしょう。
そう、2駅離れた距離に「イチ公」と「ハチ公」という2匹の犬がいるのです。ということは、イチ公とハチ公の間に、二公からナナ公がいると思うんですよ。もう一回言いますね。イチ公とハチ公の間に、二公からナナ公がいると思うんですよ。
というわけで今回は、まだ見ぬ二公~ナナ公を探し歩きたいと思います!
【登場人物】
「駒場東大前集合って何かと思ったら、これか〜。秘密主義やめてくれません?」
「居ません。ニ公もサン公も居ません」
「じゃあ、1と8の間には何があるか言ってみてくださいよ」
「2とか、3とか、あと4」
「ほら〜! あと、5とかもありますよ〜」
「東京大学の前で喋っちゃダメなレベルの話! だいたいハチ公のハチは数字じゃないですよ」
「(無視して)今回のルールはこちらです」
【ルール】
・イチ公(駒場東大前駅)を出発し、ハチ公(渋谷駅)まで歩く。
・道中で『これは』という存在に二公からナナ公まで命名する。
「見つけるのは、犬じゃないといけないんですか?」
「原則犬です。イチ公からハチ公までグラデーションになるのが理想です」
「うまくいくのかなー。そんなに犬居ますかね?」
「青森の地名で一戸から八戸まであるじゃないですか。あれと一緒で、ニ公、サン公って、ハチ公までぽんぽんと犬が居るんですよ」
「居るんですよ、って言い切った」
「あ、でもさっきの八戸の話、ホントは四戸だけ無いんですよね。あと八戸で終わりじゃ無くて、九戸まであるんですって」
「何の話だよ。不安しか無い」
東大前商店街へ
それでは駒場東大前駅を出発して渋谷駅を目指します。脇目も振らず歩けば徒歩20分ほどの距離です。Googleマップがそう言ってました。
「あっ!あれ二公じゃないですか!」
「もう!?」
「出発から5分も経ってないですよ?」
「ほら!犬!犬でしょこれ!ね!犬だ~」
「井上さん、めちゃめちゃ嬉しそうですね」
「企画が成立するか不安だったんだろうな」
歯医者のマスコットらしく尻尾が歯ブラシになっています。歯を磨くときは胴体を握るのかなと心配になりますが、誠に勝手ながらこちらを「二公」としましょう。(以後、全て誠に勝手ながら命名していきます)
次はサン公を探します。「東大前商店街」に出ました。のぼりには「ご入学おめでとうございます」の文字。日本一偏差値の高い商店街の予感がします。
こちらは「キッチン南海」のショーウィンドウ。ザ・学生街の食堂といった面持ちで、ガッツリ系の洋食がリーズナブルなお値段で並んでいますが、その中に……。
「象がいる。なんで置いちゃったんだ」
「『カツカレーは象と比べるとこれくらいの大きさです』っていう表現かな」
「カツカレー、めちゃくちゃ大きいじゃないですか」
「あ、犬ですよ。これサン公でいいんじゃないですか」
「この犬はあちこちで見るからなー。やっぱりオンリーワンの存在じゃないと。犬だけに」
「おっ」
動物を探しながら東大前商店街を歩きます。車2台がすれ違うのがやっとの道幅。昭和を感じる佇まいの店も多く、ちょっと行ったら渋谷とは思えないくらい静かです。カフェもありました。
「これ犬かな……」
「犬ですかね……」
「ではこれをサン公とします」
「なんで迷わないんだこの人」
ヨン公とゴ公、突然進化する
順調に二公、サン公が見つかり、次はヨン公。東大前商店街が終わり、そばを走っていた京王井の頭線とも一旦お別れです。超近くで線路を見られるポイントがあって、おじさんたちは釘付けになってしまいました。
「この落書き、『FTS』って描かれたあとに『vs』以降が描かれてますよね」
「宣戦布告っぽい。ゴシック体と筆記体の戦争だ!」
「筆記体が勝ったら看板の文字とか全部読みづらくなりそう」
逃げるようにして進むと山手通りにぶつかりました。今まで歩いていたのは目黒区で、この辺から先が渋谷区になります。
山手通りとの交差点に「ヤマザキ動物専門学校」という専門学校が。動物!これはヨン公がいる予感……!正面に回ってみると……
「デカい!これをヨン公にしましょう!」
「これ、キリンじゃないんですか!?」
「進化ですよ進化! 高い場所のエサを取れる個体が生き残り、やがてハチ公になったんですよ!」
「その説明だとハチ公もこれくらい首が長いよ?」
とにもかくにも残るはゴ公、ロク公、ナナ公です。住所で言うと松濤二丁目、もうすぐ神泉駅といったところ。犬も距離もちょうど折り返し地点になりました。先を急ぎましょう。
しかし、メダカみたいな魚がたくさん飼われているのを見つけてタイムロス。
「これどう?ゴ公とロク公にならない?」
「待ってる感じ出過ぎかなぁ。ゴ公でここまで忠犬っぽさが出るのはちょっと早いかも」
「忠犬っぽさ?」
この辺りは高級住宅地だけあって、犬を散歩させる人も多い様子。犬のふんの始末をお願いする貼り紙もあちこちで見かけます。その中に……
「なんだこの犬、めちゃめちゃ賢い!」
「『自分のケツは自分で拭く』みたいな男らしさもあるなぁ。この賢さはゴ公に認定せざるを得ない」
「ヨン公で肉体が進化したあとに、頭脳の進化がきたんですね」
ロクとナナ、ハチ公に着くまでに見つかるか
さて、神泉駅まで来ましたよ。渋谷につながる京王線のトンネル、上り下りで独立しててたまらんですよね。
「この無料相談会、『ご相談内容に応じた複数の専門家(7士業)が同席し……』ってあるけど、なんでブルーだけ顔出しなんでしょうね」
「プレイヤーセレクト画面みたいですよね」
「ブルーは電卓持ってるし税金とか詳しそう。他の人は何持ってるんだ」
「ピンクはセクハラ相談かな。セクハラピンク!的な」
「今の言いたかっただけでしょ」
渋谷駅を目指しながら、なるべく路地へ路地へ……と入り込んでいったら、いつの間にかホテル街になっていました。ロク公とナナ公を見つけないといけないんですが、動物の姿が少なくなって焦ります。
「いっそ、これをロク公に……」
「志半ばで投げ出しすぎですよ」
「あ、これ犬に見えない……?」
「壁のシミだけど」
「言われてみると犬に見えてきますね……」
「なんかラスコーの壁画っぽさがあるなぁ……ゴールも近いし、これをロク公で……!」
ついに壁のシミまで許容するようになってしまいました。残るはナナ公のみ。壁のシミと石像の間を埋めないといけません。
「あの商店街の事務所、細すぎじゃない?」
「4人いれば倒せそう」
百軒店を歩きます。創業80年90年オーバーの店がゴロゴロしててすごい。「86周年」の看板は毎年アップデートしているのかな。
「誰だ、牛の上にBEEFって書いたの」
「安易!」
ナナ公を探しますが、「犬っちゃ犬っぽいステッカー」や「犬だけどもはやハチ公なんじゃないか」みたいなのしか見つかりません。最後なので華々しく終えたい、という気持ちが無駄にハードルを上げていきます。
百軒店から道玄坂小路を抜けて、いよいよセンター街が近づいてきました。ハチ公に着くまでに見つけなくては……。
「あれは……」
「羊ですね」
「これは……」
「ケバブを狙う鳩ですね」
「これは……」
「これは……ん?」
「お?」
「なんていじらしい……このPepper、ご主人を待ってませんか……?」
「待ってますね。言いつけを守ってじっと待ってますね」
「そして適度に石像っぽい……」
「では……これをナナ公とします!」
センター街を抜け、ゴールの渋谷駅が見えてきました。気がついたら20分の道のりに1時間以上かけていました。道ばたのものに逐一ツッコみすぎです。
ようやくたどり着いたハチ公とパチリ。これにてイチ公からハチ公までコンプリートです!
進化あり、二足歩行あり、機械化あり。バラエティに富んだ忠犬たちが集まりました。これまで日の目を観なかった名も無き犬たちも、これで胸を貼って生きていけることでしょう。俺たちはハチ公に繋がる血統なのだと……。
「それにしても思っていたよりスムーズに見つかりましたね……そして周辺にはまだ犬がいる……」
「え」
「これは……ハチ公の先もまだまだいますね。N公がいますね(Nは自然数とする)」
「またややこしいこと言い始めた」
「ちょっと調べてみたんですけどね、大分県に『萬公寺』っていうお寺があるんですよ。つまり、渋谷と大分の間に9公~9999公が9991匹いるはずなんですよね。徒歩で移動すると……」
「8日とちょっと。理論上は約100mに1匹いるはずで……」
「やらないよ」
「やりません」
「はい、終わり終わり」
「帰りましょう帰りましょう」
(おわり)
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書いた人:井上マサキ
ライター。好きな路線図はロンドンとプラハ地下鉄。子供のころ「脱サラ」はサラ金から逃げ切ることだと思っていました。 Twitter:@inomsk 個人サイト:イノミス