集合写真でこんにちは。後列右から4番目の友光(ともみつ)と申します。
これです。
以前、『【保存版】明日は我が身! 災害時に役立つ「車中泊マニュアル」を教わってきた』という記事で、車中泊のアドバイザーとしてジモコロに取材を受けました。
今回は取材される側から、する側へと立場を変えて、先日参加した「TAKA Winter Video Camp」の模様を振り返ってみたいと思います!
最近、よく日本のいろんな自治体のPRムービーを見かけませんか?宮崎県小林市の「ンダモシタン小林」や大分・別府市の「湯~園地計画」告知動画など、目にした方も多いのではないでしょうか。
ここ兵庫・多可町(たかちょう)でもPRムービー計画が進行中なのですが、 その手法が一風変わっています。それが「5人の映像クリエイターに2泊3日のキャンプをしてもらい、PRムービーのため町の『SUGOI』を発見してもらう」というもの。
面白そうじゃないですか? 実際めちゃめちゃ楽しい経験になったので、同行したジモコロ編集長の柿次郎と共に、レポート形式で振り返ってみましょう!
それでは当日の朝からスタートです!!!
幕開けは大寒波の予報とともに
「今回の取材、すごい刺激を受けて今もカラダが火照ってる感じです!」
「友光さんには出発前日に声をかけたんだけど、来てよかったでしょ?」
「『前日に声をかける』、というのは社会人としてどうかと思いましたが、暇だったんでちょうどよかったです」
「そもそもこのキャンプには僕がメンター(※指導者・助言者)として呼ばれていて。そこにジモコロの取材をくっつけた形なんですが……しかしこの旅行、雪との戦いだった」
「『最強寒波』とやらが来てましたからね。出発した時は晴れでしたが、『絶対ヤバい量降るから』ってどの天気予報見ても言ってました」
「まず、新大阪のレンタカー店でひと悶着あったよね。予約したレンタカーはノーマルタイヤだったから。でも、ほぼ間違いなく雪積もるって言ってるし……」
「スタッドレスタイヤにしたらなかなかの追加料金とられましたね」
結果的にスタッドレスにして良かったのです。なぜなら……
次の日には、一面、ご覧の雪景色になってたからです!
翌日のことはまだ露知らず、我々を乗せた車は、キャンプの集合場所である駅へ到着。
駅前には、キャンプに参加するクリエイターさんの姿が。
さらに今回のキャンプを企画・運営する「株式会社ロフトワーク」のスタッフ、そして多可町役場の皆さんが到着! 参加者がそろったところで、 いよいよ多可町へと移動します。
「だんだん旅のパーティーが増えてく感じ、たまらない」
「ここで、参加クリエイター5名の皆さんを紹介します」
クリエイター①:くろやなぎてっぺいさん
ミュージックビデオからTVOP、アニメーションまで多岐にわたり活躍し、アートユニット「1980円」としても活動。音楽と平和を愛する人たちが「あいうえお作文」でラップする「あいうえお作文RAPプロジェクト」も話題に。
クリエイター②:宮下直樹さん
故郷の京都と東京を行き来しながら、「Terminal81Film」として活動。「うるしのいっぽ」など、写真や映像表現を用いたプロモーションやブランディングを手掛ける。
クリエイター③:齋藤汐里さん
今回の参加クリエイターの紅一点。テレビ番組の制作を経てクリエイターとして独立し、アメリカと日本の二拠点で活動中。自由大学(東京・表参道)にて「魅せる!映像学」の教授も務める。
クリエイター④:岸田浩和さん
会社員、ライターを経て、2011年の震災を機に映像記者に。さまざまな人とモノの背景にあるストーリーをドキュメンタリー手法で可視化し、映像や写真・テキストによる表現でメッセージを伝える。
クリエイター⑤:
松岡真吾さん
広告制作会社勤務ののち、東京・多摩エリアの地域出版社「けやき出版」に入社。編集業と並行し、東京区外30市町村の街の映像を記録し配信するシリーズ『La Vie Landscape Archives』を制作している。
「どの方の映像も本当に素敵なんです」
「ジャンルもキャラクターもバラバラで面白かったね。みんな個性的!」
そもそもどういうキャンプなのか
多可町役場へ到着すると、手書きの黒板がお出迎え。手作り感の良さですね。
はじめにロフトワークさんからキャンプの目的や流れの説明があり……
柿次郎から、普段のジモコロの記事作りを元にした「地域の魅力の発見の仕方」「広く読まれるコンテンツの作り方」などに関するトークがあり……
町長さんからのお話があり……
と、ここでやっと、勢いで来てよく分かっていなかった僕もイベントについて理解しました。まとめますと…
・クリエイターはキャンプでのワークショップやフィールドワークを通じ、多可町のSUGOI魅力を発見する
・キャンプ後に、PRムービーのコンペを実施。町民投票と最終審査を行う
・グランプリを受賞したクリエイターが、多可町のPRムービーを実際に制作し、後日公開される
という流れでした。そもそも今回でPR映像を撮るんじゃなくて、あくまで下調べなんだ。めちゃくちゃ大がかりだなこの企画……
「そう!クリエイターの募集が始まったのが去年の秋で、プロジェクト自体はそのもっと前に始まってるから。参加クリエイターも数十人応募があって、5人に絞られてるんです」
「町長さんが『肝入り』って言ってた理由がわかりました」
一体なぜこんなにも「TAKA Winter Video Camp」に力を入れているのか?
多可町は、そもそも3つの町が合併してできた町。町名の『多加』は元々郡名のため、知名度が低いのが課題だそうです。そこで、PR映像で日本全国、いや世界に魅力を発信したい!というのが今回のプロジェクトの発端だそう。
ちなみに、役場の庁舎は元小学校。渡り廊下に並ぶ地元のチェーンソーアーティストの作品がいい味でした
「地元のPRムービーを作る方法って色々あると思うんだけど、今回は映像を作る過程を『皆で楽しめる』ようになってるのがすごいと思った」
「映像のテーマ探しもワークショップ形式にして、クリエイターが楽しみつつ、発想を手助けしながらより良いアイデアが生まれるようになっていましたね。役場の人も全面協力で、クリエイターと地元の人の間をうまく取り持ってくれて」
「お互いが無理せず、自然に交流できるような雰囲気を作ってくれてるのも好印象だった」
地元のお母さんを中心に運営される「田舎のコンビニ」へ
さて、役場を出て向かったのは「マイスター工房八千代」。地元のお母さんを中心に運営される「田舎のコンビニ」で、人気商品の「太巻き寿司」は一日に1500〜2000本が完売するほど!年商2億円!
噂の太巻き寿司。めちゃおいしかった!
こちらは「マイスター工房八千代」の施設長・藤原たか子さん
マイスター工房の喫茶室で藤原さんのお話を聞かせてもらいました。話がめちゃおもしろい!
「藤原さんは『マイスター工房八千代』の経営者であり、『太巻き寿司』を開発したアイデアマンであり、多可町の『母』よね『母』」
「藤原さんについては、あまりにおもしろすぎたので、近日中に別記事で詳しく紹介します! お楽しみに!」
その後、役場でワークショップが開かれ、夜はいよいよ交流会です。
多可町最初の夜は更けて
地元企業の代表から青年団の方まで、町の人も多数参加した大交流会。メイン料理は名産「播州百日どり」のすき焼き。たれは藤原さん特製です。
多可町では「山田錦」という日本酒の素材となる酒米も作られているんです。だから乾杯は日本酒で!
交流会では、カメラマンとして同行してくれた「鶴と亀」小林さんのトークイベントと、クリエイター陣の自己紹介タイムも。クリエイターそれぞれの映像作品が流され、皆さん真剣に見つめています。
「僕もジモコロで全国いろいろ回ってますけど、なかなかこんな会ないですよ。規模もそうだし、ただ宴会するんじゃなく、自己紹介タイムまで組み込まれてて」
「映像を見て、ぐっと距離が縮んだ感じがあったような。『こんな凄い映像で多可町を撮ってもらえるんだ』って地元の人は思いますよね」
「映像っていいなって思ったな〜。『引き込む』力がめちゃくちゃ強い!普段、文字の世界で戦ってるから、つくづく映像の強みを感じた」
「地元の人と意見交換できたのも面白かったですね。『おせっかいなおばちゃんの力をもっと活かしたい』とか、『交通の便がもっと整えば』とか、いろんな意見があって」
「あの場でも言ったけど、すでに十分魅力的だと思うんよね。人にエネルギーがあるし、実際、町に来てみて、風景もすごいいいし。だから、自分の土地を『ここが駄目』って卑下するより、前向きに『ここが好き、もっと知ってほしい』って言う方が、より良くなっていくと思う!」
宿泊先のコテージに移動して部屋飲み。酒量も増え、アツい話でヒートアップしました。いつ寝たのかは憶えていません。
地場産業「播州織」で頑張る人たち
さて2日目の朝です。
た、大変だ〜〜〜
雪……
雪が、めっちゃ積もっとる〜〜〜〜!!!
寒波寒波とは聞いていましたが、地元の人曰く、多可町でこれほど積もるのは「20〜30年に一度」だそうです。マジか。
豪雪の中、最初に向かったのは「コンドウファクトリー」。地場産業である「播州織」の工房です。
正直、ここだけで記事になりそうなくらい面白かった!
『播州織』は約230年の歴史を持つ綿織物で、昔は多可町に700軒くらい機(はた)屋があったとのこと。ところが、中国の台頭で打撃を受けて、いまは90軒まで減少。しかし、現在は若い人たちが頑張ってなんとか盛り上げてるんです。
「オリジナルの生地が素敵でした! ジャカード織といって、柄をあとからプリントするんじゃなくて、先に染めた糸を織って、柄ができているんですよね。その生地を使った手作りキットもあって」
「こちらの工房、コンドウファクトリーは、『今までの町の中での商売じゃなく、外へ売らなきゃ駄目だ』と方針転換したらしいね。播州織を継いだ若い世代が他にも何軒かあって、とっても印象的だった」
「みなさん、地場産業であり家業である播州織の現場に危機感を持って、新しいやり方を考えて挑戦してる。これからが楽しみですね」
フィールドワークin多可町
さて、ここからはクリエイター&地元の人がペアを組み、町の魅力を探すフィールドワークへ。
各チーム、地図を見て作戦会議中。この後、それぞれ車に乗り込み、出発です。
一方、我々ジモコロチームはというと……
腹ごしらえして……
たい焼き食べて……
温泉入って……
昼寝しました。
「自由かよ」
「いや、風呂は重要ですよ。充実した旅かどうかに大きく関わってくるから!」
「こういうのがフィールドワーク……なのかな」
「そういうこと! 遊んでるように見えて、ちゃんと取材してたんです!たい焼き屋のおっちゃんの話、面白かったでしょ」
「たい焼きの衣も餡も手作りなんですよね。添加物を『すぐれもの』って言ってて、たしかに便利なんだけど、あえてうちは使わないと。職人でした」
「『仕事っちゅうのは遊びの一コマ』っていうセリフもよかったな〜」
「ふらっと行ったのにめちゃめちゃ話が盛り上がって、その人が長年生きてきたからこその『人生観』みたいなものも出てきて」
「腹ごしらえした洋食屋『古時計』もよかったね。コーヒーも美味しくて、素敵ランチでした」
「ただ、クリエイターの皆さんは、暗くなるまであちこち回ってたみたいで……。『温泉入ってました〜』とはなかなか言いづらかったですよ……」
3日間の集大成
翌朝はもっと雪が積もってました。地元の人は大変なんだろうけど、雪化粧した風景はすごく美しかった。
キャンプ最終日には、クリエイターさんたちのキャンプの総決算となる時間がありました。各自がこの3日間で発見した多可町の魅力を、最後に発表するのです。
まずは一人目、松岡真吾さん。
町のラーメン店や純喫茶を取材して作成したショートムービーが披露されます。魅力だと語った「店の人とお客さんの距離感」や皆さんの「人柄」が、映像の中のなにげない仕草や表情から伝わってきました
「平穏感というか手触り感がすごくよかった。まだ20代半ばなのに、ムービーのBGMが井上陽水だったり、純喫茶を選んだりっていうギャップもいい。ジモコロ的にツボでした」
続いて齋藤汐里さん。
米農家の人や他の土地から移住してきた人などを、「元うしろ指さされ組」というキーワードとともに紹介。厳しい状況や周囲の反対にも負けず、自らの生業を見つけた大人たちがいる多可町は、「大人がなりたい大人が集う町」だと語りました。
「地元で新しいことを始めたり、Uターンした人の苦労を丁寧に取材していて、地域の人が共感できる内容で。ジーンときましたね。」
三番目は、くろやなぎてっぺいさん。
マイスター工房八千代の女性たちの「もてなし」やおしゃれなアームカバーの魅力を語ったほか、播州織の織り機のリズムに藤原さんのラップを乗せた映像を披露してくれました。
「あいうえおラップの新作が見られるとは。別のアイデアも思いついたと言っていたので、本番も楽しみ!」
※あいうえおラップ=音楽と平和を愛する人たちが「あいうえお作文」でラップするプロジェクト。企画・監督がくろやなぎさん
続いて宮下直樹さん。
多可町のあちこちに神話のエッセンスや平安貴族のDNAを感じる、という仮説を発表。「古くからの歴史や神話のようなルーツが見えてきて、そもそも多可町はすごいんだ、と思った」と語りました。
「ファンタジー好きなので、とってもわくわくする発表でした。まだ仮説の段階だと思うのですが、本当にすごいルーツが隠れていそう」
最後は岸田浩和さん。
なんと昔、実家が西陣織を営んでいたという岸田さんは、播州織に携わる人たちを取材。若き作り手たちの姿を映したドキュメンタリー映像を披露し、危機感をもちつつ、地元愛とともに挑戦する彼らの姿から「日本全体が抱える不安と希望が見えてくるのでは」と語ります。
「骨太なドキュメンタリーで、圧巻でした。あの短時間で作ったクオリティとは思えない」
「いや〜皆さん、想像の20倍すごかった。このキャンプだからこその、新しいものが生まれていたと思う。我々がメシ食って風呂入ってる間にあんなにしっかり取材して、プレゼンの準備して……素晴しすぎる!!!」
キャンプを終えて
解散したあと、多可町の隣町の温泉へ。隙あらば温泉です。写真は足湯に入りながら食事ができる「足湯喫茶」です。
「つくづく面白いキャンプだった。先進的な事例だと思うし、全国でやってほしい。1人に絞るなんて言わず、5人全員のPRムービーが見てみたい!」
「役場の方が『お金だけ渡して作ってもらうんじゃなく、地元の人とのふれあいが生まれてよかった』って嬉しそうだったのも印象的でした。単にムービーが残るだけで終わらず、人の交流からまた別の新しいものが生まれそうですよね」
「今回のプロジェクトが、多可町が盛り上がっていくきっかけになればいいな。何度も言うけど、元々ポテンシャルのある土地だと思うので、やり方次第でもっと面白くなると思います! あとやっぱり映像がうらやましい! 引き込む力すげ〜〜って何度思ったことか」
「文字の力も負けてられませんよ! 温泉入って、これからも頑張るぞ〜〜〜!!!」
見えませんが、足元は足湯になってます。極楽。
ではまた次の旅でお会いしましょう〜〜!
グランプリを受賞し、実際に制作されたPRムービーは、3月末までに多可町の公式映像としてWebなどで公開されるとのこと。楽しみだ〜〜!
書いた人:友光だんご
編集者/ライター。1989年岡山生まれ。暮らしからミニコミまで、面白いものと美味しいものが好きです。Facebook:友光 哲 / Twitter:@inutekina / 個人ブログ:tmmtの日記 / Mail: momoaka1989(a)gmail.com