愛知県に住んでいるサラリーマンライターのzukkiniです。趣味は飲酒。特に警察24時を観ながら飲む酒は最高です。
そんな無趣味で刺激のない暮らしをしている僕ですが、8月27日(土)15時30分…まだまだ夏真っ盛りの青空に見守られながら、岐阜県飛騨市を目指して車を走らせてきました。
目的はこれ。
「図書館での官能小説朗読ライブ」
図書館司書が閉館後の夜の図書館で官能小説を朗読するそうなのです。
舞い上がりました。飛騨市がどこにあるのかなんて気にもせずにマッハで参加を決めてきました。おいみんな聞いたか、司書だぞ!と愛知県全域で仲間を集めましたが、みんなシン・ゴジラを観に行ってしまいました。
だけどそんなことより、愛知県に引っ越してきて1年半経つというのに僕は知らなかったのです。岐阜県の広さを。とりわけこの「飛騨市」ってのがめちゃくちゃ遠いって事を...。
1.岐阜県意外と広いゾ問題
ライブには生まれて数回しか行ったことの無い僕が、この度数年ぶりに参戦するライブ。本題に入る前に「とにかく移動で疲れた!」っていう話をどうしても伝えたい。僕の苦労を謹んでおシェアしたいのです。
僕が住む愛知県からは気軽に行けるはずの隣県・岐阜県でありますが、それを南北に縦断しようとすると余裕で3時間かかる事を僕が知ったのは出発直前。皆さんに知ってほしいのだけど岐阜県は広いのです。長野県の影に隠れて分からなかったけど、縦に長く、飛騨市っつーのはその最北端なのだ!
そんな岐阜県を官能小説の朗読聴きたさに片道3時間かけて縦断する34歳・子持ちの悲しい横顔。最近では子持ちシシャモでももっと端正な横顔をすると言われております。
北上するにつれ日が徐々に落ち始め、「富山」「福井」と言った普段馴染みのない北陸地方の地名が現れ始めるといよいよ遠くに来たって感じ。
僕を支えていたのは図書館司書の官能小説朗読が聴きたい、その強い気持ちだけだったのです。
標高は高くなり8月でも気温は21℃、過ごし易いというより肌寒い!
景色がいい。温泉に入りたい。寒い、パーカーが欲しい。松屋のトン汁が食いたい。
それでも...!僕は図書館司書の官能小説朗読が聴きたいのです。
3車線は2車線になり、最後は1車線。
日は落ち始めすっかり夜に。
その様な訳でございまして、片道3時間の長旅を経てようやく目的地である飛騨古川に到着したころには夜の7時。予定では明日は子供と公園に。
「日帰りだから帰りの体力も残しておこう」
とてもじゃないがスケベな気持ちにはなりそうもない。
2.飛騨市図書館、会場入り!
飛騨市図書館は閉館間際。
ウォウウォウやっとるかね? なんて雰囲気とは程遠い普通の図書館が持つ静粛なムードの中で、本日のイベントをお知らせするこの看板を見て「マジでやるんだ」とドキドキ。
会場は閉館後の飛騨市図書館。
閉館後の図書館というのも、これはこれでなかなか貴重な体験なんですが、当然の様にだーれもいないわけです。
7年前に開館したとあってとても綺麗な館内。明るい木の風合いを生かした温かく、落ち着いたデザインです。
飛騨市民約2万5千人のためのこの図書館は、コンパクトながらも狭さを感じさせない心地よい空間でした。
さーてイベント会場!
コーヒーが無料で振舞われるなど、何だかカフェの様なお洒落な雰囲気すら漂いますね。ジジイなので最近では黒板とアルファベットが揃うだけで反射で「カフェだ!」と言ってしまいます。
来場者の年齢を見ていくと、下は高校生から上は80歳ぐらいのおじいさんまで。男性が多いものの、一人で来た若い女性も見られ思っていたのと違う雰囲気です。
最年少と思われる高校生に「ねえ、何で参加したの」と単刀直入に尋ねるとめちゃくちゃ警戒されたのか目も合わさずに「若気の至り」のコメントをだけ貰えました(まぁ、車で3時間かけて来た俺の若気の至り具合にはかなわんぜ!)。
イベント開始が近づくにつれ館内は徐々に緊張感が増していくわけですが開始直前にはなんと飛騨市長もこのイベントへ電撃参戦。
「市長も朗読か!?」とザワつく会場、色めく市民。市民でなくとも期待が高まる!
飛騨市は今謎の熱気で最高潮!!!!
しかし!!
この日持参した私物の官能小説用語表現辞典での熱心な予習もむなしく!
この日読まれたのはいわゆる官能小説では無かった...!
だけども、もはやそんな事はどうでも良くなっており、会場のこの異様な雰囲気の中で僅かでも、僅かばかりでも...! 「スケベな本が朗読されればそれでよい」と、一人で緊張しながらそんな事を思っておりました。
会場は開始直前でこの通り、満席どころか定員オーバー。
見てよこのスレイブたちを!
アリーナ、スタンド、立ち見...これは朗読ライブならぬ朗読フェスだ!
いよいよ始まるヒダ・ロウドク・フェスティバル!(上手くない!)
3.ついに開幕!前代未聞の図書館・官能小説朗読ライブ!
例え読まれる本がフラ○ス書院でなくとも、図書館司書による画期的な試みであることには変わりなし!
老若男女のオーディエンス、言葉には出さないまでもみんなドキドキしているであろう不思議な一体感の中、ついにギグがスタート。しめやかに、それでいて大胆に...!
一人目は堀さん。図書館司書は3年目だ!
ご趣味は「水族館」らしく、職場も図書館なので僕の予想では館ひろしも好きだと思います。そんな堀さんの好きな本は「書評大全」(三洋堂)とのこと。調べてみたけど調べてみたけど難しくて全然分かりませんでした!
読まれたのは「短編小説H」(徳間書店)から姫野カオルコ著『正調・H物語』。濡れ場あり吐息ありと今回の3作の中で最も攻めた作品。高校生! 若気の至りでやってきた高校生ィ、大丈夫か!とチラ見すると背筋を伸ばしてゴクリと凝視しておりました。
二番手の村田さん。このお仕事1年目にしていきなり官能小説ライブの大舞台に参戦!
「森絵都さんの『DIVE』『リズム』など青春系の本が好き」という村田さんが、この日は「溺レる」(文藝春秋)から川上弘美著『可哀相』に挑戦。
難しい作品でしたが見事に攻略! 堂々とした読みっぷりで飛騨市図書館の未来は明るいゾ!
トリを勤めるのは西倉館長。
趣味のバンドではギターとヴォーカルをやっていると言う館長、ライブ活動は慣れたもの!今日はいつものギターを谷崎潤一郎「刺青」に持ち替えてのステージです。
好きな作家は山田詠美、片岡義男、花村萬月と、僕と趣味が合うぜ館長!
8時に始まったイベントはあっという間に終了時間をむかえました。
終了と同時に肩の荷が下りたお三方にもようやく笑顔が。
こうして飛騨市図書館のチャレンジングな試みは無事終了。
初めて訪れた街の皆さんと一緒に過ごした貴重な時間。とても素晴らしいものでした。
4.館長に話を聞いてみた!
館長、なぜこんなイベントやったんですか!
と言うワケで今回のイベントや飛騨市図書館のこれまでとこれからについて西倉館長にお話を聞いてみました。
通常業務の後のイベント終了後という大変お疲れの中、「お写真を..」と近づく僕の様な不審者にも笑顔で対応。本当にありがとうございました!
(1)今回のイベントについて
「イベントお疲れ様でした!そこでズバリ聞きたいのですが『官能小説朗読ライブ』をやろうと決めた理由はなんでしょうか?」
「企画としては以前から持っていましたが、肝心の読み手が見つからず困っていました。しびれを切らした私が『私たちで読まないか?』と言って話を進めました」
「最初から皆さんが朗読する予定ではなかったんですね!具体的にはいつ頃、どなたが企画を思いついたんでしょうか?」
「昨年春、『おとなの時間』企画当初からです。企画は担当の堀です」
「今回は飛騨市長さんも参加していらっしゃいましたが、市長公認イベントだったのでしょうか?」
「企画書は市長までは回覧していませんでしたが、Facebookでイベントページをつくったところ、いち早く『参加する』を押してくださいました」
「すごい!そういえば会場でも80歳ぐらいのおじいさんが『フェイスブックで見て知った』とおっしゃっていました」
座席に配られた手作りのマスクも官能ムードを盛り上げたゾ!
「今回朗読された著書はいわゆる『官能小説』ではありませんでした。タイトルは色々と悩まれた末のタイトルだったのでしょうか?」
「いえ。タイトルは『官能小説朗読ライブ』でなければだめだと思っていました。『朗読会』でもだめなんです。『ライブ』なんです。実際に行なったことは『小説の朗読』なので、図書館では王道のイベントだと思います。だからこそ、タイトルやコンセプトを良い意味で『図書館っぽく』なくすることで、イベントとして関心を集めたいと思いました」
「なるほど。そういう意味では今回のイベントは、ネットを中心にかなり話題になりましたね。率直なご感想はどうでしょうか?」
「思っていたより大きな話題となり、読み手としては相当怖気づきました。でも誇らしいです。地方の普通の図書館でも話題を作ることができるんだ!という気持ちです」
「今回の3作品を選ぶときは悩みましたか?」
「悩みました。話題性を生むことだけに満足しないで、自分たちが本当に良いと思う作品を読みたかったので。読み手がそれぞれ自分の読む作品を選びました」
「僕だったら舞い上がって話題性追及しちゃう...!」
(2)「おとなの時間」について
「この『おとなの時間』ですが、いつからはじめた企画なんですか?」
「昨年6月からです。ネーミングは私のアイデアでした。」
「始めたきっかけは何でしょうか。」
「もともと『こどものじかん』という事業があり(親子で気兼ねなく読書を楽しんでもらうため、時間を限定して館内にBGMを流す)、それなら大人の時間もあってもいいのでは、ということではじめました。」
おとなの時間以外にも色んなイベントが用意されている
「『おとなの時間』で今までに取り組まれた催しはどのようなものでしょうか?」
「『JAZZ NIGHT@飛騨市図書館』では地元のミュージシャンによるジャズのライブ演奏をしたり、『art gallary BOOK LOVERS IN THE ARTS』として大型の画集を開いて展示したり、図書館全体をアートギャラリーにする企画を行いました。あとは、モンブラン→山岳の本、フィナンシェ→その語源からお金の本、などスイーツメニューにちなんだ本の紹介もしました」
「すごい!精力的に企画を実施されているのですが、どういう流れで企画され、承認されるんでしょうか」
「司書同士や町の人との会話の中で思いつくことが多いです。担当者を決め、担当者が内容を詰めて企画書を作り、教育委員会で決裁が下りたら開催します」
「恥かしながら図書館がこんなに色々イベントやってるなんて知らなかったですよ」
図書館だって来館者をただジッと待っているだけではないのだ
「ところで『おとなの時間』の説明には『20代~40代の若者利用者をターゲットに』とありましたが、この年代をターゲットにしたのは何故でしょうか」
「図書館の利用統計を見るとその世代の利用が少ないです。でも本当は、本などの文化・知識や人との新しい出会いを一番求めている世代でもあると思います。図書館こそ、その『出会い』のある場所でなければと思い、その世代をターゲットにしました」
「図書館の中に『社会人専用席』というスペースを見てこういうの初めて見たのでイイなって思いましました」
「『社会人専用席』は、テスト期間になると学生で席が埋まってしまうので設けた席です」
「特に夏休みなんて図書館が学生さんで埋まっているからありがたいですね。僕の場合は図書館ってどうも学生さんのモノってイメージがあるんで、歓迎されていると分かるだけで足が向くと思います」
あの話題の本だって図書館にはある!
「そんな『おとなの時間』ですがここまで回を重ねるまでに、運営などで苦労されたことはありますか?」
「図書館としての通常業務を行いながら企画や準備をしなければならないので、忙しいですね」
「通常業務の中で別の仕事もやろうとすると大変ですよね。職員の方はそんなに多くないように見えました」
「当館では9時から20時の開館時間を毎日6~7人で回しています。でも、楽しいという気持ちの方がずっと大きいです!」
「楽しいっていうのは一番の原動力ですね。僕も楽しくなければ片道3時間も運転しなかったと思う...」
(3)今後について
「これからやってみたい企画はありますか?」
「野草や地元伝統工芸の『山中和紙(さんちゅうわし)』、この地域の地酒、また『飛騨の匠の技』と呼ばれる建築技術など、飛騨市のものをフィーチャリングした企画を考えていきたいです」
「よその図書館関係者も来ておられました。普段から図書館同士で交流したり情報交換がされているんでしょうか?」
「今回は図書館情報に敏感な方にお越しいただきました。情報交換というより図書館がそれぞれ情報発信し、アンテナの高い図書館関係者がそれを拾っている、という印象です。形式的な集会は定期的にありますが、もう少しゆるくて濃い図書館同士のつながりができれば、図書館界はもっとおもしろくなるんじゃないかと思います」
「うーん、近くの図書館がこういうイベントを定期的にやってくれたら嬉しいですもんね。逆にやっているのに発信されていなかったり、僕らが気付いていないだけだったら勿体無いなぁ」
もっと近くの図書館に行ってみよう、人知れず何かヤバいことやってるかもしれないゾ!
「色々教えて頂きありがとうございました。最後になりますが、せっかくなんで次の企画の告知をお願いします!」
「はい。10月22日(土)のおとなの時間で『魔女の集い』を行います。飛騨河合に住む魔女が野草を使った魔術を伝授。今月は珈琲の代わりに野草茶を振舞います」
「なんだそのヤバそうなイベンツは! また片道3時間掛けて行かねばーーーー!!!!」
完
書いた人:zukkini
四流情報サイト「ハイエナズクラブ」で会長を名乗っています。長所、特技、趣味等は一切無く、ただ性格はとても明るいです。ブログ「ぼくののうみそ・x・」、twitterアカウント→@bokunonoumiso