こんにちは、ジモコロ編集長の柿次郎です。
ジモコロで日本全国を取材し始めて、今日で丸8年。印象に残っている記事はいくつもありますが、特に思い出深いのがこちら。
2017年12月公開。ローカル編集者の先輩である藤本智士(ふじもと・さとし)さんに取材した記事です。
『Re:S』や『のんびり』といったローカルがテーマの雑誌を手がけたり、はたまたアイドルグループの『嵐』や俳優の『佐藤健さん』『神木隆之介さん』など名だたる芸能人の本を編集したり。
藤本さんが手がけた書籍や雑誌の一部
編集スタイルも自分と通じる部分が多い藤本さんとの対談記事は、今でもSNSでシェアされ、長く読み続けられています。
今日読んだ柿次郎さんとの対談に胸を打たれて、積んでいた『魔法をかける編集』を読んだ。「そのとおりにならないから、設計図はありません」「白黒言い切る安易さに逃げない」たしかな信念を感じるパワーワードのラッシュ!来年はたくさん人に会いに行こう https://t.co/jJ6i5qBlIL
— 中島なかじ (@nakaji_55) December 26, 2017
去年の記事だけど、今の自分にすごく刺さった。
地方以外でもたくさん埋もれたコンテンツあるんだろうな。>伝えたいものと出会って、それを表現する手段がそのときは紙の本だと思っただけで。
>関わってる一人一人には情熱があるのに、結果として一過性のもので終わっちゃうhttps://t.co/MQgLNnUezE— 坂口淳一 (@jsakaguc2010) March 31, 2018
5年前の記事だけど今をバチッととらえてる。たしかに地方で編集できる人が増えた。うちも編集領域をしている感覚がある。
これからの地方はさらに編集が必要だと思う。できる人は増えたけど全然足りてない。豊かな個と編集は掛け算できる。https://t.co/gauiplHgF3— 藤原隆充 | 藤原印刷(兄) (@printing_boy) December 26, 2022
・ローカルを舞台に無名の人物や土地を紹介するため、あえて作り手である自分たちが前に出る
・現地での出会いや感動を一番大切に、フリースタイルで取材する。そして「ドキュメンタリー性」を記事に詰め込む
・「強いチーム」を作る編集が、クオリティを生む
・「知の高速道路」と「東京は三流でも飯が食える」
・答えは自分の「捨て牌」の中にしかない
前回の記事で出てきたテーマをいくつか挙げてみたんですが、今読んでも「わーーーー!」と声が出そうなくらい刺さる言葉ばかり。この6年の間で、何度思い返したことでしょう。
そして、2023年。「ローカルの編集」を取り巻く状況も大きく変わりました。
いくつものローカルメディアが更新終了し、8年目を迎えたジモコロはウェブメディア業界の古株に。
一方で、以前よりも「編集」という言葉を聞く場面が増えたような。そして、ローカルを拠点にインディペンデントな雑誌や本を作る動きも盛り上がりを見せています。
今なお、「ローカルに編集が足りない」のか?
2023年の今求められている「編集」って?
ジモコロにとっても節目のタイミング。藤本さんに改めて話を聞きたいと思い、事務所のある神戸『KIITO』へ向かいました。
もはや「シェアする意味」はあるのか?
「藤本さん、よろしくお願いします! お久しぶり……ではないですね」
「そうやね。ちょくちょく会ってはいたけど、こうやってがっつり話すのは前回の記事以来?」
「はい、ちょうど藤本さんが『魔法をかける編集』を出した頃でしたよね」
2017年7月に出版された、藤本さんの著書『魔法をかける編集』。「編集」を文章を仕事にする人だけに必要なスキルではなく、企画や商品開発、町おこしなどあらゆるビジネスに役立つ技術だと再定義し、そのプロセスとコツを伝える一冊
「『地域×デザイン』は当時からだいぶ聞くようになってたけど、『地域×編集』はまだあんまり知られてないと思ってて。それで『魔法をかける編集』を書いたんよね」
「以前よりもグッと『編集』って言葉が広まったというか、根付いた感覚はあります。僕たちもそうですが、『場の編集』や『会社の編集』みたいに言う人も少しずつ増えてるような」
「当時から、ローカルのいろんな場所で『編集』してる人はいたわけだよね。それが『編集である』って概念がなかっただけで」
「個人的に、この2023年は一つの変わり目な気がしていて。日本各地で、新しい店を始めたり、新しい動きを仕掛けている流れをめちゃくちゃ感じるんです」
「やっぱりコロナは大きかったよね。飲食業や宿泊業の人は本当に大変だったと思うし、我々の仕事もリアルなコミュニケーションが難しくなって、オンライン取材になったり。最近ようやく普通に外に出られるようになったから、その反動もあるんだろうね」
「かっこいいお店や、時代の文脈を捉えたおもしろい場所もすごく増えてると思います。一方で、ローカルを題材にした全国メディアは増えてない印象で。地域単位のメディアは増えてるんですが、そのローカル情報のシェアは、自分のTLに流れてこない気がしていて……」
「うんうん。いきなりやけど、もはやシェアする意味はあるんだろうか、みたいなことは最近思ってるなあ」
「ドキッとする言葉! どうしてですか?」
「前は『こんな事例あるから、みんなどう? やってみたら?』って、すごくピュアにシェアできてた感覚がある。でも最近は、そんなシェアを見ても『あ、はい、やってますけど』ぐらいになってる気がしてて」
「ああ〜。シェアしても『いや、間に合ってます』みたいになってるんじゃないかと」
「そうやねん」
「すごい事例が日本各地で生まれてるし、何かのメディアに頼らなくても自分たちで発信できちゃうってケースも多いのかもしれませんね。InstagramとGoogleマップのレビューで人が動いてる実感はあります」
「なんかわからへんけど、すでに幸せそうじゃないですか。『これをPRしたい!』でもなく、その土地でちゃんと、経済含めて回ってる感じもあるというか」
「6年前はウェブが主流でしたけど、最近はインスタマガジンや、Twitterアカウントだけのローカルメディアもありますね。お店の情報を短いツイートでまとめてるんですけど、見やすいし、ニュース性もちゃんとある」
「そうやって地元の人が、自分たちで発信してる状態はすごくいいよね」
「藤本さんもそうですけど、僕もジモコロを始めてから、地方に呼んでもらってローカルメディアや編集の話をする機会が多くて。最近、地方で活動してる人と会ったら『あの時の話を聞いてました!』みたいに言われるケースもあるんです」
「それは嬉しいね。ジモコロや『のんびり』がやってきたことは無駄じゃなかった。でもローカルメディアって何なんだろう、は改めて考えると難しい問いだよね」
「時代もどんどん変化してますし。ジモコロはローカルメディアとして8年間やってきたわけですけど、藤本さんにはどんな風に見えてるか、気になります」
「自分の意図してないところ」にこそ、一番意味がある
「ジモコロはどうだろう、何も変わってへんと思うな」
「何も変わってない!」
「ネガティブな意味じゃなくてね。メディアの真ん中にある価値観みたいなものは、ずっと変わってないと思う。その価値観に僕がすごく共感してるからこそ、たまに記事を書かしてもらったりしてるし」
「『ハイジの豆皿』の記事は特に、『ジモコロのやりたいことが全部詰まってる!!!』ってめちゃくちゃ衝撃受けました」
「そうなんや!嬉しい。あれがまさにジモコロの真ん中の部分というか、僕が好きなジモコロなんよね」
「『ジモコロっぽさ』って僕らもよく話すんですけど、言語化がいつもできなくて……」
「媒体ごとの『リズム』ってあると思うねん。僕は元々紙の雑誌をやってたけど、トントンときて見開きでバーンと見せて……みたいなページをめくって読んでいった時のリズムはすごく大事にしてた。ジモコロもリズムが気持ちいいというか、上手やな、と思う」
「たしかに会話のリズムや、スクロールして気持ちよく読み進められるように情報量を調整するのは意識してますね」
「やっぱり現場の感動に出来るだけ近づけたいと思ったら、めちゃくちゃポジティブに盛りたい。そのために、リズムってすごく重要で」
「うんうん、現場での会話をそのまま文字に起こせば伝わるわけじゃないんですよね。写真をこう入れて、このセリフを強調して、かけ合いを入れて……みたいなことで生まれるリズムはあると思います」
「あとは『偶然性』もキーワードじゃないかな。山形でマッドサイエンティスト農家の山澤さんを取材する流れは、僕もたまたま同行してたけど、『いい取材ってこういう流れだよね〜』と思って俯瞰して見てた」
山形県鶴岡市で在来種の種の保存に取り組む山澤清さん。2017年初めに取材した記事はこちら→「金がないなら稼げ」元ヒモのマッドサイエンティスト農家が語る人類改造計画
「旅のメンバーに発酵デザイナーの小倉ヒラクくんがいて、地元の人が『ヒラクさんに会ってほしい人がいるんです!』って教えてくれたんですよね。それでいきなり会いに行ったら、超面白いおじさんが出てきた」
「アポ無しのニュートラル状態だからこそ、ああいう偶然に乗っかっていける。良い意味での無計画性って面白い取材には必須だよね」
「藤本さんも、ああいう偶然性の高い取材が多いんじゃないですか?」
「そうね。でも『のんびり』を辞めてからは、設計図の無い取材にガッツリ身を任せることが俄然減ってるかな。だからこそ、ハイジの豆皿の記事なんかは『一人取材の自由さがあるからこそ、偶然性にどこまで乗っかれるか』を意識してた」
記事冒頭より。取材相手の名前も知らない状態から現地へ飛び込んだ取材は、さまざまな偶然を生んでいく
「記事がまさに『偶然性のかたまり』になってましたね」
「自分の意図してないところにこそ、一番意味があると思う。前もって自分で考えた筋書きって、後付けのロジックみたいなものだから。僕の頭から出てくるものじゃない、現場から教えてもらえることに意味がある」
「そういう偶然性のかたまりみたいな記事って、やっぱり面白い記事になる。でも『よくまとまってる記事』と『なんか異常に面白い記事』の間に、壁があるんですよね。前者の記事は結構あるんですけど、後者はなかなかない……」
「すごく写真も綺麗やしデザインもかっこいい、ってローカルメディアはすごく増えたよね。でも、『なんか異常に面白い記事』は、増えてへんかも」
「そうなんですよね。面白い記事にするためのポイントって、かなり感覚的というか。だからそのポイントを伝える難しさも、ジモコロを続けながら感じてました」
「面白さを生む要素の一つは『偶然性』があるよね。で、偶然を生むための余白みたいなものが、ジモコロにはあるんだと思う。僕自身、ジモコロを『すごく遊ばせてくれるメディア』だと思ってる。リズムとか、余白とか、そういうところに柿次郎のジモコロらしさがある気がしてるなあ」
「すごい、8年間できなかったジモコロの言語化が今めちゃくちゃ進んでます」
「あとは『軽薄な顔して、最後にど真ん中のことを放り込んでくる』読後感もジモコロやな、と思う」
「社会や地域の課題とか」
「そうそう。その感じは柿次郎のキャラとも通じてると思うなあ」
「『間口は広く、奥行きは深く』みたいなことはすごく意識してますね。取材対象の人に寄りすぎて、企画性みたいなものが抜け落ちちゃうと、あんまり面白くないと思ってて」
「うんうん」
「『〇〇さん●歳/キャベツ農家』みたいなタイトルだと、どうしても記事の入口が狭くなっちゃうというか。もう一歩掘り下げて、一般性のあるテーマや問いを考えることが、ウェブ記事が読まれるためには必要だと思ってます」
「記事のフックをどこにするかが大事だし、それを考えるのが一番楽しいところでもあるよね」
モノクロだと「圧」が減る
「ジモコロをずっとやってて、柿次郎が『あえて変えた』ってところはある?」
「僕自身の考え方とか企画はだいぶ変わってると思うんですけど……。表現みたいなことでいえば、初期から使ってた『顔アイコン』を、途中から使わない記事も出てきました」
「それは何かきっかけがあった?」
「記事によって『顔アイコンがただの記号になってるな』みたいなケースが出てきたんですよね。ちょっとうるさいというか、無いほうが読みやすいんじゃないか、みたいな」
「なるほどね。そこの意味みたいなものが記号化されていくと、やっぱりよくないんだろうね。たぶん顔アイコンを使い始めた時の、柿次郎なりの意図があったんだと思うし。僕の場合も、自分たちの顔を誌面で出すことの意義があったから」
「藤本さんが『Re:S』で自分含め取材メンバーが誌面に登場したのも、当時は異端だったって本で書いてましたよね」
『Re:S』の誌面より。取材相手との飲み会の会話や空気感まで、そのままページに詰め込まれていた
「ローカルのまだ誰にも評価されてない人の面白さを伝えるためには、自分たちがまず知られて、『何者か』になる必要があった。だから作り手が顔を出す意味があったんよね。ただ、当時とはメディアの状況もだいぶ変わってる」
「個人が発信できる時代になって、人っていう情報の圧にちょっと飽きちゃってる部分もあるのかもなあ、と。同じ顔アイコンでも、読者からの印象は変わってるかもしれません」
「だからこそ、そもそもの意図をちゃんと考える必要があるよね。なんとなく記号として使うんじゃなく」
「それに近い話で、最近知り合いの会社のサイトを作るお手伝いをして。3人だけの会社だから、彼らの『ニン(※その人らしさ)』みたいなものをしっかり伝えたいな、と思ったんよ。でも、ただ彼らの写真をドーンと大きく出せばいいかというと、さっきの人の情報のうるささみたいな話になってくるじゃないですか」
「そうですよね」
「その圧の強さというか、しんどさを避けるためにやったのが、モノクロで撮ることやったのね」
「あ〜、なるほど! カラーよりも『色』って情報量が減るかも」
「モノクロって、一気に圧みたいなものが減ってニュートラルになるので、妙な情報が消えてその人のニンだけがピュアに出てくる感じがあって」
「ジモコロでも『情報量多いな』って記事で一回試してみようかな」
「やってみたら? 見てみたい(笑) 世の中の情報量も増えてきてるからこそ、本質的なことまでどう伝えるか、は大事になってるよね。最近作ってた神木隆之介くんの『かみきこうち』(NHK出版)でも、それは考えてた」
この春から放送中のNHK連続テレビ小説『らんまん』で、高知県佐川町出身の牧野富太郎をモデルにした主人公・槙野万太郎を演じる神木隆之介さん。神木さんが高知の魅力を求めて旅をするビジュアル紀行ガイドブック『かみきこうち』の編集を、藤本さんが手がけている
「高知の伝統食を研究している松﨑淳子さんには『土佐の郷土料理を教えてもらう』って体で取材しながら、ジェンダー的なテーマでも話を聞いたりとか。『サステナブルな高知の暮らし』をテーマに服部雄一郎さん・服部麻子さんって夫妻に取材して、オフグリッドの家づくりを見せていただいたりとか」
「ちゃんと裏側に、ジェンダーとかサステナブルみたいなテーマを埋め込んで伝えていると」
「本質的なテーマを前面に押し出しても、読まれづらくなってしまう。神木くんみたいなポップな存在がいて、自然と深いテーマにまで触れてもらえるみたいな場面を作りたいと思って、チャレンジしてる。神木くんはそれに応えてくれるチカラのある人だから余計に」
「『秘めて伝える』工夫って、特にローカルメディアでは大事だと思います」
藤本さんは何周目ですか?
「僕は全国を旅してきて、愛媛にだけ行けてなかったんです。それもこの間行ってきて、47都道府県をコンプリートしまして。いよいよ『一周したな』と感じたんです」
「それってたぶん、フィジカルの話だけじゃないよね」
「そうですね。去年、ジモコロ編集長として『最終回でいい!』ってくらい自信のある記事もできて。ローカル領域の編集者としても『二周目』に入った感覚があるんです」
ジモコロ編集長を務めて7年。僕が全国で触れてきた生まれ育った「地元」と向き合うことのすべてが詰まった記事です。
編集長として最終回でOKなくらい節目な言語化を土門蘭さん、小林くんに託しました
生きることを肯定できる地元で、自分のことはどうでもよくなったhttps://t.co/OgVX1RAtnP
— 徳谷柿次郎|編集者 (@kakijiro) May 30, 2022
「だから今回聞いてみたかったんですけど、藤本さんはいま何周目ですか?」
「僕がある種の二周目を感じたのは、柿次郎に会ったときだと思う」
「へー!」
「2017年に初めて会って、話してみたら『そうそうそう、俺もそうだった』ってめちゃくちゃ思って。それってもう、完全に二周目でしょ」
「一周目のときそうだったわ!って。たしかに二周目かも」
「編集のやり方も、下の世代の引っ張り上げ方もすごく共感する。ただ、『それ見たわ』『ああ、知ってるわその感じ』ってなるのが一番やばいな、とも思ってる。ありがたいことに僕はシンプルにめちゃくちゃ物忘れがひどいから助かってるけど」
「つい先日、神木隆之介くんと高知を取材した時にもそれを痛感して。高知に柏島っていう、めちゃくちゃ景色が最高な場所があるんやけど、ロケハンのときにその場所に出合って、絶対神木くんの写真をここで撮る!って思うくらいその景色に感動して、うちの奥さんに写メ送ったら『それRe:SのHPに載せてるとこちゃう?』って返事が来て」
「え、もしかして」
「前に同じように感動して、自分で写真撮ってHPにまで載せてたのよ」
藤本さんの会社「Re:S」のトップページ
「自分で撮ってた!!!(笑)」
「そこで『俺は何回でも、まっさらに感動できるんや』と思った(笑)。ラッキーやな、この仕事向いてるわと」
「何度でも転生できる人だ。でも僕たち編集者って、どこかの土地に行って感動して、その感動をアウトプットにする仕事なわけですもんね。毎回感動できるのは強みかも」
「どこ行っても『はいはい、わかる』って”行ったことある感”を出してくるおじさんには一番なりたくないやん。柿次郎も47都道府県周ったって言ってたけど、どれだけ覚えてる?」
「僕はすぐ一位が更新されちゃうんですよね。たぶんどんどん記憶が上書きされてるから、前に行ったのを忘れてることは多いです。だから毎回『最高! 一番!』ってなっちゃう」
「僕も毎回『最高!』って思ってるなあ。ローカルに行くと現地の人がもてなしてくれるから、ちゃんと全力で喜ぶって世界もあるしね」
柿次郎はいつジモコロを捨てる?の答え
「一周した話でいうと、前回の藤本さんとの記事で『柿次郎はいつジモコロを捨てるのか』って話があったじゃないですか」
「ははは。ポジティブな意味での『捨てる』よね。柿次郎という人生の中で、いつか『次』に行くタイミングはあるから」
「はい。この6年、ことあるごとに頭の中の藤本さんがささやくんですよ」
「お前はいつジモコロを捨てるんや……?って」
「呪いみたいになってるやん」
「ほんと呪いです(笑)。実際、永遠に編集長をできるわけでもないですし。だからどうするかずっと悩んでたんですけど……」
「ここで発表します。8周年を迎えるタイミングで、だんごさんにジモコロ編集長を譲ります!」
突然の発表に驚く、カメラマンとして同行していた友光だんご
「おめでとう! 僕はこの場で発表するって聞いてたんだけど、だんごは初耳?」
「初耳です!!ちょっと動悸が止まらない……」
「だんごさんは2017年からずっとジモコロを一緒に作ってきたので、今日サプライズで発表しちゃおうと。藤本さんにはこっそり伝えてました」
「驚きましたが、嬉しいです! ……でも、ゼロから育てたジモコロ編集長の役割をなんで引き継ぎたくなったんですか?」
「まず自分の40歳って年齢の区切りがひとつ。47都道府県を一応制覇したのもある。あと、本来は『街』に住みながら”風の人”として客観性を保って、”土の人”を取材するのが大事じゃない?」
「はい。そもそも僕たちの会社名『Huuuu』の由来が”風”ですもんね」
「ジモコロきっかけでHuuuuを立ち上げて、風の人としてフーテンの寅さんみたいに全国行脚してきたけれど、一方で長野県の山奥に家を構えて”土の人”としての暮らしが始まった。もはや客観性をキープするのが難しくなったのよ! もう無理! 頭の中が土すぎる」
「柿次郎さん自ら実践側にまわってますもんね。取材を通して教えてもらった”生きる知恵”も膨大になってるし」
「なので潔く身を引きます。権限譲渡は早ければ早いほどいいから。6年間ずっと伴走してくれただんごさんなら、次のジモコロを作ってくれると思う」
「正直、僕はめちゃくちゃうらやましい。僕自身、ずっと『引き継ぐ』難しさを感じてきたし、これって多くの人が抱えてる悩みでもあると思う。僕の場合は、誰かに何かを引き継ぐってことが出来た試しがなくて」
「藤本さんにそんな悩みが!」
「でもね、僕はそもそもその考え方が間違ってたって気づいた。引き継ぐじゃなくて、単純に僕が『捨てる』ことが大事なんやって。『捨てる』ってマジで『始まる』と同義やから。柿次郎の今後も楽しみ」
「編集長は退きますが、いち編集者、いちライターとしてジモコロには関わり続けます」
「柿次郎の記事読みたいし、僕もライターとしてまた書きたい。いい意味でジモコロらしさにも変化が出てくるといいね。改めてだんご、おめでとう!」
というわけで、お知らせです
改めまして、Huuuu班のジモコロ編集長に就任した友光だんごです(写真左)。
2017年からジモコロに編集・ライターとして関わり、記事制作を担当してきました。関わったジモコロの記事はざっくり500本以上。数えきれないくらい色んな土地へ行き、色んな人と会い、インタビューし、お酒を酌み交わし。知り合いの数は三倍くらいになったと思います。
そもそもジモコロでライターデビューするのを機に「だんご」のペンネームを名乗ることになったわけですし、こんな人生になるなんて。
2017年、初めて同行したジモコロ取材ツアーでの柿次郎さんとの2ショット
柿次郎さんもだいぶ顔が変わりましたが、同じくらい僕も変わりましたね。「ジモコロに関わった人は人生が変わる」は常々言われていることですが、6年間を振り返ってつくづく感じています。
雑誌から編集者人生をスタートし、未経験だったウェブ編集の世界に飛び込んだのは、初めて同行したジモコロ取材での現場の熱と、記事作りにかけるこだわりに惹かれたからでした。
一番近くで見ていたからこそ、僕にとって「ジモコロ=柿次郎」で。その編集長のバトンを引き継ぐことの重みもめちゃくちゃ感じています。
ただ、このウェブメディアがどんどん難しくなっている時代にジモコロが続いていること自体が本当に幸せなことですし(クライアントのアイデムさん、ありがとうございます!!!)、この先10年、15年と続くメディアになるためには、編集部も変わっていくことが大事なんだと思っています。
また全国の現場で皆さんとお会いできるのが楽しみです。バーグハンバーグバーグ班の編集長・ギャラクシーさんと一緒にジモコロを盛り上げていきますので、よろしくお願いいたします!
構成:友光だんご