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人気上昇中だった元アイドル二人組、なぜ俳句の世界に転身した?

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人気上昇中だった元アイドル二人組、なぜ俳句の世界に転身した?

アイドルといえば多くの人が憧れ、心ときめかせる存在……誰もが一度は、アイドルになってちやほやされた~い!と願った経験があるのではないでしょうか。

 

そんなアイドルから、なぜか俳句の世界に転身した二人がいます。

 

すずめ園さん(左)と出雲にっきさん(右)

 

「ひだりききクラブ」というユニットで活動する、すずめ園(その)さんと、出雲(いずも)にっきさんです。

 

ステージでスポットライトや歓声を浴びる華やかな世界から、少々地味な印象がある俳句の世界になぜ? おふたりにお話を聞きました!

 

▼登場人物

すずめ園

2019年まで、アイドルユニットSAKA-SAMA(サカサマ)に所属

出雲にっき

2020年までavandoned(あヴぁんだんど)、2022年までinnes(イネス)に所属

コエヌマカズユキ

この記事のライター。文壇バーを経営し、俳句への興味からひだりききクラブを知った

 

なぜアイドルを辞めたの?

「おふたりはいつ頃、どんなアイドルとして活動していたのですか?」

「私は2016年から2019年まで、SAKA-SAMA(サカサマ)というグループに所属していました」

 

アイドル時代のすずめ園さん

 

「活動はライブのほか、トークイベントやラジオなどへの出演ですね。あとはブログを頻繁に書いていて、それがきっかけで文章を書くお仕事をいただけたり、ファンになってくれた方がいたりしたので、グループではブログ担当かな?」

「その文章力が俳句にも活かされてるのかな……出雲さんはどうですか?」

「私は2019年から2020年までavandoned(あヴぁんだんど)、2021年から2022年までinnes(イネス)というグループにいました」

 

アイドル時代の出雲にっきさん

 

「ライブのほかは、アナログレコードのDJなどをしていましたが、文章を書くことが一番好きで、エッセーなどをnoteに投稿したりZINEを作ったりしていましたね」

「お二人ともアイドル時代から文章を書くことが好きだったんですね。アイドル時代はどんな目標を持って活動していたんでしょうか?」

「文章を通じて、誰かの心の友のような存在になりたいという思いがありました。だから、人に寄り添うような、笑顔になってもらえる文章を届けたいなと。あとは、ライブで他のメンバーよりも一番目を引く人になることを目標にしていました」

私は、これから何年~何十年も表舞台に立てる人間でありたいなと。表現活動の一環としてアイドルを始めた部分があったので、テレビにたくさん出たい、売れたいというよりは、表現活動を通じて有名になりたいという感じでした」

 

「アイドルとしての活動は割と順調だった?」

「2018年くらいからいい感じになってきたんです。アルバムも出して、AKIBAカルチャーズ劇場という有名な会場からも定期公演の依頼があって、これは波に乗ったかもしれないと」

「私のグループもCDを出したり、ワンマンライブをソールドアウトさせたりと、すごく順調で。もっと大きくて有名な会場でやるのが夢だね、とメンバーで話していました」

「……なのになぜアイドルを辞めてしまうことに?」

 

「私は大学生をしながら活動していました。卒業後はアイドル一本でやっていきたかったので、就活はしていなかったのですが、アイドルとしての活動は主に夜なので、就職しても両立できるかなと。そう思ってうっかり就職してしまったんです」

「うっかり」

「いざ社会人になったら、学生のときと使える時間に大きな差があったのでは?」

「そう、早い時間のライブに出られなかったり、レッスンに参加できなかったりすることがあって。アイドル活動は一番したいことだったのに、周囲との意見の違いなどもあって、もう続けられないかもしれない、と辞めることにしました」

「難しいですね……時間を有効に使うために働き始めたら、アイドルとしての活動時間はなくなるという……」

「ラストライブの翌日も仕事だったのですが、会社へ向かっているときに、わたし何がしたいんだ……って思うと悲しくて抜け殻みたいな気持ちになって、結局、一か月後には会社も辞めちゃいました」

 

「アイドル活動を辞めたら、会社員をしている意味も見えなくなってしまったと。出雲さんは、アイドルを卒業したきっかけは?」

「当時は専門学校に通いながら活動をしていたんですが、一人暮らし、バイト、学校、アイドルの4足のわらじで。最初はやれると思ってたのに、少しずつ少しずつ回らなくなってきたんですね」

「学校とバイトだけでもキツいのに、アイドル活動もやろうとしたらしんどいですよね」

「結果的に学校は休みがちになってしまって。レッスンやライブで毎日夜遅くに帰ってきて、昼くらいまで寝てバイトに行って、またレッスンという日々でした」

「充実しているというより、日々に追われている感じが……」

「ちょうどそのときに、いろいろなことが重なって、グループを解散することになったんです。事務所で話し合いをして、その帰りにメンバーたちとファミレスにいたら、親から鬼電がかかってきて、私が学校に行っていないこともバレてしまって」

 

「結局、学校は休学することになって、後に退学しました。だから、グループを解散することになったその日に、アイドルも学校もどっちも終わってしまったんです。」

「タイミングすごい」

「つら……」

 

アイドルが俳句に出会うまで

「アイドル活動を辞めた後、お二人は出会い『ひだりききクラブ』が結成されるわけですが、その経緯を教えてください。アイドル時代から親交があったんでしょうか」

「いえ、もちろん知ってたし会ったこともあるんですが、昔は挨拶程度の関係だったよね?」

「そう、昔は特に仲が良いってわけじゃなかったですね。アイドル活動を辞めたあと、同じ時期に自由律俳句を好きになって、それがきっかけで連絡を取り合うようになりました」

 

自由律俳句とは?

五七五で季語を用いるなどのルールがある定型俳句に対し、その名の通り自由な俳句が自由律俳句です。字数の制限もなく、季語も不要ですが、俳句らしいリズムや端的さは大事にしたうえで、感じたことを自由に表現するのが特徴です。自由律俳句の有名な俳人として、尾崎放哉や種田山頭火などがいます。

 

・咳をしても一人(尾崎放哉)
・分け入っても分け入っても青い山(種田山頭火)

「私の場合はコロナ禍の2020年ごろにクイック・ジャパンウェブで連載されていた『エロ自由律俳句』を偶然見つけて。俳句ってこんなに自由でいいんだ!とハマりました。それをツイッターに投稿したら、にっきちゃんがDMをくれたんです」

「当時 私は実家に戻っていて、コロナで外に出られないから本を買って読んでいたんです。その中で自由律俳句に出会って、面白いと思っていたときに、すずめちゃんが自由律俳句のことをつぶやいているのを見て、びびっときて」

 

当時のDM

 

アツい思いが……ここからひだりききクラブが始まった

 

「偶然同じタイミングだったんだ」

「実はアイドルをしているときから、周りの人に『あなたたち二人は文章を書くことが好きだからきっと仲良くなれるよ』って言われたことがあって、それも連絡をしてみたきっかけのひとつだと思いますね」

「それで実際に会って、自由律俳句を好きな者同士、境遇も似た者同士ってことで、すぐ仲良くなりました。で自分たちでも俳句をやるようになって、2020年8月にひだりききクラブを結成したんです」

 

▼お二人が作った自由律俳句傑作選

すずめ園

・山を切り開いたところに同じ家が10軒
・落ちた柿の実マッチの匂い
・窓枠を外れて見えなくなった風船たち

 

出雲にっき

・広い空に怒った
・スプーンが鳴り響くだけの時間
・シトロンの弾けたのを指で持つ

「主な活動内容としては、2週間に一回noteに『ひだりききクラブの自由律俳句交換日記』を投稿することと、ラジオ番組『ひだりききクラブの猫にだって会釈』への週一回の出演です」

 

 

「あとは、ときどきイベントやワークショップにも参加していますね」

「ひだりききクラブの活動の根底にある思いとしては、自由律俳句の楽しさや認知度をもっと広めたい、というものなのでしょうか?」

「それもありますね。近代の自由律俳句の句集は、せきしろさんと又吉直樹さんの共著『カキフライが無いなら来なかった』やそのシリーズくらいしか出版されていないんです」

 

カキフライが無いなら来なかった (幻冬舎文庫) カキフライが無いなら来なかった (幻冬舎文庫)

「私たちの句集も、(私家版のため)基本的にはネットショップと、文学フリマなどのイベントでしか販売していなくて。買えるところが少ないので、出版社さんからかっこいい句集を出してもらって、全国流通したいですね」

 

「華やかなスポットライトを浴びるアイドルと違って、俳句の世界ってたぶん部屋で孤独に自分を見つめる作業ですよね。真逆の環境だと思うんですが、アイドル活動に未練はなかったんですか?」

「辞めた後、私はまた別のグループのオーディションを受けたりしていました。でも、コロナで家にこもることが増えて、いろいろ考えているうちに、自分は本当にアイドルをしたいのかな?と」

「自分の中に疑問が生じてしまった」

「考えているうちに、自分の好きだった文章で表現活動をしたいと思って、そっちの方向に進みました。この選択は正しかったと思うし、今はアイドルに未練はないですね」

「言い切りましたね。出雲さんはどうでした?」

「avandonedを辞めた後、ちょっと未練があるなと気づいて、いろいろなご縁もあって、innesに入ったんです。ひだりききクラブを始めた後だったのですが、俳句の活動を広げることもできるかなという思いもあって、1年くらい続けました」

「辞めることになったのは、何か事情が?」

「アイドル兼フリーターとして生活していたのですが、親からもらっていた仕送りが止まってしまうことになって、改めて自分の中の優先順位を考えました。ひだりききクラブは何があっても続けたいと思ったので、アイドルを辞めて就職活動をしようと」

「今度は未練はなかったんですか?」

「アイドル活動は楽しかったしやりがいもあったのですが、表現活動自体が好きだと気づいてから、徐々に未練はなくなっていきましたね」

「ちょっと失礼な質問なのですが、俳句の活動ってお金は儲かるんですか?」

「ひだりききクラブの活動をメインにお金を稼いでいこう、というのは最初からなかったです。だから、今はそれぞれ仕事をして生活をまかないつつ活動を続けている感じですね」

「ひだりききクラブの活動だけでいつかご飯を食べられるようになったら幸せだけど、まずは自由律俳句が好き、楽しいという気持ちを大事に持っていたいです。自分たちが楽しくなくちゃ、読んでいる人に伝わらないと思うので」

 

「元アイドル」と呼ばれること

 ちなみにユニット名の由来は、おふたりとも左利きだから。

 

「続いて、『元アイドル』と呼ばれることについて考えを聞かせてください。最近『元アイドルで現○○』といった肩書をたまに見かけますが、メリットとデメリットの両方がありそうと思っていて」

「メリットは、アイドル時代のファンがそれぞれいるので、ゼロから始めるよりは活動を広めてもらいやすいところですね。エッセイのお仕事やラジオ出演につながったのも、アイドル時代に応援してくれていた方たちのおかげなんです」

「スタート地点は恵まれてると思いますね」

「創作に関してはメリットとして作用する部分はありましたか?」

「アイドルって、なかなかできない経験をたくさんさせてもらえるんですね。物事を繊細に見たり、自分の気持ちに敏感になったりという、表現活動をするうえでの大事なことは、アイドル活動で身に付いたのかもしれないと思っています」

「それはありますね。無かったことにして切り離すのは違うと思う。バランスですよね」

「なるほど。確かに創作には作者の人生経験が大きく関わってくる面があります。それでいうと創作のメリットになっていると。ではデメリットはありますか?」

「アイドルは、ライブやイベントが終わった後、ファン向けにチェキ会(撮影会)をするんですよね。ひだりききクラブはそういったことをしていないのですが、結成したばかりのころはファンの方に、またアイドル的な活動をするんだ、と期待させてしまったかもしれません」

「あ~なるほど! ファンサービスを期待されると」

「私はSNSに自分の写真をどう載せるのか、が難しいなと思っています。見た目を売っているわけじゃないけど、写真くらい普通にツイートしたい、でも見た目よりも文章を読んで欲しい……みたいな葛藤はありますね」

「あるよね~」

「ツイートの写真だって立派な表現なので、悩まずバンバン写真アップしてほしいですけどね」

 

▼出雲にっきさんのTwitter

 

▼すずめ園さんのTwitter

 

「お二人の話をまとめると、元アイドルっていう肩書があると、どうしてもビジュアル面とかファンサービスを期待されそうです。俳句ユニットとしてしたいこととの兼ね合いが難しそうですね」

「でも私は、元アイドルということを、文章の一芸として取り入れていこうとしていますね。アイドルをしていた人しか書けないし、アイドルをしていても書けない人もいるわけだから、武器として使いたいです」

「そうだね。1つの人生として、今までしてきたことも、これからの未来も見届けていただけたら嬉しいな、という気持ちはありますね」

「なるほど。では最後にそれぞれの目標を教えてください!」

「私は本や句集もつくりたいですし、ラジオとかいろいろなメディアでも発信していきたいです。犬山紙子さんやジェーン・スーさんみたいになれたらいいなと思っています。」

「私もいつか出版社から本を出して、ラジオも出て、たまにテレビとかに出ちゃったりして。インターネットで記事も書いて、文芸活動だけで食べていけたらいいなと思います。」

「ありがとうございました。これからも応援していきますね!」

 

まとめ

自由律俳句の「じ」を両手で表現するにっきさんと、それを見て笑うすずめさん

 

自由律俳句ユニットという肩書のひだりききクラブさん。俳句を愛しつつも、その活動は俳句という枠にとどまらず、表現者として縦横無尽に世の中を駆け回っていくはず。

今後の活躍に期待しましょう!


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