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ケープタウン産マグロの衝撃! 金沢で寿司を食べるなら「Sushi直」一択のご提案

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ケープタウン産マグロの衝撃! 金沢で寿司を食べるなら「Sushi直」一択のご提案

うまい寿司は好きですよね。

 

わかります。ジモコロ編集長の柿次郎です。ローカル取材で全国を飛び回る僕は、旅先で食べる「うまい寿司」の魅力に気づき始めています。いや、むしろGoogleマップで「寿司屋」を検索しては土地土地の寿司の個性を探るような生活です。

 

ローカルで市民に愛される回転寿司チェーン店はもちろん、おじさんたちが自宅のようにくつろぐ商店街の寿司屋も好きだし、港町で素材勝負のいなたい寿司屋もたまりません。

 

今回は、金沢で衝撃を受けた一貫の「寿司」の話をさせてください……。

 

金沢「Sushi直」で食べたケープタウンのマグロです。

 

え、ケープタウン? 喜望峰がある? 南アフリカの?

 

大間のマグロなら聞いたことがあります。一本釣りの漁師たちのドキュメントは年末年始の風物詩。ただ、このケープタウンで獲ったというマグロの衝撃たるや。一口食べて「何これ!? 今まで食べてきたマグロと全然違う!」と、旨味の情報に溺れて思わず下を向いて考えこむレベルです。

 

金沢といえば日本海の幸に恵まれた土地。江戸前寿司に負けないような技術と素材の良さが担保されているため、正直どこのお寿司を食べても「うま〜い」と感じるはずです。

 

だからこそあえて言わせてください……!

 

金沢で寿司を食べるなら、今のところ「Sushi直」一択です。

 

【記事のダイジェスト】

・実家は静岡のお茶屋

・静岡にある日本一の寿司屋で修行をしていた

・昨年までシンガポールの二つ星レストランで働いてた

・一番人気のネタは、静岡の漁師がケープタウンで獲ったマグロ

・寿司に良い悪いはなく、お店の「提案」を受け入れるかどうか

 

「カウンターのお寿司屋なんて行ったことがない」と少し引き気味のそこのあなた!

ジモコロ印の”背伸びをした旅先のうまい寿司体験”は、20代で出合えたらきっと今後の財産になると思います。正直、もっと早く出合いたかった……。

 

デートや記念日に「Sushi直」なんてもう一生使える武器です。旨味の鈍器で殴るやつ。漫画『美味しんぼ』が止まらなくなるやつ。

とにかく「寿司とはなんぞや?」を噛み砕いた内容なので少しだけお付き合いください。

 

はじめて訪れたのは2020年1月。偶然、店の前を通ったときに気になって入店してみたら、ケープタウン産マグロの衝撃を受けて、あまりの感動に一ヶ月後に取材チームを引き連れて再訪しました。その後も2度訪れている事実だけでも、私が「Sushi直」に惚れ込んでる理由がわかるでしょう。

ケープタウンマグロの衝撃

スッ……スッ……

 

キュッ……キュッ……

 

スッ…………

 

パクリ……

 

「うめぇ〜〜〜〜〜」

 

「この寿司を食べるために金沢まで来たんですが、もう元が取れました」

「早いですね(笑)」

「今まで食べてきたマグロと全然違う。舌触りの良さ、良質な脂の溶け方、噛めば噛むほどにマグロの旨味が口に広がる……」

「1ヶ月ぶりにまた来ていただいて、うれしいです」

 

 

 

話を聞いた人:荒川直紀さん

石川県金沢市「Sushi直」の店主。静岡生まれ。静岡の名店「末廣寿司」やシンガポールの2つ星レストランで修行後、30歳の時に静岡で「寿し処 直」を開店し、独立。その後、2019年12月に「Sushi直」をオープンした。実家は静岡の老舗お茶屋さん。

 

「前回来た時に食べたマグロの味がどうしても忘れられなくて、来ちゃいました。なんだか珍しい産地から仕入れてましたよね?」

「これはね、ケープタウンのマグロなんですよ」

「ケープタウン……?」

「南アフリカの南端の方です。南西海岸沿いにある港町ですね」

「めちゃめちゃ遠いですよね?」

静岡の清水港ってところの漁師たちが、遠洋漁業の漁船でケープタウンまで漁に行くんです。2年くらいかけて、大量のマグロを持って帰ってくるんですよ

「わざわざ日本の漁師たちが獲りに行ってるんですね……でも、 なんでケープタウンまで?」

 

「ケープタウンと日本とでは環境がまったく違うんです。海の温度、餌にしている小魚、海流も激しくて厳しい。波の高さはビルで3階建てくらいの高さで生きている訳ですから。マグロもその環境に適した育ち方をする。内臓を守る骨の太さや肋骨の作りなど、全く別の体つきに育つんです

「ははぁ、生物としての鍛え方が違うんですね。漫画『ONE PIECE』で言えば『グランドライン』後半の海で育ったやつですね」

「そう。同じマグロでも、別次元の美味しさなんですよ

「日本近郊の海域で獲れなくなってきるとは聞いていましたが、まさかアフリカとは驚きました。でも、水揚げから店に届くまで2年かかるんですよね? いくら現代の冷凍技術が発達してるとはいえ……鮮度、途中で落ちちゃいません?

「大丈夫です。獲ったマグロは締めた後、船内にある冷凍庫でマイナス60度で瞬間冷凍されます。身の水分すら凍ってしまって腐りようがないためマグロの質が落ちません。見た目の色も変わらなければ旨味も逃げないんですよ。ほら、見てください」

 

冷凍庫から出し、お客さんに出す直前の状態にまで戻したマグロ。まだところどころ凍ってはいるが、身の赤さも全く衰えていない

 

「なんて鮮やかな見た目のマグロ…! 現代の冷凍技術すごいですね」

「うちの店に届いたマグロは、マグロ漁船と同じ性能の冷凍庫(マイナス60度)で保存。凄腕の漁師やマグロの研究機関の人から教わった解凍技術で、美味しさを保ったままゆっくりと良い状態に戻していくんです」

「さすが、めちゃくちゃこだわってますね。だからこその味……」

 

同行した友人も、おいしい寿司の向こう側を体験してこんな顔です。

 

寿司の美味さは「魚が届くまでに8〜9割が決まってる」

取材の受け答えをしながらも、次々と美味しい魚を捌いてくれる直紀さん

 

「寿司って食べるまでにすごくたくさんの工程があるじゃないですか。どの海で魚を獲るのか、いかに傷つけないか、どう締めるか、市場でどう管理するか、仲買人がどう選ぶか、お店でどう捌くか、どう握るか……美味しく食べるまでの、変数が多すぎる料理ですよね

「そうですね」

「直紀さんの思う『寿司の美味しさに一番大切な要素』ってなんなんでしょう?」

「正直にいうと、店に魚を持ってくるまでに、味の8〜9割が決まってるんですよ

「それは、ネタ選びで全て決まるってことですか?」

「そういうもんですよ。この魚が美味い寿司になるのか、ならないのか、魚を見た時に既に決まってる。反対に、市場に行っても、『これみんな買っていかないのかな……?』と思うような良い魚が売れ残ってたりする。目をつけるところが職人によって違うんです」

「そういう目利きの感覚って、どこで教わったんですか?」

「教わったことはそんなにないかも。やっぱり自分で魚を見て選んで、美味しいかどうか使ってみて、の繰り返しじゃないですか

 

「Sushi直」では、そうしてこだわり抜いた魚が1万5000円のコースで食べられる。味に比べて、都会ではありえない価格帯も地方で食べる寿司の魅力

 

「ひとつ言えるのは、お寿司屋で働いて、仕入れを手伝うだけでその感覚は育たない。自分のお金を使って美味しいかどうかを確認してきた人の方が、目利きの感覚に長けてる気がしますね

「身銭を切らないと、感覚は育たないってことなんですね」

 

お店それぞれの「提案」をたのしんでほしい

「僕は取材で全国いろんな街に行くんですけど……地方には、地方の食材の良さと江戸前の技術の合わせ技みたいなことをする、とんでもなく良い寿司屋があるな、と思ってて

「なるほど」

「地方で食べる寿司のおいしさと、東京で食う寿司の美味しさには決定的な違いがあるんじゃないかな、と」

「う〜〜ん」

 

「あんまり違いはないんじゃないんですか?」

 

「えー、身も蓋もない回答!」

「というのも、寿司のおいしさって結局は人それぞれなんですよ。目の前にネタケースがあって、お客さんが『あれください』『これください』って消費していくのが楽しい場合もあれば、『オレ流の寿司を食っていけ』という店もある。それぞれ、楽しみ方が違うでしょう」

「たしかに……」

「死ぬまでの限られた食事の一回をお客さんがどう選ぶのか。大切なのは店とのフィーリングだと思います。自分も『美味しいと思う寿司はこうじゃないか?』という考えを『Sushi直』の看板に載せているだけですから

「つまり、Sushi直なりの『提案』をしているだけ、と」

「そうそう、みんな違ってそれでいいし、お店ごとの提案をどう楽しむか、じゃないでしょうか」

「どんな提案をするか?に先ほどの『目利きの感覚』やセンスが影響してくるわけですね」

 

「もう1つ聞きたいのが…『寿司職人は10年修行が必要だ』って言うじゃないですか。あれはどうなんですか?」

「うーん、必要ないと思います。正直、2〜3年で基礎はできる。皆さんの世界でも、仕事できるようになるまで10年もかかられたら困るでしょう」

「予想がどんどん裏切られる!」

「その方が自信を持って『この寿司は、こうやって美味しく作りました』とお客さんにお出しできたらそれで良いと思います。ただ、20歳そこそこの職人がお客さんの前に立って話せる雑談って何があると思いますか?

「……流行りのTikTokとか…?」

「それは興味ありますね(笑)。若いときはせいぜい天気やニュースの世間話くらいですよね。美味い寿司が握れるからお客さんの相手ができるかと言えば、それは別なんですよ

 

「うまい寿司が出せるのは当然。でも、わざわざ予約して来てくれる方々は人生経験が豊富なんですよね。寿司屋としては『相手の想像を超えるものを出さないとな』と思います

「そういえば直紀さんも、シンガポールの2つ星レストラン出身とおっしゃってましたよね。やはり海外で武者修行された結果が今に繋がっている……?」

「武者修行という意味では合っていますが、影響の大きさでは、昔修行していた静岡の寿司屋のほうが上ですねケープタウン産のマグロに出会ったのもその店。僕はあの静岡の店が、日本一の寿司屋だと思っています」

「職人を目指すきっかけになった、日本一の寿司屋……!?」

 

静岡生まれの少年は、なるべくして職人になった

「その『静岡の寿司屋』がきっかけで職人を目指したのって、どういうことですか?」

「僕は静岡生まれで、老舗のお茶屋の息子だったんですよ。それこそ、ちょっといい料理屋さんや飲食店にお茶を卸すような。幼い頃にお使いでよく行ってたのが、静岡の名店『末廣寿司』だったんです」

 

今でも、店でだすお茶にはこだわりが

 

「そこが、後に修行することになる『日本一の寿司屋』?」

「そうです。お使いのために店の裏口から入っていくと、板前さんたちがよくイクラ巻きとかをくれました。それが本当に美味しくてね。『ここで働いたら、こんな美味いもの食べられるのか』と思って」

「羨ましい原体験ですね。ちなみに、寿司職人になりたいと考えたのはいつ頃から?」

「さあ……母親が言うには、兄が『仮面ライダーになりたい!』って言ってた頃にはもう言ってたみたいですよ」

「そんな小さい頃から」

「元々海が身近だったこともあると思います。しらす漁で知られる静岡の『用宗(もちむね)漁港』のすぐそばで生まれて。自転車で少し走れば、アワビが獲れる海岸がありました。小さい頃は自分でカワハギを釣って、肝だけ食べたりしてたんですよ

「魚の肝だけ食べて捨てる贅沢な小学生…」

「嫌な子供ですよね(笑)。醤油と釣竿だけ持って遊びに行くのが日課でした」

 

「魚への原体験がしっかりしてますね。それだけ美味しいものに触れていたら、寿司屋を目指すのもどこか頷けます」

「中学を卒業したらすぐにでも『末廣寿司』で働こうと思ってたんですけど、お茶を納めていた寿司屋の親方に『高校くらいは行っておけ』と言われたんです。それで、近くの水産高校に入りました」

「寿司屋の親方の導きが…!」

「そのあとは色々あって東京の寿司屋で働いてから、一番の寿司屋に入りたい、と思って静岡の『末廣寿司』に修行しに戻ってきました。それが24歳の頃ですね」

「なるほど……この間、『金沢に新しい寿司の風を吹かせたい』と話されてたじゃないですか」

「柿次郎さんが前回いらした時ですね。それは考えています」

「静岡で生まれ育ち、海の可能性を幼少期から触れてきたこと。静岡の名店『末廣寿司』での修行やシンガポールでお金持ち相手に寿司を握った経験も、全部これからの金沢での『Sushi直』に生きてくるはず、と改めて感じました」

「そこは自信がありますよ。ケープタウンのマグロを持っている人は金沢にはいないですし。これまで積み上げた経験も武器のひとつです。ただ、この土地の人たちに、気に入ってもらえるかどうかは自分次第でしょうね」

「金沢という土地の豊かな食文化の歴史ゆえの、ハードルの高さはありそうです…!」

「ええ、『お前が言うなら間違いない』と思ってもらえるまで、お客さんたちとコミュニケーションをとり続けられるかどうかにつきますね」

 

まとめ

日本の寿司の歴史は1000年以上とも言われています。海や漁業の取材を積み重ねるうちに見えてくる現場の工程の多さは、直紀さんにぶつけた「変数があまりにも多い料理」に行き着いたわけなんですが、様な価値を職人技術によって提案する奥深き世界なんだなと気付かされた取材でした。

 

国産の本マグロが重宝される中で、あえて荒波に揉まれたケープタウン産のマグロを武器に「Sushi直」で勝負する価値もまたひとつ。おいしいに正解はありません。それでも、私が考える「Sushi直の寿司はぜひ一度食べてほしい」は仲の良い友人に日々提案しています。

 

「都内で2〜3万円出しても食べられない寿司が、1万円前半で金沢で味わえるから」

口説き文句はこれ。新幹線代往復を考えたらもはや金額の問題ではないんですけど、誰かの提案を受け入れた旅情の体験はこんなご時世だからこそ価値を持つ気がしてなりません。

 

ジモコロを読んでいる20代の読者の皆さんにも、少し背伸びをした寿司の体験をおすすめしたいです。「Sushi直」のおいしさは、私と直紀さんが自信を持って保証します!

 

お店の向かいは味のある飲み屋が並ぶエリアで二軒目も最高!

 

写真:小林直博
構成:乾隼人


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