みなさんこんにちは。
今回は記事を読む前に、まずはこちらをご覧ください。このマンガ、ご存知ですか?
こちらは、木下晋也先生の人気作「ポテン生活」の1編です。
今回は、木下さんの大ファンだというシモダテツヤ(株式会社バーグハンバーグバーグ)が、実際にお会いして話を伺ってきました。
ブログから始まった“8コマのスタイル”は、なぜ生まれたのか?
大量のネタをストックするコツとは?
そしてラーメンのトッピングには何を入れるのか?
……え? ラーメン?
木下晋也
1980年大阪生まれ。2006年、「Comic ギャグダ」(東京漫画社)にて『ユルくん』でデビュー。2008年、『ポテン生活』で第23回MANGA OPEN大賞受賞。単行本『ポテン生活』全10巻、『もここー』全2巻、『おやおやこども』が好評発売中。Docomoエンタメウィークで『マコとマコト』連載中。木下晋也公式サイト、cakesでもいくつか作品を公開中です。趣味はプロレス観戦。Twitterアカウント→@kinositasinya
シモダテツヤ
1981年京都生まれ。Webクリエイター。バーグハンバーグバーグ代表取締役社長。 代表作は「インド人完全無視カレー」「分かりすぎて困る! 頭の悪い人向けの保険入門」など。著書に『日本一「ふざけた」会社の - ギリギリセーフな仕事術』がある。Twitterアカウント→@shimoda4md
※このプロフィール画像は木下先生に描いて頂きました!
木下作品はトイレで読むのに最適!?
「はじめまして。今日はよろしくお願いします。木下さんの漫画はいつもトイレで読ませてもらってまして」
「あはは、ありがとうございます」
「一生懸命 描いた漫画を『トイレで読んでる』って失礼かもしれないんですけども、木下さんの作品って本当にトイレで読むのに最適だと思っていて。もっと多くの人にこの事実を広めたいんですよ」
「トイレに置いてるっていう人、多いと思いますよ。実際何度か言われたことがあります」
「ですよね? 1話8コマだからサクッと読めるし、何度読んでも飽きない。僕はブックエンドを買ってトイレにズラッと並べてます。大をするたびにパラパラとめくって、大体一冊で一ヶ月くらい楽しめますね。回数で言うと60回くらいはいける」
「60回だと一日2回だから、結構な頻度でトイレに行ってますね……。僕のマンガを知ったきっかけってどこですか?」
「マンガ情報を発信している有名なサイトで友人が働いてまして、その人が『これはすごいよ!絶対おもしろいよ』とおすすめしてくれたのが、『ポテン生活』だったんです」
※木下先生の代表作。ユルいテンポと脱力するオチで話題に
「へぇ~、それは嬉しいですね。最初に読んで『なんだこれは?』とか思わなかったんですか?」
「不思議な読後感があって、一発で好きになりました。ステーキやハンバーグみたいにコッテリしてない……まるで“ふ”を食べてるようだなって。胃もたれしないで最後までスッと読める」
「今までの感想をまとめると、僕のマンガは『トイレで読む“ふ”に似た漫画』ってことですね……」
「いや良い意味です! 良い“ふ”です。くどさが無いのが好きなんです。『おやおやこども』で子供が本棚の本をガサーってする話みたいに、“怒る人が誰もいない世界”がすごい好きなんですよ」
※木下先生が自身の体験をマンガで綴った子育てエッセイ
「泣けるところを良いって言ってくれる人は多いけど、ガサーのことを言われたのは初めてです。本当にかなり読んでくれてるんですね」
「あのスタイルで量産できてるっていうのもすごいですよね。今までアイデアが尽きることってなかったんですか?」
「う~ん、ポテン生活のような8コマものなら……たぶん……」
「たぶん?」
「永遠に続けられますね」
「永遠~!?」
「でも逆にそれしかできないんですよ。題材も身の回り数メートルのことしか無理で。マフィアの話とか絶対作れないでしょうね」
「あの絵でマフィアの抗争とか想像つかない」
「それ以前に何ページもある漫画が描けない。いつものクセで8コマ目で終わりそうになっちゃうんですよね。今はストーリー漫画を連載していますが、難しいですね。お話ってどうやって作るんだろうって。ほんと……どうやって作るんですか?」
「それは自分で考えてください。プロなんだから」
ラーメンのトッピングでマンガ家としての余裕が判明
「ネットにマンガを掲載する時、紙媒体との最大の違いは、縦方向に読み進めるってことだと思うんです。8コマ形式の木下さんにはすごく合ってる時代になったんじゃないですか?」
「そうですね、これからは書籍でもネットでも読めるっていうケースが増えてくると思いますけど、8コマはどちらでも読みやすい形式かもしれませんね」
「俺の時代きた! とか思わないですか?」
「う~ん、単行本の売り上げがもっと如実に伸びてたらそう思うかもしれないけど。でも最近、やっと食べられるようになったなあ、とは感じますね」
「具体的にはどういう時に?」
「バイト時代は外食に行っても一番安いものを食べてたんです。例えばラーメン屋に行っても、トッピングなしで普通のラーメンを食べてた。『まずはシンプルなものを食べなきゃ実力がわからない』なんて言いながら」
「ほんとはトッピングしたかったんですよね?」
「したかったですよ。でも我慢して漫画を描いて、いつの間にか連載とかが始まって、気づけば……」
「トッピングできるようになったと」
「はい。コーンとか」
「コーンでいいんだ」
「値段を見ずにコーンを入れられるようになった時は、ああ、マンガで食べられるようになったんだな、と」
「ラーメンのトッピングで自分の成功を感じるのってすごくわかる気がします。良かったらホワイトボードにトッピングヒエラルキーみたいなものを描いてもらえないですか?」
「上位は角煮、チャーシューでしょうね。で煮玉子は真ん中に配置したい。中堅て感じがする」
「ですね。高いか安いかだけではなく、贅沢かどうかが大事ですから。それで言うと煮玉子ってコスパがちょうど釣り合ってますよね」
「メンマは煮玉子より下かなあ。玉子以下・玉子以上で分けられると思う」
「のりって贅沢じゃないですか? あんなに薄いのに他の具材と同じ値段するってコスパが悪すぎる。でもスープのしみ方がすごいからポテンシャルは高いんですよねぇ」
「じゃあ玉子の上かな」
「木下さんが一番ナメてるトッピングってなんですか? 後輩とかが入れてるのを見て、『まあ、おまえはそんなもんだろうな』みたいな」
「ん~、なんだろう。ネギ大盛りとかですかね」
「あぁ~、店によっては無料で入れ放題なのに!みたいな」
「でもこれ、おもしろいですね。ラーメンのトッピングでマンガ家としての余裕がわかるとは思ってませんでした」
プロが語るマンガの描き方
「マンガを描き始めたきっかけみたいなものはありますか?」
「もともとはお笑いが好きで芸人になりたかったんです。だから大学時代に落研(落語研究会)に入ってたんですが、向いてないなーって思って。僕、瞬発力がなさすぎるんですよね」
「笑いの瞬発力……何かを見てパッとおもしろいことを言ったり、急にふられたボケにも的確につっこめる、みたいなことですね」
「落研じゃない普通の生徒にすら、瞬発力で勝てなかったんですよ。大学を卒業してしばらくフリーターをやってたんですけど、芸人は無理としても、何かの形でお笑いには関わりたいと思って……」
「それで漫画の道に進んだってことですか? めちゃめちゃ消去法的にマンガ家になったんですね」
「そうですね。ノートにマンガを描いて、それが原稿用紙になり、ブログになりって感じで続けてきました。当時から4コマとかが中心で、長い話は描いてませんでしたね」
「(横で聞いていたジモコロのスタッフ)ちなみに、シモダも『オモコロ』っていうWEBメディアで4コマを描いてたんですよ」
「……え? 急に何言ってんの」
「こちらなんですが、木下先生、読んで感想を頂けないですか」
「ハアァ~??? マジでやめて、そういうの。人気漫画家に昔描いた4コマを見られるって、本当にイヤなんだけど」
現在もWEB上で無料で読めるシモダの4コマを、何本か読んでもらいました
「怖い」
「すいません……」
「どんな心理状態だとこんなの思いつくんですか」
「木下さんに解説するのは恥ずかしいんですが、僕は4コマを作る時、普通のベタな4コマをまず描いて、1コマ目を消すんです」
「ん? それじゃ3コママンガになりますよね?」
「オチとして新たに1コマ描き加えるんですよ。すると二段オチになるじゃないですか。で、さらにコマを色々入れ替えたりしてるうちにワケわかんない話になって、この有様ですよ。人によってやり方は様々だということで」
「僕の場合はよく『なぜ8コマなんですか』って聞かれますね。昔 毎日ブログにマンガを描いてたんですが、1コマ、4コマ、8コマと色々やって、後から読み返すと、8コマが一番しっくりきたってだけなんですけど」
「それが不思議ですよね。なぜ8コマがしっくりきたのか」
「4コマだと“間”を表現できないっていうのはあります。『何にもないコマ』を入れたいと思っても、コマ数に余裕がない」
「落語は“間”を大事にする笑いですよね。落研出身だから“間”にこだわるっていう部分があるんですかね」
「ああ! それはあるかもしれない。言われて初めて気づきました!」
キャラクターを大事にする必要性とは?
「ポテンの単行本は、ページの合間にメモみたいな感じでイラストが書いてありますよね。これは、“8コマにまでは伸ばせなかったネタの断片”なんですか?」
「いや、あれ実は『落書きを描いてください』と言われてわざわざ描いてるんですよ。じゆう帳に一気に描くんですけど、1ページに15個とか20個とか描くんで、なかなか地獄でしたね」
「うわ、大変そう。僕なら『落書き』として消費しちゃうより、いつか4コマ描く時のオチにした方がコスパが良いっていう、ケチくさいことを考えてしまいそうです」
「シモダさんはすぐコスパを気にしますね……。でも僕も『これは8コマに広げられそうだな』と思ったら消費せずにストックしますよ」
「ですよね。木下さんは8コマの形式なら永遠に作り続けられるとのことですが、ネタをストックするコツみたいなものってあるんでしょうか」
「決まったキャラクターが出てくると楽だと思います。急に江戸時代に行っても、同じ顔のキャラがいれば説明しなくても状況がわかるじゃないですか。僕はキャラを全然大事にしてこなかったので、苦労しました」
「キャラを大事にする・しないってどういうことですか?」
「昔はどう落とすかだけを考えて作ってたんですよね。この話のオチにはおじさんが必要だから出そうっていう、それだけ。キャラクターの内面にどんなドラマがあるとか掘り下げることはなかったですね」
「キャラよりネタが優先だったわけですね」
「最近になって『キャラクターは大事にしてあげよう』って思ってきました。話を展開させるのが楽だし、キャラの説明にコマが要らないから」
「えらく損得勘定が前面に出てますけど、それも“大事にする”に入るんですね」
打ち合わせ…それはマンガ家と編集者の決闘
「マンガのあとがきなんかでよくありますけど、担当編集者に見せた結果、ボツになることって実際あるんですか?」
「ありますよ。ボツの理由としては、『わかりにくい』ってよく言われますけど……なんでこれがボツでこれがOKなの?って思うこともあります」
「怒らないんですか?」
「抵抗しても最後には言いくるめられるので、そこは『はい、わかりました』って言いますね。家に帰ってから奥さんに『これ、だめだと思う?』って」
「納得いってない部分もあるんですね? 今日は株式会社コルクの編集者・黒川さんもいらっしゃるんで、ちょっと話を聞いてみましょう。黒川さん、そんなにボツを多く出すんですか?」
※株式会社コルク=(木下さんも所属するクリエイターのエージェント会社、黒川さんは木下先生担当)
「今は『マコとマコト』っていうストーリー漫画を描いてもらっているので、特に描き直してもらうことが多い……かもしれません」
※この似顔絵は木下先生作です
「そうですね(苦笑)」
「ボツの理由は色々ですけど、キャラのブレについて、とかが多いですね。『マコはこんなこと言うかなあ?』って」
「“マンガ家VS編集者”って感じがしますね! それを聞いて木下さんはどう言い返すんですか?」
「そうか、マコはこんなこと言わないのか……って」
「いやいや『マコはこういうキャラなんだよ!』って言ったりしないんですか?『俺の作ったキャラクターなんだから!』って」
「僕より編集の人のほうがキャラクターをわかってるんですよね~。『このキャラはこういう場所で遊んだりするタイプでしょう?』とか言われたりするんですよ。こっちはそんなの全然考えたことがないのに」
「佐渡島さん(※コルク取締役社長:講談社勤務時代は「バガボンド」や「働きマン」など人気作の担当編集として活躍)がインタビューで言ってたんですが、作者の隣を伴走しながら、意見を導いてあげるのが編集者だと」
「確かに、佐渡島さんと打ち合わせしてると、ちゃんと『こっちだよ~!』って導いてくれるんですよ」
「おっ、そこでクリエイターとしてのやり取りが始まるわけですね。木下さんは自分のクリエイト道をどう編集者にぶつけるんですか?」
「……え? 僕は『あ、そっちに走ればいいのか』って」
「言いなりじゃないですか」
「いや、優秀な編集さんは、導きはしてくれるけど、“走ってるのはマンガ家”という気持ちにさせてくれるんですよ。一人で考えてたら絶対に思いつかなかっただろうアイデアがポンポン出てくるのに、その道を気持よく走るのは僕っていう」
木下先生、マンガ描いてくれません?
「実は今回、木下さんをお呼びしたのは、対談のためだけじゃなくて、あるお願いがあったからなんです。先生、ジモコロで……」
「……………」
「連載して頂けませんか!?」
「あ、はい」
「言いなり~!」
「いや編集の黒川さんからある程度聞いてましたから」
「じゃ本当に連載してくれるんですね?」
「お仕事の依頼はありがたいですから、こちらこそお願いします」
「やったー! これからはジモコロで木下さんのマンガが読めるのか。内容はどんな感じにしましょう」
「実はもう軽く考えてきてるんですが、こういうのはどうでしょう? 主人公が地方を……」
「ほう、ほう、それおもしろそうじゃないですか。じゃあ、この対談は一旦ここで終わって、さっそく打ち合わせしましょう。なぜなら一日でも早く読みたいから」
「あ、はい」
「今日はありがとうございました。そして今後ともよろしくお願いします」
「あ、はい」
ジモコロで連載決定
というわけで、なんと!
近日中に木下先生の新連載がジモコロで始まります!!
現在、先生が鋭意執筆中の内容をちょっとだけお見せすると……
こんな感じ。こちらはネームといって、下描きの下描きみたいなもの。公開される時には、ここにペンが入れられるというわけですね(しかも初回はカラーになります!)。
このマンガをトイレで読める日は、もうすぐです!
さらにさらに、もうひとつ嬉しいニュースがあります! 先生のヒット作「ポテン生活」が、ジモコロで読めるように調整中です。
ベストセレクションとして、選り抜きの傑作回をお届けする予定です。
どちらもお楽しみに~!!!
※シモダの対談シリーズ
ライター:ギャラクシー
株式会社バーグハンバーグバーグ所属。よく歩く。走るし、電車に乗ることもある。Twitter:@niconicogalaxy