あご肉を余らせながら失礼いたします、ジモコロライターの原宿です。突然ですが、皆さんはバンドマンという職業についてどう思っていますか?
僕はこう思っていました。
言うまでもなく100%偏見でしか無いんですが、本当に偏見なのかどうかは本人に会って聞いてみなきゃ分かりません。というわけで、本気で音楽活動をしている下北沢のバンドマンに会って「音楽を仕事にするってどういうことなの?」を聞いてみることにしました。
話を聞いたのは、結成8年目のTHEラブ人間というインディーズバンドのボーカルを務める金田康平くん。元々THEラブ人間はメジャーで活動していたものの「もっと自分たちのペースでやりたい!」と再びインディーズへ主戦場を移しました。
今年の2月には3rdフルアルバム「メケメケ」制作の支援をクラウドファンディングで呼びかけ、見事目標金額の2倍を達成したことでも注目を集めました。
本日はそんな金田くんに、特別にバンドがツアーを回るときに乗る「機材車」の中を見せてもらいたいと思います。
「ハイエースのグランドキャビンだね! 『日本一盗難されやすい車』と言われ、自動車窃盗団に盗まれて海外に売られちゃうやつだ」
「あれはマジで最悪なんですよ。知り合いのアーティストにも盗まれちゃった人がいるんですけど、想像しただけで気分が悪くなりますね。うちの機材車が盗まれたら、地の果てまで追いかけます!」
「とりあえず車の中の写真を撮ってもいい?」
「本当に撮るんですか?」
「どうなっても……」
「知りませんよ……」
「げっ」
「うわぁ……」
「うーーーーーん」
「どうですか?」
「そうだねえ……とりあえず……」
「ビニ傘、多すぎない? こんなに傘使うことってある?」
「無いんですけど、なんか捨てられなくて。ビニ傘って何ゴミに捨てるんですか?」
「普通に不燃ゴミでいいと思うけど。っていうか傘だけじゃなく、全体的に捨てた方がいい物が多すぎるよ! 飲みかけのペットボトルとかもう誰も飲まんでしょ!」
「ツアーから帰ってくるとみんなヘットヘトなんで、ついつい放置しちゃうんですよね。東京から福岡のライブに行く時なんかは、普通に片道14時間ぐらいかかるんで」
「え!? 往復28時間、全部車だけで行くの?」
「はい。レーベルに所属してた時は新幹線とか使うこともあったんですけど、今はインディーズなんでお金が無いんですよね。泊まる場所もほとんどカプセルホテルかサウナですし」
「そんな……バンドマンって全国ツアーで行った地方の美味いもの食って、パーッと酒盛りやってファンを抱いたりするんじゃ……」
「うちのバンドはあんまりしないですね。ライブの後は、スリーエフの前でラーメンとおにぎり食って済ませたりとか……。というのも僕らバンドだけじゃ食えないんで、メンバー全員バイトしてるんですよ」
「ぜんぜん夢がない」
「だから現地でゆっくりできる時間もあんまり無くて、例えば大阪での単発ライブだったら、朝に東京を出発して、7時間かけて大阪まで移動。そこからライブやって、また7時間かけて東京にとんぼ返りして、朝8時からのバイトに出たりしてます」
「すんごいハードスケジュール……!」
バンドマンの全国ツアー=「地方の音楽関係者からの接待に次ぐ接待」、「行く街行く街に現地妻が」みたいなことを想像していたんですが、どうやらインディーズバンドのライブツアーって僕が思っているようなものでは全然ないようです。せっかくなので、今日はもっと掘り下げた話を聞いてみたいと思います。
4人の運転手が交代制でツアーへ
「機材車は金田くんも運転するの?」
「僕は免許持ってないんですよ。ラブ人間は6人のメンバー中、4人が免許を持っているので、基本この4人の交代制で運転して行きますね」
「さっき言った福岡なら片道で14時間なので、3~4時間ごとにサービスエリアで運転手が交代しながら向かう感じです」
「事故にあったこととかはないの?」
「幸いにも無事故無違反でやらせていただいてます。トラブルといえば、一度東京が大豪雪の時に、高速道路で7時間1ミリたりとも動かなくなったことがあって。あまりにもやることないし車も進まないので、非常階段から降りてみんな普通にコンビニ行き始めたりしてましたね。ようやく動き出した時は、高速道路がライブ会場になったような一体感がありましたよ。あれはイケてたなー」
「そんな苦労をして地方に行っても、ライブ終わったら基本すぐ帰るんだよね? 普通、他のバンドやスタッフとの打ち上げとかあるんじゃないの?」
「あ、打ち上げはなるべく出ますよ。僕は体質的に酒ダメなんで、ソフトドリンク飲むだけですけど」
「運転する人もお酒飲めないよね?」
「ですね。なので運転手同士の牽制が始まったりします。『俺、行きの運転頑張ったよなあ……』って貢献度をアピったりとか、あえて『みんな飲まないの? 飲んでもいいのよ?』って最初に発言して、帰り道への意識の高さを見せつけたりとか」
「免許持ってるメンバー同士の駆け引きがあるんだね。金田くんも免許とって、みんなの負担を減らした方がいいのでは?」
「僕は助手席からバンドを支えるのが、自分の役割だと思ってるんです。免許を持ってない分、助手席にいる時のパフォーマンスには、めちゃくちゃこだわりがありますよ。正直、『助手席と運転席のグルーヴが、そのツアーの雰囲気を作る』と言っても過言じゃないと思ってるんで」
「助手席が、ライブを作る…!?」
THEラブ人間 金田康平が語る、助手席での立ち回り方
「うちのメンバーの免許所有率を改めて整理すると、こんな感じです」
「免許持ちの4人が運転席に座るとき、僕には4者4様の『助手席観』というものがあるんです」
「なるほど。ひとりひとり聞かせてください」
+ の場合
「キーボードのツネは喋ってて欲しいタイプですね。ラジオをかけながら、後から思い出せないぐらいのくだらない話をしてて欲しいタイプ。僕も楽しいんですが、正直言って一番ノドに負担がかかる運転手です」
+ の場合
「次にギターのはるかと、ドラムスのけんじです。この二人は『俺の知らない音楽かけて欲しいオーラ』があるタイプです。なのでツアーに出る時は、僕がCDのストックを作っておき、DJの役割を果たすことが重要になります」
「特に一番若いメンバーであるはるかは、まだ音楽経験が浅いので、『あいつ最近スタジオで面白いギター弾かないな~』と思った時は、ビートルズやハイロウズの名盤をじっくり聴かせるんです。そうすることで本人の引き出しも増えて、実際『あの時はるかにビートルズ聴かせといたおかげで、いいレコーディングができたな』ってこともありました」
「けんじは同世代で結構同じ音楽を聴いてきた仲なんで、『知ってる? あの時期にこんなバンドいたんだぜ!』という意外な選曲でびっくりさせることを心がけています。助手席からのサプライズって結構大事なんですよね」
「なるほど。ではバイオリンのタニさんは?」
+ の場合
「タニはバリバリのアニオタで、『狼と香辛料』のホロを嫁と呼んでいる人間です」
「『狼と香辛料』……筋金入りな感じがするね」
「そんなタニですが、彼は音楽至上主義な一面もあって、ボーカルである僕に一番気を使ってくれるタイプです。僕の助手席感の一つとして、『助手席に座る人間は必ず起きていなければならない』というのがあるんですけど」
「一般的にもそれは結構言われるね」
「でも仕事柄ノドを酷使してるので、『今休まないで、明日声が出なかったらどうしよう』という不安に襲われることもあるんです。僕がそんな不安を抱いていると、タニは必ず『康平くん、寝てください。僕はアニソン聴いてるんで』と気を回してくれるんですよね」
「かっこいい! バンドマンかつアニオタの鑑だね!」
「タニが運転手の時は、安心して休めるので助かるんですよ。アニソンを熱唱し出すと迷惑ですが……」
「過酷なツアー移動のなか、ちゃんとメンバーそれぞれのことを考えて助手席で立ち回る。フロントマンって大変だなあ」
「まだ重要なポイントがあります。お菓子です」
「お菓子?」
THEラブ人間 金田康平が語る「助手席お菓子論」
「運転手によって、好きなお菓子って全然違うんですよ。助手席に座る人間は、運転手の好きなお菓子を把握しておくべきなんです」
「そこまでする?」
「これがめちゃ大事なんです! 僕はサービスエリアに立ち寄って運転手が交代する瞬間、助手席から渡すお菓子をコンビニで買うんですよ」
「さすがに涙ぐましいな……」
「僕には『免許を持ってない人間』という負い目があるので、みんなの食べるお菓子ぐらいは買わないといけないんです。全ては運転手のテンションを持続させて、ライブを成功させるため……ねぎらいの心を互いに持ってないと、バンドって続かないんですよ」
「なるほど。この情報に価値があるのかどうかは疑問だけど、金田くんがそこまで主張するなら、各運転手の好きなお菓子も聞いとくよ」
「ちなみに僕はアーモンドクラッシュポッキーが好きです」
「『そうなんだ』としか言いようがないけど、でも金田くんがメンバーの好きなお菓子を言えることが、THEラブ人間っていうバンドの音楽性にもつながってるのかなってちょっと思った。みんな仲が良さそうだよね」
「僕、バンドのノリって部活のノリに近いと思ってるんです。僕は高校時代ずっと弱小剣道部に所属してたんですけど、『大会で優勝するために一丸となって結束しよー!』みたいな感じじゃなくて、顧問の怖い先生が帰った後に、サッカー部から借りてきたボールで道着のまま道場でフットサル始めるような、そういうノリをメンバーともお客さんとも共有できるのがラブ人間だと思ってるんですよね」
「そういえばほとんど男5人の話になってるけど、バンドの紅一点、ベースのまりなちゃんはどうなの?」
「まりなの好きなお菓子は、堅いグミですね。ブルボンのフェットチーネとか」
「いや、お菓子の話もいいんだけど、バンド内で女の子が一人だけって色々ありそうじゃん」
「正直まりなをちゃんと女子として扱えてるのかというと微妙なんですけど、せめてもの気遣いとして、泊まる所は別々にしてますね。そう言えばあいつがこの前のライブで泊まったホテルが変だったらしくて……。あ、ここから先は本人に語ってもらいましょう」
「ついでにその話を、ジモコロでも記事を書いてる漫画家のカメントツに漫画にしてもらいました」
バンドの紅一点、まりなが泊まった奇妙なホテル
「過酷なツアー移動に、やばいホテル……インディーズバンドの活動ってやっぱり色々大変だなあ」
「でもメジャーからインディーズに変えたことに後悔はないですね。ツアーは体力的にきついと感じることもありますけど、それを乗り越えて立つライブのステージって、やっぱり全てをぶっ飛ばすぐらい最高なんですよ。音楽やっててよかった!と思う瞬間って、僕はやっぱりライブの最中ですね」
「明日からまたツアーなんだよね? とりあえずペットボトルと傘捨てに行こうよ。僕も手伝うから」
「お願いします!」
全国を駆け回り、常に全身全霊のライブを続けるTHEラブ人間。3rdアルバム「メケメケ」リリースと同時に敢行されているワンマンツアーファイナルは、4月3日(日)渋谷クアトロにて開催です。本物のラブソングが聴きたい人は、ぜひ観に行ってください!
出演 : THEラブ人間
場所 : 渋谷クラブクアトロ
開場 / 開演 17:00 / 18:00
チケット : 前売り¥3,000(別途1Drink)
ローソン Lコード : 73851
e+ : 販売ページ
ぴあPコード : 284-749
問)株式会社ソーゴー東京:03-3405-6455
ライター:原宿
株式会社バーグハンバーグバーグ所属。ご飯をよく噛むオモコロ編集長として活動中。Twitter:@haraajukku