3月某日、ジモコロ編集部にて。ライター・赤祖父と編集部・加藤。
「…というわけで以前からやりたかった『秘境駅』の取材に行ってきたので報告しますね」
「お疲れさまです。今回は北海道に行ってきたんですよね? そういえば新幹線開業ですし、盛り上がってたんじゃないですか?」
「2016年3月26日にJR北海道では新幹線開業も含めたダイヤ改正があり、それに伴って北海道の幾つかの駅が廃止になります。今回はそのうちの石北本線という路線上にある廃止対象の秘境駅4駅を訪問してきました」
「あ、そうなんですか! 知らなかった」
「確かに北海道は新幹線開業で盛り上がってる面もあるのですが、一方で駅の廃止とか列車本数が減便されるとか、そういう陰の部分の影響を見てきた感じですね…」
「なるほど…ところで秘境駅について概要はググりましたが、具体的にどういうところが魅力なんですかね?」
「私はやはり『行って体験しないと秘境駅の魅力はわからない』と思ってるのでこうやって伝えるのは難しいですね…。ちなみに私は鉄道趣味の中でも特に乗り鉄、とりわけ駅巡りが好きでして、更に言うと秘境駅巡りが旅のメインだったりします。ほら、こういうのも持ってます」
「このDVD、昔『タモリ倶楽部』の“全然売れてないDVD特集”の回で見たことある! 買ったの赤祖父さんくらいなんじゃ…?」
「まあ一口に鉄道好きといってもそのジャンルは多彩かつ細分化されていて同じ鉄道好きであっても得意分野が違うことはよくある話でして、具体的には新潮社刊のムック『旅 別冊 鉄道ファン大全』によると鉄道ファンは撮り鉄、乗り鉄、音鉄、廃線、駅弁、車両研究、列車研究、歴史研究、時刻表、きっぷ、地図、部品、関連古書などなど大別され、更に例えば乗り鉄の場合は全線完乗、全駅訪問、全形式乗車、秘境駅巡り、終着駅巡り、木造駅舎巡りなど更に専攻が分かれたりしており大変奥深いもので、大学にたとえて言ってみれば鉄道学部乗り鉄学科秘境駅専攻、みたいなものでしょうか、あっ私の場合は秘境駅なんですけど、都会では味わえない静けさや侘しさ、あとは昔は駅や駅前が賑わっていたであろう痕跡などを見て鄙びた雰囲気を味わったりするのが好きだったりしたり、あとは秘境駅に降り立った瞬間の“列車に何にも無いところに置いてけぼりにされるちょっとした恐怖感”も魅力だったりするわけですがこればかりはやはり行ってみないとわからな」
「語りだすと急に気持ち悪いな」
秘境駅攻略のカギは【前日入り】と【駅間歩き】
「で、今回はどんな行程で?」
「基本的には鉄道で行きました。こんな感じです」
「例によって行ったり来たりしてますよね」
「今回のように非常にダイヤが薄い場合は停まる列車を無駄にできないので、前日どこに泊まるのか…そこからが勝負になります。そして駅間の移動には、徒歩など列車以外の移動手段も考える必要が…。つまり前日入りと駅間歩きがキモなんです」
「今回の場合、この上川駅始発の列車を活用する必要があるため、前日は上川に宿泊しました。本当は旭川に泊まったほうが都会だしお店も多いのですが…」
「そこまでするのか…ホテルとかあるんですか?」
「駅近くの『池乃屋旅館』さんに泊まりました。ネット非対応なので電話予約です」
「趣旨を説明して女将さんにお話を聞いたのですが、やはり私と同じく秘境駅巡りの鉄道ファンもよく泊まるらしいです」
「廃止になると、お客さん減りそうですね…」
「そうですね。でも登山客なんかも多いらしく、それほど心配していなそうでした。むしろ言うほど秘境駅ファンの客はいないみたいで…」
「ちょっとテーマがマニアックすぎるんじゃないですかね…今回の記事も大丈夫ですか…?」
廃止直前秘境駅巡り① 上白滝駅
「そんなわけで、翌朝に上川駅始発の列車に乗りました」
「すごっ! こんな雪の中でも電車走っちゃうんですね! 東京ならパニックじゃないですか。遅延で午前中自宅待機ですよ」
「電車じゃなくて気動車ですけどね。このキハ40の老朽化も今回のダイヤ改正における列車本数の減便の理由のひとつとされていて…」
「あ~ハイハイ気動車ね気動車! すべてわかったので次お願いします!」
「…まあとにかく、これで次の上白滝駅を目指します」
「なるほど…あ、この写真、線路の上を人が歩いてますよ! ヤバいヤバい!! 炎上しますよ!!」
「これは、保線の職員さんが信号場から列車に乗り込むところですから、問題ありませんよ。ちなみにここ昔は、駅だったところですが今は詰所になってるようです」
「へぇ〜〜 そういう風に駅じゃないところから乗り込む、って東京だとあまりないですよね」
「そうですね。そういう都会の感覚からしたら大雑把な運用も、ローカル線ならではの風景ですね」
「この日は鉄道ファンが結構乗っていたので、地元の方にお話を聞きました。こちらの方は昔この沿線に住んでいたそうで、今回の駅廃止の話を受けて乗り鉄しにきたそうです」
「赤祖父さん、鉄道のことになると俄然メンドクサイのに、意外とコミュニケーション能力ありますね」
「この方もおっしゃっていましたが、昔に比べ人口がどんどん減っているので、駅の廃止や減便もやむなしという捉え方が大勢でしたね。この日もたまたま乗りにきたけど普段は滅多に鉄道は使わない、と…」
「そりゃそうか…」
「こういう話題ってどうしても『寂しい』とか『なくさないで』とか外野は無責任に言いがちですけど、結構地元の方は現実的に捉えてるんですよね…」
「もしかして、いいこと言おうとしてますか?」
「そんな雑談をしつつ、上白滝駅に到着したので下車しました」
「これが上白滝駅の時刻表です」
「上下一日1本ずつ!? これ時刻“表”じゃないでしょ。ただの“時刻”でしょ。表である意味なさすぎ!」
「はい、こんな駅だったりするので訪問するだけでも大変なんです。そもそも人が使わないから秘境化するし、また停まる列車の本数も少なくなるしの悪循環で…」
「じゃあ車で行ってきたんですよね?」
「あえて言いますが、それは邪道! 邪の道! JADOU! 大仁田の5倍くらい邪道です。もちろん列車を使っての訪問ですっ! ファ〜ッと車で行ってファ〜っと去るだけじゃ秘境駅の魅力なんか何もわかりませんっ!!」
「…じゃあこの駅で10時間待ってたんですか?」
「いえいえ、上下車をするのは事実上不可能だったりするので、私の場合は駅を利用すること、つまり『駅に列車で降りる』か『駅から列車に乗る』を訪問のルールとしています。車で寄っただけは『見学』という解釈にしていますね」
「今、本心を言うと赤祖父さんのことをスゲェめんどくさいヤツだなって思いましたし、仕事じゃなきゃ付き合いたくないなって思いましたし、多分はてなブックマークのコメントでめちゃめちゃ悪口書かれそうって思いましたけど、でも大変さが伝わりました。じゃあその間どうするんですか?」
「すごく否定された気がしますが、質問に答えますね? 時間がもったいないので歩いて隣の駅に行くとか、場合によってバスやタクシーが使えたら使ったりはします」
「それはいいのかよ」
「で、この上白滝駅から隣の白滝駅までを駅間歩きします」
廃止直前秘境駅巡り② 金華駅
「当たり前なんですが、歩く道も雪や氷になっているので、駅間歩きも超大変で1時間近くかかりました。その上歩いている様子の写真もセルフで撮らなきゃならないしで…」
「恩着せがましく言ってますけど、こんな取材には絶対に付いていかないよ!」
「隣の白滝駅には1時間弱で到着しました。こちらはまだ栄えてるほうで、停車する列車も多いです。なのでこちらから次の列車を捕まえます」
「“捕まえる”って表現、なんなんだ」
「この列車で、いったん遠軽駅まで行きます」
「もうこの車両の顔からして寒そう…」
「遠軽ってなんとなく聞いたことがある人も多いと思います。かにめしの駅弁で有名だったんですけど、最近廃業してしまったそうです」
「確かに、うっすら聞いたことはあります…」
「駅弁ってデパ地下の物産展なんかで食べてもありがたみがないし、大しておいしくない割に高いな…って感じちゃいますけど、やはり現地で食べると格別なんですよね」
「さりげなくヒドイこと言ってますね」
「ここ! 今回一番興奮したシーンです!」
「…はぁ?」
「えっ!? すごくないですか!?」
「どういうことですか…? 赤祖父さんって、こういう男性がタイプなんですか…?」
「いやいや! 漫画『鉄子の旅』の案内人などで有名な横見浩彦さんですよ!? "乗り鉄界の巨人"に会えたんです! 完全に偶然だったけど、いや〜感動した…!!」
「…有名なんですか?」
「コラッ! 口を慎め!!!! すごいんだぞこの人は!! 私にとっては神みたいな人なんだぞ…!?」
「すみません…」
「私の使った『北海道フリーパス』というきっぷは特急も乗れるので、この特急オホーツクに乗ります。で…」
「留辺蘂駅という駅ですぐ降ります」
「るべしべ…“蘂”とか絶対読めねえ…。鉄道好きって漢字に強くなりそうですね」
「留辺蘂から、次の目的地へはタクシーに乗りました」
「あっ、本当に乗りやがった!」
「こんな感じに都合2駅分歩かないといけないので、ほぼ確実に間に合わないんですよ…。Googleマップで雪道を1時間以上ですよ?そもそも都会の駅前と違って、タクシーが拾えるだけラッキーとも言えるんです」
「自分を正当化しようとしている感じがすごい…」
「うまく正当化できたところで、いよいよ次の目的地、金華駅に到着しました」
「タクシーに乗ったこと、猿岩石みたいに隠さずにキチンと話すんですね」
「列車ダイヤと写真のexif情報の関係で絶対バレますから、正直にいきましょう」
「こうして待合室をよく見ると、かつてのきっぷやチッキの窓口などの痕跡が見て取れます。こういった部分を見て歴史を感じるのも、駅を楽しむポイントのひとつですね」
「チッキってなんですか?」
「ザックリ言うと今の宅急便みたいなことを鉄道がやっていたということです。あとはググっていただくということでお願いします」
「はい…(長い説明聞かなくてよかった…)」
「うおっ! さすが北海道ですね! 東京でこれだったら大事件ですよ」
「ほんと北海道恐るべしなんですよね…で、12:22発の遠軽行きに乗ってまた遠軽駅に戻り、次を目指します」
廃止直前秘境駅巡り③ 下白滝駅
「金華駅から遠軽駅まで普通列車で行き、そこからまた旭川方面13:28発の白滝行きに乗り、3つめの目的地、下白滝駅を目指します」
「これが下白滝駅です。どうですこの感じ! 秘境って感じしませんか?」
「こういうところに車もなく放り出されたら、ちょっと怖いな…というのは感じました。帰れる自信がゼロ」
「この近くにある牧場の犬が寄ってきてくれました。番犬かと思ったら、人なつっこくてかわいいでしょ!」
「赤祖父さんってアニメだったら動物しか信用しないキャラですよね」
廃止直前秘境駅巡り④ 旧白滝駅
「さて、ここから2回目の駅間歩きです。ダンプカーなども通る道を歩くので、慎重に進む必要があります」
「これ、人が歩いていい道なんですか…?」
「はい一応。ただただ延々と歩いて流石に疲労困憊でした…。写真じゃ伝わりませんが、超寒くて鼻や耳がもげそうになります。手も手袋してないとヤバいので写真も撮りにくいし」
「なんちゅう趣味だ…」
「疲れすぎて髪型が和田アキ子みたいになってきてました」
「人間は疲れると和田アキ子の髪型になるって情報、初耳ですね」
「そんな感じで1.5時間ほど歩いて、ようやく4つめの目的地、旧白滝駅に到着です」
「新○○駅、というのはよくありますが、“旧”と付く駅は珍しいのです」
「駅じゃないけど、旧ザクくらいしか思いつかない」
「実は、ここを訪問したときは秘境駅好きの同士が何人かいらっしゃいました」
「定年を機に兵庫から北海道に移住したという方にお話を聞きました。鉄道写真が好きで、いろいろと撮り回っているそうです。やはり、北海道の鉄道がどんどん縮小されているのは寂しいけど仕方ないねという話で…」
「JR北海道って、そんなにヤバいんですか?」
「ヤバいも何も、JR北海道が公表した資料によると赤字ばっかりですよ!」
※詳しくは下記pdfファイル参照
https://www.jrhokkaido.co.jp/press/2016/160210-1.pdf
「表の右端の営業係数というのは100円稼ぐのにいくら費用がかかったかという指標です」
「100円稼ぐのに4500円かかってる路線があるんですか…小学生でもダメだってわかりますね」
「しかし赤字だからやめちまえ! ってことになると、ほとんどの路線がなくなることになるので、そうもいきませんからね。せめて合理化していこうという話は理解できます。寂しいけど」
「この駅、NHKの特集で有名になったんですよね。女子高生が卒業して定期利用者が居なくなるのも廃止の理由のひとつだと…」
「廃止間近だから人が結構いるんですね。こういうところで知らないファン同士交流するんですか?」
「秘境駅好きって、基本的に人嫌いな人多いですからペチャペチャ喋らないですね。ニュータイプみたいに語らずに通じ合うというか…」
「何だよそれ」
「はいこれで終了! です。この列車が停まってくれてホッとする感じは何度味わってもたまりません」
「救助を受ける感覚なんですね。しかし結局本当にまる1日使って鉄道乗って降りて歩いてるだけなんですね…。これ、休日使って趣味で行ってるんですよね…?」
「それで十分楽しいからいいんですよ。逆に問いたいですよ、鉄道に乗ってどこに行きたいの?って」
「普通に目的地だと思いますけど」
取材を終えて
「この後日談ですが、帰りは札幌から青森までを結ぶ夜行寝台急行『はまなす』が運よく直前で取れました。実はこちらもダイヤ改正に伴って廃止になります」
「わわっ、夜行列車! いいですね〜〜!!」
「これで北海道と本州を結ぶ夜行列車は『北斗星』『カシオペア』などと並び全廃になりますし、JRからは『急行』という区分も消滅します」
「新幹線開業!! と華やかなことを言ってる陰では、いろいろと廃止されるんですね」
「いろいろな旅の選択肢が減るのは寂しいですね。旅って、とにかく目的地に行けばいいみたいな考え方もありますけど、私は移動も旅の一部だと思っているので、移動自体も楽しみたいですし移動手段にもこだわりたいですね。ツアーで目的地だけ連れて行ってもらっても、結局どこに行ったかすら忘れちゃうって私の親は言ってました」
「それはなんかわかる」
「新幹線や飛行機も速くて便利でいいんですけど、ローカル鉄道などもぜひ利用して欲しいですね…絶対楽しいですから」
「今回の記事を読んで、楽しそう! と思う人がいるといいですね…いるかなぁ…」
ライター:赤祖父
三流情報サイト「ハイエナズクラブ」の執筆や編集をしたり「全国ノスタルジー探訪」というブログを書いたりもしているインターネット大好きおじさんです。鉄道や写真も好きです。スマホの電波が入らない場所に行くと急に弱気になります。
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