こんにちは、ライターのカツセマサヒコです。
ある日、ジモコロ編集長の柿次郎さんに呼びだされて編集部に行ったところ、こんなことを言われました。
「カツセくん。今度イベント登壇することになったから、レポート記事書いて!!!!」
自分が登壇するイベントで自らイベントレポを頼んでくるって、この人よっぽど自分の発言に自信があるんだろうなあとちょっと引き気味だったのですが、ただならぬ気迫…。
しかもそのイベント、個人的に申し込んだけど抽選が外れた「大ベンチャー展」だったので、仕事で行けるなら尚更ありがたい。
●大ベンチャー展ってなに?
2016年2月3日〜2月7日、株式会社バーグハンバーグバーグ×三幸エステート株式会社が手がけたセミナー&展示会です。コンセプトは「太古のベンチャー」。家入一真のゾンビやホリエモンの恐竜などを展示し、合わせて豪華ゲストによるセミナーを開催しました。 http://venture.sanko-e.co.jp/
ということで、今回は2月5日に実施された「大ベンチャー展」のセミナーレポートをお届けしたいと思います!
会場は秋葉原にある「アーツ千代田3331」。すでに客席はいっぱい!
地下には家入一真さんのミイラとか堀江貴文さんの顔がついた恐竜なども展示されていたのですが、ほかに予算の使い道あっただろとしか思えなかったのでこの話は割愛します。クオリティはガチでした。
初の組み合わせ! ヨッピー×VICE JAPAN佐藤ビンゴさん
ほどなくしてトークイベントの開始時間になると、柿次郎さん(左)、ライターのヨッピーさん(中央)、VICE JAPAN代表の佐藤ビンゴさん(右)が登壇しました。
この日のトークイベントは前編・後編に分かれており、前編は3人で「本当に面白いメディアってどういうもの?」というテーマについて話します。
メチャクチャためになるし、ブッ飛んだ話ばっかりで最高だったので、その熱量をできるだけ落とすことなく、お届けしたいと思います!
まずは登壇者の自己紹介。
ライターのヨッピーさんは、“去年一番ウケてたライター”なのだそうですが、ご本人曰く「一昨年もウケてたから」とのこと。たしかにインターネットにずっと張り付いてると、ヨッピーさんの記事をたくさん見る気がします。あと、この日は極寒だったのに、なんでこのひと半袖なんだろうって思いました。
続いてVICE JAPAN 佐藤ビンゴさんの自己紹介。
「佐藤さんのプロフィール写真が怖すぎる」とヨッピーさんと柿次郎さんにイジられながら、VICEがどんなメディアであるかを紹介していきます。
●VICEとは?
VICEは世界36カ国以上に支部を持つ米国発のデジタルメディア。運営はVICE Media。世界中で制作・厳選されたプレミアムでエッジが立ったコンテンツを日々5千万人以上に提供しています。昨年11月にはウォルト・ディズニーが大型出資を決めたことが話題になりました。日本版を「VICE JAPAN」として、佐藤ビンゴさんが運営中。http://jp.vice.com/
「VICEは取り上げるテーマがディープだし、一見、ちょっと怖いイメージがあるじゃないですか。あと、そもそも佐藤さんの経歴もめちゃくちゃおもしろくて、かなり売れてるバンド(54-71)からスタートしてるんですよね。だからプロフィール写真が怖いのも、雰囲気的にちょっと納得できちゃう」
「海外ツアーとか、レーベルをやっていたら映画監督のスパイク・ジョンズに会う機会があって、そこからVICEのファウンダーを紹介してくれて。それでVICE JAPANをやってみてはという話になったんです。身の回りの人と一緒にいろいろやってたら、今に至ったっていう感覚ですね」
「ものすごいディープなカルチャーを伝えてるメディアですよね。『MADE IN KAWASAKI』のBADHOPの動画は、ヒップホップを通してキツい環境から這い上がるドラマ性のある内容で。かなり話題になっていましたね」
MADE IN KAWASAKI 工業地帯が生んだヒップホップクルー BAD HOP
「あれはソーシャルでよく見られていましたね」
僕も知らなかったのですが、VICEって、どうやらものすごくブッとんだメディアらしいです。この後にもVICEの紹介がありますので、そちらまでぜひ読んでもらえたらと思います。
ディープすぎるメディア・VICE JAPAN
自己紹介が終わると、話題は再びVICEについてに。ヨッピーさんがそのヤバさを話していきます。
「ここで皆さんに問題なんですが、これは"とある職人”に迫ったVICEのインタビュー動画なんですが、これはいったい何の職人のインタビューでしょうか?」
「正解はコカイン職人でした。本国のVICEって、コカイン職人にインタビューしてる動画とかあるんですよ。記者はコカインを作っている場所までは目隠しされていて、作ってるところだけ見たら、あとはまた目隠しされるの。こういう組織ってきっとバンバン人殺してるじゃないですか。そういうところまで取材に突っ込んでいくの、VICEだけでしょ」
THE NEW KING OF COKE:新たなるコカイン帝国ペルー(3)
「ほんと攻めてますよね」
「VICEって、過去に誰か死んだりしてないんですか?」
「うーん。過去に3人トルコ政府に捕まって、そのうちひとりは3カ月くらい拘束されてましたね。それで解放運動とか、VICEとしてやりましたよ」
「世界が違いすぎる。すごいディープなところ行きますよね」
「テレビ局でも、昔はそういうところに民放も行ってたんですけど、今はNHKぐらいなんでしょうね。でも、これが報道なのかなって」
「これ、編集部は『コカインの記事、ウケたなあ』とか『数字取ったなあ』って笑ってたりするんですか? 『よっしゃー、次もコカインいこ!』とか」
「いや、別にコカインが好きなわけじゃないから(笑)。あの記事、ネットフリックスから依頼を受けていて、海外ドラマ『Narcos(ナルコス)』の告知ができるメディアがないっていう流れでVICEに話が来て作ったんですよ。だからタイアップなんです、あれも。バナーにずっと広告が付いていますよ」
「『切り口がコカインのタイアップ記事』って頭おかしい」
「VICE自体は36カ国にあるんですよね。PVはどのぐらいなんですか?」
「UUでしか出せないんですけど、月間で1億1千万UU。もともとはニュースペーパーとして94年から始まって、フリーペーパーになって、そこからYouTubeが出てきたから『じゃあ動画もやろう』となり、今に至りますね。確か昨年11月ごろにアメリカでは、ウォルトディズニーからの高額出資も決まりました」
「あのディズニーが出資してるってすごい」
「特に海外チームは、本当にヤバいところにもいろいろ行ってたんですけど、ファウンダーに子どもが産まれてからは『なんか世の中の役に立つことしようよ』ってなって、そこから危険な場所にはあまり行かなくなったかもしれませんね」
「大人になって落ち着いた田舎の不良みたいだ」
「と言いながら、昨年の広告代理店向けの発表会とか、全身刺青の人がファ●クファ●ク言ってるだけでしたからね」
「何の情報も得られないじゃないですか、それ」
「でも今は音楽やアート、カルチャーまで扱ってるから、その幅広さがVICEのウリになってますね」
「ほかのメディアじゃマネできないですよね、そこまでいくと」
VICEの取材力と突破力に、会場は唖然とした空気が流れていました。
いま日本でここまでのメディアを作れって言われても、なかなかできるもんじゃないよなあと思わされる話ばかり。あと、記事に書いていない部分は大体汚い言葉が飛び交っていたので、本当にロックなメディアなんだと思いました。
二人が考える“ウケるコンテンツ”
続いての話は「ウケるコンテンツ作り」について。
佐藤さんとヨッピーさんはコンテンツ作りへの考え方がまるで違いますが、発想や切り口の対比がまたおもしろいです。
「コンテンツ作りは、PV数とか狙ってやってるんですか?」
「堅い言い方をすると、『人の役にたつ』とか、そういう気持ちを先行して作ってるつもりなんですよ。だから『ウケる、ウケない』とかはそこまで考えない。どっちかって言うと、いつ見ても『ああ、なるほど』って思えるコンテンツというか、そのほうがよりエディトリアルがあるって感じる」
「なるほど」
「たとえば、VICEの中でオレオレ詐欺をずっと追いかけている作家さんのインタビューがあるんですけど、その記事をいつ読んでも『ああ、なるほど』って思うんですよ。オレオレ詐欺をやってる人ってめちゃくちゃ頭が良くて、『この人、会社経営やったらすごいんじゃないかな』って思わされることもある。そういう発見がある記事こそ、ウケるコンテンツじゃないかなって思うんです」
「いつ見てもイイ記事があがってるっていうのは、メディアとしては強いですよね。VICEが20年続いてる理由も、それでしょうね。ヨッピーさんはPV数とか、狙って書いてるんですか?」
「そうですね。僕、記事がウケるかどうかわかる特殊能力を持ってるんですよ。大体の原稿は下書き状態で、その記事が伸びるかどうか当てられるようになってきた」
「それすごい。どういう計算式かここで言えます?」
「バズるかどうかは、『広さ』『深さ』『距離感』の3つで測れるんですよ。まずは『広さ』なんですけど、たとえば山梨に取材に行って記事を作ると、それ読んでうれしいのって、基本は山梨の人じゃないですか。でもそこに『東京から一時間で行ける!』って書くと、東京の人も巻き込めるんですよね。そうやって記事の対象を広くするんです」
「次に、さっきの『広さ』の人たちに対して、どこまで深く届く記事を作るか。この前、量子力についての記事を書いたんですけど、あれは理系をターゲットにしているんです。量子力学って説明しづらいんですけど、それをわかりやすく書いてあげれば、ぜったい好きな人達には刺さると思ったんですよね」
「あれもすごい話題になってましたね」
「で、最後に『距離感』を見るんですよ。ユーチューバーのHIKAKINさんとかって、さっきのあてはめ方だと『広さ』も『深さ』もそんなにないでしょう? でも、彼らは距離感がめちゃくちゃ近いんです。カメラの前の僕に話してくれる。ニコ生主とかもそうですよね。だからウケるんだと思ってます」
ヨッピーさんはこのほかにもいくつかの記事を事例にあげながら、「広さ」「深さ」「距離感」についての説明をしていきました。詳しくはNewspicksのインタビュー記事でどうぞ。
あと「『怒り』をコンテンツ化すると応援してくれる人が出てきてバズる」という話もあり、これもネットに張り付いてるとよく見かけるなあと思いました。
読めば何か発見があるような普遍的なコンテンツを作るVICEと、方程式からバズを狙うヨッピーさん。対照的な印象ではありましたが、どちらも「おもしろいメディア」作りには必要な要素ではないでしょうか。
「元年」でも障壁は高いままの日本の動画シーン
続いてのテーマは、テキストと動画について。
テキストを主戦場にするヨッピーさんと、動画コンテンツを手掛けるVICEの対比がこれまたおもしろい話でした。
「毎年言ってる気がしますけど、今年こそ動画元年って言われてますよね。個人的にはまだまだ来ないんじゃないかなあと思うんですが、元年の実感あります?」
「たぶん『○○元年』とかって、広告代理店みたいなところから発信して始まってると思うんですよね。だから営業的な動きをしてるときはよくその言葉を聞くけど、でも若い人と話をしてもぜんぜんその雰囲気は感じない」
「代理店の思惑、ありそうですよね。企業から依頼される記事ってピンキリですけど300万円くらいが上限なんですよね。でもテレビCMって何千万とか何億って予算を持ってるじゃないですか? だからネット記事って、代理店的にもそんなに儲からないんですよきっと。でも偉い人からは『ネットもやれ』って言われるから、渋々やってるんだろうなあって感じることもありますね」
「動画やテレビは関わる人が多いから、お金も時間もかかるよね」
「動画でやったら予算があがってドカンとお金がとれるから、だから動画やろう! って言ってるところが多いんじゃないかなって思うんですよね。でも『動画つくったけど、ビュー数が伸びないから、記事書いて動画紹介して?』って言われると、もう本末転倒すぎてダメだなあって思います」
「『腐った刺身を美味しくみせろ』って言われてるのと、同じ感じですよねえ」
「それでもお金積まれたら書くけどね?」
「書くんだ」
「でも僕、バイラルメディアっぽい動画とか好きじゃないんですよね。すごいお金かけて、ピっと1~2分で見られるやつばっかりで。外国の動画メディア見てると、『日本なにしてんやろ』って思っちゃうな」
「いやー、わかります」
「バズを狙うとかじゃなくて、勉強できるとか、ためになるとか、そういうのがブランドになるし、エンゲージできると思うんですよ。そういう動画をVICEは作れるから、仕事が来るのかなと思ってて。アメリカやイギリスはみんなそっちにシフトしてますし、20分の長い動画も、きちんと見てくれますから。その状況を知ってしまうと、日本はつまんないことしてるよなあって思っちゃうんですよね」
「そこらへんってノウハウの差が大きいですよね。動画の成功者って、個人だとHIKAKINさんとか、その周辺の方々しかいないと思うし。あの人たちも積み重ねで今の地位を築いてるじゃないですか。一撃で狙おうって、動画だと難しいですよ。やっぱり」
「VICEはYouTubeにコンテンツ出すことになったとき、すごいお金が動いたって耳にしたことがありますが」
「1年で10億円ぐらいかな?」
「これですよ。『ヨッピーさんは動画やらないの?』って言われるけど、もう今からは入れないんですよ。動画は個人が参入出来る規模をもう越えちゃってるんですよね。ノウハウがあるからその金額が動くのであって、僕は動画編集も出来なければ機材もないし、そもそもコカイン職人のところなんていきたくない」
「行かないんですか?」
「逆に聞きたいけど、行きたがる人、いる?」
動画元年と言われるようになっても、いちクリエイターが新規参入するには障壁がまだまだ高いようです。確かに動画の編集技術って、Webライティングとは全くスキルが違いますもんね……。「好きなことで、生きていく」というキャッチコピーがずいぶん前のことのように感じられます。
「大統領クラスと仕事したい」ふたりの今後の戦略
最後はヨッピーさんと佐藤さん、それぞれが考える今後の戦略についてのお話。スケールが大きすぎて会場のみなさん、爆笑してました。その様子をお届けします。
「最後に、今後の戦略について考えていることがあったら教えてください」
「ライターとして生きていくうえで、二つのことを考えてます。ひとつは、書けるジャンルを広げていくこと。もうひとつは、企画の規模を大きくすること。一個一個の企画になるべく予算をかけたいし、大物を連れてこられるようにしたいです」
「広げて、大きく」
「この前インタビューを受けたときに、『最大限まで規模を大きくしたらどうなるんですか?』って聞かれたんですけど、それで人生の目標ができたんですよ。僕の夢は、『プーチン大統領と戦うこと』かなって」
「めちゃくちゃスケールでかい」
「プーチン大統領って、元KGBで、柔道の黒帯持ってるんですよ。で、たぶんみんな『あの人ほんとに強いのかな?』って思ってるだろうから、僕が戦ってみたいんですよね。僕がプーチン大統領にポーンッて投げられたら、4億PVとか取れるんじゃないですかね?」
「それ、動画の方がおもしろそうだからVICEでやりましょうよ」
「あ、じゃあテキストはヨッピーさんが書いて、翻訳してVICEで世界配信すればいいですね」
「いいですね、それ。僕のツイッター、いまは日本人のフォロワーしかいないですけど、もしこれが世界中からフォローされて3千万フォロワーとかになったら、プーチン大統領もオファーを考えるんじゃないですかね?」
「ああ、そういえば僕も前に、『金正恩の情熱大陸やってくれない?』って言われたことある」
「わはははは!(笑)」
「その予算なんですけど、『1本あげる』って言い方されたんですよ。この『1本』って何だろうな? って思いながら、返事してない状況ですね」
「1億でしょ! でも、1億でも安いですよね、きっと」
「足りないですね、本当にやるとなったら(笑)」
「結局二人とも、大統領的クラスとの仕事に行き着くわけですね」
「そうですね、いいじゃないですか。僕はプーチン大統領と戦うから、佐藤さんは金正恩の情熱大陸を撮る」
「そういう企画を5本くらい作ったら、しばらくはもう仕事しなくていいでしょうねえ」
「ぼくもプーチン大統領とやれたら、ライターとしてあがりかなって思います」
「というか一回やったら、もうその印象が付き過ぎる気がしますけど(笑)」
「そろそろ怒られる予感がするので、ここで終わりにしたいと思います!」
「ありがとうございました」
こうしてトークイベントは終了しました!
お二人の今後の戦略は突飛すぎるものの、なぜか「いつかやれる日もくるのでは……?」と思わせる自信を感じました。
というか、個人的に“プーチン大統領VSヨッピーさん”、“金正恩の情熱大陸”、どちらも死ぬまでに絶対見たいです。
「動画元年」と言われる今年、コンテンツやメディアの在り方はさらに変わっていくのかもしれませんが、「読めば何か発見があるような普遍的なコンテンツを作ること」(by佐藤ビンゴさん)や、「狙いどおりのバズを起こせること」(byヨッピーさん)というのは、作り手としてはいずれも必要なスキルだと感じました。
ちなみに、この日の後半戦は「オモコロ」「KAI-YOU」「BuzzFeed Japan」といった最近話題のメディアの編集長を集めてのトークセッションでした! そちらの様子もまたご紹介できればと思います! 最後までお読みいただき、ありがとうございましたー!
ライター:カツセマサヒコ
下北沢の編集プロダクション・プレスラボのライター/編集者。1986年東京生まれ。明治大学を卒業後、2009年より大手印刷会社の総務部にて勤務。趣味でブログを書いていたところをプレスラボに拾われ、2014年7月より現職。
趣味はtwitterでのふぁぼ集めとスマホの充電。Twitter→@katsuse_m