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52億円かけて宇宙博物館をド田舎に建てた「元・公務員」の目つきを見て

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52億円かけて宇宙博物館をド田舎に建てた「元・公務員」の目つきを見て

「えっ、すみません、もう1回いいですか? ちょっとよくわからなくて」

 

「ですからね、まず公務員時代に52億円かけて、宇宙科学博物館を作ったんですよ」 

 

 

 

「いや、なんで公務員がそんな莫大なお金で宇宙科学博物館を作れるのかがわからないんですよ。いったい何のために……」

 

「それはね、『UFOで町おこし』をするためだったんです。色んな努力と交渉の末、本物の宇宙船やロケットまで持ってくることができたんですが、NASAにはゼロ円でロケットを100年借りる交渉をしました。さらにロシアとは元軍人と……………あとローマ法王にコメを食べさせて…………

 

 

 

 

 

 

「……………………………………」

 

 

……………………

 

……………………

 

……………………

 

 

 

はい、気を取り直してこんにちは。ライターの友光だんごです。先ほどのやりとりを見てお気づきかもしれませんが……

なんかすごい人を見つけました!!!

 

先ほどからとんでもないスケールの話をしていたのは、高野誠鮮(たかの・じょうせん)さん。地元の町や村を二度も再生させ、スーパー公務員と呼ばれる方なんです。

 

最初は石川県羽咋(はくい)市を「UFOの町」にするプロジェクトに成功。

その次は、限界集落をブランド米で再生。そのキーパーソンは「ローマ法王」です。

そして、公務員になる前は『11PM』やUFO特番などを手がけたテレビの構成作家で、65歳になった現在は総務省の地域創造アドバイザーで………。

 

とにかく情報量の多すぎる高野さんがいったい何者なのか、気になりますよね? 

前置きはこれくらいにして、インタビューに戻りましょう。

 

話を聞いた人:高野誠鮮(たかの・じょうせん)

1955年、石川県羽咋市生まれ。科学ジャーナリスト、テレビの企画構成作家として『11PM』などを手がけた後、1984年に羽咋市役所臨時職員になり、「コスモアイル羽咋」を作る。2005年から過疎高齢化が進む羽咋市神子原地区を“限界集落”から脱却させた実績から“スーパー公務員”として話題に。現在は総務省の地域力創造アドバイザーや立正大学客員教授などを務める

 

52億円かかった「宇宙科学博物館」って、なに?

「気を取り直して、よろしくお願いします。先ほど怒涛の勢いで出てきたエピソードについて、ひとつずつ聞いていきますね」

「なんでもお聞きください」

「まず一番気になるのが『宇宙博物館』なんですが」

 

「ちょっとした国の予算くらいの金額じゃないですか?」

「今いる『コスモアイル羽咋』のことですね。この施設のメインは宇宙科学博物館なのですが、コンサートもできる900席の大ホールや市立図書館、研修室などを備えた複合施設なんですよ」

「あ、そうなんですね! ちゃんとした市の複合施設だった」

「52億円は国から予算をいただきました。内訳は建物に30億円、用地買収や取り付け費用で20億円くらい。残りの2億円でロケットや宇宙船などの展示物を用意しました

「NASAが使ってた本物のロケットや、旧ソ連の本物の宇宙船が展示してあるんですよね」

 

NASAから入手した「レッドストーン・ロケット」

 

旧ソ連の「ヴォストーク宇宙カプセル」。実際に飛行し、宇宙から帰還したもの

 

「しかしこれ国の予算ってことですが、どんな提案をしたんですか…?」

『宇宙の出島、能登羽咋プロジェクト』と名付けた企画を提案したんです」

「え、ちょっと待ってください。『宇宙の出島』?」

「『UFOが実在するならば、それは現代の黒船だ。かつて黒船を迎え入れたのは長崎の出島。今世紀の出島は日本列島だ。宇宙の出島は能登半島だ』ってことですよ」

「………わからなくなってきました。ここはたしかに能登半島ですけど、それを国に提案したら通っちゃったってことですか?」

「旧自治省主催のリーディングプロジェクトだったんですが、『これはおもしろい!』と評判で、52億6000万円の予算が国から下りたんです」

「えええー!!! 日本ってそんなにファンキーな国だったんですか??? それか担当者から上司までUFOオタクとかじゃないと通らないのでは??」

「なんの実績もなしに、ゼロからはさすがに通りませんよ。その数年前からの『UFOで町おこし』の結果があってこそ、コスモアイル羽咋は生まれたんです」

 

現在は年間5万人ほどが来館するコスモアイル羽咋。UFOマニアだけでなく、本物の宇宙船や隕石、宇宙開発の資料などを見に、家族連れも多く訪れている

 

何もないのに宣伝しちゃった、手弁当の町おこし

「『UFOで町おこし』気になってました。まず、どうしてUFOだったんですか?」

「私は羽咋市の寺の子として生まれたのですが、地元に希望ができず、東京の大学へ進みました。そして紆余曲折あり、在学中から雑誌のライターやテレビの構成作家の仕事を始めて、『11PM』などでUFO番組をよく担当していたんです」

「『11PM』は聞いたことあります! なんかエッチな深夜番組ってイメージでしたが」

「当時はUFOや超能力がブームになっていて、よくUFO特集が組まれていたんです。国内だけでなく、海外の元宇宙飛行士やUFO研究者にも取材して番組や記事を作る、非常にエキサイティングな時代でしたね」

 

高野さんが東京で担当していたテレビ番組の台本。当時はUFO特番がさかんに作られていた

 

「しかし、実家の寺を継がなければならなくなり、地元へ戻り、寺の仕事だけでは食えないから市役所の仕事も始めたんです」

「あらら、では公務員の仕事はそんなに前向きではなかった?」

「ええ、もうあとは余生として大人しく羽咋で生きるか……とね。そんなとき、市の職員として担当していた公民館の『古文書講座』で、UFO伝承に出くわしたんですよ」

 

「地元に伝わる江戸時代の古文書を読んでいたら『西山から東山へ麦わら帽子のような形をしたものが飛んでいた』とあるわけです。さらに室町時代にも怪しい飛行物体の記述がある。これは今で言うUFO伝承じゃないか!これは使えるぞ!とね」

「高野さん、確実に人生がUFOに引き寄せられてますよ。で、そこから『町おこし』にどう繋がるんですか?」

「当時は竹下首相が『ふるさと創生』と言い始めた頃。『第○回まちづくり大会』みたいな研修が羽咋でも開かれていたんですが、いつまで経っても実際の動きにつながらない。それで上司に『まちづくりはいつ始まるんですか?』と聞いたんです」

「上司はなんと……?」

『そんなに言うならお前がやってみろ! ただし高野は臨時職員だから、予算はつかんぞ』と」

「めちゃくちゃ上司キレてるじゃないですか」

「だから、もう勝手にやるしかないわけですね。それで最初に『UFOのまちづくり、始めました』と、AP通信やロイターなどの海外メディアにリリースを打ちました

「えっ、いきなり??? 何か具体的な実績とか事例は???」

 

「古文書のコピーしかありませんでした」

 

「いやいやいや、それで『町おこし』って言うのはさすがに無理があるでしょう!」

「いえ、ちゃんと計算がありました。お金がなければ知恵を絞るしかありません。最終的に人を動かし、羽咋に来てもらうにはどんなに小さくてもマスコミの報道が必要だと考えたんです」

「でも日本の小さな町が海外メディアにいきなりリリースを打って、反応があるものですかね」

「旧ソ連の『コムソモリスカヤ・プラウダ』や南米最大の『グローボ』という新聞が食いついて、現地の社会面のトップ記事にもなりましたよ」

「食いついちゃった!!!」

「次に、土産物を作りました。当時はベルリンの壁が崩壊した頃で、その壁の土を使ったUFO型の土鈴『ベルリンリン』です」

 

「めちゃくちゃダジャレじゃないですか」

「ちゃんと意味がありますよ。宇宙から見たら国境なんて関係ない。これは平和の鈴です、という願いを込めたんです。するとドイツで話題になって、日本のメディアも食いついてきました」

「なんでも言ってみるもんだなあ……」

「その後、地元の飲食店でUFOメニューを出す店も増えていきました。こうして予算ゼロから始めた町おこしが、徐々に形になっていったのです」

 

羽咋駅の目の前にある看板。たしかに「UFOのまち」と書いてある

 

羽咋駅にもコスモアイル羽咋のポスターが

 

UFO国際会議を開いたら、5万人が田舎に集まる

「でも、最初に市役所を敵に回すところからスタートしてるわけじゃないですか。地元を徐々に巻き込めたとはいえ、市役所の壁が残ってますよね」

「そうですねえ。そこを越えるために、国際シンポジウムを開く際には『総理大臣』に頼りました

「総理!? コネがあったんですか???」

「あったら最初から頼っていますよ。市役所が『UFOの町づくりに予算をつける』と言うので『500万円くれたら羽咋で宇宙国際会議を開きます』と宣言したんですが、あとで計算したら6000万円以上かかることがわかったんですね

「めちゃくちゃに赤字。高野さん、とにかくデカい風呂敷を広げますね」

「足りない分はいろんな企業をまわって、協賛金を集めました。結果的に100社くらいから4000万円近く集まったのですが、公務員が金集めとはけしからん、と地元の自民党の議員さんに強く反対されてしまって……」

 

「そこで私はすぐ、総理官邸に電話しました」

 

「普通、そうはならないでしょう」

 

「でもね、『こちら石川県ですけど』と言ったら、県庁からの電話だと勘違いしてくれたんです。それで最後は首相官邸に繋がったんです。当時の海部総理の首席秘書官の人が対応してくれたのですが、彼が羽咋市の出身だったんですよ」

「たまたま羽咋に縁のある人が。どれだけ高野さん引き寄せ力あるんですか。UFOの力?」

「秘書官の方が『故郷に恩返しをしたい』と仰るから、こういう国際会議を開くので総理に激励のメッセージをいただきたい、とお願いしました。すると後日、総理直筆の『大成功裏に終わられんことを祈ります』と書いたファックスが届いたんです」

「総理のメッセージ、もらえちゃった! じゃあすぐそれを持って議会へ駆け込んで……」

「いいえ。市役所の僕の机の横へ貼って、放置しました

「え? そこで寝かせる意味あります?」

「市役所にとてもお喋りな女性がいたんです。私は彼女にだけ『こんな手紙が届いたけど、誰にも言わんといてね』とコッソリ言ったら、1週間後には反対していた議員さんも含め、皆知っていたんですよ」

「どうして議員さんに直接言わなかったんですか」

「相手にもプライドがあるでしょう。正面から言うとプライドを折ってしまうから、そうならないように納得させるには、彼が文句の言えない上の人間を頼るしかない。反対していた議員さんは自民党でしたから、トップ中のトップは総理大臣でしょう」

「それはそうだけども〜! そこで突撃しちゃうあたりがスゴいですよ。官邸にいきなり電話して、あとで怒られませんでした?」

「そうですねえ。『お前どこ電話してんだ!』『官邸です』『何? どこの会社?』『だから、総理官邸です』『何〜〜〜!!!!!』ってね。ハッハッハッ」

「(マジで高野さん、鉄の心臓だな……)」

「議員さんも賛成し、無事に国際会議は開催されました。人口2万人の町に、9日間で4万5千人が来たんですよ。それはもう大盛況で、出店のたこ焼きが100万円分売れたんですから」

「たこ焼きで100万円!!! よくそんなに人が集まりましたね」

 

写真は平成9年に開催された国際会議のもの

 

「本物の宇宙飛行士を呼んだんですよ。こんな田舎に実際に宇宙へ行った人が来たんですから、そりゃあ喜ばれました。それに、当時は冷戦下にも関わらず、敵対するアメリカと旧ソ連の宇宙関係者が来たのも注目されましたね」

「えっ! よく実現できましたね」

「宇宙を前には皆平和ですから。しかし、旧ソ連の軍人を小松空港に呼んだもんですから、当時の公安から目をつけられてね、大変でしたよ。ハハハッ」

「何そのスケール……映画なの……????」

 

 

高野さんの話はもう少し続きますが、ここで一息。羽咋の「GOGOカレー」で見つけたご当地メニューの「UFOカレー」の写真をどうぞ。

 

ロシア軍人との手に汗握る交渉、そして本物のロケットが……


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