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マンガ家『藤田和日郎』 何を思ってどう仕事している?

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マンガ家『藤田和日郎』 何を思ってどう仕事している?

こんにちは、ライターのぞうむしです。

みなさんは藤田和日郎というマンガ家をご存知でしょうか。いや、必ず知っているはずです。

 

うしおととら(1) (少年サンデーコミックス)

例えば僕の人生を変えたバイブル、『うしおととら』や―

 

からくりサーカス(1) (少年サンデーコミックス) からくりサーカス(1) (少年サンデーコミックス) 月光条例(1) (少年サンデーコミックス) 月光条例(1) (少年サンデーコミックス)

最近になってアニメ化した『からくりサーカス』、さらに『月光条例』

 

双亡亭壊すべし(1) (少年サンデーコミックス)

そして現在、週刊少年サンデーにて『双亡亭壊すべし』を連載中の、大人気マンガ家です。

 

 

僕は16歳のころ、先生のデビュー作である『連絡船奇譚(1988年)』にファンレターを送って以来、30年間ずっとファンです。

 

※写真は藤田先生のデビュー2作目 『メリーゴーランドへ!』 サンデー表紙用のカットにサインしていただいた宝物です。

 

ただでさえ生き残るのが難しいマンガ業界で、デビューから早30年―

週刊連載ってやっぱり大変なの?

長期連載が完結したら何をするの?

アニメ化された時の気持ちは?

聞きたいことが30年分溜まっているので……

 

カリカリ……カリッ……

 

シャッ! シャシャァァ~~~!

 

ドーン!

 

藤田和日郎先生ご本人に、直接聞いてみることにしました。

創作の秘密マンガ家生活最大のピンチなど、凄いエピソードをいっぱい聞かせてもらいましたよ!

 

藤田和日郎

1988年、少年サンデー増刊号で『連絡船奇譚』でデビュー。代表作『うしおととら』『からくりサーカス』『月光条例』など。現在少年サンデーにて『双亡亭壊すべし』連載中

Twitter

 

インタビュー場所は都内の藤田先生のスタジオ。

今回はジモコロ編集長のギャラクシーも藤田先生の大ファンということで、一緒にお邪魔しました!

 

マンガ家としての生活

スタジオはこの日もフル稼働。インタビュー中もアシスタントの皆さんは(そして時には先生も)ペンを走らせていました

 

ではさっそくお話を聞いていきましょう!

 

「今日はよろしくお願いします! デビュー作『連絡船奇譚』にファンレターを送って以来30年、ずっと好きでして……」

「へぇ~そうなんですか! 『連絡船奇譚』の時ってファンレターの数は10通ほどだったから、すごくありがたくて……何度も読み返して、俺からも返信を出したんじゃないかなぁ」

「はい。お返事をいただいて。その手紙を心の支えにしています!」

「では、早速なんですが、いくつか質問させてください。先生は現在『双亡亭壊すべし』を週刊連載中ですが、一週間のスケジュールはどうなってるんでしょうか」

「木曜か金曜に、まずはノートにネーム(下描きの下描きみたいなもの)を書きます。こんな感じですね」

 

こ、これが藤田先生のネーム!

 

ササ~っと描いただけの線なのに、何がどうなってるのかわかる!

 

「このネームを担当編集者に見せて、ああでもないこうでもないと打ち合わせします」

「ストーリーや展開について相談したりするんですか?」

「面白いマンガを描くためは、客観性を持った第三者が必要なんですね。編集さんは一番最初の読者として、面白いかジャッジしてもらう。それに話を聞いてもらってるうちにアイデアが出るということは多々ありますから」

「先生ほどの大御所マンガ家さんでも、打ち合わせでダメ出しされることはあるんでしょうか」

「あるある、ありますよ~! まぁイエスマンでは意味がないんで、それを言ってくれないと困りますね。良い編集さん……例えばそこの萩原さんとかは、『面白いと思いますよ』という一言で、一週間分のやる気をくれますから」

 

隅っこで聞いてたら急に自分の話が出て照れる担当編集・萩原さん(小学館)

 

「具体的には、どういう時に他人の意見を聞きたくなるんですか?」

「例えば、主人公が大ピンチのまま“次週へ続く”となった時……『これどうやって切り抜けたらいいんだ!?』と悩んで、他人の意見が聞きたくなります」

「え!? ちょっと待ってください。ピンチを切り抜ける方法……つまり次の展開を考えついてから描いてるんじゃないんですか?」

「もちろんある程度は考えてますが、少年マンガは“次の週にどうなるんだろう?”ていうヒキの部分が大事だから……思いついてないのに勢いでやっちゃったなんてこともあります」

「で、でも、週刊連載ですよ? もし一週間かけても思いつかなかったら……怖くないんですか?」

「全部思いついてから描くのが楽だろうとは思いますけどねぇ。だけどこのキャラクターがどうピンチを切り抜けるのか、どう敵を倒すのかというのは、その時その場になって考えたほうが良かったりするんです」

「な、なるほど……。ネームが終わったら次は何を?」

「下描きという作業に入ります。原稿用紙にセリフを書いてコマを割って、必要な背景をアシスタントに描いてもらうわけですね。これが日曜くらいかな?」

「先生自身が作画に入るのはいつ頃なんでしょうか」

「月曜の夕方からは自分もペンを入れていきます。昔からずっと夜型で作業してますから、17時くらいから作業を始めて、朝の7時に寝るという感じですね」

14時間も作業してるんだ……体力的にめちゃめちゃしんどいのでは?」

「楽な作業ではないですね。なので睡眠は意識的にちゃんととるようにしてます。6~7時間は寝てるんじゃないかな。睡眠はちゃんととらないと、長いことマンガ家やるのは無理ですから」

「おぉ~~~なるほど!」

「……と、かっこいいことを言いましたが、描く量が多い回や締切直前は寝ないで作業することもあります。俺はペン入れるスピードが遅いですからね。うちは1話仕上げるのに4日半かかります」

 

「先生の絵柄は、密度の高い描き込みが特徴ですよね。だから時間がかかるんでしょうか?」

「う~ん、こんなにアスタントがいるのに時間がかかるってことは、俺が遅いんだと思いますよ。だってこの業界、2日で上げちゃうような化け物じみたスピードの人もいますから。それで画面にはまったく遜色がないっていう」

「2日で18ページとか、絶対無理!」

「『描き込みを減らしてもっと単純な絵にすればいいんじゃないか?』ってたまに言われるんですけど、俺は『もっと描きたい』って思っちゃう。だってこれが一番好きだからやってるんだし」

「アシスタントさんは、今日は5名いらっしゃいますね。先生のスタジオはみんな腕が確かな方ばかりだと聞いてます」

 

よくマンガのあとがきに登場するチーフアシスタントのボブさん。大迫力の見開きシーン(の片側)を描いていました。1日半かかるそうです

 

嘘だろ……これ人間が描いたの? 羅刹の所業だわ……

 

「アシスタントは、『この人が欠けたら進まない』ということが無いように、全員にあらゆる部分を描いてもらってます。誰もが何を頼んでも描ける状態ですね」

「普段のスタジオはどんな感じなんでしょうか? マンガ家の仕事場というとピリピリしてて、シーンと静まり返った中にペンの音だけが響いている……みたいなイメージですが」

「うちは、そのイメージとは正反対ですね(笑)。むしろ、黙ったまま仕事してるとダメっていう。ほら、そこに書いてあるでしょ?」

 

「無口禁止。できるだけ喋りながら作業しましょうねって」

「な、なぜ? 普通の会社だと私語は大体怒られますが……」

「マンガって絵の作業だから、手は動いてても頭には考える余裕があるんですよね。すると、余計なことを考えてしまって頭の中がグルグルするんです。それが溜まっていくと、いずれ内圧が高まって……ドカーン!となりやすい」

「締切のプレッシャーとか色々考えて爆発してしまいそうになると」

「そうならないように、アシスタントには仲良く話してもらいたいんですよね。もちろん俺にも話しかけてもらいたい」

「スタジオ内ではどういったことが話題になるんですか?」

「見た映画の話とか、あとはやっぱりマンガがどうやったら面白くなるかみたいな話になりますよね。他に会話がないというか……俺、自分のことを本来はつまんない人間だと思ってるんですよ。マンガの話をしてるときだけが幸せ」

 

作画作業について

「作業的に『このキャラ描くのは大変だから描きたくないな~』という登場人物はいますか?」

「います! 装備品がいっぱいついてるやつは大変! 双亡亭で言うと、この『アウグスト博士』は装備品がゴチャゴチャついてて、描きたくないですね」

 

アウグスト博士。科学兵器を身にまとっているため装備品が多い

 

その装備品を考えたのは先生ですけどね」

「描くのは大変だけど、結局こういうのが好きなんですよねぇ。『描きたくない』と『描きたい』のせめぎ合いですよ。それにね……」

「それに?」

「複雑な装備はアシスタントに描いてもらいますから(笑)」

 

この言葉を聞いて、アシスタントのみなさん全員爆笑してました

 

「ここ最近はパソコンで描くマンガ家が増えていますよね。先生は紙にペンで描くアナログ派ですが、デジタルに移行しようと思ったことは?」

「コンピューターにした方が効率いいよ~と言われますが、今は考えてませんね。そもそも“こういうの”が好きでマンガ家になったわけだから、紙にペンで描いて、切ったり貼ったり、やってて楽しいですよ」

「使用している道具にこだわりはありますか?」

「道具のこだわりは……俺はそんなにないかな。あえて言うならこの修正液、『ぺんてるの細先端』です。ボディを押すだけで、修正液を思い通りの量に調整できるのが良い」

 

ぺんてる 修正液 XEZL31-W 細先端 極細 ぺんてる 修正液 XEZL31-W 細先端 極細

 

中央の青いのが『ぺんてるの細先端』、その両端はカブラペン

 

「マンガ家のメインウェポンというとペンですが、先生はカブラペンを愛用なさってるんですよね?」

「作画はほぼカブラペンです。ただ同じペン先を3~4ヶ月は使ってるくらいなんで、こだわりはないですね」

「ペン先には他にもGペンや丸ペンがありますが、カブラペンが一番合ってるってことでしょうか」」

「カブラペンは強いんで、俺みたいな荒々しい絵柄でも受け止めてくれる気がするんですよね。時にはペン先が原稿用紙を突き破るくらいの筆圧で描いたりするんで」

「マンガ筋すごい」

「アクションシーンを描く時なんか、線を何回も重ねたりしますからね。突き抜けたりするのは、マンガ家の間では珍しくないと思うなぁ。もちろん毎回ではないけど、感情がこもるとイッちゃいますよね」

「絵に関して、ここだけは譲れないという部分はありますか?」

「どんな時でも分かりやすくというのが重要ですね。キャラクターたちに今どういうことが起きているのか、一瞬で伝わらなければいけない。ただ、俺はそれ自信無いんですけどね(笑)」

「マンガの絵はまずはわかりやすさが大事だと。30年ずっと描いていても、まだ絵を上手くしたいと思うものですか?」

「この前、森川ジョージさん(はじめの一歩)の原画展を見に行ったんですけどね。エネルギーの方向を描く巧みさとか、一撃の破壊力とかね、すごいんですよ。他にもうまい人っていうのはたくさんいて……もっとうまくなりてぇなって思いますね」

「まだ研鑽されてるってすごいな……」

「研鑽というか、マンガ家って描くのが好きなんだから、いわば娯楽みたいなものです。『森川さんはこんなふうにやってるぞ、俺もやってみようか』なんて試行錯誤するのも楽しみですよ」

「そう思える人じゃないと、マンガ家にはなれないんでしょうね……」

 

『うしとら』『からくり』アニメ化で思ったこと


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