「ローカル」と「テクノロジー」に詳しいライターのモリジュンヤが、年間約350本をこなす取材で得た知識や経験を1つのテーマに絞って毎月お届けするコラムです。コレを読めば少し頭が良くなること間違いナシ!
戦後、モノがなく、経済が右肩上がりに成長していた時代では、モノを所有することが豊かさの証だった。時代ともに、経済成長は鈍化。モノがあふれるようになり、次第に人々は「所有」ではなく、「利用」を優先するようになってきた。
所有物を常に利用していることは稀だ。「使いたいときにだけ使えたらいい」「共同で所有したほうが安くすむ」そんなことを考え始めた人たちが現れ、いろいろなものを「シェア」し始めた。
「こんにちは。2ヶ月半ぶりのモリジュンヤです。覚えてますか?」
「所有」より「利用」を優先
たとえば、自動車。1987年のスイスに、自動車を共同で所有し、使いたいときに利用し始める人たちが現れた。これが「カーシェアリング」の始まりだと言われている。自動車のような価格の高い商品であっても、共同でお金を出しあうことができれば、一人あたりの負担は2分の1、3分の1になっていく。
住宅も同様だ。近年、フジテレビでドラマ「テラスハウス 」が放送されたことなどもあって、認知度が向上した「シェアハウス」。少しでも生活コストを安くしたい若者にとって、月々の家賃は大きな負担となる。その負担を下げるため、家をシェアする若者が増加した。
コストを抑えるためにシェアする、という考え方では「シェアオフィス」もイメージしやすいかもしれない。お金を出しあい、共同で所有することで、単独ではできないことが可能になる。
だが、「おすそわけ」という言葉が存在していたり、醤油の貸し借りが行われていたりと、昔から日本社会には、モノを「共有」する文化が存在していた。「シェア」というだけなら、それほど新しいことではないようにも感じられる。
異なる点を見出すとするなら、企業が介入するようになったことではないだろうか。カーシェアリングにおいては、国内で2002年にオリックスカーシェア、2005年にタイムズカーシェアなどがスタート。シェアハウスでは、グローバルエージェンツが運営する「ソーシャルアパートメント」のような多人数が暮らす共有ラウンジ付きというスタイルが生まれた。
シェアオフィスの領域においては、2003年「co-lab」という約250坪、約50人が入居するワーキングスペースが六本木に誕生。各領域において、企業がビジネスとしてシェアサービスを提供し始めたことで、シェアはカルチャーからビジネスへと変化を始めた。
「今回、やけにカタカナが多いので気をつけて読んでください」
インターネットがシェアの広まりを後押し
シェアのエコノミー化を後押ししたもう一方の要因が、インターネットだ。「何かを共有したい」「自分のいらなくなったものを誰かにもらってもらいたい」と考えたとしても、相手が見つからなければ共有もできない。
簡単に広く情報を届けることができるインターネットは、シェアする相手を見つけるのに役立った。たとえば、旅人と宿泊地提供者をマッチングさせ、旅人にソファーを貸し出すサービス「カウチサーフィン」が広まり、地域掲示板サービス「クレイグスリスト」ではいらなくなったものを掲載し、近所の人に譲る例も頻繁に見られた。
こうした流れはスマートフォンの登場と普及により、さらに加速する。
パソコンを一人一台持つのは稀だった。だが、スマートフォンはほぼ一人一台所持している。個人が、いつでも、どこでもインターネットに接続するようになったことで、格段にマッチングしやすくなった。
必要に応じてサービスが提供される「オンデマンド」と、個人と個人をつなげる「peer-to-peer(ピアツーピア)」。インターネットで浸透するこの2つの考え方が、リアルな世界にも流出したことで、様々なシェアリングサービスが登場した。
今日では、スマートフォンから配車依頼、決済まで可能なオンデマンド配車サービス「Uber」や、空いた部屋を貸し出せる「Airbnb」といったサービスたちが大きく成長。日本においても、登録した自家用車をシェアできる「Anyca」や、空きスペースを駐車場として貸し出すことができる「あきっぱ」など、シェアするためのサービスが数多く登場し、日々存在感を増している。
近年ではこうしたムーブメントを指した「シェアリングエコノミー」という単語が登場している。
拡大する「シェア」の対象
シェアリングエコノミーの対象となる範囲は広く、大きくは「Product-service systems(個人所有のモノのシェア)」、「Redistribution markets(再利用・交換)」、「Collaborative lifestyles(時間や場所など共通のニーズを活用したシェア)」の三つにまとめられる。
上記の捉え方に当てはめれば、テレビCMも放映されているフリマアプリ「メルカリ」なども、シェアリングサービスといえる。メルカリの月間の流通額は数十億円と言われ、販売された商品のうち約20%は1時間以内に買い手が見つかるなど、マッチングまでの時間も短い。
シェアの対象となるのは、モノに限らない。ワンコインで自分のスキルや知識を提供する「ココナラ」のようなサービスや、専門家が短い時間で自分の専門性を販売する「ピザスク」のようなサービス、家事を手伝ってくれる人を探す「Any+times」といったサービスも登場しており、スキルや知識、時間もシェアの対象となっている。
広がる個人の可能性
様々なサービスが普及してきたことで、これまでは換金が困難だったモノやコトが、お金に変えられるようになってきた。それに伴い、人々の所有や利用に対する捉え方も変化してきている。「シェアリングエコノミー」という新たな経済の登場は、個人による小商いの可能性を広げてくれるだろう。
個人でお金を稼ぎやすい環境になったとしたら、人の「働く」に対する価値観も変化するはずだ。少なくとも、「働く=会社に勤める」ではなくなっていくだろう。働くことに対する価値観が多様になることで、人々はこれまで以上に自由なライフスタイルを選びやすくなる。
そして、シェアの広がりは人々に「共有可能なもの」と「共有不可能なもの」について考えるきっかけをもたらす。人とは共有できない本当に大事なものとは、自分にとってなんなのか。人が、自分にとって大事なものを認識して暮らせるということは、経済的な価値以上に社会に豊かさをもたらす、と信じたい。
※前回のローカルワーク論を読む
ライター:モリジュンヤ
ジャーナリスト、編集デザインファーム「inquire」代表。1987年2月生まれ、岐阜県美濃加茂市出身。横浜国立大学経済学部卒業後、『greenz.jp』編集部を経て独立。『THE BRIDGE』『マチノコト』『IDENTITY名古屋』『soar』など複数のメディア運営に携わる。テクノロジー、イノベーション、起業、都市、地域などについて幅広く取材・執筆活動を行っている。Twitter ID:@JUNYAmori
イラスト:室木おすし
イラストレーター。イラスト・マンガ・GIFアニメ等を使用して活動中。オモコロライターとしても活動。特技「たべっ子どうぶつ盲牌」がフジテレビの番組「ジマング」で取り上げられて、そのことをたまに思い出してはニヤけている。お仕事常に募集中!お気軽に! 公式サイト:スシックスタジオ(http://www.susics.com)/ Twitter ID:@susics2011