こんにちは、ライターの松岡です。
テレビを見ている時、番組内容よりもむしろCMのほうが心に残るってこと、ありますよね。
わずか数十秒の中に、忘れられないインパクトやメッセージを詰め込む、CMというクリエイティブな作品……
最近では、トミー・リー・ジョーンズが出演するサントリーBOSSのCMはインパクト大でした。今が旬の岡崎体育さんと、落語家の立川談春さんが共演するこのCM、ユーモアとセンスがあって良いですよね。
一体だれが企画したのでしょうか?
きっと派手なスーツを着込んだ、センスのかたまりみたいな人が作ったんだろうなぁ……
こんな人でした。
その地味な外見からは想像できませんが、LINEモバイルや、サントリーBOSSの宇宙人ジョーンズ等々、超有名CMを手掛けてきた天才・福里真一さんです。
福里真一
1992年電通入社。2001年より、ワンスカイ所属。CMプランナーとして1,500本以上のCMを企画。主な作品はLINEモバイル、サントリーBOSS「宇宙人ジョーンズ」、富士フイルム「フジカラーのお店」、東洋水産「マルちゃん正麺」など。
2001年「明日があるさ」、2009年「こども店長」で、流行語大賞に入賞。
30歳まで仕事がなかった?
「福里さんは今までに1500本以上のテレビCMを企画しているとお聞きしました。電通に入社した当初から、天才プランナーとしてバリバリ企画を通していたのでしょうか?」
「電通には約27年前(1992年)に入社したんですが、20代の頃はまったく仕事がなかったですね」
「え、サラリーマンとして働いてたのに、仕事がないなんてことあります? 何か原因が?」
「私の性格が暗かったのが原因だと思います。子供の頃から人とコミュニケーションをとるのがものすごく苦手で。近所のお母さんたちの間でも、『挨拶ができない感じが悪い子』として有名だったんです」
「あぁ~、そんな子が社会人になったとしたら……」
「社内での印象はまあ悪いですよね? 特に若者の場合は、能力よりも愛嬌で仕事を頼まれることがあるじゃないですか。当時の電通はクリエイティブ部門だけで800人近くいたから、私のような性格だと埋もれてしまうんですよ」
「上司や先輩にかわいがられて、仕事を振ってもらうというケースがなかったと。ただ、今や天才と言われるほどの福里さんですから、その頃から能力値は高かったんですよね?」
「いえ、当時はクリエイティブに対する考え方も偏ってたんですよ、今から思えば。『自分はネガティブな性格なんだから、そんな自分らしい企画を出そう』と。だから企画の内容も暗かったですね」
「暗いCMって……想像つかないですね。では、若い頃に作った作品は評価されてない?」
「一応、入社して5年目の時に企画したテレビCMが、東京コピーライターズクラブ(TCC)の最高新人賞という大きな賞を受賞したことはあります」
「おぉ、ということは、そこで社内評価が一気に逆転を……」
「いえ、逆転することはなかったですね」
「なんでー!?」
「受賞した作品がどんなCMかというと、色んな人たちのつらい、悲しい、やりきれない『もう嫌だこんな生活』というシーンを描いたものだったんですね」
「暗っ」
「周りの人たちからすると『暗いやつが案の定、暗いCMを作ったな』と。『賞をとったか知らないけど、あんなやつ呼んだら、暗いCMしか作れなくて広告主に怒られるからやめよう』という感じですね」
「賞をとってますます仕事がなくなるってこと、あるんだ。ちなみに仕事がない時期、福里さんは会社で何をされていたんですか?」
「会社の近所の公園で、ずっと本を読んでました」
「失業したことを家族に言えなくて暇つぶししてる人じゃん」
「ホームレスの人に『君、いつもいるけど、大丈夫か?』と声をかけられたこともありますよ。人って優しいですね」
「言うてる場合か」
長年「お正月を写そう」のCMに出演し続けた樹木希林さんを追悼する特別篇のCM。本年度(2019年)のACCゴールドを受賞しました。
自分に期待しないと企画はうまれる
「今日はチャチャっとオレがつくるわ」というセリフを練習しながら、世のお父さんたちが家庭での評価をあげようとする姿がほほえましい。
「意外なことに、20代の間はほぼ評価されていなかったということですが……では、いつ頃から評価が高まってきたのでしょうか?」
「30歳くらいからですかね。まず、自分には才能がないと決めたんですよ」
「辞める寸前の人がノートの端に書くやつ」
「才能のある人って、30歳くらいまでにはヒット作品を作って評価されるものでしょ? 自分は30歳過ぎても芽がでないんだから、才能ないんだなって。それを認めるのはつらいことでしたが」
「すべてのクリエイターの心に重く響く言葉ですね。でも才能がないと認めるなんていうネガティブな行動が、どういう理屈で高評価に繋がったんでしょう?」
「内心、『自分には才能がある』と思ってるから『自分らしく暗い企画で勝負してやろう』という考えになるわけじゃないですか。でも自分らしさって、才能がないとただの意地でしかない」
「確かに。ただの意地で、作れるものの方向を限定してしまっていたのかもしれないと」
「自分に才能がないと決めた途端、『才能がないなら、言われた通りに求められたものを作ろう』と思えるようになったんです」
「アーティストとかクリエイターというよりは、職人的な方向にシフトしたってことですか。転機となった作品はありますか?」
「その頃に企画したのが、日本コカ・コーラのジョージア『明日があるさ』というシリーズですね。吉本の芸人さんたちがサラリーマンを演じて、そのバックで坂本九さんの『明日があるさ』の替え歌がかかるっていう」
「超有名なCMじゃないですか!!!」
『ジョージア(明日があるさ 登場)』
当時の不況下にあった日本を明るく元気にしていこうという風潮や、吉本興業所属の人気お笑い芸人のキャスティングとが大きく作用し、たちまち話題のCMとなる。
2001年には、日本のCMの世界で最高賞ともいわれるACC賞グランプリ(総務大臣賞)など、数々のCMの賞を受賞。「明日があるさ」という言葉が新語・流行語大賞のトップテンに入賞し社会現象になるほど。
「”世の中の人たちがだんだん前向きになって来ているから、その背中を押すようなCMを作ってください”と言われまして。性格的には『明日があるさ』なんて気分、まったくなかったんですが」
「今までなら、『自分はそんな性格じゃないから』と暗いCMを作っていたわけですね」
「でも自分には才能がないんだから、素直に希望通りのものを作ろうと思いまして。結果、記録的なヒットとなりました」
「ということは、さすがに社内での評価はブチ上がったんじゃないですか?」
「それがちょっとわからないんですよね。『明日があるさ』のあたりで、今の会社に移ってしまったので、電通内で評価があがったのかは、知らないままです」
「もったいない!」
「ただ、会社の外に出ると『あいつは性格が暗い』とか余計なものはついて回らない。単純に『明日があるさ』のあの人、という評価になるんで、気楽でしたね」
「今まで仕事がなかったのに、外に出ると急に仕事が増えたわけですよね? 企画を思いつかない!といった苦労はありませんでしたか?」
「なかったですね。才能がないと決めたので、企画を考えるハードルが低くなってましたから。『才能ないんだから、たいした企画じゃなくてもいい』って」
「企画を考えるハードルが低くなるって、クリエイターとして良いこと……なんですか?」
「20代の頃は、自分にしか思いつかない企画じゃなきゃダメだ!って感じでハードルを高くして、自分を追い込んでました。当然、数はこなせない。でもハードルを低く設定したら、どんどん企画を思いつくんですよ」
「ネガティブなのかポジティブなのかわからん!」
「つまらない企画でいいなら、1日5案ぐらいはできるじゃないですか。すでに5案もあるぞと思うと、気楽になる。気楽になると、また企画を思いつく。いい連鎖が起こっていくんですよね」
「珠玉の企画を作ろうとして身構えるより、リラックスして気軽に考えたほうが良いんですね」
「つまらない企画として考えたはずのものでも、ちょっと手を入れたり切り口を変えたりすることで、意外と良い企画になったりする。周りの人にも『これ、良いですね』と言われたり」
「企画段階の案を人に見せるのって、すごく抵抗ありませんか?」
「自分に才能がないと認めてから、どんどん見せるようになりました。自分より優れた誰かがアドバイスをくれて、良くしてくれるんじゃないかと思って。いろんな意見を取り入れた方が、閉じた企画にならないですね」
「自分ひとりで完璧な企画を作りあげなくてもいいと」
2008年から11年も続いているENEOSの「エネゴリくん」シリーズ。カール君人形を彷彿とさせる、スーパーエネゴリくんが爆走する姿は必見です!
「仮に自分しか思いつかない完璧な企画が考えられたとしても、それが世の中に受け入れられるかというと、必ずしもそうではない。だってCMというのは、全国津々浦々、老若男女すべてに受け入れられないといけないから」
「では、どういうものが『いいCM』になるんでしょう」
「一人で磨きあげた完璧な表現より、いろんな人の意見を加えて、ちょっと雑然とした表現の方が、おもしろいし、受け入れられやすいですね」
「ちなみに企画を考えるうえで、必要なものなどありますか?」
「企画する人が過去に体験したことすべてが、企画の材料になると思います。人の頭というのは、必ず、何かから何かを思いつくようにできているんですね。ゼロから何かを思いつくようにはできていないので」
「企画を考えるための材料は、自分の過去にあると。イマイチ、パッとしない人生を歩んでいる僕でも?」
「たとえば、今までの人生がイマイチうまくいかなかった人というのは、順風満帆にいった人よりも、”いろんな感情を体験し、記憶している人”であると考えれば、むしろ企画に有利なのかもしれません」
「たしかに舞台でスポットライトをあびていないぶん、観客席で色々な感情を体験してきた記憶があります」
「企画というと、なんとなく、天才的なひらめき、とか、感性、とかが重要そうな気がしますが、企画は記憶だ、と思えばどうでしょう?なんか、自分でもできそうな気がしてきませんか」
「なんだか僕でも企画を考えられる気がしてきました!」
「過去の記憶がない人なんていないわけですから、『企画なんて誰にでもできるんだ』ぐらいの気持ちで考えるのは、天才じゃない私たちとっては、とてもいいことだと思うのです」
「ご自身では『天才じゃない』とおっしゃってますが……福里さんは今までに1500本も企画を通して、数々の賞を受賞しています。どう考えてもクリエイターとしての才能はありますよね?」
「自分ではそう思ってません。本当に才能があったとしたら、1500本もの数は作れないと思いますよ。例えば映画監督だって、毎年1本づつ映画作れてる方なんていないでしょう」
「言われてみれば、こだわりを多くもてば数多くの作品は作れない」
「サントリーBOSSの『宇宙人ジョーンズ』シリーズなんて、今年で14年目。70本くらい作ってます」
「単純計算すると年間5本作ってる! それ以前に、ジョーンズの最初の1本が14年前だということにちょっと驚きました。そんなに昔だっけ……」
「広告主や周りの人たちと戦って戦って、自分を極めた1本のCMを作ることもすごいですけど……コンスタントにシリーズが続いて、全体としてBOSSのイメージを作り続けるっていうのも、大きな広告効果だと思ってます」
クリエイターには2つのタイプがある
LINEのイメージカラーでもあるグリーンを背景に、本田翼さんがかわいらしいダンスを披露するCM。聞き覚えのあるBGMは「いい湯だな」のメロディーなんです。
「私が見る限り、広告のクリエイターには、2つのタイプがありまして、”クリエイタータイプ”と、”ノンクリエイタータイプ”に分かれるんですよ」
「その二者には、どういった特徴があるんでしょう」
「クリエイタータイプとは、表現したいことが、もともと自分の中にあるタイプですね。表現したい何かと、広告する商品とをうまく結びつけて、企画を考えていく」
「なるほど。僕らが“クリエイター”と聞いて想像するのはそのタイプかもしれないですね」
「こういうタイプの方々は作家性があるから、CMにも作風があるんですね。『あ、このCMは○○さんの作品だな』ってすぐわかる。ただし、ちょっと広告主から修正が入っただけで、表現が壊れちゃう可能性もあります」
「では、”ノンクリエイタータイプ”というのは?」
「いわば受注体質のクリエイターです。自分の中に表現したい何かがあるとかではなく、仕事を頼まれてから考えはじめるというタイプで、私はこちらのタイプです。広告主のやりたいことを実現するスタンスですね」
「まさしく職人ですね!」
「だから私には作風というものがない。宇宙人ジョーンズとか、ENEOSのエネゴリくん、LINEモバイルで本田翼さんが踊っているとか、やってることがバラバラでしょ。依頼に合わせて最適なものを作っているつもりです」
「作家性より、商品に合った表現をすることを重視してるわけですね」
「谷山雅計さんという、コピーライターのレジェンドみたいな人が、人間を4種類に分けていて、『ふつうか変か』『素直かガンコか』で分けると、広告クリエイターは、”ふつう領域”ではうまくいかないとおっしゃっています」
「“ふつうで素直な人”だと、ただのいい人ですもんね」
「広告クリエイターの中で、どういう人が一番うまくいくかというと、”変で素直”が一番はやくうまくいく人だと。他の人よりも変な感覚で、一番物事を素直に受け取れるから」
「僕は“ふつうでガンコ”なので一番ダメなやつです」
「”変でガンコな人”は、そのままだと伸びない。”変でガンコな人”が訓練して“変で素直”に生まれ変わるというパターンが一番うまくいくかもしれない、みたいなことを著作の中で書かれていて。それ、わかるなと思ったんですね」
※谷山雅計氏(『広告コピーってこう書くんだ!読本』著者)
「ほう」
「私はもともと、自分にしか思いつけない企画を考えようとしていた、ガンコな人間でした。30歳の時に才能がないと決めて、”変で素直”に変わったわけです。素直さって、クリエイターにとってものすごく強力な武器ですよ」
「とっても勉強になります。最後に聞きたいことがあるんですが、自分に仕事が回ってこなくて公園で暇つぶしをしていた頃、仕事を辞めようとは思わなかったんですか? 普通なら悲しくて落ち込んで、やってられないって思うのでは?」
「え、だって何もしてなくても給料もらえるなら、最高じゃないですか。むしろラッキーと思ってました」
「そこはめちゃくちゃポジティブなんかい」
まとめ
というわけで今回は、CMプランナーの福里真一さんに、企画の秘訣を伺ってきました。
「自分には才能がない」というネガティブな考えからくる発想術、仕事術……僕のように本当に才能がない人間には心に沁みました!
ちなみに今回は、福里真一さんが執筆された書籍「電信柱の陰から見てるタイプの企画術」(宣伝会議)、「困っている人のためのアイデアとプレゼンの本」(日本実業出版社)を2冊1セットにまとめて、記事をご覧の1名様にプレゼントしますよ!
たくさんのご応募お待ちしてます!
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— どこでも地元メディア「ジモコロ」 (@jimocoro) November 5, 2019
取材協力「ワンスカイ所属・福里真一」