こんにちは、ライターの松岡です。
コンビニに行くと、お菓子売り場には様々な商品が並んでいますよね。中でも一番の激戦区といえば……
ポテトチップスのコーナーではないでしょうか!?
というわけで、ポテトチップスといえばこのメーカー……『湖池屋(コイケヤ)』に来てみました。
湖池屋のポテトチップスはなぜ人々を惹きつけるのか?
味の秘密やポテトチップスの歴史について、聞いてきましたよ!
●湖池屋・マーケティング部のみなさま
(右)担当商品:ポテトチップス全般
(中)担当商品:プライドポテト
(左)担当商品:カラムーチョ
ポテトチップスの知られざる過去
日本で初めて量産化に成功
まずは何と言ってもポテトチップスについて聞いていきましょう。マーケティング部の課長でポテトチップス全般を担当している野間さんを中心に話してもらいました
「よろしくお願いします! ポテトチップスといえば湖池屋さんということで、まずは歴史や雑学を教えて頂けたらと」
「湖池屋は今年で創業66年になります。その9年後、1962年にポテトチップスが初めて販売されました」
「1962年ということは……六角精児とか松田聖子と同い年ですね。当時の日本では、ポテトチップは一般的なお菓子だったんでしょうか?」
「実は湖池屋は、日本で初めてポテトチップの量産化に成功した会社なんです。一般に流通するお菓子として普及させることには、かなり貢献できたのではないでしょうか」
「おぉ、すごい! 一番最初に販売したポテトチップスというのは、今とほぼ同じだったんですか?」
「同じ……というのはどの味と? 実は一番最初に販売されたのはのり塩なんですよ」
「えー! のり塩が最初!? 普通、一番最初は、できるだけシンプルな“うすしお”とかにしません? どういう理由でのり塩になったんですか?」
「創業者の小池和夫が、フラッと立ち寄った飲み屋で、はじめてポテトチップスを食べたんですね。その時に『こんなにおいしいものが世の中にあったのか!』と、すごく感動したようで」
「なるほど、その時に感動した味がのり塩だったと」
「いえ、シンプルな塩味でした」
「のり塩じゃないんかい! 塩味のポテトチップスに感動したのに、なぜのり塩味のポテトチップスを作ったんでしょう?」
「当時の日本には、アメリカから伝わってきた塩味のポテトチップスしかなかったんです。自分で作るなら、日本人がおいしいと言ってくれるベストな味を作りたいと思ったそうです」
「なるほど、それでのり塩……」
「さまざまな調味料や食材を試した中で、もっともおいしい組み合わせだったのが、のり塩に隠し味として唐辛子を効かせたレシピだったそうで」
発売当時のパッケージ(左)と現在のパッケージ(右)
「のり塩が販売された時、世間の反響はどうだったんですか?」
「一般のお菓子売り場に、まったく新しいおいしい味が登場したわけですから、かなり反響がありました。人気が出て、みなさんお買い求めになられたと聞いております」
「60年近く昔に作られたお菓子が、未だに人気があるんですから、改めてすごいことですよね。さて、そんなのり塩の次は、いよいよ“うすしお”に……?」
「次はガーリックですね」
「だから何で!? ガーリックって、26番目くらいに開発されそうな味でしょ!」
「まぁでも、1970年から販売して、50年近く売れてるわけなので。早めに販売して正解だったのでは?」
「ぐぬぬ……ちなみに、今までどんな味のポテトチップスがあったんですか?」
「レギュラー商品だと、だいたい17種類くらいありますね」
「バラエティー豊かですね!うすしおが1997年に発売されていたのは意外」
知ってた? ポテトチップの雑学
「ポテトチップスって加工されたお菓子ですけど、おいしい時期とかあるんですか?」
「『いつ食べてもおいしいですよ』というのがオフィシャルな回答になりますが、あえて言うなら、新じゃがを使用する5月〜10月が、ポテトチップスの旬と言えます」
「めちゃくちゃ素直に答えてくれますね。ちなみに新じゃがのポテトチップスと、通常のポテトチップスに味の差はあるんですか?」
「新じゃがだと風味や味わいをより強く感じていただけますね。過去には、新じゃがを楽しめるパッケージのポテトチップスを販売したこともあります」
参考:2016年発売時のパッケージ
「ただ、長年の研究で品質が一定になるようにしてまして。いつ食べてもおいしいように工夫をして作っています。なので、食べたくなった時が旬、と思っていただければ」
「確かに、普通に食べてると味の違いを感じたことはありませんでした。ただ、工場で揚げたてのポテトチップスを食べるのが一番おいしいというのはあるんじゃないでしょうか?」
「フライは通常、揚げたてが一番おいしですよね。でも、ポテトチップスは粉で味つけをしているので、実は味が馴染んできた頃が一番おいしいんですよ」
「そうなんですね! つまり、僕たち一般消費者のもとに届く頃、最大級においしくなるように計算されていると……!」
「開発部でも、できあがったものをすぐに食べず、何日か置いてから試食してます。そうしないと販売した時に一番ベストな時期がわからないので」
カラムーチョ誕生秘話
続いてはカラムーチョについてお話を伺います。担当は加藤さん。
手に持っているのは昨年に開催したムンク展とのコラボ商品「ムーチョの叫び」
「湖池屋の歴史の中で、激辛という新ジャンルを日本に根づかせた『カラムーチョ』(1984年)は、最重要商品じゃないかと思うのですが、どのように誕生したんでしょうか?」
「80年代、アメリカでメキシコ料理が流行したんです。渡米中の社員が辛いチリ味を持ち帰ってきて、これを日本人に合う辛さにすれば、必ず売れると思ったそうで」
「それまで、激辛のお菓子ってほぼなかったので、大きな話題になった記憶があります。発売当初は在庫が足りなくなるほど爆売れしたのでは?」
「ハッハハハ、それはもちろん……」
「まったくお店に並べてもらえませんでした…」
「うそぉぉーー︎」
「発売当初の日本には激辛の市場がなかったので、単純に『辛いお菓子』というものに慣れてなかったんですよね。『こんな辛いお菓子、誰が食べるんだ?』みたいなリアクションが社内外でもありまして」
「社内でも批判されていた!? だけど、そんな商品が販売中止にもならず、今や定番の人気商品になってるのは、なぜ?」
「スーパーやお菓子屋さんでは並べて頂けなかったのですが、とあるコンビニチェーンで販売してみたところ、口コミで爆発的に売れたんですよ」
「コンビニで人気が出た!?」
「当時のコンビニは情報発信基地でもあったので、『新しいものが受け入れられる』土壌があったんでしょうね。最初に販売をしたコンビニチェーンでは、その年のすべての食品の中で、カラムーチョがトップの売上を記録したそうです」
「すごい逆転ホームランだ」
「その後、激辛の市場が日本にも定着しまして、カラムーチョも先駆的な商品として現在まで人気が続いています」
「カラムーチョのヒット後に、今度はすっぱムーチョが誕生していますよね。それはどのように生まれたのでしょうか?」
「『辛い』の次は、対極である『酸っぱい』じゃないか?というアイディアがひとつと……ヨーロッパのスナック市場でソルト&ビネガーというフレーバーが流行っていたので」
※ソルト=塩、ビネガー=酢
「メキシコの次はヨーロッパというわけですね。僕たちは無意識のうちに、世界で流行した味を口にしていたのか。カラムーチョは男性向けの商品で、すっぱムーチョは女性向けの商品だったりするんですか?」
「え、すごい! その通りです! 事前にデータを調べて頂いたんですか?」
「いえ、歌手のきゃりーぱみゅぱみゅさんが『すっぱムーチョと結婚したい』とツイートしてめちゃめちゃバズってたんで。女性ウケする商品なのかなと」
結婚してください pic.twitter.com/B0i1Zl3foD
— きゃりーぱみゅぱみゅ (@pamyurin) November 22, 2018
「カラムーチョは、男性が残業中に食べて、エネルギーにするとテレビ制作者の方が言っておりました。辛いもので元気をチャージするってことですかね。あとはお酒のおつまみにする方も多いです」
「男性は辛さで元気をチャージ、ということは、女性は酸っぱさでリラックスって感じでしょうか」
「そうですね。すっぱムーチョは、ちょっとした疲れを癒すために女性が食べる場合が多いです。そもそも女性は酸っぱいものを好む傾向があります。この時のマーケティングで男性と女性の味の好みを知れたのは、後々役立ってますね」
「男性と女性で好きな味の傾向が違うのか……。あれ? そう考えたら子供と大人とか、老人と若者とかでも傾向が違うってことですよね? うわぁ、商品開発って大変ですね! 年間にどれくらい販売してるんですか?」
「年間だとおよそ70種類くらいですね」
「1ヶ月に6品くらい新商品を販売している!? 地球上にそんなに味の種類ってあります??」
プライドポテト~リブランディングで大人気商品に~
続いては『プライドポテト』担当の野村さんを中心に話を聞きます。
ブランディングを変えることで、一気に人気商品になることがある……?
「ここ最近の商品で言うと、僕は『じゃがいも心地』が大好きなんですが……」
「嬉しいです! 今でこそ人気商品なんですが、実は発売当初は大ヒットって感じでもなかったんですよ」
「『じゃがいも心地』も最初は人気がなかったんですか!? みなさんにお話を聞いてて、一体どんな商品が売れるのか全然わからなくなってきました。だっておいしいし、パッケージもおしゃれだし……」
「『じゃがいも心地』は、パッケージを変えてリブランディング(今までのブランドを再構築するという意味)したことで、今のような人気商品になったんですよ。最初の頃のパッケージは、こんな感じでした」
発売当初のパッケージ
「全然違う! 僕にはデザインのセンスはまるで無いんですが、確かに、今のパッケージのほうがおしゃれだし、高級感があっておいしそうと感じてしまう……」
「商品のリニューアルをする際に、新しいデザイナーさんにパッケージをお願いしたんですが、一目見てみんな『これがいい!』となって(笑)」
「パッケージを変えることで、売上の初速ってどれくらい変わるものなんですか?」
「2倍以上は!」
「2倍以上も伸びるんだ! やっぱりパッケージはお菓子の顔なんですね」
「ブランドを再構築するってすごく大事で、ここ数年、湖池屋も大きく変わりました」
「ここ数年……? 大ヒット商品となった『プライドポテト』や『じゃがいも心地』が誕生した時期と重なりますね。一体何があったんでしょう?」
「2016年に佐藤章が社長に就任したんです。その際、会社を1から考え直すと表明して、大きく変わりましたね」
湖池屋 代表取締役社長・佐藤章
キリンホールディングス出身。キリンビバレッジで缶コーヒー「FIRE」を皮切りに、「生茶」「アミノサプリ」など、年間1000万ケースを超える大ヒットを連発。世界初のノンアルコールビール「キリンフリー」といった数々の人気飲料を世に送り出してきた、伝説的なヒットメーカー。
「『湖池屋は和製ポテトチップスの老舗メーカーなんだから、それをもっと打ち出したほうがいいんじゃないか』と。会社の本質を見直して生まれ変わるために、まずはロゴマークを新しくしました」
「和のテイストが入ってて、めっちゃくちゃかっこいいデザインだ!」
「このロゴを代表する商品……生まれ変わった湖池屋を象徴するような商品を作ろうとして考えられたのが、大ヒットとなった『プライドポテト』シリーズです」
この特徴的なパッケージデザイン、見かけたことがありますよね
「めちゃくちゃ社運をかけた商品じゃないですか!」
「はい。まずは創業者が最初にポテトチップスを作った時の気持ちを、社内で共有しました。全社員が『湖池屋は最高においしいポテトチップスを作る会社なんだ』というプライドと熱意を持つように」
「この商品で世の中を変えるんだってくらいの意気込みで作りましたね」
「今までの話で聞いた数々の商品は、最初は伸びなかったもの多かったようですが……『プライドポテト』はどうだったんでしょうか」
「おかげさまで、スナック菓子のヒット商品の目安である20億円を4ヶ月で達成して、湖池屋の新しい主力商品になりましたね」
「4ヶ月で20億円~っ!! ヒットした要因はどこにあったとお考えですか?」
「もちろん味がおいしいというのは大前提なんですが……今の時代に、あえて手で微妙な調整ができる機械を使うなど、創業当時の“心”を込めたという部分ではないでしょうか。丁寧にものが作られていた時代の空気や、見た目でそれが感じられるパッケージとか」
国産じゃがいも100%使用、うま味調味料・香料無添加にこだわった『プライドポテト』
「確かに、他のポテトチップスにはない揚げたての天ぷらみたいなサクッとした食感や、無添加ならではの繊細な味のつけ方は、物作りにこだわる伝統や歴史がないと作れない」
「ありがとうございます。とはいえ、ポテトチップスはあくまで『お菓子』ですから。品質や素材にこだわりつつも、お高く止まらず、最高のバランスをとっていきたいですね」
「なるほど。最後に、本日お話を伺ったみなさんに、個人的に好きな商品をお聞きしても良いでしょうか? まずはポテトチップス担当の野間さん!」
「私はスコーン(どはまり濃いもろこし)です」
「……続いてカラムーチョ担当の加藤さん」
「僕はポテトチップス(のり塩)ですね」
「…………最後にプライドポテト担当の野村さん」
「私はすっぱムーチョです」
「全員 担当の商品じゃないんかい!」
まとめ
というわけで今回は、湖池屋の社員さんに、ポテトチップスの歴史を伺ってきました。
・日本ではじめてポテトチップスの量産をしたのは湖池屋の”のり塩”だった
・ポテトチップスのおいしい時期は5月〜10月
・カラムーチョは最初あまり売れなかった
・パッケージを変えることで売上が倍以上になった商品がある(じゃがいも心地)
・『プライドポテト』は社運をかけた商品で、おいしい
以上です! この記事を書いてたらメチャメチャ食べたくなってきたので、僕は帰りにプライドポテトを買います!
取材協力「株式会社湖池屋」