ドン!!!!!!!!!
…………
『ONE PIECE』の効果音みたいな導入ですみません。ライターの大島一貴です。こちらの白い物体、なんだかお分かりでしょうか?
……記事タイトルの時点でバレてるのでサクサクいきますが、
なんと!!もやしなんです!!
昔からスーパーの野菜コーナーをうろつくたび、僕は「あること」がずーっと不思議でした。
いや、ごく普通の光景なんですけど……
よくよく考えると、もやしって安すぎません???
たしかに価格はお手頃、調理も簡単なもやしはまさに「食卓の味方」。
だけど、あの異常な安さ……メーカー側は採算とれてるんでしょうか。心配になってきました。
それに他の野菜が高騰してても、もやしの値段が上がってるのって見たことないですよね。大体いつも20円~40円くらいのイメージです。
他にも
・どうやって育つの? 土に生えてる??
・もやしに栄養はあるの?
・もやしの種類って他にある?
などなど、もやしのことを何も知らないことに気づきました。
世の中に知らないことはたくさんあるものの、もやしのことくらいは知っておきたい!
というわけで、今回はもやし生産に力を入れる株式会社サラダコスモさんに話を聞いてみました!
めざせ、もやしビギナー脱出!
話を聞いた人:宮地隆彰さん
株式会社サラダコスモ営業本部長兼総合企画室長。もやし料理をおつまみにお酒を飲むのが好き。
知っておきたい!もやしの基礎知識
サラダコスモさんがブースを出展されていたイベント「野菜・果物ワールド」の会場にお邪魔してお話を聴きました
「そもそも、もやしって何ですか?」
「すごい質問ですね(笑)。簡単に言うと、豆を水にひたして発芽させた野菜です」
「あ、元は豆なんですね!」
「そうそう、先っちょに豆のカラがついてるでしょう」
「本当だ、言われてみると……!」
「もやしには何種類もあるんですよ。大きく分けて緑豆(りょくとう)もやし、大豆もやし、ブラックマッペもやしの3種類。流通の割合としては緑豆が85%、大豆が10%、ブラックマッペが5%くらいですね」
「ぶ、ブラックマッペ……? 急に強そうな単語が」
「ブラックマッペはいわゆる『細もやし』で、関西で人気ですね。広島のお好み焼きによく入っています。細くてサッと火が通るのでしゃぶしゃぶにもいいですね」
「『ラーメン二郎』のもやしは太めですが、あれは緑豆もやしのほうですかね?」
「そうですね。お店や料理によって使い分けがあります」
「家で『もやし炒め』を作られる方も多いと思うんですが、もやし炒めには大豆もやしより緑豆もやしがおすすめです。大豆もやしは豆がついてるので、火が通りづらいんですよ。緑豆もやしのほうがサッと炒められます」
「なるほど…! いいことを聞きました」
「それと自分はキムチ鍋にもやしを入れるのも好きなんですが、鍋なら火がしっかり通るので大豆もやしがいいんです。緑豆もやしだと食物繊維がそれほどしっかりしてないので、鍋に入れたらシャキシャキ感がなくなってしまう」
「ふむふむ。これ、意外と気にせず作っちゃってる人多そうですね!」
「このなかで、うちは『大豆もやし』を一番推してます」
「大豆もやし! なぜですか?」
「大豆は『畑の肉』と言われるくらい栄養価が高いですし、ほとんどの栄養素が通常の緑豆もやしの2倍以上含まれているからです。ただそのぶん値段は少し上がって、緑豆もやしが38円で売ってたとしたら、大豆もやしは78円くらいですね」
「なるほど。一瞬高く感じましたけど、『もやし=激安』というイメージを取っ払って冷静に考えると、78円でも相当安いですよね……ガリガリ君と同じくらいですから」
もやしは昔、貴族の食べ物だった!?
サラダコスモのもやし製品。無漂白・無添加で健康に良いもやしにこだわっている
「もやしって安いしサクサク食べられちゃうので、あまり『栄養が豊富』というイメージがないのですが、どうなんでしょう? 『もやしっ子』という言葉もありますし……」
「ああ、『もやしっ子』って表現、困りますよねえ……」
「もやしは全然ひ弱じゃないんですよ!」
「す、すみません。そういえば『美味しんぼ』にも、もやしの生命力を伝えることで『もやしっ子』へのいじめをやめさせる話がありますよね」
「もやしは発芽野菜なので、発芽のメカニズムのなかでビタミンやミネラルがかなり増えていて、低カロリーなわりに、実は栄養価が高いんです。化学反応で豆から芽が出て細胞分裂でどんどん大きくなる、そういうエネルギーを丸ごと食べてるわけですから」
「あ、そうか、トマトとかナスは1つの種からいっぱい生るけど、豆1個からもやしは1本しかできない。それをそのまま食べてると考えると、『栄養が詰まってる』って感じがしますね!」
「日露戦争のとき、『日本兵は戦地でもやしを食べていたから勝った』とされるエピソードもあるくらいです」
「え?? 戦地でもやしを???」
「そうです。豆を壺か何かに入れて水をやれば、1週間くらいでもやしは育ちます。戦場で不足しがちなビタミンなどの栄養を、もやしが補ったと言われているんです。あくまで一説ですけどね」
「おおお……歴史的にも、もやしは栄養源として頼られていたんですね!」
「では、もやしの歴史的エピソードをもうひとつ。昔は、もやしは貴族の食べ物だったと言われます」
「えっ、いまは庶民の味方なのに!?」
「1個の種から1本しかできないと考えると、すごい贅沢な食べ物じゃないですか? たった1食分で、種を200粒くらい使っちゃってるわけです。もしその1粒をちゃんと育てたらもっと増えるかもしれないのに」
「た、確かにー!! ちなみに、もやしって日本でいつごろから作られていたんでしょう?」
「壺に種を入れて水をあげるだけで作れることもあってか、平安時代ごろにはもう食べられていたようです。シルクロードを伝って中国の緑豆が入ってきていたと」
「じゃあ昔からずっと原料は中国産なんですね?」
「それが明治時代、日清戦争なんかで中国からの原料輸入が断絶したんです。それで中国産の緑豆じゃなくて、東南アジア産のブラックマッペを使った細もやしが戦後まで主流になりました」
「あれ、でも今は緑豆もやしが85%なんですよね? なぜ緑豆もやしが復権したんでしょう?」
「そこで日本に再び緑豆もやしを持ってきたのが、サラダコスモの社長なんです。元々ラムネ屋だったんですが、副業として始めたもやしが、やがて全国に広がって本業になりました」
「副業のスケールがすごい」
細もやし(ブラックマッペ)に比べて、緑豆もやしは太くて食べごたえもある
「日中の国交が回復して、社長が中国に行ってもやしを食べたとき、『あれ?日本のもやしより太いぞ?』と気になったのでその種を持ち帰り、緑豆もやしを戦後日本で初めて開発したんです。そしてやがて国内シェアの85%が緑豆に戻りました」
「へええ!緑豆もやしの復活はサラダコスモから始まったんですね!」
「そういえば、実際にもやしの生産のようすも工場で見てみたいのですが、見せていただくことって……?」
「大丈夫ですよ!面白いので、ぜひ見てみてください」
工場見学!もやしは生命力にあふれている
というわけで来ました、もやし工場!!
今回はサラダコスモの宇都宮工場にうかがい、工場長の牧島さんにもやしの製造工程をご案内していただきました。レッツ工場見学!
サラダコスモ・宇都宮工場長の牧島直樹さん
衛生管理のため完全防御。もう誰だかわかりませんが、写真右が大島です
「本日はよろしくお願いします! 聞いたところでは、工場は深夜0時から動いているとか……?」
「はい。もやしは腐りやすいので、工場で収穫した翌日には売り場に並ぶようにしています。遠い地域へは、収穫後すぐの早朝に出荷しないと翌朝に間に合いません。なので深夜から作業を始めて、お昼すぎくらいには終わりますね」
「もやし作り、思っていた以上に大変そう……!!」
「まあ夜通しではなく、途中で交代はしてますから(笑)。さて、そのもやしですが……最初はこんな感じです」
「……もやし感は全然ない、ふつうの豆ですね!」
「はい。読んで字のごとく、緑豆(りょくとう)です。今日見ていただくのは、国内でもっともポピュラーな緑豆もやしの製造ラインです」
「この緑豆を専用の台車に入れて……」
「お湯を入れてふやかします」
「こんなにお湯入れて大丈夫なんですか……?」
「大丈夫です。もやしって土がいらなくて、水だけで育つんですよ。なので水をたっぷり与えます」
「なるほど! 水だけってすごいですね」
「ただ、水しか与えられてないということは、植物としては弱い状態にある。つまり病気や温度変化への耐性が低いので、蒸気殺菌をしてきれいな水で育てるようにしています」
「弱いからこそ大切に育てるんですね。それと気になったですのが、台車のスペース的にはもっとたくさんの緑豆を入れられるような……?」
「この緑豆がもやしに育つと、だいたい8倍の体積になるんですよ。台車の底に15センチメートルくらい入れておくと、やがて台車の中全体がもやしになります」
「水だけで8倍!?もやしのパワー恐るべし……」
「ここが栽培室です。温度や酸素濃度など、環境を細かく調整しています」
「もやしって、温度は暖かいほうがいいんですか?涼しいほうがいいんですか?」
「自分の発芽熱で成長するので、涼しめがいいですね。むしろ、ほっとくと70度くらいになって自分の熱で腐ってしまう。だから水をあげて冷まして、の繰り返しで育てています」
「へええ!さっきからもやしのパワーに驚かされっぱなしです。僕より何倍も生命力ある……」
育っている途中のもやし
そして8日目のもやしを……
派手にぶちまけます。これを洗うと、
いつも食べているもやしに!!
さらにベルトコンベアやらいろんなすごそうな機械を通り……
パック詰めして完成!!
さて、ここで冒頭の問いに戻ってみます。これだけ多くの機械や人の手が関わって作られているもやし。
なんであんなに安いんでしょう?
再び宮地さんに話を聞いてみましょう。
もやしの危機。このままいくともやしが食べられなくなる!?
「もやしの安さの秘密を教えてください!」
「光も土もいらず一年中育つので、温度変化や災害の影響を受けないぶん、安くできるんです。なので災害などで他の野菜が不作になって高騰しても、もやしは安定した価格で売れるという利点があります」
「おおー。まさに食卓の救世主……!!」
「ただ、値段はもう少し上がってほしいのが本音ですけどね」
「それはそうですよねえ……。工場見学したとき『野菜というかもはや工業製品みたいだなぁ』と思ったのですが、工場で大量生産できるのも安さの一因でしょうか?」
「そうですね。大手メーカーが工場を作って生産量を増やしていった結果、今度は過剰供給になってしまい、市場原理でだんだん値段が下がってきたという経緯もあります」
「そうか、安さで競うようになりますもんね」
「それで今、生産者は窮地に立たされています。ここ15年ほど、もやしの価格はどんどん下がる一方です」
(※参考:もやし生産者協会HP「もやしの統計」)
「なのに、実は原料価格が10年ほどで約3倍に上がってるんです。価格は下がってるのに生産コストだけが上がっていると」
「えええ、そのままいったら利益がなくなっちゃうじゃないですか!原料の高騰の原因は……?」
「基本的にもやしの原料は中国やミャンマーからの輸入ですが、いまアジアはどんどん経済成長をして、インフレ傾向にある。つまり現地の人の給料も高くなるので、そこから出荷されてくるものも値段が上がるんです」
「なるほど。でも、国内のスーパーで急に値段を3倍にすることもできない、と」
「だから廃業する生産者がどんどん増えてますね。小売価格で言えば38円~40円くらいがもやしを再生産できるギリギリの価格ですが、いま18円とかで売ってることもありますよね。それだとスーパーも損してるし、生産者も損してるし、誰もいい状況にはなっていません」
「スーパーどうしも競争ですもんね……」
「ただ、この悪循環はもう時代の流れなので、なかなか変えられない。だから自助努力で、高く価値を認めてもらえる商品を買っていただこうと、いろいろ開発しています。たとえば健康にいいオーガニックのもやしだとか」
「なるほど、付加価値をつけることで価格を上げるんですね!」
「あとは『食べ方』まで提案しようと、こういうものも作りました」
「もやしレモン?これはそのまま食べられるんですか?」
「そうです。レモンと白だしが入っていて、酸味が好きならレモンを足したり、つまみ系にしたければラー油をかけたりするのがおすすめです。何より、もやしって日持ちしないイメージがあると思いますが、こうやって加工すれば半年くらい持つんです。3~4分あれば自分でも簡単に作れますよ!」
「おおー。おつまみでスナック菓子とか食べるよりは、もやしのほうが体に良さそうですね!」
「はい、おすすめですよ。私も家で毎日食べてますから(笑)」
「説得力がすごい」
おわりに
「最後に、もやしレモン以外で個人的に好きなもやしレシピを教えてください!」
「簡単なものだと、もやしの白だし和えが好きですね。白だしとごま油と一味だけで作れるおつまみです。サラダコスモのブログでもいろんなレシピを紹介しているので、ぜひ見てみてください!」
「ありがとうございます!」
……ちなみに、
じつは工場見学のあと、工場長の牧島さんにも同じ質問をしていました。
「もやしの一番好きな食べ方ってありますか?」
「大豆もやしの天ぷらなんかもシャキシャキ感があっておいしいですが、一番はもやしの白だし和えですかね。もやしを炒めて和えるのもいいですよ」
なんと、おふたりから同じ答えが。
ってことは白だし和え、絶対おいしいじゃないですか!!!!
後日、実際に作ってみました
おいしい!! おつまみとしていくらでも食べられる
高校の調理実習以来、ろくに料理をしていない僕でも簡単に作れました。皆さんもぜひ作ってみてください!
もやしの持つパワーや生産の実情を知ってから食べるもやしは、ひときわおいしかったです。
スーパーのたたき売りなどで危機にさらされているもやし。僕たち消費者ももやしのことを知っていかねば、と取材を通して思いました。
今後も、もやしをおいしく食べ続けられますように。