こんにちは、ライターのおおきちです。
今日は秋葉原にある美容室『fuwat(ふわっと)』に来ています。といっても、このもっさりヘアーを切りたいとか、パーマを当てたいわけではありません。
実はこちらのお店、コスプレイヤーがよく訪れる美容室なんです。
一体なぜでしょうか?
内装が学校で撮影に使えるから?
ノンノンノン!
正解は……
ウィッグ(カツラ)のカットとスタイリングをやっている
から!
『fuwat(ふわっと)』
住所|東京都千代田区外神田4-6-7 カンダエイトビル1F
営業時間|12:00~22:00(カット受付終了 21:00)
【年中無休】※毎月第一火曜日のみ定休
そもそも、コスプレカルチャーを全く通ってきていない僕がこのお店を知ったのは、Twitterでこのようなつぶやきが流れてきたからでした。
【遊戯王/孔雀舞 風wig】
製作させていただきました~!
かくかくStyrist.takagi pic.twitter.com/F8YYiy7Lmj
— fuwat_wig (@fuwat_wig) September 29, 2017
あ! 遊☆戯☆王の孔雀舞!!! この前髪スゴっ。どうやってこのカクカク作ってんの!?
【けものフレンズ/ライオン】
本日のお客様
ボリューム満点のライオンちゃんです!Styrist/takagi#ウィッグ#ウィッグカット#けものフレンズ pic.twitter.com/hVclIMVn8F
— fuwat_wig (@fuwat_wig) April 22, 2017
なになになに〜〜〜!!?? このモサモサ感、スゲっ!
これを美容室の人が作っているのか……
ここでふと疑問が湧きました……
掲示板などで時たま話題になる「一番奇抜な髪型のキャラって誰?」論争
この論争に終止符を打つため、プロに一番再現が難しかった髪型を聞けば、ベスト・オブ・難解ヘアのキャラが決まるのでは!?
ということで、早速お話を聞いてみましょう!
アキバでやるなら、ウィッグをやっても面白いかと
オーナーの平野さん(左)とウィッグスタイリストのHarukaさん(右)
ちなみに平野さんは現在ウィッグの施術については関わっていないとのこと
「よろしくお願いします! ウィッグのカット・スタイリングをやる美容室ってかなり珍しいですよね? 始められた経緯を教えてください!」
「経緯といっても、僕が単純にコミケとか好きだったからですね。14歳の頃からコミケに通ってたんで」
「え……それだけ!? 何かきっかけみたいなものがあったのでは?」
「ずっと、普通の美容師として働いてたんですが、秋葉原で美容室をやることになった時、せっかくアキバだしってことで、メニューに『ウィッグのカット・スタイリング』を入れたんです。『こんなのあったら面白くね?』ってな感じで……」
「ノリ軽っ! ノウハウがゼロの状態でお店のメニューに組み込むのは、不安じゃなかったんですか?」
ちなみにfuwatはウィッグのみを扱っているわけではなく、対人間のメニューももちろんあります。
普通に髪を切りに来たおばあちゃんの横で、萌えキャラのウィッグを作っている……なんてこともよくあるとか。
「ウチのスタッフは、みんなコスプレカルチャーを通ってきた美容師なんです。つまり独学でウィッグとか作ってきた人ばかりなので、ウィッグの扱い自体には慣れてたんですよね」
「みんなコスプレカルチャーを通ってきた……? じゃあHarukaさんもコスプレをされていたんですか?」
「はい。今コスプレしているのは主に男の子キャラですね。最近だとハイキュー!!のキャラとか……とにかく学園モノの男の子が好きですね!ほら……」
「頑張ってる高校生って……こう……『きゅん……』ってなりません?」
「分かるぅ~! アッ、でも僕はFree!!の怜ちゃんちゃんみたいな、不憫な感じのキャラも好きで……あとペダルの杉元照文くんね! 僕、彼らは似ていると思っていて……あの、裏で努力をしてる感じ! でもプライド高いから、そういうの照れ隠ししちゃってサ。で、ふとした時に見せる『綻び(ほころび)』みたいな……そういうの大好物でござ……あっ!すいません……止まらなくなってしまいま」
「大丈夫です! fuwatのスタッフにとっては、それが日常ですから」
急にスイッチ入っても大丈夫だそうです!
▲雑誌コーナーに、レイヤー向け雑誌やアニメ雑誌があるのもfuwatならでは。オタ話も通じる美容室として通うのも全然アリ!
「では話を戻しまして……お店のメニューに『ウィッグのカット・スタイリング』を入れてみた結果、最初の頃はどうだったんでしょうか」
「あまり前例のないことだったから、最初は苦労しましたね。技術的なこともそうだし、この髪型なら料金はどうしようとか、どれくらい時間をかけて作ればいいのか、とか、一から道を作っていかなきゃいけなかったんで」
「まさに手探りですね」
「Twitterで制作したウィッグのプレゼント企画をしたり、お得意様がつぶやいてくれたりするうちに、徐々に軌道に乗ってきたという感じですね。おかげさまで今は、かなり忙しくさせて頂いてます」
なお、ほとんどのスタッフをTwitter経由で採用したとのことでした。公式Twitterが求人にも広報にもなっているという、超コスパのいいSNS運用方法ですね。
美容師とウィッグスタイリストって何が違うの?
「fuwatではウィッグだけではなく、普通に人間のヘアも扱っているんですよね? その2つは、どう違うんでしょうか?」
「ウィッグの場合は、基本ウィッグを持ち込んでもらって、カウンセリングしながらどういう風に作っていくか決めていきます。その後ウィッグを預かって、後日お渡しする、という形になりますね」
「カウンセリング!??」
「お客様はそれぞれ自分のイメージを持ってますから、すり合わせる作業が必要なんですね。接客経験がないと、そういったことが出来ませんから、ウィッグ作成がいくら上手くても、美容師経験がない人は採用していません」
カウンセリングはこんな感じ
・予算
・そのウィッグを撮る角度
・撮影はスタジオなのか、屋外なのか
・どんな衣装を着るのか
レイヤーさんは撮影を前提にウィッグを依頼する事が多いので、撮影角度や撮影場所も考慮するそう
「ヒトの髪とウィッグって、扱う上で違いはあるんですか?」
「共通の部分がないわけではないんですけど、全く違いますね」
「コスプレのウィッグって、元がアニメとかマンガみたいに二次元上のモノじゃないですか? それが三次元になった時にどうなるかっていうのは、実は正確には設定されてなかったりするんで……想像力が不可欠になってきますね」
「あぁ、スネ夫の髪型なんかも、真正面のデザインって曖昧ですよね」
「あと、ウィッグは人毛と性質が違うんで、美容師の感覚で道具が使えません」
「え、それって美容師にとっては致命的なのでは?」
「そうなんですよ、難しいんです。例えばカールを出すのに使うコテは、ウィッグによっては溶けちゃうんですよ。だから、カールは針金を仕込んで固定するとか、代替の技術が必要になってきます」
「他にも固めるためにボンドとか、アクリルボードも使ってるよね? 複数のウィッグを解体して1つに縫うとか。美容師の技術というより、もはや工作じゃないかって思いますね。fuwatは、美容室の中で、一番東急ハンズにお世話になっているんじゃないですか(笑)」
「マジですか? 全くの別モノじゃないですか……」
fuwat作成のウィッグの例
fuwat様ではこういったナチュラルなモノから……
写真提供:fuwat様
ガッツリ造形的なモノまで作成しているそうです。
下の方はよく見ると、耳も髪で出来ていたり、髪がなびく様に固まっている!?
この1枚に技術がたくさん詰まっているのね!!
元から不自然な髪型はそんなに難しくない
さて、ウィッグスタイリストの実態がつかめてきた所で、本題の『再現が難しかった髪型のキャラ』を聞いてみましょう。
「では、再現が難しかったキャラを教えて頂きたいんですが……これじゃないかな?ってキャラがいるんで、予想していいですか?」
「へぇ、楽しみですね。どうぞ!」
「これしかないでしょ……」
遊☆戯☆王の『武藤遊戯』!
▲マンガ、アニメ『遊☆戯☆王』の主人公。この髪型はムズいはず。
「ああ……遊戯ね……」
「はいはいはい……」
「あれ? 想定してた反応と違う」
「確かに遊戯のデザインは複雑なんですけど……」
「作り方が確立されているんですよね〜」
「なん……だと……?」
「結局『どういう構成になっているのか分からない』っていうのが一番の脅威なんです。有名キャラなので、ほかの方の作ったのを見たり参考になる情報が多いんです。ウチも試行錯誤中ではあるんですけどね。遊戯はこれまで5回くらい作っているかな?」
「ぜってー遊戯だろ!って、思ってたのにハナから否定されてしまった……。いや、待ってください! もうひとつ、絶対コレだというのがあるんで! それは……」
FF10の『シーモア』!!
▲ファイナルファンタジー10に登場する召喚士。海外のゲームファンからは「ゲーム史上最も奇怪な髪型」と言われているとか。
「ああ〜……いや、確かに難しいんですけど、ここまでいくともはや髪型じゃなくて、オブジェですよね?」
「髪型としての範疇を大幅に逸し過ぎている場合、自然に見せる必要がないんですよ。それなら、もう彫刻家とか造形師さんとかのほうが向いてると思います。ウチに発注するメリットはないんじゃないかな〜と」
同じ様な理由でポケモンのムサシも、人気キャラの割に一度も注文が来たことないそうです!
その他、コスプレ素人の僕が考えた、再現の難しそうな髪型は……
ジョジョ第五部『ジョルノ=ジョバァーナ』
→チョココロネのような前髪が特徴的だが、前髪だけ別で作って貼り付る方法がある
ジョジョ第六部『空条徐倫』
→自分の髪でやるなら難しいかもしれないけど、ウィッグの場合、結髪はそんなに難しくない
巴マミのような『縦ロール(通称:ドリル)』
→筒状のものに巻き付けて乾かすだけ。「ドリルそんなに難しくない説あるよね」とのこと。
惨敗でした。
見てごらん……コレが惨敗面(ヅラ)だよ……
fuwatが選ぶ再現の難しい髪型TOP3は……
複雑過ぎたら工作になって、やり慣れてたら難しくなくなるって、じゃあ一体どんな髪型が難しいのよ!!!というわけで、TOP3を教えてくださいッ!
再現の難しい髪型のキャラ 第3位
「第3位は……」
「アニメ遊☆戯☆王の6作目『遊戯王VRAINS』の藤木遊作です!」
▲実際にfuwatで作成した藤木遊作ウィッグ
「うわッ! これはフツーにデザインとしてかっこいいですね、被りたい! 横からの立体感とかフォルムがすんげェ!」
「これは配色のバランスが難しいんですよ、立体的なメッシュを埋め込む所とか。めちゃくちゃ細かくパーツ分けして合体させてますからね」
「全体がガッチガチに固まってるんで、確かにめんどくさそう……」
再現の難しい髪型のキャラ 第2位
「続いて第2位は……」
「アニメ『メイドインアビス』のオーゼンです!」※原作はマンガ
▲ミノタウロス+魔女がモチーフだというオーゼン。見れば見るほど不思議な髪型をしている。レイヤー何層あるのよ!?
「オーゼンはマンガ時代から原作を読んでいて『コレ……なにがどうなってるんだ……』っていう感じでした。オーダーが来て、改めて構造を理解しようとしたんですけど、僕にはムリでした……」
「二次元だから成り立っているような髪型ですね。三次元に起こした時は矛盾が生じるので、それをどう想像で補い、イメージを崩さず、かつ自然に見せるかっていうバランス調整が難しくて……。ウィッグを3つくらい組み合わせて立体的に絡みませているんです。これはもう、ほんとに……難産でしたね(笑)」
「なにコレ????? 何がどうなってるの??? どっちが前!?」
再現の難しい髪型のキャラ 第1位
造形的に複雑な3位、構成が複雑な2位とこれまで紹介してきましたが、いよいよ第1位の発表です!!
果たして、どんなどっきりどっきりドンドンヘアーなのやら……?
「fuwatの歴史上、一番再現の難しかった髪型のキャラは……」
「(ゴクリ……)」
…………………。
「白雪姫です!!!」
「ええ〜〜!!! これ~~!?」
「地味じゃないスか?」
「もっとトンデモヘアーだと思ったのに、メッチャ普通!!」
「意外ですよね? しかも、この髪型ってオールウェーブって言われる美容師の国家試験の課題なんです。だから美容師なら出来て当たり前、『試験の時、25分で作ったんだが』って言うでしょうね」
「ますます、なぜそれがムズいのか……」
「美容師のやり方……つまり国家試験の時は『ジェルでベトベトにして、かつ専用のウィッグで』セットしていくんです。でもお客様のウィッグでやる場合は、乾いた髪でセットしなきゃいけない。当然、髪が言うこと聞かないわけで。試験の時に使った技術は役に立たないんです」
「なッ、なるホロ!『缶切りなしで缶を開けろ』って言わてるようなものだと……」
「ゆるくコテで巻くのって難しいですし、更にそれを強力に固定しなきゃいけない。あと、オールウェーブヘアの特徴として一つ巻き方がズレただけで全体に影響が出てしまうんです……」
「月に代わってお仕置きするみたいな人の大物ロングヘアも時間かかるんですけど、難しさで言うとオールウェーブの白雪姫に軍配が上がりますね」
と、いうことで……
ウィッグでの再現が一番難しい髪型のキャラクターは白雪姫に決定致しました!!
それにしても意外! 美容師としての基礎がウィッグでは一番難しいとは……
こぼれ話
「あとTOP3には入ってないんですけど、イナズマイレブンが流行った時に注文が殺到した事があったんです。イナイレはほとんどのキャラの髪型がこう……成していない……じゃないですか?」
▲ほとんどのキャラの髪型が成していないイナズマイレブンの面々。確かに成してはいない髪型の子が多い(右上の目つき悪い男の子、なんかかわいいですね)
「だから、当時は……ね……」
「いやいや……あの時代は勉強になりました……」
「(遠い目)」
「fuwatの必殺技は! 最後まで諦めない気持ちなんだ!」精神で乗り越えたとのことです!!!
10年後もウィッグスタイリストという職業を残すために
SNSでの拡散もあり、今では海外や企業からも注文が来るというfuwat。
オープンの時からウィッグスタイリストという職業を新しく作って、食べていける体制を整えたかったそう。
「ウィッグの技術は特殊技術。特殊な技術にはそれ相応の価値があっていいはず」と熱く語ってくれました。
「ウチはウィッグだけで1人月2ケタ以上作っているんですよ。個人と違ってオーダーなので不特定多数のキャラの髪と向き合いますからね。前いたスタッフなんかは今は某テーマパークの制作部門にいるんですよ」
「えぇっ!すごい!!」
「ウチで培った経験が別の職業で活かせるっていう事実はすごく自信になりましたね。ウィッグスタイリストという職業を作って正解だったと、今は思ってます」
おわりに
というわけで今回は、fuwat様に再現の難しかったキャラとウィッグスタイリストという職業についてお伺いしてきました。
どんな仕事にもアツいエピソードや、聞いてみないと分からないことってありますね。
こんだけ聞いておいて、注文しないなんて無粋!!!
これは僕も、コスプレ界とウィッグ美容師界に何か貢献しなくては……
ということで僕もウィッグを注文することにしました。
作って欲しかったのは、全男子憧れのあのキャラ。オールバックが特徴の史上最強生物です!
逆毛を立ててツンツンヘアにしていき……
ウィッグは生え際が不自然になりがちなので、毛束を別に作って……
生え際に貼り付けて、他の髪と馴染ませれば……
・
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・
バッッッ!!!
史上最強の生物『グラップラー刃牙』の範馬勇次郎ここに完成だァーーーー!!!!!
……
……いや……
待て待て待て……
再生回数 26回のつまらなYoutuberかっての!?
撮影した写真を見て、自分でもビックリするくらい恥ずかしかったんですけど……、コスプレってムズくないですか???
Twitterとかに上げている人って、マジで似せるように努力しまくって、カッコよく・カワイク映る様に研究されているんですね……マジであの1枚に、あの素晴らしい画像の裏に、何百枚もの死んだ写真、死んだ衣装、死んだメイクがあるんだと肌で感じました……影の努力……。改めて、画像を見てめちゃくちゃ恥ずかしいんですけど(もう見返したくもない)、どんなレイヤーさんも初期は絶望したと聞くので、ちょっと本腰入れて似合うキャラを探ろうかと思いました……いや……でも好きなキャラが似合えばそれが最高ですよね……。てか、なんだこのしょうもないメイクは!?……あと、自分って顔長いし目も重ッ?!?そりゃ画像加工するようになるわ!!画像加工指摘厨は一度この絶望を味わってみてくれ!ってか、アニメキャラって肌キレイすぎないすか?スキンケア何使ってるの?ハトムギ???ニベア?ハウスオブローゼ?星野家の塩???あ〜〜〜〜!!!
コスプレってムッズ……
(おわり)
取材協力「fuwat」
fuwatのウィッグ担当様のTwitter