ダダダダダダダダ
うわあー、疲れた! てか小腹も空いたー!!
ぱくっ
うんまあああ~!
はじめまして!青森出身ライターのタカダハルナです。わたしが食べているのは、青森のご当地パン「イギリストースト」。
食パンにマーガリンとグラニュー糖が塗られたものをサンドしたという、いたってシンプルな作りなのですが、これが美味しいんですよ!!!!
何が美味しいって、ひとくち食べた瞬間、ふわっとしたパンとグラニュー糖のジャリジャリっとした食感、そしてマーガリンが溶けだし、魅惑のハーモニーを奏でるんです。さらに、その*◎※◆☆〃…
…失礼しました。わたしのイギリストースト愛はひとまず置いといて、
このイギリストーストには
・あの芸能人が爆買いするほどの美味しさ
・歴代で200種類
・大手メーカーも真似できないパンのしっとり感
・イギリス大使館から認められている
という、ご当地パンの域を超えた噂があるんです。
これは青森県民として、真相をなんとしてでも確かめなければ!
ということで、 昭和41年からイギリストーストを製造している工藤パンさんへ来ちゃいました!!!
さっそく、イギリストーストについていろいろ聞いてみましょう。
月に50万個!有名人も大ファンのイギリストーストとは
お話を伺ったのは、工藤パンで生産本部次長をつとめる倉内春美さんです。
「こんにちは!今日はよろし…なんじゃこりゃあ!!??」
「美味しそうなパンの行列ができてるーーーー!!!」
「せっかくお越しいただいたので。うちの商品たちを準備しておきました」
「なんという心遣い…。イギリストーストには、いつもお世話になってます。実は、つい先ほども食べてきました」
「それは嬉しいですね、ありがとうございます」
「わたしは週1のペースで食べてるんですけど、イギリストーストって毎日何個くらい作られているんですか?」
「1万5000個です」
「い、いちまんごせん……?????(単純に計算して、年間出荷量は1万5000個×360日=540万個。青森県民は140万人だから…ひとり年間3個は食べている?)」
「ははは、驚いちゃいましたか?」
「かなり。ちなみにどのくらい売れてるんですか?」
「青森では“月間5万個売れる=ヒット商品”という感じなんですけど、イギリストーストは月に50万個売れてるんです」
「桁が違う!!!」
「ブームで一時的に売れることはありますけど、月間50万個売れる状態が続いてるのは、県内でイギリストーストだけですね」
「たしかに、青森のどこのお店に行っても売ってる印象があります」
「青森県内では基本的にすべてのスーパー、百貨店、コンビニで取り扱われてますね。東北6県では、ファミリーマートさん、ローソンさん、ミニストップさん、デイリーヤマザキさんで販売させてもらってます。まあ、売れてるのは圧倒的に青森ですね。売り上げ全体の9割くらいを占めてるので」
「やっぱり。でも、県外での知名度も高いですよね?芸能人にもファンの方がいるという噂が」
「名前は出せないんですが、某ビジュアル系エアーバンドのボーカルの方は、青森に来ると爆買いして、スーツケースにどっさり入れて帰るみたいですよ」
「それは…だいたい誰かわかっちゃいますね。つまりイギリストーストは『愛されたいね~♪』じゃなくて、『すでに愛されてるね~♪』…?」
「……」
「(ぜったいそうだ…さすがイギリストースト …)」
200種類超え!あのキティちゃんとコラボしていた
右3つはイギリストーストの姉妹商品「フレッシュランチ」(写真右上)と、「イギリスフレンチトースト」(写真右下2つ)
「気を取り直して…いまこの机の上だけでイギリストーストが6種類もありますけど、全部で何種類あるんですか?」
「歴代でイギリストーストは200種類くらいあります」
「えええ…ご当地パンなのに種類が3桁だなんて、そんなことありますか?」
「『こういうものが食べたい』というお客さんの声を営業マンが集めたり、旬の食材を使ったりして商品開発しています。みんなが美味しく食べられる味を追求しているので、女性社員だけ集まって意見を集めたり、あとは新入社員に意見を聞いたりもしますよ」
「新入社員ですか?会社に入りたてで、まったくわからないんじゃ…」
「逆です。つい数日前まで消費者だったわけじゃないですか。だから新鮮な声を聞くことができるんです」
「なるほど。すごく丁寧に市場調査をされてるんですね」
「新商品も、ほぼ毎月出してますよ。人気商品と新商品を合わせて、常時5、6種類はお店に並ぶようにしている感じです。例えばこれが、9月の新商品『和栗&マロンホイップ』ですね」
「わあ、秋の味……これってもしかして……」
「そんな顔をされたら仕方がないですね。どうぞ召し上がってください」
「やったあ。では失礼して……むむ、栗のうまさがハンパない! なんだか大人な味ですね」
「違う味のクリームを二種類入れているので、味に深みが出るんですよ。モンブランみたいなイメージですね」
「なるほど~。それにしても、新商品をほぼ毎月ってすごいですね」
「当初は2、3か月に1品とかでしたけど、お客さんの要望があったんです。今月はなに?と楽しみにしてるお客さんも多いんですよ」
「ものすごく不思議なんですけど、ネタ切れにならないんですか?」
「ならないですね」
「迷いのないドヤ顔…!!! 記事のネタ集めに苦戦している自分がダメ人間に思えてきました…」
「材料はたくさんありますから、なんでも商品に成り得るんですよ?たとえば、青森県産ホタテを入れたときもありました!」
「”イギリストースト=甘い”というイメージがあるのに、ホタテ…?」
「そのときは、ホタテ&マヨネーズ味にしました。地元のテレビ局とコラボしたんですけど、テレビ局の視聴者さんから『ホタテを使ったイギリストーストを食べたい』と要望があったんです」
「ものすごいチャレンジ精神ですね……」
「ハローキティとコラボしたこともありますよ。キティちゃんが40周年の年だったんですけど、青森県の商品ともコラボしたいとのことでオファーをもらいまして」
「わあ!かわいいパッケージ!!りんごを持っているのは青森だからですか?」
「県産りんごを使ってるというのもありますけど、キティちゃんの体重がりんご3個分なんです。このふたつをかけて、キティちゃんにはりんごを持ってもらいました」
「みんな大好きなキティちゃんとコラボしているなんて、青森県民として誇らしい気分です!」
ロングセラーの秘密は『変わらない味』
「こんなに種類が豊富で、どれが一番人気なんでしょう」
「ふつうのイギリストーストです」
「え、こんなに種類があるのに!? 」
「お客さんはみんな、変わらないこの味を求めているんです。青森県民は、このパッケージを見るだけで、どんな味・食感なのかわかるじゃないですか」
「スーパーなどの売り場でパンを買うとき、本来であれば商品を手に取ってからパッケージを眺めるんです。でもこの商品を何度も食べていて味がわかっているから、何の抵抗もなくカゴへすっと入れるんですよ」
「たしかに……ノールックでカゴに入れてるかも!」
「昔から美味しいと食べている人たちが今でも食べてくれていて、その家族もまた食べてくれています。長年にわたって積み重ねてきた、安心して食べられるという信頼感なんです」
「うちも、弟からおばあちゃんまで家族みんな大好きですよ!でも、みんなに受け入れられている今の形になるまで、かなり苦労したんじゃないですか?」
「いろんな年齢層の社員に食べてもらって意見を集めて、それで完成したんです。それはもう、何回も試食しました(笑)」
「へえ~。もはや、パンの厚さにまでこだわってそうな勢い」
「その通り!女性の口にも入りやすいサイズにしました。他にはないイギリストーストのみの大きさで、8枚切りと10枚切りの中間くらいです」
山が3つある三斤棒(さんぎんぼう)というパンを、機械で26枚にカットして使う
「へえー、こだわってるなあ~」
「驚くのはまだ早いですよ。マーガリンは、うちでしか使っていない特注のものなんです。イギリストースト専用ですよ」
「ああ…どうりで。市販のマーガリンとグラニュー糖で作ってみたことがあるんですけど、同じ味にならないわけだ。納得です」
マーガリンが塗られるのは自動! ずっと見ていられる光景…
「口に入れたときの絶妙な溶け具合がグラニュー糖とマッチするんです。だから、この味はうちでしか作れないんですよ。パンの厚さ、マーガリンとグラニュー糖の量は開発当初から変えてません」
「それがロングセラーの理由なんですね」
「いえ、それだけじゃありません。製造ラインにも秘密があります」
「パンはカットされた瞬間から水分が抜けちゃうので、そこからの作業をいかに縮めるかが重要で。だから、イギリストーストの製造ラインは10mと、通常のパンに比べて短いんです」
「1日1万5000個もつくるラインにしては小じんまりとしてますね」
「大手メーカーさんだと、焼きあがってから半日~1日経ってから商品になっていると思うんですけど、イギリストーストはパンが焼きあがってから2時間半で商品になってます。それがしっとり感の理由です!」
「ファンにはたまらない情報をゲットしました…!」
ベテランの職人さんが、ふわふわのパンを綺麗に重ねて完成!
イギリストーストの命『ユニオンジャック』は、大使館から許可を得ていた
「ちなみにイギリストーストは、どうやって生まれたんですか?」
「うちの会社は昭和7年に創業されて今年で86年目。当時は商品を米軍へ卸していたんです。でも、そのときは今のようなカラフルなパッケージも、いろんな種類のパンも無かったんですよ」
「戦前ですし、それこそコッペパンや食パンくらい?」
「ええ。そしてここからは考察になってしまうんですけど、米軍の食文化に合わせて『この食パンで違うものを作れないか?』と考えた末に生まれたんじゃないかなと。亡くなられた創業者の工藤半衛門(はんえもん)さんしか、真実はわからないんですけどね」
「イギリストーストという名称を決めたのも半衛門さんですか?」
「そうです。だから、あくまで仮説なんですが、山型食パンのことを『イギリスブレッド』と言うんです。それが『トースト』と名付けられたのは、そのまま食べても美味しいだけでなく、焼いて食べても美味しいという意味が込められているんじゃないかと思っています」
「へええ〜、そういえばパンの枚数はずっと2枚だったんですか?」
「いえ、イギリストーストが誕生した昭和41年から50年まで、食パン1枚にマーガリン、グラニュー糖がかけられている形でした。でも、パンの厚さは変わってないですよ。1枚だったものを、いまは2枚にカットして中に挟むようになっただけです」
「それって、昭和51年はイギリストーストを作り始めて10周年だからリニューアルを?」
「いやいや。1枚のときはパンの表面にマーガリンとグラニュー糖を塗っていたので、その部分が包装紙に張り付いてしまっていたんですよ」
「あ、くっつくのを防ぐために、パンが1枚から2枚になったんですね!」
「そうそう。そして、その2枚になったときから、パッケージにイギリスの国旗をつけて売るようになったんですよ」
「でもその頃は、まだ大使館に申請すら出していなくて」
「んんん!? それ、やばくないですか?」
「お客さんからも『大丈夫なの?』と言われていたので、大使館の方へ問い合わせたところ、『すでにこのパッケージは世の中に浸透して有名になってしまっているので、そのまま使っていいですよ』と言われたみたいです」
「イギリス大使館の心が広くて良かったーーー!!」
「新商品を食べさせてくれたり、工場を見学させてくれたり、本当に楽しかったです。わたしのワガママにも優しく付き合ってくださる皆さんなら、パン業界の天下もとれちゃいそうですよ」
「そこまでの野望はないです(笑)。わたしたちは青森に根付いた会社なので、地元の食材を使うということに今後もこだわっていきます。地元の農家さんなどに食材を作ってもらって、それにわたしたちが手を加え、最終的に県民の皆さんに食べていただければ、青森が元気になると思うんです」
「まさに地産地消のサイクル!」
「そうです。だから、青森が元気になるきっかけにイギリストーストがなれたら嬉しいですね」
「なんて素敵なこころざしなんだ。ずっと変わらず、純粋なイギリストーストで在り続けてほしいです」
「変わらないですよ。ふつうのイギリストーストは、いまの味をずっと守っていきます。そのほかに、どんどん新しい味を生み出していきますよ。青森愛も変わりません」
「これからのイギリストーストも楽しみです!」
「ありがとうございます。そうだ、パンを開いてトーストすると美味しいので、ぜひやってみてください」
おわりに
やっぱり、イギリストーストはご当地パンの域を超えているとわたしは思いました。
食べたことがあるよ!ってひとは、もう一度食べてみてください。食べたくなっちゃったというひとは、青森へ来て食べてみてください。
そして青森は遠くて行けないよ~って皆さんにも朗報です。東京にあるアンテナショップでもイギリストーストが買えちゃうんです!
千代田区の『あおもり北彩館』では、毎週金曜日が“イギリストーストday”となり、専門の売り場が登場。さらに、赤坂にある『AoMoLink』では毎月9日、10日に販売しているそうです!
裏話をたくさん知っている皆さんなら、通常のイギリストーストより何倍も美味しく感じるはずで……あ、そういえば、倉内さんが「開いてトーストしたら美味しい」って言ってたな……。
ジジジジ…チン!
うま!!たった2分トーストしただけなのに、耳がカリカリしてて、マーガリンがじゅわっとパンに染み込んで、さらにグラニュー糖も溶けたのがパリッと焼けて、めっちゃうまいじゃんこれ!!!
ぜひぜひ、ご賞味あれ~!!!!!!
カメラマン:太田 伊美