こんにちは!ライターの菊地です。
突然ですがみなさんは、売り上げの7割がぬれ煎餅という異色の鉄道会社があることをご存知ですか?
その名も、銚子電気鉄道株式会社! 千葉県内に路線を持っている正真正銘の鉄道会社です。
銚子電鉄さんは、ぬれ煎餅以外にも、
最近ネットで話題の『まずい棒』も販売しています。
というわけで、今回はそんな銚子電鉄さんに話を聞くため、『犬吠駅』というところにやってきました。
なぜ犬吠駅なのかというと……
夏限定で、犬吠駅発『お化け屋敷電車』が運行されているからです!
なんで鉄道会社がお化け屋敷をやってるの……しかも電車内で。
何はさておき、まずはその電車に乗り込んでみましょう!
さっそくお化け列車に乗って出発進行!
すっかり日も暮れた19時。イベントスタートです。料金は大人 2,700円。
この時点ですでに、ただならぬ雰囲気ですね。車掌さんも怖い。
運転席を覗くと、明らかにこの世のものではない人が、虚ろな目をして座っていました。
え、この人が運転するの……? そのまま黄泉の国に連れて行かれそうなんだけど!
車内はこんな感じ。この日もお客さんがギッシリ! 連日満員で立ち見も出るほどの人気なんです。
電車は完全に貸し切りで、犬吠駅から銚子駅まで行って、また帰ってくるまでの1時間を使って、イベントが行われます。
電車といえば、毎日誰もが利用するもの。だからこそ、この怪しい照明に浮かび上がる光景は、いつもの電車とはかけ離れた非日常感がありますね。
至るところに禍々しいものが置いてありました。た、平清盛の墓? なんてものを置いてるんだ……
などとキョロキョロしていたら……おぉっ、動き出した!!
車内アナウンスを使って、「人形にまつわる怪談話」が始まりました。オドロオドロしい女性の声(プロのナレーター)が読んでいるので、雰囲気ありまくりです。
怖いながらも悲しいストーリーに耳を傾けていると……
あれ……止まった? 何でこんなところで止ま……
ヒィィッ!?
急に外から窓をバンッと叩かれた! 誰ー!? 誰よー!?
※これ、マジで恐ろしくて、どこかで知らん子供が泣いてました
さらに―
隣に座っていた女性が悲鳴をあげたと思ったら、足元を何かが掠めます。勇気を出して手に取ってみると……
目
電車に乗っていて足元を人の眼球がかすめた経験、あります??
駅の近くや明るい民家のそばを走っている間は、車内に一瞬明かりが差し込みます。ただそれだけで、周りのホッとした空気が伝わってきます。
というのも束の間……!
ギャーーーーー!
ズタボロの服を着た男性や、白装束の女性が乱入し、車内をうろつき回ります。もうやめてー!
今度は生首が降ってきたーーー!!!!!
次から次へと襲ってくる恐怖演出。
進行していく怪談話。
そこかしこで聞こえる悲鳴。
そんな感じで1時間近く続いたお化け屋敷電車も、いよいよクライマックス。
最後は銚子電鉄の社長まで登場。ユーモア溢れるオチがあり、みんな吹き出してました。
終わったあとはカーテンコールが。シュールな絵ですね。
ちなみに演じているのは近くの高校の生徒なんかが、アルバイトでやっているそうです
車内は誰もが笑顔で、惜しみない拍手を送るのでした。
こうしてお化け電車の旅は無事に幕を閉じました。
犬吠駅に戻ってきて、記念写真をパシャッ。
まさか電車の中で、ここまで本格的なお化け屋敷を体験できるなんて思いもしませんでした。
え?
「結局、どうして鉄道会社がお化け屋敷をしているのかわからなかった 」って?
ご安心ください。この翌日、仕掛け人にお話を伺ってきましたよ!
銚子電鉄がお化け屋敷列車を始めたワケ
こちらの男性が、怪談収集家として活動している寺井 広樹(てらい・ひろき)さん。銚子電鉄の「お化け屋敷電車」や「まずい棒」の仕掛け人です。
「お化け屋敷電車、怖かった……」
「それはそれは(笑)。ありがとうございます」
「『走行中の電車が暗い』って、ものすごい異世界感がありますね」
「そうですね。毎朝 通勤通学に使う見知った空間だけに、ただ照明が暗いだけでも『あれ?今までの人生でこんな経験なかったぞ!?』と感じるんですよね」
「ストーリーも良かったですよね。最後は“オチ”みたいなのがあって爆笑しちゃいました」
「怖くしようと思えばいくらでも怖くできるんですけど、家族で見に来るお客さんもいるんでね。お子さんも楽しめるように、最後は笑えるオチをつけました」
「今回の話『人形の怪談』は、オリジナルストーリーなんですか?」
「おじいちゃん、おばあちゃんから収集した、実際に銚子で語り継がれている話ですね。それにアレンジを加えてます」
「さすが怪談収集家! 実際に銚子で収集した話だったんですね!」
「そもそも、どうして鉄道会社なのに、お化け屋敷を始めたんですか?」
「以前より交流のあった銚子電鉄の社長さんに、『お客さんを増やすため、私にお化け屋敷電車をやらせてもらえませんか?』と提案したんです。本業が怪談収集家なんで、『電車×怪談』という企画をどうしてもやってみたくて」
「なるほど。怪談を聞かせながら電車を走らせる→お化け屋敷電車だ!とすんなり決まったわけですね」
「電車って普通は目的地まで移動する手段だけど、お化け屋敷電車なら、目的地がなくても電車に乗ってくれますからね」
「とはいえ、実際に電車をお化け屋敷にするなんて、かなり斬新な取り組みですよね」
「もともと銚子電鉄さんが、何にでも挑戦する社風だったから実現できたんですよ。普通の鉄道会社さんなら、こんなこと許可がおりませんから」
「あと、実現できた背景には、地元の人にすごく愛されてるというのもあるんじゃないでしょうか」
「そうなんです。今回のイベントでも、沿線の方に協力頂いたり、地元の学校の生徒がバイトとして手伝ってくれたりして……」
僕らが『お化け屋敷電車』に乗った時も、地元の女子高生が受付をしていました
「『お化け屋敷電車』とは別に、駅の建物を使った『お化け屋敷』もやってるんですが、どちらも学生さんがお化け役をやってることが多いんです。菊地さん、『お化け屋敷』は行きました?」
「いえ、そもそもホラーがあまり得意じゃないので、『電車』だけでオナカいっぱいになるかなと。実際、もう勘弁してください……ってなっちゃったし」
「え~!? 『電車』のチケットを持ってたら、『お化け屋敷』は無料で楽しめるんで、見なきゃ損ですよ。今から行ってみたらどうですか?」
「いや、本当に怖いの苦手なんで」
「まあまあまあ、是非ぜひ! 全然怖くないですから! お子さまも楽しめますから! さあ、ほらどうぞ!」
・
・
・
ああああああああああああああ!!!!!!
わっ!わっ!わっ!わ~~~~~!!!!!
ヒイイィィィィ~~~!!!!!
はぁっ……はぁっ……怖かった……
ギャアアアアアアアアア!!!!!
・
・
・
「おっ、帰ってきた。どうでした?」
「怖いわ!!!!!」
「それはよかった(笑)。ありがとうございます」
経営難から抜け出す秘策はお菓子作り?
「お化け屋敷電車もそうですが、銚子電鉄ってぬれ煎餅とか、鉄道会社とは思えないようなことを色々なさってますよね。なぜなんでしょうか」
「簡単にいうと経営難から脱出するためですね。実は、銚子電鉄は7年くらい前から経営難に陥っていて」
「そうなんですか? だから、ぬれ煎餅を作ったってこと? そんなことで経営難をなんとかできるんでしょうか?」
「そうですね、実は、銚子電鉄は売り上げの7割がぬれ煎餅なんです」
「えーー!! いやそんなわけないでしょ! 電車の会社ですよ? ぬれ煎餅が7割とか……え、マジですか?」
「本当です(笑)。銚子電鉄は、帝国データバンクにも『米菓製造会社』としても登録されているんですよ」
「『電鉄会社』だけじゃないんだ!!」
「まさかそんなに経営難だったとは思いませんでした」
「全盛期は年間利用者数250万人以上だったんですが、近年は、銚子市の過疎化や観光客の減少により乗客数が激減しました」
「ここでも地方の過疎化問題の影響が」
「そして平成18年、ついに行政からの補助金が打ち切りになってしまったんです。同時期、追い討ちをかけるように、国土交通省から老朽化した線路や踏切を改修するように命令が下りました」
「絶望的なタイミング……」
「かかる費用はざっと見積もっても5,000万円以上。その時、銚子電鉄の通帳残高はたった200万しかなかったそうです」
「なんとかしなきゃ!と考えてたどり着いた結果が、銚子名物のぬれ煎餅を売ろう!ということだったんです」
「いや、どうしてそうなった」
「最初は思うように売れず、社内からも『もう銚子電鉄は畳むしかないのか』と声が上がっていたそうです。それでも諦めずに『電車の修理代を稼がなくちゃいけないんです』とインターネットや駅のホームで売り続けた結果……」
「結果……?」
「ブログやSNSで拡散され、『私もぬれ煎餅を購入したい!』と膨大な数の問い合わせメールが届くようになりました。その後、メディアに取り上げられ、ぬれ煎餅は爆発的な売り上げを記録しました」
「おぉ!で、肝心の修理費用は……」
「無事に修繕費用を賄うだけでなく、経営自体も続けられるようになりました!」
「こんなミラクルある?」
「ただ最近は、そのぬれ煎餅の売り上げも低迷していて……」
「また!?」
日本人なら誰しも既視感のある『まずい棒』の誕生秘話
「何回存続の危機を迎えるんですか」
「なので今は、お化け屋敷電車のような新しい取り組みに挑戦したり、ぬれ煎餅に変わるヒット商品を開発しているんです。例えばこういったものですね」
「経営状況がマズいから、ということで『まずい棒』です」
「あれ? なんか商品名とシルエットにすごい既視感が……」
「え? 何か言いました?」
「いえ、何でもありません」
「おかげさまで、このまずい棒が大ヒットしていて。様々なメディアから取り上げていただいて、今は品薄状態なんです」
「さっき駅の売店で、『まずい棒ください』って言ってる人が何組かいたんですけど、『売り切れちゃいました』と言われてました。パッケージのデザインがキャッチーだからか、若い女性にも人気があるみたいですね」
「パッケージは、私がラフを書いたんですよ。これなんですけど……赤字経営ということで、目が血走った感じにして」
寺井さんが実際に書いたラフ
「画力ひどい」
「まあまあ、ラフですから。描き終わって気づいたんですけど、これ……日野日出志先生のタッチに似てるな、と」
「日野先生ってホラー漫画家の……?」
「そうです、あの日野先生です。そこで、思い切って先生に『ある商品のために私が描いたこのラフ、先生のタッチに少し似ていませんか? ぜひパッケージのイラストを描いて頂けないでしょうか』ってダメ元でお願いしたんです」
「たまたま描いたヘタなラフが、たまたま似てるからイラスト描いてくださいって、無法にも程があるでしょ」
「ところが、快く承諾してくださって」
「まじか」
「もともと鉄道が好きだった日野先生は、銚子電鉄の現状を知って、力になりたいと思ってくださったそうなんです」
「鉄道を愛する想いから、引き受けてくれたんですね。マンガはあんなにエグいのに、先生自身はメチャ良い人なんだ……」
「そうなんですよ。『ここはこうしたほうが良いんじゃない?』など意見も頂いて。結果、こんなに皆さんに愛される商品になった。あの時、日野先生のタッチに似たラフを描いてよかったですよ」
「あの~、さっきから何回も『タッチが似てる』っておっしゃってますけど、言うほど似てないですよ。そもそも似てるといえば、もっと似てるお菓子が……」
「え? 何か言いました?」
取材を終えて
というわけで今回は、経営難を脱出すべく様々なことに挑戦し続ける銚子電鉄さんを取材しました。
挑戦はまだまだ続いています。
『古き良き日本』の雰囲気を楽しんでもらえるように、車内を改装した『大正ロマン電車』の運行を行なっていたり……(※運行予定日時は要確認)」
さらに今後は、冬にイルミネーション電車を運行したり、『銚子電鉄えきクエスト』という街歩きアプリのリリースなどを予定しているそうですよ!
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・公式HP
過疎化の影響で利用者が激減しても、電車がなければ生活が成り立たない方々がいる……。そんな人たちのために、チャレンジを続ける銚子電鉄さんを、僕はこれからも応援していきます!
では、僕は頂いた『まずい棒』を食べながら、東京に帰ります。
やっぱり、どこかで見たことあるんだよなぁ……
サクッ
……
……
…
うまい……
(おわり)