こんにちは!ライターの菊地です。
先日、インスタグラムで気になるアカウントを発見しました。
愛媛県今治市在住の「ミチコさん」という女性のファッションを、ファンが投稿しているんです。
女優でもモデルでもない女性のファッションを「ファンが投稿」って……どういうこと?
でも、見れば見るほどミチコさんはおしゃれです。どのコーディネートも彩り豊かでとっても個性的。なのに上品な雰囲気が漂っている…!
どうして攻めたファッションをしているのに、オシャレに見えるんだろう……?
ちなみに僕の場合、全力で色を取り入れても大抵こうなります。我ながら……微妙……!
ダサファッションから抜け出す「おしゃれの極意」が知りたすぎて、すぐに東京から飛行機に飛び乗り、ミチコさんのいる今治へと向かうことにしました。
商店街からおしゃれを発信するミチコさんに、突撃訪問
東京から飛行機と電車を乗り継ぎ、今治の商店街「いまばり銀座」に到着しました。土曜日のお昼だというのに、人っ子一人見当たらないことに若干の不安を覚えつつも……
TEXTILE・UDAKA(テキスタイル ウダカ)。世界中の布を取揃える老舗
到着しました。ここがミチコさんのお店「テキスタイルウダカ」です。
こんな閑静な商店街にミチコさんは本当にいるのだろうか…。
……
…………
ガチャ……
いた……!
間違いない! あの華やかな出で立ちと気品のある微笑み……ミチコさんだ!!!!
「突然すみません!ミチコグラムがあまりに素敵だったので、つい東京から来ちゃいました!菊地といいます!」
「あらあら、アレをご覧くださったの? なんだかお恥ずかしいわ(笑)」
「あの……僕もミチコさんみたいにオシャレになりたいんです!」
「あら、せっかく来ていただいたのに申し訳ないのだけれど、オシャレというのは、誰かに教わるものではないの。私は、オシャレには正解なんてないと思っているわ」
「オシャレに正解はない……? でもファッション雑誌には、セオリーやオシャレの法則が載ってますよね? そこをなんとか……」
「うふふ、少し落ち着いて(笑)。これからお昼を食べに行くんだけど、ご一緒しません? そこでお話ししましょう」
ミチコさんの行きつけ「Cafe warm(カフェ 魚夢)」。お魚料理とブラジル料理が名物
「魚夢(うおむ)のお魚はね、本当に美味しいのよ」
「ありがとうございます。それにしても、やっぱりオシャレですね……!」
「今日はね、花柄のジャケットにピンクの帽子とストールを合わせて、淡い桜色でまとめてるの。春を感じられるようにと思って」(※取材は3月末)
「ちゃんとファッションに季節感を取り入れているんですね」
「ミチコグラムはどれも魅力的なんですが、僕はこのコーディネートが好きです」
「これはね、襟元の黒いレースがポイントなの」
「こっちのコーディネートもセーラー服みたいで素敵だなぁ。エメラルドブルーがいい味を出してますね」
「これはシルクだから着心地も素晴らしいのよ。シューズと帽子も同じ色にしてみたの」
キッカケは『商店街のためになれば』と想う気持ち
「ミチコグラムの投稿は、ファンの方がされているんですよね。キッカケはなんだったのでしょうか」
「私はインターネットのことは全然わからないから、撮影から投稿まで全部お願いしているの」
ブラジル人の旦那さんとカフェを切り盛りしているさわかさん(写真左)
「ミチコグラムは、ファンの方から『オシャレなミチコさんのファッションをインスタグラムに投稿したい!』という要望から始まっているんです」
「そうなの。それまでは私、インスタグラムの存在さえ知らなかったのよ」
「商店街はご覧の通り、人通りも減って寂しくなっています。でも華やかな服を着てニコニコしているミチコさんがいるだけで、みんなが明るくなるんですよ。ミチコグラムは、この商店街にも素敵な人がいることを知ってもらうキッカケになっているんです」
「たしかにココへ来るまでにすれ違った人たちが、ミチコさんに楽しそうに声をかけていたのが印象的でした」
その日に水揚げされた新鮮な魚をつかったお刺身定食(800円)
オシャレは誰のためでもなく自分のために
「でもミチコさんは、どうして毎日オシャレに気を遣っていらっしゃるんですか?? 少し失礼な物言いになってしまうのですが、この商店街ではオシャレしても人に見てもらえる機会が少ないような気が……」
「もちろん人に見ていただいて褒めてもらえるのは嬉しいことよ。でも……」
「でも……?」
「オシャレは自分のために、自分が好きな服を着ることだと私は思うの」
「オシャレは自分のため」
「そう。だから、人に見てもらえるかどうかは関係ないの」
「僕の場合、自分が好きな服ばかり着ていると周りから『ダサい』とか『流行遅れ』とか言われちゃって。だからファッション雑誌に載っている流行の服を着るようにしているんです」
「そうねぇ…。でも、流行を追いかけることがオシャレというわけではないと思うの」
「…?」
「雑誌に載っている洋服が本当に好きで着ているならいいの。でも、ファッション雑誌に載っているというだけで着るのはオシャレとは違うと思うのよ」
「でも流行を追っかけるのが一番楽なんですよね。雑誌に載っている服って『これさえ着ておけば正解!』みたいな気がして。流行を気にせずに服を選ぶとなったら、どうやって選んだら良いのかわからないなぁ……」
「難しいことじゃないのよ。自分の好きな服を着れば良いの。オシャレに良し悪しなんてないわ。自分が良いと思うものが良いものよ。菊地さん、うちの店へいらっしゃらない? 私が好きな布ばかり集めているのよ」
服は捨てずに、ゆっくりと思い出を詰めていく
「わあ、すごい量の布ですね」
「世界中から仕入れたのよ。この布を使って、お客さまのオーダーに合わせたお洋服を作っているの」
「なるほど……ミチコさんは華やかな服を着ていることが多いですよね。それもやっぱり、ご自身が良いと思うからですか? 」
「そうね。明るい色の服を着ていると、光が反射して顔が明るく見えるの。それに好きな服を着ていると、人は自ずと笑顔になるのよ。だからオシャレを楽しんでいる人は輝いて見えるの」
「似合うかどうか、良いか悪いかではなく、好きな服を着て楽しむことが大切だと」
「そうね。それに毎年のように流行を追いかけていたら、お洋服がもったいないと思うの。まだ着られるのに流行遅れだからと言って捨ててしまう人も多いでしょう? それに最近は、断捨離といって物を減らすことが良いとされているけどね……」
「ミニマリストという言葉も話題になりましたね」
「私ね、断捨離ができないの。まだ使えるものを捨ててしまうなんて……。お洋服は着れば着るほど、愛着が湧いて思い出が詰まっていくのに」
「思い出が詰まっていく……。素敵な言葉ですね」
「お洋服はね、1年や2年着ただけで捨てるものじゃないの。私の若い頃は、まだ量販店も少なくて、お洋服といえばオーダーメイドすることが普通だったわ。ブラウス一着にしても安くなかったから、ほつれたり破けたりしたくらいならお直しするのが当たり前だったのよ」
数十年以上も前から愛用しているシルクのジャケット。胸元についている白いレースは、最近アレンジして付けたという。思い出をそのままに、新しい服へと進化させていくのがミチコさん流
僕たちの『欲しい』が世界のどこかで誰かを苦しめている?
「私は今年で77歳になるけれど、今でも40歳の頃に作った洋服も着ているのよ。手入れをきちんとすれば、何十年でも着ていられるの」
「30年以上も着ている洋服があるんですか!?」
「そうよ。大切にして長く使った方が、みんなにとって良いことでしょう。着ている本人はもちろん、作ってくれた人や環境にとっても」
「大量消費社会について考えさせられます……。僕は、服に穴が空いたら捨てて、少しでも安い服を見つけては短期間で買い換えてました」
「時代も変わっているから、菊地さんが悪いわけじゃないのよ。最近は一着のお値段が安い服も多いでしょう? お直しするよりも、新しいものを買った方が安いんだから、そういう考え方になってしまうのもわかるわ。でも、安い物には理由があるのよ」
「理由?」
「安く売るためには、安く作らないといけないの。つまり安い生地と、安い賃金で働く人たちが必要になるのよ」
「以前、途上国で激安のTシャツをつくっていた縫製工場で事故がありましたね。服を低コストで大量に作ろうとしたばっかりに、安全面をおろそかにした結果だったと聞きました」
「決して他人ごとではないのよ。『少しでも安い服が欲しい』と私たちが願った結果。だから私は、1年後に捨てられるお洋服は作らないの」
「服に対する向き合い方を変える必要がありそうですね……。僕もこれを機に、流行を追いかけたり安いから買ったりするのはやめて、自分の好きな服を長く着ようと思います」
「そうね。自分の好きな服と一緒に歳を重ねていけたら、素敵ね。そうすればもっとオシャレが楽しくなるわよ」
「ちなみにミチコさんのお店で服を作ってもらうためには、予算はどのくらいあればお願いできますか?」
「それは難しい質問ね(笑)。例えば菊地さんは、家を買うときに『いくらで作れますか?』ってお聞きになるかしら? 」
「……うーん、たしかに聞かないかも」
「お洋服もそれと同じなの。お伝えいただいた予算の範囲で、ご希望に添えるようなお洋服を作らせていただくわ。何十年も着られるお洋服をね」
取材を終えて
軽い気持ちでお話を聞きにいった僕でしたが、取材を終えたあと色々と考え込んでしまいました。
というのも僕はライターになる前、ファストファッションの企業にデザイナーとして勤めていた時期があったのです。
ワンシーズン持つか持たないかの品質の服を原価100円前後で作り、毎月のようにセールをしては大量に販売していました。
今回ミチコさんの話を聞いて、僕は気づいていたけど気づかないふりをしていた現実を目の当たりにしたような感覚に陥りました。
流行を追うこと、オシャレを楽しむこと。僕は今一度、この2つのあり方について考えてみようと思います。
季節はもうすぐ秋に差しかかろうとしています。
これからあなたはどんな服を買いますか?