ビーーーーーール!!!!!
と、見せかけてライターの根岸達朗です。
あんまりおいしいので大きな声を出してしまいました、すみません。
夏はやっぱりビールが最高ですよね。
最近はおいしいクラフトビールが楽しめるお店があちこちに増えてきて、お酒好きとしてはうれしいかぎり。
スーパーやコンビニでも国内外問わず、いろんな種類のクラフトビールがラインナップされるようになって、選ぶ楽しさが年々広がっているなあと感じます。
とはいえ、ひとことにクラフトビールとはいっても、種類はいろいろ。
銘柄の名前を聞いても覚えられないし、ただひたすら飲むばかりで、知識が深まっていかないなあ……と思うこともしばしば。
この機会にクラフトビールのことを勉強してみたーい!
というわけで、やってきたのが東京の奥座敷、奥多摩にあるこちらのお店!
TEL:0428-85-8590
住所:東京都西多摩郡奥多摩町氷川212
営業時間:11:00〜22:00
定休日:木曜
唐突にこんなことを言うのもなんですが、こちらのお店で作っているビール、めちゃくちゃおいしいんですよ〜〜〜。
2015年のオープン以来、多くのアウトドアファンや観光客が足を運んでいて、奥多摩のブルワリーといえばバテレ!というくらいに注目されている人気店です。
古民家を改装した店舗はめっちゃおしゃれだし……
窓の外は一面の緑でロケーション最高……
(名前は覚えられないけど)いろんなフレーバーのビールが楽しめるし……
おいしいおつまみも充実……
しかも、駅徒歩30秒という好立地!
クラウドファンディングを利用して資金を集め、都心ではなく奥多摩というローカルな土地にあえて店を開いているところにも、着眼点の良さを感じずにはいられませんよね。
経営者は20代の男性二人組。
左が醸造長の辻野木景(つじの・こかげ)さん、右がバテレ代表の鈴木光(すずき・ひかる)さん
今回はそのうちの一人で、醸造長の辻野木景さんにクラフトビールのあれこれについて、話を聞きました。
なお、今回はバテレのビールの大ファンで、ビールと遊ぶきっかけをつくる架空の酒屋「あおにさい酒店」として活動する工藤葵(くどう・あおい)さんも取材に同行。
一緒にクラフトビールの勉強をしてきました。
「今日はよろしくお願いします!」
「はい、こちらこそ! まずは醸造所をご案内しますね」
奥多摩産のビールを目指して
「わー醸造所に入るのは初めてだなあ……(どきどき)」
「私も……」
「ここはモルト室ですね。ミールという原料となる麦芽を保管しています」
「へえ、いろいろあるんだなあ」
「ドイツやイギリスの麦、このほかに北米系の麦やオーストラリアの麦などをいろいろと組み合わせたりしながら使っています。奥多摩で麦を育てている人からゆずってもらうこともありますね」
「あ、地元のものも使うんですか?」
「はい。まだ実験的な段階なんですが、麦のほかに、地元の町おこし団体にホップの栽培もお願いしていて。ホップ、ちょっと香り嗅いでみます?」
ビールの苦味や香りのもとになるホップ
「あ〜〜! ビールの香りがする〜!!」
「なかにルプリンっていう樹脂が入っていてそれが香りのもとになっているんですよね。いずれは麦芽もホップも、原料ぜんぶを奥多摩産にできたらいいなあと思っていて」
「おお、それはいいですね。地産地消的な」
「はい。ただ、やっぱり奥多摩で作ってもらうものだけだと量が少ないんですよ。奥多摩の山は杉だらけですけど、それが全部ホップだったらいいのになあって、実は密かに思っていて。そしたら、花粉症もなくなりますしね」
「はは、確かに。じゃあ奥多摩でまかなえない分のホップはどこから?」
「商社を通じて、アメリカやドイツから輸入しています」
「日本のホップ農家さんから買うことはないんですか?」
「今のところないですね。というのも、日本のホップ農家さんって、ほとんどが大手メーカーとの契約栽培なんですよ。だから僕たちみたいな、小さなブルワリーでは買えないんです。それでも買うというのなら、大手メーカーを通じてお願いしないといけなくて」
「なるほどー。そういう事情が」
「だからというわけではないですが、自分たちのローカルな関係性で原材料を仕入れることができたらやっぱりいいなあとは思いますね。地元のものだけでおいしいビールができたらそれは最高ですから」
バテレのビールが生まれるところ
「こちらは仕込み室です」
「へえ、いろんな機械があるなあ」
「一つひとつの設備を説明すると専門的になっちゃうので省略しますけど、ビールができる工程ってそれほどむずかしくないんですよ。簡単に言うと、麦をお湯で煮込んで、香りのもととなるホップを入れて、あとは酵母を入れて発酵させればできあがりです」
「わりとあっさり解説してもらいましたけど、いろいろコツがあるのでは?」
「そうですね。ひとつは麦とホップの煮込み時間ですね。苦くしたいなら煮込み時間を長くするし、逆に香りの良さを引き立てたいなら浅く煮込みます」
煮込み時間と麦芽の種類(焙煎度合)によって、ビールの色が変わる。ビールの名称は左から「Red IPA」「Cream」「Weizen」「Session IPA」「Golden」
「なるほどなるほど。色の違いはそういうことだったのかー」
「あとのポイントはやっぱり、どういう酵母を使うかですね」
「ああ、酵母! 確か、酵母が原料に含まれている糖分を食べてアルコールを発生させるんですよね。以前ジモコロの企画で少しだけ勉強したことがあるなあ」
「酵母にもいろんな種類があって、みんな性格が違うんです。あいつはこの麦をよく食べるとか、この麦はあまり食べないとか。あいつはこの麦を食べるとこういう匂いを出すとか。人間に違いがあるのと一緒で、酵母にもいろんなタイプがいるんですよ」
「つまり、原材料も酵母も、組み合わせが無限大にあるということですよね。おもしろいなあ。自分でもつくってみたくなります。ほら、葵さんもビール好きならつくってみたくなりません?」
「私はおいしいビールをみんなに広めたい人なので、つくらなくていいんです」
「そ、そっか……(いろんな関わり方があるな)。ちなみにタンクひとつでどのくらいの量が仕込めるんですか?」
「1タンクで580リットルです。前は130リットルのタンクで仕込んでいたので、おかげさまでだいぶ規模が大きくなりました。あと最近はこの醸造所の横にグロウラーショップもオープンしたんです」
「グロウラーショップ?」
「はい。グロウラーショップというのは、マイボトルでビールのお持ち帰りができるお店のことです」
バテレオリジナルのグロウラーボトル。ショップ開設時におこなったクラウドファンディングのリターンとして提供された。
「へえ。ビールをそういう風に買ったことがないから興味があるなあ」
「日本酒だと量り売りっていうのがありますけど、それと同じことをビールでやっています。奥多摩はキャンプや釣りとか、いろんなアクティビティが楽しめるところなので、自然を感じながらビールを楽しむ体験をしてもらえたらうれしいですね」
「いいなあ。新しいことにどんどんチャレンジしてすごいですね」
「それなりに投資をしている分、がんばらなくちゃーっていうのはあるんです。ただそうはいっても、大手と張り合おうとかもぜんぜんないですし、奥多摩のローカルでマイペースにやれればいいと思っているんですよ」
若者たちが「ビール」を選ぶ理由
「ところで木景さんはどこかでビールの修行をしたんですか?」
「高円寺で自家製ビールをつくっている『麦酒工房』というお店で、3年間働かせてもらったんです。僕、阿佐ヶ谷出身で家がめっちゃ近かったんですよ。そこでバイトしたらビール飲めるし、作り方も教えてもらえるし、最高だなと思って」
「それはいいなあ。ビールがつくりたかったんですか?」
「そういうわけでもなかったんですけど、ひとつのきっかけは今、バテレの代表をしている鈴木との出会いですね。鈴木とは高校から一緒なんですけど、あいつ出会ったときからずっと『俺はいつか社長になりたいんだ!』と言っていて」
バテレ代表の鈴木光さん
「へえ。鈴木さんはビジネス志向の人なんだなあ」
「はい。それもあって、昔からいつか一緒に何かをやろうという話もしていて。ただそうはいっても、自分たちには実績もないし、武器になるものも何もない。これじゃ誰も相手にしてくれないよね、ということで話合った結果、いったん距離を置いて、鈴木が金を貯めて僕が武器をつくる、ということになったんです」
「ときが来たら再会しようというような? ドラマチック……!」
「名前も『光』と『景(かげ)』ですから」
「そんなことあるんだ……」
「で、僕は当時、家業の便利屋を手伝っていたんですが、たまたま近くにその『麦酒工房』があったんです。ビールはもしかしたら武器になるかもしれないと思って働き始めたんですが、鈴木も店に飲みに来てくれて、『これだったら絶対にいける!』と言ってくれて」
「物語があるなあ。じゃあ、葵さんはどういうきっかけでビールの道に?」
「私は純粋にクラフトビールが好きでいろんなところで飲んだりしていたんですよね。で、ビールを普段あまり飲まない同世代の若者にビールってこんなにおいしいし、楽しいんだよーということを伝えたいと思ってイベントを始めて」
「へえ。どんなイベントなんですか?」
「例えば、こないだやったのは、バテレの『Cream(クリーム)』というビールを、歌舞伎町の喫茶店で音楽を聞きながら飲むというイベントで。『Cream』はまったりしていて、じっくり飲めるビールなので、喫茶店の雰囲気にとても合うんです」
マイルドな味わいで人気がある「Cream」。アルコール度は5.5%
「私はお店を持っていないので、シーンの組み合わせでビールを楽しんでもらえるようなことがしたいなあと」
「なるほど。いろんな可能性がある活動ですよね」
「ビールって多種多様なんですけど、そのビールに対してどう過ごすのがいいのかという視点ではあまり語られていないんです。私は朝昼晩、いろんなシチュエーションでビールを楽しみたいと思うし、そうやってビールのある豊かなライフスタイルが提案できたら、みんなに幸せが広がるなあとも思っているんです」
みんな「ビール」でいいじゃないか
「確かにシチュエーションは大事ですよね。キャンプで飲むビールとかとてもおいしいですし」
「そうですね。僕も鈴木と店を始める前にこの近くの河原でキャンプしながらビールを飲んでいたんです。自然を感じながら飲むビールってやっぱりおいしくて、ここで店をやるしかないな〜って思いましたからね。気持ちいいところで飲んだ方が、ビールはおいしいというひとつの提案をしているつもりです」
「シンプルな動機で気持ちいいなあ」
「ただ、それが誰にとってもいいというわけではないだろうし、あくまでも僕たちはそれがおいしいと思う、ということでもあるんですよね。だからうちが『これは冬向けのビールなんです』と言っても『自分はそれを夏に飲みたいんだ』という人がいても当然いいわけで」
「うん。解釈の仕方はいろいろですね」
「ビールってそもそもそういうものなんだと思います。誰でもつくれるし、誰でも好きに楽しめる。その自由さとか、敷居の低さが僕は好きなんです」
「確かに間口が広いですよね。でも、今年4月の酒税法改正で副原料の範囲が広がって、ブルワリーの新規参入がむずかしくなったという話も聞きます。簡単に言うと、これまで『発泡酒』扱いだったものが、『ビール』と表記しなければならなくなったわけですよね」
「はい。うちのように生産量の上限規定が低い発泡酒免許でやっているところは、これまで使えていた副原料を使うと『ビール』になってしまいますから、その副原料の使用にこだわるなら新たに免許を取得しなくてはいけなくなります。それによって醸造スタイルを変えなければならなくなったブルワリーさんもいるとは思います」
「みんなもっと自由にビールをつくって売れたら楽しいですよね。クラフトビールという定義付けもなんか世界を狭めているような感じがしてしまって」
「そうですね。別にクラフトビールを定義する必要はないですし、僕は大手メーカーがつくるビールも好きです。だから、呼び方はみんなビールでいいんじゃないかなと思っていて」
「ほんとですね」
「ただ、どんなビールもちゃんと気持ちを込めて、おいしくつくろうとすることは大事ですし、そういうビールがいいビールなんだと思います。そこに競争は必要ないし、僕たちの店の隣で別の醸造家さんがビールを作り始めるようになってもおもしろいなあ、なんて思うんですよ」
まとめ
ビールに向き合う人々の健やかな感性に触れた今回のインタビュー。
多様なビールがあるからこそ、僕たちは多様な物語に出会えるし、あらゆるものが多様であることのおもしろさにも気付かせてもらえるのでしょう。
今はクラフトビールという言葉がもてはやされる時代だけれど、同じビールに垣根なんてないはず。本当に多様性あふれるおもしろいビールの時代は、世の中からクラフトビールという言葉が聞かれなくなった頃から始まるのかもしれません。
奥多摩のローカルとつながりながら、ビールの世界を自由に遊ぶ「バテレ」と、ビールのある世界観をのびのびと表現する「あおにさい酒店」。
今後の展開にぜひ注目してみてください!
というわけで失礼して……
ごくっ……ごくっ……
んー……
夏のビールは最高だなあ。
ではまた!