みなさんこんにちは。ライターのきむらいりです。
突然なのですが、「人を見かけで判断してはいけない」と実感することってないですか。
たとえば、いつも首に鎖を巻いているのに実は金属アレルギーなプロレスラーの真壁刀義さんや、スイーツキングとしてバラエティ番組に出まくっているX JAPANのToshlさん。彼らをテレビで見るたびに「人は見かけによらないなあ」と思わずにはいられません。
ほかにも最近、「見た目で判断してはいけない」と強く実感する出来事がありました。それは、秋田県でのなまはげとの出会いです。
なまはげとは?
秋田県西部に位置する男鹿半島で行なわれる、伝統的な民俗行事。大晦日の夜に「泣く子はいねがー、親の言うこど聞がね子はいねがー」などと叫びながら、地域の家々を巡る。
なまはげに扮装するのは集落の青年たち。昭和53年には「男鹿のナマハゲ」として、国重要無形民俗文化財に登録されている。
なまはげの語源は、「火斑(ナモミ)を剥ぐ」という言葉が訛ったものといわれています。長時間火にあたっていると、火斑と呼ばれる赤い斑点が手足にでることがあります。この火班を方言で「ナモミ」といい、冬に囲炉裏などで暖をとってばかりいる怠け者を戒めるため、「ナモミを剥ぎ取りに来る存在」が、なまはげなのだそう。
「悪い子はいねが〜〜」「泣く子はいねが〜〜」と子どもたちに迫る様子は、完全にトラウマレベル。しかも、あの見た目でナモミを剥ぎ取りに来るんですよ……? はっきり言って「怖い」の一言に尽きます。
な・の・で・す・が!
みなさん知ってました?
なまはげって、実はめちゃくちゃイイやつなんですよ。
今回は、世間が抱いているなまはげのイメージを塗り替えるべく、GIF漫画を用意しました。
作ってくれたのは、GIFアニメーション制作をメインに活動している、イラストレーターのクイックオバケさん。
わたしが秋田で見聞きしたことをもとに、なまはげが誤解されていることを力説したところ、こんなGIFを作ってくれました。
はい、イイやつ〜〜。
ちなみにクイックオバケさんの普段の作品はこんな感じ。
— クイックオバケ (@QuickObake) 2018年2月24日
真実を知ってしまったからには、もっと多くの人に本当の姿を知ってほしい!
ということで、ただのおせっかいかもしれませんが、見かけによらずイイやつだったなまはげについて紹介させてください。
みんな、アイツのこと誤解してるって!
実はイイやつ、なまはげの正体って?
訪れたのは、なまはげゆかりの地である、秋田県男鹿市にある真山(しんざん)神社。この神社では、毎年二月に「なまはげ柴灯祭(せどまつり)」が行なわれています。
その真山神社で、こんな看板を見つけました。
真山神社の特異神事として行なわれている「柴灯祭」について書いてあるところ、よーく見てみてください。
神の使者、って書いてあります。
しかも村内安全・五穀豊穣・大漁満足・悪疫除去の、神の使者。
この時点で「あれ? なまはげって子どもたちを脅かして、いい子にさせるためのものじゃないの?」と思いはじめます。
社務所には柴灯祭で使われるなまはげの面が置いてあるのですが、
髪はボサボサだし、口からはモリモリ毛が飛び出ています。これが神様の使い!!? 人のようで、人じゃないような……。
もっと鬼っぽい見た目を想像していたため、戸惑いが隠せません。
「なまはげって一体なんなの……??」
ますますわからなくなったので、真山神社の隣にある「なまはげ館」に行ってみることにしました。
※なまはげ館に併設されている「男鹿真山伝承館」では、真山地区のなまはげ行事体験をできるのですが、取材日はあいにく休館日でした……。
街灯も、なまはげ!!
なまはげ館には名前の通り、なまはげに関連するさまざまな展示があります。
そこで目にした男鹿のなまはげは、わたしが想像していたものとは、すこし違っていました。
ドアを叩き、荒々しく現れるなまはげですが、わざと大きな音を立てるのは悪いものを祓い落とすため。
家中を歩き周り、そこかしこに落としていくケデと呼ばれる衣装の藁は、無病息災のご利益がある縁起物。
男鹿の人たちにとっては年の節目にやって来る来訪神であり、一年の厄を祓い、新年を迎えるにあたっての祝福の意味もある、ありがたい行事。
一見コワモテだけど、無病息災、田畑の実り、山の幸、海の幸をもたらしてくれるなまはげって、本当はハチャメチャにありがたい存在だったんです……!
60地域、150枚。多種多様ななまはげの姿
なまはげ館には、男鹿市内60地域のなまはげのお面が展示されています。一部を除いて、ほとんどが実際に使われていたものです。
その数はなんと、150枚!!
地域によって見た目の特徴は異なり、なかには全然怖くないなまはげもいることがわかりました。
ずらり、なまはげ
いわゆる赤鬼っぽいのもいれば……
緑色の顔に赤と黄色の目は、なまはげというよりデビルっぽかったり、
もじゃもじゃヘアーとヒゲで、おじさん感強めだったりするなまはげも。
メタリックなやつもいるし、
これとか絶対知能指数高めでしょ……。
しかも、なまはげの起源については諸説あり、「漢の武帝説」や「修験者説」、「山の神説」、「漂流異邦人説」など地域によってさまざまな説が語り継がれているんです。
あれだけ種類豊富ななまはげのお面を見たあとだと、どの説も「たしかに、そうなのかも」と思えてしまうから不思議……!
鬼のようだったり妙に人っぽかったり、カラフルさがどこか異国の雰囲気を感じさせたり……。こうしたバリエーションの豊富さは、諸説あるなまはげの起源にも由来するのかもしれません。
衰退しキャラクター化する、伝統文化としてのなまはげ
秋田空港で遭遇したなまはげ御一行
なまはげの真の姿を知り、衝撃を受けた日の夜。
たまたま立ち寄った温泉で、地元のおじちゃんとお話する機会があったので、なまはげの話を振ってみました。
「今日、男鹿のなまはげ館に行ってきたんですよ〜」
「お、どうだった?」
「小さい頃、親に『いい子にしてないとサンタさん来てくれないよ』と言われていたのを思い出しました。男鹿の子どもたちは『いい子にしてないとなまはげ来るよ』と言われてるんだろうな、って」
「そうだなぁ。んだけど、最近はなまはげをやる地域もだいぶ少なくなってんだよ」
「え! そうなんですか? 今でも男鹿市内全域で行なわれているものだと思ってました!」
「そもそも子どもが減ってるし、なまはげ役の若者も減ってる。それに、家々を回ってたくさんお酒を飲むから、酔っ払ってトラブルになることもあるみたいでな」
「ええ〜! そんなことが……」
「んでも、柴灯祭みたいな祭りは今でもやってるし、観光としてなまはげをたのしむには充分だけどな!」
「秋田の人にとってなまはげは、観光資源として最適化されたキャラクターみたいなものになってるのかあ……」
おわりに
子どもたちにとっては、トラウマ級に怖い存在であるはずのなまはげ。日本の大切な伝統行事として後世にも受け継がれてほしいと願う一方で、地元のおじさんの話によると、悲しいかなしっかりと少子高齢化の波を受けているようでした。
……どうですか、みなさん。
「なまはげのこと、誤解してたわ……!」と、すこしでも思っていただけたでしょうか?
では、最後に改めて、こちらをご覧ください。
「中身を知る前に見た目で判断しちゃいけない」という教訓エピソードとして、心に留めてくれたら幸いです。
そして、秋田県に立ち寄る機会があれば、ぜひ「なまはげ館」まで足を運んでみてください。
150枚のなまはげのお面が並ぶ様子は、想像以上の迫力です。
それぞれにいろんな特徴があるので、自分の「推しなまはげ」を見つけるのもたのしいですよ!
わたしの推しなまはげはこちら。顔が大きくてずんぐりむっくりで、ちょっと抜けてそうなところが推しポイント
それではみなさん、またお会いしましょう!
よいしょ……
「泣ぐ子はいねがぁ〜〜」
写真:小林直博
GIFアニメーション:クイックオバケ(Twitter:@QuickObake)