株式会社バーグハンバーグバーグのかんちと申します。
福島県南相馬市生まれの33歳、みずがめ座、A型、男です。先日家族で実家に帰省したところ、海沿いにこんなものが4基建てられていました。
みなさんご存知、風車(風力発電機)です。
風の力でクルクルと羽を回転させて発電し、クリーンなエネルギーを生み出しています。
僕の地元(南相馬市)は東日本大震災以降、土地の有効活用や自然エネルギーへの関心の高さから、発電のためのソーラーパネルがあちこちに設置されていたのですが、ついに風車まで建てられたのかと驚きました。
近くで見るとバカでっかい!
この大きさが皆さんにも伝わるよう、僕と風車の大きさ比較写真を息子(4歳)に撮ってもらったんですけど……
ダメでした。
目測ですが、地上から羽の先端まで100mほどあるでしょうか。
しばらく息子と二人でウォンウォンと音を立てながら回転する風車を眺めていて、ふとこう思ったんです。
と。
地上のソーラーパネルであれば手の届く範囲で点検やメンテナンスできますが、あれほど巨大な建造物だとクレーン車などを使わないと難しい気がします。
そこでちょっと調べてみたところ、風車の点検・保守作業のエキスパートがいると知り、京都に飛び立ちました。
こちらが京都府京都市に本社を構える株式会社 特殊高所技術さん。東京と福岡にも営業所があり、全社員78名の会社です。
今回はお話を伺ったのはこちらのお三方。
「よろしくお願いします! 特殊高所技術さんでは風車のメンテナンス専門の会社なのでしょうか?」
「いえ、風力発電関連の業務は一部でして、一番多い仕事は橋の点検・調査の業務です。他にはダムや崖、道路の法面(のりめん)とといった急斜面の点検・調査業務なども行っています」
「橋の点検って、なんたら大橋やつり橋とかですか?」
「はい。もちろんそれも含まれますが、2m以上の橋は全て点検の対象となっていて、5年に1回近接目視することが法律で義務付けられています。ここで問題です。全国に2m以上の橋ってどのくらいあると思いますか? 約70万橋です!」
「(答えさせて!)」
「その橋がもし落ちてしまったら甚大な被害が出てしまいます。事故を未然に防ぐためにも定期的な点検が非常に重要となっています」
「そういえば橋じゃないですけど、数年前に中央自動車道の笹子トンネルで天井が崩落する悲惨な事故がありましたよね。高度経済成長期に作られたトンネルや橋の老朽化が進んでいてヤバい、といったニュースを見たことがあります」
「インフラの老朽化問題は国難とまで言われていますね。点検は橋に近付いたり重機使ったりして簡単にできるものもあるのですが、それが難しい場所もあるんです。そんな時に我々の出番となります」
「難しい橋の点検ってどんなのですか?」
「そうですね……」
「こんなのや」
「こういうのとか」
「こういうやつです」
「完全理解」
「このように私達は近接困難箇所と呼ばれる普通では近付けない場所に行って至近距離で点検します。そのあと図面に損傷箇所とその状態を記入し、損傷写真とセットで報告をしています」
橋梁点検報告書の例
「これで橋を補修すべきかどうかが判断できるんですね。事故を防いで人の命を守る重要なお仕事だ! 」
風車の点検は何するの?
「橋については分かりました! 風車の点検はどんな感じなのでしょうか?」
「そうですね……」
「こんなのや」
「こういうのとか」
「こういうやつです」
「最後カッコつけ過ぎでは?」
「すみません」
「これ、どうやって上まで登るんですか? ドラゴンボールのカリン塔みたいに1日がかりでよじ登るとか?」
「近いですが、上までは数分で行けます。タワーの内部に上まで一直線のハシゴがあって、機材抱えてひたすら登るタイプがありますね。他にも一人用ゴンドラがついていて自動で昇降するやつもありますよ。ゴンドラが動いている時はエレクトリカルパレードみたいなメロディが流れるんです」
「一生役立たない豆知識ありがとうございます! 点検はどのようにするのでしょうか?」
「模型を使って説明しますね」
「ここが風車のタワーの頂上で、ここに発電機などの装置が置かれています。ここまではハシゴやゴンドラでただ登ってくればいいので、言ってしまえば誰でも点検できる場所なんですね」
「ま、まぁ確かに」
「僕らはさらにそこからロープを使って移動し、この羽の先端まで至近距離で点検しています」
「それって双眼鏡やドローンでも出来ませんか?」
「近付いて触ってみないと気付かないような小さな損傷がよくあるんですね。そこに雨水が侵入して、湿ったところに被雷すればさらなる被害を招くことになります。そういった事故を防ぐためにも、近接点検にこだわっています」
「また点検・調査だけでなく羽の補修をすることもあります。羽の先端まで行きその場で補修したり、交換用のパーツを作って持っていって接着・塗装したりして補修します」
「宙ぶらりんの状態で補修作業するのすごい! 上の写真も雷による被害ですか?」
「そうですね。落雷によって羽の先端が破壊されたのを補修している様子です」
「風車の敵はカミナリなのか……。点検中に雷が来たらヤバくないですか?」
「そうなんです。風力発電機の点検の仕事で一番怖いのが雷なんです」
「どうやって仕事するんですか? 当たらないようにお守り持ったり祈ったりするしかない……?」
「風車の点検の際は、ストライクアラートと呼ばれる雷検知器を携帯しています。作業中にこれが鳴ったら急いで全員撤収します」
「へぇー、そんなガジェットがあるんですね」
Outdoors Technologies(アウトドアーズテクノロジー) 携帯型パーソナル雷警報器(雷検知器)ストライクアラート(StrikeAlert) 【日本正規品】
「あっ、Amazonだと意外と安い!買おうかな」
「なんで?」
「僕の地元に最近風車ができたのですが、風力発電機の数はどうなんでしょう? 橋に比べたら圧倒的に少ないのは分かりますが」
「日本の風力発電機は2017年3月現在で2203基あるそうです」
「少ない……ですよね……?」
「そうですね。風力による発電量は日本の全発電量の0.6%ほどしかありません。日本風力発電協会によると2050年には全発電量の10%以上を風力発電で供給するという目標を出しているので、今後さらに増えていくでしょうね」
「将来、日本のあちこちで風車がクルクル回ってるかもってことですね」
「はい。日本には風力発電向きの平地が少ないことや、周辺地域への騒音問題もあるので、今後は地上ではなく海上に風力発電機を設置することが増えていくと考えれています」
「海の上! 確かに騒音も土地の問題もクリアになるし良さそうです」
「欧州では洋上風力発電が急速に普及しているのですが、日本はかなり出遅れています。日本周辺の海は深く、発電機を海底に固定することが難しいんですね」
「日本海溝!」
「そこでいま、風力発電機を海にプカプカと浮かべる浮体式洋上風力発電という技術が研究されていて、実証実験が進められています」
浮体式洋上風力発電
「弊社ではこの海に浮かぶ風力発電機の点検もしたことがあり、それをやったのはうちの会社が世界初ではないでしょうか」
「これから浮体式洋上風力発電が普及したら、特殊高所技術さん、むちゃくちゃ儲かりますね!」
「日本は四方が海で囲まれていて、洋上風力発電のポテンシャルが世界で最も高いと言われています。クリーンなエネルギーが求められている今だからこそ、風力発電をもっともっと普及させてほしいですね。うちの会社も儲かりますし!」
この仕事の過酷なところ
「特殊高所技術さんは本社が京都にありますが、現場もこの周辺が多いのでしょうか?」
「現場は日本全国、北海道の端から沖縄の端までありますね。さらにタイやモロッコなど海外での事業も進めています」
「となると過酷な現場を色々経験してそうですね。坂井さんどうですか? 『あっ落ちて死ぬかも……』 みたいなことありませんでした?」
「死ぬかも、というのは無いんですが、カンボジアに『日本カンボジア友好橋(チュルイ・チョンバー橋)』という橋があって、数年前にそこを点検させてもらった時は現地の暑さにやられそうになりました」
「カンボジアって1年中30℃を超える気候ですよね……。そこでこの重装備キツい……。でも『日本カンボジア友好橋』と名付けられた橋の点検でぶっ倒れるわけにはいかないだろうし」
「そうですね。この仕事で怖いのは落下事故もそうですが、熱中症もなんです。安全面から肌を露出することもできませんし、このとき熱中症対策の大切さを改めて痛感しました」
「もし誰かが熱中症で倒れたらどうするんですか?」
「そういったもしもの時のための訓練もしています。訓練体験してみます?」
「いいんですか!? やったー!」
「では熱中症の人役でお願いします」
「熱中症の人」
こちらは本社内にある訓練施設。崖の下で熱中症になった僕を上から釣り上げて救出する想定です。
「熱中症になっちゃった……う゛ぅ……うぅ……」
「…………」
「大丈夫ですかー!? いまそちらに向かいます!」
「(あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ~~~~!こえぇ……)」
救出の様子
「救出完了です!」
「ナイスレスキュー! 助かって良かったですね」
パチパチパチパチ
「……救急車呼んで!」