こんにちは、ジモコロ編集長の柿次郎です。
突然ですが、「牛のおしっこが地球を救う」と聞いたら驚きませんか?
先日、僕は『道東誘致大作戦ツアーinオホーツク』というイベントで北海道の東側「道東」を訪れていたのですが……
そこで出会った液体が、地球を救うレベルでめちゃくちゃすごいヤツだったんです!
言葉であれこれ説明をするよりも、まずはこちらの水槽をご覧ください。
「水が濁っているなー」と思った方が多いのではないでしょうか。でも、水槽の右上にある注意書きをよく見てください。
なんとこの水槽、最後に水の交換をしたのが平成25年。つまり5年間、水換えをしていないそうなんです! しかもろ過装置は使っていないのに、水槽内をスイスイ魚が泳いでいます。
「5年間そのままなら、もっとドロドロの水になっているのでは…?」
「魚の健康状態は大丈夫なの…?」
皆さんの疑問がありありと浮かんできますが、驚くのはまだ早い。
実はこの水槽がキレイに保たれているのは、牛のおしっこで作られた液体を加えているからなんです!
それを聞いて、「え? 牛のおしっこなんか使って魚は大丈夫なの?」とさらなる疑問が生まれたはず。
というわけで積もりに積もった疑問を解決すべく、噂の液体の製造・販売元「株式会社環境ダイゼン」本社へとやってきました。
牛のおしっこから生まれた奇跡の液体『きえ〜る』
お話を伺ったのは、株式会社環境ダイゼンの創業者で代表取締役社長の窪之内 覚さん(写真右)と、代表取締役専務の窪之内 誠さん(写真左)。ちなみに2人は親子です。
「さっそくですが、水槽の水を5年も換えなくても魚が生きてるってすごくないですか? しかも牛のおしっこのおかげというのは本当ですか?」
「本当です。もちろん、おしっこをそのまま使っているワケではありません(笑)。水に混ぜているのは、牛のおしっこが原料の液体です。その液体に含まれる微生物の働きで、水はきれいな状態を保てているんですよ」
「水槽の底に黒く見えるのは、もともと魚の古い糞と餌の食べカスだったものです」
「『だったもの』とは…?」
「もう土に変わっています」
「水槽内で土に!!?? そんなことあります?」
「微生物の働きです。彼らは土に住み着き、新しく出た糞や食べカスも分解してくれる。だから、水換えをしなくても大丈夫なんです」
「……あ、よく考えたら自然界で行われている連鎖反応と同じなのか。月に1度、水換えをするよりも自然の環境に近いのかもしれませんね。そしてさっきから気になってるんですが」
「その『透明な液体』の種類めちゃくちゃ多い…。『きえ〜る』って書いてありますが、もしかして全部、牛のおしっこが原料なんですか?」
「はい。用途ごとにパッケージと商品名は変えていますが、どの商品も成分はだいたい同じ。牛のおしっこを乳酸菌や酵母菌などの微生物で分解した液体が原料になっています」
取材に同行していた小倉ヒラクくん。『発酵文化人類学』という本も出版している「発酵デザイナー」です
「急に失礼します! 発酵デザイナーの小倉ヒラクです。僕は発酵を研究しているので、微生物の話と聞いたら口を挟まずにはいられなくて。その液体に有機物を分解する働きがあるんですか???」
「すごい食いつきですね……その通りです。うちのメイン商品は『きえ〜る』という消臭剤なのですが、水中の常在菌を活性化させて、過剰な有機物を分解させる効果があるんです」
「あぁ! じゃあ、コンポストの液体版みたいなものですね!!! 」
「おっしゃる通りです」
「(ヒラクくんが興奮してるから、きっとすごいんだろうな)僕は熱帯魚を飼っていた時期があるんですけど、水換えって地味に大変なんですよね。当時『きえ〜る』と出会えていれば、めちゃくちゃ楽だったなぁ」
「すごいのは、それだけじゃないんです。もとは消臭剤ですからね。柿次郎さん、ちょっと場所を移動して…。きえーるの水槽タンクに手を入れて、ニオイを嗅いでみてください」
「ええっ、一体何が起こるんだろう…」
ヒタッ…
スゥ…
「あれ? 無味無臭だし手がすべすべする! 」
「なんか温泉みたいな質感で。このままダイブしてきえーる風呂に浸かりたいくらいの衝動に駆られますね。牛のおしっことは全然思えない…」
「そうなんですよ。さらにね、コレ…」
キュッ…キュッ…
「ぐびっ…」
「社長が、牛のおしっこ飲んだーー!」
「ふふふ…実はこれ飲めるんですよ。積極的にオススメしているわけではありませんが、天然成分100%なので健康に害はありません(※)。柿次郎さんも1杯どうですか?」
※あくまで社長の見解です
「お酒みたいにすすめないで。でもせっかくなので、思い切っていきますね…虎穴に入らずんば虎児を得ず…南無三…」
「早く飲みなよ」
「ぐいっ…」
「あ、コレ飲めるヤツだ。無味に近いけど、どことなく奥底の方にヤクルトのような乳酸菌飲料の香りがする気も」
「ちなみに僕は8年間飲み続けてます。そのおかげでうんこが全然臭くないんですよ」
「えええ! 体の中からうんこを消臭できるんですか!?」
「実際にペットの飲み水に混ぜてあげれば、ふん尿のニオイを減らすこともできます」
「すごい話を聞いている気がする。バイオテクノロジーの最先端じゃないですか!」
「ありがとうございます。『きえ〜る』の原液を作っている酪農家さんでは、牛の飲み水に原液を混ぜています。すると、牛舎特有のニオイもしないそうですよ」
「いろいろな場所で悪臭問題を解決できそうですね」
「実際、2011年の東日本大震災のときに被災地へ『きえ〜る』を寄贈させていただきました。そのときは避難所の仮設トイレだけでなく、冷蔵庫で腐ってしまったナマモノの消臭にも活用いただけたんですよ」
「腐ったナマモノも消臭できるということは、生ゴミにも使えるってことですか? 僕は長野と東京の二拠点生活をしているんですが、ゴミの日に家を空けることが多くて、溜まった生ゴミが臭うのに悩んでいて」
「それは大変ですね。『きえ〜る』を使えば、生ゴミの腐敗臭も消臭できます。あとでお土産にさしあげますので、ぜひご自宅でも試してください」
「やったー! ありがとうございます。これで生ゴミの心配をしなくて済む…!」
「ちょっといいですか。これって商品の効能をわかりやすくするために『きえ〜る』と言ってますけど、正確にはニオイを消しているわけではない……つまり、消臭剤ではないですよね?」
「おお、よく気づきましたね。僕らは『バイオ活性水』と呼んでいます」
「急に推理サスペンスみたいなやりとりしないで。バイオ活性水…ってなんですか?」
「この商品は消臭するのではなく、そもそもニオイを発生させないようにする仕組みなんですよ。柿次郎さん、嫌〜なニオイが発生する理由ってわかりますか?」
「おじさんが強烈なストレスを感じたとき?」
「まぁ、それもそうなんだけど。目には見えませんが、僕たちの身の回りでは『発酵させる菌』と『腐敗させる菌』が栄養を含む有機物を取り合っています。そこで腐敗させる菌が勝つと、腐ってイヤなニオイが出る。『きえ〜る』は、腐敗させる菌が栄養物に手を出せないように誘導してあげるヤツなんです」
「おぉ! まさにその通りです」
「つまり厳密には消臭剤ではないんですよね。だからこそ僕は、消臭剤として販売しようと思った経緯が気になっていて」
「(この取材にヒラクくんを連れてきてよかった……)」
「それでは、その経緯からお話ししましょう。キッカケはね、僕が地元のホームセンターで店長をしていたときに、お客さんから苦情をいただいたことだったんです」
『きえ〜る』が消臭剤として誕生したワケ
「ある日、お客さんに『あんたの店で買った消臭剤を使っても、ペットのおしっこのニオイが全く消えないぞ!』と言われたんです。従業員に聞いたら、そういった苦情が度々あることがわかりまして」
「ふむふむ」
「大手メーカーが販売している消臭剤は全て取り揃えていたのに、ニオイが消えないなんて変だなと思いましてね。すぐにうちで取り扱ってる消臭剤を全部集めて、生ゴミで実験したんです」
「社長ご自身で?」
「はい。そしたらね、消臭剤の香りが加わるだけで、生ゴミ自体のニオイが消えないんですよ。消臭剤なのにニオイが消えないんじゃ、お客さんが怒るのも当然だなと。それから僕は、本当に効果のある消臭剤を探して、2年かけてあちこちを回ったんです。でも、いい消臭剤は全然見つからないんですよ」
「2年間も!そんなに見つからなかったんですね」
「そんなとき、僕のことを聞きつけた地元の酪農家が『お前んとこで売ってくんねえか』とボトルに入った茶色い液体を持ち込んできた。聞けば『牛の尿を乳酸菌で分解した液体』で、植物の活性剤になるというんです」
「そのおじさんが自分で作ってたんですか?」
「はい。というのも北海道の北見市では酪農が盛んなのですが、牛の糞尿が地元の常呂川(ところがわ)に流れ出て、悪臭や水質汚染が問題になっていたんです」
「だから国が助成金を出して、酪農家のもとで糞尿を川に流せるよう処理してもらう計画を進めていました。その結果、誕生したのが…」
「『きえ〜る』の原液だったと」
「そういうワケです」
「きえ〜る爆誕! もともと汚染を引き起こしていた糞尿が、乳酸菌を加えるだけで良いものに変化することってあるんですか?」
「ここでいう『汚染』は、牛の糞尿が大量に川に流れ込んだことで、水中が栄養過多になってしまった状態のことなの。本来であれば僕たち生き物の糞尿は、汚いものではなくて栄養物の塊。自然に返すのはむしろ大切なことだから」
「ヒラクさんのおっしゃる通りです。だから乳酸菌や酵母菌に栄養素を分解してもらって減らすことができれば、汚染を防ぐことができるわけです」
「なるほど! やっと仕組みを理解しました。では、なぜそれを消臭剤として利用しようと?」
「牛のおしっこってね、本来であれば臭いんですよ。でも、酪農家さんが持ち込んだ液体からはニオイがしなかった。ちょうどその時期、僕の頭は消臭剤でいっぱいだったもんで、すぐに『これには消臭効果もあるんじゃないか?』という直感が浮かんでね」
「だから、その原液を空いたペットボトルに入れて、従業員や取引先、お得意さんに配って使ってみてもらったんです。そしたらね」
「そしたら…?」
「そりゃもうスゴかった(笑)」
「社長、めちゃくちゃ嬉しそうだな〜!ずっと牛のおしっこの話で嬉しそうだな〜〜!」
「ペットの糞尿にはもちろん、汲み取り式のトイレや排水溝、どんな悪臭でも消えたんですよ。みんなに電話で『どうだった?』って聞くと『いやあ、よく消えるよ!本当によく消える!』って口を揃えて言うもんだから『きえ〜る』って名前で商品化することにしたんです」
「(そのまま…)」
「しかも『きえ〜る』が消臭するのは、腐敗臭やアンモニア臭といった不快なニオイだけ。リンゴやミカンのように、素材本来のニオイは全然消えないんです。生の状態のいいニオイはね。それが腐って、嫌なニオイになると消える」
「そんな都合のいい話があるんだ……公害の元だった、牛の糞尿が公害を解決してしまったと」
「はい。ただ、当初の液体は有色だったので、そのままでは水などに使った時に色がついてしまう。そこで、試行錯誤を重ねて無色透明にしたわけです」
左が原液に近い有色の消臭剤。右が無色透明化させた消臭剤『きえ〜る』
「さらに北見工業大学や研究機関と協力して、消臭効果も高めることにも成功しました。そのあと数々の安全性試験を行い、科学的にも安全性が証明されたので、無事に販売を開始したわけです」
「あれ、そういえば社長はホームセンターの店長をやっていましたよね? 」
「『きえ〜る』の発売を機に、店長を降りて事業部にしてもらいました。生産体制を強化して8年くらい経つと、原液を仕入れていた酪農家から『きえ〜るを仕入れ値で売ってくれ』と言われるようになって」
「立場が逆転したんだ!面白いなぁ」
「そんなことになったもんだから、当時の会社の代表に『会社を辞めます。退職金はいらないからきえ〜るの権利をください』ってお願いをしましてね。それで独立して作ったのが今の会社です」
「すごい決断!こんなにスゴい商品の権利をくれるなんて、当時勤めていた会社も太っ腹でしたね」
「当時は、誰もここまで売れると思っていませんでしたから(笑)。それに仕組みが謎すぎて、商品の説明をできる人がいなかったんです。だから比較的、詳しい僕が権利を持っていた方が安全だった」
「仕組みが謎…?」
「『きえ〜る』の消臭力と安全性は科学的に実証されていますよ。ただ、わかっているのは、牛のおしっこが微生物によって分解されるときに発生する酵素が、ニオイを消してくれる効果をもっていることだけなんです」
「要するに、どの微生物のどういった働きが消臭効果をもっているのか、具体的にわかっていないんです」
「微生物を研究している僕からしても、この仕組みは謎が多そうだなぁ。だってコレ、分離・同定できないですよね?」
「そうなんですよ」
「分離・童貞…? 分離したことないヤツのこと? 」
「違います。それぞれの菌がどういった働きをしているのか、個別の菌に分けて(分離)、菌種を特定する(同定)ことです。Aの菌がこういう働きをしていますって証明するためには、Aの菌だけ隔離しないとわからないでしょ?」
「消臭の働きを持つのがどの菌か調べるためには、Aの菌とBの菌に分けてそれぞれ調べなきゃいけないってことかな」
「そうそう。さらにややこしいのが、Aの菌とBの菌が一緒にいることで、はじめて消臭効果を生んでいる可能性もあるのね。だから、この菌のおかげで消臭効果があると断定するのが難しい」
「うーん。ちょっとピンとこないので、 漫画で例えてもらっていい?」
「漫画で例えるならヤンキー野球マンガの『ROOKIES』かな。不良が個で悪さしてるとどうしようもないけど、主人公の川藤先生が掌!(たなごころ)って言いながら9人の不良を束ねると超強くなる状態。菌の世界って複数要因が重なると現在の科学で解明できない効果を発揮することがあるんだ」
「無茶振りしたのに、めちゃくちゃわかりやすい…! つまりチーム(『きえ〜る』に含まれる微生物たち)全体で消臭効果があることはわかっているけど、どの微生物のおかげかはわからないってこと?」
「そうそう。そんな感じ」
「仕組みが謎だらけなんて、まさに魔法のような液体だなあ」
「もしかしたら、北海道の土地固有の菌が関わっているかもしれないですね。この技術を沖縄に持っていったら、再現できない可能性もありそう」
「そうですね。以前はいろんな酪農家さんが汚水処理事業をしていたのですが、全員がおしっこを無害化できたわけじゃないんです。同じ北海道でも、原液を作れる酪農家さんとそうでない酪農家さんがいました」
「汚水処理するためには施設代や管理コストもかかりますから、金銭的な理由もあると思います。でも、おそらくそれだけが原因じゃないんです」
「処理作業をする場所の気温や湿度にも影響を受けているだろうし、酪農家さんの性格による向き不向きもありそう」
「そんなに環境に左右されるということは、季節や仕入先の酪農家によっても原液の品質に差が出ますよね?」
「酪農家さんによって、牛を育てる環境も与えている餌も違いますから、品質に差がでるのは当然です。我々はその違いを、甘口、辛口、コクという言葉で違いを表現していて」
「うちの工場で色や手触りを確認したり、成分量を数値化できる機械を導入したりして、完成品の品質に差が出ないように、それぞれの原液をブレンドしているんです」
「職人さんたちの技術も『きえ〜る』を支えているんですね」
「そうですね。うちの杜氏たちが日々研究を重ねながら頑張ってくれています」
「わからないことは多いですが、大切なのは『いかに乳酸菌や酵母菌が発酵しやすい環境を維持してあげられるか』なんですよ。それがうちの誇るコアスキルでもある」
「仕組みが解明されていない分、未知なる可能性をまだまだ秘めていそうだなぁ。 近い将来、環境ダイゼンが日本を代表するグローバル企業になってもおかしくない…!」
「いやあ、面白いなぁ。公害の原因だったものが、微生物の働きで今や公害を防いでいるなんて。しかも偶然、発酵に適した環境が揃っていた酪農家さんが原液を作って、たまたま、消臭剤を探していた窪之内さんの元へ持ち込んだ。これだけ偶然が重なったからこそ誕生したわけだもんね」
「不思議液体すぎる!」
取材を終えて
『きえ〜る』は、いろんなミラクルが重なって生まれた魔法のような液体でした。
牛のおしっこから生まれたこの液体が、いつの日か本当に地球を救う日がくるかもしれません。
実際、農薬の使いすぎで土壌汚染が深刻化している発展途上国では土壌改善剤として使用され、ベトナムやカンボジアなどに年間150トンも出荷されているようです。
もちろん、僕たちの日常生活でも活躍の場はたくさんあります。記事で紹介した以外にも、加湿器や空気清浄機に入れて使用するタイプや、車内消臭用など、30種類以上の商品が販売されています。
【大容量】加齢臭 世代臭 部屋干しの嫌なニオイを消臭 きえ〜る微笑 衣類のバイオ消臭液 無香 1L
ちなみに1番人気は、洗濯のときに洗剤と併用することで、生乾きや汗の不快なニオイを防いでくれる『きえ〜る 微笑(ほほえみ)』だそうです。これから梅雨を迎える今の季節にはピッタリ!
アマゾンからも購入できるので、ぜひ一度試してみてください。
それではまたー!
写真:小林直博